俺は三人の女の子と頻繁にセックスする仲になったが、もちろん問題がないわけではない。
ピンポーン。
ある休日、ドアのチャイムが鳴る。
玄関に向かってドアを開けると、
「美城くん、おはようございます!」
そこにいたのは現役アイドルで俺の彼女である島村卯月。
彼女のトレードマークである、見るものを幸せにする満面のスマイル。
「おはよう、入って」
「お邪魔しまーす」
卯月が俺の部屋の中に入ってくる。
手にはトートバッグを下げている。
彼女は手を洗った後、キッチンに立つ。
「じゃあ、お料理にとりかからせてもらいますね!」
「ああ、頼むよ」
昨日、彼女に昼食を作ってもらうことを約束したのだ。
要するにおうちデートである。
「フンフフフーン♪」
持参した白とピンクのエプロンをつけて楽しそうに料理をする彼女。
それを後ろから見ていると、なんだか夫婦みたいな感じで、くすぐったい心地よさがある。
結婚とか現実的に考えたことなかったけど、卯月と結婚したら、毎日こんなかわいくて性格のいい女の子と一緒にいられるんだよな。そんなの幸せに決まってる。
「はい、どうぞ召し上がれ♪」
「美味しそうだな……いただきます」
調理が終わると、卯月が俺のために作ったオムライスを出してくれる。綺麗に焼けた卵の上にケチャップで猫が描いてある。脇に野菜を添えて栄養にも気を使ってくれている。卵を割くと、温かいチキンライスが出てくる。
卯月は俺が食べるのをじっと見守っている。
スプーンですくって口に運ぶと、ふわふわな卵とチキンライスの味が絡まって美味しい。
「うん、美味いよ」
「ほんとですか、よかったぁ……♡ 友達の響子ちゃんに美味しいオムライスの作り方を教わったんです!」
卯月の表情がパッとほころぶ。
卯月と同じユニットで、プライベートでも仲がいい五十嵐響子は家庭的なアイドルとして知られているから、彼女に頼ったんだろう。俺に美味しい料理を食べてもらいたいために卯月が努力してくれたかと思うと胸がジーンとする。
卯月と一緒にオムライスを食べる。
「こういうの、なんかいいな」
「私も、好きな人のためにご飯を作って一緒に食べていると、すごく幸せな気持ちになります♡」
「ごちそうさまでした!」
食べ終わると、食器やキッチンの後片付けをする。
食後、卯月と二人で部屋の中、ゆるい時間を過ごす。
学校の勉強の話とか、友達の話とか、アイドルの話とか。
卯月と恋人として一緒にいるのも慣れてきて、信頼してリラックスできるようになってきた。
とても幸せな時間だ。
そんな中で気がついたら二人の身体が接近していて、ハッと目が合うと、卯月の視線は期待の色を湛えている。
彼女は眼をつぶって顔をかるく上向ける。
俺は彼女に顔を近づけ、唇を重ね―――
ピンポーン。
「「!?」」
その時チャイムが鳴って、反射的に俺たちはガバっと距離を取ってしまう。
慌てながら玄関に向かってドアを開けると、目の前に現れたのは奏先輩だった。
「気が向いたから来ちゃった。入っていいかしら?」
「え、ええ、もちろん、どうぞ」
先輩が家に来るなんて思ってなかったけど、彼女が家に来たのを追い返すなんてことは俺にはできないので、奏先輩を部屋に迎え入れる。
すると、当然ながら、卯月とお互いに気づく。
「あら、島村さん」
「は、速水先輩……」
奏先輩は平然とした様子で椅子に座る。
卯月のほうは明らかに動揺している。
「私……お邪魔だったかしら。来ちゃ不味かった?」
「い、いえ、そんなことは……」
「そう? ならよかったわ」
……。
室内に緊張感が高まる。
俺の彼女二人が同じ空間にいる。
これはいわゆる修羅場というやつか?!
空気がつらい。
いや、俺、勇気を出せ!
二人とも俺の彼女なんだから、俺がこの場をどうにか収めないと!
三人で会うのは彼女たちが俺の奴隷になった時以来だけど、あれから色々あって俺たちの関係も変わっている。
彼女たちと同時に付き合う決心をしたのは俺自身だ。
ちゃんとそのことを話す責任がある。
なあなあのまま三股するなんて男として最低だ。
俺はそんな浮気男になりたくない。
腹をくくって俺は口を開く。
「二人とも、落ち着いて聞いてくれ。魔法の事情は二人とも知ってると思うけど、それで、俺は卯月とも奏先輩とも恋人として付き合うことにした。不誠実な男って思うかもしれないけど、二人とも好きなんだ。許してくれ!」
勢いよく床に手をついて頭を下げる。
二人の視線が俺に注がれる。
「ええ、事情があるのはわかってるわ。あなたが私以外の二人とも関係を持つのはしょうがないし、恋愛感情を持つのも、止められないでしょうね。私とは恋愛しておいて、同じ立場の他の子とは恋愛するななんて言ったらおかしいもの」
「奏先輩……」
二股宣言しても怒られなくてホッとする。
先輩が理性的な人でよかった。
「あと、前川さんとはどうなの? 彼女もあなたの恋人になった?」
「前川とは、恋人にはなってないです」
「そうなの? でもセックスはするんでしょう?」
「……はい」
「じゃあセックスフレンド?」
セックスフレンド?
そんな響きが俺の人生に関係するとは思っても見なかった。
それは違うと直感的には思う。
でも、前川との関係をうまく表現する言葉も思い当たらない。
「ちょっと違いますけど、うまく説明できないんで、そんな感じかもしれないです……」
「そう」
奏先輩は頷く。
「わ、私は……美城くんのことが大好きだから、美城くんが何をしても、他の女の子と付き合っていても、美城くんについていきます……。美城くんが私をそばにおいてくれれば、それでいいんです……」
卯月は少し苦しそうな表情で言葉を絞り出す。
「そ、そうか、奏先輩も卯月も、許してくれるのか……」
危機的な状況から救われてホッとした、と思った矢先。
「あなた、勘違いしてない? 恋人に他の女がいて、愉快なわけないでしょ?」
「え?」
「他の女を作るのを駄目とは言えないけど、当然不満には思うわよ。島村さんだって口で何と言っても嫌には違いないわ。許すからって全肯定ってわけじゃない」
「うっ……」
それはそうか。
確かに島村さんも悲しそうな顔をしている。
でも、
「じゃ、じゃあ俺はどうすればいいんですか?」
二人の、正確には前川を含めた三人の誰も見捨てることはできないから、三股は避けられない。
「はぁ……あなたはそれを女に言わせるのね……」
奏先輩が呆れたようにため息をつく。
「浮気ってマイナスポイントがあるなら、それを上回るプラスを提供すること。つまり彼氏として私たちを普通以上に満足させてみなさい」
「は、はぁ……」
「気の抜けた返事ね。できないの?」
「い、いえっ! やります! やってみせます!」
俺は先輩に向かって啖呵を切る。
そうだ、どうにかして、彼氏としてできる限り彼女たちに尽くして幸せにしてみせる。
「そう、なら期待してるわよ、彼氏さん」
先輩は俺の答えに満足したようだ。
すると、今度は卯月のほうを向く。
「島村さん」
「はっ、はいっ」
卯月はビクっと震え、奏先輩を警戒するように身体を遠ざける。
「私とあなたは同じ男の子の女だけれど、彼のことは譲らないわよ。彼を女として愛しているから」
「わ、私だって美城くんのことが大好きだから、速水先輩にも譲りません!」
卯月はちょっと泣きそうな顔で、奏先輩は挑戦的な視線を投げかけている。
「私たちはライバルね。完全に彼を独占はできないけど、どちらがより彼に愛されるか、彼の愛を奪い合う勝負をしましょう」
「ま、負けません! 美城くんに愛されるために島村卯月、がんばります!」
な、なんだか俺をおいて二人がすごいことになっている。
「私は美城くんのためならどんなことでもできます! 自分を全部彼のために捧げられます! どんなエッチなことでもやってみせます! 速水先輩にはできますか?」
「島村さん、女ってそういうものじゃないのよ。男に対して自分を安売りすると、つまらない女だと思われて飽きられてしまう。私は男が完全には理解できないようなミステリアスな女が理想だと思う。男が捕まえたと思ったらすり抜けていくような、男の手から逃げ続けるような女は決して飽きられない」
「で、でも、私は、偉そうな女の子だって男の人に嫌がられると思います! 駆け引きとかなくて、男の人に全部さらけ出して、できる限りの誠意で尽くすような女の子のほうが魅力的だと私は思います!」
美少女アイドル二人が俺を巡って争っている、と聞くととてつもなく贅沢なシチュエーションのようだが、実際にはすごく焦ってしまって嬉しがる余裕なんてない。
二人には仲良くしてほしい。いや二人は俺を取り合って利害が対立しているのだから俺がそう言うのもおかしいけど。
言い争っていた二人が俺のほうを向いて迫ってくる。
「ね、あなたは私のほうが好きよね?」
「美城くんは私のほうが好きなんですよね?」
「「キュートな女の子とクールな女の子の、どっちが好きなの?」」
「そ、それは……」
二人に顔を近づけられてたじろいでしまう。
「い、いや、俺は卯月も奏先輩も魅力的だと思うよ……」
そう答えると、二人ともため息を付いて俺を軽蔑したような眼差しを向ける。
「はぁ……美城くん……その答え方はどうかと思いますよ」
「女の子の問いから逃げるなんて、男らしくないわね」
「い、いや! そう言われても選べないし……」
奏先輩が俺の隣に来て、頬に口づける。
チュッ♡
先輩の蠱惑的な唇を感じる。
「あなたは私のことが大好き。そうでしょう?」
「は、はい……。俺は奏先輩が大好きです……」
先輩は卯月のほうを見て口角を上げる。
それを見て卯月がムっとする。
卯月も逆側から俺の隣に来て、キスをする。
ちゅっ♡
「美城くんは私のことを好きでいてくれてますよね?」
「あ、ああ。卯月のことが大好きだよ」
現役アイドルの美少女二人に左右からキスされる。
卯月と奏先輩が俺を挟んでバチバチと火花を散らす。
奏先輩のほうは楽しげで、卯月のほうは切羽詰って。
「ふふっ、こうやって男を巡って争うのもそれはそれで楽しいかもしれないわね」
「えっ?」
「一人の男に愛されるかってわかりやすい基準で、男に判断を委ねて、女同士で争う。男の気分や好みですべてが変わる不安定な勝負だけど、自分の全部を賭けて勝負できる。女のプライドを賭けたスリルのあるゲーム」
「わ、私は別に楽しくないですよ! 勝負なんてしたくないです。私はプライドなんかどうでもいいけど、美城くんに愛してほしいだけです」
「ええ、だから考えの違うあなたと同じ地平で争えるのが楽しいのよ」
「……よくわかりません」
「ええ、それで結構。でも、私たちが喧嘩したらきっと彼が悲しむから、ライバルだけどある程度は仲良くしましょう? 島村さん」
「う、……は、はい……速水先輩……」
卯月が奏先輩に気圧されている。
「うん、まあ、できるだけ二人には仲良くしてほしい……」
こんな感じで、複数の女の子と付き合うのは大変である。