異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「ねぇ、そろそろ行こうよ」
しばらくユリシアとメルシアちゃんが言い合いを続けていたが、少しして我に返ったメルシアちゃんが俺たちに対してそう切り出してきた。元々メルシアちゃんの服を買いに行く予定だったのに、俺たちの所為で大分時間が経ってしまっていた。
「おっと、そうだな。そろそろ行かないと陽が暮れちゃうな」
「そ、そうだね。メルシア、改めてごめんね。すぐに準備済ませるから」
「うん、大丈夫。待ってるね」
ユリシアは慌ただしく箪笥から服を引っ張り出し、急いで袖を通していく。なお、着替える前にパンツについたシミは浄化魔法で取り除かれている。
「あっ、すっかり忘れてたけど、お金どうしようか」
服を身につけながらユリシアが思い出したようにそう口にした。そういえばそうだったな。元は持ち金が心もとないということでユリシアの部屋を訪れたはずなのに、いつの間にか二人して発情してしまい、そのことをすっかり忘れてしまっていた。
「そ、そうだった。ユリシアと俺の手持ち金合わせて2万とちょいか……。これはちょっとばかし不安だな」
「デートで調子に乗って使いすぎちゃったね」
俺もユリシアも苦笑いを浮かべてしまう。ユリシアの妹がまさかこの世界にいたなんて想像できなかったと言ってしまえばそこまでなのだが、だとしてもコスプレ衣装にかなり金を費やしてしまったからな。
「さ、最低限の服があれば良いよ」
メルシアちゃんは申し訳なさそうにそう言ってくるが、洋服がないのはなんだかんだ困るだろうから、できることなら何着か買ってあげたい。
「でも、やっぱり何着かあった方が安心じゃない?」
「そ、それはそうだけど……、二人に迷惑はかけられないよ」
「いやいや、迷惑だなんて思っちゃいないさ」
先ほどまでの迫力は何処へやら、メルシアちゃんはかなり遠慮してしまっているようだった。しかし、こちらとしてはメルシアちゃんのために金を使うことに対して抵抗感など一切持ち合わせていないのだ。昨日会ったばかりだけど、メルシアちゃんは俺にとっても妹のような存在だからな。そんな妹みたいな存在のメルシアちゃんに服を買ってあげるくらいなんてことないのである。
「でも、お金がないとどうしようもないよねぇ。せめて向こうの世界にいた時の所持金があれば良いんだけどねぇ」
「まぁな。いや、でも向こうの世界の通貨ってこっちじゃ通用しないんじゃ……」
「そこはほら、つじつま合わせ的なアレで……」
まぁ、俺も少しは考えたけどな。向こうの世界で三年かけて稼いできたお金がこの世界でも通用すればどれほど楽な生活ができるだろうか、と……。
けど、残念ながら向こうの世界で俺たちが所持していたものは全てなくなり、その代わりというように自分たちが身につけていた武具がキーホルダーと成り果ててしまっていた。せっかく苦労して稼いだのになぁ……。神様、意地悪だぜ……。
「あのキーホルダーに何か秘密があって、向こうの世界で所持してたものが取り出せたりしないかなぁ」
「いや、無理だろ……。あれ、ただのキーホルダーだぞ?」
「そうだよねぇ……。えっと、これ……だよね」
着替えを終えたユリシアが、机の上に置きっ放しになっていた剣の形を模した金色のキーホルダーを手に取る。ユリシアが向こうの世界で主に扱っていた武器は剣だ。それも、ロングソードの二剣流である。だから、ユリシアのキーホルダーのデザインは十字に交差した二本の剣がモチーフなのだろう。
「振ったら何か出ないかな?」
そう言うとユリシアは徐に手にしたキーホルダーを上下左右にブンブンと振り回す。だが、幾ら振り回そうとも、キーホルダーは何の反応も示さない。うん、そうだろうよ。
「ぐぬぬ……。じゃ、じゃあ次はこうしてやるっ!」
続いてユリシアは左手に持ったキーホルダーを空いた右手でバシバシと叩き始めた。ユリシアのバカ力でバシバシ叩いたら、キーホルダーが壊れるんじゃないか?
そう思ったのだが、キーホルダーは傷つくこともなくそのままの形状を保ち続けていた。そして当然、何かが起こるわけでもなく……
「う、うぅぅ……。ちょっと手が痛いぃ……」
ユリシアは涙目で自分の右手を摩っていた。これだけ見ると、ユリシアがただのおバカな子にしか見えてこないだろうが、そういうわけではない……と思いたい……。
「やっぱり無理だよ。それはただのキーホルダーなんだよ」
「お、お姉ちゃん、もう諦めた方が……」
「嫌っ! 絶対何かあるもんっ! じゃないと、こうやってキーホルダーにして残す意味が分からないよ」
「いやまぁ、そうかもだけど……」
俺とメルシアちゃんで止めても、ユリシアは頑なにキーホルダーを手放さなかった。撫でたり踏みつけたり胸に埋めるように抱きしめたり、さらにはキーホルダーにキスまでする始末……。いろいろ言いたいことはあるが、キーホルダーが羨ましい……。
「お兄ちゃん、目がえっち」
「す、すんません……」
「お姉ちゃん、もう何やっても無理だよ。ね? 諦めよう?」
「くぅぅぅぅ……!! こうなったら、魔力でどうにか……」
メルシアちゃんに諭されても、ユリシアは頑なな態度を崩さない。ついには魔力を使うという強引な手段に出始めてしまった。
「はぁ……、頑固だなぁ……」
「お姉ちゃん、昔からそうなの」
「そ、そうなんだ……」
俺とメルシアちゃんはそんなやり取りを交わしながら、諦めの悪いユリシアに呆れの視線を向けていた。魔力を纏わせたところで何も起こるはずが……
「「えっ……」」
俺とメルシアちゃんは同時にそんな素っ頓狂な声を漏らしてしまった。でも、仕方がないだろう。だって、ユリシアが魔力を纏わせてキーホルダーに触れた瞬間にそのキーホルダーが光を放ち始めたのだから……。
そして次の瞬間、キーホルダーから幾つもの光の玉がこぼれ出し、それが床に落ちて弾ける。目の前が眩しくて目を開けていられない。
「うぅ……、ま、眩しい……」
「わっ、な、何これ……!?」
隣でメルシアちゃんがうめき声を上げている。ユリシアも突然の出来事に驚きを隠せずにいるようだった。
そうしているうちに、室内に充満した白い光が少しずつ薄らいでいく。そろそろ大丈夫だと判断した俺はゆっくりと目を開いた。
「……そんなバカな……」
そして、第一声はそんな一言だった。
いやでも、仕方ないと思う。だって、俺たちの目の前には、ユリシアが以前向こうの世界で身につけていたもの・所持していたものが散乱していたのだから。
「う、うわあっ!? な、何これぇっ!?」
「す、すごいすごいっ!! 大成功だぁっ!!」
「いや、マジかよ……。本当にできるとは思ってなかった」
「ほらね、諦めなければなんだってできるんだよ」
得意気に胸を張るユリシア。ぽよんと揺れる大きな果実が俺の視界に映り、俺は思わずその部分に視線を向けてしまう。
「お兄ちゃんのえっち」
「す、すんません……」
メルシアちゃんに諫められてしまった。で、でも仕方ないだろう。目の前でおっぱいが揺れたのだ。見てしまうのが男の性というものではなかろうか。
「さてと、お金は……これかな?」
ユリシアは散乱した武器防具の山からお金の入った袋を拾い上げ、その中身を確認する。向こうの世界での所持金を取り出せたとしても、結局こちらの世界で使えなかったら意味がないのである。
「あっ、すごい! こっちの世界の通貨に変わってるよ!」
そう言いながらユリシアは金袋から500円玉を一枚取り出した。確かに、日本の硬貨で間違いはないみたいだな。いや、まさかここまで都合良く事が運ぶとは……。
「本当だな。それ、いくらくらい入ってんだ?」
「どうだろうね。数えてみるよ」
そう言ってユリシアは袋の中身を机の上にぶちまけ、合計金額を計算し始めた。ユリシアの所持金だけでも相当な額になると思うんだよな……。それこそ、一学生が普通は持ち得ないくらいの大金を所持しているはずだ。
「お、お金がいっぱい……。お姉ちゃん、そんなにたくさん持ってたんだ……」
「リョウに比べると少ないかもだけどね」
「お兄ちゃんはこれ以上なの!? す、すごいなぁ」
メルシアちゃんは机の上に広げられた大量の硬貨や紙幣をキラキラした目で眺めていた。確かに、これはテンション上がるわな。
「でも、紙のお金なんてあるんだね」
「向こうじゃ硬貨しかなかったもんな」
向こうの世界では銅貨・銀貨・金貨・大金貨の4種類しかなかったから、メルシアちゃんは紙幣に馴染みがないだろう。硬貨も向こうの世界に比べて種類が多いしな。いやまぁ、机の上に広げられたお金の中に硬貨は100円玉か500円玉しか見当たらないのだけど。
ちなみにだが、向こうの世界の硬貨にこちらの世界の金銭の常識を当てはめると、銅かが100円、銀貨が1000円、金貨が10000円、そして大金貨が100000円である。
第金貨一枚持っているだけでもかなりの金持ちに見られてしまう。もちろん、銀行なんていうものは存在しないので、常に自己管理である。なんと恐ろしいことか……。何時奪われてもおかしくないという恐ろしい世界だったよ。
「よし、計算終わり」
向こうの世界を思い出し一人で勝手に身震いしていると、どうやらユリシアが所持金の集計を終えたらしく、そう一声上げた。
「ねぇねぇ、どれくらいあったの? お姉ちゃん」
「ふふん、それはねぇ、なんと143万5800円!」
「す、すごいっ! それってつまり、向こうの世界だとえっと……大金貨14枚も持ってるってことだよね? うわぁ、お姉ちゃんお金持ちだぁ!」
あまりの大金に大はしゃぎする狐姉妹。確かに、恐ろしいくらいの金額だ。これ、一学生が所持していて良いものなのだろうか?
というか、偽金……なんてことないだろうな? けど見た感じ、手触りも重量感も、そしてデザインも、日本の通貨そのものである。きっと大丈夫だろう。偽金でないことを信じよう。
「これでしばらくお金には困らないね」
「そうだな。だけどこれ、父さんに気づかれるのは少しばかりまずいかもな」
「あー、そうだよね。まぁ、部屋に保管しておけば大丈夫でしょ」
「それもそうか。父さんが態々ユリシアの部屋に入るとも思えないしな。そんなら、所持金が手元に戻ったことを、俺も素直に喜ぶことにしようかな」
ひとまず心配事がなくなったので、俺も素直に喜ぶことにした。143万はマジででかい……。いろいろと夢が広がるぜ。
「ってことはだよ。リョウのキーホルダーにも魔力を流せば……」
「わっ、も、もしかしてもっとお金持ちになれるの!?」
「リョ、リョウ! た、試してみようよ!」
「良いけど、ひとまず買い物に行かないか? それだけの金があれば買い物は普通に済ませられるだろうし。俺の方の所持金確認はまた後でってことで」
「あっ、そうだね。それじゃあ、早速お買い物に行こっか」
「うん! しゅっぱーつっ!」
というわけで俺たち三人は、必要最低限の荷物だけ持って再び家を出た。出る前に家じゅうの窓の鍵がちゃんと閉まっているかを入念に確認したのは言うまでもない。
*
「おおっ! 広いね!」
最寄り駅の駅前にあるショッピングモールに到着した俺たちは早速中に入る。すると、メルシアちゃんが目を輝かせながらきょろきょろとモール内を見渡していた。
「この時間だとやっぱり人は少ないな」
「そうだね。込んでるよりかはずっと良いけどね」
「それもそうだな。んじゃ、まずは……あの店に入ってみるか。見た感じレディースを扱ってるみたいだし」
「うん。ほら、メルシアも行くよ」
「あっ、はーい」
というわけで俺たちは連れ立って一階の女性服店を訪れる。俺が一緒に入るのはどうなのだろうかとも思ったが、幸い人も少なかったし、何より二人が一緒にいてほしいと言ってきたので、俺は二人に続いて店内に足を踏み入れた。
「ほえぇ、いろいろあるねぇ」
「わたしも、こうしてお洋服を見て回るのは初めてかも。前にリョウとのデートで行ったのはコスプレ用の服専門店だったもんね」
「すごいなぁ。向こうの世界じゃこんなにたくさん服の種類なんてなかったよね」
「そうだねぇ。わたしも、こっちの世界に来た時驚いちゃったよ。あっ、この服なんて良いんじゃない? メルシアに似合いそう」
ユリシアとメルシアちゃんは楽し気に会話を交わしながら店内に並べられた色とりどりの服をじっくり見まわる。俺は二人の後を静かに追いながら、ユリシアやメルシアちゃんに似合いそうな服を自分なりに探していた。
ユリシアもメルシアちゃんも素が非常に良いので、基本的にどんな服を着ても似合いそうだが、個人的にユリシアにはパステルカラーの可愛らしいデザインの服を着てほしいと思ったりもする。
メルシアちゃんはシンプルなデザインのものを組み合わせてみても良いかもしれない。特に黒とか良いんじゃないかと思う。メルシアちゃんの綺麗な銀髪が良く映えそうだ。
まぁ、あくまで個人的な意見だし、俺は口出しするつもりもない。メルシアちゃんには、是非とも自由に選んでもらいたい。
「ひらひらしてるの可愛いけど、なんか動きづらそうじゃない?」
「でも、こっちの世界じゃ向こうの世界みたいに激しく動き回ったりしないから、可愛いもの着ておしゃれしても良いと思うよ」
「あ、そっか。なら、こういうのとか着てみたいかも」
そう言ってメルシアちゃんが手に取ったのは、水色を基調としたワンピースだった。ところどころにふんわりとした白いレースがあしらわれており、胸元にはピンク色の可愛らしいリボンもついている。
「こういうの、貴族のお嬢様が着てたよね。憧れてたんだぁ」
「あっ、可愛いね、これ! 良いと思うよ!」
「お兄ちゃんはどう思う?」
「ん? 俺か?」
まさか俺に話が振られるとは思わなかった。しかし、感想を求められているのだから、答えてあげないとだよな。
「うん、可愛いと思うよ。これ単体でも良いけど、このシャツとかカーディガンと合わせるともっと良いかも」
俺は近くにかけられていたベージュと白のチェック柄のシャツを指差しながら個人的な意見を口にする。
「リョウ、結構センス良いよね。わたしも、リョウが言ったみたいな重ね着、すごく良いと思うよ。他にはねぇ……、あっ、メルシア! これとかどう?」
「あっ、こういうシンプルなのも好きかも」
ユリシアはハンガーにかけられたシンプルな無地のTシャツを指差す。すると、メルシアちゃんはさらに瞳を輝かせる。何処の世界の女の子も、共通してファッションが好きなようだ。
「メルシアちゃんなら黒とか似合いそうだね。下は……、これなんてどうかな? 上は暗い色だから、下は明るめの色を合わせる感じで」
「うわぁ、なんか良いかも。どれも気になるなぁ」
「リョウ、ホントセンス良い。えー、どうしよう。わたしも一着リョウに選んでもらっちゃおうかなぁ」
俺、そんなにセンス良いのだろうか? 単なる俺の好みを口にしているだけなんだけど、何故かユリシアは俺のなんちゃってコーディネートが気に入ってしまったらしく、自分用にも選んでと俺にお願いしてくる。まぁ、断る理由もないので、俺は軽く頷いてユリシアに似合いそうな服も探してみる。
そうしてかなり長い時間三人で楽しく服を見て回り、最後には一通り試着もして、無事購入に至ることができた。
「結構買っちゃったねぇ」
ユリシアが満足気に一言そう言った。結局メルシアちゃんの服は、上と下をそれぞれ10着近く買ってしまった。大きめの紙袋いっぱいに詰まっており、それなりの重量感を俺の右腕に伝えてくる。
なお、ユリシアには一着だけ選んであげた。フリル付きのピンク色のワンピースだ。スカートの丈はかなり短めで、黒のタイツと合わせると良いんじゃないかと勧めてみた。ウエスト部分にあしらわれた赤いリボンを結んでやると、ユリシアの細いウエストと膨らんだバストがより強調され、結構色っぽい感じになった。
ユリシアは俺が選んだそのワンピースが詰められた小さな袋を大事そうに抱えながら歩いている。まさか、ここまで喜んでくれるとはな。あまりないファッション脳を働かせて良かった。
「お、お兄ちゃん、荷物持たせちゃってごめんね」
メルシアちゃんが申し訳なさそうにそう言ってきた。流石にこの大きさと重量の紙袋を小柄なメルシアちゃんに持たせるわけにもいかなかったし、元々半分は荷物持ちのためについてきたと言っても過言ではなかったので、メルシアちゃんが気にする必要はない。
だから、俺は申し訳なさそうにこちらを伺ってくるメルシアちゃんに対して優しく微笑みかけ、気にしなくて良いと首を横に振ってみせた。
「良いよ良いよ、気にしないでくれ。こういうのは男の仕事だから」
「お兄ちゃんは優しいね。きっと、お姉ちゃんがいなかったらあたし、お兄ちゃんに惚れちゃってたと思う」
いきなりそんなことを言い出すメルシアちゃんに、俺とユリシアは二人して咳き込んでしまう。メルシアちゃんも時々爆弾発言をかましてくるなぁ……。
「けほっ……けほっ……、メ、メルシアっ!? あなた何言ってるの!?」
「い、いや、それくらいお兄ちゃんは優しいねって言いたかっただけで、お姉ちゃんからお兄ちゃんを取るつもりは全然ないから大丈夫だよ」
「そ、そういうことか、びっくりした」
「ご、ごめんね、変なこと言っちゃって」
「んもぅ、びっくりさせないでよぉ」
一瞬変な空気になりかけたが、すぐに元に戻る。実際に惚れられてしまっても、俺にはユリシアがいるから気持ちに答えてやることはできない。だから、単なるたとえ話で助かった。
「さ、さてと、気を取り直して、次は下着かな?」
「う、うん、そうだね」
「リョウ、ランジェリーショップって何処にあったっけ?」
「えっと、確か三階にあったかな。さっき地図で確認したから間違っていないと思うけど。まぁ、とりあえず向かってみよう」
というわけで俺たちは会談を上がり、三階にあるであろうランジェリーショップを目指した。
「あっ、ここだね。それじゃあ、中に入ろっか」
「え、えっと……、その……」
能天気な様子のユリシアとは対照的に、メルシアちゃんはこちらをチラチラと伺いながら恥ずかしそうに店前で縮こまってしまっていた。
「ユリシア、俺は外で待ってるよ。流石に女物の下着売り場に男が足を踏み入れるのはどうかと思うし」
「えっ、そうかなぁ?」
「それに、メルシアちゃんも流石に俺が一緒だと嫌だろうし」
俺はチラリとメルシアちゃんに目配せする。すると、メルシアちゃんは申し訳なさそうにではあるが、こくりと首を小さく盾に振った。
「そ、その……、嫌ってわけじゃないんだけど、お兄ちゃんの前ではちょっと恥ずかしい……です」
「うーん、そうなの? まぁでも、普通はそういうものかもね。分かったよ。それじゃあメルシア、わたしと二人で見に行こう」
「う、うん。お兄ちゃん、ごめんね」
「いやいや、気にしないで。ゆっくり選んできな」
俺は店前のベンチに腰掛けながら、店内に入っていくユリシアとメルシアちゃんを見送る。少し時間かかるだろうし、その間スマホで音楽でも聞いていよう。
そうしてしばらく静かに音楽を聴いていると、
「お客様、少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そう声をかけられた。俺は慌てて片方の耳につけていたイヤホンを外し、それから顔を上げる。
するとそこには、何処かの店の制服を着た女性店員さんが俺のことを見つめながら佇んでいた。
「え、えっと……、俺……ですか?」
「はい、そうです。あっ、私、そちらのランジェリーショップの従業員でございます」
「えっ、そ、そうですか」
も、もしかして俺、この店員さんに怪しい男認定されてしまったか!? ま、まぁ確かに、男が一人ランジェリーショップの前にいるのは、端から見れば怪しいかもしれないな。
「え、えっと、今中に連れがいて……」
「あっ、いえ、お客様を怪しいと疑っているわけではございませんよ。そうではなく、今店内でお買い物されているのは、もしかしてお客様の妹様方でしょうか? それとも、彼女さん?」
よ、良かった。怪しまれていないみたいで安心した。
「あっ、えっと、金髪の方は自分の彼女です。銀髪の子はその妹です。今日は妹が服を全て新調したいということだったので、ショッピングモールに買い物に来たんです」
「あらあら、なるほど。そうでしたか。彼女さん、とてもスタイルが良いなぁと思いまして、是非とも当店オススメのランジェリーをご紹介したいなぁと思ったんですよ」
「そ、そうなんですね」
でも、何故それを俺に? 店内にいるのだから、ユリシア本人に言えば良いのに。この店員さんが何を考えているのか、いまいち俺には分からないな。
「それでですね、これは提案なのですが、彼氏さんからプレゼントしてあげるというのはいかがでしょうか? きっと彼女さんも喜んでくれると思いますよ」
「えっ、自分がですか?」
「はい! どうでしょう?」
し、下着のプレゼントって……。この店員さん、なかなかぶっ飛んだ提案をしてきたな……。うーん、どうしたもんかねぇ……。
「もしよろしければ、店内をご案内させていただいても? プレゼントするかどうかは見てから決める、というのでどうでしょうか?」
「ま、まぁ、そういうことなら……」
というわけで、何故か俺はこの店員さんに店内を案内されることになった。女性用下着売り場なんて普通男は立ち入らないから、正直滅茶苦茶緊張しているのだが……。
なんて感じで始まった店員さんによる女性用下着ツアーだったが……
「これなんてどうでしょうか? 真ん中のリボンが良いアクセントになっていると思いませんか?」
「あー、確かに可愛らしいデザインですね」
「似たようなデザインだと……、あっ、こういうのもオススメですね。こちらはレース多めの少し大人っぽい感じのデザインになっております」
「確かに。色合いがとても綺麗で良いですね」
という感じで、最初の方は割と普通の下着を紹介されていたのだが、途中から何だかデザインが過激になっていくのは何故だろう……。
「これなんかもオススメですよ! この際どい感じがグッときません?」
ハーフカップブラとかなりローライズのショーツ……
「これとかどうでしょう? 布地もかなり薄くてとても色気たっぷりですよ」
下着の大半が透けており、下に関してはTバックである。先ほどのものよりもさらに際どいデザインの下着だ。
「どうです? とてもエロティックでしょう?」
「え、えっと……」
正直、反応に困る。最初の方に見せてもらったものなら"可愛い"とか"大人っぽい"とか感想が言えるのだけど、最後の方は正直俺には刺激が強すぎるのである。
「想像してみてください。彼女さんが例えばこんな下着をつけていたら、貴方はどう感じますか?」
店員さんはブラもショーツもかなり布面積の少ない、上下紫色の際どい下着を掲げながら、俺にそんなことを問うてくる。
俺は思わず想像してしまった。あのユリシアがこんなに色気たっぷりの下着を身につけて俺の目の前に立っている……。ヤバい、想像しただけで興奮が掻き立てられる……。愚息のスタンドアップ現象を抑えるのがかなり大変だ。
「フフッ、顔が真っ赤ですよ、彼氏さん」
「い、言わないでください……。恥ずかしいです……」
「それで、どうです?」
「……それ、買います……」
「フフッ、お買い上げありがとうございます、お客様」
なんか、この店員さんに乗せられた感が半端ないが……、まぁでもユリシアにこれを着せてみたいというのも本心なので、ここはこの店員さんに乗せられておこう。幸い、この下着を1セット買うくらいの金の余裕はあるからな。
「あれ? リョウ、こんなところでどうしたの?」
「ユ、ユリシアっ!? そ、そのだな……」
「というか、その下着、どうしたの? なんか、すっごいえっちだけど……」
「こ、これはだな……」
チラリと隣を見やるが、そこにはもう店員さんの姿はなかった。くそっ、このタイミングでいなくならないでほしかった……。
「プ、プレゼント……しようと思って……」
「わたしに?」
「そ、そうです……」
恥ずかしさのあまり、俺はユリシアから目を思いきり逸らす。ドン引きされないか、それだけがひたすら心配だ。
「ちょっと見せて」
「は、はい……」
手にしていた下着をユリシアに手渡す。ユリシアは俺から受け取ったそれをじっと観察する。あー、気まずい……。
「ふむふむ、なるほど。リョウ、これをわたしにプレゼントしてくれるの?」
「もし、差支えなければ……」
俺の心臓がバクバクと早鐘を打つ。店員さんに勧められるまま勢い任せにプレゼントとか言い出してしまったから、少しだけ冷静になった頭で考えると非常に恥ずかしい。そして、ユリシアに変に思われていないか、とても不安だった。
「なら、ありがたくもらっちゃおうかな♪ わたし、こういう大人っぽい下着って持ってなかったから、ちょっと気になってたんだよね。だから、リョウがプレゼントしてくれるのはすごく嬉しいよ♪」
だが、ユリシアの返答は予想外のものだった。まさか、嬉しいとまで言われるとは思ってもみなかった。俺は少し安堵する。まぁ、恥ずかしいという感情は未だに残っているけどさ。
「それに、これをつければリョウを悩殺できるかもだしね♪」
「の、悩殺って……」
「だって、これすっごくえっちじゃん」
「ま、まぁ、確かにそうだけど……」
というわけで、勢いで決行した下着プレゼントだったが、何故か上手くいってしまったのだった。ユリシアにはサイズを確認してもらい、それからレジにて会計を済ませた。店員さんの顔が何というかウザかった。
「お兄ちゃんのえっち」
「か、返す言葉もございません……」
メルシアちゃんからは本日何度目かのお叱りの言葉をいただいてしまった。考えてみれば確かに、あんな際どい下着を彼女にプレゼントするとか、エロ目的以外の何でもないよな……。
ま、まぁ良いじゃないか。ユリシアが喜んでくれたんだし。とにかく、あの下着をつけたユリシアの姿とのいろいろを楽しみにしておこう。
「お兄ちゃんのドえっち……」
「す、すんません……」
再度メルシアちゃんに苦言を呈されてしまった。なるべく考えていることを顔に出さないよう努力はしていたけど、隠しきれていなかったようだ。本気で反省しよう。
というかメルシアちゃん、どうしたわけかランジェリーショップを出た辺りから不機嫌なんだよな……。もしかして、何かあったのかな?
「メルシアちゃん、何かあった?」
「べ、別に何でもないもん……」
「そ、そう? それなら良いけど……。変なこと聞いちゃってごめんね」
「お、お兄ちゃんが謝ることなんてない」
慣れない場所に来た所為で疲れてしまったのだろうか? まぁでも、メルシアちゃんが何でもないと言うのだから、これ以上詮索するのは止めておこう。
「メルシア、おっぱいのサイズが小さかったのを気にしてるんだよね」
「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」
「ひにゃあっ!? い、痛い痛いっ!! ご、ごめんなひゃいぃぃぃっ!!」
今のは……ユリシアが悪いな。流石にデリカシーがなさすぎると思う。メルシアちゃんに思いきり頬を抓られ涙目になっているユリシアの様子を、俺は溜息を吐きながら黙って見ていた。
その後、俺たちはショッピングモール内のレストランで夕食を済ませてから帰宅したのだった。満腹になったことで、メルシアちゃんの機嫌はすっかり良くなっていた。
「お兄ちゃん、今日こそは勇者の加護あたしに頂戴ね」
「うん、分かったよ」
だが、機嫌は直ったけど自分のスタイルはやはり気になるようで、帰りがけにメルシアちゃんにそう懇願された。そんなに期待されても、できるかどうかは分からないんだけどなぁ……。