私立シンデレラ学園。
ここは美城プロダクションが経営する私立高校。
全国からアイドル志望の学生を集め、アイドルとして育成するための特殊な高校だ。
入学試験では学力だけではなくアイドルとしての才能が求められるし、入学してからはアイドルになるためのレッスンが含まれた特殊なカリキュラムに取り組むことになる。施設もアイドルになるために特殊かつ最高のものが用意されている。
アイドル界で最大手の美城プロダクション直轄で、多くの人気アイドルを輩出しているこの学園は日本中のアイドル志望者の憧れとなっている。
俺は、この学園に通っているが、アイドル志望ではない。
ではなぜこの学園にいるのかというと、学園を経営する美城プロダクションの社長の息子だからだ。
将来プロダクションを継ぐなら、若い頃からアイドルとプロダクションのことを知っていたほうがいいだろうということで、俺自身はアイドルになるわけではないけどこの学園に通っている。
俺はまだ将来美城プロダクションを継ぎたいと決めたわけじゃないが、競争率が高いこの特殊な高校に入るのも悪くないと思って入学してきた。
周りの同級生たちはアイドルになるために努力している。俺はそれを見ていて、アイドルってこんなに真剣に目指すものなんだって実感した。
そして入学から一年が経った。
二年生に進級して少ししたある日のこと。
俺は生徒指導室にメールで呼び出された。
特に呼び出されるような悪いことをした覚えはなかったので、首をひねりながらもそこに向かった。
指定の時間にドアをノックして、室内に入る。
すると中には、見覚えのない蛍光緑のスーツを着た、おさげ髪の女性がいた。彼女はこちらを向いてニッコリと微笑む。
「千川ちひろと言います。はじめまして、マスター」
「えっ?」
その女性はいきなり俺を「マスター」と呼んだ。
意図を測りかねていると、彼女は続ける。
「私はあなたを最高のプロデューサーに育てるために来ました。アイドルの卵たちの潜在能力を最大限に開花させ、アイドルとして成功させる、そんな至高のプロデューサーに」
突然の脈絡のない言葉に、俺は困惑して何も言えない。
「私は前世のあなたが作り出した魔術的存在です」
「は?」
あまりにもありえない言葉にアホみたいな声を出してしまう。
前世?
魔術?
ゲームかアニメの話か?
「前世のあなたは偉大な魔法使いでした。そして、自分が次に転生するこの世界をのぞいて、自分の世界には存在しないアイドルという存在に興味を持ちました。そして、アイドルのプロデューサーになってみたいと考えました。それでプロデューサーになるのに最も適した環境に自分が生まれるよう魔法で仕向けました。日本最大のアイドルプロダクションの御曹司という立場がそれです」
「え……」
なんだそのとんでもない話は。
俺が、美城の家に生まれたのが魔法の結果だって?
「加えて、転生後は記憶を失うことが予想されたので、前世のあなたは魔術によって私という存在を作り上げ、この世界に送り込み、あなたをサポートさせることにしたんです。だから私は人間ではなく、作動している魔法、この世界の言葉でいえばプログラムみたいなものです」
眼の前にいる女性は服装こそ少し変わっているが、普通の人間にしか見えない。それが人間ではなく魔法と言われてもどう反応すればよいのか。
「そしてもう一つ重要なことですが、前世のあなたは転生後の自分、つまりあなたに自らの魔力の一部を持たせることにしました。プロデューサーとして必要な力、人を支配する力を」
「ち、力……?」
「ええ、説明するより見せたほうが理解が早いでしょう」
そう言うと、ちひろさんは眼を閉じて手をかざしブツブツと何か呪文を唱えた。
すると、目の前のなにもない空間が淡く光りだした。
「!?」
見たことのない不思議な現象に眼を奪われていると、なんと光の中から3人の女の子が現れた。
「あ、あれっ?!」
「な、何っ? ここどこ?」
「一体何が起こったの?」
そこにいるのは、島村卯月、前川みく、速水奏。
いずれもこの学園に通うアイドル候補生の女の子だ。
彼女たちも動揺しており、俺と同じように事態を理解していないようだ。
さっきからの話は現実のものとは思えなかったが、突然空間に女の子が現れるという魔法のようなことが起こった以上、もしかして前世とか魔法とか、この人の言うことは本当なのか?
「この子たちはマスターにふさわしい女の子として認められました。よって契約が行われます」
そう言ってちひろさんはさっきとは異なる呪文を唱える。
すると、俺と彼女たちの身体の周りに淡い緑色の光が浮かぶ。そして、俺の胸のあたりから光が伸び、彼女たちの胸のあたりにつながる。
ちひろさんが呪文の詠唱を終えると、緑色の光は俺と彼女たちそれぞれの胸に飲み込まれて消える。
「……?」
自分の身体を上から下まで触って確かめてみたり、頭を動かしてみたりしても、俺には特に何か変わった感覚はなかった。
魔法とか言っても、何もないぞ?
俺は拍子抜けした気分で女の子たちを見る。
彼女たちも外見上特に変化はないような。
「大丈夫か?」
声を掛けて近づいてみる。
その時だった。
「「「ご主人様♡」」」
俺に三人の女の子が抱きついてきた。
「ど、どうした?!」
「ご主人様♡ 大好きです♡ 卯月はあなたのものです♡」
「ご主人様♡ ネコチャンのみくを可愛がってほしいにゃ♡」
「ご主人様♡ あなたは私の支配者にふさわしいわ♡」
卯月、みく、奏の三人が三方から抱きついてきて俺をご主人様と呼ぶ。押し付けられた身体の柔らかさとご主人様という言葉の響きに俺の頭は真っ白になってしまう。
ど、どうした? 彼女たちとは知り合いではあるけど、そこまで親しいわけでもなく、いきなり同時にこんな行為に出るなんてありえない。
「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて!」
俺は慌てて力ずくで三人の身体を引き離す。
すると、三人はハッとしたような顔をする。
「わ、私、何を……ご、ごめんなさい美城くんっ!」
島村さんは顔を真っ赤にして俺に勢いよく謝罪する。
前川さんと速水先輩も気まずそうな表情をしている。
一体何が起こったんだ?
「おわかりですか?」
ちひろさんが口を開く。
「あ、あんたは何をしたんだ?」
今の彼女たちの行動はちひろさんの魔法のせいなのか?
「この子たち三人を、魔法でマスターの奴隷にしました」
「はっ? ど、奴隷ってどういうことだ?」
「前世のあなたが作った魔法が作動しただけです。あなたはこの子たちのハーレムを楽しみつつ、しっかり管理してトップアイドルに育て上げてください」
「えっ、えっ、えっ???」
「前世のあなたが願ったのは最高に魅力的な女の子たちを自分のものにしながらもアイドルとして輝かせることでした。だからこの魔法は女の子を奴隷兼担当アイドルにするものになっています」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ前世の俺とやら」
何を言っているのかさっぱり理解できない。
「では、ひとまず私は去ります。詳しい説明はあなたのスマホにインストールされたアプリを見てくださいね」
「ちょ、待っ……」
俺は手を伸ばして制止しようとしたが、ちひろさんは煙のように、この世の人間ではありえない形でどこかへ消えてしまった。
そして、部屋には俺と、俺の奴隷となった三人のアイドルの女の子たちが残された。
ちひろさんが魔法のように消え、生徒指導室に残された俺と、島村卯月・前川みく・速水奏の3人の女の子。
どうすればいいのか?
一体今何が起こったんだ?
これは本当に現実なのか?
しかし、目の前で起こったこと―女の子たちが何もないところからこの部屋に現れ、ちひろさんは逆に消えた―を考えれば、現実だと認めるしかないのではないか?
そして、現実だと認めると、大きな問題が出てくる。
そこにいる三人の女の子たち。
島村卯月。
前川みく。
速水奏。
この学園に通う3人の美少女アイドルたち。
今の突拍子もない話が真実だとすると、彼女たちは前世の俺の魔法によって俺の奴隷になったということだ。
え?
なんだそれ?
そんなの、本当ならこれからどうすればいいのか?
混乱していると、速水先輩が自分の胸に手を当てながら話しかけてきた。
「……すごくドキドキするわ、胸が締め付けられるみたい。どうやら、今あなたのことが好きになってしまったみたいなんだけど」
「えっ!」
ま、マジか?!
速水先輩は三年生で、すごく大人っぽくて美人だ。
そんな人に告白されたらこっちもドキドキしてしまう。
すると、次は島村さんが顔を赤くしながら言う。
「わ、私も、同じで、美城くんの顔を見ると心臓がバクバクして、す、好きになっちゃったみたいです……」
はっ?!
島村さんは一年の頃も今もクラスメートで、誰とでも仲良くなれて笑顔が魅力的な素敵な女の子だ。
そんな女の子に好きなんて言われたら誰だってドキドキしてしまう。
「あなたは? あなたも彼のことが好きになったんじゃない? 私たちと同じで」
速水先輩が前川に聞く。
前川は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに、言葉には出さずに頷く。
ええっ?
前川は後輩で、アイドルに真面目でかわいい女の子だと思う。
その前川が俺のことを好きに?!
いや、3人の女の子から同時に告白されて。
どうするんだ?
今までの人生で女の子に告白されたことなんて一度もないのに同時に3人とか?!
気持ちが動転する。
島村さんと前川は顔を真赤にして恥ずかしそうにうつむいている。
唯一わりと平気そうな速水先輩が俺に話しかけてくる。
「さて、どうやら私たちなんだか困った事態に巻き込まれてしまったみたいね。あなたはどうしてくれるのかしら? 色男くん?」
「え、えっと、すみません。俺もなんだかよくわからないですけど、あなたたちが困らないように、解決策を探してみます!」
「そう、ありがと、お願いするわね」
そんな会話を彼女たちとして、ちょっと時間をおいてお互いこの事態を正確に把握するための努力をしてから、また連絡を取ることを約束してその場は別れた。