異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「ん? これは……、座席表か?」
教室の扉に手をかけたところで俺は教室前の掲示板に貼りだされていた座席表と思しき貼り紙を見つけた。なるほど、態々教室内で自分の席を探してうろうろしなくて済むよう、事前にここで確認させてくれるというわけか。何とも親切なことで。
「俺の名前……、あった。ふむ、二列目の一番後ろか。悪くないな」
一番後ろとは運が良い。しかも、窓側でなく廊下側というのも嬉しい。これは別に目立つ・目立たないの話ではない。ユリシアがいる教室までの距離が短いから喜んでいるのである。距離的には大して変わらないかもしれないが、それでもなるべく近いところにいたいだろ? ……って、相変わらず女々しいな、俺。
などと苦笑を浮かべつつ俺は掲示板を離れ、それからようやく教室の扉を開く。すると、既に中にいた学生たちからの視線が一気に俺に集まる。だがやはり、初対面だからか誰も声は発さない。当然、俺も発さない。
まぁ、何もしないというのもそれはそれで失礼かと思い、俺は小さく会釈だけして、さっき貼り紙で確認した二列目の一番後ろの席に向かう。と、そこにはしっかりと俺の名前があった。
俺は手に持っていた鞄を机の脇にかけ、それから静かに着席した。教室内があまりに静寂に満ちていたので、僅かな物音すら立ててしまうのが躊躇われたのだ。
まぁ、こうなるのも仕方ないわな。初対面の相手に話しかける勇気なんて、普通は持ち合わせちゃいないだろうし。いや、それともただ単に緊張しているだけか? どちらにせよ、この場が静まり返っている理由としては何らおかしいことはないだろう。
時折チラチラとこちらに幾つかの視線が飛んでくるが、新しいクラスメイトが気になるのもまた仕方のないことだと思うし、俺は特に気にすることもなく鞄からスマホを取り出した。
この学校の素晴らしいところは学費が安いと言う点だけではない。学生たちを縛りつける校則が緩く、こうしてスマホを学内に持ち込むことも許されているのだ。きっと神様はこういうところまで考えて俺をこの学校に入学させてくれたのだろう。この間は悪く言ってすまなかった、神様。あなたはマジ最高の神様だ。
なんて、心の中でお手本のような掌返しを見せながら、俺はスマホに無線イヤホンを繋げてテキトーな音楽を流す。最終登校時間も迫っていたので、流石にアニメを見る気にはなれなかった。というか、通信料もかかるしな。
それから少しして教室内の空席も埋まり、担任が入室してきた。グレーのスーツを着こなした二十台と思しき高身長の男性教師だ。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。今日から一年間皆さんの担任を務めさせていただきます、
そう言って俺たち新入生に一礼する担任教員改め藤崎先生。その柔和な微笑みや物腰の柔らかさが何処か大人びた印象を抱かせた。もしかすると、見た目以上の年かもしれないな、この先生。
「さて、次は皆さんに自己紹介を……といきたいところですが、もうすぐ入学式が始まってしまいますので、まずは講堂に向かいましょう。それでは皆さん、廊下に出席番号順に並んでください。あ、出席番号は分かりますよね?」
藤崎先生の問いかけに対して、学生たちは揃って頷いた。俺も既にさっきの貼り紙で確認済みなので、他の学生同様に頷いておく。
「良かったです。では、移動を始めてください」
藤崎先生にそう促されるまま、俺たち学生は各々席から立ち上がり、そのまま教室から廊下に出て言われた通り出席番号順に一列に並ぶ。
ふと背後に視線をやると、俺たちB組と同じようにC組も廊下に一列に並んでいた。残念ながら俺の位置からではユリシアの姿は確認できなかったが、陸下さんの姿は辛うじて見つけることができた。
すると、不意に陸下さんと目が合った。陸下さんはにっこりと笑顔を浮かべ、俺に軽く手を振ってくる。だから俺も小さく手を振り返してやった。
「皆さん、ちゃんと並べましたね? それでは講堂に向かいます」
そんな風に余所見をしていると藤崎先生から声がかかったので、俺はすぐさま視線を前に戻し、進みだした列に遅れないよう前の学生に続いた。
教室から講堂に移動している間も、学生たちはみんなして無言だった。ここまでみんなが静かだと、何だか逆に面白いな。このまま一年間ずっと誰も必要時以外口を開かないんじゃないか、などという馬鹿な考えすら脳裏を過ってしまう。
そうしているうちに俺たちは一度校舎を出て、すぐ向かいにある別の建物の中に入っていった。恐らく、ここが講堂なのだろう。
それから間もなく、先頭を歩く藤崎先生が足を止めた。見ると、B組の列の先にまた別の列が待機していた。A組だろうな。
「しばらくここで待機です」
という藤崎先生の言葉を受ける。当然、クラスメイトは誰一人として微動だにせず、その場に直立状態だ。A組の面々も同じようなものだった。どこのクラスも変わりはないんだな。
しばらくボーっとしていると、少し先に見える扉の向こうから入場の合図がかかった。その合図を受けて、それまで停止していたA組の列が再び動き出した。
「B組も動きますよ」
B組の列の先頭に立つ藤崎先生からそう声をかけられ、それから俺たちB組も前に進み始めた。
講堂内は上級生をはじめ学院関係者や新入生の保護者など、非常に多くの人で溢れ返っていた。入り口から入場してくる新入生たちに絶え間なく祝福の拍手を浴びせてくる。他の人たちは中学の入学式を経験しているだろうから久しぶりとは言ってもたかが三年ぶりでしかないと思うが、俺はそうではないのだ。
中学に入学するほんの一週間前に異世界に勇者として召喚されたわけだから、俺は他の人とは異なり小学校の入学式以来、つまり九年ぶりの入学式なのである。結局何が言いたいのかって? 入学式とか滅茶苦茶懐かしいわぁ、ってことが言いたかっただけさ。
それから新入生が全員着席し、入学式が執り行われた。校長や理事長、現生徒会長、またその他の学院関係者の方々から祝辞をいただき、その後一人の女学生が新入生代表の挨拶を行った。
こういう新入生代表挨拶って学年主席の学生が行うイメージがあったが、実際はそうではなかったようで安心した。イメージ通りだったとしたら、今頃は俺が壇上に上がってやけに堅苦しい挨拶をさせられていただろうからな。
そうして入学式は恙無く終わりを迎えた。なお、入学式中に分かったことなのだが、俺たちはどうやら第108期目の入学性らしかった。108とか、煩悩の数と一緒でなんか縁起悪いな……。
なんて考えながら、行きと同じように一列になって講堂から退場しその足で教室まで戻っていくのだった。
*
「入学式、お疲れ様でした。では早速、皆さん一人一人に自己紹介を行っていただきたいと思います。出席番号順で良いですかね? それでは秋山君、自己紹介をお願いできますか?」
「あ、あはは、はい」
学生たちからの同意を得た藤崎先生は、早速一番右前の席に座る男子学生に声をかけた。出席番号って便利だけど、1番の人が毎度の如く最初に当てられてしまうから、ちょっと哀れに思えてくるんだよな。
先生に促されて席から立ち上がった出席番号1番の秋山君は、やっぱりねといった感じの表情を浮かべていた。きっとこれまでにも経験があるのだろう。"あ"から始まる苗字を持つ人の宿命だよな。
そんな感じでクラスメイトが一人、また一人と自己紹介を済ませていく。変わると決めた以上、興味がないからとクラスメイトの名前を覚えることを放棄するわけにもいかないので、俺は必死にクラスメイトの名前を頭に叩き込む。まぁ、そんなことしなくても一度聞けば基本的に人の名前なんてすぐに覚えられるのだが。
程なくして、俺の番が回ってきた。俺はさっと席から立ち上がりクラスメイト達に向き直る。普通の自己紹介を心がけようとしたのだが、多くの視線にさらされたことによって過去の光景が脳裏に蘇ってしまう。
「霜崎涼です。どうぞよろしく」
そして、俺の決意はあっけなく打ち砕かれ、以前までの俺と寸分変わらない冷徹な声を出してしまった。きっと目つきもかなり酷いことになっていることだろう。はぁ、やってしまったなぁ。やはりまだダメか……。
見ると、俺に視線を注いできていたクラスメイト達は皆一様に怯えた表情になってしまっていた。こんなところで勇者の威圧は必要ないのに、過去のトラウマが邪魔してきた所為でクラスメイト達を怖がらせてしまった。入学初日から印象最悪だ……。
「え、えっと、緊張してますか? 霜崎君」
すると、若干引きつった表情を浮かべてはいたが、藤崎先生が俺にフォローの言葉をかけてくれた。別に緊張しているわけではなかったが、せっかくフォローを入れてくれたんだし、ここはありがたくその言葉に乗っかっておこう。
「ええ、少し。すみません、緊張すると目つきが悪くなってしまうんです」
「それなら良かったです。そうだ霜崎君、一つ聞いても良いですか?」
「はい、何でしょう?」
ほっと安堵の息を吐いた藤崎先生は、続けて俺にそんなことを言ってきた。何だろうと思いつつ、俺は藤崎先生の次の言葉を待った。
「君って確か、今年の入試主席……でしたよね?」
あー、なるほど。聞きたいこととはそのことだったのね。確かに学年主席ではあるが、実際の俺の実力ではないんだよなぁ。だから俺は一瞬頷いて良いものか迷ってしまう。
だが、俺の裏事情がどうであれそれは事実には変わりなかったので、俺はその言葉に肯定した。
「ええ、そうです。ですが、たまたまだと思いますよ、あれは」
「いえいえ、入試で満点を取った学生なんて前代未聞ですよ」
「……え? 満点……?」
俺は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。ちょっと待て、確かに主席という情報はあったが、入試が満点だったとは聞いてないぞ?
俺は慌てて記憶を探る。確認漏れか? それとも、神様のミスか?たとえ有能な神様であっても、ミスの一つや二つあるもんだろう。仕方ないと言えば仕方ないのかもな。
「あっ……」
ごめん、神様。完全に俺の確認ミスだったわ。俺は心の中で神様に謝罪しつつ、一つ咳払いをして先生に向き直った。
「そ、そうでしたね。運が良かっただけだとは思いますが……」
俺が藤崎先生の言葉に頷くと同時に、それまで静まり返っていたクラス内が急にざわつき始めた。まぁ、誰だって驚くわな、満点とか。現に、俺だって驚いているところだし。
というか、これまずくない? 俺今、周りからの期待値がぐんぐん上昇してるよな? うわぁ、テストで下手な点数撮れないじゃんか……。入試主席については、いずれ誰かしらから聞かれるだろうとは思っていたけど、入試満点という情報はできれば伏せたままでいてほしかったなぁ。
「ほ、本当なのですか!? あの難問揃いの試験問題を全問正解ですか!?」
「間違いないですよ。この目で確認しましたから」
「す、すごいですわ! なんて優秀なお方なのでしょう!」
「ええ、本当ですね。こんな方と共に勉学に励めるなんて、公営の極みです」
あー、どうしましょう……。俺に集められる期待がどんどん膨らんでいく……。俺、みんなが思っているほどすごい人間じゃないよ、と高らかに宣言したいが、動揺して言葉が出てこない。
「質問! 霜崎君は何処の中学に通っていたんですか?」
「えっと、中杉中学です。大した学校じゃないです」
「勉強時間は一日どのくらいですか?」
「2時間程度です」
本当は勉強時間なんてないんだけどね……。
「短っ! それで入試満点って、天才かよ!」
「今度、勉強教えてほしいなぁ!」
収集がつかなくなってきた……。先生、早く止めて! ……なんていう心中の叫びなど、藤崎先生に届くはずもなく、俺はしばらくクラスメイト達からの質問攻めにあっていた。好機の視線がむず痒い。
「あ、あのっ、気になる異性はいらっしゃるんですか?」
その時、俺の耳にそんな質問が飛び込んできた。すると、今まで軽いパニック状態だった俺の心が冷静さを取り戻した。
気になる異性、か。恐らく、こういう質問を投げかけてくるということは、俺のことをそういう対象として見ているのだろう。自意識過剰に思われるかもしれないが、ラノベとかアニメだとこういうのってお決まりみたいなところあるじゃん? いやまぁ、現実はまた別だと言われればそれまでなんだけどさ。
けど、ここは一つ宣言しておくべきだろう。今後そういうことがないとは言いきれないんだしな。ユリシア曰く、俺は外見良し内面良しの理想的な男らしいからな。……って、これはただの彼氏贔屓じゃねぇか? まぁ良いや。
「いますよ、付き合っている彼女が。それも、隣のクラス、C組に」
「あっ、もしかして金髪の子か? 校門前でちらっと見かけた気がする」
「そうです」
「マジかよ、彼女持ちかよ! 羨ましいぜ!」
「そ、そうなんですね……、残念」
「他に質問はないですか? ……なさそうですね。霜崎君、長い時間ありがとうございました。着席していただいて構いません」
「あ、はい」
ようやく質問ラッシュが止み、俺は席に着くことを許された。気づけばクラス内はにぎやかになっており、先ほどまでの静寂がまるで嘘のように思えた。
まぁ、俺がきっかけでクラスメイト達が少しでも打ち解けたなら、今の質問攻めも別に悪いものじゃなかったのかな。
「では、次に参りましょう」
そこからは、時に質問を交えた何とも楽し気……というかちょっと騒がしいくらいの自己紹介タイムになった。俺は……、静かに聞くだけで下。うん、まぁ仕方ない仕方ない。
そうして、入学初日のLHRは明るい雰囲気で幕を閉じた。藤崎先生の解散の合図で、クラス内は先ほど以上の喧騒に包まれた。
そんな中俺はささっと身支度を整えて静かに教室を後にする。本来なら、新たなクラスメイト達ともっと交友を深めるべきなんだろうが、俺にはもっと優先すべきことがあるからな。
去り際、幾つかの視線を背中に感じたが、俺は気にすることなく教室から出るのだった。その他のクラスメイトたちには特に気づかれることなく退室できたと思う。まぁ、気づかれたところで別に後ろめたいことはないんだけどさ。
俺はスマホ片手に廊下を歩く。あ、歩きスマホは見逃してくれよな? 届いていたメッセージの確認をしているだけなんだ。
ちなみに、そのメッセージはユリシアからのものだ。どうやら、校門前で待ってくれているみたいなので、俺は速足で昇降口へと向かい、靴を履き替えて校舎から飛び出した。待たせるのは悪いからな。
「あっ、おーい! 涼君!」
急いで校門まで駆けていくと、向こうも俺の接近に気がついたらしい。陸下さんがぶんぶんと手を振って俺を呼んでいた。その隣では、ユリシアがじっと俺の到着を待ってくれていた。
「ごめんごめん、思った以上にLHRが長引いちゃって」
「リョウっ!!」
「って、おわっと。い、いきなりどうした?」
俺が二人のもとに辿り着くや否や、ユリシアが突然俺に飛びついてきた。いきなりのことで危うく背中から倒れそうになってしまったが、何とか踏み止まりユリシアを受け止めることに成功した。
ユリシアはむぎゅっと俺の身体に抱きつき、胸に顔を埋めていた。心無し身体が震えているように感じた。
「寂しかったの……、リョウといられなくて」
「あ、ああ、そういうことかい。こればっかりは仕方ないさ」
「うぅ、リョウは寂しくなかったの?」
「寂しかったよ、もちろん。でも、我慢することも大切だろ?」
「そうだけどぉ……、リョウ成分が足りないの……」
「ったく、これから毎日こんな感じなんだぞ? まぁ、そういう寂しがりなところも可愛いんだけど」
俺は苦笑を浮かべつつ、俺に甘えてくるユリシアの背中を摩ってやる。幸いと言うべきか、周囲には俺たち以外に学生の姿はなかった。流石にこんなところを見られるのは恥ずかしいのでな。
「うへぇ、見せつけてくれるねぇ」
あっ、陸下さんがいることを忘れていた。
「んん? もしかして、私の存在忘れてた?」
「そ、そんなことは……、ないぞ?」
「はいはい、嘘乙。良いもんね、どうせ私はお飾り物のちんちくりんですよーだ!」
「ち、違うの、サヤ! ちょっと取り乱しちゃっただけで……」
そんな風にいじける陸下さんを宥めつつ、俺たちは学院を後にした。なお、陸下さんはちょっぴり煽ててやったらすぐに立ち直った。うん、この子もちょろいわ。
道中の話題は各々のクラスについてだったり、アニメやゲームについてだったりと、三人の中で話題が尽きることはなかった。
ちなみに、ユリシアも陸下さんも自己紹介は上手くいかなかったらしい。二人とも緊張してしまったみたいだ。その反面、俺は藤崎先生のおかげ……というか所為? で、クラス内での株が上がってしまったわけだが。
つまり、三人それぞれいろいろあった、というわけだな。うん、ものすごく便利な言葉だ。非常に簡潔にまとめることができた。
そんな感じで三人でわいわいと会話を交わしているうちに、学院の最寄りの駅に到着した。陸下さんはどうやら俺たちとは路線が違うらしく、そこで別れることとなった。
「サヤ、また明日ね」
「うん、また明日! さてと、目の前でラブラブされて傷ついた心、もみちゃんにでも癒やしてもらおっと♪」
「いや、きりもみは癒やしを求めるゲームとして間違ってないか?」
「はっはっは、SMサイコー! そんじゃあねぇ!」
「お、おう。またな」
というわけで、最後よく分からないテンションになっていた陸下さんと別れ、俺たちは地元の駅を目指した。さてと、帰ったらいろいろとやらなければならないことが多いな。もっとも、その全てがユリシアとの
俺は再燃し始めた情欲をギリギリのところで押しとどめつつ、帰宅後に待ち受けるいろいろなこと……いや、エロエロなことに思いを馳せるのだった。
……ごめん、今のはちょっとくだらなかったかな。陸下さんのことを言えないくらい、俺のテンションもおかしくなってしまっていた。いやうん、朝から溜まってたんだ、仕方ないだろう? などという心の中での言い訳は、誰にも届くことはなかった。