※この作品はR-18です。

異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~   作:室谷 竜司

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体力テスト開始。アザミとわたし、女の意地をかけた戦い。……でも、ぶっちゃけ負ける気がしないんだよねぇ

 体育館に入ると、そこには既にちらほら学生の姿があった。多分、みんなA組かB組の人たちだろう。わたしもサヤも、少なくともC組の中じゃ一番最初に更衣室に入ったはずだし。

 

「うへぇ……、ホントに準備されてるよぉ……」

 

 サヤは体育館内を見渡しながら何とも憂鬱そうにそんなことを言う。サヤの言う通り、体育館内には体力テストで使うであろう様々な機材が準備されていた。

 

 なるほど、ああいう器具を使って人の身体能力を計測するのか。目にするのは初めてなので、わたしの視線は体育館内のあちらこちらに置かれた未知の測定器具たちに目移りしてしまう。

 

 ヴィオレイウスにはあんなもの存在しないからね。それに、アメイズ様からいただいたこの世界に関する記憶の中にも詳しい内容はなかったし。そういうものを直接目にすると、やはり好奇心が疼いてしまうものだ。

 

 けど、この世界の人たちからすれば、体力テストに用いる測定器具など何も不思議なものじゃないはずである。きっと興味を持つ対象にもならないだろう。

 

 だから、わたしもなるべく平静を装う。珍しくもなんともない代物に目を輝かせていたらきっと変人だと思われる。悪目立ちするのは流石にちょっと嫌だ。

 

「これから体力テストなのですから、準備されているのは当り前ですわ」

 

 負のオーラ全開のサヤの言葉に、アザミは何か変なことでも?と言いたげな口調でそう返す。まぁ、サヤの事情を知らなければそういう反応になるよね。

 

「うん……、そうなんだけどね……。はぁ……、体力テスト……嫌だなぁ……。運動したくないなぁ……」

 

 アザミの返しに力なく笑うサヤ。そして、重々しい溜息とともにその口から本音がこぼれ出る。サヤは体育の授業がある度にこうなる。まだ入学して1ヶ月ではあるが、サヤはクラスメイト全員から"運動嫌いな子"として認識され始めている。まぁ、毎度のようにこんな沈んでいれば誰だってそういうイメージを持つよね。

 

「運動はお嫌いですか?」

 

「うん、大嫌い……。苦手でもあるし……」

 

「でも、先ほどまで平然としていらっしゃいませんでした?」

 

 確かに、先ほどまでのサヤは大して憂鬱そうな面持ちではなかった。けど、これもいつものことである。サヤはいつも、運動着を着て体育館に入るとこうなるのだ。これは体育館だけではなくグラウンドでも同じである。

 

「なるべく現実逃避するよう努力してるからね……。けど、体育館に入ると途端に現実を突きつけられるんだよぉ……、ううぅ……」

 

「こ、これは……、なかなか重症ですわね……」

 

「こういう時はそっとしといたげて」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 サヤの様子に動揺するアザミに対し、わたしはそう耳打ちする。するとアザミはこくこくと頷いてくれた。リョウ以外のことになると、わたしに対しても案外素直な奴なのだ。だからわたしも嫌いになれない。

 

「ん? おっ、来てたのか。よっす、みんな」

 

 がっくりと肩を落とすサヤの横でわたしとアザミが頷き合っていると、不意に少し離れたところからそう声をかけられる。声の主はリョウだ。

 

「あっ、リョウ、やっほ♪」

 

 わたしは片手を挙げてリョウにそう返事をする。リョウの姿を見つけることができたことで、わたしの心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。やはり、リョウのわたしに対する影響力はすごいや。

 

「あら、涼さん♪おはようございます♪」

 

 続けてアザミが全身から「私、幸せです」オーラを放出させてリョウにそう挨拶し、そしてリョウに駆け寄っていく。そんなアザミの表情はだらしなく緩んでいた。気品もクソもない。

 

「う、うん、おはよう、薊美さん……」

 

 そんなアザミの様子に引き気味のリョウ。そりゃそうだよね、顔合わせたら突然表情筋をゆるゆるに弛緩させて近寄られるんだもん。ある意味ホラーでしょ、これ。そういう反応になるのは仕方ないよね。

 

「リョウがドン引きしてるからその顔止めろ」

 

「涼さんはドン引きなどしておりませんわよ? ただ単に、ワタクシを前にして照れてしまわれているだけですわ。そうですわよね? 涼さん」

 

「はぁ……、頭が痛い……」

 

 嫌いじゃないけど、やっぱりこいつはウザい……。というか、どうしてそこまで自信過剰になれるのだろう……。そこだけは素直にすごいと言える。そこに痺れたり憧れたりなんてしないけどね……。

 

「え、えっと……、べ、別に引いてはいないけど……」

 

「ほら、ワタクシの言った通りでしょう? ユリシアさん」

 

「話を最後まで聞きなさいよ……」

 

「なんでだろう……、普段ボケ担当みたいなところがあるユリシアが、薊美さんといる時だけは滅茶苦茶まともに見える……」

 

 ぼそりとそんなことを呟くリョウ。誰にも聞こえないよう相当声を絞ったみたいだけど、残念ながらわたしには聞こえている。ってか、いつもはボケ担当ってどういうことよ!? わたし、そんなにボケかましているつもりないんだけど!?

 

「リョウ、後で覚えとけよぉ……」

 

「おっと、聞こえてたか……、すまんすまん。アホっぽいユリシアも、今のまともなユリシアも、俺はどっちも好きだぞ?」

 

「え、えへへへへ……♡ って、ちっがうわよ!! そういう問題じゃないっ!!」

 

 危うく騙されるところだった。リョウめ、好きって言えば何でも許されるとか思ってるな……? わたし、そんなちょろくないし……、ない……し……。

 

「おおぅ、良いノリツッコミだったな。でもな、全然迫力ないんだわ……」

 

 騙されるものか……と思いながらも、わたしの顔は全然引き締まってくれない……。あと、尻尾が勢いよく揺れるのを止められない……。わたし、ちょろくないのにぃ……、ふへへへへへ……。

 

「ユリシアさん、顔酷いことになってますわよ? なんとだらしない……。女として失格ですわ」

 

 が、次の瞬間わたしは急激に頭が冷えていくのを感じた。そりゃそうだろう。なんせ、アザミの発言は完全に特大ブーメランなのだから。

 

「お前にだけは言われたくないわよっ!!」

 

「痛いっ、痛いですわっ!! た、叩くの止めてくださいましぃ!!」

 

 頭に血が上ったわたしは、バシバシと何度もアザミの肩を叩く。もちろん、本気は出さない。そんなことしたら流血騒ぎどころの話じゃなくなるから。

 

 だが、たとえ手加減していても、わたしは勇者の加護を受けているわけで……。そんなわたしに叩かれているアザミは少し涙目だった。けど、わたしは止めない。手加減してあげているだけありがたいと思え。

 

「はい、ユリシア、ストップな」

 

「リョ、リョウ!? て、手加減はしてるから心配要らないよ……? だ、だから……」

 

「そういう問題じゃないからな?」

 

「むぅ……、納得いかないぃ……」

 

 リョウに腕を掴まれて止められてしまった。けど、リョウに言われたら止めるしかない。全然スッキリできてないけど。

 

「涼さん、ワタクシのことを助けてくださりありがとうございます♡ やはり涼さんは素晴らしい殿方ですわ♡」

 

「ま、まぁ、彼女の暴走を止めるのも彼氏の仕事だしね」

 

 そう言いながらリョウはわたしの頭を優しく撫でてくれる。だから……、わたしはそんなにちょろくないんだってば……。頭撫でられただけで期限直したりなんて……。

 

「えへへへへ……♡ リョウの頭なでなでだぁ♡」

 

 ごめん、訂正。わたし、ちょろい女です……。強がったりしてすみませんでした……。リョウに対してだけは滅茶苦茶ちょろい女なんです……、わたし……。って、知ってるとか言った人、今すぐ出てきなさいっ!

 

「ぐぬぬぅ……、ユリシアさん……妬ましいですわ……」

 

 アザミが歯ぎしりしながらわたしたちの様子を羨ましそうに見つめてくる。ここでどや顔なんかしたら火に油を注ぎそうだなぁ……。だから、それは止めておいた方が良いかも……。

 

「ふふん、羨ましいだろ?」

 

 だが断る! これまでにもこいつは散々わたしを煽ってきていたんだ。これはその鬱憤晴らしなのだ。

 

「く、悔しいですわ……、悔しいですわぁっ!!」

 

「相変わらず賑やかだねぇ」

 

 キッとわたしを睨みつけてくるアザミの後ろから、苦笑を浮かべたテラダ君が顔を覗かせる。運動着に着替えたことによって露わになった彼の手足はとても細くて、それでいて白かった。まるで女の子のように……。

 

「あっ、おはよう、テラダ君」

 

「うん、おはよう、フォクサローゼリスさん。それと……、薊美さんも……。って、今はあんまり話しかけない方が良いかもね……。陸下さん……も、なんかすごくどんよりしてるね……」

 

 テラダ君はアザミとサヤに視線を向けながら再度苦笑する。彼がこうして苦笑を浮かべるのは日常茶飯事だ。主にアザミに対して。

 

「あと、君たちは自然な感じでイチャつかないで。見てるこっちが恥ずかしくなるから。というか、独り身のボクには眩しすぎるよ」

 

 そして、わたしとリョウにも、その苦笑が向けられた。もしかしたら、わたしとリョウも彼を疲れさせている一因なのかもしれない。

 

 まぁ、これがいつものメンバーだ。アザミとかアザミとかアザミがすごく騒がしいけど、案外楽しかったりする。わたしは、リョウに頭を撫でられながらいつメンを見渡し、そしてにこりと微笑むのだった。

 

「わっ、気がついたら涼君とユリちゃんがまーたイチャついてる……」

 

「あ、サヤが復活した」

 

「おはよう、紗夜」

 

 それから時間になるまで、わたしたちは他愛もない雑談に花を咲かせていた。

 

    *

 

 あれからすぐに1年生全員が体育館に集合し、それと同時に体育教師が姿を現した。そして今日の体力テストについて改めて説明された後、一人一人に用紙が配られた。この用紙に体力テストの結果を記入す量だ。

 

 それから、教師の号令で解散となり、各自自由にテスト種目をこなしていく。わたしはリョウと行動しようかなとも思ったけど、人が多い所為でリョウを見失ってしまい、結局サヤとアザミと3人で回ることとなった。

 

「うぅ、まだ少し肩が痛みますわ……」

 

「ご、ごめんってば……。でも、あれはお互い様でしょ……」

 

「ちょっと何をおっしゃっているのかよく分かりませんわね」

 

「あっそ」

 

 などと、道中わたしとアザミは軽口をたたき合う。そんなわたしたちの様子をサヤは呆れた表情で傍観していた。

 

 そうして、わたしたちが最初にやってきたのは体育館内の一角、長座体前屈の計測コーナーだった。

 

「ワタクシ、身体の柔らかさには自信がありますわよ」

 

「お前、基本的に何に対しても自信満々だよね……」

 

「そんなことありませんわよ? ワタクシにだって苦手なことはありますわよ」

 

「ふーん、例えば?」

 

「ユリシアさんのようにか弱い乙女をバシバシ叩いたり……」

 

「だからごめんって……」

 

「ほら、二人とも。そろそろ私たちの番だよ?」

 

 サヤに言われてアザミから視線を外し前を見ると、確かにわたしたちの前には列がなく、一番先頭まで来ていた。

 

「ユリシアさん、勝負ですわ」

 

「勝負?」

 

 すると、いきなり隣からアザミにそんなことを言われる。事あるごとにわたしに対して対抗心を燃やしてくるの、止めてほしいんだけどなぁ。

 

「今日の体力テスト、どちらの方がより優れているか勝負しましょう。総合結果で勝った方が、今日のお昼涼さんの隣に座れる、というのでどうですか?」

 

「……やらないとダメ?」

 

「別に構いませんわよ。その場合、無条件で涼さんの隣はワタクシ、ということになりますが」

 

「はぁ……、分かった。やれば良いんでしょ、やれば……」

 

 わたしは溜息を吐きながらアザミにそう返事する。正直面倒ではあるけど、リョウのこととなればやらないわけにはいかない。こいつにリョウは渡さない。

 

「別に無理しなくて良いんですよ?」

 

「無理はしてない。面倒ではあるけど。でも、お前にリョウの隣の席に座る権利は渡したくないから」

 

「まぁ良いですわ。どうせワタクシが勝つのですから」

 

 自信満々なアザミには申し訳ないけど、どう足掻いても勇者のパートナーであるわたしには勝てないと思う。本気を出さずとも、情人以上の力は発揮できるし、わたし。

 

 けど、あまり目立たないように気をつけながらアザミよりも良い記録を出すというのはなかなか難しいかもしれない。これでもしアザミが運動苦手だったらまだ楽だろうが、この口ぶりから察するにそれなりに運動はできるのだろう。うーん、良い感じに力加減できると良いけど……。

 

 などと考えている間に前の人の計測が終わり、次はいよいよわたしたちの番となった。なお、計測器に一番近かったサヤから順番に測ることとなった。

 

「んぬぬぬ……」

 

 そんなうめき声とともに、サヤが上半身を前に倒す。すると、両手を乗せた台も合わせて前へ統べる。

 

「42cmですね」

 

 そして、計測担当の先生が数字を読み上げる。42センチって数値は良いのか悪いのか、わたしにはよく分からないけど……

 

「じゃあもう1回ね。もう少しリラックスした方が良いよ」

 

「は、はい、分かりました。んぐぐぐ……」

 

 先生の反応的に、微妙な数値なのかな……。サヤの様子を見る限り、決して柔軟性がないわけじゃないようだけど……。

 

「えっと……、40cmね」

 

「あれ……? さっきより下がってる……」

 

「あはは、ちょっと身体に力入りすぎてたかもね。はい、貴女はこれでおしまいね。それじゃあ次は……」

 

「ワタクシですわね」

 

 先生から記録用紙を受け取ったサヤはその場から立ち上がり、薊と場所を交代した。さてさて、さっき自信満々に"身体が柔らかい"と胸を張っていたアザミは、果たしてどれくらいの数値を叩きだしてくれるのかなぁ……? わたしはニヤニヤしながらアザミの様子を見守る。

 

「ユリシアさん、貴女にジロジロ見つめられても嬉しくもなんともありませんわよ。というかむしろ、ちょっと気持ち悪いですわ」

 

「べ、別に見つめてないし……」

 

「ま、まるでツンデレみたいな……」

 

「そういうのじゃないから……、ホントに……」

 

「う、うん、分かってる。ただ、セリフがそれっぽかっただけだから」

 

 サヤとそんなやり取りをしながらアザミを見守るわたし。そんなアザミの結果はというと……

 

「64cmだね。柔らかいね、貴女」

 

「当然ですわ」

 

 サヤとの差に、わたしは驚きを隠せなかった。20センチ以上も差があるなんて……。こいつ、思った以上にできる奴のようだ……。わたしも一層気を引き締めないと。もっとも、本気は出せないけど。

 

 あっ、でも柔軟性なら勇者の加護とか特に関係ないか。でもその場合、柔軟性でこいつに勝てるか分からないなぁ……。

 

「2回目は……うん、65cmだね。お疲れ様」

 

「ありがとうございました」

 

 そう言うとアザミはその場からすっくと立ちあがりわたしたちのもとへと戻ってくる。その顔には見事などや顔が貼りつけられていた。

 

「お疲れ様、薊美さん。ホントに柔らかいんだね」

 

「ふふっ、ありがとうございます、紗夜さん。これであとはユリシアさんだけですわね。さて、ワタクシに勝てますか?」

 

「……分からない。アザミ、思ってた以上に柔らかかったし……」

 

 素直な心情を吐露する。というか、柔軟性ではアザミに負ける気がする……。まぁ、他ので勝てば良いし。総合結果で圧倒すれば良いし。うん、大丈夫。

 

「それじゃあ次の方、どうぞ」

 

 そうしてわたしは計測器に近づいていった。

 

 結果はわたしの負けだった……。いや、別にわたしが硬いわけじゃないんだよ? 記録も、1回目が58センチで、2回目が57センチだったし。けど、残念ながらアザミには届かなかった。

 

「やりましたわ! ワタクシの勝ちですわ!」

 

「……まだ他の種目があるし……、そっちで巻き返せば良いし……」

 

「ふふん、この調子で全種目勝利を目指しますわ」

 

「……今の、おっぱいの差が勝敗を分けたような……」

 

 サヤの呟きは、わたしとアザミの耳には届かなかった。

 

    *

 

「右が……21ですね。それで左は……20。はい、お疲れ様でした」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 先生から記録用紙を受け取ったサヤは、ぐったりした様子でわたしたちのところに戻ってくる。現在、わたしたちは握力の計測にやってきている。

 

「うぅ、腕が痛い……」

 

「ええっ、あれだけで!? サヤ、ホントにか弱すぎない?」

 

「ま、まぁ、20以上はあったわけですし、決して悪くはない……と思いますわ。で、では、次はワタクシの番ですので」

 

 そう言うとアザミは記録用紙を持って計測係の先生へと近づいていった。アザミが計測を行っている間、わたしはサヤの腕を軽くマッサージしてあげた。回復魔法を使うのが一番早いんだけどね。こんなところで魔法は使えないし仕方ない。

 

「あぁ、気持ちいかも……、それ」

 

「そう? それなら良かった」

 

 わたしはサヤの腕を程よい力でぐにぐにと揉み解しながら、耳はアザミの方へ傾ける。長座体前屈の結果では負けたけど、今度こそは何としてでも勝たなければ……。って、いつの間にか勝負に熱くなってしまっている……。で、でも、リョウを取られないために頑張らないといけないのだ。

 

「右、28。左、29ですね。それじゃあ2回目」

 

「いきますわっ」

 

 アザミが力む声が聞こえる。その声を聞きながらわたしは考える。どの程度の力で握れば28kg、29kgになるのかを。

 

 まぁ、考えたところで分からないのだけど。2回挑戦できるようd氏、試す余裕はあるだろうから、とりあえずヘマだけはしないよう慎重にやっていこう。

 

「右、29。左、30。はい、お疲れ様でした」

 

「ありがとうございました」

 

 ぺこりとお辞儀をしてから、アザミがこちらに戻ってくる。ふむ、ということはわたしは30kgを超えれば良いんだね。両手ともに。

 

「次はユリシアさんですわ」

 

「うん、行ってくる」

 

 わたしはサヤの腕から手を放すと、自分の記録用紙を持って先制のもとまで移動する。それから用紙を先生に渡し、握力計測器を受け取る。

 

「……」

 

 わたしは受け取った計測器に手をかけ、そしてなるべく軽めの力でそれを握る。多分、本気の10分の1にも満たないくらいの力だ。

 

「はい、えっと……右は……33だね」

 

 おおっ! 良い感じの数値きたっ! 一発で叩きだしたよ、わたし! すごくない? ねえねえ、すごくない?

 

 って、誰に聞いているんだろうね、わたし。でもまぁ、これくらいの力加減で充分なようだった。それなら問題ない。そう思い、わたしは計測器を今度は左手に持ち帰る。

 

 そして、先ほどと同じ要領で力を籠める。

 

「左、34ですね。では、2回目お願いします」

 

「はい、分かりました」

 

 わたしは先ほどの工程をもう一度繰り返す。そして得られた結果は……

 

「右が35で、左は37ですね。はい、お疲れ様でした」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 わたしは記録用紙を先生から受け取ると、そのままサヤとアザミのもとへと舞い戻る。握力はわたしの完全勝利だ。

 

「ま、負けましたわ……」

 

「というか、ユリちゃん力強いんだね、やっぱり」

 

「これはもう、ユリシアさんではなくゴリシアさんですわね」

 

「あ? また叩かれたいの?」

 

「そんなことをされてしまってはワタクシの骨が粉々に砕けてしまいますわっ。ひぃ、怖いですわぁ」

 

「こいつ……、マジムカつく……」

 

 勝ったはずなのに釈然としなかった。ゴリシアとか、流石に失礼すぎるでしょ……。いくらわたしでも傷つく時は傷つくんだからな……? いやまぁ、別に傷ついてはないけどさ……。

 

 そんなこんなで、わたしたち……主にわたしとアザミがいろいろ言い合いながら、次なる場所……上体起こしの計測場所へと向かうのだった。

 

 結果? ふっ、言わずもがな、わたしの勝ちだったよ。

 

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*ユリシア・フォクサローゼリス

握力:  右 35kg  左 37kg

上体起こし:  35回

長座体前屈:  58cm

反復横跳び:  

立ち幅跳び:  

ハンドボール投げ:  

20mシャトルラン:  

50m走:  

 

*陸下 紗夜

握力:  右 21kg  左 20kg

上体起こし:  17回

長座体前屈:  42cm

反復横跳び:  

立ち幅跳び:  

ハンドボール投げ:  

20mシャトルラン:  

50m走:  

 

*薊美 月菜

握力:  右 29kg  左 30kg

上体起こし:  28回

長座体前屈:  64cm

反復横跳び:  

立ち幅跳び:  

ハンドボール投げ:  

20mシャトルラン:  

50m走:  

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