異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「フォクサローゼリスさんたち、遅いね」
そう言って、寺田君が学食の入り口に視線を向ける。俺も同じようにそちらへ視線を向けるが、そこに目的の人物の姿は見えていない。
本日の4限は珍しく早く終わったので、俺と寺田君の二人はユリシアたちより先に学食に向かうことにした。C組はまだ授業中だったし。
そうして学食までやってきた俺たちは、先に空席を確保してから彼女たちを待つことにしたのだが、10分、20分と待っても彼女たちは一向に現れなかった。
「何かあったのかね……」
「授業が長引いているのかな」
「だとしても長すぎる気はするけど……」
授業が長引くにしても、基本的に延長時間なんて5分程度だ。20分待っても来ないというのは違和感がありすぎる。
念のため、俺はポケットからスマホを取り出し、何か着信がないか確認してみる。しかし、ロック画面に表示されていたのは今日の日付と現在時刻だけ……。
「メッセージも届いてないな……」
そんな呟きを漏らしたところで、俺はふと昨日の昼のことを思い出した。
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「うん。だって、わたしに集まる視線は全部敵意剥き出しだったから」
「……それって、つまり噂は……」
「わたしに関するものだろうね、十中八九。恐らくだけど、リョウたちに向けられてた憐みの視線は、わたしと一緒にいることを可哀そうに思う視線なんじゃないかな」
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ユリシアが口にした推測……。もしかしたらその推測は当たっていて、今頃ユリシアは噂の所為で何かしらの事件に巻き込まれてしまっているのかもしれない……。
「寺田君、俺ちょっと様子見てくる」
木戸田の時のように、ユリシアは俺に助けを求めているかもしれない。そんな考えが俺を焦らせ、気づけば席から立ち上がって寺田君にそう声をかけていた。
ユリシアなら一人でも何とかできるかもしれない。それでも、もしものことを考えると不安でならない。
「分かった。じゃあ、ボクはここで待ってるよ」
焦燥感を顔に貼りつけた俺に寺田君は一瞬だけ驚いたような顔をしていたけど、すぐにいつもの穏やかな笑みに戻し、俺に軽く頷いてくれた。
俺は彼に一言礼を言ってから、少し早歩きで学食を抜け出した。そして、急いで1年C組の教室へと向かう。
道中すれ違う先輩と思しき学生たちから、まるで恐怖するかのような視線を向けられる。そういえば、学食でも同じような視線をちょいちょい向けられていた気がする。
1年達が向けてくる憐みの視線とは種類が異なるが、これも噂と何か関係があったりするのだろうか?
っとと、今はそんなことよりもユリシアだ。俺は、一旦視線のことは頭の隅に追いやり、やや駆け足気味に廊下を先へ先へと進んでいく。
そうして、俺はC組教室前へと辿り着いた。……のだが、そんな俺の耳にぱしりという音が届いた。
まるで人肌を強く叩いた時のような乾いた音……。まさかと思い、俺は急いで教室の扉に駆け寄る。
それから、恐る恐る中を覗いた……。
「っ……」
そんな俺の瞳に飛び込んできたのは、ユリシアが複数の学生……恐らく1年生たちだろう……に囲まれている光景だった。
思わず息を飲み、扉から一歩後ずさりしてしまう。
……恐らく、今さっきの叩打音はユリシアを取り囲む学生のうちの一人がユリシアに対して手を上げたことによるものだろう。彼らからユリシアに対する敵意が溢れていたので間違いない。
助けないと……。そう思うのに、俺の脚は震え、前に進むどころかゆっくりと後退していくばかり……。遅れて、激しい動悸と強い嘔気が俺を襲う。
気づけば、俺は手で口元を抑え、その場から逃げ出していた……。
「ユ、ユリちゃん!! 大丈夫!?」
そんな叫び声も、余裕を失った俺の耳には届かなかった。
*
近くの男子トイレに慌てて駆け込み、個室の便器の中に吐瀉物をぶちまける。昼食はまだ食べていなかったので、吐き出したのはほとんど胃液だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
嘔気が治まり、俺は個室の壁に背を持たれさせ、上がった息を整える。同時に、やってしまったという後悔の念に苛まれてしまう。
「何……やってんだよ……」
ユリシアを助けないといけないのに、肝心なところで足がすくんでしまった。先ほど目にした光景が、過去のトラウマと重なってしまった所為で……。
思い出すだけで、今し方一時的に取り去った嘔気が再び喉元まで這いあがってくるのを感じる。俺は反射的に片手で自身の口元を覆う。
最近はこんな拒絶反応も消え失せつつあったのにな……。これじゃ、昔の自分に後戻りしてしまったも同然だ。
異世界に勇者として召喚され、様々な経験を積んできた俺だけど、やはり根本は変わらず自己保身のために問題事から目を背けようとする臆病者のようだ。
あの時と今、俺がとった行動は何一つ変わっちゃいない。あの時も、俺は今の俺のように逃げ出したのだ。
あれは確か、俺が小学2年に上がりたての頃のことだったと思う。
その当時から俺にはほとんど友人と呼べる存在はいなかった。とはいえ、完全に孤立していたわけではない。
俺にもいたのだ。一人だけ、友人と呼べる存在が。
当時、まだアニメやらゲームなんて知らなかった頃、その友人と無邪気に外の世界を駆けまわったものだ。
だが、そんな楽しかった日々もそう長くは続かなかった。
その友人は当時のクラスメイト達から虐めを受けていた。きっかけはよく知らない。確か、クラス内でもよく目立っていた奴の私物を誤って壊してしまった……とか、そんな些細なものだったと思う。
けど、そんな些細な出来事でも根に持つ人間はいる。しかも、そいつはクラスの人気者だった。
そいつは人を集め、寄って集って友人にやり返しを始めた。友人は誰にも相談することなく、そのやり返しに一人で立ち向かった。
しかし、人間の精神は決して強くない。その友人は日に日に衰弱していった。その頃になって、ようやく俺は異変に気付くことができた。
ただ、当時から周囲の空気感に無頓着だった俺は、友人が弱っている理由が虐めにあるだなんて考えていなかった。
親にでも怒られたのかな……?なんて暢気な推測をしてしまうくらい、当時の俺は周囲の状況に目を向けようとしていなかった。
だから、初めてその光景を目にした時、俺は大きすぎるショックを受けてしまった。
偶然通りかかった教室の中で、友人は複数の生徒に囲まれていた。彼に注がれる多数の敵意の視線と罵倒の数々……、そして暴力……。その光景に当時の俺は恐怖を覚えてしまったのだ。
助けなければ……。そう分かっていたのに、俺はその場から逃げ出した。そして、そのショックから体調を崩し、俺は友人に顔を見せることなく学校を早退してしまった。
それが俺と友人の最後だった……。友人は虐めで堪ったストレスが爆発し、俺が学校を早退した日に行方を晦ませた。
後に友人が亡くなったという噂を耳にした。
それを聞いた時、俺の心には絶望や恐怖、人への不信感、そして自身に対する無力感が芽生え、結果的に俺は一人塞ぎ込んだ。こんな気持ちになるならもう誰とも関わりたくない……。そう思ってしまった。
これが俺のトラウマであり、過ちである。
そして今、俺は同じ過ちを繰り返そうとしてしまっている。心の疼きに任せ、大切なものを蔑ろにして自己保身に走ってしまったのだ。
あの時の友人のように、今度はユリシアが苦しんでいる。それなのに、俺はこんなところで一人怯えている……。格好悪いにもほどがある……。
情けないのは分かっているが、それでも俺の脚はがくがくと震え続けている。トラウマが俺を前へ進ませまいと邪魔してくる。
「……紗夜も雨宮さんもいるんだ。きっと大丈夫……」
そんな甘えた呟きが口からこぼれた。そして、そう呟いた自分自身にさらに嫌気が差し、嘔気は増すばかり……。
耐え切れず、俺は便器の中に二発目の吐瀉物を吐き出した。そのまま便器に両手をつき、上がった息を整える。
身体の内の不快感をある程度ぶちまけたことで、少しだけ頭の中がクリアになった気がした。
そのおかげかは分からないが、ふと脳裏にとある光景がフラッシュバックする。
ある深い森の奥、しゃがんだまま1本の大木に背を持たれさせ、黙ったまま光のない瞳で虚空を見つめる金髪の少女の姿……。
俺は彼女を本気で守りたいと思ったはずだ。だというのに、今の俺はなんだ? トラウマに引きずられて大切な者から目を逸らしやがって……。
ユリシアに、またあの時のような死んだ瞳をさせたいのか?
「……そんなわけ、ないだろうが」
紗夜がいるから大丈夫……? 雨宮さんがいるから大丈夫……? 違う。
大切な人を失いたくないなら、自分の力で守らねばならない。自分は何もせず、他力本願だけでどうにかしようなど言語道断だ。そんなの、勇者じゃない。
後悔しないためにも、過去と同じ轍は踏まない。トラウマなんぞに負けて堪るか。今度こそ、前へ進んでやる。
「俺は……ヴィオレイウスが勇者、霜崎涼だ」
気づけば、俺の脚の震えは治まっていた。"よし"と一言呟き、俺はトイレの個室から外へと足を踏み出した。最愛のパートナーを助ける覚悟はもうできた。
それから、俺は急ぎ足で廊下を進み、1年C組の教室のすぐ近くまで戻ってきた。
「……?」
そこで、俺は首をかしげた。C組の扉の前に一人の女学生が立っていたのだ。それも、見覚えのある人が。
……うちのクラスのクラス委員、福原さんだ。
彼女は感情の読み取れない瞳で教室の中を見つめている。……いや、見つめるだけじゃなくてさ、できれば中で起きている諍いを止めてほしいのだけど。
まぁ、巻き込まれたくないって気持ちもあるだろうけど。彼女とユリシアには面識なんてないだろうし。……でも、なんだか複雑な気持ちだ。
なんて考えていると、福原さんは俺の視線に気づいてこちらにちらりと振り返る。視線が交差するが、やはり彼女の瞳の奥の感情は読み取れない。
と思ったら、彼女は唐突に小さく微笑んだ。……今のは一体なんだ? 訝し気な視線を彼女に向けてしまう。
しかし、彼女はそんな俺の視線を意に返した様子もなくぺこりと一礼し、こちらに背を向け無言でその場から立ち去ってしまった。
関わる気はないらしい。その事実に俺は一つ溜息を吐き、それから離れていく彼女の背中に再度視線を注ぐ。
「……ん?」
ふと違和感を覚えてしまう。あの後ろ姿、どこかで見たような……。
あ、そうか。昨日だ。昨日、朱鷺舟最寄りの駅前で木戸田の隣を歩いていた女学生の後ろ姿と重なったんだ。
福原さんが木戸田と……? それに先ほど見せた奇妙な微笑み……。これは……何かあるな。直感的にそう感じた。
負うべきか……? いや、しかし……教室内からは相変わらずユリシアに対する罵声が聞こえてくる。
だが、今ここで彼女を見逃してしまったら何かまずいような気もする……。うーむ、どうするべきなのか……。
悩みながら、俺はC組の中をチラリと覗く。すると、紗夜がユリシアを庇うようにユリシアの前に立ちはだかる様子が見えた。
あの様子なら、もう少し持ち堪えられそうだ。紗夜には迷惑をかけるが、すぐに問題を片付けてこっちに戻ってくれば良いだけだ。もしかしたら、福原さんとこの件とは無関係かもしれないしな。
「紗夜、頼む……」
小さくそう呟き、俺はC組教室から離れて福原さんの後を追うことにした。
**
「アナタ方が庇おうとしているその女……ユリシア・フォクサローゼリスは、アナタ方を洗脳し利用する最低な女なのよ」
まとめ役の女学生が放った衝撃発言に、教室内がしんと静まり返る。クラスメイトたちから向けられるのは、"何言ってんだ? こいつ"という困惑の視線だ。
だが、まとめ役の女学生はそんな視線を気にした様子もない。実に堂々とした態度で言葉を続けた。
「まさかここまで重症とはね……」
「嘆かわしい限りですわ」
この人たちは、本当にわたしがみんなを洗脳しているのだと思い込んでしまっているみたい。クラスのみんなを本気で心配している様子からも、そう察することができる。
しかし、彼女たちは洗脳なんて非現実的な噂をどうして信じてしまったのだろうか……? 冷静に考えれば、そんな噂はでたらめだってすぐわかるはずなのに。
いや、そうか。冷静な判断をする隙を与えさせなければ良いのか。例えば……そう、先日の木戸田の一件で一躍有名になった人物……リョウの名前を使う、とかね。
彼は言ってしまえば女学生たちにとっての救世主的な存在だ。そんな彼がわたしの手で操られている……なんて言われたらどうなる?
恐らく、信じてしまうだろうね。特にリョウに対して恋慕や憧れの念を抱く人なんかは、わたしとリョウが恋人関係にあるのはわたしの洗脳の所為だと都合よく解釈してしまうと思う。
結果、わたしを"正義のヒーローの心を弄ぶ悪役"と見なし、正義感を膨らませてわたしを敵対視してくるはずである。
要するに、わたしに対する嫉妬心を上手く利用されたのだ。そして、ある程度噂の信者を獲得してしまえば、あとは自然と伝染していく。
うぅ、やっぱりわたしたちが恋人だって公表するのはまずかったかな……。しかも、開き直って人前でいちゃついちゃってたし……。
上手い具合に弱点を突かれてしまった。取り巻き共か誰かは知らないが、厄介なことをしてくれたもんだよ……。というか、ある意味これも洗脳みたいなものだよね?
「ね、ねぇ、今……なんて言った……? 私には、洗脳がどうの……って聞こえちゃったんだけど……」
一人、頭の中で推測を行っていると、サヤが困惑の色を滲ませた声でそう口にした。その言葉は、"え? 聞き間違いだよね?"とでも言いたげだった。
でもね、サヤ。残念ながら聞き間違いなんかじゃないんだよ……、これ……。この人たち、本気で言ってる……。
「ええ、そう言ったわ」
「ユリシア・フォクサローゼリスは、会話によって他人を自分の盲目的な信者にしてしまう特異な話術を持っています。貴方方は今、彼女の毒牙にかかってしまっているのです」
「話すだけで洗脳されてしまうなんて、何とも質が悪いわ……」
「しかも、その洗脳が感染性に広がっていくわけですから余計に……」
彼女たちはわたしを強く睨みつけながらそう言ってのけた。なるほど、会話による洗脳……ねぇ。しかも、洗脳できるのはわたしだけじゃなくて、洗脳した相手もまた同じような洗脳力を持ってしまうときた。
まったく……、"質が悪い"はこっちのセリフだよ……。いやまぁ、半分くらいはわたし自身が原因かもしれないけどさ。
……ってか、あれ? ちょっと待って。話すだけで洗脳されるって分かっているなら、彼女たちはどうして今わたしの前にいるのだろう? 洗脳されるって噂を信じているのなら、こうも直接的な接触は避けるはず……だよね?
恐らく、これまで接触がなかったのは洗脳を恐れていたからだというのは理解できる。しかし、今になって接触を図ってくる理由が全く分からない……。
「なんかおかしくない? どうして貴方たちはここにいるの? その噂が真実だって分かってるなら、普通ここには来ないよね……」
クレハも同じことを思ったらしく、そんな疑問を彼女たちにぶつけていた。はてさて、彼女たちは素直に答えてくれるのだろうか……?
「そうね。でも、今の私たちなら問題ないわ」
そう言うと、まとめ役の女学生は徐に自身の制服のスカートのポケットから何かを取り出した。どうやら、普通に受け答えはしてくれるみたいだ。
それはそうと、彼女が持っているのは一体何なんだろう? 小さな巾着袋みたいな……ああ、お守りっぽい。
「そ、それは……?」
「お守りよ。これを持っているだけで、自分の意思を掻き乱されなくなるのよ」
あっ、ホントにお守りだった。というかさ、そんな都合の良いお守りなんてあるの? なんか怪しくないかな……?
「そんなの、何処で手に入れたの……?」
「昨日、名前までは存じ上げないけれど、三年生の先輩から譲っていただきましたの。値段は1000円でしたわ。これが何処で売っていたのかは分かりませんわね」
「えっ!? そんな得体のしれないものなのに……貴方たちはお守りの効果を信じてるの!? もしかしたら、偽物を掴まされちゃってるかもしれないのに……」
あっ……、これは確実にヤバいやつだ……。噂でわたしを貶めるだけに止まらず、今回の騒動の首謀者たちは詐欺まがいの行為を行って金儲けまでしようと画策していやがる……。
彼女たちは完全に被害者だ。そう思うと、同情と不安の念が湧いてくる。彼女たちのためにも、早いところ首謀者たちを見つけ出さないと。
「いえ、そんなことはないわ。実際に洗脳にかかった人と話してみたけど、特に何かが変わることはなかったって、これを譲ってくれた人が言ってたのよ」
「それに、今こうして貴方方と話してても自我を保ててますわ。信じる根拠としては充分だと思いますの」
あー、もうっ……! そっちが洗脳されちゃってるじゃない……!! 多分、あのお守りを彼女たちに売りつけた奴は今回の騒動の関係者だ。三年の先輩……てことは、やはり奴らが関わっている可能性が高そうだ。
答えてくれるかは分からないけど、そいつに関する情報を聞きださないといけないな。うーん、どう聞いた者かなぁ……。
「そんなの嘘だよっ! 貴方たちは騙されてる……。だって、ユリちゃんは洗脳なんてしないもん」
どう話を切り出すべきか頭を悩ませていると、隣でサヤがそんな叫び声を上げた。そんな彼女の言葉を追うように、後ろにいる他のクラスメイトたちから"その通りだ"という野次が飛ばされる。
非常に心強い。けれど、同時に考えてしまう。故意ではないとはいえ、わたしもある意味ではクラスのみんなを洗脳してしまっているのではないか……と。
噂も、もしかしたら完全な嘘ではないのかもしれない……。いや、でもそんなこと言ったら切りがないよね。誰かを信じることと洗脳をイコールで結んじゃったら、世の中洗脳だらけになっちゃうもんね。
だから、このことは今は考えないようにしよう。ひとまず、どのようにして彼女たちに話を聞いてもらうか……だ。
「一度冷静になって考えてみてよ。洗脳だなんてあまりにも非現実的でしょ。噂なんかに惑わされちゃダメだよ」
「そのお守りだって、きっと何の意味もない。貴方たちは騙されてお金取られちゃったんだよ?」
「それ売ってきた人教えて。その人一緒に捕まえよう。協力は惜しまないから」
わたしが逡巡している間にも、サヤやクレハたちによる説得は続いていた。サヤたちも、目の前の相手が一被害者であることは既に理解しているのか、呼びかける口調は先ほどまでの責めるようなものではなくなっていた。
しかし、それでもなお彼女たちはサヤたちの声に応じようとはしない。憐みの瞳で静かにみんなを眺めるだけだった。
「……何を言っても無駄のようね。分かってはいたけど」
そして、諦めたような溜息……。まぁ、そうだろうね……。どうしよう……、ホントに……。このままじゃ、話は平行線を辿るだけだよ……。
「見ていられませんわ……」
「けど、洗脳の解除方法なんて知らないわよ……?」
「くっ……。ユリシア・フォクサローゼリス、いい加減自分の罪を認め、この方々を早く解放なさい」
再び、わたしに矛先が向けられる。確実な敵意の視線が目の前の計20の瞳から放たれ、わたしは思わず狼狽してしまう。
わたしは無実なのだと分かってほしい。けど、きっと何を言っても彼女たちは分かってくれない。辛い……、苦しい……、悲しい……。
でも、彼女たちも決して悪意を持ってわたしを責めているわけではない。だから、わたしは彼女たちを責めることはできない。せめて黒幕さえ分かっていれば……いや、だとしても説得は難しいだろう。
憤りを覚え、わたしはぎゅっと両手に力を籠める。
「……ごめん。でも、やっぱり心当たりはない」
ただ一言、弱々しくそう呟くことしかできない。そんなわたしに、彼女たちの怒りのボルテージは上昇するばかり……。
「またそんなことを……」
「お願いっ! ユリちゃんを叩かないで!」
そして、まとめ役の女学生が手を上げようとすれば、サヤが割り込んでわたしを守る。堂々巡りだ……。
どうすれば良いんだよぉ……。ヴィオレイウスで培った力も、この場では何一つとして役に立ってくれない……。それどころか、さっきから守ってもらうばっかりだ。情けなさすぎる……。
……せめてお守りを売りつけてきた人の名前だけでも聞き出さなきゃ。わたしを庇ってくれるみんなのためにも、解決の糸口をできる限り集めないと。
今わたしができることはこれくらいだ。話を聞いてくれるかどうかなんて気にしちゃいられない。そう思い、わたしは口を開きかける。
……その時、わたしの視界の端に見覚えのある顔が映った。
「えっ……」
サヤも気づいたようで、わたしと同じ一点を見つめ硬直してしまっていた。
何で……とは言わない。流石に察することくらいできる。このタイミングで姿を現したのだ。怪しくないわけがないだろう。
「見つけたわ。ユリシア・フォクサローゼリス」
「もう逃げ場はありませんわよ」
……木戸田の取り巻き共だ。やはり……やはり奴らが……。
今まで抑えつけていた怒りの感情が、ここにきて一気に爆発するような感覚を覚えた。
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福原さんを追ってやってきた先は、以前木戸田とその取り巻きを捕らえた4回隅の空き教室だった。
その教室の中へと、福原さんは迷う様子もなく身体を滑り込ませた。同時に、教室内から一人の男の声が聞こえてきた。
「動きがあったみたいだな」
……木戸田だ。奴の声で間違いないだろう。……まさか、停学処分期間だというのに無断で校内に侵入しているとはな。こりゃ、後で罰が重くなるだろう。はっ、ざまぁないぜ。
なんて考えつつ、俺は素早く教室の扉の前まで移動し、外から中の様子をそっと覗き見る。木戸田が今回の騒動に一枚噛んでいるのか、それを確かめるためだ。
可能性は極めて低いとは思うが、もし奴と今回の騒動にこれといった関係がないのなら、こちらに関わる前にユリシアの方の問題を片づけたい。こちらの問題に首を突っ込んだ所為でユリシアを助けられなかったんじゃ意味がないからな。
「ええ。全て計画通りですわ」
「ははは、そうか。んなら、あとは獲物を待つだけだな」
「ふふ、そうですわね」
獲物……ねぇ。奴らの目的が今一つはっきりしないな。もう少し聞き耳を立ててみることにしよう。
「ようやく願いが叶うのですね」
「そうだな。散々煮え湯を飲まされたんだ。存分にやり返してやる」
「やっと、あの邪魔者を排除することができますわ。そして、あの方を私が……」
二人とも目つきが怪しい。欲望に染まりきり、恐ろしいほどにぎらついていやがる。やり返しの対象はやはり俺とユリシアだろうか。
しかし、木戸田は分かるが何故福原さんがこんなことを……。いや、今はそれどころじゃないな。もう俺たちの敵だと断定して良いだろうな、これは。
そう思い、俺が教室の扉に手をかけたところで、木戸田の身体が動いた。福原さんに向かって……。
「んじゃ、時が来るまでの余興だ。福原、ちょっとウォーミングアップ代わりに俺様の相手になれよ」
「えっ……? きゃあっ!?」
木戸田はあっという間に福原さんを床に組み敷き、手慣れた様子でブチブチと彼女のブラウスのボタンを引き千切っていく。
それだけには収まらず、奴はいつの間にか彼女のスカートに手をかけ、力尽くでそれを引き下ろそうとしていた。福原さんは何とか抵抗しようとしているが、男と女との力の差を覆すことはできず、木戸田にされるがままになってしまっていた。
……相も変わらずゲス野郎だ。
「何故です!? 先輩と私はお互い干渉しないと約束したはずです! ユリシア・フォクサローゼリスを貴方のものにし、残った霜崎様を私が奪う……。そのための不可侵協力ではなかったのですか!?」
「は? んなこと知るかよ。良いからさっさと俺様の玩具になれよっ。テメェみたいな女は等しく俺様のものになっときゃ良いんだよ」
あー、そういうことね。ようやく奴らの目的をはっきり知ることができた。俺とユリシアを分断し、それぞれ好きなように犯す……。そういうわけかよ。ったく、ふざけんな。
しかし、あれだな……。このタイミングで中に突入するのは何というか……癪だ。だが、奴らが関係している以上、ひっとらえなければならないよな……。
仕方あるまい……。俺はガラリと扉を開け、そのまま木戸田目掛けて蹴りをかました。
「なっ、テメェは……ぐあっ!?」
俺の姿を見止めた木戸田は一瞬驚きに顔を歪めたが、その直後には俺に蹴り飛ばされ、教室の壁に激突していた。死なない程度に加減はしたから、きっと気絶する程度にとどまっているだろう。
さてと……。俺はくるりと後ろへ振り返る。そこには、ブラウスの前掛けを全て外され、さらにスカートまで脱がされてしまっている福原さんの姿があった。酷い姿だ。
そんな彼女だが、瞳はキラキラと輝いている。まるで俺を救世主とでも思っているかのような輝きっぷりだ。……こうなるから嫌だったんだ。
というか、もう少し早い段階で室内に突入すべきだったな。
「まあ! 助けに来てくださったのですか!?」
「……」
「あ、あれ……? ど、どうして何も……。あっ、も、もしかして、今の私の姿に興奮なされて……」
「この状況について説明してもらおうか」
何かよく分からない戯言をほざき始めたので、俺は彼女の言葉を途中で遮った。今俺が知りたいのはただ一つ、今回の騒動についてだ。
「えっ……、な、何を……」
「良いから話せ」
俺は彼女を大人しく従わせるために勇者の威圧を発動させる。この世界じゃ、ユリシア以外にこの威圧に耐えられる人間はいない。
「ひっ……」
案の定、福原さんは顔を真っ青にさせていた。よく見ると、彼女の下着の股間部分には大きなシミができており、ちょろちょろという水音とともに教室の床の上に薄黄色の水溜りが広がりつつあった。
威圧は効果絶大だな。……しかし、片づけが面倒だな。ツンとしたアンモニア臭を鼻で感じながら、俺は内心気分をどんよりさせていた。
まぁ、俺の内心はともかく……
「さて、素直に答えろ」
「ひゃ、ひゃいっ」
そうして、元勇者による尋問が始まったのだった。