インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~ 作:とんこつラーメン
イベントって言ってもゲームのイベントですけど。
最近はコロナの影響か、復刻が多いような気がします。
私のように、スマホを手に入れるのが遅れてゲーム自体が出来ずにいた人間には非常に有り難いですけどね。
放課後になり、生徒達は思い思いに動き始める。
といっても、入学したての状況で何が出来る訳でもなく、主に教室に残って仲の良い友達同士で駄弁っている者が大半のようだ。
そんな教室の中で、一夏は言葉に出来ないモヤモヤを感じながら机に座っていた。
少し視線をずらせば、そこには女子達と仲睦まじく会話を楽しんでいる厚志の姿が。
「さて。放課後になったわけだけど、これからどうする?」
「取り敢えず、私は職員室へ行って入部届を貰ってきますわ」
「セシリアはテニス部志望だったな」
「えぇ。別のそこまで急ぐわけではないですけど、だからと言ってのんびりしていい理由にもなりませんしね」
「生真面目なセシリアらしいね」
「オルコット家の娘として当然ですわ。皆さんはどうしますの?」
「わ…私は、後で本音さんと一緒に虚さんに格納庫へと案内して貰うつもりです」
「まずは見学をするんだよ~」
「お二人は整備班を志望しているんでしたわね。でも、普段から規律正しい真紀さんはともかく、本音さんがそこまでやる気を見せていることが意外ですわ」
「ぶ~! 私だってやる時はやるんだよ~?」
「その『やる時』をもっと増やしなさいな……」
会話だけで、彼女達が青春をしていることが一発で分かる。
そんな事をしても意味が無いと頭では理解していても、どうしても自分と比較をしてしまう。
「ちくしょう……」
そんな事しか呟けない自分が情けなく、同時に腹立たしい。
とっとと教室を出て一人に慣れる場所にでも行こう。
そう思って一夏が鞄を持って机から立ち上がると、教室の入り口の所に書類を持った真耶が立っていた。
「速水君に織斑君。よかった…まだ教室にいたんですね」
「山田先生? どうしたんですか?」
自分の名前が呼ばれたことに疑問を感じ、厚志が真耶の元まで歩いていく。
それを見て自分も行かない訳にもいかないと思い、渋々ながら一夏も同じ場所へと向かう。
「実はですね、お二人の学生寮での部屋が決定しました」
「が…学生寮?」
聞いていた話と違う。
そう思って聞き返すと、真耶が笑顔でその疑問に答えてくれた。
「もう既にご存じだとは思いますけど、このIS学園は基本的に全寮制です。しかい、生徒の殆どが女子である中で男子であるお二人を女の子と一緒の部屋にするのは倫理的に問題があると判断されて……」
「男二人で相部屋になったと」
「そうなります。ここの寮は二人で一つの部屋を使いますから、これ自体は何にも問題はありません」
「だって。これからよろしくね、織斑君」
「あ…あぁ……」
なんだかとんとん拍子に話が進み、自分の聞きたいことが聞けないでいたが、このままだと流石に拙いと思って、頑張って真耶に聞いてみた。
「あ…あの…確か、暫くの間は自宅から通う事になるって聞いたんですけど……」
「そうですね。当初の予定ではそうでした。ですが、上の方で協議をした結果、世界的にも非常に貴重なお二人の身柄を守る為に、致し方なく今日から寮に入って貰う事になったんです」
「そ…そうなんですか……」
自分の事を守る為に仕方なく…なんて言われれば、一夏とて反論は出来ない。
「けど、そうなると荷物とかはどうなるんですか? 何にも持って来てないんですけど……」
「それならご心配なく。こんな事もあろうかと、織斑先生が予め手配をしていたようで、生活必需品と数着分の着替え、それから携帯電話の充電器を寮の部屋に既に運び込んでいるらしいです。他の荷物は後日以降に業者が逐一、運んできてくれることになっています」
「いつの間にそんな事に……」
我が姉の手際の良さに驚きを感じつつも、これまた感じた疑問をぶつけてみた。
「あの…別に業者に頼まなくても、荷物ぐらい自分で持ってくればいいだけなんじゃ?」
「残念ですが、織斑君に限ってはそれは不可能です」
「なんで?」
「純粋に危険だからです。このご時世、男性の身でISを使えることをやっかむ人々がどこにいるか分りません。特に、世に蔓延っている女尊男非主義の人達は何をするか分りません」
「そう…なんですか……」
説明されても、イマイチよく分からない。
何故なら、これまでの人生の中でそんな人間達と全く出逢ったことが無いから。
「一応、織斑君には織斑先生という後ろ盾がいますが、それだけでは心許ないのも事実なんです」
「ど…どうしてですか?」
「どれだけ世界的に有名でも、あの人はどこまでいっても『モンドグロッソで優勝した人間』に過ぎないからです。その理論でいけば、世の中に沢山いる歴代オリンピックのメダリストや色んな大会での優勝者達の全員が特権階級な事になりますから」
グゥの音も出ない程の正論。
実際、一夏は千冬がそんな風に振る舞っているところを一度も見たことが無い。
「それに加え、織斑先生はもう現役を引退しています。今のあの人はIS学園の一教師に過ぎません。万が一、外出中に織斑君の身に何かが起きてしまった場合、全ての責任を取るのは担任であり姉である織斑先生になります。そうなる事を避ける為に、織斑君はこのIS学園の敷地内から出る事は基本的に出来ません」
「そ…そんな……」
事情は分かった。自分だって謂れのない事で文句を言われるのは御免だ。
だがしかし、その代償としてIS学園に幽閉される。
信じられない現実を前に、一夏は愕然とするしかなかった。
「そ…それじゃあ、速水も同じように…?」
「いえ。速水君には非常に巨大な後ろ盾が二つも存在しているので、何にも問題はありません。ちゃんとその事も外部に公表していますしね」
「う…後ろ盾っ!?」
「はい。速水君は現在、アジア圏の経済の一端を担うほどに強大な企業である『芝村財閥』の末娘さんとお付き合いして、もう既に将来の約束もしている程なんです」
「あはは…人からそう説明されると、なんだか照れるね……」
照れながら笑って後頭部を掻いている厚志。
彼の数少ない『少年らしい一面』が垣間見えた瞬間だった。
「将来の義父になる予定の芝村財閥の総帥さんからも非常に気に入られていて、彼に手を出せばどのような目に遭うか、それが分からない人間は少なくとも、この日本にはいないでしょう」
信じられなかった。
コミュ力が高い事を除けば自分とさほど違いが無いと思っていた厚志が、まさかそんな存在だったとは。
「だから、速水君に限っては普通に往来を歩くことが出来るんです」
「そう…ですか……」
理不尽だ。不公平だ。
そんな事を言っても何も始まらないのは知っている。
意味が無いもの分かっている。
けれど、そんな簡単に物事を受け入れられれば誰も苦労なんてしない。
「っと、もうそろそろ行かなきゃ。速水君、これがお二人の部屋の番号です」
「分かりました」
「寄り道をしないで真っ直ぐ帰ってくださいね。それでは失礼します」
お辞儀をしてから真耶は廊下の向こうに去っていった。
残されたのは、何とも気まずい雰囲気の男子二人だけ。
「それじゃ、僕達も行こうか?」
「その前に…一つだけ聞いてもいいか?」
「何かな?」
「速水はさ…鈴や箒と仲がいいのか?」
「うん。だって、二人とは友達だからね」
「友達……」
どこで、どんな経緯で知り合ったのか非常に気になる。
だが、そんな事を聞いても自分には何にも益は無い。
「百華経由で知り合ったんだ。女子だから最初は緊張したけど、鈴の方から積極的に話しかけてくれたから、すぐに仲良くなれたよ」
「そうか……」
怒りで体が震える。
ここで我慢をしていなかったら、目の前にいる厚志に殴り掛かっていたかもしれない。
けど、もしもそんな事をしてしまえば、間違いなく千冬に耳に届き、迷惑を掛けてしまう。
それだけは絶対に避けねばならない。
「あの…本当にどうかしたの? 何か悩みや困ってることがあれば相談に乗るよ?」
「う…くっ…!」
厚志の優しさを感じる度に、自分自身にイラついてくる。
嫉妬と怒りで狂いそうな自分を心から心配(しているように一夏には見える)してくれている相手に暗い感情を向けている。
いつから自分はそんな人でなしになった?
こんな場所で知り合っていなければ、間違いなく最高の友達になれたであろう男子。
そもそも、自分が幼馴染達から辛辣な扱いをされた事と、厚志が二人と仲がいい事は全く関係が無い。
厚志が誰と仲が良くても、それは厚志の勝手であるし、何も悪くは無い。
「わ…悪いな。心配かけちまって。まだ緊張性の腹痛が残ってるみたいだ」
「ちょ…本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。部屋で休んでれば、すぐに良くなるだろ?」
「…無理だけはしないでね。友達が苦しんでいる姿は、見ているだけでも辛いから」
「友達…? こんな俺のことを友達って呼んでくれるのか?」
「嫌だったかな? やっぱ、少し馴れ馴れしいよね……」
「そ…そんなことねぇよ! 俺も速水と友達になりてぇよ!」
「そっか。じゃあ、今から僕たちは友達だ」
「あぁ……!」
厚志に感じていた負の感情が全部無くなっていく。
こいつがいてくれれば、ここでも自分は頑張れる。
不思議と、そんな感じがした。
「といっても、全てが一足飛びにはいかないだろうから、まずはお互いの事を名前で呼び合おうよ」
「分かったよ、厚志」
「改めて、これからよろしくね。一夏」
「おう!」
こうして、一夏の顔にようやく本来の顔が戻ってきた。
厚志の持つ本来の優しさが、彼の闇を掻き消したのだ。
だが、一夏はまだ知らない。
今夜、早くも二人の友情が試される最初で最大の試練が待ち受けている事を。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
二組教室。
鈴と箒がスマホ片手に何かを話し合っていた。
「ねぇ箒。実はさ…さっき、面白いサイトを見つけちゃったのよ」
「面白いサイト? なんだそれは?」
「これよ。こ・れ」
鈴が自分のスマホの画面を見せると、最初は箒の顔が驚きに変わり、次には暗い笑顔に変わった。
「これはまたなんとも……」
「凄いでしょ?」
「あぁ……。まさか、世の中にこんなものがあるとは知らなかった」
「けど、なんか面白そうじゃない?」
「それには同感だ。うお……! 凄いな……」
スライドしていくにつれて、次々と二人の表情がコロコロと変わる。
まるで、ブランド物のバッグでも吟味しているかのように。
「これなんてモロじゃないの」
「夜の世界とは広いんだな。全く知らなかった」
「見た目じゃもう絶対に判別できないわよね、コレ」
「全くだな」
サイトの画面を見ながら、二人は周囲に聞こえないぐらいの声量で相談し始めた。
「下手に苦しめても、全く面白くない」
「どうせ復讐するなら『楽しく』『気持ちよく』したほうがお互いにいいしな」
「『男らしく』とか『誰かを守る』とか寝言を言ってるアイツには最高の復讐になるわね…コレ」
「そうだな。それに、金の方も問題はあるまい。私も鈴もかなりの額の給料を貰って、寧ろ使い切れずに持て余しているぐらいだし……」
「あたしに至っては、代表候補生としての給料もプラスされてる。それならいっそのこと、時間を掛けてから徹底的にして貰う?」
「賛成だ。本当は私達の手で直接してやりたいが、『餅は餅屋』という諺もあるぐらいだ。ここは矢張りプロに任せよう」
これからの事を決めた二人は一緒に頷き、その時の事を想像してほくそ笑む。
「そう言えば、今日の夜に百華達は千冬さんの所に行くって言ってたわね……」
「あいつらも、私達と同じで今まで待ちに待った瞬間だからな。一刻も早く自分たちなりの『決着』を着けたいのだろうさ」
「上手くいくといいわね……」
「大丈夫だ。あの四人には姉さんが作った『アレ』があるからな」
「アレ…ね」
「それに、千冬さんは一夏の奴とは違い、多少は話の通じる人だろう」
「全く何も知らないって訳でもないしね」
「今は信じるしかあるまい。それよりも、このサイトについてもっと調べておこう」
「そうね。えっと…このサイト名は……」
「『夜顔倶楽部』…ね」
次回、本格エッチ祭り前の最後のシリアス話突入。
恐らくは数話分かかると思われます。
そこで全ての『真実』が明らかとなり、同時に一夏の処遇が決定します。
そして皆さんは知る事となるでしょう。
『一夏ハッピーアンチ』というタグの意味を。その内容を。