異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
最寄り駅に到着した俺たち二人はそのまま目的の電車に乗り込み、午前中の目的地である秋葉原を目指した。
今日が日曜日であるということもあって、車内はかなり混雑していた。俺の地元の駅から秋葉原まではそれなりに距離があるので最初の内はちょっと混んでるなぁ程度の認識だったのだが、目的地である秋葉原に近づくにつれて乗客数は増加し、最後の方はほぼ満員だった。
幸いなことに俺とユリシアは隅の方に立っていたので、ユリシアが他人に押しつぶされてしまうことは防ぐことができた。というか、是が非でもユリシアを他人に触れさせたくなかったので、ユリシアを壁際に寄せてその姿を隠すように俺が覆い被さる体勢を取っていた。
秋葉原に到着するまでずっと密着状態だったので少し恥ずかしくなってしまったが、ユリシアを他の人間たちから遠ざけることができたのでそんな羞恥心は小さな問題だろう。いや、恥ずかしいってだけでちょっと嬉しかった。
当のユリシアだが、その瞳は輝きに満ちており一目見て喜んでいるのだということが理解できた。降車するまでの間、俺はユリシアからの熱っぽい視線を受け続けていた。
そうして俺たちはようやく下車することができた。案の定、かなりの乗客が一緒に下車しており、俺がいない三年の間にオタク文化がさらに発展していたことを思い知った。
「ふえぇ、人すごかったねぇ」
「だな。まさかここまで混んでるものとは思わなかった」
「というか、電車って便利だね! 向こうの世界にはあんなものなかったから、知識としては理解してても改めてびっくりしちゃったよ」
降車してからのユリシアはそんな調子で楽し気に狐尻尾を振っていた。別に父親を信用していないわけではなかったのだが、こうしてユリシアを連れて外に出てみると、ユリシアの狐耳や狐尻尾は俺以外には一切認識されていないようだった。
だが、そういった奇異の目とはまた異なる視線がユリシアに注目していた。まぁ、ユリシアは誰から見ても超絶美少女だしな。そのうえ、ユリシアは背こそ低いもののスタイルが非常に良い。主に胸とかな。そんなユリシアに視線が集まってしまうのも仕方のないことだろう。彼氏の俺としては優越感を覚えはするが、それでも人の彼女をあまりじろじろ見るなという気持ちの方が強い。
駅構内でこれなのだ。外に出たらもっと多くの視線にさらされてしまうことだろう。デートの行き先をアキバにしたのは間違いだったかなぁ……。
などと少し後悔していると、ユリシアがくいくいと俺の服の裾を引っ張ってきていることに気がついた。
「ねぇねぇ、満員電車って最高だね♪」
「えっ、どうして?」
まさかのユリシアの発言に、俺は首をかしげてしまう。ユリシアならもう少し嫌がるものかと思っていただけに、今のその発言はかなり意外だった。
「だって、公共の場でリョウとくっついていられるんだもん♪ 最高じゃん♪」
「お、おう、そういうことね……」
車内でユリシアの目が輝いていたのはそういうことだったのか。俺って、つくづくユリシアに愛されてるよなぁ。嬉しすぎて叫びたくなってくるわ。多分二人きりなら余裕で叫んでるだろう。
「そ、それにね、わたしを庇ってくれるリョウがすごくカッコ良かったの。思わずドキッとしちゃったよ、えへっ♡」
俺は思わず吐血しかけた。にっこりと微笑むユリシアの表情と言動があまりにも可愛すぎて、俺は一瞬にしてノックアウトしてしまいそうになった。
「あっ、リョウってば顔真っ赤だよ?」
「し、仕方ないだろ、ユリシアが可愛すぎるのが悪い」
「はぅ……」
俺が仕返しにそう呟いてやると、ユリシアも見る見るうちに顔を赤らめる。人前であるにもかかわらず、俺たちは恋人空間を作り出してしまっていた。
が、すぐに我に返り、俺たちは人目から逃れるようにそそくさと駅から抜け出した。あのまま流れに身を任せていたら、きっと俺たちはイチャつき始めていただろう。危ないところだった。
速足で改札口を抜けてそのまま人の流れに乗り、そして電気街へと繰り出した。当然、道中俺たちは手を繋いだままである。
「本当に人が多いな。ユリシア、人とぶつからないよう気をつけろよ」
「うん、分かった。にしても、何処も彼処もアニメとかゲームの広告でいっぱいだねぇ。あっ、あれ昨日見たよね!」
「ん? ああ、そうだな。ってか、ユリシアももうすっかりオタクの仲間入りだな。俺としては嬉しい限りだけどさ」
俺の手をぎゅっと握りしめ隣を歩くユリシアは、先ほどの赤面などなかったかのようにキラキラと目を輝かせて周囲をきょろきょろと見回しはしゃいでいた。そんなユリシアの姿が見た目相応に幼く見えてしまい、俺は思わず微笑みを浮かべてしまう。
そして当然、ユリシアは街中でも人の目を引く。それも、先ほど駅内にいた時とは比にならない数の視線がユリシアに注がれている。誇らしくはあるが、やはり気になるなぁ。あからさまにいやらしい目線をユリシアに向けてきている奴もかなり多いように感じるし。手出ししたら許さん。
なお、ユリシア自身はそんな視線には気づいていないのか、相変わらず満面の笑みを浮かべながら辺りを見回しては気になったものを指差し楽し気に俺に話しかけてくる。時折気分が高揚しすぎてなのか、俺の手にぎゅうぎゅうと強い力が籠る。この子、鈍いなぁ。いろいろ心配になってくる。
なんて考えていると、ユリシアの右前方から歩いてきていた男が、わざとらしくふらつきユリシアの正面に移動し、そのままユリシア目掛けて直進してきた。その顔を見て何か良からぬことを考えているのだとすぐに理解した俺は、ユリシアの左手を掴んでいた右手に力を籠め、少し強引にユリシアをこちらに引っ張った。
それまで慌ただしく周囲に視線を向けていたユリシアは、突然のことに驚きの声を上げながら足を縺れさせてこちらに倒れ込んできた。だが、流石に間に合わずユリシアの右肩と男の腕が接触してしまった。
「あっ……、ごめんなさい」
それにより、ユリシアがようやく状況を理解したようで、ぺこりと頭を下げてそう一言謝罪の言葉を口にした。何もないと良いなぁと思いつつ、俺はそんなユリシアの手を引いてその場を立ち去ろうとする。
「おいおい、ごめんなさいの一言だけかよ? そりゃないんじゃねぇの?」
やっぱり、そうはいかなかったか……。人ごみの仲であることに構う様子もなく、男が俺たちを呼び止めた。俺は面倒なことになったことに嘆息し、その男の方へと振り返る。ちなみに、振り返りざまにユリシアを俺の後ろに回らせた。奴の狙いがユリシアであることはその目が物語っていたからな。
ユリシアは申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んできていた。ユリシアにも後で少しお説教してやらないとな。まぁ、反省しているようだしちょっと注意するだけだが。
「すみません、うちの連れが余所見をしてしまっていたみたいで。お怪我はありませんか? ……見たところないようですね、良かった。こちらに非があるのは明確ですが、混雑の中一切の接触も無しに歩くのはなかなか難しいかと。なので、どうかここは穏便に……」
俺はなるべく平静を装って相手の男に頭を下げる。内心ではもちろん相手をボロカス言っているけど、それを表情に出せばさらに拗れることは目に見えているからな。ここは大人の対応というやつだ。
俺の後ろではユリシアも一緒に頭を下げていた。多少常識を持ち合わせている人ならばこれで引き下がってくれるだろう。これでも引き下がらない奴は……、どうしようもないな。
さあどっちだ? なんて考えながら頭を上げると、男は右腕を振り上げ今にも俺に殴りかかろうとしていた。あー、ダメな方か……。まぁ、知ってた。どうせこうなるんだろうなぁということくらい。
この男の狙いとしては、偶然を装ってユリシアにぶつかり、こちらの所為にして謝罪ついでにユリシアの身体でも要求しようとしていたのだろう。その流れで彼氏の俺を殴る蹴るなどして始末する魂胆なんだろうなぁというのは最初から察しがついていた。故にこの事態も想定内である。
周囲の人間たちは俺たち……というか殴りかかろうとしている男の様子を見て慌てて止めに入ろうとする。傍観者ばかりかと思っていたが、案外そうでもなかったみたいだな。中にはユリシア目当ての人もいるだろうが、それでもオタクの結束を感じられて、こんな時にもかかわらず少し感動してしまった。
ユリシアも俺が男に殴られそうになっているのを見て止めに入ろうとしていたが、俺はあえてユリシアやその他周囲の人たちを手で制す。そして、その拳を素直に顔面で受け止めた。
拳が俺の顔面に直撃したことに目の前の男はにやりと気色悪い笑みを浮かべた。そのまま俺が吹っ飛び、俺が離れたことで無防備になったユリシアを襲うというビジョンがきっと男の頭の中に流れているのだろう。俺が普通の男なら、恐らくそうなっていたことだろう。
「なっ……」
しかし、結果は男の想定していたものとは全く違っており、男は目の前で絶句し硬直してしまった。そりゃそうだろう。顔面を拳で殴打されたはずの俺が平然とつっ立っていたのだから。
しかも、顔面には傷一つない。ある意味ホラーだよな、これ。でも、それほどまでに男のパンチが弱かったのだから仕方ないだろ。痛くも痒くもないとは、まさにこのことだろう。
周囲を見渡せば、男と同じように絶句しているその他大勢の人たち。流石にちょっとまずかっただろうか? 演技でもして少し痛がるくらいはしておいた方が良かっただろうか? 失敗したな。
「おめぇ非力かよwww」
「ち、違えよッ! お前も殴ってみりゃ分かる」
後ろから仲間と思しき金髪の男が顔を覗かせた。やっぱりいたか、仲間。こういうガラの悪い連中って、総じてグループ作ってるもんなぁ。
なんてことを暢気に考えていると、目の前の男が俺の腕をがっちり拘束し逃げられないようにしてきた。そして、金髪の男が俺に対して拳を振りかぶる。俺はそれをまたも顔面で受け止めた。
うん、相変わらず痛くない。演技するのも面倒だし、このまま突き通してしまおう。そう決心した俺は金髪の男に視線を向ける。
「マ、マジかよ……」
予想通りの反応、ありがとうございます。
その後も左右から何度も殴られ、腹や股間に膝蹴りを入れられたが、どれも大したことなかった。
「な、何なんだコイツ……」
「チッ、ここは無理矢理にでもこの女を……」
「えっと、うちの連れに何か?」
「テメェはすっこんでろッ!! おいッ、そこの女! ただで済むと思うんじゃねぇぞ?」
怒鳴りながらユリシアに近づく男二人。俺はそんな男たちからユリシアを隠すようにして二人の前に身体を割り込ませる。
恐らくユリシアであればこの二人など余裕で捻り潰せるだろうが、コイツらにはユリシアに指一本も触れさせたくなかった。いや、誰にも触れさせないよ? 俺は独占欲が強いんだ。
「ですから、うちの連れに何か?」
「テメェ、ボコボコにされたいのか?」
「えっと、先ほど自分に傷一つつけられなかったあなた方が……、自分をボコボコにするのですか?」
「バカにしてんじゃねぇぞッ!」
「事実でしょう。あの、周りの人たちにも迷惑がかかってしまうので、この辺でそろそろ止めにしませんか? こちらも手を汚したくないですし、そちらにも汚させたくはありません」
声のトーンを少しだけ下げて二人に問う。だが、まだこの程度じゃ相手も怯んではくれないだろう。
「そこの女が俺にぶつかってきたこと、忘れたわけじゃねぇだろうなァ?」
「ええ、忘れていませんよ。ですが、謝罪はしたはずです」
「足りねぇつってんだろうが! さっさとその女を寄こせよ! ぐちゃぐちゃに犯して、痛い目見せてやっからよ! ほら、早くしろッ!」
この人すごいなぁ。街中で堂々と犯罪宣言しやがったよ。周囲の人たちのうち数人がスマホを取り出して証拠映像を撮影し出したり警察に連絡し始めたぞ。んでもって、いつの間にか俺たちを取り囲むような陣形を組んでいらっしゃる。きっと、この男たちが逃げられないように包囲網を形成してくれたのだろう。オタクの連携、恐れ入るわぁ。
「リョウ……、コイツら殺して良い?」
「ダメだ。暴力沙汰にはしたくない」
「むぅ……、仕方ない……」
「それと、後でお説教な?」
「うっ……、はい……、ごめんなさい……」
俺は背後のユリシアと小声でそんな会話を交わし、再び男たちに向き直る。そして、努めて表情を歪めてみせた。少しくらい怖がらせてやっても罰は当たらないだろう。
「何の用でここに来たかは知らないが、これ以上オタクの聖地を汚すようなことしたら……、分かってんだろうな?」
俺は声のトーンをさらに下げ口調も変えて男二人を静かに睨む。勇者生活の中で培った威圧の能力がこんなところで役に立つとはな。あ、能力とは言っても別にステータスに結びついてはいない。自然と身についたものだ。
威圧感たっぷりのオーラを纏った俺がドスを利かせた声を発せば、大抵の人間は竦み上がる。目の前の男たちもその例に漏れることなく、ぶるぶると身を震わせ始めた。よし、こっちの世界でもちゃんと効果ありだな。
ちなみに、目の前の男たちに限らず、周囲を取り囲む人たち全員がガタガタ震えてしまっている。これくらい、俺の威圧は効果絶大なのである。あっ、ユリシアは平然としているがな。
「ば、化け物……!!」
「クソッ……」
「おい、アンタ。さっきうちの
「ひっ……、わ、悪かった! 悪かったから許してくれ!!」
「はぁ、とりあえず大人しくしててください」
俺は一つ溜息を吐くと、威圧オーラをしまい込んだ。そして、警察が到着するまでの間、男たちを逃げられないよう拘束していた。何となく、最後はどちらが悪者なのか分からなくなってしまったが。
そんなわけで、しばらくして警察が到着し、男たちを受け渡すことができた。俺はすっかり忘れてしまっていたのだが、そういえば俺男たちに暴行を加えられていたんだったな。周囲の人たちからの証言がなければ、そのまま男たちを取り逃がしてしまったかもしれない。
警察側も最初は半信半疑だった。なんせ、俺に一切殴られた痕跡がないのだから。だが、流石に証拠映像を突きつけられれば認めざるを得ず、男たちは無事警察に取り押さえられ連行されたのだった。
去り際、警察たちが俺のことを化け物でも見るような目でチラ見してきた。ご、ごめんなさいね、化け物で。
というわけで、到着して早々面倒なハプニングに巻き込まれてしまったが、無事解決した。俺は協力してくださった同志たちに謝罪とお礼をした後、ユリシアを引き連れてその場を離れた。
「リョウ、身体大丈夫? わたしを庇った所為で、アイツらにいっぱい殴られちゃったよね……。ごめんなさい……、わたしの不注意でリョウをあんな危ない目に合わせちゃって……」
「俺なら平気だけど……、ったく、周りに気をつけろって言ったじゃないか」
「はうぅ、ごめんなさい……。ついはしゃいじゃって……」
「気持ちは分かるが、余所見は危ないぞ。今後はもっと注意しような」
それから、俺はユリシアに軽く説教した。先ほどの件はほとんど向こう側に非があったが、それでも余所見をしてしまっていたユリシアにもほんの少し責任はあると思う。
「分かった。……それだけ?」
「それだけだ」
言いたいことを言い終えると、ユリシアは何か物足りなそうな表情でこちらを伺ってきていた。そんなユリシアに俺は一言だけ告げる。
「お、お仕置き……は……?」
「お前の場合、お仕置きしたら喜ぶからしない」
「うぅ……、はい……」
どうせそんなことだろうとは思った。だが、ユリシアにお仕置きしても結局お仕置きにならないことなんてこの数日で嫌というほど学んだのでな。だってユリシア、M気質なんだもん。
「まぁ、俺もユリシアも無事だったんだ。説教は終わり。ほら、デートの続きしようぜ? せっかくアキバ来たのに勿体ないだろ?」
「あ、うん、そうだね♪」
俺がそう声をかけると、それまでしゅんとしていたユリシアの表情に明るさが戻った。俺にしか見えない狐尻尾も元気を取り戻したらしく、上下左右にぶんぶんと揺れ動いている。
「ね、ねぇ、リョウ……。こ、こうしても……良い?」
ユリシアは一度繋いだ手を放し、俺の腕に抱きついてくる。それにより、ユリシアの柔らかな身体の感触が俺の右腕にこれでもかと伝わってくる。まぁ、こんだけスタイル良かったら男たちに狙われても仕方ないわな。もちろん、下心丸出しでユリシアに近づいてくる奴がいれば、勇者オーラ全開でそいつとお話してやるつもりだが。
「これなら、誰もわたしたちのこと邪魔できないでしょ?」
「まぁ、ユリシアの安全を考えればこれが最善だな」
「わたしなら別に平気だけどね……」
「俺が嫌なんだ。ってか、ユリシアは周りの視線には気づいてるのか?」
ふと気になったので聞いてみることにした。すると、ユリシアは思ったよりあっさり肯定してみせた。
「うん、気づいてるよ。なんか嫌な感じ……」
「にしては気にしてるように見えなかったんだけど……」
「まぁ、見てるだけで行動には移さないだろうって思ったから、なるべく気にしないようにはしてた。けど、それでもやっぱりむかむかしちゃってたけどね。リョウは気づかなかった? 時々わたしの手に力が籠ってたこと」
言われてみればそうだったかもしれない。しかし、俺はてっきりユリシアが興奮していた所為だと思っていた。
でも、あれだけあからさまな視線が注がれれば嫌でも気づくよな。なるほど、ユリシアはただ我慢していただけだったのか。
「そりゃそうだよな。ストレス感じただろ? 俺だって良い気分してなかったんだし」
「そっか、そうなんだ。良い気分しないんだ。それってつまり……、わたしにしか興味ないってことだよね? え、えへへ……♡」
俺がそう言うと、ユリシアは何かぼそぼそと呟きだした。その口元はにやついており、俺は何かおかしなことを言ってしまったのかと不安感に駆られてしまう。
でも、自分の彼女をいやらしい目で見られれば、彼氏なら誰だって嫌な気分になるはずだよな? 俺は何一つおかしいことは言っていないはず……だよな?
「えっ、それが普通じゃない? 自分の彼女に変な視線向けてきている奴がいたら、そりゃ誰だって嫌だろ」
「えっ……、わたしに変な視線……?」
だが、俺の言葉にユリシアは首をかしげてしまう。そんなユリシアの様子を見て俺は察した。俺とユリシアとの間で何か決定的な勘違いが生じている。その所為で話が噛み合っていないのだ。
「ユリシア、何の話だと思ってたの?」
「リョウにいろんな女の人からの視線が集まってたって話……」
「俺に視線? 集まってたの?」
「あ、集まってたよっ! すごくたくさん」
き、気づかなかった……。ユリシアに集められる男たちからの視線が気になりすぎて、俺自身に注がれる視線に鈍くなってしまっていた。感じていたとしても、男たちからの羨望の眼差しとか嫉妬の視線だけかと思っていた。
「ユリシアは、男たちからの視線には気づいてた?」
「そ、そっちは分からなかった。というか、リョウに集まる視線がどうしても気になってたから、わたし自身のことは気にしてなかった……」
「お、俺も同じようなもんだ。まさか、お互い自分に向けられてる視線には気づけていなかったとはな。俺たち、二人とも鈍いのかね?」
「どうなんだろ? でも、正直他の男の視線なんてどうでも良いかな。だって、わたしはリョウ一筋だし」
「ははっ、ありがとな。俺もユリシア一筋だよ」
「うん♪ 嬉しい♡」
変な勘違いは挟まったものの、結局最後はイチャつく俺とユリシアだった。お互いに"自分"ではなく"相手"しか見えていなかったことがどうしようもなく嬉しかったのだから仕方ない。
たとえ今俺たちがいるのが街中で大勢の人たちから嫉妬や羨望が少しだけ入り混じった生暖かい視線を向けられていたとしても、俺たちはそんなことはお構いなしにイチャつくのである。それが恋人ってもんだ。