異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
ユリシアたち女子グループと合流する前のこと。
「あー、くそ……、人多くて見失った……」
俺は一人、溜息を吐きながらグラウンドの入り口に立っていた。というのも、先ほどまで一緒にいたはずのユリシアや寺田君たちといつの間にか逸れてしまっていたのだ。3クラス合同と言われていたからかなり混雑するんだろうなとは思っていたけど、まさか友人たち全員を見失ってしまうとは……。
だが、こんなところでボーっとつっ立っているわけにもいかない。俺はみんなと一緒に行動できなかったことを少し残念に思いながらも、体力テストに臨むべくグラウンドへと足を踏み入れた。
「さてと、まずは何からやるかな……」
グラウンドでは、50m走、ハンドボール投げ、立ち幅跳び、それから反復横跳びの4種目の計測が行われていた。どの計測場所にも既に列ができている。早いなぁ。
俺はそれらの計測場所をぐるりと見渡しながら、まずは何処の計測場所へ向かうべきか悩む。まぁ、正直何処でも良いんだが、なるべく人の多いところに向かいたいという気持ちもある。そうすれば多少の時間稼ぎになると思うから。
俺が普通に計測何てしたら多分とんでもない数値が出てしまう。それを防ぐためには、なるべくいろんな人の計測を観察する必要がある。そしてだいたいこんなものじゃないかってくらいの最適力加減を探り出さなければならない。
けど、何時までもグラウンド入り口でつっ立ったまま他の学生たちが計測する姿をジロジロ観察していたら絶対に怪しまれる。
もしかすると、運動着姿の女子たちの普段より露出した手足を舐め回すようにガン見していたなんて誤解が生まれ、学校中で変態のレッテルを貼られかねない。
そんなの、あの木戸田とかいう3年とほとんど同じじゃないか。例の一件でそれなりに良いイメージを持たれているであろう俺が、今度は悪い意味で有名になってしまう。
そして、その噂がユリシアにも届き……
「わたしだけを見てくれないと嫌っ……!! こ、こうなったらわたしの身体でもう一度リョウを虜にしてやるんだから……♡ んんっ……♡ んあっ……♡」
いや、ごめん。これは違う……。いつもの淫乱ユリシアに引っ張られ過ぎた。そうじゃなくて……
「最低っ……。リョウなんてもう知らない……!」
なんてことになってしまうかもしれない……。うおおお、そんなこと、考えただけでも心が引き裂かれたようにじんじん痛む……。ユリシアには……、ユリシアだけには絶対に嫌われたくない……。
そんな最悪の展開を避けるためにも、ひとまず何処かの列には紛れておきたい。列に並んでおけば、入り口付近でじっと眺めているよりかは幾分か怪しさも軽減できるだろうしな。あんまりきょろきょろしすぎていたら、列に並んでいようが怪しまれてしまいそうだけど。
「んんー……、おっ、立ち幅跳びんとこに結構人集まってるな。そんじゃ、最初はあそこにしますかね」
というわけで俺は立ち幅跳びの列へと向かう。考えてみれば、列の長いところに進んで並びにいくというのもかなり違和感ある行動かもしれないな。まぁ、そこまで俺のことをじっくり観察している人なんていないだろう。……いないよな? そんなことしそうな人、ユリシアか薊美さんくらいだし。
そうして俺は多くの学生が列をなしている立ち幅跳びの計測場所、グラウンドの砂場まで歩みを進めた。俺が近づくと、列に並んでいた学生たちが一斉に俺へと視線を向けてくるのが分かった。
一部の学生たちは何人かのグループで行動していたようで、その友人同士で何やらひそひそと話をしていた。意識すれば聞こえるくらいの精良だったが、態々聞き耳を立てるのも面倒だったので、俺は知らないふりをしつつ列の最後尾に向かった。
「あ、あの、し、霜崎……さん……」
俺が列の最後尾につくと、俺の一つ前に並んでいた一人の女学生が恐る恐るといったように俺に声をかけてきた。赤みがかった茶髪を後頭部で一つにまとめた、一見快活そうな女子だ。
「えっと、どうかしましたか?」
俺は首をかしげながら声をかけてきた女学生にそう答える。怯えられているってわけじゃないだろうけど、俺が学院中から注目されるきっかけとなった例の一件以降、同級生の女学生たちはみんな揃って俺に遠慮がちな態度で接してくるようになった。
「そ、その……、お、おは……おはようございましゅ……」
「……は、はい、おはようございます……?」
俺が静かに彼女の次の言葉を待っていると、彼女はまるで意中の相手に告白するかのような勢いで俺にペコリと頭を下げ、何ら大したこともないはずの朝の挨拶をしてきた。そんな彼女の態度に俺は若干動揺しつつも、礼儀としてしっかり朝の挨拶を返した。
「わ、わあっ、し、霜崎さんに挨拶返してもらえましたぁ……」
途端、何故か満面の笑みを浮かべる女学生。しかも、何やら小声でブツブツと呟き、さらには小さくガッツポーズまでしている……。う、うーん、意味が分からない……ってわけじゃないけど、そこまで大げさに喜ぶようなことじゃないと思うんだけど……。それじゃまるで、俺が滅多に挨拶もしてこないような礼儀知らずみたいだし……。
というか俺、普段からなるべく挨拶はするよう心掛けているつもりなんだけどなぁ。少なくとも、挨拶されれば必ず返事はするようにしている。
……でも、よく考えたら今まで女子から挨拶されるなんてことあまりなかったかもしれない。クラスメイトたちとは毎日教室で交わしているけど、それ以外のタイミングではそうそう話しかけられないような気がする。
まさかとは思うが、ユリシアの存在が大きかったりするのだろうか? 教室外ではかなりの確率でユリシアと行動を共にしているからなぁ。そして、この学院の学生たちは既に俺たちが恋仲にあることを知っている。だから、俺がユリシアといる時、学生たち……特に女学生たちは遠慮して声をかけてこない……。そういうことだったりするのか?
けど、自分で言うのは非常に不本意なのだが、女学生たちからしたら俺は女の敵たる強姦魔を撃退したヒーローみたいな存在……、くっ……、やはり自分でこんなこと言うのはメンタル的にかなり辛い……。ま、まぁ、そういうわけだから、こうして俺を相手にした時、女学生たちはこんなにも喜んでいるのかな……? やはりどんな形であれ、注目されるのは面倒極まりないな。
てか、あれだよな。もし俺が木戸田と同じような女好きのクソ野郎だったら、この人気具合に託けてハーレムとか形成し始めそうだよな。もちろん、現実の俺はそんなことしないが。ユリシアの悲しむ顔は見たくないし、嫌われたくもない。
「あ、あのあの、今は彼女さんとは一緒じゃないんですか……? 確か、体育館では一緒にいたような……」
そんなことを考えていると、いつの間にか自分の世界から現実に戻ってきたらしい目の前の女学生が俺にそう質問してきた。
「ユリシアですか? 彼女とは途中で逸れてしまいまして。恐らく、今は友人たちと体育館にいるんじゃないでしょうか」
「そ、そうなんですね。と、ということは、今なら霜崎さんといっぱいお話しできるかも……。ど、どうしよう、何話そう……」
俺の返答を聞いた彼女は、身体をもじもじさせながらそんなことを呟いていた。その言動からして、やはりこれまでユリシアに遠慮してしまっていたんだろうなぁ。申し訳なく思う反面、俺と話ができただけでここまであからさまに喜ばれるのは何だか恥ずかしくもある。
俺としても、もっと多くの人と交友を深めたいという気持ちはある。自分の中のトラウマを克服するためにも。けど、それとユリシアとを天秤にかけてしまうと、どうしてもユリシアが勝ってしまうのだ。俺の中でのユリシアの存在があまりに大きすぎるから。
だから、今後も多分授業外ではずっとユリシアと一緒に行動することになるだろう。残念ながら、それを変えることは俺にはできない。まぁでも、何時でも話しかけてもらって良いという意思を見せるくらいはできるだろう。それで他の人たちの態度が変わるかどうかは別として。
「えっと、別にユリシアがいる時でも、話しかけてくれれば話し相手くらいになら何時でもなりますよ?」
「えっ、い、良いんですか!? で、でもその……、フォクサローゼリスさんが許してくれないんじゃ……」
「そ、そんなことないと思うけど……。というか、もしかしてみんな、ユリシアのこと怖がっていたりします?」
これ、俺とユリシアが一緒にいるところを邪魔するのが心苦しいとかそういう理由じゃなくて、俺に話しかけたらユリシアに何かされると怖がっているのでは……? そう思い、思わず質問してしまった。
「え、えっと……、その……」
俺の質問にあからさまに動揺し目を泳がせる目の前の女学生。その反応だけで彼女が俺の質問に対し頷いたも同然だった。おいおい、この1カ月の間に一体何をやらかしたんだ、ユリシア……。俺は途端に心配になり、詳しいことをその女学生に聞いてみることにした。
「そ、そっか、その反応だけで何となく理解しました。もしかして、ユリシアが何かまずいことをした……とか、そういう噂が流れているんですか?」
「……はい、実は……」
マジかよ……。本当に何したんだ、ユリシア。……いや、でも待てよ? 確かにちょっとばかし血の気の多いユリシアだが、全くの悪意なしに俺に近づいてくる女子たち相手にそう簡単に手を出すとも思えない。木戸田の元取り巻きの女たちのような、悪意と私欲の塊みたいな連中相手ならまた別だけど。
親友である紗夜はともかく、ユリシアは薊美さんのこともなんだかんだ言いつつ拒もうとはしていない。時々薊美さんのことを叩くことはあっても、あれは言ってしまえば漫才のボケとツッコミのようなものだし。ちょっと威力が高いのが困りものだがな。
まぁ、そういうこともあって、ユリシアが裏で女子たちをしばき倒しているとは考えづらい。恐らく、その噂はユリシアのことを悪く思う連中が悪意的に広めた者だろう。そして、ユリシアのことを知っており、尚且つそんなことをしそうな連中は奴らしかいない。はぁ、奴らも懲りないなぁ。
「大丈夫ですよ。ユリシアは悪意のない人たちに危害を加えるような女の子じゃないです。その噂はでたらめですよ。多分、例の3年生の取り巻きの女学生たちの仕業でしょうね。そういうわけなので、ユリシアのことを怖がらないでやってください」
「は、はい。そ、その、もしかして、例の3年生というのは、霜崎さんが撃退されたあの先輩のこと……ですか?」
「え、ええ、まぁ。彼、複数の女を囲ってまして……。彼とは違ってその取り巻きの女学生たちは停学処分にはなっていなかったんですよね、確か。ですので、こういう噂を流すとしたら彼女らかなぁと思いまして」
俺は肩を落としながらそう話す。結局、停学処分を喰らったのは木戸田本人だけで、その他4名の取り巻き達は反省文を書かされるだけで終わった。なので、現在も恐らく校内の何処かにはいると思う。
そして、俺たちは多分奴らに少なからず恨まれていると思う。女の恨みは怖いとよく聞くので何かしら仕掛けてくるのかなぁと覚悟はしていたが、まさか噂でこちらを追い詰めようとしてくるとは。まだ大して多くの噂話が出回っていないのがせめてもの救いか。
「な、なるほど。ちょっとほっとしました。フォクサローゼリスさん、全然悪い人には見えなかったので。そ、それなのに出所も分からない噂を信じちゃうなんて……、申し訳ない気持ちでいっぱいです……」
「いや、でも仕方ないですよ、噂話を信じてしまうのは」
「いえ、よく考えたら分かることでした。だって、フォクサローゼリスさんとあんまり中良さそうに見えない薊美さんがいつも皆さんの輪の中にいるわけですから。噂通りなら、薊美さんは今頃……」
噂の詳細を聞いたわけではないが、今の彼女の反応から察するにかなりどぎつい噂なんだろうということは理解した。あの取り巻き共……、マジで面倒な置き土産を残しやがったな……。
「そ、そういうわけなので、もう本当、遠慮なく話しかけてください。その、実は自分もユリシアも結構な人見知りなので、誰かから話しかけてもらえるのって嬉しかったりするんですよ」
「あっ、そうなんですね。じゃあ、このこと他の人たちに伝えても?」
「もちろんです。多分、本人から聞いたと言えば信じてもらえると思いますので」
「はい、分かりました。じゃあ、体力テスト終わったら早速クラスの人たちに伝えておきますね」
ふぅ、これでひとまず噂はどうにか揉み消せそうだな。複数の噂が出回る前に処理できて良かった。この女学生には感謝しないとな。
放してみた感じ、全然悪い人にも見えなかったし、ここは是非とも仲良くなっておきたい。自分を変えるためにも。それに、彼女も俺のことはきっと憎からず思ってくれているだろうし。今までの俺に対する雰囲気的に。
「ところでその……、名前とか……聞いても?」
俺は早速彼女に名前を聞いてみることにした。次分から名前を訪ねることができただけでも、俺は相当な達成感を得ることができた。
「あっ、え、えっと……、お、覚えて……いませんか……? 私のこと……」
すると彼女は、何処かしょんぼりとしたオーラを放ち始めた。あ、あれ? 俺何かまずいこと言った……? というか、覚えていませんか……ってどういうことだ? 俺、以前に彼女と面識あったっけ? どうしよう、全然思い出せない……。
「そ、その……、申し訳……ないです……」
どう返事をしたものか少し迷ったが、ここは素直に謝っておくことにした。下手に嘘吐いても相手をより不快な気分にさせてしまうだけだろうし。
「そ、そうですよね……、覚えていませんよね……、あはは……。実は、新入生歓迎会で同じグループだったんです……、私たち……」
「あっ、し、新歓で?」
あー、うん。ごめん、覚えているはずがなかったわ。だってあの新歓、初対面の薊美さんからの猛烈アプローチとか、木戸田の乱入とか、ヒーローインタビュー擬きとか、衝撃的展開が多すぎて、その前の自己紹介の内容だったりフリートークの内容なんてほとんど頭から吹っ飛んでしまっていたからな。それに、あの時かなり緊張してしまっていたし、俺。
でも、言われてみれば確かに同じグループ内にこんな人がいたような気がする。というか、俺が学年主席であるという噂を口にしていたのがこの人じゃなかったか? って、なんかこの人とうわさ話との結びつき強くない?
「もしかして、学年主席の噂が本当かどうかって聞いてきた……」
「あっ、はい、そうです! あれ、私です! よ、良かったぁ、ちょっとは覚えててもらえてましたぁ……」
「すみません、あの時はいろいろ衝撃的だったもので……」
自身の存在を俺に覚えられていたことにほっと安堵の息を吐く目の前の女学生。いやマジで、こういう反応されるの恥ずかしいんだが……。強姦魔木戸田を撃退したのは事実だけど、人間的には俺って本当大したことないんだよ? コミュ障でオタクで、しかも異世界で人殺しの経験もあるからかなり真っ黒だし……。あれ、俺……木戸田と大差ないくらいヤバいんじゃ……。
「あっ、そうですよね、すごい騒ぎでしたもんね、あれは。でも、あの時の霜崎さん……格好良かったなぁ……って、私ってば……何言っちゃってるんだろう……!! そ、その、今のは気にしないでくださいぃ……」
や、止めてくれ……、止めてくれぇ……、そんな反応するのは……。お、俺のメンタルが……耐久力の限界を訴え始めているんだ……!! 目の前の少女を騙しているような気がして、罪悪感がものすごいんだ……!!
「え、えっと、な、何か……言って……いましたか……? よ、よく……聞こえませんでした……、あ、あはは……」
どう反応すれば良いのかも分からず、咄嗟に鈍感系主人公スキルを意図的に発動させてしまった。せめて聞かなかったことにしよう、そう考えたのだ。これだから目立つのは嫌だったんだよぉ……。というか、こんなことを言うべきじゃないのは分かっているけど、女性陣は女性陣でちょろすぎない……?
「あっ、そ、それなら良いんですっ! え、えっと、あっ、そうだった、名前! 名前で舌よね? では、改めて自己紹介を。私は、
と、俺が一人失礼なことを考えていると、目の前の女学生が思い出したように自身の名前を名乗った。そうか、彼女の名前は雨宮紅葉というのか、今度はちゃんと覚えよう。
それと、どうやら雨宮さんの所属クラスはC組のようだ。ということはつまり、ユリシアや紗夜と同じクラスということなんだな。
「へぇ、C組だったんですね。ユリシアたちと同じクラスだ」
「はい、そうですよ」
「あの二人、クラス内ではどうですか?」
普段、あまり彼女たちのクラス内での様子について聞かないので、この機会に雨宮さんに尋ねてみることにした。まぁ、概ね予想はついているが。
「うーん、基本的に二人で固まっていますね。他の人と会話しているところは見たことないかもです。けど、二人だけでも結構楽しそうなので、あれはあれで良いのかなぁなんて思ったりもしてるんですよね」
「やっぱりですか……」
「噂の件もあって、女子たちはフォクサローゼリスさんを怖がっちゃってましたし、男子は……多分みんなヘタレなので……。女子に積極的に声をかける男子がほとんどいないんですよね、うちのクラスには」
C組男子たちよ、言われているぞ。もう少し積極的にならないと最高の青春はゲットできないぞ。俺もあの時、不器用なりにユリシアに声をかけたからこそ、今こうしてユリシアと結ばれているわけだしな。何事も、待っているだけじゃ意味がないんだ。……ごめん、偉そうなこと言えるような人間じゃなかったわ、俺。結局コミュニケーション弱者であることに変わりはないわけだし。
「でも、今日からは違います。だって、私がいますから。あの二人がちゃんとクラスに打ち解けられるよう、私頑張っちゃいます」
「それはとても心強いです。ありがとう、雨宮さん」
「お、お礼なんてそんな……、へへへっ」
あっ、ダメだ……、鈍感になりきれない……。雨宮さんの一挙一動から俺に対するピンク色の感情がどうしても察せてしまう……。片想いって、する側も当然そうだろうけど、される側からしてもなかなか辛いな。俺には既に恋人がいるから余計に。
数週間前の紗夜との一件も、ユリシアには強がりを言ってしまったが、やはりそれなりに苦しくはあったからなぁ。
こんなこと言ったら非モテ男子たちからものすごい反感を買いそうだが、異性から好かれるってあんまり良いことないな。というか、すごく憂鬱だ……。
「と、とにかく、頼りにしてますね」
「はいっ、任せてくださいっ!」
俺の言葉を受けて力いっぱいの返事をしてくれる雨宮さん。そんな彼女は気合を入れるように軽く自身の胸を叩く。すると、運動着に包まれたその大きな双丘がぽふんと上下に揺れる。今まであまり気にしていなかったけど、雨宮さんスタイル良いな……。
身長はだいたい薊美さんと同じくらいだと思うけど、その……胸部のボリュームがかなりすごいことになっている……。もしかしたら、ユリシア以上に大きいんじゃなかろうか。恐るべし、雨宮さん……。
まぁでも、残念ながら俺はユリシアの身体にしか興味はない。少々冷徹かもしれないが、それでもやはり俺はユリシア一筋なのだ。だから、心苦しくはあるけど、雨宮さんのことも薊美さんのことも受け入れることはできない。その気持ちを曲げるつもりはない。俺は自身の中の罪悪感を押し殺し、改めてそう決意するのだった。
「あっ、ところで、霜崎さんはくらててが好きって言っていましたよね?」
唐突に雨宮さんからそんな質問が飛んできた。
「あっ、はい。そういえば、新歓のフリートークでそんな話しましたっけ」
「はい。実はですね、私も好きなんです、くらてて」
「そうなんですか!? それは嬉しいなぁ」
本心からの言葉だ。雨宮さんは異性としては受け入れてあげることはできないけど、とても良い友人にはなれそうだ。お気に入りのアニメが同じというのは、それだけでテンションが上がるもののようだ。
「だから、ずっとお話したかったんですよ、くらててについて。けど、変な噂に惑わされちゃって……、うぅ……、私としたことが……やっぱり情けないです……」
「そんな落ち込まないでください。自分たちは気にしていませんから。これから仲良くしてくれればそれで充分ですよ」
雨宮さんって、結構自身の失敗を後に引きずっちゃうタイプなのかな。この短い時間で、ほんの少しだけ彼女のことが分かった気がする。
「お気遣い、ありがとうございます」
「ユリシアも、それから紗夜……陸下さんも、二人ともくらてて好きなんです。だから、是非みんなで語らいましょう」
「あっ、やっぱりそうだったんですね。たまに二人の会話が聞こえてくるんですけど、何となくアニメの話題かなぁって思うことがあったんですよ。そっかぁ、嬉しいです」
どうやら、上手く気を反らすことができたみたいだ。
「あっ、次私の番だ」
「そうみたいですね」
「よっし、頑張ってきます!」
「はい、頑張ってください、雨宮さん」
俺たちがいろいろと話をしている間に、いつの間にか列が進み、次は雨宮さんの番というところまできていた。
彼女は"よし"と気合を入れると、計測担当の教師が待つ砂場へと駆け寄っていった。俺はそんな彼女の背中に一言エールを送る。
元気だけど恥ずかしがりなところもあり、さらに時々思いつめてネガティブになってしまう。それが雨宮さんという女の子のようだ。