異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「そういえば、男性陣お二人の記録はどのような感じなのですか?」
50m走の列に並んでいる最中、薊美さんからそんな質問が飛んできた。うーむ、正直に答えるのはちょっとばかし憚られるなぁ……。
とはいえ、もう既にハンドボール投げの記録は露見してしまっているんだったな。それなら、ここで下手な嘘を吐くのはかえって違和感ありまくりか。
そう思い、俺は素直に自分の記録用紙を薊美さんに差し出した。
「えっと、一応これが俺の記録……なんだけど……」
「では、失礼して……」
「あっ、月菜ちゃん、私にも見せて」
「良いですわよ。一緒に見ましょう」
「そ、そんな大したもんじゃないと思うんだけど……」
という俺の呟きは聞こえていないようで、紗夜と薊美さんは俺の記録用紙にこれでもかというくらい顔を寄せて中身をじっと眺めていた。
「二人とも、がっつきすぎでしょ……。リョウもちょっと引いてるし……。まぁ、ルナがリョウにドン引きされるのはこちらとしては万々歳なんだけ……」
「ユリシアさん、うるさいですわ」
「なっ……」
まさか薊美さんに冷たくあしらわれるとは思っていなかったようで、ユリシアはしょぼんと肩を落としてしまった。発言と態度が全く一致しないツンデレ狐だった。
「ユリシア、なんだかんだ薊美さんのこと好きだよな。今のも、本当は薊美さんにかまってほしかったんだろ?」
「べ、別にそんなんじゃないし……。ル、ルナはただのライバルだし……。変なこと言うなら、リョウ相手でもわたし怒るよ」
「ごめんごめん。そんなに怒るなって」
そう言いながら、俺はユリシアの頭を撫でる。ユリシア相手の必勝法、と言っても過言ではなくなってきたな、頭なでなで戦法。
「んもぅ……、またそうやって誤魔化すんだから……、ふへへ♡」
「……計画通り」
「君ら、相変わらず所かまわずイチャつくよね……。見てるこっちの気持ちにもなってほしいものだよ……。というか、陸下さんと薊美さんが見てなくて良かったね。見てたとしたら今頃……」
隣から呆れたような寺田君の呟きが聞こえてくる。これ、イチャイチャしているように見えているのか……? こちらとしてはそんなつもりはなかったのだが……。
「うわあっ、すっご……! ハンドボール投げの記録で何となく察してはいたけど、まさかここまでとは……。やっぱりハイスペックすぎでしょ、涼君……」
「流石ですわ! ワタクシの目に狂いはありませんでしたわ! ますます惚れ込んでしまいました」
などと、先ほどの俺とユリシアの一連のやり取りを振り返っていると、不意に紗夜と薊美さんが同時に声を上げた。予想はしていたけど、やはりこういう反応になるのな……。主に薊美さん……。
「た、たまたま……だから……、うん……。俺、君たちが思ってるほどハイスペックな人間じゃ……」
「ふふん、すごいでしょ。リョウは何でもできちゃうんだから」
おいぃぃぃぃ、ユリシアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 余計なことを言うのはマジで勘弁してくれよぉぉぉぉぉ!!
と、俺は心の中で絶叫した。くそっ、ユリシアならフォローしてくれると思っていたのに……。そんなこと言ってしまったら、ますます俺への期待値が上がってしまうじゃないか。あぁ……、俺の平穏がまたさらに遠ざかっていく……。
「(ちょっ、ユリシア!? 何言ってくれてんの!? 俺、学園チートとか求めていないんだが!? むしろ、平穏しか望んでいないんだが!?)」
俺はユリシアに対して連絡回路を繋ぎ、念話にて抗議の声を上げる。効かれたらまずい話になるかどうかの判断がつけづらかったので、念のためテレパシーを使った。
「(さっき変なこと言ってきた上に、頭なでなでで誤魔化そうとしてきたリョウへの仕返しだもん)」
「(ご、誤魔化したつもりは……)」
「(計画通り、って言ってたの、普通に聞こえてたから)」
「(あっ……、すんませんしたぁっ)」
俺は脳内でユリシアに全力で謝罪した。
「(だ、だとしても、この仕返しはあまりに酷すぎません? ユリシアさん……)」
「(酷くないもん。むしろ、リョウが成績と運動の両方でトップになってくれた方がわたしとしても誇らしいし)」
「(ふむ。じゃあ、俺が学園内チートで無双してもOKと?)」
「(最高じゃん。学園最強の男なんて、これはもう主人公だね! そして、わたしはそんな主人公のメインヒロイン! リョウもわたしも勝ち組だね! やったね!)」
「(なるほど。なら、チートしまくって他の女子たちにモテまくり、挙句の果てに俺が学園内ハーレムを築いても良いんだな?)」
「あっ、で、でも、今回のリョウの結果にはわたしもびっくりかも。リョウが中3の時の記録見せてもらった時はもう少し低かったような……? だ、だから、もしかしたらリョウの言う通りたまたま……だったのかも?」
これぞまさに計画通り。俺の脅しはユリシアに効果抜群のようだった。実に綺麗な掌返しを見せてもらったよ。俺は一人、心の中で高笑いするのだった。……誰がゲス野郎だ、誰が。
「でも、男の子って案外1年間で大きく変わったりするんじゃないかな? だから、きっとこの記録はたまたまなんかじゃなくて、涼君の実力だと思う」
「ええ、紗夜さんの言う通りですわ。謙遜なさらなくても良いですわ。あと、ユリシアさんは媚の売り方が下手くそですわね」
「う、うるさいなぁ……! べ、別に媚びを売ってるつもりじゃないし……。というか、そんなに期待されてもリョウは困るだけでしょ」
「あっ、そ、そうだよね。逆に涼君がやりづらいよね」
ユリシアの説得により紗夜はどうにか抑えることができた。先ほどユリシアを脅s……説得したのが功を奏したな。
「確かにそうですわね。涼さんにプレッシャーを与えるのは本意ではありませんわ。ですが涼さん、自信は持って良いとワタクシは思いますわよ」
良かった。薊美さんのフィーバータイムも無事終わらせることができたようだ。しかし、ここから先はさらに慎重にならないとな。でないと、今度こそハイスペック人間のレッテルを貼られ、俺TUEEEルートまっしぐらになりかねない。
「あ、あはは、うん。まぁ、ほどほどに……ね」
「あっ、はい、これ。見せてくれてありがとね、涼君」
紗夜から記録用紙を受け取る。と同時に、再びユリシアに連絡回路を繋いだ。フォローを入れてくれたお礼をしないとな。
「(ありがとう、ユリシア。おかげで俺TUEEEルートは回避できたよ)」
「(むぅ、リョウずるい……。卑怯だよぉ……。あんなの、ただの脅迫だよ? ホント、ああいうの止めてよね……。心臓に悪いから)」
「(ごめんごめん。心配しなくても、俺はユリシアだけのものだから)」
「(またそんなことを言う……。わたしがちょろいからって調子に乗って……、ふ、ふへへへへへ……♡)」
結論、ユリシアはちょろイン。はっきり分かんだね。
「んじゃ、寺田君のも見せてもらうよ」
「えっ? あっ、ちょっと?」
「どれどれ……」
俺がユリシアと脳内でやり取りしている間に、寺田君の記録用紙が紗夜によって奪われていた。
「し、霜崎君の後じゃ多分全然インパクトないと思うんだけど……」
「うーん、そうでしょうか? これ、普通に高1男子の記録としてはなかなか高いのではないでしょうか」
「だねぇ。というか、足速いね」
てっきり鼻で笑われるとでも思っていたのか、寺田君は紗夜と薊美さんの言葉に驚いた様子で目を見開いていた。
しかし、それでも若干自信を持てないらしく、寺田君は二人の言葉に対して控え目に首を振ってみせた。
「そ、そんなことはないと思うけど……。あと、ハンドボール投げの記録はフォクサローゼリスさんに負けてたし……」
「いやぁ、ユリちゃんは規格外だからねぇ」
「ちょっ、サヤ!? その言い方は酷くない!?」
思わぬところから飛んできた不意の一撃にユリシアが抗議の声を上げた。やはり、ユリシアはユリシアで俺と同じようにいろいろやらかしてしまっていたようだな。
「ユリシアさんに勝負を挑むのは間違いでしたわ。正直、もう勝てる気がしませんもの。それくらい、ユリシアさんは規格外でしたわ」
「ル、ルナまで!? というか、ルナに関してはただ単にサヤに乗っかってわたしをおちょくりたいだけでしょ!?」
「そんなことありませんわよ。純粋に、貴女とワタクシじゃ実力差がありすぎて諦める他ないと判断せざるを得なかっただけですわ」
「あ、怪しい……、怪しすぎる……」
「お二人とも、見てみてくださいまし。こんなの、勝てるはずがないと思いません?」
ばっとユリシアの手から記録用紙を奪い去り、それをこちらに見せつけてくる薊美さん。あっ、多分この反応はマジなやつだ……。流石の薊美さんでも、今回のユリシアの結果に張り合えるほどの胆力はなかったみたいだな。
そう考えながら、俺は薊美さんが差し出してきたユリシアの記録用紙の中身をまじまじと覗き込む。
「(……これ見てるとさ、なんか男子の記録を見てるような気分になるな……。うん、こりゃ紗夜と薊美さんがああいう反応になるのも仕方ないだろ……)」
そして、ユリシアの記録を見た感想をテレパシーを通してユリシアに直接伝えた。俺は俺でやりすぎたと思っていたが、これはユリシアも大概だな。そう思わざるを得ない結果だった。
「(うぅ……、やっぱりダメだったかなぁ……? ルナに負けたくなかったから、低くもなく高くもなくって感じの記録を狙ったつもりだったんだけど……)」
ユリシアから力ない返事が返ってくる。その言動からして、ユリシアも流石にちょっとやりすぎたかも?とは感じているようだった。
「(俺もお前も、これから苦労しそうだな……)」
「(……うん、そうだね……、はぁ……)」
力の制御って難しいな。それを存分に思い知らされた気分だよ。俺とユリシアは二人して大きな溜息を吐くのだった。
「次の二人、スタートラインに」
そうこうしているうちに、教員からそう声がかかる。見ると、いつの間にか俺たちが先頭になっていたようだ。ってか、この展開またですか……。
今回も他の学生たちの様子を観察できなかった。なんだかんだ友人たちがいると話に夢中になってしまうな。
さて、この状況で一番避けなければならないのは俺とユリシアが一緒に走ることであろう。俺とユリシアじゃ、恐らく……いや、絶対にどちらもペースメーカーの役割など果たせない。
だから、どうにかして俺とユリシアのそれぞれに紗夜か薊美さんのどちらかをあてがわなければならない……のだが……、
「あっ、はいですわ。それでは紗夜さん、いきましょう」
「えっ!? わ、私!? ユ、ユリちゃんじゃなくて良いの!?」
「ユリシアさんには勝てる気がしないのでもう良いですわ。それより急ぎましょう。先生が待ってますわ」
「わ、分かった! 分かったから引っ張らないでぇ!」
そんなやり取りを交わしながら、紗夜と薊美さんは連れ立ってスタートラインの方まで駆けて行ってしまった。そして、取り残された俺とユリシアは……
「(えっ、ちょっ、ま、まずくない!? これ、まずくない!?)」
「(……ふっ)」
「(リョ、リョウ!? 何か秘策が!?)」
「(……大ピンチだ)」
「(でーすよねー!!)」
俺たちは再度大きな溜息を吐く。そんな俺たちの様子を静かに眺めていた寺田君はよく分からないといったように首をかしげる。
「どうしたの? 二人とも」
「い、いや、何でもない……」
「そう? それなら、そろそろボクは列から外れるね。ここにいると紛らわしいだけだろうし」
「あー、うん。了解」
そうして寺田君がこの場を去っていく。その間も、俺とユリシアは脳内で作戦会議を繰り広げていた。
「(ユリシア、せめて薊美さんの記録を参考にしよう。それを元に、秒数を数えながら走る。良いな?)」
「(わ、分かった。じゃ、じゃあ、ルナの記録は聞き逃さないようにしなきゃ)」
「(それから、ユリシアは俺のことを追い抜くなよ? 絶対に)」
「(りょ、了解)」
そうしているうちに教員の掛け声がかかり、そして紗夜と薊美さんが同時に走り出した。俺たち二人はそんな彼女たちの様子をじっと凝視していた。一瞬たりとも見逃すまいとするように。
そして、彼女たちがゴールラインを通過するのを見届けた。さあ、記録は……? 今の俺たちならば50m遠くても決して聞き逃したりはしない。そのために聴覚神経を最大まで研ぎ澄ましているのだから。
「陸下紗夜さん、10.28秒。薊美月菜さん、8.84秒」
「(聞いたな? ユリシア)」
「(もちろんだよ、リョウ。ルナは8.84。とすると、リョウは7秒台をキープがベストだね。そして、わたしはなるべく8秒台をキープする。これでOK?」
「(オールOKだ。それでいこう)」
「それでは、次の人たちどうぞ」
「いくぞ、ユリシア」
「うん、分かったよ!」
俺たちはまるで死地にでも赴くかのような会話を交わし、そしてスタートラインまで駆けて行った。
「(あっ、ところでさ、今思ったんだけどね、テラダ君の記録見せてもらうのが一番早かったんじゃ……)」
「(あっ……)」
何故その方法に思い至らなかったのか……。俺は思わず頭を抱えたくなった。が、教員は待ってくれるはずもなく……
「On your mark, set……」
そして、無情にもパンと手が叩かれた。俺たちは慌ててスタートする……が、それがいけなかった。
「「(あっ……)」」
焦ってスタートした所為で、1歩目の踏み出しが大きくなりすぎてしまった。さらに、その勢いで2歩目を踏み出すタイミングがかなり速くなってしまった。
ここから軌道修正をすることは難しい。そんなことをしたら、本気を出していないことがすぐに露見してしまう。加速はあっても減速することは本来有り得ないからな。
つまり……
「(これ、詰み!? もしかして詰み!?)」
「(……ふふっ)」
「(……も、もしかして何か秘策が?)」
「(あるわけないだろぉぉぉぉぉ!! 完全にガメオヴェラだよぉぉぉぉぉ!!)」
「(でーすよねぇぇぇぇぇぇぇ!! うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!! 規格外は嫌だよぉぉぉぉぉぉ!! あと、リョウのハーレムなんて見たくないよぉぉぉぉぉぉ!!)」
などとわちゃわちゃ騒ぎながら、俺たちは秒数を数えることも忘れて50mをあっさり走りきってしまった。当然、周りの反応は……
「わっ、わわっ、は、速っ!!」
「すごいですわぁ!! 二人ともすごすぎますわぁ!!」
「え、えっと、ユ、ユリシア・フォクサローゼリスさん、6.13秒……。そ、それから、霜崎涼さん、5.99秒……です……」
完全にやってしまった……。これじゃ、もはや誤魔化すことなどできない……。あぁ……、注目何てされたくなかったのに……。
それからというもの……
「おお、45回! 流石は霜崎君だね」
「えっと、右が61kgで、左が65kgですね。他の記録もそうですが、どれも素晴らしいです」
「71cm。ちゃんと柔軟性もあるし、言うこと無しです!」
グラウンドでの計測を全て終えて体育館にやってきたわけだが、グラウンドでの記録の所為で下手に手加減することもできず、結局それぞれの場所で高い……と思われる記録を出してしまった。
そうして今、俺たちは最後の関門であるシャトルランの計測場所までやってきていた。多分、シャトルランが俺たちにとって一番の難関だろう。なんせ、俺たちの息の上がり様で疲れているかそうでないかが簡単に見破られてしまうのだから。
かなり頑張って演技をしないと、すぐに手加減していることが周囲に気づかれてしまう。正直、頭を抱えたくなった。
「うぅ……、うぅぅ……」
一人、別の意味で頭を抱えているのがいたが……。
「さ、紗夜さん……? こ、ここが最後ですから頑張りましょう? ね?」
「ファイト、ファイトだよ、サヤ!」
「うわぁん、もう無理だよぉ……!」
両サイドのユリシアと薊美さんに励まされてなお、紗夜は頭を抱え続けていた。ユリシアが彼女の背中を撫でながらさり気なく回復魔法を使っていたが、それでも下降し始めた紗夜の気持ちまでは修正できない。
「(うぅ……、こっちだって泣きたいのにぃ……)」
ユリシアは脳内でそうぼやく。そのぼやきは俺にしか聞こえない。
「(こんなの、絶対無理じゃん……。多分この程度じゃ汗すらかけないよ……。ど、どうすれば……)」
「(……方法はないことはない。水魔法を上手く操って、あたかも汗をかいているかのように見せかければ……)」
「(む、難しいね……、それ……。で、でも、やるしかないよね……。ここまでくるともはや手遅れ感半端ないけど、それでもやるしかないよね)」
「(ああ、やるしかない……、俺たちの平穏のために……)」
そうして俺とユリシアは頷き合う。
それから少しして、前のグループの計測が終わった。次はいよいよ俺たちの番だ。
「それでは、次の10名はスタートラインに並んでください」
俺たちは前に進み、20m四方のコートの1辺に横1列に並ぶ。なお、最後までぐだっていた紗夜は薊美さんが無理矢理連行した。
俺たちを含めた10名の学生がラインに並んだのを確認し、教員がラジオカセットを弄る。すると、小学生の時に聞いた懐かしい電子音がスピーカーから流れ始めた。
そういえば、最初はシャトルランの説明だったっけ。まぁ、正直聞き飛ばしても問題ないだろう。
そう思い、俺は一度周囲の状況を確認する。……そして、確認したことを後悔した。なんせ、ほとんどの学生がシャトルラン用に設けられたコートの周りに集まっていたのだからな。見なきゃよかった。
「……雨宮さんもいるのか……」
見知った学生の姿を見つけ、俺は思わずため息を吐きそうになる。どうやらこの人数の中では特に何も言ってはこないようだけど、あの人の期待するような眼差しは健在だった。や、やりづらいことこの上ない……。
「(か、観客、多くない?)」
「(絶対これ、わたしたちに注目してるでしょ……)」
「(だ、だが、やることは変わらない。良いな?)」
「(うん、分かってる)」
などと、ユリシアとテレパシーで会話をしていると、
「5秒前……」
どうやらもう始まるみたいだ。電子音でのカウントダウンの後、"START"というナビゲーターの掛け声がかかった。その瞬間、学生たちは一斉に走り出す。
初めの方はゆっくりなので、基本的にどの学生も余裕で走ることができる。だから、この辺は周囲を気にすることはない。
「TOTAL 7, START LEVEL 2」
レベルが上がるごとに音源の速さも上がっていくが、レベル2であればまだまだ余裕だろう。そう思い、俺は一緒に走っている他の学生たちに視線を向ける。
……すると約1名、既に息を上げているのがいた……。さ、流石は紗夜……、本当に運動が苦手なんだなぁ……。
だが、それ以外の学生は苦しそうな表情は浮かべていないな。なら、そこまで気にする必要はないだろうな。
それから少しして……
「TOTAL 16……」
となったところで、最初に紗夜がリタイアした。まぁ、予想通り。これで残りは9人か。残りの人数が半分を切ったらいろいろと気にし始めないとな。
それからしばらくの後……、
「TOTAL 51……」
というところで、薊美さんがリタイアした。この時点で残りの人数は6人。うーん、そろそろ演技を交えた方が良いかな……? い、いや、もう少し様子を見よう。まだ51回だし。
それからまたさらに時間が経過し……
「TOTAL 101……」
ここで寺田君もリタイア。これで残りは俺とユリシアを含め4人。流石に演技を入れるべきと思い、90回を超えた辺りから俺とユリシアは少しずつ吐く息を荒くして言っていた。
というかそもそも、ユリシアがまだ残っていて大丈夫なのか? 女子で100回を超えるってなかなかだと思うんだが……。まぁでも、別に問題ないよな、うん。
その後俺とユリシア以外に残っていた男子学生2名がリタイアし、とうとう俺とユリシアだけになった。そして、現在は140回。
「(そ、そろそろリタイアしないとまずくないか……?)」
「(う、うん……、そうだね……。で、でも、このタイミングで急に疲れた演技を大げさにするのはまずくない……? 多分、かなり怪しまれるよ……?)」
「(……やっぱりそうだよなぁ……。でも、ユリシアがここまで残っているのは正直かなりヤバい……)」
「(そこはどうにか上手くやってみるよ)」
そう言うと、ユリシアは上手い具合に微調整をしながら、徐々に走るペースを落としていった。もちろん、息の荒さも少しずつ増してきていた。
そうして……
「TOTAL 152……」
というタイミングで、ユリシアがリタイアしたのだった。体育館中のあちこちからユリシアに拍手が送られていた。
まぁ、そりゃそうだよな。女子で150回越えだもんな。学生たちが沸き上がるのも仕方ないよな。
さてと、そんじゃ俺もそろそろフェードアウトしますかね……。そう思い、俺は誰にも気づかれないように水属性魔法を駆使しながら少しずつ走るペースを緩めていった。
そして……
「TOTAL 171……」
ここにきて、ようやく俺もリタイアすることができたのだった。これで10名全員が走り終え、体育館内はさらに大きな歓声に包まれた。
「(結局、注目されないルートは存在しなかったな……)」
「(……だね)」
俺とユリシアは本日最大の溜息を心の中で吐くのだった。
----------------------------------------
*ユリシア・フォクサローゼリス
握力: 右 35kg 左 37kg
上体起こし: 35回
長座体前屈: 58cm
反復横跳び: 57回
立ち幅跳び: 252cm
ハンドボール投げ: 31.9m
20mシャトルラン: 150回
50m走: 6.13秒
*陸下 紗夜
握力: 右 21kg 左 20kg
上体起こし: 17回
長座体前屈: 42cm
反復横跳び: 28回
立ち幅跳び: 149cm
ハンドボール投げ: 12.5m
20mシャトルラン: 14回
50m走: 10.28秒
*薊美 月菜
握力: 右 29kg 左 30kg
上体起こし: 28回
長座体前屈: 65cm
反復横跳び: 52回
立ち幅跳び: 203cm
ハンドボール投げ: 18.2m
20mシャトルラン: 49回
50m走: 8.84秒
*霜崎 涼
握力: 右 61kg 左 65kg
上体起こし: 45回
長座体前屈: 71cm
反復横跳び: 65回
立ち幅跳び: 264cm
ハンドボール投げ: 44.7m
20mシャトルラン: 169回
50m走: 5.99秒
*寺田 雅
握力: 右 40kg 左 38kg
上体起こし: 32回
長座体前屈: 54cm
反復横跳び: 53回
立ち幅跳び:224cm
ハンドボール投げ:29.5m
20mシャトルラン: 99回
50m走: 7.35秒
*雨宮 紅葉
握力: 右 23kg 左 22kg
上体起こし: 24回
長座体前屈: 59cm
反復横跳び: 41回
立ち幅跳び: 203cm
ハンドボール投げ: 21.0m
20mシャトルラン: 35回
50m走: 9.03秒