異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
昨日のデート同様、俺たちは手を繋いだまま最寄り駅までの道を並んで歩く。時たまユリシアが手をにぎにぎしてくるのが何とも可愛らしくて癒される。
俺たちとはまた違う制服を着た中学生や高校生、また出勤中のサラリーマンなど、平日のこの時間は俺たちの他にも人の姿がある。だが、俺もユリシアも周りの目は気にしない。何なら、堂々と見せびらかすくらいのつもりだ。
学生たちからは嫉妬や羨望の眼差しを、大人たちからは生暖かかったり冷ややかだったりといった様々な視線を浴びせられていたが、俺にとっては心地良いものでしかなかった。ユリシアも気分が良いのか狐尻尾を大きく振りながら満面の笑みを浮かべていた。
そんなユリシアが愛おしくて、俺は繋いだ手に少し力を籠める。するとユリシアは、ただでさえゆるゆるになってしまっていた頬をさらに弛緩させ、俺の行動に応えるようにぎゅっと力強く手を握り返してくれた。
多分、俺もユリシアに負けないくらい表情筋が緩んでしまっていることだろう。ああ、今すぐにでもユリシアとイチャイチャしたい。学校なんてどうでも良いから、今すぐ家に引き返してユリシアと朝の続きがしたい。まぁ、そんなことはしないけどな。
というわけで俺とユリシアは最寄り駅に到着し、目的の電車に乗って朱鷺舟学院の最寄りの駅を目指す。通学・通勤時間ということもあり、車内は満員というわけではないがそれなりに混雑していた。
なるべくユリシアを他の乗客から遠ざけるように身体で庇いながら、俺はユリシアと他愛もない雑談で盛り上がる。こうしてユリシアと密着状態になっているため、ユリシアの身体の柔らかさが厚手の制服越しでもしっかりと感じられ、朝の行為で満足できていなかったこともあり俺の愚息は制服のズボンの中でムクムクと膨らもうとしていた。
密着状態のユリシアには当然気づかれてしまい、目的地に到着するまでの間ずっと、そのぷにぷにとした小さな手でズボンの上から弄ばれてしまっていた。そんなユリシアだが、車内がほとんど満員状態だったからかかなりご機嫌で、俺の愚息を弄る手の動きも容赦なかった。
それから電車が目的の駅に停車し、俺たちはすぐに降車しようやく密着状態から解放された。ユリシアは非常に残念といった表情を浮かべていたが、俺としては正直ありがたかった。あと数分遅ければ、もしかしたら暴発していたかもしれないからな。
「ったく、電車の中でああいうことするのは止めてくれよ」
「お腹に当たってたから、ついね♡ ちょっとでもえっちな気分になると止められなくなっちゃうんだよねぇ♡ 今度からは気をつけるよ♪」
「本当、よろしく頼むよ。危うくズボンを汚すところだったから」
「あはっ♡ それくらい気持ち良かったんだね♪ ふふっ、わたしのテクニック、思い知ったか♪」
全くもって反省の色を見せようとしないユリシアの脳天に俺は軽く握り拳を落としてやる。これは、帰ったら存分にお仕置きしてやらないとな。
「はうぅっ……、い、痛いよぉ……」
「思い知ったか、じゃないよ、まったく……。反省しないお前には後でお仕置きだな」
「お、お仕置き……♡ そ、そんな、どうしよう♪」
「声を弾ませるんじゃない……。はぁ、とにかく今は学校向かうぞ」
「はぁい♡」
俺は一つ大きな溜息を吐くと、ユリシアの手を引いて駅構内を速足で抜ける。まぁ、いつものことだが、こうして悪態を吐きながらも俺も内心では楽しんでいる。ユリシアとのやり取りにマイナスの感情など絶対に抱かない。というか、抱けない。
「さてと、朱鷺舟は……こっちか。行こう、ユリシア」
「うん♪ リョウと一緒のクラスだと良いなぁ」
「だな。学生数は大して多くもないはずだし、確率的には高いと思うぞ」
「あれ? そこにいるのって、ユリシアちゃんと涼君!?」
突然、そんな声が俺の耳に飛び込んできた。聞き覚えのある声だ。まさかと思い俺は声の聞こえてきた方へ顔を向ける。同じタイミングでユリシアも首を回していた。
「あー、やっぱりそうだ! その制服、二人ももしかして朱鷺舟だったり?」
「サ、サヤ!? って、朱鷺舟の制服……。ってことは同じ高校だったの!?」
俺たちの視線の先にいたのは、昨日のくるみん単独ライブのライブ会場で出会った同い年の少女、陸下さんだった。彼女もこちらを見つめながら驚きの表情を浮かべていたが、すぐに硬直から立ち直りこちらに向かって駆け寄ってくる。
現在彼女が着ているのは、ユリシアが着ているものと全く同じ制服……つまり、朱鷺舟学院の制服だった。隣でユリシアが目を丸くして驚きの声を上げていたが、俺はもはや声すら出なかった。
「ってことはやっぱり二人も朱鷺舟なんだね♪ まさか二人と同じ高校だったなんてね、嬉しいな♪」
「ホント、すごい偶然。わたしも嬉しいよ、サヤ♪」
「あはは、なんか私たち、昨日から偶然が多いね」
「そうかも。って、あれ……? リョウが固まっちゃってる……」
「あっ、ホントだね。おーい、涼君?」
陸下さんに声を掛けられ、俺はようやく我に返った。昨日偶然出会った同年代の女の子がまさか一緒の高校に入学するなんて想像できるか? しかも、日本一の秀才校である朱鷺舟学院に、である。
これはもう、運命的な何かを感じずにはいられないな。もちろん、この場合は俺ではなくユリシアと陸下さんの間に、ではあるが。
「あ、ああ、ごめんごめん。まさか陸下さんが朱鷺舟の狭い門をくぐっていたとは思わなかったから、ついつい驚いちまった」
「あっ、それどういうこと!? 私はちんちくりんなうえに勉強もろくにできないだろとか思ってたの!?」
「そ、そうじゃないって。ごめん、言い方が悪かったな。まさか昨日たまたま出会って仲良くなった相手と、レベルが高いことで有名な朱鷺舟で偶然にも再会するなんて思ってなかったんだよ」
被害妄想激しいなと心の中でツッコみを入れつつ、俺はフォローの言葉をかける。陸下さんが朱鷺舟に入学できるくらい頭が良かったことは少し意外ではあったが、別段驚くことではなかった。
「まぁ、確かにそうだね。私もかなりびっくりしちゃったよ」
「だろ? あと、陸下さんは別にちんちくりんじゃないだろ。ユリシアとほとんど背格好変わらないんだし」
ついでにこちらについてもフォローを入れておくことにした。余計なお世話かもしれないけどな。というかむしろ、ちょっとデリカシーが足りなかったか?
「で、でも、ユリシアちゃんと私じゃおっぱいの大きさが……。くっ……」
しまった……。やはりこのフォローはまずかったな。触れてやらないことが一番の優しさだよな、やっぱり。触らぬ神に何とやら……ですな。
胸の話題に関しては、俺はもう何も言えないです。確かに、ユリシアと陸下さんのサイズ感の差はかなり激しい。同年代で、しかも身長もさほど変わらないはずなのに、ここまでの差が生まれるものなのか。しかしながら、こんなことを口にしたらしばき倒されるのは目に見えている。だから俺は無言を貫こう。
「……」
「涼君、ここでの無言は肯定してるのと同じだよ?」
「えっ、ご、ごめん……」
「ちょっ、謝られたら余計に虚しくなるんですけど!?」
もう俺には何もできなかった。ごめんよ、陸下さん……。俺は心の中でそう謝罪しつつ、止まっていた足を再び動かし始めた。
「成長のタイミングなんて人それぞれ。それに、貧乳には貧乳の良さがある」
「それ、フォローしてるのかなぁ……。まぁ良いけど」
そんなやり取りを交わしながら、ユリシアと陸下さんも俺の後に続く。ユリシアのまるでフォローになっていないフォローを聞きながらも、俺は口を挟むことはしない。自分を棚に上げてユリシアにどうこう言えるような立場ではないからな。異性である分、余計に地雷を踏み抜きそうだ。
そうして、朱鷺舟学院までの通学路を後ろに続く二人の歩幅に合わせてゆっくり歩く。歩幅とか歩くペースはちゃんと女の子に合わせてあげないとダメだぞ? 俺との約束だ。……点数稼ぎとかボソッと言った奴出て来い!
*
「おお、到着! やっぱり校舎綺麗だねぇ」
「だな。創立から結構な年月経つが、頻繁に改装工事とかやってるのかね」
「うーん、どうなんだろうね。でも、それくらいのお金の余裕はありそうだよね」
朱鷺舟学院に到着した俺たちは、校門をくぐったすぐ先に構える校舎に目を奪われてしまう。白塗りの外壁は、太陽の光を反射して輝いていた。本当、歴史を感じさせないくらい綺麗なものだ。
そしてふと俺たちの視界の端に、普段は決して目にすることはないであろう黒塗りの高級車が映る。この朱鷺舟には、上流階級の家々のご子息・ご息女も多く通っている。金持ちのお嬢様・お坊ちゃまは総じて頭の出来も良いらしい。何ともテンプレ臭い。
だが、そういう人間たちが他の高校より多少多いというだけで、決して俺たちのような一般peopleが珍しいというわけでもない。高級感溢れる制服や目の前に聳える立派な校舎からは想像できないくらい学費が安いので、正直勉強さえできれば……という感じで、毎年受験生はかなり多いと聞く。
学費が安い理由は、上流階級のお優しい方々が学院に大金を寄付してくださっているかららしい。金持ちと聞くと嫌なイメージを抱きかねないが、現実は案外そうでもないみたいだ。
今も、何処かの良家のご令嬢と思しき女学生と不意に目があったのだが、決してこちらを見下すようなことはせず朗らかな微笑みを向けてくれていた。俺も失礼にならないように軽く会釈を返す。ああ、なんと平和なことだろうか。
以前までの俺は、朱鷺舟には堅苦しいイメージしか抱いていなかったのだが、あの後いろいろと調べているうちに、思ったより悪くないかもと思えるようになっていた。まぁ、俺が前向きに考えられている何よりの理由は、ユリシアと一緒に高校生活を送れるから、なんだけどな。そこは変わらないのさ。
「あっ、あそこに人だかりができてるね。もしかしたら、私たち一年生のクラスが貼り出されてるのかも」
「それなら、わたしたちも早速見に行こうよ」
「あいよ! いやぁ、クラスはどうなってるかなぁ。二人と同じクラスだと良いなぁ。正直、一人は心細いし」
「わたしもだよ。特にわたしなんて、人と話すの苦手だし」
ユリシアが自嘲気味に笑みを溢す。"嫌い"じゃなくて"苦手"と表現しているところに、人嫌いを克服しようとするユリシアの努力が垣間見えて、俺は思わずにやけ顔になりそうになってしまった。
「私も同じようなものだよ。これまで友達なんてほとんどいなかったから」
「えっ、そうなの? サヤ、明るくて元気だし、人気ありそうなのに」
俺もユリシア同様驚いてしまう。陸下さんは明るくて話しやすく、何というかムードメーカー的なイメージを持っていたのだが、そのイメージは違っていたらしい。
「そんなことないんだよぉ。自分の趣味以外のことになると急に喋れなくなっちゃうんだよねぇ。あっ、友達となら普通に会話できるけどね。けど、趣味しか喋れないから、二人みたいなオタク友達しかいないんだよね」
「そうなんだ。なら、サヤの目標は趣味以外で話せる友達を作ることだね」
ユリシアが隣を歩く陸下さんの肩を掴み、そう宣言した。似たような目標を掲げているユリシアなりの、精いっぱいの勇気づけなのかな。何ともほほえましい。
「が、頑張る。っと、やっぱりクラスが貼り出されてたみたいだね。けど……、人が多くて見れなさそうだね」
二人の会話を聞きながら例の人だかりに足を運ぶと、予想通り新入生のクラス分けが掲示されていた。だが、この混雑の中掲示板を覗き見るのは難しいだろうな。というわけで俺たちは、この混雑がある程度落ち着くまで談笑しながら待つことにした。
「そういえばユリシアちゃん、昨日買ったCDもう聞いた?」
「あっ、まだ聞いてないの。昨日はあの後リョウとのセッ……ちょっと忙しかったんだ。だから、今日帰ったら聞くつもりだよ。サヤはもう聞いたの?」
ユリシアの奴、今何気に口を滑らせそうになっていなかったか?
「うん、聞いたよ。ハイレゾも良いけど、CD音源もやっぱ良いもんだよねぇ。あっ、ちなみに二人はお気に入りの曲とかあるの?」
「うーん、わたしはあれかなぁ。きりもみのエンディングの曲」
「ほほう、エロゲソングですか。あれ良いよねぇ。涼君は?」
「俺か? 俺はやっぱりくらててのオープニングかな。くるみんが歌ってるやつ」
俺は即答する。くらててはストーリーもそうだけど、アニメ主題歌も最高だからな。くらてての第二期放送しないかなぁ。
ちなみに、どうしてユリシアがエロゲーを知っているかというと、俺の部屋に置いてあったエロゲーのパッケージを見つけたユリシアが、唐突に"わたしもやってみたい"と俺に進言してきたからである。
そうして一緒にエロゲーをプレイしていたのだが、その中でユリシアは"桐谷もみじのもみもみアイランド"、通称きりもみというタイトルのゲームが気に入ってしまったらしい。ゲームの内容は、胸を主軸とした主人公とヒロインのSMプレイである。
うん、十中八九SMプレイに引かれたんだろうな。きりもみをプレイしてから、いろいろなシチュエーションでのSMプレイを要求してくるようになったし。
とまぁ、こういう経緯があったわけだ。なお、抜きゲーではあるが主題歌は割と良曲だったりする。ってか、何気に陸下さんも知ってるんだな。結構マイナーな作品なのに。マジでエロゲーに詳しいみたいだ。
「おお、涼君は王道だね! あっ、そろそろ掲示板見れるかも」
「おっ、本当だな。んじゃ、早速確認しようか」
「うん」
俺たちが雑談を交わしている間に掲示板前が少しだけ空いたようだったので、俺たちは揃って掲示板に歩み寄り、各々クラスを確認する。
「何処かなぁ……。っと、見つけた! 私はC組かぁ。あっ、ユリシアちゃんの名前も見つけたよ!」
「え、どれどれ? あっ、ホントだ! やったね、サヤとわたし、同じクラス……だけど……、リョウの名前がないね……」
「みたいだな。おっ、あったあった。俺はB組だな。残念だけど、俺は二人とは別のクラスのようだ」
「ありゃりゃ。まぁでも、クラス違っても何時でも会えるしね」
「そうだな。それに、まだ来年も再来年も残ってるわけだしな。だからユリシア、そんなに落ち込むなって」
俺と同じクラスになれなかったことが相当ショックだったのか、ユリシアが今にも泣きそうな表情を浮かべていた。何とか俺と陸下さんの二人がかりでユリシアを宥め、それから俺たちは掲示板を離れ校舎へと入っていった。
その道中、
「お家に帰ったら、わたしのこといっぱい構ってね……♡」
と、小声でそんなことを言われてしまい、俺は思わずユリシアの頭をわしゃわしゃと撫でてしまった。あんなこと言われちゃ仕方ないと思う。
そうして二人と別れ、俺はこれからの一年間を過ごすことになる1年B組の教室へと足を踏み入れるのだった。