異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「それじゃメルシア、行ってくるね」
「行ってきます、メルシアちゃん。出かける時は戸締りよろしくな」
「うん、分かった。二人とも、行ってらっしゃい。学校、頑張ってね」
「ありがと」
そう言って優しく微笑むと、金髪で背の低い少女と黒髪で背の高い男の子は玄関の扉を押し開け家の外へと出ていった。その二人の様子はとても仲睦まじ気で、二人がそういう関係であることは一目瞭然だった。
あたしは、開け放たれた玄関の扉が閉まり自分の視界を遮るまで、少しずつ遠くなっていく二人の後ろ姿に羨望の眼差しを向け続けていた。
あたしの名前はメルシア。狐系獣人族、フォクサローゼリス家の次女……だった。まぁ、もう過去のことだ。今は転生者として別の世界で生きている。詳しいことはいろいろ面倒だから端折るけど。
そして、先ほど家から出ていったのは、あたしのお姉ちゃん、ユリシアと、そのお姉ちゃんの恋人さんの霜崎涼さん。あたしは彼のことをお兄ちゃんと呼んでいる。実の兄じゃないけど、なんかその呼び方が一番しっくりきた。ちなみに、どうしてお姉ちゃんもあたしと同じ異世界にいるのかというと、勇者としての使命を終えたお兄ちゃんがパートナーとして一緒に戦ったお姉ちゃんを元の世界……今あたしがいる世界に連れて戻ってきたから、とのことだ。うん、この話に関しても長くなりそうだから省略ね。
そしてあたしは今、お兄ちゃんのお家に居候させてもらっている。一応、この世界の筋書きでは、病が完治し退院を果たしたあたしが、日本に留学中のお姉ちゃんを負ってここまでやってきた、ということになっているらしいが、これはあくまで神様が用意してくれたつじつまを合わせるための偽りのストーリーである。
本当は、とある神社に狐の姿で封印されていたあたしを、たまたまその神社を訪れたお姉ちゃんとお兄ちゃんの二人が助けてくれたのだ。あたしがどうしてあの場所にあんな姿でいたのかは、まだよく分かっていない。今、神様に調べてもらっているところだ。神様が存在していることについては、多分気にしちゃ負けだと思う。
という感じで、あたしは二人のおかげで今こうして平穏な日常を送れている。二人には本当に感謝している。感謝してもしきれないほどだ。そう……なんだけどね……
「それはそれ、これはこれ……」
あたしは今し方家を出た二人……、特にお姉ちゃんに対して少し苛立ちの感情を覚えていた。あたしがいる前で堂々とイチャイチャするのは止めてほしい……。イチャイチャラブラブに没頭しすぎて、あたしを放ったらかしにしないでほしい……。し、嫉妬ってわけじゃない。別にあたし、お兄ちゃんに恋愛感情は抱いてないから。ほ、ホントだよ? ま、まぁ、お姉ちゃんがもしお兄ちゃんの恋人じゃなかったらどうなっていたか分からないけど。
あと、二人のイチャイチャラブラブの痕跡を残したままあたしの前に現れるのは本当に止めてほしい。これに関してはお姉ちゃんだけだ。お兄ちゃんはその辺しっかりしてるから。そういうことをする時は大体魔法で外に音が漏れないように対策してくれている。ま、まぁ、一度自分から覗きに行っちゃったことはあったけど、あれは子供なりの好奇心というやつだ。
一方、お姉ちゃんは遠慮とか恥じらいがなさすぎるのだ。あたしの前をすっぽんぽんのままふらふら歩く。それだけならまだしも、イチャイチャラブラブした後だということがお姉ちゃんの裸を見ていれば分かってしまう。いろんなところが濡れてるし、ところどころ充血したように真っ赤だし、さらには一部分がピンピンになって激しく存在を主張している……。そういうのを見せられると、こっちまで悶々とした気持ちにさせられてしまうのである……。
それに、お姉ちゃんはデリカシーもない。だって、お兄ちゃんの前で堂々とあたしがその……じ、自分を慰めていたことを暴露しちゃうんだもん……。昨日の話なのだけど……。ホント、あの時は本気で殺意が芽生えた。
「はぁ……、思い出すのは止めよ……」
あたしは大きく首を振り、嫌な記憶を頭の外に逃がす。その程度で逃がせるなら苦労はしないが……。
「なんか……、むずむずする……。またこの漢字……」
そんなことをぼそりと呟きながら、あたしは玄関脇の階段を上がってお姉ちゃんのお部屋へと戻る。多分、むずむずするのは変なことを思い出した所為だ。けど、あたしはこのむずむずには屈しない。お兄ちゃんの前では基本的に発情しまくりなお姉ちゃんとは違うのだ。
「とにかく、着替え用……」
お姉ちゃんのお部屋に戻ってきたあたしはそう独り言を呟くと、ベッド脇に置いたままにしていた大きな紙袋へと近づく。その紙袋を開くと、中には色とりどりの衣服が敷き詰められていた。これは昨日、お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒に買いに行ったあたしのお洋服だ。二人が選んでくれた服はどれも可愛くて、紙袋の中に視線を落としながらついつい目移りさせてしまう。
「うーん、どれを着ようかなぁ」
正直、どの服も捨て難い。今日が自分の服を着て出かける初めての日なのだ。どうしても慎重になってしまう。
「ひとまず、いろいろ着てみて考えようかな」
挿結論付けると、あたしは着ていた寝間着をゆっくり脱いでいく。寝間着とは言っても、あたしが今着ているのは動きやすさ重視のTシャツとスウェット……?とかいう生地のズボンなのだけど。
まずはTシャツを脱ぐ。するとすぐに上半身の肌が室内の空気に直に触れる。朝のひんやりとした空気があたしの肌を包み込む。少し気持ち良いと思ってしまったことから、あたしの身体がそれだけ火照っていたということがよく理解できた。
あたしの手は自然と胸……正確には、その先端の小さな粒に伸びてしまっていた。普段はぷにぷにしているそこだが、今はそんな柔らかな感触ではなかった。
「んんっっ……♡ はぁ……♡ 硬く……なってる……」
ぴりりという何処か甘さを孕んだ刺激に、あたしは思わず身体をぷるぷると震わせてしまう。先ほど、いろいろと変なことを思い出してしまった所為で、あたしの身体は意思とは無関係に反応してしまっていた。
「き、気にしない……。気にしない……」
あたしは苦笑を浮かべながら即座に胸の先端に置いていた手を退かせ、履いていたズボンに手をかける。そして、一気に足首まで引き下ろした。すると、ぬちゃりというやけに粘り気のある水音が耳に届く。それと同時に、あたしの全身が冷たい空気に撫でられる。
……全身? あたし、ちゃんとパンツも履いていたはずなのだけど……?と思いつつ、確認するように視線を下に下げる。
「って、ひやあぁぁっ!?」
あたしの視線の先には、本来あるべきものがなかった。あるべきもの……、そう、パンツだ。あたしは今何故か何も身につけていなかったのだ。
「あ、あれ!? どうして!? あたし、パンツ履き忘れてた!?」
あたしは一人で慌てふためく。あたしは、パンツも履かないまま、朝お兄ちゃんと会ってしまっていたということなのか!? そんなの……、いつものお姉ちゃんと同じではないか……。あ、あたしは……、あたしは変態さんなんかじゃ……ない……。
あたしは足首までずり下げた寝間着のズボンへと再び手を伸ばす。パンツを履いていないなんて、きっと何かの間違いだ。あたしは恥じらい無しなんかじゃないし、履き忘れるなんていうヘマはしない。
「あ、あった、良かった……」
ズボンの内側を手で探ると、ズボンとは異なる生地の布の存在を見つけた。どうやら気を紛らわせたいという焦りと先ほどの胸への刺激によって判断力やら感覚が鈍ってしまっていたらしく、間違えてパンツごとズボンを引き下げてしまったみたいだ。
あたしはほっと安堵し、ズボンの内側からパンツを剥ぎ取って上に引き上げる。このパンツも昨日買ったものだ。お尻にフィットしてとても動きやすいし、肌触りも良い。向こうの世界の下着はどれもごわごわしてて履きづらかったからね。
デザインは水色と白の縞模様でちょっと子供っぽい気がするけど……、あたしは機能性重視だし……。べ、別に……、これが可愛いとか思ってないし……。衝動買いなんてしてないし……。ホントだし……。
などと考えつつ、パンツを腰まで引き上げた。その時、股の付け根部分にひんやりと湿った感覚を覚えた。それに、先ほども利いた粘性のある水音が室内に響く。嫌な予感を覚えつつ、あたしはパンツの股間部分に恐る恐る手を伸ばす。
「……んんぁっ……♡ ぬ、濡れてるし……」
予感的中。あたしのパンツはぐっしょりと濡れてしまっていた。何故もっと早くに気づかなかった……。そう思いながら、あたしは溜息を溢す。いや、溜息を吐いたつもりだったのだけど、あたしの口からこぼれ出たのは溜息ではなくもっと別の……甘ったるい吐息だった。
「なんで……こんなに濡らしてるの……、あたし……」
そう言いながらもう一度パンツを脱ぐ。次は自分の意思で。それから、自分の両客からパンツを抜き取り、それを手に持ったまま室内に置かれている大きめの机の傍まで移動する。その机の上に置いてあったティッシュ箱からティッシュを一枚手に取り、それをパンツの濡れた部分……クロッチ部分?にあてがう。
しかし、そう簡単に水気はなくならない。ティッシュ一枚では全然足りなかった。まったく……、あたしはどれだけ濡らしているのだろうか……。そう思いながら、もう一枚ティッシュを手に取り、パンツに染み込んだねばねばした水分を吸い取っていく。
「これ、完全に乾かすのは無理っぽい……」
何枚かティッシュを消費したが一向に乾く気配はなく、あたしは諦めることにした。まぁ、先ほどのびしょびしょ状態よりかは全然マシだろう。
そうして、あたしはパンツの穴に再び脚を通して上に引き上げる。が、途中で踏みとどまる。そういえば、まだ根源は拭えていない。このままでは、パンツを拭いた意味がなくなってしまう。
「けどなぁ……、ここ……あんまり不用意に触りたくないんだよねぇ……」
股の付け根はとても敏感なところだ。多分、ティッシュで拭くだけでもあたしは感じてしまう……。そうなってしまっては、せっかく抑えようとしていた興奮の箍が外れてしまう。
「あれ……、一度始めちゃうと止まらないんだよなぁ……。それに、最後ちょっと疲れるし……。な、何とか我慢しないと……」
けど、濡れた股間をそのままにしておくわけにもいかない。あたしは絶対に我慢すると固く誓い、再びティッシュボックスに手を伸ばし、そこから二枚ほどティッシュをかすめ取る。
そして、重ねたティッシュを股下へと持っていく。
「んんっ……♡ んぅぅっ……♡ んぅぁぁっ……♡」
股間の裂け目にティッシュを押し当て、軽く前後に動かす。それだけであたしの身体に電流が流されているのかと錯覚するほどの刺激が駆け巡る。あたしは堪らずえっちな溜息を漏らしてしまう。
「はぁ……♡ はぁ……♡ これは……拭いてるだけ……、それだけなの……。んんぅぅ……♡ んんぁぁ……♡ んはぁぁ……♡」
そう自分に言い聞かせるも、あたしの手の動きは無意識的に早くなっていく。すりすりとティッシュでお股の裂け目を擦り、自ら甘い刺激を求めてしまう。ダメだと分かっているのに、あたしの腕には徐々に力が籠っていく。それだけでなく、身体を揺らしてぐりぐりとティッシュ越しの自分の手に股間をぐりぐりと押し付けてしまっていた。
「ダメ……ダメなのにぃ……、我慢……できないぃ……♡ んんふぅぅ……♡ んああふぅぅ……♡ 気持ち……良い……♡ 気持ち良いよぉ……♡ んんぃぃ……♡ んんぉぁぁ……♡ んひぃぃぃんっ……♡」
いつの間にか、手に持っていたティッシュは多量の水分を含みその役割を既に果たせなくなってしまっていた。それでもなお、あたしの股間の裂け目からはねばっこい汁が止め処なく染み出てくる。
「ああぁんっ……♡ 手……止まらない……♡ んひああんっ……♡ うひゃああんっ……♡ ティッシュ……変えないと……いけないのにぃ……♡ んにゅぅぅぅッッ……♡♡♡」
あたしはもはや我慢などできず、ぐちょぐちょのティッシュを手に持ったまま手をさすさすとお股の裂け目に沿って激しく動かす。そして、ちょこんと飛び出た小さなお豆に指が軽く触れた時、あたしはビクビクと身体を大きく震わせた。この時、頭が真っ白になって何も考えられなくなる。これが絶頂するという感覚らしい。
いつもはここで満足する。だから、今回も大丈夫だと思っていた。だが、そうはいかなかった。
「はぁ……♡ はぁ……♡ も、もっと……いっぱい……気持ち良くならないと……ダメ……♡ んふぅ……♡ んああぁ……♡ んいぃぃぃ……♡」
あたしは水分を吸い過ぎてところどころ破れてしまっていたティッシュを丸めてゴミ箱に放り捨てると、新たなティッシュを何枚か手に取って、再び自分のお股の割れ目へと運ぶ。もう、我慢するという選択肢はあたしの頭の中にはなかった。
けど、このまま行為に及んでしまっては、お姉ちゃんの所為で発情してしまったことになる。せ、せめて……お姉ちゃん以外のことを考えながらしたい……。
「そ、そうだ……、んんんっ……♡ あ、あれなら……、んはぁぁぁ……♡」
そう言いながらあたしはとてとてと本棚に近づく。そうして、ある一冊の本を手に取った。
今朝、目覚まし代わりに何か読もうと思ってテキトーに本棚から抜き取ったのがこの本だった。内容はどうでも良いと思って読み始めたこの本だったけど、読んでみたらすごく面白くて、あたしはこの本にドハマりしてしまった。
つい今朝だけで3冊分も読み終えてしまった。内容は、とある気弱な男子学生と不思議な少女との恋愛ストーリーだ。読んでいるだけで心がキュンキュンしてくる。あたしもこういう恋愛がしてみたいなぁと考えてしまっていた。
その本の表紙には、メインキャラクターの二人が肩を寄せ合って微笑んでいる絵が描かれていた。これを見ながら、自分をヒロインに当てはめていろいろと妄想してやろう。お姉ちゃんが頭にちらつくよりかは全然マシだ。
「んあっ……♡ はぁぁぁぁ……♡ んんぅぅ……♡ んあっあっあっ……♡ あぁぁんっ……♡ ふああああッッ……♡♡♡」
というわけであたしは、自制することもできずに妄想オナニーにふけってしまうのだった。家の中にはあたし一人だけだったので、いつもは抑えめに漏らしていた声を思いきり出して喘いだ。……気持ち良かった……です。
*
「はぁっ……はぁっ……」
あたしは今、住宅街を全力疾走で走っていた。何故か? もちろん、先ほどの痴態を忘れるためである。
結局、あの後1時間近くオナニーに没頭してしまった。自分でも何回絶頂したのかはもう覚えていない。気づいた時にはお姉ちゃんのお部屋の床はびしょびしょになっていた。軽く水溜りになってしまっていて、これが全部あたしの体内から出たものなのだと考えた瞬間、あたしは途轍もない自己嫌悪に陥ってしまった。
そんな風に一人うなだれながらも、室内の惨状をそのままにしておくわけにもいかず、30分ほどかけて処理した。それから、汗とえっちな分泌液でべとべとになってしまっていた身体を清めるため、お風呂にも入った。その時にはまだ腰ががくがくしていて上手く立てなかったんだけど、それでも渾身の力を振り絞った。汗と愛液臭いままは嫌だったから。というか、お姉ちゃんとかお兄ちゃんが常用している浄化魔法が本気で欲しくなった。あれ、ホントに便利なんだね。
そうして、今度こそお出かけ用の服に着替えた。ある程度時間も経っていたので、足腰も安定していた。
もちろん、着替えている間も頭の中を支配していたのは先ほどの自分の痴態……。情けなさや恥ずかしさであたしの脳はどうにかなってしまいそうだった。あれでは、普段のお姉ちゃんと同じではないか……。い、淫乱なのは……もしかして遺伝!?などと馬鹿げた考えまで脳裏を過る始末……。
思わず叫び声を上げたくなってしまう衝動を何とか抑え、無心で着ていく服を選び、無心でリュックサックに必要なものを詰め込んで、あたしは家を飛び出した。あっ、戸締りはちゃんとしました。お兄ちゃんの言うことは聞く良い子ちゃんです。……良い子ちゃんはオナニーなんてしない? し、知らないっ!!
というわけであたしは、先ほどの自分の痴態をさっさと脳内から追い出したくて、無新で住宅街を駆け抜けていた。走ることは好きだし、良い気分転換になるからね。
リュックサックの中にはお兄ちゃんが朝作ってくれたお弁当が入っていたけど、それでも構わず走る。まぁ、お弁当の中身が崩れてしまう心配はないし。だってあたし、身体を揺らさず静かに速く走るのが得意だもん。だから、お弁当がぐちゃぐちゃになることもないし、スカートがめくれてパンツがチラリ……なんてこともない。
パンツ……、あぁ……思い出したくないことを思い出してしまった……。まだ生乾きだったけど、そのまま履いてきてしまった。お股の辺りが気持ち悪い……。怪しまれたくなかったから替えのパンツは用意しなかった。バレたら絶対、お姉ちゃんにからかわれる……。
「って、忘れよう……。さっきのことは忘れよう……」
あたしは頭をブンブンと振り余計な考えを取っ払うと、さらに速度を上げて街中を駆け抜けていく。既に並みの人間では出せないくらいのスピードで走っているので、時々すれ違う人たちにはぎょっとした顔で見られてしまう。しかし、今のあたしはそんなこと気にしない。
目的地は特にないけど、とにかく行けるところまで行きたかった。途中、何度か信号に引っかかりそうになったけど、その度に速度を上げて何とか赤信号になる前に渡りきってやった。
そうしてしばらく走っていると、突然尿意に襲われた。大体30分くらいは走ったころだったと思う。何処か、尿意を解消できそうな場所はないかと走りながら周囲をきょろきょろと見回す。
すると、少し先に開けた場所を見つけた。中には幾つかの遊具が備え付けられており、そこが公園であることは何となく想像できた。
公園ならばトイレもあるかもと思ったら、案の定トイレと思しき小さな建物を見つけた。あたしはほっと安堵し、すぐさまその公園のトイレへと駆けこんだ。ちゃんと男女で分かれていたので、あたしは女子トイレの中に滑り込む。
そうして無事間に合い、あたしは個室に入って着てきた白ワンピースをがばっとめくり上げ、生乾き縞パンを下ろして便座に座り用を達した。周囲に人の気配もなかったので、あたしは遠慮することなく思いきり放尿してやった。じょぼじょぼという着水音がやけにうるさく聞こえた。
「ふいいい……、解放感……」
などと呟きながら、あたしは全身の筋肉を弛緩させる。我慢に我慢を重ねた末の放尿ほど気持ちの良いものはない。……オナニー? 何それ美味しいの?
そうして無事膀胱内に貯まった尿を全て出し終えたあたしは、ささっと後処理を済ませ衣服を整えトイレを後にした。個室から出る間際、何か変な気配を感じて視線をそちらに向けると、カメラが個室内に隠されていた。かなり小型で、よく注意していないと気づけないだろう。まぁ、あたしならどうってことはないけど。
あたしはそのカメラを手に取り、中身を確認する。そこには、あたしが用を達する姿がバッチリ映っていた。あたし以外にも、何人かの女性の姿も映ってしまっていた。はい、ぶっ壊します。
あたしは土魔法でカメラを粉砕し、火魔法を使って跡形もなく燃やし尽くした。ふぅ、これで良し。
「バカなことをする人もいるもんだねぇ……」
あたしは他の個室も見回って、同じように隠されていた盗撮用カメラを全て破壊した。一体、誰がこんなことをしたのだろう? まぁ、これ以上踏み込むつもりはないけど。あたしの恥ずかしい姿は、未来の旦那様にしか見せてあげないんだからね。
そうしてあたしはいろいろな意味でスッキリし、公園のトイレを後にした。その頃には既に落ち込んでいた気分も晴れていた。
「今日はここで一日過ごそうかな」
そう言ってあたしは近くに備え付けられていたベンチにすたすたと近寄り、背負っていたリュックサックを下ろしてそのベンチに腰掛ける。
それから、持ってきていたお兄ちゃん特性お弁当を平らげ、そして食後の読書タイムに入る。例の恋愛小説を全巻リュックに詰め込んできていたので、それを1冊目から改めて読みふける。
「あはぁ……、良いなぁ……。あたしも恋、してみたいなぁ……」
読んでいると、あたしは自然とうっとりした表情になってしまう。それほどまでに、その小説の中の主人公とヒロインは甘い恋愛劇を繰り広げていたのだ。お互い好き同士なのに、思いに気づけないまますれ違ってしまう……。このもどかしさが堪らない。
でも、そんな不器用な二人は徐々にお互いの心の距離を詰め、そしてようやく結ばれて幸せになるのだ。
「うううう……、良がっだねぇ……、やっどむずばれだねぇ……、ひっく……ひっく……、あだじ……がんどうじぢゃっだ……、ううううう……」
あたしは思わず啼泣してしまっていた。あたしがこんなに涙脆いとは思わなかったけど、この物語が素晴らしく感動できるのだから仕方ない。
「うあああああ……、うええええええん……」
公園内に誰もいないのを良いことに、あたしはわんわん泣き続ける。こういう感動は抑えない方が良い。恥ずかしいことじゃないのだから、我慢する必要なんて全くないのだ。
こんな素晴らしい作品に出合えてあたしは幸せ者だ。この本を全巻揃えてくれていたお姉ちゃんには後で精いっぱいのお礼を言わないと。変態姉狐なんて言ってごめんなさい。訂正するつもりはないけどごめんなさい。
「ちょっ、だ、大丈夫!? そんなに泣いて、どうかしたの?」
などと考えていると、不意にそう声をかけられた。あたしはその声にはっとして顔を上げる。すると、そこにはあたしと同い年くらいの少年……?が心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
しまった……、ついつい本に集中しすぎてしまった……。周囲の気配を探るのを疎かにしてしまっていた。
「あ……、え、えっと……、だ、大丈夫……です……」
あたしは咄嗟にそう誤魔化す。ついでに片手で目元を拭う。うぅ、泣いているところを同年代の男の子に見られた……、恥ずかしい……。
「ほ、本当に大丈夫? 怪我してたりしない?」
「け、怪我如きで泣いたりしないし……」
「それじゃあ迷子とか……」
「なっ、こ、子供扱いしないでよ」
さっきから質問が全部小さい子にするようなものばかりだ。た、確かに身体は小さいかもしれないけど、これでも14歳なんだから……。
「あたし、14なんだけど?」
「ええっ!? 14って……、嘘っ!?」
「し、失礼な……」
「あっ、ご、ごめん……」
あたしが睨みつけると、彼はそう言って素直に謝罪してくる。うむ、謝ればよろしい。あたしは心が広いからね。
それにしても、この子は男なのか女なのか分からない。背も低いし、かなり中性的な容姿をしている。幸いなことに彼は男物の制服を着ていたから男であると気づけたけど、普段着だったら分からなかったかもしれない。
「はぁ……、そうじゃなくて、この本を読んで感動してたの」
「本? って、それ……、運命の赤いブランコ……」
「えっ、知ってるの!?」
彼が本のタイトルを呟いたことにあたしは過剰に反応してしまい、思わず彼に詰め寄ってしまう。今はこの感動を誰かと共有したかった。
「え、えっと……、い、一応……?」
「あはぁ、この本、すっごく感動できるよね!」
「う、うん、それは確かに」
「ほらほら、ここ座って。もっといろいろお話しよっ!」
「わ、分かった」
そうしてあたしは、半ば強引にではあるが彼をあたしの隣に座らせて、本の内容について語り合った。彼は最初こそ戸惑いの表情を浮かべていたけど、次第に楽しそうな顔に変わっていった。迷惑に思われていないようで安心した。
途中、怪し気なおじさんがトイレに入っていくのが見えたけど、正直どうでも良かったので無視することにした。今は"運命の赤いブランコ"に着いて語り合うことが最優先事項だ。ちなみに、略称は"赤ブラ"らしい。赤いブラジャーじゃないから、勘違いしないこと。
「この本の舞台、確かこの辺だったはずだよ」
「えっ、そうなの!? もしかして、ヒロインがいつも座っているのって、この公園のベンチだったりして」
「あはは、有り得ない話ではないかもね」
「なら、記念にあのブランコ乗っておかないと! 丁度赤いブランコだし!」
あたしは勢いよくベンチから立ち上がると、少し離れたところにある赤色のブランコを指差す。
「本当にここ聖地かもね。って、聖地っていうのは大げさかな」
「大げさなんかじゃないよ! あたしたちにとっては充分聖地だよ!」
「それもそうかもね。じゃあ、ぼくも記念に乗っておこうかな」
そう言うと二人してブランコに駆け寄り、それぞれ椅子に腰かけてゆらゆらとブランコを前後に揺らす。
不意に、視界の端に先ほどのおじさんがチラリと映る。何処となく落胆しているようだった。もしかして、カメラ仕掛けたの、あの人だったりするのかな? ふふふ、してやったり。
っとと、今は彼とのお話に集中しよう。あのおじさんはどうでも良い。
「赤ブラにもこんな展開あったよね」
「主人公とヒロインが最初に出会った時だったっけ」
「そうそう。なんか、今のあたしたちも似たような感じじゃない?」
「えー、そうなのかなぁ。でもぼく、主人公なんかじゃないよ?」
「あたしだってヒロインじゃないよ。でも、雰囲気を楽しむくらいやっても罰は当たらないよ」
「あはは、それもそうだね」
それからはお互いのことについていろいろと話した。もちろん、異世界がどうのこうのなんて話はしないけどね。お姉ちゃんとお兄ちゃんに、あんまり不用意に周りに言いふらさないでほしいと言われてるし。
だから、この世界での筋書きを話す。彼には申し訳ないという気持ちでいっぱいだけど、こればかりはどうしようもない。
そして、彼も自分のことについていろいろと話をしてくれた。あたしと同い年であること、近くの中学校に通っていること、家もこの近くにあるということ、そして学校では人間関係があんまり上手くいっていないということなど……、本当にいろいろと話してくれた。
「そうなんだ……。あたしは、話しててすごく楽しいけどなぁ」
「えっ?」
「だから、きっとクラスにも馴染めるよ。また何かあったらお話し聞いてあげる。まぁ、次は何時ここに来れるか分からないんだけど」
「また話、してくれるの?」
「もちろんだよ。あたし、君のこと気に入っちゃった、えへっ」
そう言ってあたしはブランコを思いきり漕ぎ、そして前方に思いきり飛ぶ。そして、ブランコを囲む低めの柵の向こう側に着地した。
「縞々……」
背後で何やら呟くような声が聞こえたが、あたしの耳には届かなかった。
あたしは笑顔でくるりと後ろを振り返る。一瞬見えた彼の顔は少し赤みがかっているようだった。どうしたんだろう? まぁ良いか。
「それじゃああたし、そろそろ帰るね」
「そ、そっか。気をつけてね」
「うん、ありがと。あっ、その前に……」
あたしはベンチに置きっ放しにしていたリュックを取りに向かおうとしたところでもう一度彼の方へ視線を向けた。
「あたし、メルシア。よろしくね」
そして、自分の名前を彼に告げた。
「メルシア……。なんか、赤ブラのヒロインの名前に似てるかも」
「ふふっ、それあたしも思ったんだ」
"運命の赤いブランコ"のヒロインの名前はメルティーナ。少しだけあたしの名前と似ているのだ。ちょっとしたお気に入りポイントの一つだったりする。
「それで、君の名前は?」
「ぼくは
「ユウヒ……。主人公の名前に似てるじゃん」
「"優"が同じってだけだけどね」
「むぅ、つれないなぁ。まぁ良いけど。それじゃあまたね、ユウヒくん」
「うん、またね、メルシアちゃん」
そうしてあたしは荷物をまとめて公園を後にした。
今日はすごく楽しかった。良い出会いがあった。きっと、彼とは言いお友達になれるはずだ。そんな確信があたしの胸の中にあった。
あたしは行きと同じように走ってお兄ちゃんのお家まで帰っていくのだった。息とは全然違う心持で。