インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~ 作:とんこつラーメン
発生する理由が無いし、必要性も無いですから。
休み時間が終わり、二時間目の授業が始まった。
それはいいのだが、どうも織斑姉弟の様子がおかしかった。
教壇に立って授業を行っているのは真耶で、教室の後ろの方で千冬がその様子を見ているのが一時間目の光景だった。
しかし、今の千冬はなんだか上の空で、表情にも先程までの覇気がない。
一夏に至っては、完全に意気消沈していて、その目は赤く腫れている。
授業の方も頭に上手く入っていない様子で、その事を全く咎めようとしない千冬の事を怪訝に思いつつも、一人の教師として決して贔屓はせずに一夏の事を心配して、彼に話しかけた。
「織斑君。どこか分からない所とかありますか?」
「え……? あ……っと……大丈夫…です……」
「そ…そうですか? けど、もしも分からない所があったりしたら、遠慮なく聞いてくださいね?」
「分かりました……はぁ……」
本当は何もかもが全く分からないのに、思わず『分かる』と言ってしまった。
自分の馬鹿さ加減に呆れて盛大な溜息を吐きつつ、一夏は再び理解出来ない教科書へと視線を戻した。
「織斑先生。どこか体調でも優れないんですか?」
「あ…いや…私なら大丈夫だ。気にせず続けてくれ……」
「そうですか……」
どう見たって普通じゃない。
たった10分足らずの間に何が起きたのか。
他の生徒達には全く分からないが、百華達にはなんとなくの予想がついていた。
それは真耶も同様で、事情を知っているからこそ、ここは敢えて深く追求することはせずに黙っておくことにした。
「では皆さん。教科書の34ページを開いてください。ここは……」
心ここに非ずな姉弟を放置した状態で、授業は何の問題も無く進んでいった。
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二時間目の休み時間。
今回もまた百華の机の周りに皆が集まって話し合っている。
「彼、一体どうしたんだろうね?」
「なんだか凄く落ち込んでますね」
「大方の予想は出来るけどね」
「私もですわ」
厚志と真紀が普通に心配している中、百華とセシリアが一夏の落ち込んでいる原因の予想を立てた。
「多分だけど、さっきの休み時間の間に偶然にも箒と鈴にばったりと出逢ってしまって……」
「こっぴどく突き放されたんでしょうね。なんて言葉を発したのかまでは不明ですが、相当に酷い事を言ったに違いないですわ」
「あの二人にとって、織斑一夏の存在自体が逆鱗に触れるようなものだしな」
「おりむ~…かわいそ~だね~」
「本音…本当はそんな事なんて微塵も思ってないでしょ」
「バレた?」
「アンタって子は……」
誤魔化すようにテヘペロをする本音に、少しだけ胸がトキメキかけた百華だったが、それ以上に呆れたために何も起きずに済んだ。
もしかしたら、彼女達のグループの中で最も腹黒いのは本音かもしれない。
「二人の事や彼の事を考えると、同情の余地はないんでしょうけど……」
「あのままなのも目障りだな」
「仕方がない……」
「あ…厚志?」
苦笑いを浮かべながら、厚志が一夏へと近づいていく。
「どうしたんだい?」
「え……?」
休み時間に入ってから、ずっと机に突っ伏していた一夏だったが、いきなり声を掛けられて顔を上げる。
そこには、自分と同じ男子の顔があった。
「初めまして、織斑一夏くん。僕は速水厚志。本当はもっと早くに声を掛けるべきだったんだろうけど……」
「あ…いや、そっちにも事情があるんだろうし、気にしてないよ……」
「そっか。よかった」
入りはOK。
一夏が単純な事も幸いして、最初の掴みはバッチリだった。
「さっきからずっと元気がないようだけど、具合でも悪いのかい? 保健室に連れて行こうか?」
「いや…その……」
思わずさっきの事を話しそうになる一夏だったが、直前になって思い留まる。
(待てよ俺……。今日初めて会ったばかりの奴に何を話そうとしてんだ……。そんな事をしたってコイツに迷惑だろうし、戸惑うに決まってる。それに、これは速水に話すのは間違ってる…よな……)
そう自分で結論付けて、無理のある作り笑いで誤魔化した。
「じ…実はそうなんだよ。慣れない環境で緊張しちまってさ。緊張性の腹痛ってやつ? あれになってて…いたた……」
「大丈夫? やっぱり保健室で胃薬とか貰った方がいいんじゃ……」
「心配ないって、これぐらい。暫くすれば落ち着くさ」
「そう……無理だけはしないでね」
「ありがとな……速水って良い奴なんだな」
「お人好しなだけだよ」
「いいじゃねぇか、お人好し。少なくとも…俺みたいにデリカシーの無い奴よりはずっとマシさ……ははは……」
そう言うと、また一夏は机に突っ伏して顔を隠してしまった。
「悪い…少し一人にしてくれないか?」
「うん……」
本当は心配なんてしたくはないのだが、生来の性格のせいで心配せざるを得ない厚志だった。
そのまま空気を読み、一夏の傍から離れ、皆の元まで戻ってきた。
「どうだった?」
「すっごい落ち込んでる。普通に話しかける事は出来るけど、それだけって感じ」
「ここから見てても、かなり表情と声が暗かったしな」
「けれど、これに関しては私達ではどうしようもありませんわ。あくまで、彼と箒さんと鈴さんも問題ですから」
「そうね。二人からも、彼と自分達の関係に関しては、あまり追求しないでくれって念を押されてるし」
「クラスメイトとして普通に接する程度で問題無いだろう。もう『中和』されているんだし」
「そ~だね~」
そこで次の授業のチャイムが鳴る。
教室の外に出ていた生徒はあっという間に戻ってきて席に座り、教室にいた生徒達もまたすぐに自分達の席へと着席した。
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三時間目は千冬の授業のようで、彼女が教壇に立ち、その隣に真耶が待機していた…が、千冬の表情は二時間目と殆ど変化しておらず、未だに上の空状態だった。
「あ~……三時間目は実戦で使用する各種武器の特性などについての説明を……」
「織斑先生。その前に、まずはクラス代表を決めないと」
「クラス代表……そう…だったな。うん。まだ決めていなかったな」
真耶のフォローで思い出したのか、授業の前にまずは『クラス代表』を決める話し合いをすることに。
「先生。クラス代表って何ですか?」
「簡単に言えば、学級委員長みないなものです。役割も殆ど変わりありません。唯一違いがあるとすれば、もう少し先に開催される『クラス対抗戦』にてクラスの代表として出場する事でしょうか」
真耶が大凡の説明をして、生徒達は納得したように頷いた。
本当は千冬がしなければいけない説明なのだが、今の彼女には荷が重いと判断した真耶のナイスフォローだった。
「そ…そういう訳だから、誰か立候補する者はいないか? この際だから、自薦でも他薦でも構わないぞ」
そう言われて『はい』と手を挙げる勇者はここにはいない。
誰だって、面倒な事はお断りなのだ。
「なんとなく想像はしてましたけど、やっぱり誰も手を挙げませんね……どうしましょうか……」
このまま気まずい沈黙だけが流れていくのか……そう思われた時、一人の勇気ある者が手を挙げた。
「はい」
「は…速水くん? どうしました?」
挙手をしたのは厚志。
何か考えがあるのか、いつもの『ぽややん』な笑顔のまま手を挙げ続けている。
「僕は、百華を推薦します」
「百華さんをですか?」
本来ならば生徒を名前で呼ぶなんてことはしてはいけないのだが、この一組には百華とマドカで『工藤』が二人もいる。
故に、特例として普段通りに名前で呼ぶことを許可されている。
「百華はカリスマもあるし、リーダーシップもある。実力は言うまでも無く、勉強だって完璧だ。更に言えば、百華は中学時代には『学校一の美人』を称されていました。能力があって華もある。僕的には、これ以上の逸材はいないと思います」
めっちゃ褒めまくり。いや、褒め殺しだった。
事実、矢面に挙げられた百華は顔を真っ赤にしてから両手で顔面を隠し、頭からプシュ~と湯気を出していた。
「私も賛成だ! 百華以外には有り得ん!」
「同じく~。ももっちにいっぴょ~」
「わ…私も百華さんに一票ですわ!」
マドカの追撃が切っ掛けとなり、他のメンバーも投票を開始。
そこから更に他のクラスメイト達もその意見に賛成し始めた。
「私も賛成!」
「工藤さんなら申し分なし!」
「っていうか、寧ろ工藤さん以外に有り得なくね?」
「うんうん!」
(……だめだこりゃ)
もう何を言っても無意味だと判断した百華は、諦めの境地に至った。
一筋の涙をキラーンと光らせて、窓の外を飛び交う鳥を見て少しだけ現実逃避した。
「え…えっと…他にはいませんか?」
真耶の一応のフォローも全く意味を成さず、誰も他の意見を出さない。
対抗馬に成り得そうな一夏も、相変わらず下を向いていて無言だし、それは千冬も同様。
「いない…みたいですね。それじゃあ、工藤百華さんが一組のクラス代表ということでよろしいですか?」
「……え? あ…あぁ…そうだな。工藤しか候補がいないのなら、それで決定するしかあるまい」
「それでは、そういうことでお願いしますね?」
「分かりました……」
トホホ……といった感じで両手を挙げての降参のポーズ。
実際問題、モノクローム・アバターでも似たような立場にいる以上、コレ系の仕事において一日の長があるのは確かだった。
「あの…もう一ついいですか?」
「速水君? なんですか?」
「実は、僕を百華の補助…つまり、クラス代表補佐にして欲しいんです」
「補佐…ですか?」
「はい。別に百華の能力を疑っている訳じゃありませんが、男の身である僕が少しでも早く、そして多く学園の事を学ぶには、クラス代表である百華の補助をするのが一番だと思うんです」
「それはいいんですけど……どうしてそこで自分がクラス代表になるって選択肢は無かったんですか?」
「いえいえ。僕じゃ役割不足ですって。僕程度じゃ百華のフォローぐらいが丁度いいですよ」
「はぁ……速水君がそこまで言うのなら…私はいいですけど……」
そこで真耶はチラリと隣の千冬の顔を伺う。
彼女は視線だけを向けて静かに頷いた。
「では、速水君はクラス代表補佐…いえ、副代表に任命という事で」
「了解です」
「それじゃあ、改めて授業を開始って事で。織斑先生」
「う…うむ。そうだな。では、授業を始める」
そうして、少しだけ時間を押す形で三時間目の授業が始まった。
因みに、授業中は終始、一夏は無言だった。
次回、エロ入ります。