インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~ 作:とんこつラーメン
もしも終わらなかったら、許してヒヤシンス。
「…話をする前に、一つだけ質問をしてもいい?」
「……なんだ?」
「私達や貴女がいた、あの
いきなりの事に戸惑いつつも、千冬は頭の中でパッと思いついた数字を答えた。
だが、百華は全く表情を変えない。
「ひゃ…100人ぐらいか?」
「残念。ハズレよ」
「それじゃあ、正解は……」
「約300人」
「さ……!」
絶句した。
千冬も、あの研究所の全てを知っているわけではないので、あの場にそれだけの子供達を収容するだけの広さがあるとは思わなかった。
「と言っても、常に300人いたわけじゃないけどね」
「それはどういう事だ?」
「『増産』してるからよ。死んだ分だけね」
「増産…だと…! なんだそれは! その言い方だとまるで私達は……」
「そう。あいつ等からしたら、私達なんて単なる消耗品に過ぎない。少なくなれば、また無くなった分だけ作ればいい。ムカつくことに、あいつ等はその手に技術に関するノウハウは完璧にマスターしてるから。まるでプラモデルでも作ってるかのような感覚で私達の兄弟姉妹を山ほど生産していたみたい」
話している内に、嫌でも当時の事を思い出す。
自分達とは違い、最初から少し育った状態で生み出されてくる妹や弟たち。
彼等、彼女らの平均寿命は最悪の場合、一日にも満たない。
その日に生まれ、その日の内に死んでいく。
「私達にとって、あの研究所こそが生き死にを賭けた『戦場』に他ならなかった」
「私は…そんな場所から一夏を連れて逃げ出して…お前達を見捨ててしまった…」
何度悔いても悔やみきれない。
どうしてもっと周りを見なかった。
どうして、あと少しだけ頑張れなかった。
「兄弟がいるのは何も私だけじゃない」
マドカに視線を向けると、彼女は目を伏せるように俯いた。
「マドカにも……」
厚志に視線を向けると、苦笑いを浮かべながら遠い目になった。
「厚志にだって……」
真紀に視線を向けると、眼鏡の反射で表情が伺えなかった。
「真紀にだってちゃんといた。皆…死んでしまったけど」
なんて声を掛ければいいのか分らず、千冬は黙って耳を傾ける事しか出来なかった。
「今でも鮮明に思い出せる。まず、最初に死んだのは万夏兄さんだった。あの人は私達だけじゃなくて皆の事も庇って自ら人体実験に参加して……消し炭になった」
体が震える。
「二番目に死んだのは千夏兄さん。あの人は奴らの悪戯染みた過剰なまでの人体実験と投薬実験、改造実験の末に人の形を失って、醜い化物に変貌してしまい…殺処分された挙句、木材粉砕機で粉々にされた」
息が苦しくなる。
「十夏は、奴らのストレス発散の為の暴力に晒されて…体中に打撲痕をつけて最後まで『死にたくない』と泣きながら…私の腕の中で静かに息を引き取った」
涙が零れる。視界がぶれる。
記憶の奥深くに仕舞いこんでいても、一度でも少し思い出してしまったが最後、嫌でも全部を思い出してしまう。
もう、百華自身でも止められない。
「
頭が真っ白になる。口が勝手に動く。
「
涙が勝手に出る。いつの間にか口が笑っていた。
「そして…
「も…もも…」
「百華! もういい! もういいんだ!!」
千冬が手を差し伸べる前に、マドカが急いで百華の体を抱きしめた。
彼女の腕の中で百華の体は凍えるように震えていて、声も出さずに泣いていた。
「ここからは私が話す」
「あ…あぁ……」
マドカの鬼気迫る表情に上手く話せず、大人しく頷いておいた。
「お前達がいなくなってから幾年月。私達には外の様子なんて伺うことが出来ないから、具体的にいつ頃とは言えないが、恐らくは私達が7歳ぐらいの頃か。世界にとある存在が姿を現した」
「IS……か」
「そうだ。それにより、世界の情勢は一変し、それは織斑計画にも多大な影響を与えた」
「なんだって……!」
まさか、ISの存在があの悍ましい計画にすら届いていたとは。
千冬の顔色がまずます青く染まる。
「お前が白騎士であるのは篠ノ之博士から聞いた。今更、その事をどうこう言うつもりはない。悔いるのなら一人で勝手に悔いていろ」
「……………」
「その頃にはもう、あそこにいる子供の数も大幅に激減していた。原因は一目瞭然。奴らが余りにも遊び感覚で殺し過ぎたんだ。その結果、生産の為のリソースが消費に追いつかなくなった。私達からしたらこれ以上ない朗報だったがな」
もう無駄に死んでいく子供達が生まれない。
明日は我が身の運命ではあるが、それでも、もう二度と兄弟姉妹の死に顔を見ないで済むと思えば、どんな事でも耐えられた。
「ISは女にしか動かせない。けれど、研究所に残っていた子供はあと四人だけ」
「それが…お前達なのか……」
「そうだ。だが、四人の内の二人は男だった。だから奴らは……」
「マドカ……そこからは私が話すわ」
「百華……大丈夫なのか?」
「うん……ありがと。でも、もう落ち着いた。それに、その件に関しての最大の当事者は私と厚志よ。なら、こっちが話すのは筋ってもんじゃない?」
「それは…そうだが……」
心配になって厚志の方を見ると、彼は強い眼でしっかりと頷いた。
「……了解だ」
百華から離れると、マドカは元の位置へと戻った。
「本来ならば男はISを動かせない。けれど、奴らはそんな常識に縛られなかった。男にISを動かせないのならば、動かせるようにすればいい。計画はまた別方面へとシフトしていった」
ポケットから出したティッシュで鼻をかんでから、それをゴミ箱へと投げ捨てた。
「丁度良く、男の被験体は二人いた。だから、アイツらは二つの方法を試す事にしたの」
「二つの方法…まさかそれが……」
「えぇ……。まず、片方には大量の女性ホルモンを投与することで、ISが男を女に誤認するかの実験をした」
「その被験体が僕だよ。その影響で体は女の子みたいに丸みを帯びてしまっているし、声だって凄く高いんだ。一時期は後遺症で胸まであったぐらいなんだよ」
昔を懐かしむように話す厚志ではあるが、その目は微塵も笑っていない。
かなり無理をしている事は一目瞭然だった。
「もう一つの実験の被験体が私。やった事は単純。男を女に性転換させたらISを動かせるようになるのかって実験。しかも、奴らは私にどうでもいい『オマケ』までつけやがった」
「オマケ……?」
「これよ」
徐にスカートを捲って下着を露出させてから目を閉じて、頭の中で自分の股間が膨れ上がる光景を思い浮かべる。
すると、見る見るうちに百華の履いているショーツの股間部が膨れてきて、見事なイチモツとなった。
「な…なななななな……!」
「何を生娘みたいな反応してるのよ。恥ずかしい」
「お前は何をしているんだっ!?」
「だから、見せてるんじゃない。自分の体がどんな風に改造されたのかを」
流石にずっとスカートを上げたままではアレなので、手を離してからスカートを下す。
だが、未だにフタナリチンポは勃起したままなので、かなり不自然な格好となっている。
「これがさっき言った『オマケ』。完全に女の体になった私の股間に、面白半分で『男』を残したの。笑えるでしょ?」
「笑えるわけがないだろう……!」
「そう? しかも、これの後遺症で体を全力で動かした後なんかは、全身が燃えるような熱さになって、異常なまでの性欲に支配されるの。必死に我慢はしてるんだけど、それでも難しい時は、よく皆に助けられてる」
「そ…それはつまり……」
未だに処女な千冬の口からは、具体的な言葉は出せなかった。
百華達が何をしているのかは想像できるが、それを口にすることは憚れた。
「結果として、私と厚志は二人揃ってISを動かすことが出来た。当然と言えば当然なのよね。だって、姿形の細かい違いや性格の差異は有れども、遺伝子的には全く同一に等しいんだから」
ここでようやくフタナリ状態が解除されて、スカートが元に戻った。
「その後、更なる強化を施す為に私達四人は追加で人体改造を受けた。まず、私は織斑千冬すらも超える能力を付与する為に、自分でも恐ろしい程の身体能力に加え、脳の方も過剰に強化された」
肩に掛かった髪を後ろにやり、頭を動かして髪を整えた。
「マドカは空間認識能力を向上させる為に、暗示や投薬施術による人為的な精神操作に記憶操作。果てはあらゆる内科的、外科的な手術を受けて無理矢理に能力を引き出した…って聞いてる」
「フッ……今はもう、その手術跡などは無いがな」
女性として致命的な傷跡ばかりだったので、束の手によって徹底的に治癒された経緯があり、余り言葉には出さないが、束には心から感謝しているマドカだった。
「厚志は言わずもがな。そのまま身体能力の向上を目的として改造されたらしいわ」
「ほんと……喉元過ぎれば…ってやつだよね」
憂いに満ちた瞳で虚空を見つめる厚志。
その目は何を見ているのか。
「真紀は脳の方を強化して、束さん並の頭脳を持たせることを目指したみたい」
「実際の私は、単なるドジな女なんですけどね……あはは……」
自分の事を卑下してはいるが、実際には真紀の操縦者としての能力は非常に高い。
本人が余り戦いを好まないので、宝の持ち腐れになっているが。
「改造を受けた私達は、なんでか髪の色が青く変わってしまって、その事から連中は『ブルー・ヘクサ』と呼ばれていた」
「ブルー…ヘクサ……」
「と言っても、私はウィッグで青い髪を隠して、マドカと厚志は髪を黒く染めた。そのまま残してるのは真紀だけになるわね」
「この髪色自体は気に入ってるんで……」
「私も、真紀にはそっちの方が似合ってると思うわ」
「あ…ありがとうございます…百華さん」
顔を赤らめながら照れる真紀。
彼氏持ちになっても、百華は魅力的に映るようだ。
「そうして、その改造が終わって少しした頃だったかな……私達の運命がいい意味で変わったのは」
「そうだな…あの時の事は一生忘れない」
「僕達が『人間』になった日だからね」
「どれだけ感謝してもしきれません……」
一気に表情が変わり、まるで何かに安堵しているかのような顔になる。
一体何が四人の身に起きたのか。
「ある日突然、謎の集団によって研究所が襲撃を受けた。そいつらは武装をしていて、全身が黒づくめの特殊なスーツに身を包んでいた」
「次々と私達を苦しめた研究員たちが殺害されていく中、私達は何が起きたのか全く分からずに呆然としていた」
「戦闘が終わってから、その人達の目的が研究所の破壊と僕たちの保護だって知った」
「私達はようやく、あの地獄から解放された……」
どこかで何かの介入があったとは予想していたが、まさか襲撃という形だとは思わなかった千冬は、目を丸くして驚いていた。
「その時、私達を助けてくれた組織こそが、今現在、私達が身を寄せている組織…『
「亡国機業だとっ!?」
千冬も、その名前ならば聞いたことがあった。
最も、彼女が知る情報はかなり古いが。
「亡国機業と言えば、世界の裏で暗躍しているテロ組織では……」
「その情報は非常に古いですよ。千冬さん」
ここでまさかの真紀が説明役になった。
彼女はいつの間にか掛け直している眼鏡を光らせて説明を始める。
「亡国機業がテロリストと呼ばれていたのは、今から40年以上も前の話です」
「よ…40年以上前っ!?」
「はい。当時、亡国機業は暴力によって世界を変革させようと企む『強硬派』と、力による台頭を良しとしない『穏健派』の二つの派閥に分かれていました。しかし、ある時いきなり強硬派が決起して亡国機業を乗っ取ろうをしますが、それを穏健派の人達が迎撃。企業は内部分裂を起こしてしまいました」
まるで歴史の教師のような説明に、思わず千冬も学生時代を思い出して背筋が伸びる。
「結果として勝利したのは穏健派で、強硬派の殆どが死亡、または逃亡したと聞いています。そうして、亡国機業は文字通り生まれ変わり、以前とは全く違う存在…俗に言う『平和維持組織』として活動を開始したんです」
「……全く知らなかった」
「無理有りません。これらの事は全て、裏の事情に詳しくないと分からない事ですから」
一通り説明し終わり満足したのか、椅子に座って笑顔を浮かべた真紀。
性格的な意味と眼鏡的な意味で、真紀は真耶に一番似ているかもしれない。
「ついでに補足しておくと、私達が今いる、この『IS学園』も実は、亡国機業の管轄下にある場所なのよ」
「……頭が本気で混乱してきた」
「あっそ。でも続けるわよ。IS学園の上層部に位置しているのはIS委員会。昔は『余計な蛆虫』がいたけど、今は完全に浄化されて亡国機業の人間達が幹部になっている」
「要は、この学園を設立したのは亡国機業であり、ここにいる『約二名』以外の全ての人間が亡国機業の関係者。もしくはその家系に属する者だ」
「その『約二名』とは…私達の事だな」
「流石に分かるか。その通りだよ。二人以外は、事務員に教師、生徒の一人一人に至るまでが亡国機業の構成員なんだ」
ここでようやく思い知る。
この学園でずっと感じていた奇妙な違和感。
それは単純に、自分達が部外者だっただけの話。
「ならば…あの轡木さんも……」
「あの人は亡国機業の大幹部の一人ですよ。凄く偉い人です」
「それはなんとなく分かっていた。では、真耶やオータムも……」
「勿論、機業のエージェントよ。ついでに言うと、今日新しく赴任してきたスコールさんは、私達が所属している部隊『モノクローム・アバター』の隊長をしてる」
「あの女性が……」
職員室で少しだけ話したが、気さくで好感が持てる人物だった。
まさか、自分の妹弟たちを救った大恩人だったとは思わなかった。
「……ちょっと待て」
「今度は何?」
「さっき、学園にいる者は私達以外すべて機業の構成員だと言ったな?」
「言ったわね。それがどうかしたの?」
「では……ボーデヴィッヒや箒、鈴や更識たちも……」
「構成員に決まってるじゃない。というか、同じ部隊に所属してるし」
「そ…うか……」
何も知らなかったのは自分達だけ。
まるで、世界に一人だけ取り残されたような気分になる。
「なぁ……束とはどんな経緯で知り合ったんだ? どうして、あいつはあんなにも変わって……」
「そうね…それも話さないといけないわね」
まだまだ、夜は終わらない。
終わりませんでした!!(土下座)
次回こそ…次回こそ本当に終わらせます!!
その後は一夏サイドに変わって、そうしてから本格始動です。
そんな訳で、次回は百華達と束との出会い+αのお話です。