異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
突然の木戸田の取り巻き共の乱入により、C組内に動揺が走る。クラスのみんなだけでなく、わたしを責めてきていた10名も状況が呑み込めていないようだ。
「……もしかして、貴女方ですか」
そんな中、サヤだけが口を開いた。その言葉はとても静かだったが、そこには確実な怒りの念が込められていた。
取り巻き共がこの騒動の元凶なのだと、サヤも感づいたみたいだ。まぁ、連中の存在を知っていればそりゃ気づくよね。この場に現れたタイミングからしても、まるでこの状況を見計らっていたとしか思えないし。
だが、向こうから出向いてくれたのはこちらとしても好都合だ。犯人探しをする手間が省けたのだから。
もしかしたら奴らは主犯格ではないかもしれない。けど、少なくとも何かしらの関わりはあるはずだ。何としてでもここで仕留めなければ……。
「何がかしら?」
サヤの静かな怒りの言葉に、取り巻きの内の一人が何処か馬鹿にしたような声色でそう返す。いや、単なる気のせいかもしれないけど……、わたしにはどうもこちらを挑発しているようにしか聞こえなかった。
……ここがもしヴィオレイウスだったら、きっとわたしは奴らに襲い掛かっていただろう。それくらい、今の言葉は頭にきた。
もっとも、ここはヴィオレイウスではないので、わたしは湧き上がってきた殺意を拳をぎゅっと握りしめることでグッと堪えた。ここで冷静さを失ってしまったら、わたしの立場がさらに危ういものになってしまう。
「だから……、ユリちゃんがみんなを洗脳してるって噂を流したのは貴女方なのかって聞いてるんです……」
わたしが心を落ち着けている間にも、サヤと取り巻き共とのやり取りは続いている。見ると、サヤの瞳は今までに見たことないくらい鋭いものになっていた。
わたしのためにここまで怒ってくれる親友がいる……、それがとても嬉しい。自然と腸が煮えくり返るような感覚は消えていた。
もちろん、だからといって怒りの感情がなくなったというわけではない。ただ、奴らを殺す……だなんて物騒な考えが頭から離れたことで、多少の冷静さを取り戻すことはできた。
「そんなわけないでしょう。変な言いがかりをつけるのは止めてほしいわね」
「待って。彼女もきっと洗脳されているだけよ。彼女を責めちゃいけないわ」
「っと、そうだったわね。被害者に八つ当たりしちゃうところだったわ。失礼」
なんていう謝罪の言葉は吐きつつも、その態度には申し訳ないという感情など一切ないように感じられた。完全にこちらを見下している。
「本当、不憫でならないわ」
奴らが来る前からいた1年生10名は、わたしに対し怒りの感情を向けつつも、他の人たちを本気で心配していた。
だからこそ、奴らがサヤたちに向けてくる"可哀そうに"の言葉は薄っぺらい演技にしか聞こえなかった。奴らにとってサヤたちは、わたしを貶めるための道具でしかないのだろう。
奴らの態度で、わたしの予感は確信に変わった。奴らは今回の騒動の元凶で間違いないだろう。まったく、ホントにクソみたいな連中だよ……。
「貴方たちは信じないかもしれないけど、そこの女……ユリシア・フォクサローゼリスは朱鷺舟の学生を洗脳しようとしていたのよ」
「残念だけどこれが真実なの。貴方たちはそこの女の掌の上で踊らされてしまっているの。あぁ、なんて可哀そうな人たち……」
中身のない上辺だけの言葉が奴らから続けざまに発せられる。ところどころ言葉を誇張しすぎていて、もはや演技としか認識できない。
わたしやサヤだけでなく、先ほどまで奴らの登場に困惑してしまっていたクレハや他のクラスメイト達も疑惑の視線を奴らに向け始めている。
しかし、奴らと同じように噂を信じている1年生たちはというと、未だ困惑したまま奴らとわたしたちを交互に見回していた。見た感じ、奴らに対する疑念は芽生えて居なさそうである。
「え、えっと、一つお聞きしても……?」
すると、まとめ役の女学生が一人おずおずと手を挙げた。全員の視線が彼女に向けられる中、彼女は再度口を開いた。
「先輩方が今この場にいらっしゃったということは、当然お守りはお持ち……ということですよね?」
「ええ、持っているわ。ほら」
確認するような彼女の言葉に対し、連中の内の一人がすぐさま頷き返し、そしてスカートのポケットから先ほども見た例の胡散臭いお守りを取り出した。あのお守りもあいつらの仕業なのか……、それを判断するには情報が不十分だ
「ということは、今なら私たちのお話も聞いていただける……ということですよね」
「何か私たちに話したいことがあるのですか?」
「そのですね……、私たちは決して洗脳なんてされていません……ということを知っていただきたかったんです」
なるほど、彼女は奴らに対して"自分たちは白である"ということを断言したかったわけか。はてさて、奴らの返答は……。
「部活の件……よね。それについては本当にごめんなさい。私たちも後で知ったのだけど、どうやら1年と2年、3年の間で認識にずれがあったみたいなの」
「私たちはてっきり1年生は全員被害を受けているのかと思っていたのだけど、実際はそうじゃなかったって分かったわ」
そうか、認識の相違……か。ただ……うん、連中の雰囲気からして噂に対するこの認識の相違は恐らく意図的に生み出されたものなのだろう。よく意識してみると、奴らの目は笑っている。してやったりという雰囲気が僅かに滲み出ているのだ。
もしかすると、こうして認識のずれを生じさせたのは、より効率的に1年生たちからのヘイトをわたしに向けさせるため……だったりするのかも。くそっ、無駄に悪知恵働かせやがって……。
「あっ、そうだったんですね、良かった……」
「ええ、本当に迷惑をかけたわ。各部活には私たちの方から言っておくわね。だから、安心して頂戴」
「ありがとうございます、先輩方」
……これで10名の1年生たちが奴らの味方になってしまった。まぁそうだよね……。元々噂は信じてしまっていたわけだし、その上で奴らにああ言われちゃったら疑う余地もないよね……。
あの中に攻めて一人、物事を冷静に見れる人がいれば……。もっとも、それができていれば端から噂に踊らされたりなんてしていないのだけど。うーん、改めてリョウの名前が及ぼす影響力ってすごいんだな……。
「お礼なんて要らないわ。それよりも……」
そこで話が一区切りつき、奴らの視線がわたしたちC組の学生に向けられる。その冷たい視線に、わたしを含めた全員が警戒心を一気に引き上げた。
「早く他の方々を洗脳から解放して差し上げましょう」
「はい、そうですね。これ以上、彼女に好き勝手されてはなりません」
「そうです。奴に人を操った報いを受けさせてやりましょう」
ばらばらだった視線が一つに収束し、そしてわたしに向けられた。その全てが怒りに染まっているが、うち8つの瞳はわたしを嘲笑ってもいた。非常に分かりやすい視線だ。もはや隠す気なんてないのではないだろうか……?
「そんなことはさせないもん。ユリちゃんは悪くないって絶対証明してやるんだから」
などと考えつつ次に来るであろう罵倒の嵐を待ち構えていたわたしの前にサヤが身体を割り込ませてきた。……さっきからこの構図ばかりな気がする。守られてばかりでちょっと格好悪いね……。
「だから……、さっきから言っているでしょう? そこの女が貴方たちを洗脳しているのは紛れもない真実だって」
またも対抗してきたサヤに対し、連中のうちの一人が苛立ったような声を上げる。その上、一瞬だけれどもサヤに対して邪魔者を見るかのような視線を注いでいた。
思い通りにいかない現実に、奴らのフラストレーションも大分溜まってきているみたいだ。そろそろ襤褸が出始めるかもしれないな。
「違う……。絶対に違うもん……。ユリちゃんはそんなことしない……。というか、できるわけないじゃん……」
「そもそも、そんなことできたら今頃誰もユリシアさんのことを疑ったりできていないと思います。だって、もう入学して1カ月近く経っているんですよ? その間に学校全体を洗脳することだってできるはずですから」
「でも、ユリちゃんはまだ一部の人としか仲良しじゃない。ついこの間まで、教室の隅っこで私と"友達作るのって難しいね"なんて話してたくらいだもん。そんなユリちゃんを見てきてるからこそ、今更洗脳してるなんて言われても信じられない」
サヤとクレハの強い意志のこもった言葉が奴らにぶつけられる。こんなにも必死になってわたしを庇おうとしてくれる二人の姿に、目頭がじんわりと熱くなってくる感覚を覚える。
だが、そんな二人の言葉も、当然ながら奴らには届かない。ふんと一つ、小さく鼻を鳴らすと、
「虎視眈々と絶好のタイミングを伺っていただけなのでは? 恐らく、全て計算したうえでの行動だったのでしょうね。まぁ、人を奴隷としか考えられない狂人の思惑なんて予想はつけられませんが」
そう跳ね返してきた。うわぁ、とうとう狂人とまで言われたか……。奴らに言われると無性に腹が立つ。
「狂人……って、いくらなんでも酷すぎるよっ!」
「でも、事実じゃない。他人の人格を弄ぼうなんて考える奴、狂人と言わずして何と言えば良いの?」
「というか、ユリちゃんは狂人なんかじゃないっ。誰かの人格を弄んだりなんてしないもんっ」
「じゃあ、これを見てもそう言えるかしら?」
そう言うと、連中のうちの一人が徐にスマホの画面をサヤに向けた。サヤの背後からわたしも画面の中を覗き込む。
そして、そこに映されていた写真に、一瞬顔をしかめてしまった。……あの写真は一体なんだ?
その写真に写されていたのはわたしの横顔だった。しかも、かなりのゲス顔を浮かべている……。あんな顔してたことあったかなぁ……、わたし。というか、そもそも何時の写真だろうか?
「これだけじゃないわよ。ほら」
そう言うと、次は動画が再生された。あれは……ああ、先週の体力テストの後のお昼の光景だ。わたしがC組のみんなとお昼を食べている時の映像が映されている。
「これ、先週のお昼……かな」
「っぽいね。でも……、この動画と噂に何の関係が……? というか、何時の魔にこんな動画撮られてたの……?」
こういう隠し撮り動画を見せられると、なんか常に監視されているのではないか……?と思えてきてしまう。ちょっと怖い。
そんでもって、クレハの言う通り、こんな日常風景を映しただけの動画が今回の騒動と何か関係があるのだろうか……? 聊か疑問である。
なんて考えていると、動画内のわたしたちが各々席から立ち上がった。喧騒に紛れてしまっていて会話はよく聞き取れないけど、まぁ流れ的に下膳しに行こうとしているのだろうことは理解できる。
けど、そんな中わたし一人がみんなの輪から外れ、一足先に学食の出口に向かおうとしていた。その日はお弁当だったから、わたしは下膳の必要がなかったんだもんね。
「ここです」
というところで動画が止められた。えっ、何事……!? このタイミングでわたし何かやったっけ!? 全然覚えていないのだけど……。
「今ここに映っているフォクサローゼリスの表情、先ほどの写真と全く同じなのよ」
あー……、確かに。言われて気づいた。なるほど、さっきの写真はこの動画の切り抜きだったわけか。
……ってか、このタイミングでのわたしのこの表情ってさ、もしかしなくてもアレの所為……だよね?
そう。これは……、この後屋上にて行われるリョウとわたしの
でも、果たしてこのことを素直に話してしまって良いものか……。ここで暴露したら、もしかすると今後はお昼休みにリョウと屋上でエッチできなくなってしまうかもしれない。うぅ、それは嫌だなぁ……。
「他の人たちに背を向けた瞬間、この表情に変わったのよ」
「まるで自分の思い通りにいっていることに喜んでいるかのような表情ですわね……」
「これはもう、確定的としか言えないわ」
うん、疑われてもおかしくないよね……。連中だけでなく、1年生たちも確信したような表情を浮かべてしまっている。それだけでなく、クラスメイトの中にも数人、少し迷うような顔をしている人まで現れてしまっているし……。
いやホント、タイミング悪すぎ問題ですよ、これ……。こんなの、誰が見ても怪しいとしか思えないじゃん……。
……言うしかないのかな? でも、言ったところでどうせ信じてはもらえないだろうしなぁ……。うーん……。
「こんなの、何かの間違いだよ……。だって……、ユリちゃんは絶対悪くないもん」
そうやってわたしが考えを巡らせている間にも、サヤは果敢に奴らに立ち向かってくれている。ただ、そこに根拠といえるものはなく、ただただ力なく否定の言葉を吐き出し続けているだけであった。
奴らから突きつけられた証拠映像に、サヤもどうして良いか分からず混乱してしまっている。……というか、焦っているのかも。否定の理由も思い浮かばないほどに。
「何を根拠にそんなことが言えるのかしら?」
「この映像が全てを物語っているのですよ。そこの女……ユリシア・フォクサローゼリスが全ての元凶である、とね」
当然、中身のなくなってしまった否定の言葉は、証拠という武器を持った奴らにあっさり振り払われてしまう。
まさか、奴らにここまで追い詰められることになるとは……。正直、状況を改善させる手立てが全くと言って良いほど思い浮かばない……。
「貴方方は被害者です。私たちはただただ貴方方をユリシア・フォクサローゼリスの手から救ってさしあげたいだけなのです」
「このまま貴方方が奴隷のように扱き使われるのを黙って見ていることなんてできないわ。だからお願い、私たちの話を聞いて頂戴」
「そうですわ。そこの狂人の肩など持つ必要ありません。さあ、私たちの声に耳を傾けてみてくださいまし」
心からの呼びかけをする1年生二人と、明らかに演技であると分かる胡散臭い声の取り巻き……。彼女らの言葉に戸惑い口をつぐんでしまうクラスメイト達。
「違う……」
しかし、サヤは口を閉じようとしなかった。たとえ彼女らの言葉を跳ね返せるような根拠がなくとも、わたしが無実であることを訴え続けていた。
「違う違う違う違う違うっ……。絶対に違うっ」
「はぁ……。だから、もう既に証拠は集まって……」
「違うっ。そんなの、きっと何かの間違いだよっ。ねぇ……、どうしてよ……。どうして、寄ってたかってユリちゃんにそんな酷いこと言うの……?」
そして、とうとう耐え切れずその場に泣き崩れてしまった。涙混じりの悲痛な叫びを上げながら、それでも目の前の存在に抗っていた。
サヤを泣かせてしまった……。悪いのは明らかに奴らだ。だけど、その涙がわたしのためのものだと思うと、わたし自身も責任を感じずにはいられない。
「紗夜さん……。先輩……、人を騙し、気に食わない相手を貶めるのは楽しいですか? 在りもしない罪をでっち上げ、自らを正義と称し、複数人でたった一人を滅多打ちにするのは楽しいですか?」
泣き崩れるサヤに寄り添いながら、今度はクレハが奴らに侮蔑の言葉をぶつける。サヤの涙で、彼女の堪忍袋の緒もぷつりと切れてしまったようだ。
「は? いきなり何よ……。私たちは紛れもなく正義よ。在りもしない罪をでっち上げようとしているのはそっちの方なんじゃないかしら」
「先輩方にとってはそうなんでしょうね。でも、先輩方の目は真実を語っているようには到底思えません」
「それは、貴女が洗脳されているからそう見えるだけなのではなくて?」
頑なに自分たちの正義を主張し続ける連中の言葉に、クレハがぎゅっと握り拳を作るのが分かった。相当頭にきているみたい。まぁ、わたしも同じ気持ちだけど。
一方で、連中も今のこの状況に腹を立てているようだ。徐々に額に青筋が浮かび始めている。
なんだか、嫌な予感がするな……。奴らがぶちギレたら、もしかしたら実力行使に出始めるかもしれない。
もしみんなが傷つけられるようなことがあったら、きっとわたしは一生消えない後悔を負ってしまう……。その前に何とかしたいところだけど……、どうすれば良いか分からないよ……。
「ユリシアさんを傷つけて何も思わないんですか……」
「だから言っているでしょうが。これは悪をさばいているだけ。その結果悪人が傷つこうとも、それは自業自得なの。むしろ、こっちが聞きたいものだわ。人を洗脳しておいて何も感じないのか……と」
「止めてよっ。ユリちゃんはやってないって言ってるじゃんっ。どうせあれでしょ? 木戸田先輩を停学処分に追いやったユリちゃんたちに復讐したいだけなんでしょ? 全部貴女たちが悪いのに、逆恨みでこんなことするなんて最低すぎるよ……」
「レオは今は関係ないでしょ。変なことを言うのは止めてほしいものだわ」
サヤ・クレハと連中との間で火花が散る。もはやサヤたちに対する苛立ちを隠す気もないらしい。明らかな敵意をサヤたちにぶつけていた。
と、その時、取り巻きの一人がサヤとクレハから視線を外し、チラリと教室の外へ視線を向けた。何事か……と、わたしもそちらに意識を向けてみる。
「……?」
すると、教室の外に複数の気配を感じた。誰かがいる……。誰かは分からないが、途端にわたしの背中に不快感が走る。まずいことが起きる……。そんな予感があった。
「はぁ……。まったく……、このままじゃ埒が明かないわね……。こうなったら仕方ないわ……。奥の手を使うしかないみたい」
やはり何かある……。教室外に視線を向けた直後にこの発言だ。まさか、ここからは実力行使か……?
「あ、あの、奥の手……とは?」
「説明するわね。他の人から聞いた話なのだけど、強引に洗脳を解除する方法があるみたいなのよ」
「そ、そんな方法が……!? ですが、どうして今までその方法を使ってこなかったのですか……? そんなに危ない方法なのですか?」
「そうね。被害者の方々を少しばかり傷つけてしまうわけだからね」
その言葉に、この場にいる誰もがピクリと身体を震わせた。これから起こることに、対象者であるクラスメイトのみんなも、そうでない他の1年生たちも揃って恐怖の感情を覚えてしまっている。
「そ、それは一体……」
「聞いた話によると、この洗脳は強い刺激を与えることで解けるらしいのよ。まぁ、言ってしまえば痛みね。その他にも、快楽刺激なども有効らしいわ」
「そ、そんな……」
「というわけだから、お願いするわね」
そう言って、取り巻きがパチンとフィンガースナップを鳴らした。その破裂音に合わせて、教室外にいた存在がぞろぞろと教室内になだれ込んでくる。
その姿は、どう見ても朱鷺舟の学生ではなかった。いや、そもそも学生なのかすら分からない。
だが、確実にヤバい奴ら……ということは分かる。不良とか、多分そういう類の連中だろう。
なんでそんな奴らが校内に侵入しているのだろうか……。というか、取り巻き共とは一体どういう繋がりが……?
「えっ……、その方々は……」
「この事態を予想し、私たちがお呼びした方々です。では、事前にお伝えした通りお願いいたしますわ」
「へいへい、了解しましたぜ、お嬢」
不良共の視線がこちらに向く。実におぞましい目で、サヤやクレハ、その他のクラスの女学生たちを眺めていた。
まずい……。まずいまずいまずい……。このままじゃサヤたちが犯されてしまう……。何とかしなきゃ……。
でも、みんなを守りながらあの人数を相手にするのは流石のわたしでも厳しいものがある。恐らく、守りきれないだろう……。
取り巻き共の意図は分かる。これはわたしに無理矢理罪を認めさせるためのブラフだ。わたしの最大の弱点が何なのかを理解しているからこその作戦だろう。
それでもわたしが何の行動も起こさないのであれば、その時は実際にみんなを不良共に傷つけさせた挙句、"こうなってしまったのも全てユリシア・フォクサローゼリスが悪い"なんて言って全責任をわたしに押し付けてくるはずだ。
どちらにせよバッドエンドだ。だが、みんなが傷つけられない分、わたしがここで在りもしない罪を認めた方がまだマシな結果になる。
……やるしかない。みんなを守るためだ。そのためならば、わたしが孤立するくらい大したことはない。
「はぁ……。ったく、せっかく上手くいっていたと思ったのに」
あえて誇張したわたしの声が、緊張の走るC組教室内に響き渡る。当然、誰もがわたしに視線を向けてくる。
見ると、取り巻き共が"計画通り"といった表情を浮かべていた。やはりそうだよね。きっと奴らは、わたしのこの言葉を引きずり出したかったのだ。
奴らの罠にまんまと嵌った感じがして何とも不愉快ではあるが、現状を切り抜けるにはこうする他ない。この場は奴らに勝利を譲ろう。
だが、負けたまま終わるつもりはない。全てを失った分、いずれ奴らにきっちり復讐してやる。
「もう最悪……。どうしてバレちゃったかなぁ……」
「……ってことは、やはり貴女が……」
「ふん、お察しの通りよ。あーあ、朱鷺船を乗っ取る計画がおじゃんになっちゃったじゃん……」
少し大げさに、わたしは落胆の声を上げる。すると、これまでよりもいっそう鋭い怒りの視線が注がれてきた。例の1年生たちのものだ。
「ようやく本性を出したわね」
「この学院を乗っ取ろうだなんて、なんと恐ろしい……。貴女は狂ってますわ。どうしてそのようなことを……」
「どうして? そんなの、楽しいからに決まっているじゃない。日本有数の秀才校を乗っ取るなんて、これほど愉快なことはないわ」
心にもない嘘実を、それっぽい口調でつらつらと並べ立てていく。わたしが口を開けば開くほど、取り巻き共は愉悦の表情を深め、1年生たちはわたしに対する憎悪の念を滾らせていった。
そして、クラスのみんなはというと、まだ状況を完全に呑み込めておらず困惑の表情を浮かべる人が大半だった。
中には驚愕や絶望の表情でわたしを見る人や、少しずつわたしに対する怒りを滲ませ始めている人もいた。そんな人たちを見ていると、わたしの心がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えてしまう。
「でも……、あんたたちの所為で計画は破綻よ……。あぁ、今すっごく不愉快……。なんで思い通りに事が運ばないのよ……」
それでも、わたしは演技を続けることしかできない。もう後戻りなどできないのだ。
「よくもそんな言葉が吐けたわね……。貴女の行いの方がよっぽど不愉快極まりないわ。洗脳していた人たちに対して、貴女は何も思わないの?」
「いざという時に何もできない役立たず……とは思っているわ」
ホントはこんなこと言いたくない……。嘘でも辛いよ……。ずきずきと胸が痛む……。嘔気も感じる……。一つ、また一つと言葉を吐きだす毎にわたしの精神がボロボロと崩れ、思わず悲鳴を上げて泣き崩れそうになってしまう。
大切なものを失うのはやっぱりきつい……。でも、ここで泣き崩れたりすれば、きっと状況はさらに悪化するに違いない。
「さ、最低……。貴女、最低すぎますわ……。仮にも貴女を助けようとしてくれていた方々を役立たずだなんて……」
「今すぐ洗脳を解き、皆さんに謝罪なさいっ」
「はぁ……。分かったわよ……」
そう言うと、わたしはすたすたと教壇まで移動しそして教室内にいる全員をぐるりと見まわした。
「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした……。はい、これで良いんでしょ。満足?」
それから、ぺこりと頭を下げ、形式だけの謝罪を行う。
「ちょっと待ちなさい。洗脳は解いたの?」
「わたしが種明かしすることで解けるわ。けど、完全に解けるまでほんの少し時間がかかることがあるかもしれないわ」
「……まぁ、解いたのならそれで良いわ」
「んじゃあ、今度こそこれで満足? もうあんたたちの顔は見たくないのだけど」
仏頂面でそう言い放ち、しっしと追い払うジェスチャーをしてみせる。これで終わってくれると良いのだけど……。
「その程度で許されると思っているのかしら」
そんな思い通りの展開にはならず、このタイミングで取り巻き共がしゃしゃり出てきてしまう。奴らの顔は、むしろここからが本番だとでも言いたげだ。
まぁ、奴らにとっては今が復讐の場だもんね。そりゃ、わたしが頭を下げるだけじゃ満足なんてするわけないか。
わたしは一つ溜息を吐き、それから今一度教室内にいる学生たちに視線を巡らせる。
「……」
ふと、サヤと目が合ってしまった。彼女は怒っていた。鋭い視線をわたしに投げてきていた。
サヤ……、ごめんなさい……。ホントにごめんなさい……。でも、これであなたを守ることはできたと思う。
「っ……」
これ以上目を合わせ続けていたらどうにかなってしまいそうだった。だから、わたしはサヤからさっと目線を逸らせた。
その際見えたクレハの顔は、サヤ同様わたしへの怒りに染められていた。クレハもごめん……。
「まだなんかあるの……?」
視線を取り巻き共に戻し、わたしはぶっきらぼうにそう言葉を返す。
「当然でしょう。これだけのことを仕出かしておいて、謝罪一つで許されるとでも思っていたの?」
「……じゃあ、何をすれば良いの」
「この場で土下座しなさい」
わたしが聞き返すと、取り巻きの一人がそう指示してきた。土下座……? その程度で良いの?
なんて思っていると、連中がこちらに向かって悠々と歩いてきていることに気づいた。その手には……スマホが握られている。えっ、まさか……。
「当然、全裸でね。その姿を今からこのスマホに収めてあげるわ」
「っ……」
心臓が早鐘を打つ。まさか、全裸土下座を要求してくるとは……。しかも、こんな大人数の前で……。
最高の恥辱を与える……。それが、奴らが選んだ復讐の手段のようだ。恐らく、全裸で土下座させた後は、不良共を使って公開レイプショーでもするつもりなのだろう。
最悪だ……。そこまでわたしが憎いのか……。
「えっ、さ、流石にそれは……」
「いくら何でもやりすぎなのでは……」
周囲もざわつき始める。先ほどまでわたしを断罪していた1年生たちすら、取り巻き共の提案に慌て始めてしまっていた。
「いえ、彼女はそれだけのことを仕出かしたのです。これくらいの報いは受けていただかなくてはなりません。そうでないと、洗脳されていた方々があまりに不憫です」
「それはそうかもしれませんが……、だからってそれは……」
「さあ、さっさと服を脱ぎなさい」
背後から聞こえる困惑の声を無視し、奴らはわたしに脱衣を催促してきた。それから、わたしにしか聞こえないくらいの小声で、
「もし拒絶なんてしたら、分かってるわよね?」
そう語り掛け、チラリと後ろ……クラスメイト達を一瞥した。従わなければ、みんなを痛めつける……。そう言いたいのだろう。
嫌な脅しだ……。みんなの身体とわたしの身体を天秤に掛けさせるなんて……。こんなの、従うしかないじゃない……。リョウにしか見せたくなかったのにな……。
「……分かったわよ」
そう一言だけ答え、わたしは羽織っていたセーターに手をかけた。そして、勢いよくそれを脱ぎ払い、その場に乱雑に投げ捨てた。
「えっ……、ユ、ユリちゃん……!?」
「う、嘘……でしょ……」
取り巻き共の後ろでサヤやクレハたちが驚愕に目を見開いている。本気で脱ぎだすとは思っていなかったのだろう。
でも、みんなを守るためには仕方ない。わたしの身体一つで事態が収まるなら、嫌ではあるが差し出すしかない。
「……」
セーターを脱いだわたしは、次に胸元のリボンに手を伸ばした。目の前で歯、取り巻きの一人が既にスマホを構えていた。脱衣の過程まで動画に収めるのか……。もしかして、木戸田にでも見せるつもりか?
……木戸田か。そういえば昨日、駅前で奴の姿を見たな。もしかしたら、あれは現在の騒動の伏線だったのかもね。
なんて考えつつ、わたしはしゅるりとリボンを外した。いよいよ次はブラウスだ。……だが、そこでわたしの手が震え出す。
ここにきて拒絶反応が出てしまっている。ブラウスの第1ボタンに添えられた指に上手く力が籠められない。
「どうしたのよ。ほら、早く脱ぎなさい」
そう言われるが、わたしの身体は言うことを聞いてくれない。みんなを助けると宣言したくせに、結局自己防衛に走ろうとするなんて……。
「脱げないの? ふーん。なら、仕方ないわね」
「ま、待って……。ぬ、脱ぐ……。脱ぐから……待って……」
「じゃあ、さっさと脱ぎなさいよ」
覚悟を決め、わたしは何とか指先に力を込める。だが、そこでわたしは複数の足音を耳にした。その足音は教室内からも、そして教室外からも聞こえてくる。
何事だろうかと下に向けていた視線を上げると、
「ダメっ! ダメだよっ、ユリちゃんっ」
「そうだよ、早まらないでっ」
緊迫した表情で、サヤとクレハがこちらに駆け寄ってきていた。状況についていけず、わたしは呆然と目の前の光景を眺めてしまっていた。
「なっ、貴女たち……どういうつもりよ」
「ユリシアさんに酷いことはさせません」
「こ、これは当然の報いなのよっ。ユリシア・フォクサローゼリスは報いを受けるべきなのっ。分かったらそこを退きなさいっ。そして、ユリシア・フォクサローゼリスはさっさと全裸をさらすのよっ」
教室中に取り巻き共の怒声が響く。そんな中、廊下から聞こえる足音は着実にこちらへと近づいてきていた。
「さあ、早くなさいっ」
再度放たれた奴らの怒声とほぼ同時に、バタンと大きな音を立てて半開きだった教室の前扉が完全に開け放たれた。
そして、そこから顔を覗かせていたのは……
「そんなことはさせませんわっ」
長らくわたしたちに姿を見せていなかった大財閥の令嬢……ルナだった。廊下から聞こえてきた足音の正体は彼女だったらしい。
「はぁ……はぁ……、どうやら間に合ったみたいですわね」
ルナは肩で息をしながらも、鋭い視線で真っ直ぐ取り巻き共を見据えていた。