異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「今回の噂……フォクサローゼリスさんが他者を洗脳しようとしている……というのは、私とそこにいる先輩方が共同で考えたものです」
教室内に僅かな動揺が走った。とはいえ、取り巻き共の行った強引な仕打ちでほとんどの信用を失ってしまっていたため、大した反応は見られなかった。
「それは嘘よっ。そこの女もきっと嘘を話すよう洗脳されてしまっているだけだわっ」
もっとも、計画を邪魔された当人たちはわちゃわちゃ騒ぎ立てているが。もう奴らの敗北は確定だというのに、なかなか諦めが悪い。というか、普通に五月蠅い。
わたしに限らず、教室内にいるほぼすべての1年生たちから冷ややかな視線を向けられているが、それでも奴らは口を閉じようとはしない。
「先輩方、私たちはもう負けてしまったんです……。認めましょう。今更騒ぎ立ててもみっともないだけです……」
「認めるも何も、私たちは先ほどから真実鹿語っていませんっ」
今回の事件の元凶であると自称する女学生に対し、取り巻き共は裏切り者を見るかのような何とも忌々しそうな視線を向けている。
正直、あの視線が全てを物語っているような気がする。自分たちが真実であると突き通したいのなら、せめてあのあからさまな態度は隠すべきだよね。
途中までは上手く言っていたみたいだが、やはり奴らは人をだますのが下手くそすぎるらしい。だというのに実行しようとするのだからどうしようもない……。
というか、途中まで上手く言っていたのももしかしたら自称元凶の女学生がいたからこそなのではなかろうか……? そう思ってしまうほど、今の奴らはあまりにアホすぎるのだ。
……わたし、さっきまでこんな奴らに追い詰められていたのか。そう考えると、あまりに馬鹿馬鹿しく思えてきた……。茶番かよ……。
「話にならんな。福原さん、ひとまずそいつらは無視して話を続けてくれ」
「なっ……」
「は、はい、分かりました」
だらだらと嘘事を吐き続ける取り巻き連中にリョウは呆れたように溜息を吐き、埒が明かないと奴らを無視して元凶の女学生……福原さん?に再度話を促した。
このまま奴らに邪魔されていたら何時まで経ってもこの事件の真相を聞くことができなさそうだしね。それに、あいつら普通に五月蠅いからね。やっぱり無視するのが妥当だよね。
「ちょっと! 私たちを無視するってどういうことよっ」
「また嘘を使ってここにいる人たちを洗脳しようとしているのね。だから、だから、貴方たちにとって都合の悪い私たちを黙らせようとする……」
「でも、そうはいかないわっ」
何かしらの反発はしてくるだろうとは思っていたけど、やっぱり五月蠅いな……こいつら……。無視しようにもできる気がしない。
物理的手段を用いてでも奴らを黙らせてやりたい……なんて考えてしまう辺り、やはりわたしは血の気が多いんだなぁ。ヴィオレイウス感覚は拭えない。
「はぁ……、鬱陶しい……」
「何ですって!? 口の利き方には気を付けなさいよ、貴方……」
「私たちは先輩なのよ! 後輩としての態度というものがあるんじゃないかしら」
「それに、私たちは上流階級の人間、即ち、貴方のような平民とは澄んでいる世界が違うの。それ相応の敬意を払うべきだわ」
何という傲慢なセリフ……。前にも言ったかもしれないけど、こいつらみたいなクズに払う敬意はないんだってば……。
そういうことはそれ相応の生活態度を身につけてから言ってほしいものだ。……いや、そもそもそう言う人は奴らみたいな傲慢なセリフは吐きやしないか。
「……アンタらのどっかしらに敬うべき部分があればそうするさ。けど、アンタらにはそういうのが一つもない。生憎、俺はそういうやつには頭を低くしないって決めてるんでね。それともあれか? 反面教師として敬ってやるべきか?」
「貴方……、調子に乗るのもいい加減に……」
「調子乗ってるのはそっちだろうが……。ここに寝転がってるコイツらと同じ目に合いたくなけりゃ、そこで大人しくしてろ」
奴らの鬱陶しさにリョウも相当イラついていたらしく、お得意の威圧で連中を無理矢理黙らせた。しかも、今回のはいつものとはレベルが違う。リョウの本気の威圧だ。
もっとも、その効果範囲は絶大すぎるため、この教室内にいる全ての人が等しく膝を震わせ始めてしまったのだが……。おしっこちびっちゃってる人とかいないと良いんだけど……。
ちなみに、リョウの本気の威圧は流石のわたしでも耐え切れないです……。今、ちょっとばかし手が震えています……。
「ったく……、口だけは達者な馬鹿共が……。さてと、すまないな、福原さん。というわけで続きを頼む」
「ひゃ、ひゃい……」
悪態を吐きつつ話の続きを促すリョウに震え声でそう返す福原さん……。あれはまぁ……うん、正常な返事ができなくて当然だよね……。
「そ、それじゃあ……続き話します……」
そうして、福原さんはびくびくしながらも事件の真相の続きを話し始めた。
きっかけは至って単純。一目ぼれの相手であるリョウを何とかして自分のものにしたかった……というものだった。そのためにリョウの現在の恋人であるわたしをどうにかして排除しようと考えたらしい。要するに嫉妬だ。
いずれはこういうこともあるんじゃないか……とは思っていたけれど、まさかこんなに早くに起きるとは思っていなかった。リョウの人気度のヤバさを再認識させられたよ……。そんでもって、女の嫉妬って怖いね……。
「それで……、どうにかしたいって思い始めた頃、とある噂を耳にしたんです」
「もしかして、ユリシアさんが涼さんに近づこうとする女学生を裏で始末している……というものですか」
「はい、それです。でも、あの噂は結局失敗に終わりました」
「紅葉さんのお手柄ですわね」
ルナの言葉に、この場にいる人たちのうち半数以上が同意を示すようにうんうんと頷き、そして等のクレハは少し恥ずかしそうに頬を薄紅に染めていた。
確かに、あの時はホントにクレハに助けられたよね。まぁ、わたし自身はそれまでそんな噂全く知らなかったんだけど……。それでも、助けてもらったことに変わりはない。感謝してもしきれない。
「正直、あの噂は信憑性に欠けていました。じゃあ、信憑性のある噂を流したら……? もしかしたら、フォクサローゼリスさんを本当に追い込むことができるんじゃないか……なんてことを考えてしまったんです」
そうして、福原さんはそれからわたしの日常生活の風景を探るようになったらしい。そこにわたしの弱みがないか……、それを求めて。
数日間続けていたみたいだが、正直全くもって気づかなかった。なんか、何処行っても基本的に複数の視線を感じていたから、あまりに強い視線でもない限り気にしないようになってしまっていた。
とまぁ、自分語りはこれくらいにして話を続けるが、数日間の観察の結果、福原さんはわたしが昼食後に必ず同じ顔をすることに気づいたらしい。……そうです、例のだらしないキモ顔です。
「これなら使えそうって思ったんです……」
「……まぁ、あれは確かに……ねぇ」
「うぅ……、しゅみましぇん……」
サヤたちのジト目が痛い……。ポーカーフェイスは得意だよ♪……だなんてイキっていた自分が恥ずかしい……。
「で、次の日に録画しようと思い至りました。そうしたら、タイミングが良いのか悪いのか、噂が沈静化した日と重なりました。新たな噂の内容を思いついたのも丁度そのタイミングでした。その内容が……」
「洗脳……ですか。確かに、噂とあの動画の内容だけであれば、それなりに説得力はあったかもしれませんね」
その後、福原さんは前の噂を広めた張本人を運良く特定し、その人物に協力を申し出ることにしたようだ。まぁ、その人物というのがそこにいる取り巻き連中なのだけど。
なお、その取り巻き連中はというと、現在リョウにじっと睨まれ硬直中である。先ほどまではちょくちょく口を開こうとしていたが、その度にリョウが足元に落ちていた靴を拾ってはピッチングポーズを取っていた。
そのかいあって、数分もしないうちに奴らは萎縮し大人しくなった。流石はリョウ、脅すのが上手い。
「私が出した原案をもとに私と先輩方の5人は計画を進め、そして、フォクサローゼリスさんへの疑惑が晴れた日の翌日……先週の木曜日に計画は実行へと至りました」
「なるほど、それが今回の騒動の裏側ということなのですわね」
「はい……。本当にご迷惑をおかけしました……。フォクサローゼリスさん、ごめんなさい……」
そう言うと、福原さんは弱々しくわたしに頭を下げてきた。その声も身体も震えており、今にも泣きだしてしまいそうなのが伺えた。
確かに、彼女の行ったことは酷いものだ。あと一歩でホントに四面楚歌になりそうだったからね。友達すらも手放しかけてしまった。起こっていないと言ったら嘘になる。
……けどなぁ、実際に喧嘩吹っ掛けてきたのは取り巻き共なんだよなぁ。福原さんとはここに至るまで一度として対峙していないのだ。酷いとは思ったけど、直接的な恨みはむしろ取り巻き共へのものの方がずっと強い。
それに、奴らとは違って福原さんはこうして頭を下げてくれている。正直、これ以上彼女を責める気になれない。
「あ、頭を上げて、福原さん。こうして謝ってくれただけで充分だよ、わたしは」
「で、でも……」
「あっ、そうだった。ちょっと聞きたいことが有るんだけどさ、この件にあいつ……木戸田は関わってるの?」
このままだと福原さんがホントに泣き出してしまいそうだったので、強引に話を別の方向へ持っていくことにした。木戸田のことについては気になっていたし。
「え、えっと……、はい……」
福原さん曰く、本来は福原さんと取り巻きの計5人で計画を進める予定でいたらしい。しかし、取り巻きのうちの一人がその計画を木戸田に暴露。
それを聞いた木戸田が計画に興味を持ち、どうにかして自分も参加しようと福原さんに近づいたらしい。
なるほどね、昨日駅前で奴を見かけたのはそう言うことだったのか。一緒にいた女学生はどうやら福原さんだったようだ。
木戸田が計画に加わった結果、その計画の目的地店は"わたしの孤立"から"わたしを木戸田に犯させる"というものへと方向転換した。
「そっか……、やっぱゲスいわ……、あいつ……。ねぇ、福原さん。あなたはあいつのこと、どう思う?」
「……最低です。あんな女を玩具としてしか見ていないような人、大嫌いです。……って、私がそんなこと言えるような立場じゃないとは思うんですけど……。結果的に計画に参加してしまったわけですし……」
おっとっと、泣かせまいと話を変えたつもりだったのに、結局さっきと同じ状況になってしまった。
「でも、あなたはちゃんと反省してくれてるんでしょ?」
「それは……はい、反省してます……」
「なら、もう気にしなくて良いよ。今回のことはお互い水に流そ? あなたも酷いことはしちゃったけど、それ以上に木戸田たちがクズだった。それで良いじゃん」
「……フォクサローゼリスさん、ありがとう。それと、改めて本当にごめんなさい」
……とりあえず、福原さんとは折り合いつけられたかな。こちらを騙しているような違和感もないし、彼女のことは信用して良いと思う。
さてと、それよりも……
「そ、そろそろ話しても良いかしら……」
こいつらだよなぁ……、問題は。
「ああ、何か言いたいことがあるなら言え」
「そこの女が言っていることは半分は真実よ。それは認めるわ。嘘を吐いていたことも謝ります。ごめんなさい」
「ふむ、やけに素直だな……。だが、半分……とはどういうことだ? その言い草だと、福原さんは半分嘘を吐いている……ということになるが」
そう言ってリョウはチラリと福原さんの方をm見やる。すると、心外だとばかりに福原さんは首を大きく横に振った。
その表情にも……うん、嘘を吐いている時のような違和感はない。となると、やはりこいつらが……。
「そうです! 実は……、私たちはそこの女に操られていただけなのです!」
「何を言い出すかと思えば、ただの責任逃れとはな……」
「違う……違いますわっ」
そこからは奴らの醜い命乞いが続くだけだった。目を潤ませながら、"自分たちは悪くない、全てそこの女が悪い"などと宣い、在りもしないであろう猛減をぺちゃくちゃと吐き続けていた。
当然、この場にはもはや奴らを信用するような人はいない。誰もかもが奴らをひたすら冷めきった視線で傍観していた。
「私たちはその女に弱みを握られました。そして、その弱みをばらまかれたくなければ自分の立てた計画を手伝え……と脅してきたんです」
「例えば、今この場に転がっているごろつきたちもそいつの命令で呼んだだけなのです」
「なっ……、この人たちは先輩方が勝手に呼んだんじゃ……」
「黙りなさいっ、この卑怯者!」
流石に年上相手では萎縮してしまうようで、福原さんは奴らに怒鳴られると肩をびくつかせ黙り込んでしまった。……うわぁ、何というかさ……脅されていたっていう説得力ないよね、今の態度。
「それだけではありません。このお守り擬きだってそいつが用意したものです。それを私たちに1000円で売らせたんです」
「あー、そうでした。それについても聞かなければなりませんでしたね。福原さん、実際のところどうなのでしょうか」
お守りの話が出てきたことでルナが何かを思い出したらしく、福原さんに事の真相を尋ねた。
「……考案から作成まで全て先輩方がやりました」
「嘘おっしゃいっ」
「貴様らは一度口を閉じていろ。話の邪魔だ」
リョウの一括で取り巻き共はまた黙る。流石にリョウには逆らえないのだと先ほどまでのやり取りで痛く実感したらしい。
「そうでしたか。ちなみに、他学生から受け取ったお金は何処に?」
「え、えっと……、恐らく先輩方が持っているとは思うんですが……」
「一応、福原さんの持ち物を確認させてもらえます?」
「は、はい。構いません」
そうして、ルナによる福原さんの持ち物チェックが始まる。が、彼女の言う通り、彼女の持ち物からはそれっぽいものが見つからなかった。
「ふむ、ありませんね。ありがとうございます、福原さん」
「あ、いえ」
「とすると……やはり……。涼さん、その方々が暴れ出さないよう抑えて居ていただけますか?」
「ああ、分かった。……けど、流石に俺一人は難しそうだから、ユリシアも手伝ってくれるか?」
「あっ、うん。任せて!」
その後、取り巻き共の持ち物チェックも行われたが、それらしき品を見つけることはできなかった。流石に持ち歩いたりはしていないか。奴らもそこまで馬鹿な奴らではないってことか。
「……まぁ良いでしょう。後で皆さんの教室にお伺いしますわ」
「い、いや、そんなことしたって見つかるわけないじゃない! 私たちは無実なのよ! チェックするならまずそこの女からやったらどうなの?」
「……それは後で考えるとしましょう。あ、そうそう、皆さんのお手を少しばかり拝借してもよろしくて?」
ん? 一体何故……? と思っていると、ルナは不意に自身のスカートのポケットから小型のタブレット……のような何かを取り出した。
そして、それを取り巻き共それぞれの手にあてがう。ルナが何をやっているのか、この場にいる誰も分からない……、みんながみんな頭に疑問符を浮かべていた。
「はい、ありがとうございます。えっと、あとは……福原さんも良いですか?」
「え、あ、はい、ど、どうぞ」
「では、一瞬だけ失礼して……と、これで良しですわ」
福原さんの手から例のタブレットを離すと、ルナはそれを慣れた手つきで操作し始めた。真剣な表情で画面を見つめる彼女を中心に、この場は静まり返っていた。
と、そこで不意にルナが顔を顰めた。今の作業で何か分かったことでもあったのだろうか……?
「ルナ、何か分かったの?」
沈黙に耐え切れなくなり、わたしは思わずルナにそう質問してしまった。
「ええ、一応」
「というか、それ何?」
「これですか? これは、最近うちのグループの一つである電子機器開発チームが作成し始めた指紋探知タブレットですわ」
指紋探知……? 薊美グループって大分幅広いな……っていうのはひとまず置いておくとして、なんでそんなものを今この場で使ったのだろうか……。
「例のお守りについて調べるためですわ」
どうやら疑問が顔に出てしまっていたらしい。ルナは例のお守りをこちらに見せつつそう答えてくれた。
……あれ、わたしってもしかしてポーカーフェイス超苦手だったり?
「だが、指紋とそのお守り擬きに何の関係が?」
「これですわ」
そう言うと、ルナは手にしていたお守りの袋部分を解き、その中身を引っ張り上げた。中から出てきたのは……透明な板? アクリル板かな?
「昨日、何かのヒントになるかと思って購入し、袋を開けてみたのです。そうしたらこのようなものが入っていました」
「なるほどな。そのアクリル板に付着していた指紋とさっきこの5人から取った指紋とを照らし合わせた……というわけか」
「そういうことですわ。正直、手袋などで対策されていたら厳しかったですが……」
一呼吸置きつつ、ルナは取り巻き共へと振り返る。
「貴女方が間抜けだったおかげで、ワタクシの心配は杞憂に終わりました」
「なっ……」
「これを作成したのは貴女方で間違いないですわね。先ほど貴女方は、子のお守りを作成したのは福原さん……とおっしゃっていましたが、どうやら嘘だったようですわね」
まぁ、誰もが分かっていたことだけどね。でも、こうしてルナが動かぬ証拠を突きつけてくれたおかげで、奴らにはもう逃げ場が亡くなった。うーん、どうしよう……、マジでルナが格好良く見えてしまっている……。
「こりゃ、巻き上げた金もこいつらが所持していそうだな」
「そうですわね。後で決める……と言いましたが、まずは貴女方の私物等々から調べ上げた方が良さそうですね」
取り巻き共の完全敗北……。今の絵面を見たら、誰もがそう思うだろう。奴ら自身もこれ以上は何の手立てもないのか、視線を彷徨わせるだけで何か声を発することもなかった。
「わ、私たちは無実ですわ……」
と思っていたが、普通にまた口を開き始めた……。諦め悪すぎでしょ……。もはやここからの逆転なんて絶望的だと思うのだけど……。
「この期に及んでまだ言うか……」
「確かに、そのお守りを作ったのは私たちよ。売ろうと決めたのもね。それは認めるわ。でも、そこのごろつき共を連れてきたのはまだ私たちとは決まっていないはずよ」
「ふむ、確かにな」
取り巻き共の言葉に、リョウが一理あると一つ頷いた。けど……
「だが、学生たちから金を巻き上げただけでも充分罪だぞ? ごろつきがどうとか関係なく、お前たちはもう罰される対象だと思うが……」
それ以上の正論を奴らに叩きつけたのだった。
「というか、さっきお守りの罪を福原さんになすりつけようとして結局嘘だったのだし、ごろつきたちの件に関してももう嘘としか思えないよね」
それまで黙ったままだったサヤもここにきて言葉を発した。うん、それもド正論。一つまた一つと嘘が発覚したら、言ってること全部が嘘なんじゃないかって思えてくるよね。
「そもそも、私もこの場に来るまでこんな人たちが来てることすら知らなかったんですよ……。どうしてこんな人たちを呼んだんですか……?」
「洗脳解除には強い刺激……つまり、暴力や快楽刺激が必要……とのことですわ。先ほど本人たちがそう言っていました。福原さんは御存じでしたか?」
「し、知りませんでした……。まさか先輩方、また勝手に……。というか、暴力だなんて危険すぎます……」
また余計なことを……という連中の表情をもう見ていられない。表情だけでバレバレだよね……。
っていうかさ……、もしかしてわたしもあいつらみたいな感じだったりするのだろうか……? ポーカーフェイスが奴らと同レベルだなんて知りたくなかった……。めっちゃショック……。
「う、嘘を吐いているのはそっちじゃない!」
「そんなに人を騙して楽しいかしら? この卑怯者が! 調子乗るのもいい加減にしなさいよ……!!」
「皆さんっ、奴こそ他人を洗脳する本物の悪人ですわっ!」
……辛い辛い辛い。見ているだけでなんか頭が痛くなってきたよ……。もうやめよ? 大人しく罪を認めた方が楽になれるよ……。
それくらい、今この場で繰り広げられている茶番劇は目も当てられないくらいの悲惨なものだった。
「……これ、どうしましょう」
「正直面倒だな。……ん?」
「どうかしましたか? 涼さん」
唐突に目を細めたリョウと、そんなリョウを見て不思議そうに首をかしげるルナ。
どうやらリョウも気づいたらしい。遠くから聞こえる足音に。また誰かが来るのか? だとしたら一体誰だ……?
その答えはすぐに明らかになった。
「見つけたぞ、霜崎涼ッ!!!」
「げっ……、もう目冷ましやがったか……」
「えっ、あ、あんたは……」
教室の外から姿を現したのは……、まさかの木戸田本人だった……。停学中の奴がこんな同道と学内をうろついていて良いのか……?
あと、何やらリョウが気になることを言っていたような……? もう目冷ましやがった……ってどういうこと?
「さっきはよくもやってくれたなァ、霜崎ッ!」
「な、なんであいつがいるの? というかリョウ、目覚ましやがった……って何?」
「4階の例の角部屋で福原さんと密会してるところを見つけたんだよ。んで、五月蠅くなりそうだったからとりあえず気絶させておいたんだけど……」
あ……、リョウの目が死にかけている……。確かに、この男を相手にするのは面倒だもんなぁ……。これは……後でお礼として何でもさせてあげよ。もちろん、えっちなことをね。
「木戸田先輩、残念ながら計画は失敗に終わりましたよ」
「は? んだと……!? ま、まさか……、霜崎……テメェ……。この俺様をぶっ飛ばした挙句、計画まで邪魔しやがったな……」
「そりゃまぁ、ユリシアをお前みたいなクズに指一本たりとも触れさせたくなかったからな」
「テ、テメェェェェェェッッ!!!」
激高しリョウに殴りかかる木戸田。しかしまぁ……、もう何度も返り討ちに合っているはずなのに、こいつは全く学修しないなぁ……。
こそれと……、いつといい取り巻き共といい、いちいち声が五月蠅いんだよなぁ……。ただでさえ人より聴覚が過敏なんだから、せめてもう少し音量抑えてほしいものだ……。って、こっちの事情なんて知るはずないんだけどさ。
「はぁ……、騒がしいやつだなぁ……。ほれ」
「うぐっ……、は、離せッ……!!」
「放してほしけりゃ、自分で振りほどいてみせろや」
リョウも以前に増してあしらい方がテキトーになっている気がする。まぁ、木戸田の相手をするのに疲れている……というのもあるんだろうけどね。
「ク、クソがッ……!! そ、そもそも失敗したのはテメェらの所為だからなァッ!! 今度は絶対上手くいくとかほざきやがって……」
リョウに手を掴まれたまま、木戸田は取り巻き共に向かって暴言を吐き散らす。んー、この流れはもしかして……?
「ちょっ、レ、レオ……!! そ、それ以上は……」
「"フォクサローゼリスの最高に無様な姿見せてあげる"……なんて行っておいて失敗しやがってよォ……。テメェらが無様さらしてどうすんだよッ」
「ダ、ダメぇ!! それ以上はダメだってばァ!!」
「テメェらが言ってた喧嘩のスペシャリスト共だって寝転がされちまってるじゃねぇかッ! あの自信満々な様子は何だったんだよッ」
頭に血が上った木戸田は止まらない。取り巻き共の制止も無視し、ぺちゃくちゃと計画の裏側を次々吐露してくれていた。
先ほどまで疲れたような表情を浮かべていたリョウも、居間となってはしめしめといった顔になっている。意図せぬ美味しい展開だったね、これは。
「勝負あり……ですわね」
「そうだな」
まだまだ続けられる暴露話を他所に、リョウとルナが顔を見合わせた。そして……
「もう逃げ場はありませんわね。大人しくしていただけますわよね?」
「……くっ」
「理事長室までご同行いただけますわよね?」
取り巻き共は頷くことしかできなかった。これにて決着……か。
「あァ? んだァ、テメェ……」
「木戸田レオさん、貴方もご同行願えますか? 貴方のお父様がお待ちですわよ」
「なっ……。お、おいッ、は、放せッ! 放せよッ!!」
「残念だが、お前はいろいろやらかしすぎたんでな。ちょいと来てもらうぞ」
「あっ、そうそう。言い忘れていましたが、今のワタクシに逆らうと痛い目見るかもしれませんのでご注意を」
そう言ってルナが胸ポケットから取り出したのは……何かの書類?
「今週から、木戸田に代わって薊美が理事を受け持つこととなったので」
「そ、そんな話聞いてねぇぞ!?」
……こっちも驚きだよ、ルナ。何時の魔にそんなことになっていたのさ……。リョウですらぽかんとしてしまっている。
「前々から木戸田を薊グループに吸収するという計画は立てられていたのですが、丁度先週それが本決定いたしましてね。その流れで朱鷺舟の理事権限もこちらに移った、というわけです」
「んな馬鹿な……」
「嘘だと思うのなら、ご自分の目で確かめてみてはいかがでしょう? 理事長室に行けばその答えがわかりますわよ」
「……」
そうして、ルナとまだ若干状況を飲み込みきれていないリョウ、それと生徒会長によって、福原さん・取り巻き共・木戸田の計6名は理事長室へと連行されたのだった。
なお、不良共は先ほどサヤたちにかけられていた縄で拘束しておいた。ひとまずは教室の隅に放置することになったが……うん、邪魔だ。
「あ、あの……、フォクサローゼリスさん……」
「ん?」
なんて思っていると、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには例の1年生たちが申し訳なさそうに立っていた。
「その……疑ってしまい申し訳ありませんでした」
「それに私……、さっき叩いちゃったわよね……。本当にごめんなさい……」
あはは……、福原さんに続き、彼女たちにまで頭を下げられてしまった……。参ったなぁ……。福原さんはともかく、この人たちは言ってしまえば同じ被害者なんだよなぁ……。
「あ、謝らないでよ。あれはほら、仕方なかったんだよ。あなたたちは悪くないんだから」
「でも……、結果的に貴女を傷つけてしまったわけだし……」
「わたしなら大丈夫だから、ね? そんな顔しないで。あっ、それとさ、一つ聞きたいんだけど……」
結局、福原さんの時と全く同じ手段を用いることになってしまった。でも……、まぁ良いか。
「あのお守りを売りつけてきた 人の特徴って分かる? 多分、さっきの4人組から直接渡されたわけじゃないってことは察しがつくんだけど……」
「それが……何故か顔を全然思い出せないの……。なんかこう……記憶に靄がかかっちゃったみたいな感じで……」
「私も同じような感じで思い出せなくて……。本当にごめんなさい……」
「そっかぁ。ううん、気にしないで。また何か思い出したらその時に教えてよ」
わたしの言葉に頷いた彼女たちは、各々申し訳なさそうな表情を浮かべながら1年C組の教室を退出していった。
しかし、記憶にもやがかかった感じ……か。そんな不思議現象がこの世界で起こるとはあまり考えられない。
でも、彼女たちの様子から嘘を吐いているような雰囲気は感じ取れなかったんだよなぁ……。んー、よく分からない。
そういえば、さっきルナも同じお守りを持っていたっけ。後で彼女にも聞いてみよう。
さてと、これでこの教室に残っているのはクラスメイトだけ……。あ、あと、気絶中の不良共もいるけど……無視して良いよね。
「さて……と、ユリちゃん」
「私たちの言いたいこと、分かるよね? ユリシアさん」
これで万事解決……かと思っていたんだけど……、どうやらまだ終わりじゃなかったみたいです……。サヤとクレハの目が……怖い……。
それだけでなく、クラス全体から突き刺さる視線が痛い……。
「え、えっと……、もうすぐ昼休み終わっちゃうけど……」
「黙らっしゃい! そこに直りなさいっ」
「は、はいっ……!!」
その後、午後のHRが始まるまでわたしはサヤたちクラスメイトに散々説教されてしまったのだった。うぅ……、正座させられていた所為で足が痛い……。
なお、余談だがルナもお守りを連中の代わりに売りつけていた存在のことは知らなかったという。というか、ルナは友人から厚意で譲ってもらったらしかった。
そんでもって、取り巻き共も覚えていないとしか答えてくれなかったらしい。……まぁ、元凶は捕らえることができたわけだし、そこまで深追いしなくても良いのかなぁ……?
*
職員室の一角にて……。
「ん? おや? 戻っていたのかい?」
「あ、先生、お疲れ様ですー」
「お疲れ様。それで……、例の件はどうなりましたか?」
「ダメダメですねー。大失敗でしたよー」
「……そうか。やはり一筋縄ではいかないようですね、彼らは」
「ですねー。というか、一般学生の知恵じゃどうにもできないと思いますよー」
「……まぁ良いです。もう少し様子を見ることにしましょう。幸い、向こうはこちらに気づいている様子もありませんしね。気づかれていない以上、まだ弊害になることはないでしょう」
「そうですねー。あ、もうこんな時間ですよー。そろそろ教室に向かわないとー。先生も遅れないようにー」
「分かっているよ」
*
「……お腹、空いたなぁ。もう昼休み終わっちゃうんだけど……、霜崎君も他のみんなも遅いなぁ……」