異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「薊美さんってさ、確か入学式で新入生代表の挨拶してたよね?」
一通りグループ内での自己紹介が終わり、今はフリートークの時間となっている。先輩方の興味はどうやら薊美さんにあるようで、フリートークタイムに突入してから薊美さんへの質問が殺到している。
今し方薊美さんに質問を飛ばしたのは先ほどからこのグループの進行役を務めていた3年制の女の先輩である。
「ええ、そうですわ」
薊美さんは短くそう返答する。お嬢様ということもあってか、こういう細かな所作にも何処となく気品を感じられる。
というか、初対面の相手に大して、どうしてそんなに愛想を振りまけるのだろうか。俺には真似できない……。
「あの挨拶って、確か入試主席の学生が担当するんだったよね?」
「そうだっけ? よく覚えていないなぁ」
「いえ、違ったはずですわ。だってワタクシ、学年主席じゃありませんもの」
学年主席という言葉に、俺は内心ドキリとしてしまう。俺が学年主席だってこと、流石に気づかれていないよな? だって、ここには俺と同じ1年B組の学生はいないもんな。
もし、俺が学年主席であることがこの場で露見したら、恐らく薊美さんに向いていた興味が次はこちらに向けられてしまうだろう。人付き合いには未だ不慣れなんです……。このまま息を潜めていたいんです……。お願いです……。
「あっ、そうなんだぁ。今年の1年の学年主席って誰なの?」
俺の内心など知る由もない先輩がそんな質問を1年生たちに投げかける。失礼かもしれないが、それでも今は黙ったままにさせてほしい。
「ワタクシは存じ上げませんわね。何方なのでしょう?」
「うーん、自分も知らないですね……」
「私もちょっと分からないです……」
よしよし、気づかれてはいないみたいだな。今返事をしたのが全員A組の人たちというのが気がかりだが……。
まぁでも、ユリシアが俺のことを態々周囲に話すなんてことしないだろうし、C組の人たちも俺が学年主席であることは知らないはずだ。うん、きっとな。
「え、えっと、噂で聞いたんだけど……」
一人の女学生がおずおずと手を挙げて遠慮がちにそう口にする。……大丈夫だよな? 俺のことが噂になってる……なんてことはないよな? なんか急に不安になってきたぞ……。ユ、ユリシア……、変なこと口走ったりしてないだろうな……?
俺は心臓の鼓動が早鐘を打つのを感じながら、女学生の次の言葉を恐る恐る待っていた。えっ? ビビりすぎ? 仕方ないだろう。
「その……、し、霜崎君が学年主席っていう噂が……」
その女学生は俺に視線を向けながらそんなことを言った。その瞬間、グループメンバー全員の視線が俺に突き刺さり、俺は頭を抱えたくなった。なんでそのことが露見してしまっているんだよぉ!!
って、そういえば昨日、昼食時に陸下さんが同じような噂話を口にしていたような……? わ、忘れていた……。この様子じゃ、C組の人たちには広まっているんだろうなぁ。
「えっ、そうなの!? 霜崎君」
先輩方からそう問い詰められる。1年の連中も興味深気に俺の顔を覗き込んできている。や、止めてくれ……、まだ心の準備が……。このままだと、緊張でどうにかなってしまいそうだ……。
「い、いや……、その……」
言葉が見つからず、俺はそんな曖昧な返答しかできないでいた。未だにグループメンバー全員からの好機の視線を受け続けており、俺はそんな彼らの迫力に気圧されてしまっていた。
しかし、はっきり返答しないとこの場の治まりはつかないんだろうなぁ……。俺はどうにかこうにか覚悟を決め、それからゆっくりと口を開く。
「い、一応……、そうです……」
「おお! そうなんだ! 学年主席なんてすごいじゃん!」
「なんだよ、もっと早くに言ってくれよぉ!」
俺が首を縦に振って自分が学年主席であることを認めると、周囲の先輩方が一斉に歓声を上げる。そんなに盛り上がるようなことなのかと疑問に思ってしまうが、それを口に出す勇気は残念ながら今の俺にはなかったので、黙ってグループメンバーたちからの称賛の言葉を受け取っておくことにした。
「あ、あの、これも噂で聞いたんだけど……、入試満点だったって本当なんですか? そ、その、迷惑でなければ答えてほしいなぁ……なんて」
まさかそのことまで噂になっているとは……。流石の先輩方も驚きすぎて言葉を失ってしまっている。
噂の出所は一体何処なんだ……。いやまぁ、うちのクラスの誰かがうっかり漏らしてしまったのだろうけど……。ユリシアではないということは分かる。だって、俺ユリシアに入試が満点だったことは話していないし。
「そ、そんなことまで噂になってたんですか……。え、えっと、その噂についても事実ではあります……」
「そ、そうなんですね! す、すごい……!」
「この学校の入試で満点を取るなんて……、天才かよ……」
俺が頷くと、グループメンバーたちは驚愕の色をさらに強くして、俺に称賛の言葉を浴びせてくる。俺自身の実力じゃないから素直に喜べない……。
でも、これが神様の過大評価による結果だということは口にできないので、俺はやはり何も言えず静かにその称賛を受け取ることとなる。騙してしまっている罪悪感や恥ずかしさが胸中に渦巻く。
「た、たまたまですよ。運が良かっただけです」
「いやいや、謙遜しなくて良いって」
「そうだよ。もっと自分に自信持ちなよ」
運が良かっただけだと言うと必ずこういう反応されるよなぁ……。実際、今の自分の実力で入試の問題を解いたとしても、満点なんて取れる気がしないのだが……。だから、これは謙遜でも何でもないんだよなぁ……。この様子じゃ信じてもらえないだろうけど。
「……?」
不意に隣からの熱い視線を感じた俺は、首をかしげながらそちらに視線を向ける。すると、俺の隣に座っていた薊美さんと視線が交差した。どうやら、熱い視線の正体は薊美さんのものだったようだ。
薊美さんの紅色の瞳がじっと俺を捉えて離さない。ここ数日で何度か向けられたことのあるような熱っぽい眼差しに、俺は何となく嫌な予感を覚えてしまう。
「入試で満点を取るだなんて、尊敬してしまいますわ♡ それでいて、決して奢らず謙虚な態度を崩さない……。霜崎さん、なんと素敵な方なのでしょう♡」
うわぁ、思った以上にストレートだ、この人……。どんな感情を俺に抱いているのかが雰囲気で丸分かりだよ……。クラスメイトの女学生たちでも、流石にもう少し感情を隠していたと思うぞ……。
ここまでストレートな好意を向けてくるのなんて、ユリシアくらいしかいないぞ。もっとも、相手がユリシアではないから、その好意に応えることはできないのだが。俺はユリシア一筋なのだ。何度も言うようで鬱陶しいと思われるかもしれないが。だが、これに関しては絶対に譲れないのだ。
「ど、どうも……」
俺は短く返事をする。なるべく素っ気ない態度を心掛けたが、ちゃんと"あなたには興味ありません"という意思表示になっただろうか?
「どのような学習をされてきたのですか?」
だが、彼女の様子が変わることはなかった。未だに熱のこもった視線を俺に注ぎつつ、そんな質問を飛ばしてくる。くそっ、流石に伝わらなかったか。もっと露骨に拒絶の意思を見せるべきなのだろうか……? 初対面の相手に対してそんな態度を取るのはちょっと心苦しくもあるから嫌なんだけどなぁ……。
ってか、待てよ? 先ほど自分自身の口から、今自分が緊張しているということを説明してしまったわけだから、こういう態度を取っても全て緊張しているだけと受け取られてしまうのでは……?
まさか、自分自身の発言に後悔させられてしまうとは……。だがこんな展開、誰が予想できようか……?
「え、えっと……、普通です。ごく一般的な勉強しかしてません」
「まあ! すごいですわ! もっと尊敬してしまいますわ♡」
いや、なんでだよ……。今の発言の何処にそんな尊敬する要素が含まれているというんだ……。このお嬢様の思考回路が俺には理解できなさそうだ。
「そういえば、先ほど趣味はアニメ観賞とおっしゃられていましたが、普段はあまり外に出るようなことはされていないのですか?」
「そ、そうですね。外出はあまり……。するとしても行き先は秋葉原くらいですかね。引きこもりのオタクというやつですよ、あはは」
俺はここぞとばかりに自分のマイナスポイントをアピールする。露骨なアピールかもしれないが、これで少しは俺に対する評価も下がってくれるはずだ。なんせ、オタクというのは世間的にはあまり好かれないからな。
「そう悲観なさらないでくださいな。アニメ観賞だって立派な趣味ですわ。ちなみに、どのようなアニメをご覧になるのですか? 良ければ教えていただけますか?」
何故だ……。何故薊美さんは俺の評価を下げないんだ……。なんだ? もっとオタクアピールでもした方が良いのか? せっかくだから質問に答えるついでに、ここでくらててについて熱弁してやろうか? そうすれば流石の薊美さんでもドン引き不可避だろう。
「そうですね……、最近だと暗闇の中で手を伸ばして……とかがお気に入りですかね。去年ごろにアニメ化された作品なんですが……」
「おお、くらてて! 霜崎君も見てたんだね!」
「あれは面白いよなぁ」
俺がくらててについて話し始めたところで、不意に先輩方が俺に同意するように声を上げる。し、しまった……、くらてては流石に有名すぎた……。もっとマイナーな作品を選んでおくべきだった……。
「視覚に障がいを持った人たちが主役のアニメだったよね。私も見てたよ」
「あれ、すごく泣けるんだよね。それに、障がい者がテーマだから、普通にアニメとして楽しむだけじゃなくて社会福祉とかそういうことについても学べるんだよね」
「俺、点字少しだけ読めるようになった」
「あっ、私も! この間、携帯点字板とか点筆とか買っちゃった。それ使って友達と点字で手紙交換するのが楽しくてさ」
うちのグループ内はくらてての話題で盛り上がりを見せる。全くもって意識していなかったが、どうやら良い感じの話題提供になったらしい。このまま上手く話が逸れれば良いんだけど……。
「素敵なアニメですわね。すごく興味が湧いてきましたわ。霜崎さん、アニメはどのようにして見れば良いのですか?」
「え、えっと、くらててはもう終わってしまっていますから、DVDを購入すると良いと思いますよ。もしくは、アニメ視聴アプリをダウンロードして、毎月お金を支払ってタブレット端末でアニメを視聴するか、ですかね」
「なるほど、分かりましたわ! 今日帰ったら早速アプリをダウンロードしてみますわね。霜崎さん、とても素敵なアニメを教えてくださりありがとうございます」
「い、いえ……、自分は何も……」
ダメだ……、薊美さんの興味が俺から外れない。もうこのままほったらかしでも良いかなぁ……? いろいろと面倒になってきた。
別にこのままにしていたところで、俺が薊美さんの好意に答えなければ良いだけの話だしな。そう思い、俺は薊美さんへのマイナスアピールは諦めることにした。
そうしてしばらく、うちのグループはくらてての話題で盛り上がっていた。一番盛り上がっていたのはやはり3年生の先輩方だったが、少しずつ1年生たちも話に混ざることができるようになっていた。それなりに場に馴染んだということだろう。
「あれ? そういえばさ、何時の間にかくらてての話題で盛り上がってたけど、元々何の話してたんだっけ?」
少しして、一人の先輩がそんなことを言い出した。確かに、いつの間にかアニメの話題で盛り上がってしまっていたからな。疑問に思うのも仕方ないことかもしれない。だが、俺としては正直アニメの話題のままが良かったなぁ。
「えっと、何だったっけ? あっ、そうだそうだ。学年主席の話だよ」
学年主席についての話題なんて面白くも何ともないだろ……。そんなことはとっとと忘れてアニメの話題に戻りましょうよ……とは言い出せない。だって俺だから。
「あっ、そういえばそうだったね。いやぁ、学年主席とか憧れちゃうよねぇ」
俺の心の叫びなど届くはずもなく、再び学年主席の話に戻ってしまった。できれば俺に話を振るのは止めていただきたいなぁ……なんて。
「2年の学年主席って誰?」
「えっと、確か井野君……だったと思います」
「あー、彼ね。まぁ、いかにもがり勉君って感じの見た目してるもんねぇ」
「ちなみに、3年は何方なんですか?」
良かった。この漢字なら俺に話題が振られることはないだろう。俺は静かに先輩たちの話を聞いていた。
「3年は誰だったかなぁ……」
「確か、木戸田君……じゃなかったか?」
「あ、そうか。そういえばそうだったね」
ん? 木戸田……? 何処かで聞いたことがあるようなないような……?
「き、木戸田先輩……ですか……。理事長の息子の……」
あっ、そうか。そういえば理事長の苗字が木戸田だったな。ってことはつまり、3年の学年主席ってあの女好きのクソ野郎ということか!? ってか、そういえば昨日ユリシアからそんな話を聞いたんだったな。あまりにどうでも良すぎて忘れかけていた。
奴は勉強はできるのかもしれないが、思考回路がかなり残念だったしな。ちょっと関わった程度じゃ、奴が頭の良い人間だとは到底思えないだろう。むしろただのバカにしか見えない……。
そんな話をしていた時だった。突然講堂の扉が勢いよく開け放たれたのは。中にいた学生たちの視線が一斉に扉に吸い寄せられる。ちなみに、新入生歓迎会は学生しか出席していない。つまり、教員はいないということだ。
だから、誰しもが思っただろう。誰かしら教員が様子を見に来たのでは、と。しかしながら、扉の奥から顔を覗かせたのは教員ではなかった。
「おいっ、霜崎涼ッ!! 霜崎涼はいるかッ!!」
扉の奥から顔を覗かせたのは、今し方話題に上がっていた3年の学年主席である例の男だった。奴は出入り口から講堂内をぐるりと見まわし、俺の名前を叫んでいる。ってか、今思ったけど、アイツこの新歓に出席していなかったのか。もしかすると、既に教員たちが昨日の件に対応してくれていたのかな?
などと考えていると、不意に奴と視線が重なった。目と目が合う瞬間、俺は思った。あっ、やっぱりコイツ嫌いだわ、と。
そして、俺と目が合った男は元々赤くなっていた顔をさらに真っ赤にして、俺に敵意剥き出しの視線を向けてきた。まぁ、恨まれても仕方ないとは思うが、一つ言ってやりたい。全部お前が悪いんだからな?と。
「テメェッ、ふざけんじゃねぇぞ!!」
そして、奴の怒鳴り声が講堂内に響き渡る。その怒鳴り声に、その場にいた女学生たちが揃ってピクリと肩を震わせていた。女学生たちには相当怯えられているようだな。それもそのはずだろうが。だって、無理矢理犯すような真似していたんだぞ。むしろ、それで怖がられない方がおかしい。無理矢理犯しても許されるのは創作物に出てくる常識改変能力持ち主人公だけだろう。
男子学生も、俺を睨みつける男と男に睨みつけられる俺の様子を見て表情に困惑の色を浮かべていた。特に1年生は、今何が起きているのか全く理解できずかなり混乱しているようだ。
講堂内がざわつき始める。それすら耳障りのようで、奴は一度俺から視線を外し、講堂内にいる学生たち全員に対して怒鳴り散らす。
「うるせぇんだよッ!! テメェらは黙ってろッ!!」
その声で周囲はしんと静まり返る。そうして、奴は再び俺を睨みつけてきた。あー、ものすごく面倒だなぁ……。これ、絶対面倒事に巻き込まれるパターンだろ。
「テメェの所為でこんなもんを突きつけられたんだッ!! どうしてくれるんだッ」
そう言いながら一枚の書類を俺に見せつけてくる。だが、この距離では流石に五感鋭敏化の能力があっても書類の中身までは見ることができないな。まぁ、どうせ停学かもしくは退学処分のしょるいだろう。正直、ざまぁ見ろという感想しか湧き出てこない。
「テメェの所為で停学処分を喰らったんだ。どうしてこの俺様がこんな目に合わなきゃならねぇんだよッ!! 全部テメェの所為だッ」
ふむ、停学処分だったか。退学処分にならなかっただけマシと思った方が良いのでは? というか、俺的には退学にしてくれて良かったのだが……。まぁ、流石に学院的にはそういうわけにもいかないのだろう。
「て、停学……? 木戸田君が……?」
「ついに悪事がバレたのか……? 結構な数の女子生徒に手出してるっていう噂あったもんなぁ……」
「というか、どうして1年生の子に怒ってるの?」
周囲が再びざわざわと声を上げ始める。それを苛立たし気に一瞥した男は、次は何も言わずに俺に視線を戻した。
「テメェさえいなければ……、俺は今頃……」
「ユリシアと陸下さんを犯せていた、と?」
「ああ、そうだよ……。テメェさえいなければ、全て俺様の思い通りだったのによ……。テメェが俺の邪魔をした所為で……、クソが……」
俺のその言葉に、男は苦々し気に頷く。まぁ、俺がいなくても、どうせユリシア一人に追い詰められていただろうがな。それを態々言うこともないだろうと思い、黙っておくことにしたけど。
「身から出た錆でしょうに……」
「んだとッ!? 俺様に対してそのナメた態度は何なんだよッ!! 俺はこの学院の理事長の息子だぞッ」
「だから何ですか? あんな犯罪紛いの行為をやっておいて、まだ自分の罪が理解できていないんですか? 停学処分まで喰らっているのに……」
俺は嘲笑混じりにそう言い放つ。目の前の存在があまりに滑稽で、俺は感情を抑え込むことができなかった。俺もまだまだだな。
「テメェ……、マジでぶっ殺すッ」
そう言うと男は背中に隠していた何かを取り出した。あれは……、もしかして竹刀……かな? 剣道で使うやつ。
だが、奴が何故竹刀なんかを持っているのだろうか? 私物……なのか? うーむ、よく分からないが、とにかく危険なことに変わりはないな。周囲の学生たちを巻き込んでしまいかねない。学生たちに怪我を負わせるわけにもいかないし、ここは俺がどうにかしないと……。はぁ、なんでこうも面倒事に巻き込まれるかなぁ……。
「それ、どうしたんです? アンタの私物ですか?」
「そうだよ。俺様は武術のスペシャリストだからな。コイツは俺様の相棒だ。今からコイツでテメェをぶん殴る」
「ちょっ、木戸田君!? 1年生にそんなこと……」
「俺に指図してんじゃねぇぞッ」
「うっ……、で、でも……」
「あァ? まだ何か言いたいことがあんのかよ?」
「そ、その……」
生徒会長が止めに入ろうとするも、男に竹刀を向けられ脅されてしまい、それ以上何も言えなくなってしまっていた。
「そうそう。黙ってりゃそれで良いんだよ。それじゃ行くぜ……!!」
下品に笑ってそう呟いた男が竹刀を構え、そして俺めがけて勢いよく突進してきた。まさか本気で突っ込んでくるとはな……。ならば、正当防衛は許される……よな。
「ちょっ、待て待て待てっ!!」
「木戸田、それは止めとけって!」
二人の男子学生が彼の行く手を阻む。だが、今の彼の前に出てしまえばただでは済まないだろう。現に、男は竹刀を振りかぶり、割り込んできた男子学生二人に振り下ろそうとしている。
できれば大人しく見ていてほしかったというのが俺の本心だがが、彼らは正義感から動き出してくれたのだろうし、咎めることはちょっとできないな。
俺は咄嗟に椅子から立ち上がり、急いで彼らのもとへと駆け寄る。今は加減とかそういうのは気にしていられない。ここにいる学生たちに怪我を負わせてはならない。これは奴が俺に吹っ掛けてきた因縁なのだから、周囲を巻き込んではならないのだ。
「何関係ない学生に手を上げようとしてるんですかっ」
そう叫びながら、俺は男子学生二人と奴との間に身体を割り込ませ、奴が振り下ろした竹刀を片手で掴む。武術のスペシャリストのくせに、あまりにも動きが遅くそして単調だった。
「なっ……、つ、掴まれた……!?」
「動きが緩慢で単調すぎます。これで剣道のスペシャリストとは、なかなか笑わせてくれるじゃないですか」
俺はそのまま手に力を籠め、奴の手にしていた竹刀を粉々に砕いた。奴の身体には傷をつけていないし、これくらいなら許されるだろう。あくまで脅しである。
「う、嘘……だろ……」
「相棒を酷使しすぎていたんでしょうかね? かなり柔らかかったです」
「だ、だとしてもお前……、化け物か……!?」
「化け物とは心外な……。俺はごく普通のオタク高校生です。まぁでも、これ以上アンタが抵抗するのなら、次はアンタ自身をこの竹刀のように……、ポキッとね……」
「や、やっぱ化け物じゃねぇかッ……」
おっ、どうやら脅しは良い感じに効いたみたいだ。男は両膝をがくがくと震わせて、俺を怯えの混じった瞳で見つめてきていた。……男に見つめられても嬉しくない。見つめられるならやっぱりユリシアでないとな。
などとくだらないことを考えていると、講堂の扉が再び開かれた。その奥から顔を覗かせたのは……
「ユリシア? それに……、陸下さん?」
俺は扉から顔を覗かせたユリシアと陸下さんの姿に驚いてしまった。どうして彼女たちが講堂の外に……?
すると、二人の背後にもう一つ人影があることに気づく。そして、その姿を見て俺は合点がいったように一つ頷いた。
「レオっ!! お前、何をやっているんだ!!」
「お、親父っ!? どうしてここに……!?」
そう、扉の奥に立っていたのは木戸田理事長だった。父親である理事長の姿を見止めた男は、さらに表情に恐怖や同様の色を浮かべていた。
「彼女たちに呼ばれたんだ。それより、これはどういうことだ?」
「そ、それは……」
「まぁ良い。続きは理事長室でじっくり聞かせてもらう」
「あぁ……、あああ……!!」
そうして理事長に連れられ、男は講堂から姿を消したのだった。扉の外から奴の喚き声が聞こえてきたが、どれも不快な雑音にしか聞こえなかった。
「あの、お怪我はありませんか?」
「お、おう、ないぜ」
「ってか、そっちこそ大丈夫か?」
「ええ、こちらは問題ありません。えー、皆さん、お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」
俺の背後で呆然と立ち尽くしていた男子学生二人の無事を確認し、それから講堂内にいる全ての学生に対して深く頭を下げた。それから、今回の騒ぎの全容を説明した。
俺の説明を聞いた学生たちは、俺やユリシアに対して称賛や感謝の言葉を一様に投げかけてくれた。自分がやりましたアピールをするのは好きじゃないが、説明をするうえで必要なことだったから仕方ない。
その後は何故か新歓の予定を変更し、俺とユリシアへのヒーローインタビュー的なイベントが執り行われることとなった。いや、本当に意味が分からない。どうしてこうなった……。
「わたしたち、有名人になっちゃったね」
「そうだな……、はぁ……」
ユリシアは何処となく嬉しそうだったが、俺は溜息しか出なかった。仕方ないだろう。だって、俺が学年主席であることや、俺とユリシアが付き合っていることが全校生徒に露見してしまったのだから……。……いや、待てよ? 学年主席の件はともかくとして、ユリシアと付き合っていることはむしろ良いアピールになったのでは? 主に、薊美さんを諦めさせるためのな。
「そ、そんな……!! ショックですわ……!!」
うん、心苦しくはあるが、編に勘違いされてしまっても困るからな。申し訳ないが、事実として受け止めてくれ。
「はぁ……」
遠くで一人、深いため息を吐いている陸下さんの姿を見つけたが、今朝から抱えている悩みごとに関係しているのだろうと思い、俺は気にしないようにした。陸下さん的にも気にされると困るだろうからな。俺は気遣いの出来る男手ありたい。……主にユリシアに対してではあるけど……。
そうして、新入生歓迎会という名の俺とユリシアへの質問攻めタイムは賑やか?に過ぎていったのだった。注目を浴び続けてかなり疲れた。これで俺も有名人! って、嬉しくねぇわっ!!