インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~ 作:とんこつラーメン
皆さんが疑問に思っていた『彼』の事に触れます。
スコール、オータム、真耶の三人から、突如としてIS学園行きを告げられた15歳組の少女達。
少しの驚きと決意を胸に、彼女達は話を聞いていた。
「あたし達がIS学園に入学するとなると、楯無さん達の事は向こうじゃ『先輩』って呼ばなくちゃいけないのかしら?」
「当然だろうな。年上の人物に敬意を示すのは当たり前の事だ」
「親しき仲にも礼儀あり…ですね」
前回も述べたと思うが、楯無とフォルテ、ダリルに虚の四人は既にIS学園に入学していて、基地と学園を往復する生活をしていた。
「別にオレ達はそこまで気にはしないけどな」
「そうッスね。今まで通り『さん』付けでも普通にいいと思うッスけど」
「今更、改まって『先輩』なんて呼ばれても、こっちが恥ずかしくなるだけだし」
「ですから、学園に入ってもこれまでと同じように呼んでくださっても構いませんよ」
「は~い」
「本音は少しはけじめをつけなさい」
「なんで私だけぇ~!?」
それは自分の密かに大きな胸にでも聞いてみるといいだろう。
「真耶さんの事も『山田先生』と呼ぶことになるんですのね」
「スコールやあたしの事もな」
「え? 本当に私も行くことが確定してるの?」
「いいじゃねぇか。どっちみち、ここは暫くの間、放置する予定なんだし」
「「「「「え?」」」」」
何やら、聞き捨てならない単語がオータムの口から飛び出してきた。
それと余談だが、真耶とオータムの二人も、IS学園にて教師として在籍している。
何気にデキる女たちだったりするのだ。
「ど…どういう事なんですの?」
「そのままの意味よ。今までは最年少のメンバーがこっちにいてくれたから、人手の方はなんとかなっていたけど、あなた達までもが学園に行くとなると、どうしてもこの基地は手薄になる。ならばいっそのこと、この基地は一時的に隠して、学園に拠点を移そうと思っていたの」
「確かに……」
「物凄く理には適っているけど……」
「一体どうやって、この基地を隠すつもりなのですか?」
「それは……」
「この私が解説してあげよ~!」
ここで何度目になるか分からない介入者。
機械のウサ耳に、なんともファンシーなワンピースを身に付けた女性と、大人しそうな銀髪の少女が食堂にやって来た。
「ね…姉さん!?」
「クロエ姉さまもご一緒ですか」
「おはようございます…みなさふわぁ~……」
この、挨拶をしながら欠伸をしてしまった少女の名は『クロエ・クロニクル』といい、ファミリーネームこそ違うが、正真正銘のラウラの実の姉である。
訳あって、今はとある人物の助手を務めている。
その『ある人物』というのが、箒が『姉』と呼んだ女性だ。
「束さん。凄い隈ですよ? ちゃんと寝てますか?」
「だいじょ~ぶだよ~…あっくん。昨日もちゃんと30分も寝たんだから…」
「仮眠は寝た内には入りませんよ?」
厚志に心配されている女性こそが、この世に『IS』という存在を生み出し、その他にも様々な発明をしている稀代の若き天才科学者。
箒の実の姉でもある『篠ノ之束』その人である。
「眠たそうにしているところで悪いのですが、今のは一体どういう事ですか? どうやって、この巨大な基地を他の存在から隠蔽するおつもりで?」
「むっふっふっ~♪ 実にいい質問だね~! 流石は箒ちゃん!」
「いや、そーゆーのは割とマジでいいんで、早く答えてください」
「はいはい。そう焦らなくても、ちゃんと教えてあげるよ」
束が指をパチンと鳴らすと、彼女の傍に投影型ディスプレイが現れて、そこにはこの基地の簡易的な外観が映し出されていた。
「この基地にはね、設計段階から万が一の襲撃に備えてのとっておきの機構があるんだよ」
「とっておきって?」
「そ~れ~は~ね~?」
少し画面を拡大し、この場にいる全員に見えるようにしてから映像を再生すると、画面内の基地が徐々にではあるが地面の中へと埋まっていくではないか。
「こ…これは?」
「こうやって、基地全体を地下に格納して厚さ20センチの超高硬度の合金製のシャッターで閉じる事により、簡易的なシェルターに出来るんだよ」
「この基地に、そんな機能が備わっていたとは……」
「本気で初耳だわ……」
一体誰が、基地全体をこんな魔改造しているだなんて予想するだろうか。
真の天才は、我々のような常人とは全く違う視線を持っているようだ。
「皆が学園に行くんなら、私も一緒に着いて行くよ。クーちゃんにも学園生活を経験して欲しいしね」
「そうね。ラウラが行く以上、クロエも一緒に入学するのは道理よね」
「…などと、束さまは仰っていますが、本当によろしいので?」
「構わねぇって。それに、また妹と離れ離れになるのや嫌だろ?」
「そう…ですね。よろしいのであれば、私もIS学園に行きたいです」
「決まりね」
また一人、新入生が増えた。
今年のIS学園は例年以上に賑やかになりそうだ。
「学園に行くと言う事は、姉さんも教師をするのですか?」
「いやいや。私はそんな柄じゃないって。ここと同じ『技術顧問』的な感じでいいんじゃないかな?」
「それが妥当ね。ことISに関しては、博士以上の相談相手はいないだろうし」
「なんなら、IS以外の事も相談に乗るよ~? 例えば~…恋愛相談とか!」
「「「「「「「いえ、結構です」」」」」」」
「まさかの満場一致っ!?」
どれだけ頭脳が優れていても、中身は割とヘッポコなようだ。
それが、彼女は皆から密かに好感が持たれている理由でもあるのだが。
「教師といえば、今『彼女』はどうしてるのかしら?」
「どうもしてませんよ。特にこれといったアクションは一切起こさず、己がどこにいるのかも全く理解せずに、自分なりの『先生』をやってますよ。『先輩』は」
「教師やるのに必死なだけってのもあるかもしれねぇが、それでも何も知らないってのは哀れだよなぁ……」
嘗ては『彼女』の事を『先輩』と呼んで慕っていた真耶だが、それは勿論ただのポーズに過ぎない。
最初に会った時から既に『全て』を知っていた彼女は、内心では軽蔑の眼差しを向けていた。
「その事で思い出した事があるんだけど……」
「何かしら? 鈴音」
「『あいつ』の事はどうするんですか? 前に言ってましたよね? 『今はまだ大丈夫だけど、連中の手に渡る前にいずれは何らかの形で確保しなくちゃいけない』って」
「今はまだ大丈夫かもしれんが、それも時間の問題だ。ましてや、今は『あの人』が常に傍にいるような状況じゃない。正直言って、私は『あいつ』がどうなろうが知った事ではないのだが、『奴』が1%でも皆に危険を及ぼす可能性があるのならば、私は涙を呑んで協力しよう」
かなり『彼』のことを毛嫌いしている様子の箒と鈴。
その理由は、本人達にしか分からない。
「それに関してなら心配無用だよ、お二人さん。彼…『いっくん』の事ならば、既に私達で考えていることがあるから」
「そうなのですか?」
「まぁね。それには、あっくんの協力が必要不可欠なんだけど」
「僕の協力? 何をするんですか?」
「厚志。これから貴方には……」
「世界初の男性IS操縦者になって貰うわ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
うまく寝つけない百華は、電気をつけていない真っ暗な休憩所へと来ていた。
窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源となって、なんとも神秘的な情景を見せている。
「はぁ……」
昼間、スコールに向かって意気込んで『はい』と言ったが、やっぱり心のどこかで不安に感じている自分がいた。
果たして、本人に会った時、自分は冷静でいられるのか。
怒りに身を任せて剣を振るったりしないだろうか。
(本当は、私達を見捨てた『姉さん』の事は許せない。でも、だからと言って暴力に訴えては、それこそ女尊男卑の連中と同じになってしまう。それだけは絶対に嫌だ。そんな事じゃ根本的な解決にはならない。それは分かってる…分かってるけど……)
自信が無かった。
どれだけ自分に言い聞かせても、漠然とした不安感だけが心の中を侵食していく。
一度でも悩み始めれば、それは負のスパイラルとなってグルグルと頭の中を駆け巡る。
結局、それが原因となって目が冴えてしまい、こうして少しでも眠気を促す為に彷徨う羽目となる。
「眠れないのかな? ももちゃん」
「博士……」
後ろから静かに現れたのは、先程と全く同じ格好をした束だった。
まだ目の下に隈がある事から、彼女もまだ一睡もしていないようだ。
「えぇ……そちらもですか?」
「うん…まぁね」
二人は並んで備え付けのソファに並んで座り、一言も言葉を発することなく天井を見続けていた。
「ちーちゃんに会うのが不安?」
「……はい。昼間はあんな事を言ったけど…そんな簡単にはいかないみたいです」
「そっか……そうだよね……無理もないよね……」
「博士?」
相槌を打つ束の顔も、お世辞にも優れているとは言えず、なんだか落ち込んでいるように見えた。
「もしかして…博士も?」
「不安…かな。一応は『親友』…だしね」
「そうでしたね。貴女は、私達が知らない『あの人』を知っているんでしたね」
「うん。だからさ、今回の場合は一概に『どっちの味方をする』とは言い難いんだよね……」
「それは分かります。過去にどんなことがあっても、その後に紡いできた思い出は紛れもない『本物』ですから……」
何も自分は『彼女』に怒りをぶつけたいわけではない。
ただ、知ってほしいのだ。『彼女』がいなくなってからの自分達の事を。
自分達が今まで胸の中に溜めこんできた気持ちを。
そして、教えて欲しい。どうして自分達を置いて行ったのかを。
「ごめんね……」
「どうして博士が謝るんですか?」
「どうしてかな……自分でも分からないけど、なんでか謝らないといけない気持ちになったんだよ」
「なんですかそれ……」
普段は誰にも言えない『弱音』。
それを百華は吐き出すと言う事は、それだけ彼女が束に心を許している証拠だった。
「少しだけ…こうさせて……」
「はい……」
百華の体を抱き寄せてから、その頭を優しく撫でる束。
その姿は、まるで自分の子を美しむ母親のようでもあった。
「不思議ですね……」
「何が?」
「こうして誰かの温もりを感じていると、さっきまでの不安な気持ちが浄化されていくようです……」
「マーちゃんは?」
「今日は自分の部屋で寝てます」
「そっか……」
この基地、部屋数だけは無駄に多いので、一人につき一部屋ずつ用意してある。
何気に贅沢な組織だった。
(この人は『行動』で示してくれた。それが私達の心を動かした。姉さん…貴女は私達と会って、私達の『その後』を知った時…どうしてくれますか…?)
先の事を考えて少しだけ泣きそうになるが、ここはなんとか耐えた。
その時、束がそっと百華に向けて呟いた。
「ねぇ……ももちゃん」
「なんですか?」
「運動をすれば、体が疲れて眠くなるんじゃないかな?」
「それってまさか……」
完全に不意を突かれた百華は、束にいきなりお姫様抱っこされた。
「ちょ…博士?」
「前々から言ってるけど、私の事は『束さん』って呼んでほしいな~?」
「た…束さん? 私をどこに連れて行く気……」
「勿論、私の部・屋♡」
この時、百華は確信した。
あ、私…今からこの人に食べられる…と。
(まぁ…別にいっか。束さんとするの気持ちいいし……)
こうして、百華は束によってお持ち帰りされたのであった。
次回、百華と束のイチャラブフタナリレズエッチ。
本当は、単純に百華が束に美味しく食べられるだけ。