異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「ごちそうさまでした。父さん、すげぇ美味かったよ」
「ご、ごちそうさまでした。わたしも、大満足」
「ごちそうさん。いやぁ、こうして喜んでもらえると、気合入れて作ったかいがあったってもんだよ。そんじゃ、父さんは洗い物してくるな」
「えっ、それくらいは俺がやるよ」
「良いって良いって。父さんに任せなさい。お前たちは先に風呂にでも入ってきなさい」
「そ、そうか? 分かった、任せるよ。ありがとな、父さん」
「礼なんか要らねぇよ」
はははと笑いながら、三人分の食器を台所の水道まで持っていくリョウのお父さん。リョウの優しいところは、きっとこのお父さんに似たんだろうなぁ。
なんて考えていると、リョウがわたしの方へと視線を向けてきていることに気が付いた。わたしは首をかしげながらリョウに視線を投げ返す。
「えっとユリシア、どっちから先に風呂入る?」
「お風呂かぁ。えっと、リョウが先で良いよ? 久々の我が家のお風呂に早く入りたいんじゃない?」
「ま、まぁな。それじゃあ、先に入ってくるよ」
そう言ってリョウは、リビングから姿を消した。
それにしても、お風呂なんて向こうの世界じゃ位の高い人たちのお家にしか置いてなかったから、リョウの世界には一般家庭にもお風呂があるって聞いてすごく驚いた記憶がある。
しかも、向こうの世界のお風呂はシャワーを浴びて終わりだったけど、こっちの世界には湯船……っていうものもあるみたい。リョウからの共有知識によると、大きな箱みたいな入れ物に暖かいお湯をたくさん貯めて、その中に身体を入れて温まることができるらしい。
さっきのカレーライスもそうだったけど、わたしの中に流れ込んできたつじつま合わせのための情報たちは所詮は経験したエピソードを文字化したものが記憶されるだけであって、実際に味が分かったり感覚が染みついていたりはしない。知識共有も同じようなもので、言わば辞書みたいなものに過ぎない。
さっきリョウに出してもらった英語の問題は、実際に耳で聞いた感覚は知らなかったけど、これまで学習してきた内容の中に英語の発音記号というものがあって、それを参考にしてみたんだけどどうやらリョウにはちゃんと伝わったみたいだった。文字で説明された発音の仕方を実際に口に出して表現するのは結構難しかったけど、ちゃんと合ってたみたいで良かった。まぁ、口にしてみて思ったんだけど、何となく向こうの世界の魔術言語に似ているような気がしたかな。
「なあ、ユリちゃん、ちょっと聞いても良いかい?」
「えっ? な、何?」
ボーっと一人でそんなことを考えていると、洗い物をしながらリョウのお父さんがわたしに話しかけてきた。
「ユリちゃん、食事中涼の方を見てる時、すごく浮かない顔をしてたように見えたんだけど、何かあったのかい?」
「そ、そうなの? 自分でもあんまり分からなかったけど……」
「そうか。勘違いなら良いんだけどな。もし、うちの涼が何かしたなら、俺に相談してくれて良いからな」
「う、うん。でも、リョウにはいつも良くしてもらってる。むしろ、わたしの方が迷惑かけちゃってるかも」
「いやぁ、それはどうかなぁ。アイツはそんなこと思ってないと思うぞ」
「で、でも……、いつか思われるかも……」
思わず、初めて会ったはずのリョウのお父さんに、自分の心情を吐露してしまう。やっぱり、親子で雰囲気が似てるからかな、ついいろいろと話してしまう。
「えっ、どうしてだい?」
「わたし、リョウのことが好きなの……」
「ほう、それはそれは。でも、それがどうして迷惑に?」
「リョウ、わたしのこと女として見てくれてないと思う……。さっきね、うっかり口滑らしちゃって"大好き"って言っちゃったんだけど、リョウ……ケロッとした顔で"俺も大好き"って言ってたの。多分、わたしのこと意識してない……。というか、わたしの好きって気持ちも勘違いしてると思う……」
「ふーむ、そうかぁ。涼の奴、いつの間に鈍感系主人公スキルを身に着けたんだ? というか、ちゃっかり主人公気取りか?」
や、やっぱり親子だ……。オタクなところもそっくりだ。まぁ、この世界じゃわたしもオタクッてことになってるみたいだけど。あと、リョウに対しての言葉が少し辛辣じゃない……?
というか、わたしがリョウのことが好きってことまで話しちゃった……。それも、本人のお父さんに……。
「俺が思うに、涼はユリちゃんのこと迷惑だなんて思ったりしないと思うぞ? アイツのユリちゃんに対する好きって気持ちが一体どういう好きなのかはちょっと俺にも分かりかねるが。でも、アイツはきっとユリちゃんを拒絶しない。受け入れてくれるはずさ。これは、涼の親である俺だから分かることだ」
リョウのお父さんの励ましの言葉はすごく嬉しい。テンション高く振舞っているのも、きっとわたしを気遣ってくれているからだと思う。
それは理解しているけど、わたしの中の不安な気持ちはどうしても拭えなかった。
「うぅ……、それでもやっぱり怖い……」
「はははっ、流石にちょっと信用しきれないか。じゃあ、今から俺とユリちゃんで賭けをしよう」
「賭け?」
急にリョウのお父さんがそんな提案をしてきたので、思わず聞き返してしまった。
「そうだ。何、簡単なことだよ。今からユリちゃんが涼が入ってる風呂に突入するんだ」
「ええっ!? は、恥ずかしいよぉ……、それ……」
「別に裸じゃなくて良いんだぞ。んでだ、もしユリちゃんが一緒に風呂に入ることを涼が拒絶したら、後で俺が涼に弁解してなかったことにする。さらに、ユリちゃんには何か一つ、欲しいものを買ってやる。もちろん、現実的であれば何でも良い」
は、裸じゃなくて良い……って、どういうことだろう? お風呂って、普通裸で入るものなんだよね? 過去にリョウから聞いた話とか共有してもらった知識の中にも……やっぱり裸で入るものってなってるし。
そんなことを考えていると、リョウのお父さんは再び口を開いた。
「ただし、もし涼がそのまま一緒に入浴を受け入れたら、ユリちゃんは涼に告白する。これでどうだい?」
すごく突拍子もない提案だなぁ……。リョウとお風呂だなんて……、想像するだけでも恥ずかしいよぉ……。夢の中で何度かそういうシチュエーションはあったけど、それが現実になるかもしれないなんて……。
この賭けってつまり、拒絶されたらまだリョウとの関係を進展させるには早くて、拒絶されなかったらもしかしたらすぐにでも受け入れてもらえるかもしれないってことを確認するためのものなんだよね、きっと。
でも……、そんな単純な話なのかなぁ……? 拒絶されたらそれまでかもだけど、たとえ受け入れてもらえたとしても、単なるリョウの優しい気遣いかもしれないし、異性として全く意識されてなくて二つ返事でOKされるって場合も考えられる。むしろ、ちょっとくらい拒絶された方が逆に意識されてるんじゃないかなぁ、なんて思ったり……。
そのことをそれとなく伝えてみると……
「あー、確かにそうだなぁ。んじゃ、ちょっと付け足すか。涼が完全な拒絶を見せた、もしくは逆に二つ返事で了承したら俺の負け。ちょっと抵抗があったけど押したらOKをもらえた場合はユリちゃんが涼に告白する。これでどうだ? あと、アイツは優しさだけで女を風呂に招き入れるような奴じゃないから、その辺は安心して良いぞ」
リョウのお父さんは一度洗い物をする手を止めて思案顔になる。
「うーむ、あと考えられることとしたら……、"そういうのは大切な人とするべきだ"とか"もっと自分の身体を大事にしなよ"とか……、なんかそれっぽいこと言い出したらOKサインと判断、とかかな?」
「や、やることは前提なんだ……」
「まぁ、現状での涼の気持ち確認ってことで、どうだろう? もし今回は拒絶されても、チャンスはこれからって考えれば、ユリちゃんに損はないんじゃないか?」
「……わ、分かった……。やる」
若干、リョウのお父さんの口車に乗せられた感は否めないけど、気になってしまっているのも事実なわけで……。
だからわたしは、この賭けに乗ることにしたのだった。リョウと一緒にお風呂に入ることへの緊張や羞恥心、そして一抹の不安を抱えながら……。