「あは……あはははは!!!」
なおも狂ったように笑い続ける美穂。普段の小動物のような可愛らしい顔から嫉妬に燃える狂気的な表情をしており、恐怖心が煽られるようだった。
そんな美穂の様子を見て、葵の表情はみるみるうちに青ざめていた。
「お、お兄さん……この人ちょっと怖いんだけど」
「お、落ち着いてくれ美穂。さっき、こいつが言ったのは冗談だから」
「へーそうなんだ……でも二人で女子トイレにいた訳だよね? それってつまりそういうことなんじゃないの?」
「そ、それは……」
答えられない。美穂の言う通り、つまりそういうことだからである。
「まぁいいや。それよりも、今日の放課後、視聴覚室に来てね。待ってるから」
「あ、ああ……」
俺が頷くと、美穂はのそのそとトイレから出て行った。
「ああ、超怖かった……お兄さん、あの人なんかやばくない?」
「お前が変なこと言うからだろ。それよも早くしないと遅刻するぞ。早く行こう」
俺と葵は急ぎ足で学校に向かった。
「お兄さん、あの女とヤッたことあるの?」
学校に向かっている途中で葵はズバリ訊いてきた。
「まぁ、成り行きでな……」
葵の方を見ずに俺は答えた。嘘をついても感の鋭い葵にはバレると考えた俺は正直に伝えることにした。
「そっか……」
葵はそれ以上は何も話さず、無言のまま学校まであるいた。
まさか、こいつなりにショックとか受けていたりするのだろうか。
ぶっちゃけ俺にはこいつの考えがよく分からない。
そもそも他の女性とヤッてショックを受けるのならこの前、椎名麗香に俺とセックス させようとしたのはどうにも解せない。
「それじゃ、お兄さん。また」
「うん、また」
葵は自分の教室へと向かっていった。もう一時間目まで時間がない。
俺は駆け足で教室へと向かった。
教室に入るとすでに他の生徒は教科書やノートを机の上に置き、授業の準備を終えていた。
俺も席に着き、筆記用具などを準備した。
ちなみに一時間目の授業は琴吹千尋先生が担当する世界史である。
俺が席についてからおよそ三分後、『キーンコーンカーンコーン』という始業のベルが教室に鳴り響いた。
するとガラガラガラと扉が開き、教室に琴吹先生が入ってきた。
すると、男子生徒から「おぉ……」という小さい歓声のようなものが耳に届いた。
俺も思わず琴吹先生を見つめてしまった。
タイトスカートを着用しており、スカートからはムチっとした黒タイツを履いた長い脚をのぞかせていた。
上には、身体のラインがはっきりとわかるような白いタートルネックを着用していた。
男子生徒達の大半は琴吹先生の大きく弾力のありそうな胸に着目していた。
俺はあのデカイ乳にパイズリしてもらったんだよな……そう考えるとほんの少し優越感のようななものを感じなくもない。
「それじゃ、今日は第一次世界大戦のところから始めるわね。前回も説明したときはオーストリア皇太子がボスニア共和国の首都サラエボで殺されるサラエボ事件を契機に同盟国と連合国の戦争が始まりました……」
琴吹先生は背を向け、板書しながら授業を始めた。
板書をする際、お尻を軽く突き出していた。男子の視線は琴吹先生のプリッとしたエロい曲線を描き出しているお尻に夢中になっている。
タイトスカート越しからくっきりと下着の形が分かった。
俺もついつい凝視してしまった。男であればまず見るだろう。
「第一次世界大戦の敗戦国となったドイツは多額の賠償金が請求されました……」
琴吹先生が前を向いた。
すると、琴吹先生は俺の方を見つめた。琴吹先生と目が合い、先生はニヤリと訳ありに微笑んだ。
その後は普通に授業が進み一時間目が終了した。
「いやぁ! 今日の琴吹先生の服装やばかったな! ちょーエロかったぜ!」
俺の前の席に座って散るハーフっぽい顔立ちのイケメン男、若林修が話しかけてきた。
「そ、そうだな」
「琴吹先生ってまじ胸でかいよな。何カップあるんだろ?」
修は顎に手を当て、眉をひそめて真剣に考え始めた。
「さぁな……」
修のしょうもない疑問に思わずため息がこぼれた。
「あー! 一回でいいから琴吹先生とヤッてみてぇわ! 慎也もそう思わね?」
「いや、俺は別に」
「かー! お前も頑固だねぇ! そんなんじゃ、童貞のまんまだぞ?」
「余計なお世話だ」
俺は修の言葉に苦笑した。
修の想像に反して俺はすでに童貞ではなくなったのである。勿論、自分からそんなことを話そうとは思わないが。
すると、修は訝しんだ様子で俺のことを見た。
「なぁ、慎也……もしかして、お前童貞捨てたのか?」
修の言葉に驚愕し、思わず冷や汗をかいた。
「は? な、なんだよ急に。なんでそんなこと思うんだ?」
「いや……何となくな。一皮剥けたような感じがするっていうかな。何となく俺、そういうの分かるんだよな」
すげぇ能力だなそれ。そう思いつつも言葉にはしなかった。
「それで、実際どうなんだ慎也? 童貞卒業したのか?」
興味ありげに訊いてくる修。そんな修に対して、
「ご想像にお任せする」
そう切り返した。
「なんだよそれ……まぁ、いいっか。それよりさ、一年B組にいる伊藤花苗ってお前の妹か?」
突然、修が花苗の名前を出してきた。俺は思わず取り乱しそうになった。
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
俺はぐいっと修に顔を近づけた。まさかこいつ……
「そ、そっか……いや、この前文化祭実行委員の集まりがあってな。それで、花苗ちゃんも文化祭実行委員なんだけど、その時見かけてな。話はしなかったけど、慎也が前に妹がいるって言ってたからもしかして花苗ちゃんが慎也の妹じゃないかって思ったんだ。顔立ちも割と似てたしな」
そういえば花苗のやつ、文化祭実行委員会に所属してるって前に言ってたな。
修はその集まりの時に花苗のことを見かけたのか。俺が心配しているようなことは起こってないようでほっとした。
「確かに花苗は俺の妹だけど、そんなに俺と似てるか?」
「そうだな。目元とか割と似てると思うぞ」
修はそういうものの、俺は納得いかなかった。
俺と花苗が似ているーー花苗が聞いたらさぞや嫌な顔するのではないだろうか。
あいつは美人だし、おそらく他の男子生徒からかなりモテるだろう。
対する俺はそんなことは全くないのである。身長が高い以外、大して取り柄がない。まぁ最近は、変態少女にモテてる? のかもしれないが。
ぶっちゃけ、それはそれで悪い気は全くしないが。
「それにしても……お前にあんなに可愛い妹がいたとはなぁ……今度、お前の家に遊びに行った時、紹介してくれよ!」
「それは断る」
俺は修の申し出を即拒否した。いくら数少ない友人とはいえ、花苗と親密になるのを易々と見過ごすわけにはいかないのである。
「ちぇ……なんだよケチ」
本日の授業をひとしきり終えた俺は教科書類を鞄に詰め込んだ。
「それじゃ、慎也。俺行くわ。また明日な」
「ああ。また明日」
慎也はテニスラケットを携え、意気揚々と部活に向かっていった。
何かに打ち込んでいる友人はどうも眩しく見えてしまうな。
俺は立ち上がり、気の乗らない足取りで視聴覚室へと向かった。
朝の美穂の様子を思い出して、俺は一体どんな目に合うのだろうかと心配になった。刺されたらどうしよう。
やがて、俺は視聴覚室の扉の前へと辿り着いた。
俺はゆっくりと扉を開けたーーそこにいるのは椅子に座り、机に肘を置き本を読んでいる美穂だった。
遠くからでも分かるほどのものすごい集中力で本を読んでいた。本のタイトルは『地獄変』というタイトル。
俺は美穂に近づき、話しかけようとした。
しかし、話しかける直前、美穂は俺がいることに気が付いたようで、こちらの方を向いた。
「あ、ごめん。慎也くん、来てたんだ。いつからそこにいたの?」
「今、来たばかりだ」
美穂はパタンと本を閉じるとそれを机の上に置き、立ち上がった。
俺の方をじっと見つめ、彼女の瞳の奥底には何やら強い信念のようなものを感じた。
「慎也くん。今日ここに呼んだのはね、お願いがあったからなの」
「お願い? 一体どんなお願いなんだ?」
「私、これでも一応文芸部の部長をしてるんだけど、最近一人部員が辞めちゃってね。今月中に一人新入部員を入れないと廃部になっちゃうんだ。よかったら慎也くん、入部してくれないかな?」
懇願するように美穂から頼まれた。
突然の部活勧誘に思わず戸惑った。
まさか、二年のこの時期に入部の勧誘を受けるとは思いも寄らなかった。
「えーっと、その……」
「慎也くん。ぶっちゃけ、うちの部活はかなり緩いからそんなに身構えなくてもいいよ。週に三回ほど部室に来て本を読むなり、適当に時間を潰してればいいからさ」
今、聞いた感じだと本当に緩い部活のようである。
俺がかつて所属していたバスケ部と比較にならないほど緩い部活である。
「うーん、でもなぁ……他に部員って何人いるんだ?」
「私を入れて四人。けど、他の部員は実際のところ名前だけ借りてる状態なんだよね」
「そっか。じゃ、俺も名前だけ貸せば済むんじゃないのか?」
「そ、それは困るっていうか……さすがにちゃんと部室に来てるのが私だけだと顧問の琴吹先生に色々言われるんだよね。私以外で唯一部室に来てくれてたのが退部した部員だったんだけどさ……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。顧問って琴吹先生なのか?」
「うん、そうだよ」
キョトンとした様子で答える美穂だった。まさか、文芸部の顧問が琴吹先生だとは俺も想定外であった。
「それがどうかしたの?」
「い、いや、別に……」
そう答えると、美穂は突然、俺の腕に豊満な胸を押し付けてきた。ムニュっとした柔らかい感触が腕から伝わってきた。
さらに、美穂は俺の耳元で甘くこう囁いた。
「お願いだよ、慎也くん……入部してくれたらこんな気持ち良いことたくさんしてあげるから……今朝、トイレであったことあの子よりも慎也君のこと、気持ち良くしてあげるよ……」