異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
学内探索を一通り終えて教室に戻ってきた俺は、自分のスマホにメッセージの通知が届いていることに気がついた。相手はユリシアかと思ってメッセージアプリの履歴画面を開いたのだが、そこに表示されていたのはユリシアではなく陸下さんの名前だった。
ユリシアでなく陸下さんから連絡があったというところに少々疑問を覚えつつ、俺は陸下さんとのチャット画面を開いた。
するとそこには、陸下さんからの呼び出しメッセージが届いていた。しかも、どういうわけか学内の四階……それも、かなり端の方の教室に呼び出されている……。さっき先輩方に案内してもらった時に一通りの教室番号を確認したから間違いないはずだ。
そして、俺が陸下さんに呼び出されたその教室は、先輩方曰く滅多に人が訪れない教室らしい。そこに呼び出し……ね。
「なるほど、本当に何かが起きたみたいだな。できることなら起こってほしくなかったんだけどなぁ……」
俺はスマホ片手にそんなことを呟いてしまう。俺の頭の中には昼休み時に屋上で見かけた例の連中の姿が思い浮かんでいた。恐らくだが、その連中関連で何かが起きてしまっているのだろう。ここまで嬉しさを感じない予感的中はこれが初めてだ。
だが、呼び出されたからには行かねばならない。ユリシア一人でも問題はないだろうが、万が一のことを考えるとやはり心配になってしまう。恐らくユリシアも、その辺を理解しているからこそこうして陸下さん経由で俺を呼び出してくれたのだろう。流石は我が最愛のパートナーだ。俺のことなら何でも分かっているな。
まぁ、不安感を覚えてしまう理由はもう一つあるのだけど……。ユリシアが怒りに任せて連中をボコボコにしていないと良いのだが……。人殺しは勘弁してください、ユリシアさん。
なんてことを考えつつ、俺はスマホを自分の制服のズボンのポケットにしまい込み、それから教室を後にした。去り際寺田君に声をかけられたが、用事があるとだけ伝えることにした。向かうは四階端の教室だ。
*
というわけで俺は呼び出された教室の前までやってきた。廊下から教室内を伺うと、窓際にユリシアと陸下さんの姿を捉えた。陸下さんは恐怖で表情を強張らせながらその場にへたり込んでしまっていた。
ユリシアは一見怒りの表情を浮かべているようだったが、よく見ると何処となくしてやったりという感じの表情が見え隠れしていた。俺以外には認識できないかもしれないが、ポーカーフェイスが得意と言うのならもう少し隠すべきなのではないだろうか?
そして、案の定というか何というか、ユリシアたちに向かい合うようにして仁王立ちで踏ん反り返る例のクズ野郎と、その後ろに控える取り巻きの女共。なるほどね、ユリシアたちを逃がさないよう扉を塞ぐようにして構えているんだな。凡人にしてはそれなりに良い陣形なのではないだろうか? もっとも、この程度の陣形ならば、俺やユリシアは強引に突破することも何ら難しくないのだけど。
でも、ユリシアは強引な手段には出なかったみたいだな。ちょっと安心した。これなら、何の憂いもなく連中をどん底まで追い詰めることができるだろう。
俺はほっと一息吐くと、それから教室の後ろ扉を軽くノックした。すると、俺の存在に気づいた取り巻き共のうちの一人がひたひたと笑みを浮かべながら扉を開け放つ。すごいな、コイツらは相手を不愉快にさせるプロかよ……。
「どうぞ、お入りください♪」
「あ、どうも」
俺は短くそう言ってから教室に足を踏み入れる。それと同時にテレパシーを発動させてユリシアに念話で話しかける。状況確認は大事だよな。
「(ユリシア、とりあえずこの状況を説明してくれ)」
「(分かった。えっとね……)」
ユリシアから聞いた話によると、5限の学内探索でユリシアたちはこの男たちと一緒のグループだったらしい。案内を受けている間、ユリシアと陸下さんは男から自分の自慢話などを聞かされ、さらにはユリシアたちの身体を無遠慮にジロジロ見てきたようだ。なお、ユリシアたちのグループの一年女子はユリシアと陸下さんだけだったらしく、男は常時ユリシアたちにばかり視線を向け続けていたようだ。ここまで徹底していると逆に感心する。お手本みたいなクソ野郎だな。
そうしてこの教室の前まで連れてこられ、そこでグループの一年男子たちは脅され解散させられてしまったようだ。その後、残されたユリシアと陸下さんはこの教室に連れ込まれ、仲良くなるためには触れ合いが大切と言い出し陸下さんに手を伸ばそうとしてきたらしい。寸前でユリシアが払い落としたようだけど。
そこでユリシアが我慢の限界を迎えて連中に暴言を浴びせ、なんやかんやあって俺の存在が露見し、俺を呼び出し俺の前でユリシアたちを犯そうという話になったようだった。
「(巻き込んでごめんね)」
「(いや、むしろ巻き込んでくれてありがとう。何も言われない方が不安だし)」
「(良かった。リョウならそう言ってくれるって信じてたよ。んでね、わたし今この状況を録音してるの。こういう展開になるんだろうなって予想してたから)」
「(流石はユリシアだな。よくやった)」
俺は念話でユリシアを褒める。証拠音源があるとないとでは連中を追い詰める難易度が全然違うからな。
「(えへへ♡ リョウに褒められちゃった♡)」
ユリシアは場違いなくらいの明るいテンションでそう言ってみせた。こんな状況でも、我が最愛のパートナーは余裕のようです。
「お前がユリシアちゃんの彼氏か?」
「ええ、そうですけど……」
ユリシアのやりたいことも何となく察していたので、俺はひとまず困惑の表情を浮かべながらそう言うことにした。もちろん、これは演技だ。
「へへっ、そうか。そんなら、とりまそこの席に座れや。俺と話でもしようぜ」
「は、はぁ。それは別に構いませんけど……」
俺は言われた通り教室の中央に置かれた椅子に腰かける。するとその瞬間、取り巻き共のうちの二人が両サイドから俺の肩をがっちりと抑え込んできた。全て予想通りだったけど、ここで何でもないような表情を浮かべていたら怪しまれかねないので、俺は努めて困惑顔を保ち続けていた。
「バカな男ね。まんまと騙されちゃって♪」
「非常に滑稽で面白かったですわよ♪」
そう言って俺に蔑んだ笑みを浮かべる両サイドの女共。その背後から別の女が俺に近づき、俺の身体と椅子を縄で縛りつけてきた。ご丁寧に俺の脚も拘束してくる。
俺は驚愕の表情を浮かべて女共を見回す。ひたひた笑みがいちいち癇に障るのであまり見たくないのだが、これも必要なことだ。演技だと割り切るしかない。
「ははははは、マジ滑稽だわ。まさか本当に俺様の言う通り座っちまうんだもんなぁ。笑いが止まんねぇわ」
「なっ、ど、どういうことですか……!?」
「今からテメェの彼女を俺様の女にしてやるから、テメェはそこで見とけや。俺様みたいな完璧超人に抱かれれば、どんな女も堕ちるんだぜ」
内心ドン引きしつつ、俺は驚愕と絶望の表情で男を見つめる。チラリと男の後ろを確認してみると、ユリシアがこっそりスマホを構えていた。証拠映像までバッチリだな。
「(ユリシア、グッジョブ!)」
「(どやぁっ♪)」
俺とユリシアは念話でそんな暢気なやり取りを交わす。だが、当然面には出さず、俺もユリシアも深刻な表情のままだ。
「や、止めてくださいっ! ユ、ユリシアは俺の彼女なんです」
「はっ、知るかよ。俺様の気に入った女はみんな俺様のものなんだよ。テメェは黙って俺様たちのセックスを泣きながら見とけ」
そう言いながら男は俺の無防備な顔面を一発殴打する。全くもって痛くもかゆくもないのだが、俺はうめき声を上げて身体を軽く仰け反らせる。そうでもしないと怪しまれるからな。
というか、なんか最近こうして殴られたり蹴られたりすること多くないか? つい一昨日も、アキバで不良二人にされたばかりだぞ? そういう運命なのかな? まぁ、ダメージはないから良いんだけどさ。
周囲の女共がきゃははははと下品な笑い声を上げる。その笑い声が鼓膜を震わせる度に、不快感が募っていく。ここが異世界ならば……いや、この考えは危険だな。止めておこう。
「さーてと、それじゃあ始めようぜ。気持ち良いことをな」
俺の顔面を殴って満足気な表情を浮かべていた男は、ユリシアと陸下さんの方に振り返りそんなことをほざく。陸下さんはぷるぷると震えながら涙を流してしまっている。いやまぁ、普通の女の子からしたら怖いわな、こんな状況。
ユリシアはそんな陸下さんの様子を見て怒りの視線を男に向けていた。あれは本心からのものだろうな。
ちなみにだが、男が振り返ると同時にユリシアは素早くスマホをスカートのポケットにしまっていた。気づかれたら面倒なことになるのは目に見えてるからな。
「(リョウ、そろそろ)」
「(そうだな。そろそろ動きますかね)」
脳内でユリシアと短くやり取りしてから、俺は軽く一息吐く。そして、椅子に縛りつけられたままの胴体にほんの少しだけ力を加える。
次の瞬間、ブチっという音とともに俺の身体に巻き付いていた縄がバラバラに千切れ、俺は拘束から解放された。この程度の拘束じゃ、元勇者の俺には通用しないな。
「「「「なっ……!?」」」」
背後で取り巻きの女共が驚愕の声を漏らした。普通はそういう反応になるだろうな。本来、あの体勢で拘束から逃れるなんてそう簡単にできるはずがないのだから。常識から逸脱した俺だからできる芸当だ。
俺は悠々と椅子から立ち上がり、そのまま男に歩み寄る。陸下さんもぽかんと口を半開きにして俺を見ていた。俺は安心させるようににこりと微笑んでやる。すると陸下さんは感極まったようにボロボロと先ほど以上の量の涙を流し始めた。
なお、ユリシアは誰の目から見ても明らかなほどほくそ笑んでいた。ユリシア、その顔は止めておいた方が良いと思うなぁ……。まるでこっちが悪役になってしまった気分だよ……。
「何笑ってんだ? あっ、もしかして俺と気持ち良いことをするのが楽しみなんだろ。んだよ、要するにただのツンデレちゃんだったのかよ。ったく、ユリシアちゃんは可愛いなぁ。そんなら、存分に気持ち良くしてやらねぇとな」
何やら盛大な勘違いをしている男。俺は腹を抱えて笑いたくなる気持ちを抑え、無表情で男の背中に近づく。
「レオっ、う、後ろっ!!」
「あァ? んだよ……、は?」
突如取り巻きの女が男に対して大声でそう呼びかけた。男は邪魔をされたことに苛立ちながらこちらを振り返る。すると、訳が分からないというようにそんな素っ頓狂な声を漏らし唖然とした表情を浮かべた。なかなか滑稽な姿だ。
「お、おいっ、どういうことだよっ! さっきちゃんと縛ったはずだろっ!」
「ええ、確かに縛られましたね。ですがあの程度の緩い拘束、少し力を入れればすぐに解けましたよ?」
硬直から立ち直り、何に対してか分からないが怒りの感情を見せる男に向けて、俺は淡々とそう告げながら縄の残骸を指差した。男は俺の指の先に視線を向け、そして再度唖然としてしまった。
「わ、私たちはしっかり縛ったはずですわっ!」
「な、なのにこの男、平然と縄を千切りやがったの……!」
「そ、そんなことが……」
連中は混乱状態に陥ってしまっている。そんな奴らとは対照的に、俺とユリシアは落ち着いた態度を見せている。ようやく素の状態を見せることができたな。
「さてと、先輩。未遂とはいえこんなこと、果たして許されるんでしょうかね? これ、普通に犯罪行為ですよね?」
「はっ。証拠がなければ問題ねぇんだよ。テメェ一人の目撃証言じゃ証拠不十分でこの件は有耶無耶。何の問題もねぇんだよ」
「ふーん、そうですか。ユリシア、よろしく」
「うん、了解だよ♪」
俺がそう呼びかけると、ユリシアは軽く頷きスカートのポケットからスマホを取り出した。そして、慣れた手つきで素早く操作し、先ほどまで録音していた音声を大音量で流し始めた。
何事かと連中は呆然とユリシアの様子を眺めていたが、スマホから先ほどまでの一部始終を記録した音声が流れ始めるや否や顔色を変えた。
「なっ、バ、バカな……」
「わたし、最初からあんたらのこと怪しんでたの。だから、今までずっとこうして録音し続けてたの。あっ、一部映像もついてるよ♪」
「ふ、ふざけんじゃねぇ! そのスマホ寄こせッ! ぶっ壊してやるッ!」
「おっと、そんなことさせるわけがないじゃないですか」
「ぐっ、は、放しやがれッ!」
俺に肩を抑えつけられじたばたと藻掻く男。俺とユリシアはそんな男に対して侮蔑の視線を浴びせている。
男は俺の拘束から逃れようと、踵で何度も俺の脛を蹴りつけてくる。しかし、俺は表情一つ変えない。
「コイツ、びくともしねぇ……」
「それで本気ですか? 赤ん坊の方がまだマシなキックできると思いますよ」
「テ、テメェ……、調子に乗ってんじゃねぇぞ……」
男は俺にそんなことを言ってくる。声にドスを利かせたつもりなのだろうが、全くと言って良いほど迫力がない。
「わ、分かってんだろうなァ? 俺様はこの学院の理事長の息子だぞッ! こんなことして許されると思ってんのか?」
「なるほど、そうやってこれまで何人もの女学生を脅迫して陥れてきたんですね」
「そ、そうだよッ! 俺様はこうやって何度も何度も学院の女たちを犯しまくったんだ。どいつもこいつもビビって俺様に反抗してこなかったしな」
「あなたの方がよほど許されないことをしてるじゃないですか。それとも何ですか? 身分の高い自分なら何をやっても許されるとかお思いで?」
「そうだよ。実家も金持ちで俺様自身何でもできる、まさに完璧超人なんだ。そんな俺様が何をしようと、世界は俺様を許してくれるに決まってるじゃねぇか」
もはや呆れて言葉も出ない。ここまで拗らせた勘違い野郎に、俺もユリシアも陸下さんも、ただただ憐みの視線を向けることしかできなかった。
そういえば、背後の女共が先ほどから静かだな。てっきりいろいろと暴言でも吐いてくるかと思っていたのだが、特にそういうのもない。気になったのでチラリと後ろに視線をやると、女共は何故か男に対して冷ややかな視線を送っていた。これは……、嫌な予感がする……。
まぁ、今は女共のことは気にせず、コイツを断罪しよう。女共に関してはその後考えれば良いさ。
「そうですか。許されるんですね。それなら、実際に理事長に掛け合って確認してみるとしましょうかね。あなたの言い分なら、きっとお許しをいただけるんでしょうね」
俺は冷静な口調で男にそう告げる。すると男は肩をびくりと跳ねさせ、俺の方に向けていたその憎たらしい顔を引き攣らせた。
「ど、どうせそんなことしてももみ消されるに決まってんだろッ! なんせ相手は俺様の親父なんだからよぉッ!」
「あなたがそういうのならそうなのでしょうね。なら、この証拠をあなたの親父さんのもとに持って行っても何の問題もないはずですよね?」
「だ、だからそんなことしても無駄なんだよッ! むしろお前らの立場が悪くなるんだぞ? それで良いのかよ?」
「それ、あなたからすれば万々歳なのでは? あなたにとって不都合なんてないじゃないですか」
俺は嘲笑混じりにそう言い放つ。それから男の肩に置いていた自分の手を退け、ユリシアからスマホを受け取る。
俺はそれを持って教室の出口へ向かおうと足を進める。だが、男は必死の形相で俺の邪魔をしてくる。往生際が悪いな、コイツ……。
「ふざけんなッ、ふざけんなァッ!!」
「はぁ……、まだ自分の立場を分かっていないんですか。勉強できたところでバカはバカなんですね」
「んだとッ!? テメェッ、この俺様にそんな態度取って、ただで済まされると思うんじゃねぇぞッ!」
そう言いながら男は拳を振りかぶり、俺の後頭部目掛けて振り下ろす。だが、俺はその拳を軽く左手で受け止める。
「んなっ……!? ぐっ……、は、放せッ!!」
俺は男の言葉を無視し、そのまま左手に少しずつ力を籠めていく。手加減しないと、コイツの骨が粉々に砕けてしまいかねないから慎重に。
「んぐっ……、い、痛いっ!! 痛いっ!! は、放してくれっ!!」
もう少し我慢の出来る奴かと思ったが、思ったよりもすぐに音を上げた。だから俺は、男を鼻で笑いながら乱暴に教室の床に投げ飛ばす。
「あなたはやり過ぎた。今までたくさんの女学生を絶望させてきたのでしょう。ならば、次はあなたが絶望する番です」
「や、止めてくれっ!! た、頼むっ!!」
「ブタの命乞い……、いいえ、それだとブタさんが可哀そうね。もはや腐りきった何かね、汚らしい……。なんちゃって完璧超人様は何処までも愚か」
ユリシアが酷く冷たい声でそう言い放つ。おおぅ、なかなか口が悪いなぁ……。恐らく、全部俺の影響何だろうなぁ……。そう考えると、乾いた笑師か出てこない。
「どう? 貶められた気持ちは。今まであんたに苦しめられた女の子たちの気持ち、少しは分かったかしら?」
「くっ……、ふざけんな……。せ、せめてテメェだけでも犯す……」
そう言って立ち上がろうとする男に俺は歩み寄り、威圧的な態度で男を見下す。まだバカなことを考えている愚物にはこれくらいしてやらないとな。
「ひっ……」
「ユリシアに指一本でも触れてみろ……。この学院からだけじゃなく、この世からリタイアさせてやる……」
「あっ……、あああっ……、うっ……」
これが本物の威圧ってやつだ。俺のドスを利かせた言葉に、男は堪らず失神してしまった。
そして、陸下さんもびくびくと身体を震わせてしまっている。取り巻きの女共も同じような感じだ。
「はぁ……、何処までもクズ……」
「そうだな」
唯一ユリシアだけは平然としていた。うん、流石は俺の相棒だ。きっと俺の威圧的な雰囲気にも慣れてしまっているのだろう。
「さてと、それじゃあ証拠映像を理事長のところにでも持っていくか」
そう言って今度こそ出口に向かおうとした。しかしながら、俺はまたもや進路を塞がれてしまった。取り巻きの女共に……。
「ま、待ってくださいまし! わ、私たちはあの男に良いように扱き使われていただけなのです」
「そ、そうそう。だから、私たちは悪くないのよ」
うわぁ、まさかの責任逃れですか……。あんだけ男に媚び諂っていた奴らが今更そんな言い訳しても説得力の欠片もない。
「よ、よく見るとアナタ、すごく良い男じゃないの。わ、私、アナタのこと気に入っちゃったわ♪」
「わ、私も! ね、ねぇ、私たちと良いこと、しましょうよ♪」
と思ったら、次は俺に媚びてきやがった……。キモいわぁ……。あと、そんなことしたらうちの相棒が黙っていないだろうなぁ……。そう思い、俺はユリシアに視線を向ける。
「卑しいメスブタ共が気安くリョウに近づくな……」
「「「「ひ、ひぃっ!!!!」」」」
これまで見せたことのないほどの怒りの形相で女共を睨みつけるユリシア。何かしら反応はあるだろうとは思っていたが、まさかここまで怒りを露わにするとは思っていなかったから、流石の俺も少し驚いてしまった。
「はぁ……、アンタらもこの男も同罪だ。大人しく罪を認めろ。それじゃあな」
それだけ言い残し、俺はユリシアと陸下さんを伴ってその教室を後にした。そして向かうは理事長室だ。
*
「まさか、うちの息子がこんなことを……」
理事長室に手、俺たちは先ほどユリシアが録画した証拠映像を理事長に見せていた。理事長は常時悲痛な表情を浮かべながらその映像を見つめていた。
そんな理事長の姿に心が痛んだが、それでもこれは放ったままにして良い問題ではない。だから俺たちは、淡々と事実だけを述べた。
「少し甘やかしすぎたのかもな。とにかく、彼らには然るべき処罰を与える。うちの息子が迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ない」
「いえ、理事長が謝ることではないですよ。それよりも、これまで被害を受けた女学生たちのケアなどを行った方がよろしいかと」
「ああ、そうだな。そちらも先生方と話し合っておこう」
「よろしくお願いします」
というわけで、今回の一件は一応解決した。あとは理事長や先生方に任せておけばどうにかなるだろう。学生程度じゃどうにもできないこともあるしな。
「そういえば、君たちは一年生……だったかな?」
「え、ええ、そうです」
「はい、三人とも一年です」
「そうか。この学院はどうだい?」
理事長は唐突にそんな質問を俺たちに飛ばしてくる。
「とても素敵なところだと思いますよ。自主性を重んじる校風、自分は好きです」
「べ、勉強は大変そうですけど、頑張れば頑張るだけ自分の将来の選択肢が広がりそうで、少しワクワクしてます」
「そうか、そう言ってくれると嬉しいものだな。入学したばかりでまだまだ戸惑うことも多いだろうが、困ったことがあれば何時でも来てくれ。私はできる限り君たちの力になりたい」
そう言ってにこりと微笑む理事長の姿に、俺もユリシアも自然と笑みがこぼれていた。それから少しだけ軽い雑談を交わしてから、俺たちは理事長室を後にした。
そして外に出た瞬間、それまでずっと黙りこくっていた陸下さんがへなへなとその場に座り込んでしまった。どうしたのかと陸下さんの顔を覗き込むと、彼女の瞳から大粒の涙がポロポロと溢れ出していた。
「こ、怖かったよぉ……」
「サヤ、巻き込んじゃってごめんね。サヤだけでもあの場から逃がしてあげたかったんだけど、なかなかそうもいかなくて……」
「う、ううん、ユリシアちゃんが謝ることじゃないよ」
ユリシアは一早く陸下さんに駆け寄り、陸下さんの華奢な身体を優しくそっと抱きしめる。陸下さんはユリシアの胸の中で嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
陸下さんにはかなり怖い思いをさせてしまったな。全面的にアイツらが悪いんだけど。それでも、俺たちがもう少し早めに対処していればこんなことにはならなかったかもと考えると、申し訳ないという感情が湧き出してくる。
「ごめんよ、陸下さん。もっと早くに助けてやれれば良かったんだけど」
「ううん、涼君も気にしないで。それにね、私涼君に助けてもらえて嬉しかったよ。涼君、すごく格好良かったね」
「友人を助けるのは当たり前だろ」
「友人……か。うん、ありがとうね」
一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたような気がしたが、すぐに優しい微笑みを浮かべてくれた。だから、俺も陸下さんに優しく微笑み返す。
「サヤ……、あなた……」
ユリシアが驚いたような声を漏らしていることには気づかなかった。
それから陸下さんが落ち着くのを待って、自分たちの教室に戻っていった。そして帰りの身支度をちゃっちゃと済ませ、俺たちはようやく学院から出ることができたのだった。
まだ入学して二日目だというのに、どうしてここまで忙しいのだか……。これじゃ、なんだか先が思いやられるなぁ……。