異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「ぐぬぬ……、また負けてしまうとは……」
マットが敷かれた体育館の一角から離れるや否や、アザミが悔しそうにそう呟いた。上体起こしの結果でもわたしに敗北し、大分フラストレーションが溜まっているようだ。しかし、悔しがりながらもアザミの歩き姿は綺麗なまま崩れていなかった。こんな奴だけど、やはりお嬢様なんだなぁと思い知らされる。
まぁ、それはそうと、アザミとは対照的にわたしはかなり上機嫌だった。柔軟性では負けてしまったが、それ以外ならこうして他を圧倒できる。自信満々だったアザミを悔しがらせるの、すごく楽しい。
あっ、もちろん上体起こしでも本気は出さなかったよ。上体起こしの計測は複数人で一斉に行うという形式だったので、回りの人たちを逐一観察しながらペース配分を考えた。その結果、わたしは35回だった。
ちなみに、アザミは28回だったかな。ちょっとあからさまに差をつけすぎちゃったかもしれないけど、まぁ35回なら常識の範疇内だと思う。普通にそれくらいの回数できている人は他にもいたし。……みんな男子だったけど。
「アザミじゃわたしには勝てないの。分かった?」
「悔しいですわ……。屈辱ですわ……」
「でも、最初に仕掛けてきたのはそっちだから。言わば自業自得」
「ま、まだ計測は終わっていませんわよ。勝利を確信するのはまだ早いですわ。次こそはワタクシが勝ってみせますわ」
そう言って自身を奮い立たせるアザミ。その表情はとても真っすぐで美しかった。……あれ? なんかわたしの方が悪者みたいじゃ……? うっ、そう考えると途端にアザミに対する罪悪感が……。
アザミは真正面からわたしにぶつかってきているのに、わたしは全然本気を出していない。なんか、誠実さで完敗した気分だよ……。で、でも仕方ないじゃん。こんなところで本気出すわけにもいかないんだから……。わたしは自分の心にそう言い訳をする。
まぁ、せめて気持ちだけでも誠実であるべきかもしれない。心の中でアザミを嘲るのは止めよう。
「しかし、どうすればゴリシアさんに勝てるでしょうか……」
「お前……!! わたしの気持ち返せっ!!」
せっかく心だけでも真っ直ぐに向き合ってやろうと思ったのに……。アザミはそんなわたしの決意をあっさりと打ち砕いてくる。どうしてこいつはいつもいつも余計なことを言うのだろうか……。
「おーい、喧嘩は止めてね?」
サヤが仲裁に入る。うぅ、ホント苦労かけてごめん……、サヤ……。けど、今のは明らかにアザミの奴が悪いと思うんだ……。
「はぁ……、次にわたしのことゴリラ扱いしたら今度こそ容赦しないから」
「しょ、正直さっきのは悪口だよ……? 私も、そういうのはあんまりよくないと思うかなぁ」
サヤが援護射撃をしてくれた。はあ、わたしの親友はなんて優しいのだろう。わたしのことを気遣ってくれた親友の姿に、わたしは思わず泣きそうになってしまう。
「そ、そうですわね……。ワタクシとしたことが、人として最低なことをしてしまっていましたわね……。ユリシアさん、申し訳ございませんでした」
「わ、分かれば良い……。お互い、やり過ぎには注意しよ」
アザミが素直にわたしに頭を下げてきた。やはり、こういうところがあるから憎めない。わたしは溜息を吐きながらもう良いよと手を振ってみせた。
考えてみればわたしも、先ほどアザミの肩をバシバシ叩いてしまったからね。これ以上彼女を責める気にはなれなかった。だから、今後はお互いに気をつけようとだけ伝えることにした。
「はい、そうですわね」
アザミはわたしの言葉を聞いてにこりと微笑んだ。普段からそれくらい大人しめだったら、リョウにももう少し良く思われていただろうに……。ホント、残念な女だよ、アザミは。
「薊美さんの前でユリちゃんが笑ってる……。珍しいこともあるもんだ……」
「べ、別に笑ってないし」
サヤがぼそりと呟いた言葉に対し、わたしはそっぽを向いてそう答える。目の前のアザミの姿に笑みを溢してしまったことはわたし自身理解している。だからこそ、改めて指摘されて恥ずかしくなってしまった。
「もぅ、素直じゃないんだから、ユリちゃんは」
「う、うるちゃいよ……。ほ、ほら、次の場所行こう。早くしないと時間なくなっちゃうよ」
わたしはサヤの視線から逃れるように速足で次の場所へと向かう。わたしの後ろでは、わたしをからかうようなサヤの笑い声が聞こえてきた。
「あはは、恥ずかしがっちゃって、可愛いなぁ。んじゃ、ユリちゃんに置いて枯れちゃう前に私たちも行こっか、薊美さん」
「え、ええ、そうですわね」
「ん? どうしたの? あっ、もしかしてユリちゃんのこと? それなら心配要らないよ。ユリちゃん、あんな態度取ってるけど、あれで案外薊美さんのこと好きだから。まったく、ツンデレさんだよね、ユリちゃんは」
「サヤ、余計なこと言うなぁっ!!」
「あっ、聞こえちゃってた? ごめんごめん」
この親友……、油断ならない……。わたしに頭をぽかぽかと叩かれながらも、サヤはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべたままだった。うぅ、サヤには勝てる気しない……。
「ユリシアさん……、ありがとうございます」
わたしとサヤがわちゃわちゃと騒いでいる隣でアザミが何かをポツリと呟いたが、その言葉の内容を聞き取ることはできなかった。
「えっ、何か言った?」
「いえ、何でも。さあ、次に向かいましょう。次こそは勝ってみせますわよ、ユリシアさん」
「あ、う、うん。わたしも負けないから、アザミ」
「月菜で良いですわ」
「えっ!?」
まさかこのタイミングでそんなことを言われるとは思っていなかったので、わたしはついぽかんと口を半開きにさせてしまう。というかわたし、てっきりアザミには敵としか認識されていないのかなぁと思っていたため、彼女の方からそんな提案が持ち出されるなんて思ってもみなかった。
「ほ、ほら、ワタクシたちはライバルなのですから。ライバルは相手のことを態々苗字なんかで呼んだりしませんわ」
「う、うーん、その理論はよく分からないけど……、まぁそういうことなら分かった、ルナ」
「ふふっ。お互い、正々堂々勝負いたしましょう。そしていつか必ず、貴女から涼さんを奪い取ってみせますわよ」
「できるものならやってみろ。わたしだって容赦しないから」
そうしてわたしとルナは握手を交わす。少しだけ、彼女と心の距離を縮め合うことができた気がする。どうしてか、それがとても嬉しかった。……はぁ、サヤの言う通りとはね……。
「二人とも素直じゃないなぁ。まっ、それでこそって感じはするけど」
*
それからわたしたちは、体育館の中央に設けられた縦横20mほどの広い区画へとやってきていた。体育館内に設けられた計測場所はここが最後のようだ。
「シャトルランですわね」
「でも……、ちょっと込み合ってない?」
今現在、20m四方の区画内を複数人の学生が走っている。どうやら、ドレミファソラシドの音が鳴っている間に向こう側のラインまで到達しないといけないらしい。しかも、回数を重ねれば重ねるほどドレミファソラシドの速さが増していくようだ。これがシャトルラン……、なるほど。
しかし、今はまだ始まったばかりなのか、音源の速度はかなり遅い。その上、わたしたちの前にも何人もの学生が並んでおり、この感じだとわたしたちの 番がくるのはもう少し後になりそうである。
「そ、それならさ、先に他の種目を消化しちゃおうよ。うん、その方が効率的だよ、絶対。ね? 二人とも」
サヤが若干食い気味にわたしたちにそう言ってくる。……あ、そういうことね。サヤ、シャトルランから逃げたいんだろうなぁ……。確かにこれ、結構大変そうだしね。運動嫌いのサヤからしたら一番と言って良いほどやりたくない種目なのだろう。
「まぁそうだね。待ってる間の時間勿体ないし。先にグラウンドの方の種目やりに行った方が良いかもね。ルナもそれで良い?」
「構いませんわ。しかし紗夜さん、逃げても結局後でやらなければならなくなるんですよ? その逃げはあんまり意味ないかと……」
「「それは言わないお約束っ!!」」
「わわっ、す、すみませんっ」
というわけでわたしたち3人は体育館を一旦抜け出し、グラウンドへと向かうのだった。向こうにリョウ、いると良いなぁ。
*
「外の種目は……、ハンドボール投げと立ち幅跳び、反復横跳び、それから50m走ですわね。ふふっ、ワタクシ、足の速さには自信ありますわよ」
グラウンドに出て早々、ルナが自信満々に自身の胸を叩く。うん、やっぱりこいつは何処でも自信満々なんだなぁ。こいつらしいけど。
「私はめっちゃ遅い……。多分、小学生にも負けるんじゃないかな……、はは……。はぁ……、ホント憂鬱……」
逆にサヤは滅茶苦茶沈んでいらっしゃる。この二人の反応があまりに対照的すぎて、何だかちょっと面白い。
「わたしも自信ありだったり。だから、サヤには負ける気しない」
わたしも負けじと胸を張る。その瞬間、サヤとルナの二人から若干棘のこもった視線を受けた。何故?と思って二人の視線の先を見ると、そこにはわたしの胸があった。……そういうことね。
二人とも、過剰に反応しすぎじゃない? わたし、アピールとかしたつもりないんだけど……。というか、ガチで悩んでいる親友の前でそんな残酷なことできないし……。
「ふ、ふん、負けませんわよ。そんなおっぱいになんて負けませんからね!」
「おっぱい関係ないでしょ……。ってか、あんまりジロジロ見るなぁ」
「そっちが見せつけているのでしょう? むしろこっちは被害者ですわ」
「そ、そんなつもりないし」
「……このおっぱいめ」
「サ、サヤまでっ!?」
などと、そんなやり取りを交わしながらわたしたち3人はグラウンドの一角にある砂場までやってきた。どうやらここで立ち幅跳びとやらをやるらしい。
「こうなったら、絶対に勝ってやりますわ。そんな大きなものを二つもぶら下げているような人には絶対に負けられませんもの」
「お、おっきくて悪かったな……。で、でも、わたしの意思とは無関係に育っちゃったんだからしょうがないでしょ……」
「それ、私に喧嘩売ってる? その喧嘩、私買うよ?」
「ち、違うってば……」
どうしよう、サヤもルナも若干収まりがつかなくなってきてる……。リョウとのエッチじゃ重宝するのに、こういう時おっぱいって面倒くさい……。光があれば闇もあるってわけね。
「どうせ夜な夜なそのいやらしいおっぱいをぶるんぶるん揺らして涼さんを誘っているんですわ。なんてはしたない……」
「そ、そんなことしてないしっ!! ゆ、誘惑はしてるかもだけど……♡♡ お、おっぱいも使ってはいるけど、基本的にリョウに求められた時だし……♡♡」
「ぐぬぬぅ……、妬ましいですわ……、本当に……」
と、その時、立ち幅跳びの計測を担当する先生から声がかかる。どうやらわたしたちがいろいろと言い合いしている間に順番が回ってきたようだった。
先生に呼ばれるや否や、真っ先にルナが駆けだした。そして所定の位置に立つと、大きく腕を左右に振る。
「ユリシアさんなんて……、ユリシアさんなんてぇ……」
それからルナは、勢いをつけて前へと跳躍した。わたしに対する嫉妬の感情を大きくを叫びながら。
「立ち幅跳びの最中に下着が外れ、その上運動着が捲れ上がって、無防備にぶるんぶるん揺れるその大きなおっぱいを多くの男子生徒に見られてしまえば良いんですわぁっ!!」
「長いわっ!! ってか、ふざけんなぁっ!!」
あまりに失礼なことを叫ぶルナに対し、わたしは思わずツッコまずにはいられなかった。そんなハプニング、あって堪るか! わたしのこのおっぱいは、リョウにしか見せたりしないもんっ。
「そろりそろり……」
「サヤ? 何、してんの?」
「ひっ、バ、バレた……!?」
そして、わたしの背後から迫るサヤの腕をガシっと掴む。サヤまで変なことしようとしてくるし……。この時だけはおっぱい……、それから勇者の加護を恨むよ……。
「はぁ、ブラホック外そうとしてたんでしょ、どうせ」
「す、すみませんでした……」
「もう良いから、早く計測してきなよ」
「は、はいぃ……」
そうしてわたしたちはここでも騒ぎながら、立ち幅跳びの計測を終えたのだった。さっきルナが変なこと言った所為で、わたしの番になった時の男子たちからの注目がすごかったけど、わたしはなるべく胸を揺らさずに跳んでやった。残念だったな、ルナ、サヤ、それからエロ男子共。
ちなみに計測の結果、今回もわたしの勝ちだった。当然でしょ? でも、わたしの結果を見て先生が驚いていたので、もしかしたらちょっとまずいことをしてしまったかもしれない……。反省しよう。
*
「は、反復横跳びでは絶対に負けませんわよ……」
「う、うん……」
立ち幅跳びの計測を終えたわたしたちは、続いて反復横跳びの計測場所へとやってきていた。流石に負けが続くと、先ほどまで自信いっぱいだったルナの言葉も少し弱々しくなってしまっていた。……なんか、ごめん。
「あっ、あれって、涼君じゃない?」
わたしが心の中でルナに対して罪悪感を覚えていると、不意にサヤがある一点を指差しながらそんなことを言った。わたしとルナは同時にサヤが指差す方向へと視線を向ける。
するとそこには、確かにリョウの姿があった。どうやらリョウは今、ハンドボール投げの列に並んでいるらしい。その隣にはテラダ君もいる。
「本当ですわね。はぁ、やはり涼さんは何時見ても素敵ですわ♡」
「ふふん、そうでしょう、そうでしょう。わたしの彼氏は超魅力的だからね」
「ユリちゃんも、月菜ちゃんのこと言えないよね……」
サヤが半眼でわたしを睨む。うっ、そ、そうかもしれない……。気がついたらルナを挑発してしまっていた。やっぱり人のこと言えない……。
あと、先ほどの体育館での件で、サヤもルナのことを下の名前で呼ぶようになった。これはわたしの時同様、ルナがサヤに希望したことである。とまぁ、ちょっとした余談でした。
「涼さんの彼女でいられるのは今だけですわ」
「はぁ……、そして月菜ちゃんも挑発に乗っちゃうのね……。もう、ツッコむの放棄しても良いよね、うん」
「サ、サヤ、諦めないで……! わたしたちを止めてくれるのは、この場ではサヤだけなの。サヤがいないとわたしたち、永遠に言い合い続けちゃうから」
「言い合わないよう努力するという選択肢はないのでしょうか?」
「それは……」
「多分できませんわね。だってワタクシとユリシアさんですもの」
「でーすよねー……、はぁ……」
再びサヤの口から大きなため息がこぼれ出た。それから、助けを求めるようにリョウへと視線を向け、その手を伸ばす。
リョウはリョウで、こちらの存在に気づいているようで、わたしたちに向けて小さく手を振っていた。だが、残念ながらサヤが手を伸ばしている理由までは分からないようで、はて?と首をかしげている。ドンマイ、サヤ。
「まあ、涼さんがワタクシに手を振ってくださいましたわ♡」
「あ、また喧嘩の予感……」
「これはつまり、涼さんはワタクシに自発的に手を振ってくださるほどご執心……ということですわよね!? な、なんと幸せなのでしょう♡」
「勘違いも甚だしい……」
「か、勘違いなんかじゃありませんわっ!」
「あー、うん、ほらね?」
サヤが虚空を見つめながら苦笑した。なんか、こんな感じの苦労キャラ、何処かのアニメ化漫画にいなかったっけ? ……確かそのキャラも貧乳設定だったような……?
って、サヤを苦労させているのはわたしたちなんだけど……。それは理解しているんだけど……。でも、それでもやっぱりわたしとルナは喧嘩する運命にあるようだった。
そんな感じで、わたしたちが反復横跳びの順番待ちをしていると、向こうのハンドボール投げの列に並んでいたリョウが計測する順番になった。
その瞬間、わたしたち3人はリョウに注目する。3人とも、瞳の奥には期待の色を滲ませていた。ワクワクドキドキ。
そんなわたしたちに遠くから見守られながら、リョウは軽く助走をつけ、それから手に持ったハンドボールを宙へと放り投げた。あっ、めっちゃ力抜いてるじゃん。リョウは3年間もともに行動してきたパートナーなので、彼がどれくらいの力を籠めたのかというのは少し距離が離れていてもすぐに分かった。
まぁ、多分私以外の人たちにはどうやっても見抜けないような微妙な変化だろうけど。わたしにかかればこの程度造作もないってわけ。
「43.8m」
やがて宙に浮いていたハンドボールが着地し、その地点まで移動した計測係の教員がそう大声で結果を口にした。43.8mというのは、果たしてどれくらいのものなのだろうか? すごいのか、そうでもないのか……。けど、周囲の反応を見る限り、それなりに高い数値らしかった。
「おお、流石は涼君だね。すごいや」
「ええ、やはりワタクシの目に狂いはありませんでしたわ! はぁぁ、カッコ良すぎますわ、涼さん……♡ ワタクシ、もう貴方の虜になってしまいましたわ♡」
「あっ、2回目投げるよ」
わたしたちは揃ってリョウに熱い視線を注ぐ。なんだかんだサヤも、まだリョウへの恋心を忘れられていないんだなぁと、サヤの姿を見て何となく思った。
「44.7m」
「「「おお!!!」」
先生から記録が伝えられ、わたしたちは同時に感嘆の声を上げてしまう。あれがリョウの本気でないことは充分理解しているが、ついわたしも一緒になって声を上げてしまった。何て言うのかな、乙女心がくすぐられた感じ?
「いやぁ、カッコ良いね」
「素敵すぎますわ♡」
「ルナはともかくとして、サヤまで本音駄々洩れになってるよ?」
「おっとっと、危ない危ない。このままだと私もユリちゃんの敵認定されちゃうところだった……。それは嫌だからこの辺でブレーキかけとかないと」
「はい、それじゃあ次いきますよ」
そこでようやく反復横跳びの順番が回ってきた。というわけでわたしたち3人はリョウから視線を外し、自分たちの計測に集中した。
もちろん、ここでもルナに勝ってやったぜ!
「くっ、また負けてしまいましたわ……。ユリシアさん、貴女本当にすごいですわね……、ふぅ……ふぅ……。しかも、息も上がっていないとは……」
「まぁね。でも、ルナも普通にやるじゃん。わたしと僅差だし」
「ふ、ふふふ……、これくらい当然ですわ」
わたしとルナは、自分たちの記録を見せあいながらそんな会話を交わす。正直、ルナはお世辞抜きでできる奴だ。一緒に計測していた他の学生と比べても彼女の動きはかなり良かったと思う。
比較対象がわたしでなければ、彼女はきっと周囲から相当注目されていただろう。それくらい、わたしは彼女をすごいと思った。
「はぁ……はぁ……はぁ……、もう……ダメ……」
一方、サヤは呼吸を荒げながらその場に突っ伏していた。握力、上体起こし、立ち幅跳び、そして反復横跳び……、これだけでもサヤの体力はごっそり持っていかれてしまったみたいだ。
「さ、紗夜、大丈夫か?」
「あっ、リョウ♪お疲れ様♪」
「ん、お疲れ、ユリシア」
不意に後ろからリョウに声をかけられる。ハンドボールの計測が終わり、こっちに来てくれたようだ。
そしてリョウはぐったりとへたり込むサヤに心配そうな瞳を向けていた。その隣では、テラダ君も同じようにサヤを心配するような表情を浮かべていた。
「テラダ君もお疲れ様」
「あ、うん、お疲れ様」
「お二人とも、先ほどぶりですわ」
「さっきぶり、薊美さん。それで……、陸下さんは大丈夫なの?」
「んはぁ……んはぁ……、もう……ダメ……かも……。脇腹が……痛いぃ……。足ももうパンパン……」
サヤはそんな泣き言を言う。正直、今すぐにでも回復魔法を使ってあげたい……。あげたいんだけど……、魔法の存在をこの場で露見するわけにもいかない……。
「運動苦手とは聞いていたけど、まさかここまでとは……」
「これは……、今後定期的に運動させるべきなんじゃ……」
「ルナ、それナイスかも」
ルナがボソッと呟いた言葉に、わたしはコクコクと頷いてみせる。サヤは多分、根本から鍛え直した方が良いのかもしれない。
「あれ? ユリシア、薊美さんのこと下の名前で……」
「あー、えっと、まぁ……いろいろあったんだよ。ね?」
「そうですわね。いろいろありました」
「そっか。……しかし、このまま紗夜を放置するわけにはいかないよなぁ」
リョウはわたしとルナを交互に見やると、何処となく嬉しそうに口角を少し上に釣り上げた。それから、再びサヤへと視線を戻し、腕を組んで悩み始める。
「(ユリシア、気づかれないように魔法使える?)」
「(回復魔法?)」
唐突に、リョウはわたしの脳に直接話しかけてきた。わたしはすぐさまリョウの問いかけに応じる。
「(そうそう。あっ、なるべく微弱なやつでね)」
「(まぁ、できるとは思う。でも、リョウはできないの?)」
「(できるだろうけど、ユリシアは同性だし。異性の俺より何かと都合が良いでしょ。んなわけで、ちょっとお願いできる? このままじゃ埒が明かないからさ)」
「(うん、そうだね。分かったよ、やってみる)」
というわけでわたしは、他のみんなに気づかれないよう回復魔法……なるべく身体への影響力が少ないものを使うことにした。
サヤの背中を摩ると見せかければ、多分違和感ないだろう。そう思い、わたしは微弱な魔力を纏わせた掌を服の上からサヤの背中に押し付ける。その結果……
「はぁ……はぁ……、ふぅ……。ちょっと落ち着いてきたかも……。ユリちゃん、背中摩ってくれてありがとう」
「あっ、うん。調子戻ったなら良かったよ」
どうやら上手くいったみたいだった。わたしは心の中でガッツポーズ!
「(ナイスだ、ユリシア)」
「(えへへ、うん♡)」
そうしてわたしたちは、無事復活した紗夜を引き連れて先ほどまでリョウたちのいたハンドボール投げの足底場所へと向かうのだった。なお、リョウとテラダ君もわたしたちについてきた。
「それっ!」
「18.2m」
「え、えいっ!」
「12.5m」
ルナ、サヤの順で計測を終えていく。そして次はわたしの番。
「っ……!!」
なるべく力を加えずに、わたしは手に持ったハンドボールを前へ向かって投擲した。けど、思ったより遠くまで飛ばしてしまった。
「おお、これはすごい。31.9mだ」
「ちょっ、ボクより飛んでない!?」
「か、完敗……ですわ……」
「ふふん、やったぜ!」
「ユリシア……、手加減……」
そんな感じで、わたしたちは50m走とシャトルラン以外の全ての種目を網羅したのだった。手加減って、難しいね。
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*ユリシア・フォクサローゼリス
握力: 右 35kg 左 37kg
上体起こし: 35回
長座体前屈: 58cm
反復横跳び: 57回
立ち幅跳び: 252cm
ハンドボール投げ: 31.9m
20mシャトルラン:
50m走:
*陸下 紗夜
握力: 右 21kg 左 20kg
上体起こし: 17回
長座体前屈: 42cm
反復横跳び: 28回
立ち幅跳び: 149cm
ハンドボール投げ: 12.5m
20mシャトルラン:
50m走:
*薊美 月菜
握力: 右 29kg 左 30kg
上体起こし: 28回
長座体前屈: 65cm
反復横跳び: 52回
立ち幅跳び: 203cm
ハンドボール投げ: 18.2m
20mシャトルラン:
50m走:
*霜崎 涼
握力:
上体起こし:
長座体前屈:
反復横跳び: 65回
立ち幅跳び: 264cm
ハンドボール投げ: 44.7m
20mシャトルラン:
50m走:
*寺田 雅
握力:
上体起こし:
長座体前屈:
反復横跳び: 53回
立ち幅跳び:224cm
ハンドボール投げ:29.5m
20mシャトルラン:
50m走: 7.35秒