異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
とまぁ、そんな感じで俺はこの異世界に召喚されたのだけど、俺はあの時の選択を少し……いや、かなり後悔した。
異世界だと最初は心を躍らせていたが、結局俺自身が関わってしまったらそれは二次元ではなくリアルってことになってしまう。俺はその事実に早々に気づき、そして現代世界同様に心を閉ざすことにした。
俺を勇者だ何だと慕ってくる女の子たちを見ても、結局はリアルなのだと実感してしまい、ハーレムなどを作る気力も失せた。
異世界に行っても、俺は一人なのだと思っていた。一人でこの世界に立ち向かい、あるべき姿に戻さなければならないのだと、半ば諦めてしまった。
もちろん、家族はいない。オタク文化なんていうものもない。つまり、異世界における俺の心のよりどころはなかった。そして、人嫌いの激しい自分にうんざりもした。変わりたいとも思ったが、そんなことはできなかった。
日に日に増えていくのは無意味な力と絶望感、そして心細さだった。誰かを受け入れたくても、自分の根底にある性格がそれを許さない。
そんな時、俺はとある森で一人の少女と出会った。その少女はまるで俺の眼を鏡で映したかのような、絶望色に染まった眼をしていた。俺は何故か、その少女に興味をひかれていた。
彼女もまた同じ思いを抱いていたらしく、俺たちは不器用ながらも少しずつ歩み寄っていった。
彼女の名前はユリシア・フォクサローゼリス。長い金髪と碧い瞳を持ち、頭には狐耳、腰には大きな狐尻尾を生やしていた。どうやら彼女は、とある勢力に自分の同族を殺され、一人で森に逃げ込んだらしい。それから、何も信じられなくなったという。
俺はその時思った。この少女に比べたら、俺はちっぽけな悩みしか抱いていなかったのだと。
そして、自分の自己満足でしかないと思いつつも、彼女を助けたいと思った。何故か、彼女のことを他人と切り捨てられなかったからな。置かれている状況も違うはずなのに。
だから俺は、彼女と時を共にすると決めた。最初はちぐはぐだったけど、ユリシアも少しずつ俺に心を開いてくれた。まさか、俺如きに心を開いてくれるとは思っていなかったので、その時は泣くほど嬉しく思った。
そして、ある時のこと。俺は、俺を異世界に誘ったあの神様に再び出くわした。曰く、ユリシアの同族を滅ぼしたのは世界の反物質的な存在であり、世界の均衡が崩れかけている要因の一つとのことだった。
それを聞いた俺は、その反物質と正面から戦うことを決めた。ユリシアは復讐など望んではいないだろうが、これは俺の自己満足兼この世界に呼ばれた使命だったのでな。
俺がその話をすると、ユリシアは笑顔で了承してくれた。それどころか、自分も一緒に戦いたいと言ってきた。流石に止めようとも思ったが、彼女の眼が本気だったことと、元々戦闘センスはあったみたいなので、断ろうにも断り切れず、仕方なく了承した。
幸い、俺には「力を授ける力」なるものがあったので、その力を彼女に施すことができた。それから俺たち二人は、強くなるために旅をし、世界の膿と多くの戦いを繰り返した。すごく長いように感じられたが、ユリシアが傍にいてくれたから乗り越えることができたのだと思う。なんていうセリフは、俺には似合わないな。
そうして今、全ての戦いが終わり、世界のあるべき姿が取り戻された。俺の勇者としての使命が果たされたのだ。
「勇者……いや、リョウよ。其方には感謝してもしきれん」
「そうだな。これほどのことを成し遂げてくれたのだ。何と礼を言えば良いのか」
勇者召喚国の王と魔族の長が、俺に対してそんなことを言ってくるもんだから、思わず首をぶんぶんと横に振ってしまった。
「い、いえいえ、俺は使命を全うしただけですから!! そ、それよりも、貴方方はこれから和平会議があるのでしょう? 俺のことは良いですから、早くそちらに向かわれた方が良いのでは?」
「ハッハッハ、そうだな。そうさせてもらおう」
「では勇者リョウ、この礼はいずれさせてもらおう」
そう言うと、二人の王はこの場を去っていった。礼……か。果たして受け取ることはあるのだろうか? なんてことを考えながら、俺は二人を見送る。
後に残ったのは俺ともう一人。
「リョウ、照れてる」
我が最高のパートナー、ユリシアだ。
「う、うるさいなぁ……。ああいうの慣れてないんだ。ってか、お前だって俺の立場だったら同じようになってるはずだぞ? ユリシア」
「それもそうだね。ねぇ、リョウはこれからどうするの?」
「俺は……」
俺が次の言葉を紡ぐ前に、俺たち二人の目の前に例の神様が現れた。もちろん、俺たちは一瞬にして外界からは切り離された空間に移動させられていた。相変わらず、瞬きの間に景色が全く別のものに切り替わるこの感覚は慣れない。
「涼さん、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな」
「えっ、誰!?」
「あ、すみません。お初にお目にかかります。私はこの世界の均衡を保つ神です。涼さんをこの世界に呼び寄せたのも私です」
「あ、リョウが前に話してた人……?」
「そうだな」
俺に確認の視線を向けてきたユリシアは、俺の返事を聞くと再び神に視線を戻した。そして、神の姿をじっくり確認すると、恨みがまし気な表情で俺を睨んできた。はて? 俺、何かユリシアの気に障ることしてしまったのか?
「神様、すごい美人……」
「うーん、そうか?」
「あ、あの……、その反応はちょっと……」
「おっと、すまんすまん」
「しかも、なんだか話してる時のリョウ、すごく楽しそう」
「そうでもないだろ。神相手に友人感情なんか抱いちゃいねぇっての」
よく分からないユリシアの指摘に、俺は首をかしげながらそう返した。
するとユリシアは、なんか諦めたように嘆息していた。
「あらあら、ほほえましいですね」
「んで、そんな話をしに来たんじゃないんだろ?」
「ええ、そうですね。貴方のこの世界での役目は終わりました。長い間、本当にありがとうございました」
「なんだよ、改まって。礼なんて良いって」
目の前で深々と頭を下げている神に面食らってしまい、俺はそう言って見せた。なんかこう、感謝されるのは慣れないんだよなぁ。元の世界じゃ誰かに面と向かって礼を言われるような経験してこなかったもんな。
「そうはいきませんよ。私の管理する世界を守ってくださったのですから。それでですね、貴方には二つほど選択肢があります」
俺は無言で神の次の言葉を促した。
「一つはこの世界に残ること。そしてもう一つは、元の世界に帰ることです」
「二つの世界を行き来することはできないのか?」
「何分、貴方の世界とこの世界とのアクセスは難しいものでして。あの時の召喚も、本当に苦労したものです」
「へぇ、そうだったのか。となると……、どうしたもんかなぁ」
俺はユリシアに視線を投げながら頭を抱える。この世界自体にはもう用はない。正直、早々に帰って家族とサブカルたちに会いたかった。
しかし、この世界で唯一俺が心を許せた相手、ユリシアがいる。俺は彼女と別れたくなかった。初めて肉親以外でちゃんと心を通わせ合えた子なのだ。そして、何より俺はユリシアのことが好きだった。彼女には気づかれていないだろうし、一方通行な恋心かもしれないけど、俺は彼女とずっと一緒にいたかった。
「そうですか、なるほど……」
何かを悟ったように、神はそう呟いた。
それから一呼吸置くと、再び口を開いた。
「では、こういうのはどうでしょう? 貴方の大事なものを一つだけ、元の世界に持って帰ることができる、という権利です。もちろん、ものではなく人でも構いません。ただし、少々つじつま合わせが難しいので一つだけです」
そんな神からの提案に、俺は目を泳がせる。これは完全に分かってるな、この神。
俺はそれからもう一度ユリシアの方へと視線を投げた。すると、ユリシアもこちらを見ていた。
「そ、それなら、わたしを連れてってよ、リョウ!」
そして、ユリシアは俺が口を開くより先に声を上げた。その内容は、俺の予想していたものとは違った。
正直、ユリシアにとっての故郷はこの世界だ。その世界から離れてしまうことを、ユリシアは望んでいないとばかり思っていた。
「い、良いのか!? だって、もうこの世界には戻ってこれないんだぞ?」
「大丈夫。わたしは、もうこの世界に思い残すことはないよ。むしろ、リョウがいなくなっちゃったら、わたしは次こそ心細さで死んじゃうかもよ?」
「お、大げさな……。で、でも、そっか」
ユリシアにとって、俺の存在がそこまでのものだと思い知らされ、俺は思わず表情を緩ませる。きっと、彼女にとっての俺は家族みたいなものなのだろうが、それでも嬉しかった。
「結論は、出ましたか?」
「ああ。俺はユリシアを連れて元の世界に帰る。ユリシアはそれで良いんだよな?」
「うん、もちろん」
「分かりました。では、これより転移を開始します」
すると、俺たちの足元に魔法陣のようなものが形成される。そして次の瞬間、俺たち二人は光に飲み込まれた。
「霜崎涼さん、本当にありがとうございました。そして、どうかお幸せに」
最後にそんな神の言葉を聞いて……。
思い返せば、なんだかんだ異世界生活も充実していたように思う。まぁ、結局全部ユリシアがいたからなんだけどさ。長い旅路だったけど、自分に課せられた使命はちゃんと果たすこともできた。思い残すことは何もない。
言いようのない達成感が、俺の心の中を満たしていた。