※この作品はR-18です。

インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~   作:とんこつラーメン

17 / 25
今回は予告通り、一夏サイドのお話です。

自分と姉の真実を知って、彼はどうするのでしょうか?








真実を知って

(な…なんだよ……これ……)

 

 顔中から汗を流しまくり、一夏は姉の自室である寮長室のドアの前で棒立ちになっていた。

 実は、部屋の中での会話の殆どがドア越しに一夏の耳に聞こえていて、それにより、図らずも彼は己と姉の誕生の秘密を知ってしまった。

 

(ち…千冬姉と俺が実は人造人間で……工藤さんや厚志達も同じで……あの四人が俺達の姉弟になる……?)

 

 色々な事が一度に起こりすぎて、頭がパンクしそうになる。

 目の焦点は合っておらず、全身が湧けも無く震えた。

 

(そして…千冬姉が赤ん坊だった俺を連れて研究所を抜け出して…他の皆を見殺しにした……。俺と千冬姉は同じ母親から生まれた姉弟じゃないのか……?)

 

 今までずっと信じていた物が、根本から粉々に崩れていく感覚。

 頭の中では必死に否定しているが、彼女達の鬼気迫る声と自分の中にある『ナニか』がそれを全肯定する。

 

(し…しかも……俺は失敗作で、研究者達はそんな俺の体を改造して女を犯す為だけの道具にしようとしていた……?)

 

 自分の体からフェロモンなんて出ているなんて思うはずも無い。

 しかも、無臭で無色なのだから、分かり様がない。

 そう考えた時、一夏はふと、昔の事を思い出した。

 

(そう言えば……俺の周りにいる女の子や女の人は…皆が揃いも揃って笑ってた…。というか、笑顔しか浮かべてなかった(・・・・・・・・・・・・))

 

 当時はその事に何の疑問も抱いてはいなかった。

 それどころか、単純に『友達が増えて嬉しい』とさえ思っていたほど。

 だが、今になって冷静に考えてみると、彼女達の様子は明らかにおかしかった。

 

(あの人達は……一人も心から笑ってなかった。それどころか、まるで何かに操られていたような……)

 

 その操っていた張本人が自分だ。

 そう思った途端、頭を抱えて蹲る。

 

(いやいやいや! 待てよ俺! あんなアニメや映画みたいなことが現実にあるわけないだろ! でも…あの時のあの人達は明らかに変だったし……箒と鈴も……)

 

 あ。

 ここでようやく、一夏はどうしてあの二人が自分の事をあんなにも目の敵にしているのかを理解した。

 

(あいつらは……知っているんだ……自分がどんな目に遭ったのかを……何をされたのかを……)

 

 もしも、自分が彼女達と同じような事され、それを後で気付かされたら、間違いなく怒り狂うに違いない。

 例えそれが、本人に自覚が無く、本人が全く知らない事だとしても。

 人の心は、そんな簡単な構造をしていないから。

 

「違う……そんな事無い……でも…そうだとしたら……」

 

 ブツブツと小さな声で呟きながら、一夏はフラフラとした足取りでその場を後にする。

 その顔には何の表情も浮かんでおらず、未だに現実を受け入れられていないようだ。

 

 その時、廊下の向こうから二つの人影がやって来た。

 

「あら。誰かと思えば……」

「貴様か。折角のIS学園で過ごす最初の夜だというのに、最悪なものを見てしまったな」

「箒……鈴……」

 

 歩いてきたのは箒と鈴の二人組。

 昼間に会った時と同様に、一夏の姿を見た途端、急に顔が険しくなった。

 

「なんで…二人がここに……」

「私達がどこにいようと、私達の勝手だろう……と言いたいが、寮長室の方からやって来て、そんな顔をしているという事は……」

「どうやら、アンタも『全ての真実』を知ったようね」

「って事は…もしかして二人も……」

「当然だ。私達だけじゃなく、この学園に在籍している全ての人間はもう既に『織斑』の真実を知っている」

「そ…そんな……」

 

 何も知らなかったのは、千冬と自分だけ。

 周りで笑い合っていた少女達も、真剣に授業をしていた先生たちも。

 皆が自分達の事を知っていた。

 

「あたし達は、百華達が今晩、千冬さんに『真実』を教えに行くって聞いてたから、気になって様子を見に行こうとしてたのよ」

「私達も、あの人の事を決して許してはいないからな」

「な…なんで……いや…そうか……」

 

 当然の疑問を二人に尋ねようとしたが、すぐにやめた。

 自分はもう既に、その答えを知っているのだから。

 

「研究者たちが俺に施した『フェロモン』のせいか……」

「矢張り、それも知っていたか」

 

 フェロモンの事を言った途端、二人の眉間に皺が寄る。

 こめかみに青も立っているようだ。

 

「色々と話したいことはあるが、廊下のど真ん中ではあれだしな……仕方あるまい」

「そうね。あんた、ちょっとツラ貸しなさいよ」

「え…え?」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 連れてこられたのは、箒と鈴の部屋。

 どうやら、二人は同じクラスで同じ部隊の所属しているという事もあり、学園の寮でも同じ部屋になっているようだ。

 

「な…なぁ……」

「ちょっと。誰が勝手に話してもいいって言った?」

「ご…ごめん……」

 

 かなり理不尽な事を言われているが、流石に今回は黙って従う事にした。

 因みに、一夏は床に正座で座っていて、鈴と箒は並んで仲睦まじく椅子に座っていた。

 

「大方、百華達が話していた事が信じられないってところでしょ?」

「そ…そうだよ! あんな非現実的な事、普通はあり得ないよなっ!?」

「……そうね。最初はあたし達も、あんたと同じだったわ。こんな事有り得ないって」

「だ…だよな? ははは……」

「だが」

「へ?」

「あの話には確固たる証拠がある。物的な証拠がな」

「物的な…証拠……?」

 

 やっぱりあれは冗談の類だったのかと思いきや、次の瞬間に否定された。

 しかも、証拠があるとまで言われて。

 

「一つは、スコールさん達が幼かった百華達を救出した際に手に入れた織斑計画の研究資料。あたし達もそれを見せられたけど……」

「我が目が信じられなかった。こんな事が現実に存在している事を。こんな、人道に反する外道がこの世にのうのうとしている事実を」

 

 当時の事を思い出して、二人は強く拳を握りしめた。

 

「ついでに言うと、当時の研究所の様子を映した映像記録まであったみたい」

「そ…そんな物までっ!?」

「しかも、それは外道共が面白半分で記録していた物のようだ。後で見て楽しむのが目的でな……!」

「ふ…二人は…見たのか……?」

「あぁ…見たさ…! 私達を本当の意味で救ってくれた百華達の気持ちを、少しでも理解したくてな……」

「……最後までは見られなかったけどね」

「な…なんで…?」

「途中でオータムさんがストップをかけたから。実際、最初の10分ぐらいであたし達は揃いも揃って胃の中の物を全部吐き出したわ」

「それでもなんとか見ようとしたが、更に5分見たところで私達は発狂し、精神崩壊寸前まで追い詰められてしまった」

「せ…精神崩壊……」

 

 一夏から見ても、かなりのメンタルを持っていそうな二人でも、百華達の『過去』には耐えられなかった。

 だが、百華達はそれを自分達の目で、体で実際に体験し、味わっているのだ。

 それを想えば、余程の外道でもない限りは、彼女達の傍に寄り添ってあげたいと思うだろう。

 

「あの姉さんですら、その映像を見て心が壊れかけたと言っていた」

「束さんが……!?」

 

 千冬と並んで一夏が超人だと認めている存在、篠ノ之束。

 そんな彼女でさえも、同じように耐えるのが困難だった。

 束に唯我独尊で天才的なイメージしか持っていない一夏には、余りにも信じられない事だ。

 

「ついでに聞くけど、あんたさ…自分の両親の名前って言える?」

「親の名前? そんなの当然………あれ?」

 

 ここで一夏は思い至る。

 自分は両親の事を何も知らない。

 どんな人間で、どんな性格で、どんな体型で。

 それどころか……。

 

「し…知らない……聞いたことも無い……」

 

 両親の事を千冬に聞いても、決まって『自分達を残して蒸発した』の一点張りだった。

 それ以外の事は何も答えてくれない。

 だから、いつしか自然と両親の事は聞かなくなっていった。

 

「ならば、実家にご両親の写真などはあるか?」

「な…無い……見た事も無い……。け…けど、それは単純に千冬姉が処分したって可能性も……」

「それでも、なんらかの形で両親がいた痕跡ぐらいは残っているもんなんじゃないのか? 例えば、お前の家にはご両親の部屋はあったか?」

「いや……物心ついた時にはもう…俺と千冬姉の部屋しかなかった……」

 

 考えれば考えるほど、寮長室の前で聞こえてきた話が現実味を帯びてきて、自分の両親が最初から存在などしていなかった証拠になっていく。

 だが、それでも一夏は必死に何か無いかと考えた。

 

「まだ信じられないか? では、もっと俗っぽい事を聞こうか」

「な…なんだよ…?」

 

 今度は何を話すのかと身構えていると、いきなり拍子抜けする事を言ってきた。

 

「千冬さんはちゃんと小学校に通っていたな?」

「あ…当たり前だろ? 何言ってんだ……」

「では、そのための金はどうしたんだろうな?」

「そりゃ…両親が残した金を使って……」

「アホか貴様は。もし仮に本当に子供二人を残して両親が蒸発したというのなら、わざわざ金を残したりするわけがないだろうが」

「いい? 蒸発するって事は、姿を暗ますって事なのよ? 子供を捨てたって事なのよ? なんで捨てた子供に金なんて残すのよ? 残すほどの金があるのなら、最初から蒸発なんてしないっつーの」

「捨てた子供に金を残すなど、そんなのは金を溝に捨てるのと同義だ。そんなことも分らんのか?」

 

 何を言ってもすぐに論破される。

 そもそもが頭の出来が違うのだから、まともな勝負になる筈がない。

 

「じゃ…じゃあ……箒の親から援助を受けて……」

「マヌケが。千冬さんがウチから援助を受け始めたのは、小学校に入学し始めてからだ。これは、ちゃんと私の父さんと母さんも証言している」

「確か、入学時の手続きとかはしてくれたのよね?」

「そう聞いてる。では、それまでの金はどうしたんだろうな?」

「……………」

 

 分からない。

 そんな小さな時の事なんて覚えているわけがないから。

 

「後々の調査で明らかになったのだが、どうやら千冬さんは。研究所を脱走する際に、密かに研究者の一人の財布を盗んでいたようでな。その中には多額の金が入っていたようだ」

「それで何とか飢えを凌いでいたんでしょうね」

 

 もう何が何だか分けらない。

 周りの全てが自分の知らない過去を肯定する。

 

「……一つ…聞かせてくれ……」

「なんだ?」

「お前達が俺の事を恨んでいるのは…例のフェロモンを無意識の内にばら撒いていたから…なんだよな?」

「そうだ。私達はそれが許せない。どうして貴様は何も気が付かなかった? あの異常な状況に」

「言っておくけど、あの時…周りの男子や大人たちは皆、妙な違和感を感じてはいたらしいわ」

「それなのに、当事者だけは全く気が付いていない。貴様のその鈍感さが大勢の人々の心を無自覚の内に操り、不幸に落としてきたんだ」

「その気になれば、粋らでも状況を打開する事は出来たのに」

「なんだって……?」

 

 一体、自分はどうすればよかったのか。

 今も昔も、一夏には全く分らない。

 

「お前の姉である千冬さんと、私の姉である篠ノ之束は親友同士だ。分かるか? 世界最高峰の頭脳と連絡を取る手段がお前には常にあったんだぞ?」

「少しでも違和感に気が付けば、その時にでも千冬さんを通じて束さんに連絡をして相談すればよかったのよ。そうすれば、必ずいい打開策を思い付いてくれただろうから」

「だが、貴様にはそんな事なんて微塵も思いつかなかったんだろうな。無能にもほどがある……」

「うぐ……!」

 

 被害者から直接言われると、かなり堪える。

 しかも、自分が完全に悪いと確定しているから尚更だ。

 

「け…けど、元はと言えば俺にこんな改造をした奴らが悪いんだろ……」

「そうね。確かにその通りだわ」

「だから、もうそっちの方は済ませてある(・・・・・・・・・・・・)」

「………へ?」

 

 一瞬、箒が何を言っているのか分らなかった。

 

「全ての事件の根源にいる連中は、当の昔に捕えて、糞外道に相応しい目に遭っているよ。現在進行形でな」

「こ…殺したのか…?」

「あんたバカァ? 現在進行形って言ったじゃない。日本語も分からないワケ?」

「う……」

 

 流石にこれは自分が馬鹿だったと反省する。

 

「これから先、永遠に地獄の苦しみを味わい続けるだろう。どれだけ死にたいと願っても死ねない恐怖と絶望」

「多分もう、考えることを止めてるわね」

 

 単純に相手を殺すだけが復讐ではない。

 時には、生きることが地獄となり、死ぬことが救いになる事もあるのだ。

 

「分かる? これは『順番』なの」

「最初は百華達を苦しめた諸悪の根源から。そして、次はお前達姉弟だ」

「ち…千冬姉も…?」

「当然だ。あの人が貴様なんぞを連れ出さなければ、こんな事にはならなかったんだからな」

「けど、その前にまずはアンタから。言っとくけど、間違っても自分も被害者だなんて思わないでよね。どんな理由があろうとも、アンタがフェロモンをばら撒いて女の子達の心を操ったのは変えようのない事実。織斑一夏…アンタは何処まで行っても『加害者』の側なのよ」

 

 とても仲が良かったと思っていた幼馴染達に、真正面から恨まれる。

 だが、仲が良かったと思っていたのは自分だけ。

 実際には、自分のフェロモンで人心を操っていただけだ。

 

「それと、あの事もちゃん教えないと」

「おっと。そうだったな」

「こ…今度は何なんだよ?」

 

 もう、何を聞かされても驚かない自信がある。

 が、その自信は一秒で壊された。

 

「五反田弾…知ってるわよね?」

「当然だ。俺の親友だからな」

「そうね。そして、あたしにとっての親友でもある。けど、親友だと思っていたのはアンタだけだったのよ」

「なん…だって…?」

 

 いつも気さくに自分に話しかけてきて、どんな時もノリがいい親友。

 けど、そう思っていたのは自分だけだった?

 

「大体ね。目の前でモテまくっている奴を見て、あいつが本気で何も考えてないと思ってたわけ?」

「そんな光景を見せられれば、嫌でも負の感情は溜まっていく。しかし、それでも彼は頑張って我慢していた。『親友』の為にな」

「けど、どれだけ頑張っても必ず限界は来る。それは、あいつの妹がアンタのフェロモンに浸食された時だった」

「妹って……蘭のことか……」

「そうよ。五反田蘭。弾の妹にして、最も大切な家族」

 

 一夏が覚えているのは、妙に自分に懐いている事。

 そして、なんでか兄である弾とは余り話そうとしていない事だった。

 

「フェロモンにやられてから、蘭の心はアンタ一色になった。家でも様子がおかしかったらしいわ」

「その事を知った私達は、急いで蘭の治療をし、その後に五反田家の人々に『フェロモン』の事を含めた、『織斑』の事を話した」

「な…なんて言ってた……?」

「まず、弾は激怒していたわ。勿論、研究員たちや千冬さんにもだけど、それ以上にアンタにね」

「その理由は…言うまでも無いだろう」

「俺が…全く気が付けなかったから……」

「そうよ。弾は言ってたわ。『あんな悍ましい奴を親友だと思っていた自分が馬鹿だった』ってね。当然、あたし達の目の前で見事な絶交宣言をしてくれたわ」

「弾……」

 

 中学時代の同性の親友にすら見捨てられた。

 自分が不甲斐無かったから。

 何にも気付けなかったから。

 

「けど、そっちはぶっちゃけ、どうでもいいの。アンタ次第では、どうにかなるかもしれないから」

「問題なのは、妹の蘭の方だ」

「あ…あいつがどうかしたのか?」

 

 なにやら不穏な事を聞いた気がしたが、それよりも蘭の事が気になるので先を聞くことに。

 

「真実を知り、自分の恋心がフェロモンにて強制的に作られたものだと知ったあの子は……」

「極度の男性不信になってしまった」

「な…なんだってっ!?」

「これに関しては私達にも落ち度はある。良かれと思って教えたことが、まさか完全に裏目に出るとはな……」

「今では通院しながら少しずつ治ってはきているようだが、それでもまだ兄である弾ぐらいとしかまともに話せないらしい……」

 

 蘭のことを聞かされて、一夏の頭は物凄く混乱していた。

 もしも自分が弾と会わなければ、こんな事にはならなかったのか?

 それとも、自分が千冬に連れ出されなければ……。

 

「一応、定期的にあたしや箒、百華達があいつん家に行って、話をするとかしてメンタルケアをしてはいるわ」

「悔しいが、精神的な問題は難しいからな……。今の私達にはこれぐらいしか出来ない……」

 

 歯を食い縛って悔いている二人だが、それでも一夏には眩しく見えた。

 自分はそんな事にすら全く気が付かず、呑気に相手の家まで通っていたのだから。

 

「言っておくけど、蘭に会って謝ろうなんて考えない方がいいわよ」

「まず間違いなく、彼女のトラウマを刺激するだけだ」

「分かってるさ……」

 

 けど、それじゃあ自分が許せない。

 身勝手だと言われればそれまでだが、それでも何かしたい。償いたい。

 

「俺は…どうすればいいんだ。どうしたら、お前達や蘭、俺が見知らぬうちに傷つけてしまった人達に償える……」

「その台詞が出るって事は、百華達の話を信じるって事でいいのよね?」

「あぁ…! ここまで聞かされて信じなかったら、それこそ本当の糞野郎だ! これ以上…最低な糞野郎にはなりたくない……」

 

 これで何も知らない振りをして何もしなかったら、それこそ百華達を苦しめた連中と同じレベルまで堕ちてしまう。

 それだけは絶対に御免だった。

 

「あんたさ……本気で償いたいって思ってる?」

「勿論だ! 俺に出来る事ならなんだってする!」

「その言葉、確かに聞いたからな?」

「お…おう……」

 

 念を押す箒の顔が少し怖かったが、ここは気にしないことにした。

 

「本当なら、償いの方法なんて自分で考えろって言うところだけど、あたし達は超絶優しいからね。特別にあんたに今までの罪を償えるチャンスをあげる」

「ほ…本当かっ!?」

「嘘は言わん。しかも、これならばお前は厚志と同じように普通に外を出歩けるようになるし、場合によっては数多くの悩める人々の心を救うことが出来るかもしれない」

「ほ…本当かよ……」

 

 幽閉状態から解放されるだけじゃなく、昔から自分が夢見ていた『誰かを助け、守れるようになる』事すら実現するかもしれない。

 今の一夏にとって、箒と鈴が言ってくれた事は、これ以上無い程に最高な事だった。

 無下にされていた悲しみから一変、二人にはもう感謝の気持ちしかなかった。

 

「でも、こっちにも色々と準備があるからね」

「その『準備』が出来たら、こっちから連絡してやる。だから、その時までは大人しく待っていろ。いいな?」

「分かった!」

 

 ここでようやく立つことを許可された一夏だったが、かなりの長時間、正座をさせられていたので、流石に足が痺れていた。

 

「あぐ……! でも、我慢我慢……!」

「それと、最後に言っておくわよ」

「な…なんだ?」

「……変に厚志の事を意識するんじゃないわよ。あいつはね、本当に底抜けのお人好しだから、アンタの全てを知った上で本気で友達になろうとしてる。その気持ち…無下にしたら承知しないから」

「あぁ……俺にとっても、もう厚志は大切な親友だ。例え、同じ場所で生まれた『兄弟』だったとしてもな……」

「ふっ……良い顔をするようになったではないか。百華に比べれば、まだまだだがな」

「そうかよ。それじゃ…おやすみ」

 

 来た時のゾンビのような表情は消え、生気に満ちた顔になって帰っていった一夏。

 だが、彼は知らない。

 自分が去っていった後に、箒と鈴が物凄くある笑顔を浮かべていた事を。

 そして、自分が自分でいられる最後の時だった事を。

 

 

 

 




めっちゃ長くなりましたが、これで一夏の準備は完了。

あとは、彼を『ハッピー』にするだけ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。