※この作品はR-18です。

異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~   作:室谷 竜司

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奴らの次なる標的はわたしとサヤ!? へぇ、わたしに喧嘩を売るとは……、痛い目見る覚悟はできているんでしょうねぇ?

「あっ、ユリシアちゃん。遅かったね」

 

 自分の教室に入ったわたしは、その足でサヤの席まで向かった。すると、向こうもわたしの存在に気づき、そう声をかけてくれる。

 

「うん、ちょっとね」

 

「もしかして、涼君と何かしてた?」

 

 そんなサヤの言葉にわたしは内心ドキリとしてしまう。けど、ここで怪しい反応を示したらきっとさっきのリョウとの情事がサヤにバレてしまう。だから、わたしは努めて平常心を保ち、先ほどのことを誤魔化す。

 

「まぁ、リョウとちょっとお話してただけ」

 

「そっか。相変わらず二人は仲良いなぁ」

 

 どうやら誤魔化せたみたいだ。まぁ、わたしは自分の感情を隠すことは得意だし、そう簡単に内心で考えていることを勘づかれはしないだろう。ポーカーフェイスもお手の物だしね。

 

「というかユリシアちゃん、涼君にすごくべったりだよね」

 

「わたし、リョウ依存症だから仕方ない」

 

「お、おおぅ、言いきったね。なんか清々しい」

 

 わたしがリョウにべったりなのは自分が一番理解している。そして、もはやそれを悪いとも思わなくなっていた。リョウはわたしを受け入れてくれているし、何ならリョウだってわたしに依存している節がある。要するにお互い様なのだ。だから、何も遠慮することなんてない。

 

 わたしの中のコンプレックスがまだ時々邪魔をしてくるけど、それでもリョウがちゃんとわたしを見てくれているということは理解しているつもりだ。お互いがお互いを思い合えていると信じている。だからこそ、わたしはリョウへの依存心をこうして包み隠さずさらけ出せているのだ。

 

 リョウに引け目を感じていた以前までとは違う。リョウがわたしの全てを受け入れてくれると言うのなら、わたしはそれを信じてひたすらリョウに甘える。今のわたしならそうすることができる。

 

「だって、リョウは優しいしカッコ良いし勉強もできて身体能力だって高い。そして、わたしのことを見てくれる。そんなの、依存しない方がおかしい」

 

「まぁ確かに、涼君ってルックスも良いし話しやすいもんね。おまけに勉強も完璧とか、正直チートだよ。あれでもしユリシアちゃんっていう彼女がいなかったら、今頃いろんな女の子に迫られてただろうね」

 

 自分の彼氏がこうして褒められるのは嬉しい。そして、そんな彼を独り占めできている自分が誇らしい。

 

「早い者勝ち。リョウはもうわたしの彼氏」

 

 わたしは勝ち誇った表情を浮かべ胸を張った。一瞬だけサヤが恨みがまし気にわたしの胸元に視線を向けてきたような気がしたけど、サヤの表情を確認するといつもの人懐っこい笑みを浮かべていたのできっと気のせいだろう。

 

「あはは、その通りだね。でも、もしかしたら諦めきれずに涼君に強引に迫ってくる人が出てくるかもしれないよねぇ。何なら、ユリシアちゃんを蹴落としてやろうとか考える人もいるかもだし」

 

「まぁ、リョウだからしょうがない」

 

 サヤの言葉に、わたしは平然とした表情でそう答える。するとサヤは驚いた表情でわたしの顔を覗き込んできた。

 

「あれ? なんかあっさりしてるね。もっと慌てたり不機嫌になったりするかと思ったんだけど」

 

 何やら失礼なことを言い出すサヤ。わたしは一つ小さな溜息を吐いて、それからサヤの言葉に答える。

 

「はぁ……、わたしのことを何だと思ってるの? リョウがいろんな女に迫られることなんて想定済みだし。そんなことでうろたえたりはしないよ、わたしは」

 

 わたしは得意気にそう言い放った。リョウが最高の男だということは紛れもない真実だ。贔屓でも何でもなく。だから、他の女たちがリョウに目を奪われるのも仕方のないことだとわたしは思っている。そんな当然のことにいちいち慌てるような真似はしない。

 

「私との初対面で、"リョウはあげないからっ"って私に噛みついてきたのは何処の誰だったかなぁ」

 

「……ご、ごめんなさい、あの時はまだまだ未熟だっただけなの……」

 

「あはは、そかそか。でも、今は違うんだね。なんか、ユリシアちゃんから余裕を感じるよ」

 

「うん、わたしはリョウを信じてるから。たとえ誰に迫られても、リョウはそれを全部跳ね除けてわたしのところに戻ってきてくれるってね。リョウの中での一番は今もこれからもずっとわたしだから」

 

 わたしは力強くそう言いきった。リョウはわたし以外には見向きもしない。それが分かっているから余裕でいられる。

 

「なるほどね。確かに、二人の様子を見てると、関係を引き裂くなんてことできそうにないもんね。しようとも思わないけど」

 

「ふふん、わたしとリョウはベストパートナーだもん♪」

 

「あーあ、羨ましいったらありゃしないよ。オタク友達がまさかリア充だとはねぇ……。私にも早く春来ないかなぁ……」

 

 そう言いながらサヤが机に突っ伏してしまう。

 

「サヤはまず、趣味以外のことをちゃんと喋れるようにならないと。せっかく可愛い顔してるんだから。きっと、サヤと話したがってる人いっぱいいると思うよ。さっきからちょいちょい視線感じるし」

 

「それは多分、ユリシアちゃんに対してのものだと思うなぁ」

 

「わたし? うーん、まぁ多少は視線向けられてると思うけど、多分異国の人間だから気になるとかその程度だと思う」

 

 周囲のクラスメイト達にチラリと目線を送りつつ、わたしはそう言った。異物に対する興味は多少なりともあるだろうが、きっとそれ以上に気にされてはいないと思う。

 

「いやいや、ユリシアちゃんは美人だしおっぱいも大きいから、きっと男の子たちには少なからず興味を持たれていると思うよ」

 

「そうなのかなぁ? でも、わたしにはリョウがいるし、恋愛対象として見られても困るんだよね。お友達になるくらいなら良いんだけど」

 

「私もユリシアちゃんみたいに美人でおっぱいも大きければちょっとは男の子たちに人気出るかもしれないのになぁ……」

 

 上半身をべたっと机に持たれさせながらそんなことを呟くサヤ。ここでルックスはステータスの一つに過ぎないとか言ってもあんまり意味はないかも。下手にフォローするのは止めておこう。

 

「まぁ、お互いこれからだよ。少しずつクラスに馴染めるよう頑張ろう」

 

「そだねぇ。うなだれていても仕方ないよねぇ」

 

「っと、そろそろ午後のSHRが始まりそうだね。それじゃあわたし、自分の席に戻るね。また後で」

 

「うん」

 

 それだけ言い残し、わたしはサヤの席から自分の席へと戻る。道中、幾つかの視線を感じたけど、誰かに話しかけられるということはない。何か気になることがあるなら話しかけてくれれば良いのになぁ。

 

 自分から話しかけに行く?うーん、それはまだちょっとハードルが高いかなぁ。ずっと受け身のままじゃダメだってことはちゃんと分かってるんだけどね。まだ勇気は出ないかな。

 

 そんなことを考えつつ、わたしは自分の席まで到達すると静かに着席した。ちなみにだけど、わたしの席は窓側から数えて二列目の一番後ろである。対してサヤの席は、廊下側から数えて二列目の前の方の席だ。だから、わたしとサヤの間にはかなりの距離がある。ちょっと心細い。

 

 それはサヤも同じなのか、何処となく寂しそうな表情だった。お互い、なかなか難儀な性格だ。クラスに溶け込めるのは何時になるかなぁ……。

 

「はーい、それでは午後のSHR始めますよー」

 

 すると教室前方の扉からうちのクラスの担任教師が入室してきた。わたしは今一度気を引き締めるのだった。

 

    *

 

 そうしてSHRはすんなり終わり、そのままの流れで午後のオリエンテーションに突入した。午後は学内探索ってことになっている。

 

 そして、一年生を案内するのは三年生の先輩方らしい。そこで脳裏に過るのは先ほど屋上で見かけたあの連中だ。もしかしたら、わたしの感じた嫌な予感は当たってしまっているかもしれない。アイツらが三年生だという確証はないけど、それでも警戒するに越したことはないだろう。

 

「では、幾つかのグループに分けますねー」

 

 わたしが内心でそう決意していると、担任が学生たちをグループ分けし始めた。あまり期待はしていなかったが、嬉しいことにわたしとサヤが同じグループだった。これなら、たとえアイツらが案内役だったとしても、サヤを守ることができる。

 

 わたしはあんな奴らに負けるようなザコじゃないからね。最悪の場合は暴力も辞さない気でいる。まぁ、奴らがここに来ないのが一番なんだけど……。

 

 でも、あの口ぶりからするに、奴らは恐らく何処かしらのクラスの案内役を引き受けている。そう考えると、むしろわたしのところに来てほしくもある。他の人たちに被害が及ばないように。

 

「っと、三年生の方々が到着したようですねー。それでは、入ってきていただきましょう。どうぞー」

 

 担任はそう言うと教室の前扉を開いて廊下に待機していた三年生たちを教室内に招き入れた。

 

 ぞろぞろと教室に入ってくる三年生たちにわたしは集中して視線を向け続ける。警戒しすぎ? いやいや、これくらいで良いんだ。

 

「……」

 

 そうしてわたしはその姿を捉えた。やはりアイツらは三年生だったのか。そして、運が良いのか悪いのか、うちのクラスの担当だった。

 

 例の男の視線は忙しなく教室中を動き回る。相も変わらず気色悪い目だ。ここが元の世界だったなら構わず殺しているんだけど、ここじゃそうもいかないからわたしは怒りの感情をぐっと堪える。

 

 取り巻きの女たちは猫を被っているのか、薄っぺらい笑みを顔に貼りつけ新入生たちをぐるりと見渡している。見定められている感じがして、何とも不愉快だ。というか、時々蔑むような瞳が見え隠れしている。他の人たちには気づかれていないかもしれないが、わたしにはバレバレだ。

 

「っ……」

 

「っ……!? へへっ……」

 

 その時、わたしの視線と男の視線が重なった。男は一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には小さくゲスな笑みを浮かべていた。恐らく、わたしは奴に目をつけられたのだろう。

 

 気分は最悪だが、他の人たちから意識を少しでも逸らせるのなら、この苦痛にも耐えてみせよう。何度も言うようだが、わたしはあんなクズに負けるような弱い女じゃない。

 

「三年生の皆さんはグループに分かれていますよね?」

 

「ええ。廊下側から順に一班、二班、三班……という感じに並んでいます」

 

「なるほど、そうでしたか。それでは、一年生の皆さんは各々該当するグループのところに移動してください。メンバーが揃い次第案内を始めていただいてかまいません。なお、案内が終わったら今日はそのまま解散といたします」

 

 担任の言葉を受け、一年生たちがぞろぞろと動き始める。三年生は自分たちが何班なのかを声に出してアピールしている。

 

「ユリシアちゃん、私たち一緒のグループだね♪」

 

「そうだね。嬉しいよ」

 

「私もだよ♪ えっと、確か私たちは四班だったかな?」

 

「うん、合ってると思う。……げっ」

 

 自分たちのグループが何処に集まっているのか探していると、四班と主張する三年生たちの姿が目に入り、わたしは思わずそんな声を漏らしてしまった。

 

 まさか、あの連中がホントにわたしたちのグループの案内役だったとは……。他の人に被害が及ばないのは嬉しいことだけど、素直に喜べない。

 

「ユリシアちゃん? どうかしたの?」

 

「い、いや、何でもない。えっと、サヤ……、わたしから離れちゃ嫌だからね」

 

「う、うん、分かった。ユリシアちゃんってば、寂しがり屋なんだから」

 

「あ、あはは、ごめんね」

 

「謝らなくて良いよ。ほら、それじゃあ先輩たちのところ行こ」

 

「うん。そうだね」

 

 わたしたちは連れ立って連中のもとへと急いだ。男の期待するような視線がわたしに突き刺さって気が滅入る。けど、決してそれを表情には出さない。努めて無表情をキープする。

 

「よろしくお願いします、先輩方」

 

「よ、よろしくお願いしまーす」

 

 奴らに近づき、軽く頭を下げておく。すると、サヤもわたしに続くようにしてぺこりと頭を下げた。

 

「おう、よろしくな。君たちを案内できるなんて嬉しいよ」

 

 気持ち悪い笑みを浮かべてそんな戯言を宣う男。わたしは寒気を感じながらも、それを顔には出さない。ここで変な態度を取れば恐らく取り巻きの女共が騒ぎ出すだろうから。

 

 それから、各々自己紹介を済ませ、わたしたちは教室を後にして早速学内探索を開始する。奴らの名前? そんなもの聞き流したに決まってるじゃん。あんな、見ているだけで不快な気分になるような連中の名前など憶えたくもない。

 

 できれば奴らに自分の名前を教えたくなかったけど、そういうわけにもいかないから渋々名乗ることにした。くそっ、これで男にわたしの名前を憶えられてしまった。何という屈辱だろう。ひたひたと笑みを浮かべる男が非常にウザい。

 

「いやぁ、ユリシアちゃんも紗夜ちゃんも可愛いねぇ」

 

「あ、あはは、どうも……」

 

 廊下を歩きながら、男は時々わたしとサヤにそんなことを言ってくる。先ほどから途轍もない吐き気に襲われているが、何とか我慢だ。

 

 ちなみに、このグループの一年生の中で女子はわたしとサヤだけだ。残りのメンバーはみんな男子である。彼らはかなり居心地が悪そうだ。

 

 まぁ、それも無理はないと思う。だってこの男、女子であるわたしとサヤにしか見向きしないんだもん。救いようのない女好き……。サヤも何となく察したのか、少しだけ表情が引きつっている。

 

 というか、男の視線があまりに無遠慮すぎる。先ほどからずっとわたしたちの身体を舐めるようにジロジロ見てくるのだ。特にわたしの胸に注がれる視線がいやらしくて気持ち悪い。もうヤダ、コイツ……。

 

 なお、取り巻きの女共は今のところノーリアクションだ。男に対して熱い視線を向けたり、それとは対照的な冷ややかな視線をわたしとサヤに向けてきたりしていた。男とは性質が違うが、こっちはこっちで腹が立つ。

 

「二人ってさ、どんな家庭に生まれたんだい?」

 

 唐突にそんな質問を飛ばしてくる男。なるほど、つまりわたしたちが金持ちかそうでないかを聞きたいってことね。

 

「え、えっと、私はごく普通の一般家庭です」

 

「わたしもそうです」

 

 無視はできないのでそれだけ答えてやる。でも、こんな奴相手に態々口を開くのも癪なので、発したのはたった一言だけだ。

 

「へぇ、そうか。実はね、俺ってあの木戸田グループのトップの一人息子なんだぜ。君たちもきっと聞いたことあるだろ」

 

「あ、は、はい。有名企業ですよね」

 

「そうそう。それにな、実はこの学院の理事長でもあるんだよ、うちの親父」

 

「そ、そうなんですね。それはすごい……」

 

 男のどうでも良い自慢話に、サヤは律儀に相槌を打つ。わたしは軽く頷くだけで、決して言葉は発さない。

 

「そんでもって、俺三年の学年主席なんだぜ。しかも、運動だって得意なんだ。いやぁ、優秀すぎて困っちゃうぜ」

 

「へ、へぇ、すごいですね……」

 

「人生がこんなにも上手くいって良いのかって、最近心配になってきちゃってな。はははははっ」

 

 いろいろと出来すぎてしまったからこそ、この男は最低な人間に成り果ててしまった。これだけ優秀な自分なら、何をやっても許されると勘違いしている。何とも哀れなものだ。わたしは心の中で嘲笑する。

 

 その後も男の無駄話を聞かされながら、わたしたちは学内を歩き回る。話に夢中になりすぎてほとんど案内らしきことはしてくれなかったけど。今度、リョウと一緒にもう一度見まわろうかな。

 

 そんなことを考えているうちに、とある教室の前までやってきた。すると、男はぴたりと足を止め、そして唐突に振り返り、それまで蔑ろにされていた同じグループの一年男子たちに向き直った。

 

「案内はここまでだ。お前らは解散して良いぞ」

 

「えっ、で、ですが……」

 

「聞こえなかったか? 解散して良いぞ。あっ、それと……」

 

 そう言うと男はさっと男子たちに近づき、

 

「あと、今日のことを誰かに言いふらしたら……、分かってんだろうなァ?」

 

 ドスの利いた声で男子たちに脅しをかけていた。

 

「「「は、はいっ」」」

 

 男に脅され、強制的に解散させられてしまう男子たち。可哀そうに……。そして、わたしたちは取り巻きの女共に囲まれ、既にその場から逃げ出すのが難しくなってしまっていた。呆れるくらいに統率の取れた連係プレイだった。

 

 まぁ、どうせそんなことだろうとは思っていたから、わたしは驚きもしなかったんだけどね。そして、ここで下手に抵抗しても多分無意味だ。圧倒的な力を振りかざしてしまえば逃げることもできるが、それで今後奴らに面倒な因縁を吹っ掛けられても困る。だから、今は大人しくしていよう。

 

 ここまで想定済みだったので、わたしのスカートのポケットには録画状態のスマホが入っている。上手くいけば暴力沙汰になることなく奴らに痛い目を見せてやれるだろう。

 

「よし、どっか行ったな。んじゃ、俺たちはもう少し話しようぜ。丁度この教室が空いてるみたいだしな」

 

「えっ、で、でも……」

 

 そんな男の誘いに対し、サヤが口ごもる。

 

「分かりました。良いですよ」

 

 けど、今は素直に従っておくべきだ。わたしは男の誘いに首を縦に振った。すると隣からサヤの驚いたような反応が聞こえてくる。

 

「ユ、ユリシアちゃん……!? だ、大丈夫なの……!?」

 

「大丈夫。わたしに任せて」

 

 小声でそんなやり取りを交わし、わたしたちは連中に連れられるようにして空き教室の中に入っていった。

 

    *

 

 教室に入ると、わたしたちはそのまま窓際まで誘われる。扉から遠ざけて逃げ道を失くすっていう作戦か……。何というか、手慣れてるなぁ……。これまでにもいろいろとやらかしてきたんだろうなぁ……。

 

「いやぁ、ごめんね。俺、君たちのこと気に入っちゃってさぁ。だから、もっと仲良くなりたいなって思ってね」

 

「そうですか」

 

 わたしたちを密室に連れ込むことができたからか、男の表情はにやにやとだらしなく弛緩していた。これから何をしようと考えているのかが丸分かりだった。

 

「んで、もっと仲良くなるには、やっぱり触れ合いが大切だと思うんだよね、俺は」

 

「触れ合いですか……」

 

 つまり、物理的な接触を男は求めているということだろう。こんな奴に身体を触られて堪るか……。

 

「もっと反応したらどうなのかしら?」

 

「せっかくレオ様が仲良くなりたいとおっしゃっているのに、無反応とは失礼にも程があると思うのですが」

 

 ここに来て女共が騒ぎ立て始める。あー、耳障りだ……。

 

「そ、その……、仲良くなりたいと言っていただけるのは嬉しいんですが……、触れ合い……というのはよく分からなくて……」

 

「触れ合いってのはな、要するにこういうことだよ」

 

 そう言って男はこちらに近づき、サヤにその汚らしい手を伸ばしてきた。とうとう実行に移してきやがったな……。

 

 サヤは怯えて言葉も出なくなってしまっており、ただただ震えてしまっていた。そんなサヤの様子を見たわたしはついに我慢の限界を迎え、サヤに伸ばされた男の手をパシッと払い落とした。

 

「その汚い手でサヤに触るな」

 

「ユ、ユリシアちゃん……」

 

「あー、もう無理。我慢の限界。さっきからにたにたにたにた気色悪い顔しやがって。それに、わたしたちの身体ジロジロ見る目も気持ち悪いったらありゃしない。全身の肉が腐るかと思った」

 

 そして、今まで貯め込んでいた鬱憤を一気に吐き出す。男も女共もわたしの突然の豹変っぷりにしばらくぽかんと口を半開きにしていたが、一早く正気を取り戻した一人の女がわたしを睨み返してきた。

 

「アナタ、レオに対してその無礼な態度は何!?」

 

「無礼? 礼儀を働く価値もない愚物共が面白いことを言うのね」」

 

「ふ、ふざけないで頂戴っ! アナタ方のような庶民に対して友好的に接しようとしていたレオ様を侮辱するのは止めていただきたいですわっ!」

 

「そうよっ! どうして素直にレオ様の温情を受け取れないのかしら。これだから庶民は……。礼儀知らずにも程があるわ」

 

 徐々に調子を取り戻し始めた女共が一斉にわたしに食って掛かる。有象無象の喚きは、聞いているだけで脳が腐りそうになる。

 

「温情? ただただわたしたちを性欲の捌け口にしようとしていただけでしょう? 仲良くなりたいからとわたしたちを誑かしてそのまま犯したかったんでしょう? それをわたしたちへの優しさみたいに言われても吐き気がするだけ」

 

「まさか、ここまで礼儀を弁えない女がいるなんて……。信じられないわ」

 

 こんな犯罪紛いの行為を行おうとしている男を何食わぬ顔で庇おうとしているお前らの方がよっぽど有り得ない思考回路してるっての……。

 

 なんて感じに心の中で嘆息していると、ようやく硬直から立ち直った男が顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる。リョウの威圧に比べれば全くもって迫力がない。赤ん坊の睨みと大差ない。

 

「言わせておけば好き勝手に言いやがって……。女のくせに調子に乗ってんじゃねぇぞ? テメェらは俺みたいな金持ちの完璧超人に抱かれてただ幸せを感じてれば良いんだよっ! そうすりゃ気持ち良くしてやるからよぉ!」

 

「金で女を釣って、その上仲良くなりたいとかほざいて相手を騙して無理矢理犯す……。金持ちのクソ貴族がやりそうな手口ね」

 

「んだと!? テメェ、そろそろいい加減にしねぇとマジで痛い目見るぞ?」

 

「ひっ……。う、うぅぅ……、怖いよぉ……。りょ涼君……」

 

 男の怒鳴り声にサヤは腰を抜かし、へなへなと力なくその場にへたり込んでしまう。そして、ぽつりとリョウの名前を呟いた。

 

「あァ? 涼君? 誰だ? そいつ」

 

 どうやら男にも聞こえていたらしい。

 

「もしかして、彼氏か? それとも、好きな奴か?」

 

 そして、にやにやしながらそんなことをほざいてくる。ここでリョウの名前を出すのは……。いや、これはむしろチャンスなのではないか? 上手くいけばコイツらを完全に追い詰めることができる。

 

 わたしはにやりと不敵な笑みを浮かべ、それから男に対して口を開いた。

 

「そう、わたしの彼氏よ。あんたよりずっと素敵なね」

 

「へぇ、そいつはこの学院の学生か?」

 

「そうよ。わたしたちと同じ一年生よ」

 

 わたしは素直にリョウの情報を男に伝える。きっとわたしの予想通りの展開になってくれることだろう。わたしは内心ほくそえみながら男の言葉を待つ。

 

「んなら、その彼氏君をここに呼ぼうぜ。そいつの前でテメェらをぐちゃぐちゃに犯してやるよ」

 

 よっし、作戦通りだ。リョウを巻き込んでしまうのは申し訳ないけど、リョウの性格ならむしろこうして巻き込んだ方が安心してくれるはずだ。気を使ってあえて何も言わない方がかえってリョウを不安にさせてしまうだろう。パートナーだからこそ分かる。

 

「ふ、ふざけないでっ! なんでリョウを巻き込まないといけないのよ!」

 

 わたしは演技混じりにそう叫ぶ。すると男はにたにたと汚らしいにやけ顔を浮かべていた。

 

「もしかしたら、彼氏君が君たちを助け出してくれるかもよ?」

 

「くっ……。サヤ……、リョウに連絡を入れて」

 

 わたしは一縷の希望にすがるような表情を浮かべ、サヤにそう懇願する。男の目は騙されてやんのと物語っているようだったが、実際騙されているのはお前らの方だから。

 

「い、良いの……?」

 

「リョウに助けてもらうしかないでしょ……。だから早く!」

 

「わ、分かった」

 

 サヤは自分のスカートのポケットからスマホを取り出し、素早く指で操作してリョウにメッセージを送ってくれた。

 

「お、送りました……」

 

「へへへ。そんじゃ、そいつがここに来るまで俺とお話でもしようじゃねぇか」

 

「くっ……」

 

「おぅ、怖い怖い」

 

 わたしはあくまで反抗的な態度を崩すことなく、目の前の男を睨み続けていた。リョウが到着してからが本番だ。ふふっ、ちょっと楽しみ♪

 

 ……って、コイツらを貶めるのが楽しみだなんて、なんかわたしの方が悪人っぽいなぁ……。いやでも、強姦は立派な犯罪だし、別にわたしは悪いことなんて何もしていないはずだ。わたしの性格が悪いのは認めるけどね。

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