異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
学校に到着したわたしは一度リョウと別れ、サヤと一緒に1年C組の教室に入った。わたしたちの登校時間は遅くもなく早くもなくという時間なので、教室内の席は疎らに埋まっていた。
わたしとサヤが教室に入ると、クラスメイト達からおはようと朝の挨拶を投げかけられる。わたしたちも挨拶を返すが、それ以上は何も話さない。入学してもうすぐ1カ月が経とうとしているが、わたしもサヤもまだあまり他のクラスメイト達と親しくなれていない。ホントはもっと積極的になりたいんだけどね。
わたしは自身のコミュ障っぷりに呆れて小さく溜息を吐きつつ、学習机の合間を縫って窓際近くの自分の席に向かう。まぁ、溜息の理由はそれだけじゃないのだけど。
「席、もっと前の方が良いのになぁ……。ついでに廊下側が良いんだけど……」
思わずぼそりと呟いてしまう。これはわたしの毎朝恒例のぼやきだったりする。今のわたしの位置だと、隣の1年B組の教室にいるリョウの席から大分離れてしまっているのだ。それを考えると、どうしても溜息がこぼれてしまう。
とまぁ、朝から2つの理由で若干憂鬱になりながら、わたしは自分の席に着席し、持っていた鞄を机の脇のフックにかける。それからわたしは気分を変えるために、目を閉じて今日の放課後に思いを馳せる。リョウとやりたいこと……主にえっちなことなんだけど……、ま、まぁそういうことを考えていれば落ち込みかけていたわたしの気分も大分マシになるのである。
ただ、こういう時に困るのが、あまりに妄想を膨らませすぎて少し身体が火照ってしまう、ということだろうか。正直、リョウとのあれこれを妄想するのは、わたしにとっては両刃の剣だったりする。
こういうことをしているから、結局放課後まで我慢できずにお昼休みにリョウにエッチのおねだりをしてしまうわけである。それでも止めるつもりはないんだけどね。
それからしばらくしてチャイムの音色がわたしの耳に届く。その音を聞いて、わたしは妄想の世界から現実世界へと意識を戻すように閉じていた眼瞼を開く。すると、教室内の席は全て埋まっていた。今日も遅刻者はなく、全員時間通りに着席したようだった。
そうして間もなく教室の前扉が開き、担任教師が教室内に入ってきた。のんびりとした歩調で教壇に近づき、そしてわたしたち学生へと向き直る。その表情にはいつも通りの柔和な笑みがあった。
「皆さん、おはようございますー」
と、間延びした挨拶をする担任教師。入学当時のわたしの勝手なイメージだと、こういう秀才校って教員とかもみんなお堅い感じなんだろうなぁって思っていただけに、うちのクラスの担任を初めに見た時はかなり驚いたものだ。こんなのんびりした先生もいるものなんだなぁと。
でも、よく考えたら頭が良い人=お堅いというイメージは違うよね。だって、リョウだって頭は良いけど別にお堅い感じはしないし。優しくて面白くて、それでいてすごくえっちだし……っていうのは今は置いといて……。
まぁとにかく、勝手な固定概念を持つのは良くないよね。この学校に来て早々、そんなことを再認識させられたわけだ。
「皆さんご存じだとは思いますが、今日の午前中は体力テストですー。なのでー、このHRが終わったら各自運動着に着替えて体育館に集まってくださいねー」
そんなことを考えている間にも、担任教師は話を続けていた。この先生はのんびりしているように見えて、伝えるべき情報は絶対に忘れず伝えてくれる。とてもしっかりした人だと思う。
「午後は平常通り授業ですからねー。忘れないようにー。それではー、朝のHRを終わりますよー」
そう言って最後にふんわりと微笑んだ担任教師は、教団の上に置いた名簿を手に取って教室を去っていった。すると途端に教室内はクラスメイト達の声で溢れ返る。
そんな彼らの賑やかな話し声をBGMに、わたしは席を立ち教室後方にあるロッカーへと近づいた。そして、わたしの名前が書かれたロッカーから運動着の入った袋を取り出す。ふと横を見ると、サヤもわたしと同じようにロッカーから荷物を取り出していた。
わたしはロッカーの扉を閉めると、袋を手に持ってサヤのもとへと近づいた。サヤも、わたしが近づいてくることに気づいてにこりと微笑む。
「サヤ、更衣室行こう」
「うん、そうだね。込み合う前に早く着替えちゃおう」
そうしてわたしたち二人は連れ立って1年C組の教室を後にする。廊下の先を見ると、A組やB組の教室からも更衣室に移動する学生たちがちらほら現れ始めていた。お察しの通り、今日はA組からC組まで合同で体力テストを行う。
「リョウは……いないなぁ。もう移動しちゃったのかな」
「っぽいね。って、ユリちゃん、顔ヤバいよ……?」
通り掛けにB組の教室内を覗き込むが、リョウやテラダ君の姿は何処にもなかった。彼らは既に更衣室に移動してしまっていたようだ。そのことを少し残念に思っていると、サヤが心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。
「ヤ、ヤバい……?」
「う、うん……。一目見てすごく落ち込んでることが分かる顔だよ」
「えっ、そんなに?」
「自覚なかったんだ……」
どうやらわたしは、自分で思っている以上に残念がっていたようだ。なんかもうホント、リョウなしじゃ生きていけない身体になっちゃったなぁ、わたし。しかも、日に日にリョウへの依存心が強くなってる気がするし。まぁ、別にそれを悪いことと思ったりはしないけど。
「ユリちゃん、涼君のこと大好きすぎでしょ、ホントに。まったく、羨ましいったらありゃしないよ」
「し、仕方ないでしょ、大好きなんだもん」
「そういうところだよ、ユリちゃん。はぁ、まぁ良いけど。ほら、立ち止まってないで早く更衣室行こうよ」
「あっ、うん」
というわけで、わたしたちは止めていた足を再び動かし、長い廊下を進む。途中階段を下り、やがてわたしたちは校舎隣の別棟までやってきた。
別棟には、以前入学式や新歓を行った講堂がある。そこに体育館や更衣室も入っているわけだ。ちなみに、体育館と更衣室はここの地下にある。
わたしたちは別棟に入りすぐ傍の階段を下る。地下1階に来ると、すぐ目の前に大きな扉が見える。体育館の入り口である。
更衣室はその両脇にあり、左が男子、右が女子という感じになっている。わたしとサヤは右の扉に近づくと、ポケットから学生証を取り出し、そこに記載されたバーコードを扉にかざす。
「いやぁ、便利だよねぇ、これ」
「だね。こんな感じにセキュリティしっかりしていれば、覗きの心配もないし。わたし、リョウ以外の男に肌見せるつもりないし」
「はいはい、知ってるよ。っと、認証完了だね。さっ、それじゃあ入ろ」
サヤはわたしの言動に若干呆れ気味に返事をし、そして扉を開けて中に入ろうと促してくる。
のろけているつもりはないんだけど、いつの間にかそういう言動になってしまう。悪気はないのだけど、サヤからしたら複雑なのかもしれない。そりゃ、あんなことがあったわけだしね。まだ引っかかるものがあるんだろうね。だから、申し訳ないという気持ちはあるのだ。それでも、ふとした時に口からこぼれちゃうんだよねぇ……。困ったものだ。
などと考えながら、わたしも開いた扉の隙間に身体を滑り込ませた。横着して狭い隙間に無理矢理身体を滑らせた所為で、おっぱいがちょっとだけ扉に引っかかってしまった。
「くっ……、このおっぱいめ……」
「ご、ごめんってば……」
「その謝罪はある意味侮辱だからね?」
「じゃあわたしはどうすれば良いの……!?」
などとわちゃわちゃ言い合いながら、閉め切られた厚手のカーテンをそっと開く。その途端、もわっとした嫌な空気が身体に纏わりつくのが分かった。それと同時に、複数の香水が入り混じった強烈な臭いが鼻を突く。
「うわぁ、結構いるね」
「早めに来たつもりだったけど、他のクラスの人たちの方が早かったみたい。ってか、こんだけ人集まると空気とか臭いが気になるね」
「あはは、確かに」
男は女の臭いを"良い匂い"とか言うけど、女が群れればかなりきつい臭いになる。というかそもそも、女同士では相手をあんまり"良い匂い"とは思わない。相手の使っている香水とかシャンプーを"良い匂い"と言って褒め合うことはあるけど。もちろん、香水だってつけすぎればただの刺激臭でしかなくなるしね。それについては流石に男でも普通に分かるとは思うけど。
まぁ、フェロモンとかそういうのが女=良い匂いという男の中の価値観に結び付けているのだろうけど、実際女同士だとこんなものなのだ。何なら、わたしにとっての良い匂いはリョウの匂いだしね。
「空いてる場所は……」
わたしたちは更衣室内をぐるりと見まわし、何処か空いている棚がないか探す。すると、わたしたちの目線がとある一点でぴたりと止まる。見知った顔を見つけたのだ。
向こうもこちらの存在に気づいたようで、わたしたちにちょいちょいと手招きしてきた。わたしたちは招かれるまま彼女のもとへと歩み寄る。
「おはようございます、紗夜さん。それと……えっと……、何方だったかしら?」
「あ?」
「冗談ですわよ。短気ですわね、ユリシアさんは」
わたしたちに手招きしてきた存在……アザミがそんな挑発をしてくる。反応したら負けだということは充分分かっているつもりなのだけど、何故かこいつにこういうことを言われると無性に腹が立つ。
「アザミがいちいちわたしの神経を逆撫でするからでしょうが……。なんでそう、嫌味しか言えないのよ、お前は」
「ワタクシ、そんなつもりは毛頭ありませんわよ?」
「こいつ……」
「もぅ、二人は朝からそんな……」
わたしとアザミのやり取りに、サヤは呆れたように嘆息する。わたしだってできればイライラを押しとどめてアザミの嫌味を軽く受け流してやりたい。けど、こいつの言動は毎度的確に私の嫌な部分を刺激してくるのだ。厄介極まりない。
「薊美さんはあんまりユリちゃんを刺激しない。ユリちゃんも、殺気はしまってよね。怖いんだよ?あれ」
「ご、ごめん……」
「ふふっ、心配することはありませんわ、紗夜さん。あれはワタクシたちなりのコミュニケーションですわ。そうですわよね? ユリシアさん」
「お前は黙ってろ」
「ユリちゃん、言葉遣い……」
ホント、アザミにはいつも調子を狂わされる。ウザい……。それもこれも全部、わたしがリョウと恋人関係にあることを根に持っているからこそのウザ絡みだということは理解している。
「あのさぁ、いつも言ってるけど、そろそろ諦めてよ……。わたしとリョウは別れたりしないから……」
「えっ、ユリシアさん……、大丈夫ですか? ワタクシ、今とても心配になってしまいましたわよ……?」
「は?」
「いえ、だって……そんな妄想を平気で口にしているのですから……」
「あ? むしろお前が何言ってんの?」
「あー、ダメだ……。私じゃこの二人を止められないよぉ……。助けて……、涼君……、マジで……」
わたしとアザミが言い合いをしている横で、サヤは頭を抱えてしまっていた。だが、こればかりはわたしも我慢ならない。リョウとわたしが恋人なのはわたしの妄想? ふざけるな。冗談だとしても、言って良いことと悪いことがある。
「リョウは絶対渡さないし」
「それはどうでしょうね?」
「ウ、ウザい……。こいつマジウザい……」
「ほら、さっさと着替えたらどうです?」
「い、言われなくても分かってるし……」
わたしはやや乱暴に持ってきた袋を棚に押し込む。それから袋の中身をあさり、運動着を引っ張り出す。右隣で未だに嫌味をぼそぼそ呟くアザミは無視。そうでもしないと精神が持たない。
アザミとは反対側の左隣では、先ほどまで頭を抱えていたサヤがわたしと同じように棚に置いた荷物から自身の運動服を取り出していた。
「そういえば、こうして着替える時、隠す人と隠さない人で分かれるよね」
ふとそんな疑問を口にするわたし。
「まぁ、自分のスタイルに自信ある人は隠さないんじゃない?」
「ワタクシは隠しませんわ。コソコソするのは好きじゃありませんので」
「ふーん、そういうものなのね」
二人の回答を聞いてわたしはなるほどと頷く。右隣では、確かにアザミが堂々と自身の下着姿をさらしていた。恥ずかしがる様子は全くない。むしろ、かなり自信満々のように思えた。
まぁでも、アザミのプロポーションは普通に自信持てるものだとは思う。程良く膨らんだ胸部、引き締まった腰、そしてすらりと長い脚……。服を脱いだ姿は初めて見たけど、冗談抜きでスタイル良いと思ってしまった。
「薊美さん、スタイル良いね」
「ふふっ、当然ですわ」
「ホント、腹立つくらいにスタイル良いなぁ……」
「あら、貴女が褒めてくれるなんて珍しいですわね」
「じ、事実だし……。こんなことで嘘吐いたりしないし……」
わたしはアザミから目を逸らしながらぼそりとそう吐き捨てる。本当は不本意極まりないんだよ? アザミを褒めるなんて。でも、ちょっと羨ましいなぁなんて思ってしまったのもまた事実なわけで……。
……でも、よく考えたらわたしの身体つきがリョウのドストライクなんだよね。なら、別に嘆くようなことは何もないじゃん……。うわぁ、失敗した……。アザミへの褒め言葉を口にした後でわたしは自身の言動に後悔させられてしまった。くっ、屈辱……。
「それに、つけてる下着もすごく綺麗だよね」
「女たる者、常に細部まで気を遣うものですわよ。どうせ見られないからと油断していたら、肝心な時に失敗してしまいますわ」
そう言うアザミの今日の下着は一見シンプルな白なのだが、ところどころにピンクのレースが付いており、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「べ、勉強になります」
「……でも、そういう割には紗夜さんも充分可愛らしい下着をつけているではありませんか」
「そ、そう……かな?」
サヤは結構可愛いものが好きだったりする。いつも着替えの時は隠しちゃうけど、たまにチラチラ見えるサヤの下着はどれも可愛いデザインのものばかりだった。
特にリボンが好きなのか、わたしが見たことあるサヤの下着はどれもリボンがあしらわれていたと思う。
「サヤの下着、可愛い」
「ま、まぁ……、私くらいのサイズだとデザインも結構充実してるしね……。うぅ……、自分で言ってて悲しくなってきたよぉ……」
「って言うけど、サヤって嘆くほど胸小さくないよね?」
「ええ、ワタクシもそう思いますわ」
わたしとアザミの二人は、水色の下着に包まれたサヤの胸に視線を注ぎながらそんな言葉を漏らす。
「そりゃ、ブラで多少寄せてるからね……。だって私、サイズAだし……」
「え、えっと……、ま、まぁでも、女は胸が全てじゃありませんわ」
「そ、それに、まだ高1なんだし、きっと成長するよ。サヤはあれだよ、きっと遅咲きなんだよ、うん」
表情に影を落とし始めたサヤに対し、わたしたちは必死でフォローを入れる。サヤの前で胸の話題を持ち出すのはそろそろ止めにした方が良いのかも……。いやでも、サヤってたまに自分から胸の話題持ち出してくるような……?
「ま、まぁ、とにかく諦めてはいけませんわ、紗夜さん」
「うん、ありがとう、薊美さん。ユリちゃん」
「ふぅ。にしても、紗夜さんに比べてユリシアさんは……」
ひとまず波は去ったと言うように一つ息を吐いたアザミは、今度はわたしに対して何処か馬鹿にしたような瞳を向けてくる。
「な、何よ……」
「何というか……、地味……ですわよね……」
「う、うるさいなぁ……。着心地が良いんだから別に良いでしょ……」
「そんなんじゃ、すぐに涼さんに捨てられてしまいますわね。ふふっ、ワタクシとしては願ったり叶ったりですけど」
「リョ、リョウはこういうのでも喜んでくれるし……。そ、それに、もっと大人っぽいやつだって持ってるし……。学校には着てきてないだけで……」
「そ、それってつまり……、エ、エッチ用……とか?」
サヤの問いかけにわたしは無言で頷く。以前リョウがプレゼントしてくれた布面積の少ない紫色の下着はもちろんのこと、その他にも幾つかエッチ用の下着は持っている。というか買った。リョウにもっともっと喜んでほしかったから。
「うひぃ……、お、大人だなぁ……、ユリちゃん……」
「ぐぬぬ……、つまりその下着は貴女の仮の姿……ということなのですわね……」
「だ、だって、あんなの学校に着てこれないし……」
「そ、そんなにヤバいやつなの……?」
「……割と」
サヤが顔を真っ赤にしながら、それでも興味津々といったようにわたしのエッチ用下着コレクションについて聞いてくる。恥ずかしくはあったけど、一応サヤの質問にはなるべく答えた。半分はアザミに対する自慢だけど……。というか、こうでもしないとアザミの奴諦めてくれないし。多分、こういう話をしたところで諦めないだろうけど。
「ま、股割れ……!? え、えっちだぁ……、すごくえっちだぁ……」
「あ、あれ履いた時のリョウの興奮っぷりはすごかった……かな……。わたし……、へとへとになるまで……」
「嫌ですわっ! 嫌ですわっ! 聞きたくありませんわっ!!」
「そ、それで? ど、どうなったの? ユリちゃん」
「紗夜さんっ!?」
そんな感じで、わたしとリョウとのエッチのお話を二人に披露しながら、わたしたちは各々運動服に袖を通していった。多分、すごくうるさかったと思う。けど、誰もわたしたちを咎めたりはしなかった。もしかしたら、みんなわたしの話を聞いてたのかな。
「まったく……、どうして貴女はいつもいつも……」
「お前だっていつもわたしにちょっかいかけてきてるじゃん……。そのお返し……。というか、ああいうことできるくらいわたしとリョウはラブラブなんだから、そろそろ諦めてよ、ホントに」
「いいえ、諦めませんわっ。いずれ絶対に貴女から涼さんを奪い取ってみせますわ。どんなことをしてでも……」
「あはは……、それは止めといた方が良いよ……? 怒ったユリちゃん、何するか分からないし……」
「ワタクシは負けませんわよっ!!」
そんな会話を交わしながら、わたしたちは更衣室を後にして体育館へと向かうのだった。わたし、アザミには絶対負けないし。リョウは絶対奪わせないから。