※この作品はR-18です。

異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~   作:室谷 竜司

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赤ブラは健全だけど、紗夜さんの頭ん中は不健全なようです。……ってか、書籍コーナーではお静かに

「おお、いろんな本があるんだね」

 

 開口一番、雨宮さんがそんな感嘆の声を上げる。俺たちにとってはもはや慣れ親しんだ光景だが、初めて訪れる人にはやはり新鮮な景色に映るらしい。内装はほとんど普通の本屋と変わらないはずなのだけど。

 

「フロア内に音が歩かないかだけで、雰囲気ってこれほど変わるものなのですね。図書館とは違った明るい空気、ワタクシ好きですわ」

 

 薊美さんもご満悦のようだ。内装は同じでも、店内音楽の有無で印象はガラリと変わるらしい。図書館じゃ黙れの一点張りだしな。

 

 あんな堅苦しいところ、俺は行きたくないなぁ……。静寂に息がつまりそうで、逆に集中できないような気がする。単なる好みの問題だろうけど。

 

「さぁてと、何か良い本あるかなぁ」

 

「一人じゃよく分からないから、私は紗夜さんについていこうかな」

 

「オッケー。それじゃ、気ままにぶらぶら見て回ろう」

 

 早速、紗夜が雨宮さんを引き連れて本棚の間をするすると進み始める。紗夜は流石の身軽さだな。ここが庭と言うだけはある。……さっき会談で転んでたのはもう忘れた。

 

「ここで立ち止まってても邪魔だろうし、ボクたちも移動しよう」

 

「そうだな」

 

「あちらの漫画コーナーを見てみたいですわ」

 

 薊美さんはライトノベルのコーナーではなく漫画のコーナーに興味を持ったようだ。漫画は絵が中心で文字の羅列はあまり多くないので、普段から文字びっしりの本を読みなれて居そうな薊美さんにはやや読みづらいジャンルのようにも思うが……。

 

 まぁでも、せっかく興味を持ってくれたのだし、水を差すのも野暮かな。

 

「ん、良いよ。それじゃあ行ってみようか」

 

「ありがとうございます、涼さん」

 

 俺は薊美さんを伴って漫画コーナーへと足を進めた。ユリシアもついてくるかなぁと思ったが、どうやら別行動を選んだらしい。

 

「あれ、ついていかなくて良いの?」

 

「んー、良いかな。今日のところはルナに譲ったげる」

 

「珍しい……。いつもべったりなのに」

 

「その分の補填は後でしてくれるだろうしね。たまには他の人とのコミュニケーションも大事でしょ」

 

「ずいぶん丸くなったね。まぁ、君がそれで良いなら何も言わないけど。だったら、ボクと一緒に回る?」

 

「良いよ。思えばテラダ君と二人でゆっくりお話しする機会もなかったしね。クラスでのリョウについてとか、根掘り葉掘り聞いちゃおうかなぁ」

 

「あはは、結局霜崎君なのね」

 

「そりゃあね」

 

 背後で繰り広げられるそんなやり取りを聞きながら、珍しい組み合わせに興味を膨らませる俺だった。不思議とヤキモチはなかった。

 

    *

 

「本当にいろいろな本があるのですね」

 

 本棚に陳列された漫画たちに、薊美さんが改めて感嘆の域を漏らす。そんな彼女の姿を横目に映しながら、そういえばお嬢様がオタク文化に興味を示すシチュエーションって一定数存在するよなぁ……などと、俺は暢気にそんなことを考えていた。

 

 そういう2次元作品では、大抵共通のオタク趣味を持った主人公とそのお嬢様が徐々に魅かれ合って、最終的には結ばれたりするんだよな。

 

 まぁ、俺は主人公というわけじゃないし、何ならユリシアという彼女……将来の嫁がいるからな。そういったテンプレは起こり得ないのだが……。

 

「あら、これはくらててですわね。こういう目につきやすいところに置かれている作品って、やはり人気がある……ということなのですわよね」

 

 俺が2次元テンプレと現実との差異に苦笑いを浮かべていると、不意に薊美さんから話しかけられる。その手にはくらてての最新巻が握られていた。

 

「ん? ああ、そうだな。注目作はだいたい目立つ場所にあるかな。特に、くらてては最近の作品の中じゃ群を抜いて人気だからね。こうやって前面に押し出しておけばより売り上げも伸びるんだと思う」

 

「ちょっと生々しいですわね……。でも、これも結局は商売なわけですし、そういうものなのでしょうね」

 

「ん。まぁ、俺としては楽しめればそれで満足だけどな。裏事情に首を突っ込むなんて面倒なことはしないさ」

 

「確かに、その通りですわね」

 

 彼女の納得したような言葉に"だろ?"と一言返しつつ、俺は近くの棚に置かれていた漫画をテキトーに一冊手に取る。その表紙には、公園のベンチで寄り添い合う二人の少年少女が描かれていた。

 

「あっ、これ、最近ユリシアとメルシアちゃんがよく読んでるやつだ」

 

 見覚えのある表紙絵に、俺はそんな呟きを溢した。そんな表紙絵の上には、"運命の赤いブランコ"というタイトルが掲げられていた。

 

「それが、ユリシアさんのお気に入り作品なのですか?」

 

 俺の手の中の漫画本に興味を持ったようで、薊美さんがくらてて最新巻を元あった場所に戻してから俺のすぐ傍までやってくる。

 

「じゃないかな。でも、ユリシアが持ってたのは書籍版だったっけ。漫画版も持ってるのかな」

 

「そうなのですね。ところで、メル……なんとかちゃんというのは……、もしかしてこの間話していたユリシアさんの妹さんですか?」

 

 そんな薊美さんの問いかけに、俺はつい先日ユリシアが友人たちに自分の家族について話をしていたことを思い出す。

 

 だから、ユリシアに妹がいるということを薊美さんたちは既に知っている。ただ、名前までは言っていなかったため、やや困惑気味だが。

 

「あー、うん、合ってるよ。メルシアちゃんって言うんだ」

 

「メルシアさん……、良いお名前ですわね」

 

「はは、確かに」

 

 彼女の呟きに俺はそんな相槌を打つ。ユリシアもそうだが、あの狐姉妹の名前の響が俺は好きだったりする。何というか、可愛らしさがあるんだよなぁ。

 

「ふふっ。それで、ユリシアさんたち姉妹がそろって愛読しているのがこの作品というわけですわね。タイトルは……、運命の赤いブランコ……ですか」

 

 俺の相槌に微笑みを返した薊美さんは、そんな狐姉妹のお気に入りである漫画本に興味津々のようで、俺のすぐ真横から手元を覗き込んできていた。

 

 彼女の茶髪から漂う柑橘系の香りを感じながら、今の光景をもしユリシアが目撃したら一体どのような反応をするだろうかと、変な興味を湧かせてしまっていた。

 

「どのような作品なのでしょう」

 

「うーん、俺も詳しくは知らないんだよね。表紙絵的には青春ラブコメっぽい感じだけど。にしても、キャラデザ結構良いな、これ」

 

「確かに。とても可愛らしいイラストですわね」

 

 薊美さんとキャラデザの良さについて語り合いながらも、俺は表紙の中のヒロインと思しき少女に若干の違和感を覚えていた。

 

 何処となくメルシアちゃんに似ているような……? ヒロインの少女は、小柄な身体に銀髪碧眼を携えている。これに狐耳と尻尾をくっつけたらほぼそっくりの見た目になるんじゃなかろうか……。

 

 そんでもって、ユリシアはこの作品を確かメルシアちゃんと再会する前から所持していたはず……。

 

 もしかして、ユリシアがこの作品を手に取った理由って、亡くなったメルシアちゃんの面影に引かれたからなんじゃ……。

 

 その時のユリシアの心情を考えると、途端に涙が出てきそうになる。隣に薊美さんの目もあるので、流石に泣くわけにはいかないが……。

 

 いや、もう本当……、メルシアちゃんが生きていて良かった。

 

「ん? どうかされました? 涼さん」

 

「あっ、いや、何でもない。この表紙の女の子がメルシアちゃんに似てるなぁって感じただけだから」

 

 俺の雰囲気から何かを感じ取ったらしく、薊美さんに心配するような視線を投げかけられてしまう。泣きそうになっていたことを悟られたくなかった俺は、表紙絵に再び視線を落としながら咄嗟にそう誤魔化した。

 

 薊美さんの瞳はまだ少しだけ疑問の色を浮かべていたが、しかしそれ以上の追及はなかった。

 

「へぇ、メルシアさんはこんな感じの容姿をされているのですね」

 

「うん、やっぱり結構似てると思う。メルシアちゃんも銀髪碧眼だし。ちなみに、ユリシアとメルシアちゃんも、姉妹ってこともあってすごくそっくりなんだよね」

 

「そうなのですね。では、この表紙の女の子の髪の毛を金色にして、ついでにおっぱいを大きくしたら、もしかしてユリシアさんにそっくりになったりして」

 

「ははっ、なるかもな」

 

 薊美さんのそんな発想に、俺は思わず吹き出してしまう。彼女との会話の中で、俺の気はすっかり紛れていた。

 

「ふふっ、でもその場合、ユリシアさんが涼さん以外の男の方と仲良くされているように見えてしまいますね」

 

「止めてくれよ、薊美さん。ユリシアは……」

 

 からかい混じりの薊美さんの言葉に笑いながらツッコミを入れようとして、その言葉は途中で止まってしまう。

 

 背後からものすごい強い視線を感じる。これは……かなりの威圧感だ……。薊美さんもその視線に気づいたらしく、青ざめさせた顔をこちらに向けてきていた。

 

 ……まぁ、こんな威圧的な視線を放てる奴なんて、恐らくこの場には一人しかいない。などと思いつつ、俺はゆっくりと背後に顔を向ける。

 

「誰が、リョウ以外の男の人と仲良くするって……?」

 

 予想通り、そこにいたのはユリシアだった。その隣には寺田君もおり、ユリシアの放つオーラに苦笑いと冷や汗を浮かべていた。

 

「ひっ……!? ユ、ユリシアさん……!? い、何時の間にそこに……」

 

 ユリシアの怒気を孕んだ声を聞いた薊美さんが、がくがくと膝を震わせながら恐る恐るユリシアにそう問いかける。

 

「表紙の子の髪の毛の色を変えたら……ってところから」

 

「そ、そこから聞いていたなら分かりますわよね!? さっきのは単なる話のネタの一つにすぎませんわ……! おちゃめなジョークというやつですわよ……!」

 

「言って良い冗談と悪い冗談があるでしょ! そ、それと、二人ともくっつきすぎ! ほら、さっさと離れなさいっ」

 

 素早い動作でこちらに接近したユリシアは、ものすごい力で俺と薊美さんを引き剥がす。ふむ、やはりこの状況にはヤキモチを焼くらしい。ったく、相も変わらず可愛い奴め。

 

 怒気を膨らませるユリシアとは対照的に、俺の心はほっこりと和んでいた。

 

「い、痛いですわっ! ああっ、せっかくの涼さんとの二人きりの時間がぁ……!!」

 

「ぐぬぬ……、やっぱりリョウについていくべきだった……」

 

「ちょっとくっついた程度でそんなに怒らないでくださいまし。た、短気な女性は嫌われますわよ」

 

「ああっ、そういうこと言うんだ……! ねぇ、わたしの神経を逆撫でするの、そんなに楽しいかしら!?」

 

 っとと、流石に止めないとまずいな。いつものじゃれ合いで歯あるが、ここは店内だ。あまり店側に迷惑をかけるわけにもいかない。

 

「はい、ストップ。二人とも落ち着けー」

 

 俺はユリシアの肩を両手でがしっと掴みながら、二人の喧嘩に割って入る。本当、喧嘩するほど仲が良いとは、この二人のための言葉だよな。常々そう感じるわ。

 

「助けてくださりありがとうございます、涼さん」

 

「むぅ……。わ、わたし、リョウにも言いたいことあるんだからね……」

 

 抵抗せず大人しくなったユリシアだったが、先ほどまで薊美さんに向けられていた避難の視線が今度は俺に向く。

 

 ありゃりゃ、かなりご機嫌斜めのようだ……。こりゃ、早急に謝っておくに限るな。恐らく、ユリシアは俺が薊美さんとの密着を拒まなかったことを怒っているだろうし。

 

「勘違いさせちゃったよな。ごめんよ、ユリシア」

 

「だ、だからぁ……、頭撫でれば良いってわけじゃ……ない……んだから……ふ、ふへへへへへ……♡」

 

 とりあえずユリシアを落ち着かせることはできたな。家に戻ったら改めて詫びないと。そのうえで、いろいろと埋め合わせしてあげよう。

 

 俺がそう決心していると、不意に本棚の向こうからこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。二人分だ。

 

「こっちまで聞こえてきたけど、またユリちゃんと月菜ちゃんの件か?」

 

 顔を覗かせたのは紗夜と雨宮さんだった。紗夜は一目見て状況を察したらしく、呆れた視線をユリシアと薊美さんに向けていた。

 

「まぁ、そんなところ。というか、そっちまで聞こえちゃってた?」

 

「うん。でも、今はこの空間にはほとんど人いないみたいだし、大して迷惑はかかってないんじゃないかな」

 

「なら良いけど」

 

 紗夜からの説明に、ほっと安堵の息を吐く俺。他の客に迷惑をかけてしまうのが一番面倒だったから、たまたま客が少ない時間帯で安心した。

 

「と、ところで、ユリシアさんがすごい表情になってることにはだれもリアクション市内の……?」

 

 俺たち5人にとってはいつも通りの光景なので誰も気にすることはなかったが、そういえば雨宮さんは初めて見るんだったか

 

「大丈夫。あれがデフォルトだから」

 

「へ、へぇ……。な、慣れてるんだね……」

 

「約1ヶ月も同じ光景見せられれば、そりゃ慣れるよ。紅葉ちゃんもいずれ慣れてくるよ、きっと」

 

「あ、あはは、そうだと良いな……」

 

 少し引き気味な雨宮さんだった。まぁ、確かに今のユリシアの顔は、本来人様に見せるべきじゃない緩み顔だしな。初めて見る人からすれば、もしかしたらショッキングな光景かもしれない。

 

 それはそうと、二人の買い物の邪魔をしてしまったことについては謝らないとな。

 

「二人ともごめんな、心配かけて。邪魔しちゃったよな」

 

「あっ、だ、大丈夫だよ」

 

「そうそう。というか、そもそも心配はしてなかったし。気分転換に漫画コーナー見に行こうかって話もしてたしね。気にすることはないよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ。んで、何か良い本見つかった?」

 

 雰囲気を変えるべく、俺は後から合流した二人にそんな質問を投げかけてみることにした。

 

「一応ね。異世界物で面白そうなのがあったんだ」

 

「へぇ、どんなの?」

 

「こんなやつ。ダイナマイトボディでなりあがりますわ! っていうタイトルなんだけどね、前世が貧乳だった女が転生得点でナイスバディをもらうってお話らしいよ。決行過激な感じ」

 

「紗夜、本当そういうの好きだよな。親に見つかったら気まずくなる系のやつ」

 

「まぁね。やっぱエロ要素は欠かせないでしょ」

 

 女だが、紗夜はまるで男みたいな趣味を持っている。エロいの大好きだし、プレイするゲームも基本的に男性向けの者ばかりだ。

 

 だが、女性向けも普通に好きらしい。男性アイドル物のアニメも見ているようだし、確かBLもいける口って自ら公言していた気がする。

 

「わ、私だったら恥ずかしくて読めない……」

 

「慣れればどうってことないけどね。あれだったら、エッチなやつも一つ読んでみる? オススメのやつ教えるよ?」

 

「い、いやいやいや、私にはまだ早いよ……! さ、最初は優しい内容のものからお願いしたい……かなぁ」

 

「まっ、そうなるよね。って、あれ? もしかして赤ブラ?」

 

 雨宮さんの初心な反応に苦笑を浮かべた紗夜だったが、不意に彼女の視線がある一点で止まる。それは、先ほどまで俺と薊美さんの二人で眺めていた"運命の赤いブランコ"の表紙だった。

 

 あっ、紗夜も知ってたんだ、あれ。というか、元々ユリシアから聞いてはいたけど、赤ブラって略し方はどうにかならないもんかねぇ……。改めて聞いても、やはり別のものを彷彿とさせる。

 

 表紙絵的にそういう系の作品じゃないことは何となく理解できるが、いろいろと勘ぐってしまう。しかも、エロ系大好きな紗夜が知っているとなれば尚更……。

 

「あ、赤……ブラ……!?」

 

 恐らく、俺と同じような想像をしたのだろう。雨宮さんが顔を真っ赤にしてしまっていた。

 

「あ、赤ブラって……、赤いブ、ブラ……ブラジャー……のことだよね……。や、やっぱりそれもエッチな作品なんだよね……、きっと……。さ、紗夜さんってば、本当にそういうのばっかり読んでるんだ……」

 

「いやいや、赤ブラジャーちゃうわい! 赤ブラってのは、運命の赤いブランコの略。普通の健全な青春ラブコメだよ。ってか、私別にエッチいやつばっか読んでるわけじゃないからね!?」

 

「あ、あの、一応公共の場だし、あんまりエッチだの何だの言わない方が……」

 

 寺田君の冷静なツッコミにより、紗夜と雨宮さんは大人しくなった。雨宮さんは元々赤面状態だったが、頭が冷えた所為で途端に恥ずかしさがこみ上げてきたらしく、紗夜まで顔を真っ赤にしていた。

 

「そういえば、メルシアも同じようなこと言ってたかも。赤ブラって、なんか赤いブラジャーみたいな略し方だねって」

 

「ワタクシも一瞬過りましたわ、赤い下着が」

 

「や、やっぱりそう思っちゃうよね? 私、変じゃないよね?」

 

 ユリシアと薊美さんの発言を聞いた雨宮さんは、同氏がいて助かったとばかりにほっと息を吐いていた。

 

「にしても、漫画版もあったんだね、赤ブラ」

 

「みたいだね。チェックするのすっかり忘れてたよ。買わないとじゃん」

 

「わたしも買っとこ」

 

 ユリシアも紗夜も赤ブラのコミカライズ情報はチェックし損ねていたらしい。二人とも迷わず手を伸ばしていた。やはり好きなんだなぁ。

 

「それなら、ワタクシも買いますわ。ユリシアさんや紗夜さんが愛読しているのなら、きっと面白いこと間違いなしでしょうし」

 

「えっ!? い、いや、そんな期待されても……」

 

「でも、ルナはくらてて良かったって言ってたよね。なら、多分楽しめると思う。せっかくだし買っときな」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 薊美さんの期待の重さに紗夜は若干引いていたが、反対にユリシアはオススメだと胸を張り、彼女に棚から取った1冊を手渡していた。

 

「ほら、クレハも。読んでみて」

 

「えっ、あっ、わ、私も?」

 

「記念にさ。絶対面白いから」

 

 そのままの流れで、ユリシアは雨宮さんにも新品を渡していた。困惑しながらも、雨宮さんはユリシアから漫画本を受け取る。

 

「そ、そういうことなら、うん。ありがとう、ユリシアさん。私も、これ読んでみるね」

 

「感想聞かせてね、二人とも」

 

 結局、女性陣4人全員が赤ブラの漫画版を買うこととなった。

 

 その後も、俺たちは店内をぶらぶらしながら、良さそうな商品がないか物色して回っていた。途中、紗夜が若干際どいイラストがプリントされたグッズを見つけて興奮していたり、獣耳キャラに食いついた俺にユリシアがヤキモチを焼いたりと相変わらず騒がしい俺たちだったが、非常に充実した時間だったことは間違いない。

 

 そんなこんなで時間は過ぎ、各々会計を済ませて店を出ることとなった。あまり遅くなるといろいろ危ないしな。特に女性は。

 

    *

 

「いやぁ、良い買い物をしたよ。お財布がちょっとばかし軽くなっちゃったけど」

 

「サヤはもう少し我慢を覚えた方が良い。そんなんじゃ、何時か絶対破綻する」

 

「かもね……。まぁ、そんときゃバイトでも探して自力でお金稼ぐよ」

 

「うちってバイトOKだったっけ?」

 

「えっ、ダメなの!?」

 

「い、いや、知らないよ……」

 

 先頭でテンポの良い会話を繰り広げるユリシアと紗夜の二人の背中を眺めながら、この二人の仲の良さを改めて実感する。

 

「とても楽しかったですわ」

 

「私も。知らない者がいっぱいで、すごく新鮮な感覚だった」

 

「なんか、二人を見てると初めてアニメショップに足を運んだ時のことを思い出すよ。あの朱鷺が懐かしいなぁ」

 

「というか、もう何年前の話だろうな?」

 

 慣れた様子で道を進む先頭二人の後に続きながら、残り4人も会話に花を咲かせる。薊美さんや雨宮さんにも満足してもらえたようで、連れてきたこちらとしても嬉しい限りだ。

 

「っと、あれは……うちの車ですわね。どうやら迎えが来たようです」

 

 不意に薊美さんが道路を走る1台の黒塗りの高級車を指差しながらそう呟いた。街中で異様な存在感を放つその高級車に、多くの視線が集まっていた。

 

「……注目の的ですわね。うぅ、乗りづらいことこの上ないですわ」

 

「あはは、確かに。というか、よくこの場所が分かったね。薊美さん、連絡なんて何時の間に済ませてたの?」

 

「いえ、連絡はしてませんわ。GPSか何かで探し当てたのでしょうね」

 

 高級車に向かって手を振りながら、薊美さんが嘆息した。お嬢様って、本当に苦労が多そうだ。金持ちが必ずしも良いってわけじゃないのだと、彼女のその姿が俺たちに教えてくれていた。

 

「というわけなので、ワタクシはここで失礼させていただきますわ。皆さん、とても充実した放課後をありがとうございました」

 

「うん、どういたしまして」

 

「また暇ができたら付き合ってよね」

 

「また遊ぼうね、薊美さん」

 

「ええ、その時はまた。では、ごきげんよう」

 

 そう言うと、薊美さんは俺たちに背を向け、高級車の近くまで歩みを進めていった。その足取りはとても軽いように見えた。

 

「じゃ、俺たちも帰ろう。遅くなるといけないし」

 

 薊美さんを見送った後、俺たちも駅へ向けて再び足を進めるのだった。

 

    *

 

「ユリシア・フォクサローゼリスへの疑いが晴らされた……?」

 

「そのようです。少なくとも、私はそのような報告を受けました」

 

「面倒ですわね……」

 

 とある教室内に、女学生の悔し気なうめきが小さく響く。別の場所からは、ドンと机をたたく音も聞こえてくる。

 

「あー、腹が立つ……。さっさと孤立してしまいなさいよ……」

 

「霜崎涼の存在が大きすぎますわね。1年からの信頼が厚すぎます。彼がバックにいては、どうにも……」

 

「だからって、諦められるはずがないでしょう? 私たちの大事なレオをあんな目に合わせた女を許してはいけないわ」

 

 そんな叫び声に、その場にいた全員が顔を俯かせる。自分たちの大事な存在をどん底まで陥れた少女のことが許せない……。その思いは、この場にいる誰もが同じように抱えている。

 

 しかし、少女の後ろ盾があまりに強すぎる。その事実が大きな悩みの種だった。脳裏を過るのはどれも陳腐な案ばかり。そのことが、彼女たちを余計に苛立たせる。

 

「こんな時、レオがいれば……」

 

「けど、レオはここにはいないわ」

 

「あー、もうっ!! こんなんじゃ、アイディアじゃなくてイライラで頭がいっぱいになるわよ!」

 

「まぁ、ひとまずは同じように噂を流させて様子を見るしかなさそうね。効果があるかは分からないけど、何もしないよりかはマシでしょうし」

 

「それしかないのかしらね……、はぁ……」

 

 結局、叩き出した結論は現状維持。そのことに、彼女たちは溜息を溢すことしかできない。頭を過るのは、彼がいれば……という願望ばかり。

 

 そうして、良いとはとても言い難い雰囲気の中、話し合いは終わりを迎えようとしていた。

 

「失礼いたします」

 

 しかし、ノックの音とそんな声が彼女たちを引き留めさせた。

 

「貴女は……」

 

 開いた扉の奥から姿を現した存在に、机を囲んでいた女学生の内の一人が訝しむような視線を向ける。

 

「そんな怖い顔しないでくださいよ。お困りのようでしたので、私から一つ案を提示したいなぁと思っただけですから」

 

「……聞かせてもらうわ」

 

 続きを促された少女は、青いチェックのプリーツスカートを楽し気に揺らしながら、無邪気にその口を開くのだった。

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