異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「暖かいねぇ、今日も♪」
「そうだな。日に日に気温が上がってきてるな」
家を出た俺たち二人は、住宅街を歩きながら暢気にそんなことを呟く。ちなみに、俺とユリシアは当然手を繋いでいる。いつも通りな俺たちに、他の通行人たちは生暖かい視線を送ってきている。彼らにとっても、もう見慣れた光景の一つになりつつあるはずである。そんな通行人たちからの視線など気にせず、俺たちはなおも会話を続ける。
「わたしがこっちの世界に来た頃はまだちょっと肌寒かったけど、今はすごく過ごしやすいね」
「そうだな、丁度良い気温かもな。けど、これからもっと暑くなるからな」
「暑いのは慣れてるし大丈夫。ヴィオレイウスは年中暑かったからね」
「そうだったな。慣れるまで大変だったな、そういえば」
ユリシアたちの元の世界、ヴィオレイウスは1年通して気温が高かった。もちろん、国によって多少の差はあるが、どの国・地域でも基本的に25℃を下回ることはなかったような気がする。
春夏秋冬によって暑かったり寒かったりを繰り返す日本の気候に順応していた俺にとって、ヴィオレイウスの気候はなかなか堪えるものがあった。勇者とは言えども、簡単に異世界の気候に順応できるような都合の良い身体には作り変えられていなかったため、召喚された初期の頃は本当に大変だった。何度も熱中症になりかけたもんなぁ。
まぁそのおかげで、暑さに対する抵抗力はかなりついたと思う。逆に、3年もの間ずっと寒い環境から離れてしまっていたので、正直冬が心配だ。寒さ耐性が損なわれていないと良いのだけど。
「汗とかいっぱいかいてたもんね、リョウ」
「すぐにタオルがびしょびしょになって大変だったな、あの頃は」
「あのタオルをオナニーに使ってたのも、何だか懐かしいなぁ」
「そうだなぁ……って、ちょっと待て。ユリシア、お前今何て言った?」
危うくさらっと聞き流しかけたが、俺はユリシアの発言におかしな点があることに遅れて気づき、慌ててユリシアに聞き返す。俺の聞き間違いでなければ、今ユリシアがしれっとかなりヤバい発言をしたのではないだろうか? タオルでオナニーが何とかって……。いや、聞き間違い……だよな? というか、聞き間違いであってほしいのだが……。
「んえ? えっと、リョウの汗が染み込んだタオルを使ってオナニーを……って、ああっ!! い、言っちゃったぁっ!! ずっと隠しておくつもりだったのにぃ……!!」
「お、俺の聞き間違いじゃなかったのか……」
どうやら本当に、ユリシアは俺の汗付きタオルでオナニーをしていたらしかった。いや、それは流石にマジでヤバいだろ……。ちょっと引くわ……。
でも確かに、時々使った後のタオルがなくなっていることがあったような……。あれは前部、ユリシアがオナニーのために持ち出していたから……ということだったのか……。
「リョ、リョウっ、わ、忘れてぇっ! お願いだから忘れてくだしゃいっ!!」
ユリシアは横から俺にしがみつき、涙目でそう懇願してくる。ユリシアとしても、流石にこのことについては自身の胸の内に留めておきたかったようで、ぽろっと口に出してしまったことにかなり後悔しているようだった。
俺としても、できれば聞きたくなかったなぁ……。俺のことを考えながらオナニーをしてくれていたということについてはすごく嬉しかったが、流石にこれはなぁ……。喜びの感情は湧いてこないわ……。
「あ、ああ……、このことについては忘れよう……、お互いに……。俺も、ユリシアをキ○ガイとは思いたくないから……」
「うわああああんっ、リョウにすごい引かれてるよぉ……!! ホント……、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう……」
しばらくユリシアはパニック状態に陥っていたが、少しして落ち着きを取り戻してくれた。ふぅ、良かった良かった。
ということで、俺もユリシアも先ほどユリシアが漏らした汗付きタオルオナニーの話については、封印し記憶から抹消することにした。お互いの精神衛生のために。だから、俺はもう何も覚えていません。
「と、ところでさ……」
二人の間の空気を変えるため、俺は新たな話をすることにした。さっきまでの話は覚えていないけど、正直滅茶苦茶気まずかった。だから、その気まずさを打ち消したかったのだ。何度も繰り返すようで申し訳ないが、先ほどまで話していた内容は覚えていない。……本当だ。
「う、うん……、何……かな……?」
ユリシアも、少し居心地は悪そうだったけど、俺の話に耳を傾けてくれていた。気まずい沈黙が二人の間に流れているのが嫌なのは、俺もユリシアも同じようだった。それが少し嬉しい。
「今日の朝のことなんだけど、どうして変な夢見たんだろうな? 最近、薊美さんと何かあったりしたのかなって思ってさ」
そう、ユリシアが見た夢について少し気になっていたのだ。以前にも同じようにユリシアが夢で魘されていたことがあったが、あの時はユリシアの精神状態が不安定だったのが原因であった。
だが、今回に関してはよく分からない。昨日までのユリシアは、特に情緒が不安定になっていたわけでもなく、いつもと変わらなかったように思う。
だが、意味もなく悪い夢を見るとも思えない。もしかするとユリシアは、俺の気づかないところで一人で悩んでいたのかもしれない。それに気づいてあげられなかったことに少し悔しさを覚えるが、きっと今からでも遅くはないだろう。今は、悔やんでいても仕方ない。
「あー、あれね。うーん、わたしにもよく分からないんだよね……」
「本当か? 何か悩んでいたりはしないか?」
「うん、平気だよ。えへへ、心配してくれてありがとうね、リョウ♡ でも、本当に何も心当たりがないんだよねぇ。確かにアザミは事あるごとにリョウに絡んでくるからちょっとウザいとは思ってるけど、別に悩んでるわけじゃないからなぁ」
俺の言葉にへにゃりと相貌を崩して笑うユリシアだったが、すぐに首をかしげてうんうんと唸る。ユリシアにも全く原因が分からないようだ。
にしても、相変わらず薊美さんには辛辣だなぁ、ユリシアの奴。まぁ確かに俺も、薊美さんはちょっとだけ鬱陶しいなぁと思っていないこともないが、別にウザいとまでは思っていない。彼女なりに俺にアピールしようとしてくれていることはちゃんと理解できるからな。もっとも、その思いに答えることはできないんだけど。
というか、未だに諦めようとしない薊美さんの信念は素直にすごいと思う。俺の何処にそんな執着するような点があるのかは分からないけど、彼女はきっと相当一途な人なのだろうということは容易に理解できる。
っとと、少し話が脱線したな。
「うーん、そっかぁ……。でも、理由なしにユリシアが変な夢を見るとも思えないんだよなぁ」
「確かにそうだよね。も、もしかして……、これから何か起こる予兆とか……だったりしないよね……? わたしの見た夢が正夢になる……とか……、そ、そんなんじゃないよね……?」
寂し気な瞳を俺に向けてくるユリシア。おっと、これは危ない兆候だ。ユリシアがネガティブモードになってしまいそうだ。というわけで俺は、ユリシアの頭を優しく撫でながらユリシアの問いに対して首を横に振って答える。
「んなわけないだろ? 夢の内容を現実に何てさせたりしないから安心しろ。俺は一生ユリシアの彼氏だよ」
「ふーん、彼氏止まりなんだぁ」
俺の返答で機嫌を直す……かと思ったら、逆に唇を尖らせて不機嫌そうに俺の顔を覗き込んできた。やってしまった……と思ったが、よく見るとユリシアの瞳は少し笑っていた。どうやら、俺のことをからかっているらしい。……くそっ、なんか悔しい……。
「俺の未来の嫁さんは面倒くさいなぁ。まっ、そういうところも好きなんだけどさ」
「えへへ、面倒な女でごめんね♪でも、こんなわたしでもちゃんと受け入れてくれるリョウ大好き♡」
結局イチャイチャに興じる俺たちだった。さっきまでユリシアの夢の話をしていたはずなんだけどなぁ。本当、俺たちの話ってすぐに横道に逸れるよな。それがまた楽しくはあるんだけど。
「でも、やっぱりちょっと気になるよな、ユリシアの夢。何か面倒なことが起こらないと良いんだけど」
「リョウ、それフラグかもよ?」
「変なこと言うのは止してくれ。というか、そもそも最初に予兆とか言い出したのはユリシアじゃないか。フラグが建ったとしても、それは俺じゃなくてユリシアが建てたものだから」
「そ、そうかもだけど……。ま、まぁ、とにかく何もないことを祈っとこうよ。最悪何か起きたとしても、わたしたちならきっと対処できるはずだし」
そう言って繋いだ手にぎゅっと力を籠めるユリシア。そんなユリシアの手からは、不安や怖れといった負の感情ではなく、二人なら何でもできるという自信が伝わってきていた。だから俺も、そんなユリシアの手を握り返す。
「ああ、そうだな。俺たち二人なら、何とかなるよな」
「うん、えへっ♡」
「ははっ。……って、ちょっとゆっくり歩きすぎたな。急ごう、ユリシア」
「あっ、うん、そうだね」
というわけで、俺とユリシアは速足で駅まで向かい、そこから電車に乗って学院の最寄り駅まで急いだのだった。電車内ではいつも通りユリシアに悪戯されました。コイツ、本当に懲りないよなぁ。
「何度も言ってるけど、電車の中では勘弁してくれよ……。周りの人たちにバレてないか、いつもドキドキしてるんだからさぁ……」
「ふふっ、スリルがあって良いじゃん♪それに、そう簡単にバレたりしないって♪心配しすぎだよ♪」
「はぁ……、まったく……。というか、どうせユリシアはお仕置きを楽しみにしてるだけだろ……?」
「えへへ、バレた?」
一切悪びれることなくユリシアは頷いてみせた。そんなユリシアの態度に、俺は大きな溜息を吐いてしまった。今日もユリシアさんは平常運転のようです。……なんだかんだ俺も楽しんでいるのだけど……。
「あっ、おーい! 二人とも!」
と、その時人ごみの中に、大きく手を振りながら俺たち二人のもとに駆け寄ってくる存在を見つけた。紗夜だ。
「おはよう、ユリちゃん♪それから、涼君♪」
「うん、おはよう、サヤ」
「おはよう、紗夜。いつも思うが、この人込みの中でよく身軽に動けるな。普通、誰かしら二ぶつかりそうなものなんだが……」
「それって、私のことおちょくってる? 私がちっこいから人の間をすいすい動けるって馬鹿にしてる? してるんだよね?」
「してないわ
などと、紗夜は朝の恒例になりつつある自虐ネタをぶっこんでくる。反応に困るので、俺は華麗にスルー。そんな俺たちのやり取りを、ユリシアは可笑しそうにクスクス笑いながら眺めていた。うん、平和だな。
それから少しの間その場で軽い雑談を交わしてから、俺たちは朱鷺舟に向けて歩みを進める。その道中、
「あっ、そういえば今日って体力テストだったよね、午前中いっぱい」
「あー、そうだったな。面倒だな……」
今日は朝から体力テストが行われるのだ。正直、面倒くさいの一言に尽きるのだが、流石に学院の取り決めた日程をすっぽかすわけにもいかない。だから、面倒ではあるが一応真面目に参加はする。
「涼君って運動苦手……なわけないよね? この間私たちを助けてくれた時、ロープ引き千切ってたもんね。なのに面倒なんだ」
「元々インドア派の人間だからね。運動はできても、やっぱり身体動かすのは好きじゃないかな」
「あー、それは分かるなぁ。というか、私に関しては運動が苦手でもあるんだけどねぇ、あはは……、はぁ……」
そう言って乾いた笑みを溢す紗夜。そんな紗夜の全身から運動やりたくないですオーラが噴き出していた。こりゃ、相当運動が苦手なようだな。
「わたしも、あんまり身体動かしたくないなぁ。面倒だし」
「でもどうせ、ユリちゃんも運動できるんでしょ? 勉強もできて運動もできるなんて、ホント羨ましいよ、まったく……」
「リョ、リョウほどできないって」
「俺だって、大したことないさ」
そんなことないというのは自分たちが一番よく分かっている。なんせ、常人の域を遥かに超えるステータスを持っているのだから。俺も、そしてユリシアも。
そんな俺たちがガチで運動をしたりしたらどうなるか? そんなことは分かりきっている。たちまち注目の的となることだろう。
それは嫌だ。もう既にかなりの注目を集めてしまっている俺たちだが、これ以上の注目は本当に要らない。マジで勘弁してほしい。俺たちに、もっと平凡な学園生活を送らせてほしいのだ。
「余裕の表情でロープ引き千切ってた人が良く言うよ……。ホント……、ものすごいハイスペックなオタク君と友達になっちゃったなぁ……」
「後悔してる?」
「いや、全然。勉強も運動も完璧な友人がいるなんて、誇らしいことこの上ないよ」
「だよねぇ♪わたしも、こんなすごい人を彼氏にできて超幸せだもん♪」
「くっ、リア充目……。見せつけてくれるじゃん……。そんなユリちゃんは……、こうしてやるっ!!」
「ちょっ、サ、サヤっ!? 止め……ひやんっ……」
相変わらず仲いいなぁ、この二人。止めて止めてなんて言いながら、ユリシアの表情は笑っていた。一方、紗夜の表情も楽し気に緩んでいる。何というか、この二人のやり取りを見ているとすごく和む。安心感があるよな。
「気をつけろよー。ちゃんと前見て歩けよー」
目の前で人の彼女の乳を揉む友人と、友人に胸を揉まれてくすぐったそうに身を捩る我が彼女に、俺は一応そう注意を促す。言ったところでほとんど意味ないことは分かっているが。
「んあんっ……、あっ……リョウも揉む?」
「揉みません」
「むぅ、じゃあ仕方ない……」
「ホント大きいなぁ……、畜生……!! 私もこんくらいおっぱい欲しいなぁ……。うりゃうりゃ、ちょっとくらい私に寄こせぇ!」
「ブ、ブラずれちゃうからあんま激しくしないでよぉ!!」
「おーい、そろそろ学校着くからその辺でストップしとけよ」
流石に他の学生たちの目も気になってきたので、俺はやや強引に二人を引き剥がす。ユリシアの胸を紗夜に弄られることは別に何とも思っていないが、それを他の連中に見せるのは嫌なのでな。……別に、紗夜に嫉妬していたわけではないからな? 本当だぞ? だって、家に帰れば幾らでも好きにできるしな。
「んもぅ、良いところだったのにぃ」
「リョウ、ありがとう、助かった。危うくサヤにわたしのおっぱい奪われるところだった。サヤにはあげないもん」
「あはは、分かってるよ。そのおっぱいは涼君のものなんだもんね」
「その通り♡」
「あ、あの……、外でそういうことを言うのは……ちょっと……」
そんなやり取りをしながら、俺たち3人は朱鷺舟の敷地内へと入っていくのだった。いつも通り、周囲からの注目を浴びながら。……この視線は気にしちゃ負けだ。