インフィニット・オーケストラ ~咲き乱れる百合の花~ 作:とんこつラーメン
男らしくなる事と誰かを守れる人間になりたいと願う彼には、最強のアンチになると思います。
安易に殺したり、苦しめたりすることだけがアンチとは限りません。
時には、表向きには『救済』と思えるような事も、相手にとっては心を粉々にされるようなアンチだったりするのです。
今日はIS学園の入学式。
世界中の国から数多くの少女達が、ISの事を学ぶ為にこの学園の門を潜る…表向きは。
実際は、世界中に存在する亡国機業の関係者の家系に属する少女達が、ISの事を学ぶと同時に、未来の亡国機業を担う若者となるべく、ここで研鑽し、仲間達と切磋琢磨していくのだ。
無論、極一部を除き、全ての人間が裏世界の人間である為、IS学園に属する者は当然のように『全て』を知っている。そう…『全て』を。
そして、そんな日にモノクローム・アバターに属している新入生となる少女達は今……オルコット家所有の長大で純白なリムジンに乗っていた!
「まさか、またこのリムジンに乗る事になるとはね」
窓から流れゆく景色を眺めながら、百華は自然な笑みを浮かべる。
それを見て、彼女の両隣に座っているセシリアとマドカが顔を赤くした。
「ね…ねぇ…セシリア? この車…なんか飲み物が置いてあるんだけど? これってまさか、ワインとかじゃないわよね?」
「まさか。私達はまだ未成年ですのよ? それは、単なるジュースですわ」
「そ…そうよね? ははは……」
どう見てもワインボトルにしか見えないビンを見て、顔を引きつらせる鈴。
彼女は生粋の中国人ではあるが、日本で生活していた時期もかなり長いので、精神構造的には日本人に近かった。
故に、目の前にアルコールらしき物が置いてあれば、どうしても戸惑ってしまう。
「というか……」
「なんでお姉ちゃんも一緒に乗ってるの?」
そう。ここには百華やマドカを初めとして、箒にセシリア、鈴にシャルロット。ラウラに簪に真紀に本音、名目上は『一番目の男子』である厚志に加え、なんでか楯無とクロエが一緒にいた。
「確か、楯無さんってIS学園の生徒会長じゃなかったっけ? それがこんな所にいてもいいの?」
「他の上級生である虚さんやフォルテさん、ダリルさんは私達よりも先に学園に行っているというのに……」
「ん~…なんとなく?」
「「おい」」
余りにも適当過ぎる楯無に、思わずツッコむ百華とマドカ。
「あ…あの……」
「どうしました? クロエ姉さま」
「本当に私も一緒に入学してもよろしいのでしょうか? 当初の予定には無かったのに……」
「何を仰います! いいに決まっているではないですか! それに…私も一緒に入学したいです……」
「ラウラ……」
最初は入学する予定ではなかったクロエがこの場にいるのは、皆揃ってIS学園入学の話をした後で、束とラウラに強く懇願され、トドメに本音の泣き脅しに屈したスコールが、仕方なく追加で彼女も一緒に入学出来るようにしたから。
結局、モノクローム・アバターに属する全ての少女達がIS学園に入る事となった。
「そういえば、もう皆は部活は何に入るのか決めてるのかしら?」
「部活?」
「そうよ。IS学園は、徹底的な実力主義であると同時に、生徒達に少しでも充実した学園生活を満喫して貰う為に、全ての生徒に部活への入部義務があるの」
「初めて聞く校則だね……」
シャルロットが呆れるのも無理はないが、それがIS学園と云うものなのだ。
あの学園は色んな意味で非常に特殊であるが故に、これまでの学校の常識は殆ど通用しないと言っても差し支えないだろう。
「事実、私も一年の終わり頃に前生徒会長と正式な試合をして、それに勝って生徒会長の座に就いたしね」
「普通は会長選選挙とかしないの? お姉ちゃん……」
「全くしないわね。それもそれでまた別の意味での実力主義だから、面白そうではあるけど」
「……今から高校生活が心配になってきた」
急に胃が痛くなった簪は、普段からポケットに忍ばせている水いらずの胃薬を飲み込んだ。
「部活か……私は剣道部一択だな」
「箒はそうでしょうね。なんたって、中学の時に剣道で全国取ってるんだから」
「まぁな。鈴はどうするんだ?」
「あたしはラクロス部に入ろうと思ってるわ」
「ラクロス……ってなんだ?」
「あれ? 知らない? ほら、こう…長い棒の先に小さな籠みたいのがついてるラケットを使って、ボールをゴールに入れる……」
「見たことがあるような…無いような?」
お世辞にも世間に知られているスポーツとは言い難いラクロスを箒が知らないのも無理はない。
これまでずっと球技とは無関係の人生を送ってきているのだから尚更だ。
「セシリアはどうするの?」
「私はテニス部に入ろうと思ってますわ。祖国でも嗜んでましたから」
「凄く絵になりそうだね。僕は~…料理部かな? 料理好きだし」
「シャルロットさんも十分に似合ってると思いますわ」
「そ…そうかな?」
セシリアがテニス部に入ると聞いて、日本出身の者達の心が一つになった。
(((((((絶対に主人公のライバルポジションだな……)))))))
今からセシリアが檄を飛ばしながらも誰かに指導をしている姿が容易に想像できた。
「私は茶道部に入ろうと思っている。前々から日本の文化には興味があったのでな。この機会に少しでも勉強してみたい。姉さまはどうします?」
「私は…まだ分りません。色々と見てから考えていきたいです」
ラウラが日本に興味を持った切っ掛けは、彼女の副官であるクラリッサが原因だった。
クラリッサは部隊内で屈指の日本好きなのだが、どうも間違った日本知識を身に付けているようで、それをラウラに教えようとして、いつも日本出身の者達に怒られている。
だが、逆にそれでラウラは日本に強い興味を抱き、今では普通に箸も使えるし、正座をしていても全く平気になっていた。
「簪ちゃんはどうするの?」
「私は漫研(漫画研究部)一択」
「だと思ったわ……」
生粋のオタクである簪は、IS学園に入学する前から漫画研究部に入ると決めていた。
待ちに待った瞬間がもうすぐな事もあり、実は地味に興奮している。
「私達はどうしようか、百華」
「そうねぇ……」
部活動。
憧れたことが無いと言えば嘘にはなるが、だからといって、いざ入ろうと思うと迷ってしまう。
そもそも、まだIS学園にはどんな部活があるのかを知らないし、何が自分に合うのかも知らない。
幼い頃からずっと『生き死にの世界』で生きてきた百華とマドカ、厚志と真紀には全くの未知の事だった。
「厚志君はシャルロットちゃんと同じ料理部とか良さそうだけど」
「僕が料理部?」
「そうよ。厚志って凄く料理が得意じゃない」
「そうだね……試しに入ってみようかな……」
楯無と鈴に促される形で、厚志は料理部へと入る事を決めたようだ。
なんだか流された形にはなるが、本人は全く気にしていない。
「私はまだ決めかねてます……。そもそも、ドジな私が部活に入ること自体が想像出来ないし……」
「相変わらず、真紀はネガティブだな。お前だって十分に凄いんだから、もっと自信を持っても良さそうなもんだが……」
「私はマドカちゃんみたいに前向きにはなれないよ~…」
「え? 私ってお前からはそう見られてたの?」
今になって初めて知る事実。
他人から見た自分の印象なんて、往々にしてそんなものである。
「別に急いで決める必要はないわよ? 学園側も、流石に入る時期までは強制したりはしないから。少なくとも、今年中に決めてくれれば大丈夫だから」
「それなら、ゆっくりと決めていこうか」
「そうね。色々と見学とかしてから考えましょ」
楽しそうに話す二人を見て、楯無から生徒会長らしく助け舟を出す事に。
「それでもイマイチ入りたい部活が無かったら、その時は生徒会にいらっしゃいな。あなた達ならいつでも大歓迎よ」
「え? なんでそこで生徒会が選択肢に入るのよ?」
「IS学園では、生徒会も部活動扱いになってるからよ。事実、本音ちゃんも生徒会に入る予定だし」
「え? そうなの本音?」
「ん~?」
さっきから珍しく大人しかった本音は、ずっとお菓子を食べていた。
これで全くスタイルは変わらず、その栄養が全て胸に行っているのだから恐ろしい。
「何の話~?」
「部活の話。本音が生徒会に入るって聞いて」
「そうだよ~。お姉ちゃんが生徒会に入ってるから、『少しでも傍で見張れるように』って言って」
(なんて言ってるけど、本当は……)
(大切な妹と少しでも一緒にいたいだけよね……)
観察眼に優れる百華とマドカには分かった。
虚は単純にシスコンを爆発させただけなのだと。
「セシリアお嬢様。もうすぐIS学園へと到着します」
「ありがとう」
運転手からの言葉を聞いて窓の向こうを見てみると、そこには真っ白な校舎が遠くに見えた。
「あれが……」
「IS学園……か……」
あそこに待っている。ずっと会いたかった『あの人』が。
あそこで会える。ずっと憎んでいた『アイツ』に。
「入学したら、スコールさんやオータムさん、真耶さんの事も『先生』って呼ばないといけないのか」
「ちゃんと呼べるかな?」
「慣れるしかないですわね。こればかりは」
「まぁ…一ヶ月もすれば、自然と呼べるだろ」
「だといいんだけどね……」
これからの事について話している皆の横で、百華とマドカが真剣な顔で話し合っていた。
「なぁ…百華」
「どうしたの?」
「『あの人』に会ったら、どうする気だ? 暫くは様子見で静観でもしてるのか?」
「まさか。こういうのは少しでも早い方がいいわ。今夜よ」
「と…唐突だな……」
「そうかしら? 今までずっと待ち続けた瞬間なのよ? なら、少しでも早く行動したいと思うのは当然じゃなくて?」
「……そうだな。ここまで来たんだ。私だってもう我慢するのは御免だ」
「僕もだよ。二人とも」
「厚志……」
ここで厚志が会話に入る。
彼もまた彼女達と『同じ』であるため、その気持ちは痛いほど分かるのだ。
「僕達4人で会いに行こう…あの人に」
「そして、『全て』をぶちまけてやりましょう……『全て』をね」
「「「うん」」」
百華の決意に満ちた言葉に、マドカと厚志、真紀が同時に頷く。
そうして話が終わった直後、車が止まってからドアが開いた。
「お嬢様。IS学園に到着致しました」
「ご苦労様でした」
運転手に礼を言ってから、まずはセシリアから外に降りた。
それに続くようにして、他の皆も順に降りていく。
「それじゃ、生徒会長として様式美で言おうかしらね」
楯無が皆の前に出てから振り向き、大きく手を広げた。
「ようこそ、IS学園へ。入学おめでとう」
私の中で入学後の初エッチシーンは出来上がっているので、もう少しだけお待ちを。
『知らぬが仏』。この一言に尽きますね。