異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~ 作:室谷 竜司
「ここ……だよな」
「うん……。合ってるはず……だよ?」
スマホの画面と目の前の景色に目線を行き来させながら、俺とユリシアは二人して言葉を詰まらせていた。
分かってはいたことだが、こうして実物を目の前にすると萎縮してしまうもののようだ。あ、あまりに広すぎる……。
そうです、今俺たちは日本有数の財閥である薊美家の豪邸の前にいるのです。そして、そのあまりに立派過ぎる敷地面積に絶句してしまっているわけです。
「お、お城みたいだよ。すごいすごい!」
俺たち二人とは異なり、メルシアちゃんはこの広大な敷地とその奥に見える豪勢な建物に終始はしゃぎっぱなしだ。
メルシアちゃんは俺たち以上に肝が据わっているのかもしれない。こっちなんて、今からこんな豪邸にお邪魔するのか……と緊張して足が震えているというのに……。
「お姉ちゃんもお兄ちゃんもどうしたの? なんか震えてない?」
「い、いや、だってさ……、こんな立派なお家に招かれてるんだよ……? そりゃ、緊張だってするよ……。ルナ……、改めてすごすぎ……」
「ああ……。これがお嬢様クオリティってやつか……。思い知らされたぜ……。平民風情じゃ敵わん……」
未だに足がすくんでしまっている俺たちに、メルシアちゃんは少しばかり呆れたような目を向けてきている。
「二人とも、向こうの世界では普通に王様のお城とか行ってたんでしょ……?」
あー、メルシアちゃんが呆れている理由はそれか。確かに、俺たちが社交的な勇者とそのお付きだったら王宮への立ち入り経験もあっただろう。
しかしだ、俺もユリシアも向こうの世界では社交的とは真逆の性格だった。故に、王宮に招かれてもそれに応じることはなかったのである。
「わ、わたし……、王城行ったことないの……」
「えっ!? なんで!?」
「生きたくなかったから……」
メルシアちゃんから溜息がこぼれる。意味が分からない……という感情を表現しているように俺は感じた。
「だ、だって、あの頃は人間不信だったから……」
「そういえばそうだったね。なるほど。まぁ、そういうことなら仕方ないのかな」
「そ、そうそう、仕方ないことなんだよ」
「でも、いろんな修羅場をくぐってきてるはずなのに、なんで立派なお屋敷一つでそんな情けないことになっちゃってるのよ……。妹としてちょっと恥ずかしいんだけど……」
理由を説明したら納得してくれた……と思いきや、やはりメルシアちゃんはユリシアに辛辣なままだった。メルシアちゃん優勢という姉妹関係は今日も健在か。
妹として恥ずかしいと言われ、ユリシアは自身の胸を手で抑えながらその場に崩れ落ちる。どうやらクリティカルヒットのようだ。
「で、お兄ちゃんはどうして?」
と思ったら、今度は俺に話が振られる。
「い、いやさ……、金持ちの住む家を前にしてビビらない平民はいないと思うんだ……、うん……」
「ゆ、勇者様ぁ……」
メルシアちゃんの中での勇者とはその名の通り勇ましく頼もしい存在なのだろう。だから、ヴィオレイウスで勇者だった俺にも少なからずそういったイメージを重ね合わせていたのだろう。
だが、その勇者がこんなビビり散らかしていたらなぁ……、そりゃ減滅されても仕方ないことだよなぁ……。それどころか、彼女の夢を壊してしまった分、俺の罪は重いだろう。
「うぐっ……、お恥ずかしい限りです……」
「そう思うならもっと同道としててよぉ……。勇者様ってもっとこう、格好いいはずでしょ?」
「そ、そうだな、何時までも立ちすくんでいられないよな。ごめんな、メルシアちゃん、それじゃあ行こうか」
メルシアちゃんに格好悪いところばかり見せてもいられない。彼女にとって尊敬できる兄を目指しているんだ、俺は。
竦む心を叱咤し、俺は表面上は堂々とした態度で門の脇に設置されたベルを鳴らす。指が震えていた……? こ、これは武者震いってやつだよ、うんうん。
俺がベルを鳴らしてから程なくして、門の先に見える立派な扉が開くのが分かった。そこから顔を覗かせたのは、今回のお泊り会の開催主、薊美さんだった。
「あ、人が出てきた。綺麗な人だね」
「あの人が今日俺たちを誘ってくれた薊美月菜さんだよ」
「そうなんだ」
メルシアちゃんに薊美さんの紹介をしつつ、彼女がこちらに駆け寄ってくるのを待つ。にしても、薊美さんの勢いがすごい。待ちわびていたと言わんばかりのスピードで近づいてくる。
こんなことを言ってしまって良いものかとも思うが、今の彼女に御令嬢としての気品は感じられない。その方が俺たちとしても接しやすくてありがたいのだけど。
「皆さん、お待ちしていましたわ!」
「薊美さん、今日は誘ってくれてありがとう」
駆け寄ってきた時の勢いそのままに門を開け放つ薊美さんに対し、俺はそう感謝の念を伝える。それから、初対面となるメルシアちゃんの小海を行う。
「んで、この子がユリシアの妹のメルシアちゃんだよ」
「初めまして、メルシア・フォクサローゼリスです。今日はお招きいただきありがとうございます」
メルシアちゃんの姿を視界に捉えた薊美さんの動きが一瞬止まった。ん? どうしたのだろうか……?
などと心配していると……
「か、可愛いですわっ!! それに礼儀正しくて良い子だなんて……、ユリシアさんとは大違いですわ」
彼女のテンションが一気に爆上がりした。確かに、メルシアちゃんは誰が見ても可愛いと感じるような容姿をしてるもんな。その上、しっかりしてもいる。薊美さんにも好印象のようだ。
だが、ユリシアと違って……というのは余計だと思うけどね……。またいつもみたいに二人の言い合いが始まるのか……と思っていたのだけど……
「る、るにゃ……、おひゃようごじゃいましゅっ!!」
そうだった……。今のユリシアは極度の緊張状態だった……。喧嘩勃発とはならなかった。まぁ、良かった……のかな?
「あ、あら……? い、言い返してこないのですわね……」
薊美さんはというと、何処となく寂し気な表情をしていた。ユリシアからの罵倒がほしかったのか……? それとも構って欲しかったのか……。
どっちにしろ、薊美さんのこういうところは可愛らしい。奏思い苦笑を浮かべつつ、俺は今のユリシアの状態について薊美さんに説明しておくことにした。
「き、緊張……って、今更過ぎません?」
「ま、まぁ、実際に薊美さんの自宅を目にするのは初めてだからね。こうなるのも仕方ないかもしれない……かな。……事実、俺もさっきまでビビってたわけだし」
「え? 何か言いましたか? 涼さん」
「あー、いや、何でもないよ。ともかく、少ししたらいつもの調子も戻ってくると思うから安心して」
そういうことなら……と、薊美さんは納得してくれた。無視されたわけではないと分かってか、彼女は少しほっとしているようだった。
横からメルシアちゃんのジト目が刺さる……。緊張してたのはお兄ちゃんも一緒だよね?という意思がびんびん伝わってきて何とも居心地が悪い……。
こりゃ、メルシアちゃんの尊敬できる兄になるのは難しそうだな……。路は長いぜ、まったく……。
「っとと、失礼しました。初めまして、メルシアさん。ワタクシ、薊美月菜と申します。ユリシアさんとは友人でありライバル……といったところでしょうか」
「ラ、ライバル……?」
「ええ。涼さんを巡って毎日戦っているのですわ」
「……お兄ちゃん、もしかして浮気?」
メルシアちゃんの俺を見る目がさらに鋭くなった。ちょっ、その誤解は流石に止めてほしい……。浮気なんてしたことないからね? ユリシア一筋だからね?
「メ、メルシアちゃん……、それは誤解だよ……」
「そうですわね。涼さんは誠実な方ですわ。今のところ、ワタクシには一切振り向いてくれませんの。くっ、悔しいですわ……」
「そ、そっか。勘違いしちゃってごめんなさい、お兄ちゃん」
ふぅ、分かってくれて良かった。薊美さん、フォローしてくれて助かるよ。おかげでメルシアちゃんの中での俺の株をさらに下げるようなことにならずに済んだ。
「リョウ、浮気したの!?」
「いや、してねぇから! ってか、どんなタイミングで調子取り戻してんだよ」
「そかそか、なら良かった。いやぁ、ねぇ? 彼氏が浮気してるなんて言われたら緊張してなんていられないじゃん?」
不本意ではあるが、どうやらユリシアもようやく復活したようだ。いや、もう本当、俺は一生ユリシア鹿愛さないって決めてるから。浮気とか絶対有り得ないから。
「目覚めましたわね、ユリシアさん」
「ごめんごめん、あまりに立派な家だったもんだから緊張しちゃって……、えへへ……。でも、もう大丈夫だから。改めて、誘ってくれてありがとう、ルナ。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします、ルナさん」
「ええ、よろしくお願いいたしますね。では、中に入りましょう。もう皆さん来てますから」
俺たちが最後だったのか。待たせてしまって申し訳なかったな……。なんていう罪悪感を抱えながら、俺たち三人は薊美さんを追って目の前の広大な敷地へと足を踏み入れたのだった。
*
「お邪魔します」
「「お邪魔しまーす」」
玄関をくぐり、俺たちは各々そう口にする。人の家を訪ねた時の当然の礼儀だよなぁ。それくらいは俺たちだって弁えているさ。
「はい、どうぞお上がりくださいませ。脱いだ靴はそこに適当に並べてくださって構いませんので」
適当……とは言われたが、やはりこれも礼儀だ。俺たちは脱いだ靴を玄関の靴置きの脇に綺麗にそろえて置く。
見ると、そこにはもう二足ほど靴が並べられていた。……あれ? 二足……? てっきりいつメン全員集まっているものだとばかり思っていたので少しばかり疑問を覚えてしまう。
というか……、この靴って多分紗夜と雨宮さんのもの……だよな。もしかして、寺田君は来ていないのか……?
あれ? もしや男は俺一人……? お、おいおい……、マジっすか……。途端に緊張がぶり返してきた。
「ワタクシの自室は二階にあるのでついてきてください」
「うん」
「はーい」
と言って元気よく薊美さんに続くユリシアとメルシアちゃんを追いつつ、俺はこの先の展開に不安感を募らせていた。
いや、うん……。マジ何なんだろうか……、このハーレム学園ラブコメ的な展開は……。恐らく、ここでは誰も望んじゃいないぞ? ハーレムなんぞ。
なんて言っても仕方ないよなぁ……。まぁ、男一人でも何とかなるか。幸い、いつメンなら普通に話も通じるし。特に紗夜とかな。
そんなことを考えている間に階段を上り終え、俺たちは薊美さんの部屋の前までやってきていた。
ある程度落ち着きを取り戻したところで、俺は周りを見る余裕も出てきた。ふむ、外観はもちろんのことながら、内装もやはり上品だ。流石は大財閥クオリティ。
飾られた装飾品はどれも高級品であると、素人の俺の目にもはっきりわかる。何という加工、雅やかというか何と言うか……、そんな感じだ。語彙力がなくてすまん。
「つきましたわ。では、中に入りましょう」
「お邪魔します」
薊美さんに続き、ユリシアとメルシアちゃんが扉をくぐる。おっと、内装に見とれていて少し行動が遅れた。慌てて俺も室内に足を踏み入れた。
「あ、ユリちゃんも涼君もお疲れー」
「それと……、貴女がもしかしてユリシアさんの?」
予想通り、中にいたのは紗夜と雨宮さんの二人だった。彼女たちは俺たちの姿を見止めるとにこりと微笑んで軽い挨拶をしてきた。
それからすぐ、彼女たちの意識は初対面であるメルシアちゃんにくぎ付けとなっていた。俺とユリシアは二人に挨拶を返してから、肝心のメルシアちゃんの紹介を行う。
「そそ、わたしの妹のメルシアだよ」
「初めまして。メルシア・フォクサローゼリスです」
「わぁお、話に聞いていた通りの銀髪だぁ! 可愛い! あっ、私、陸下紗夜って言います。メルちゃん、よろしくね」
「私は雨宮紅葉。よろしく」
「はい、お二人ともよろしくお願いします」
三人の自己紹介が済んだところで、不意に部屋の扉が叩かれた。みんなしてノックのあった扉の方へと視線が向く。
「入って頂戴」
「失礼いたします」
薊美さんが促すと扉が開き、その奥から初老の男性が姿を現した。彼の格好はいわゆる執事服……というやつだろう。
やはりいるものなんだな、使用人。これもまた大財閥クオリティってやつだな。もう流石に驚かんけど。
「月菜御嬢様、皆様分の紅茶とお茶菓子をお持ちしました」
「あら、ありがとう。流石ね、仕事が早くて助かるわ。紅茶はそこのテーブルに置いておいてもらえるかしら」
「分かりました。では、私はこれで失礼いたします。皆様、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」
それだけ言い残し、使用人さんは速やかに部屋から立ち去って行ってしまった。ふむ、流石の手際だ……。一つ一つの所作に無駄がなかった。ありゃプロだな。
「わぁ、すっごいなぁ。本物の執事さんなんて初めて見た」
「わたしも。ホント、お嬢様ってすごいなぁ」
「いえ、そんなことはありませんよ。そんなことよりも、全員集まったわけですし、何かしませんか? ワタクシ、メルシアさんとの交友も深めたいですわ」
ユリシアたちの"お嬢様すごい"談義は恥ずかしかったのか、薊美さんは途中で話を打ち切りそんな提案を持ち掛けてきた。
まぁ、薊美さんの提案については賛成だが、何かできることはあるだろうか? こういう時の定番といえば、やはりカードゲームとかボードゲーム辺りか?
「ふっふっふ、頼まれていたブツ、持ってきてるよー」
「ありがとうございます、紗夜さん」
「んじゃ、テレビに繋げちゃっていい?」
「ええ、お願いいたしますわ」
何やら不敵な笑みを浮かべた紗夜は、薊美さんと一言二言会話を交わすと、大きめの鞄を手に持ってその場から立ち上がり、そのまま部屋に備え付けられている大型のテレビモニターへと近づいていった。
テレビにつなげる……となると、もしや家庭用ゲーム機でも持ってきたのか? 紗夜の奴。先ほどの会話から察するに、薊美さんと事前に打ち合わせていたのだろう。
確かに、ゲームでも良いな。わいわい騒ぐなら。ナイスチョイスといえるだろう。だが、あまり難しいゲームは選んでいないだろうな?
「よっし、お待たせ。設置完了だよ」
と考えている間に、紗夜はゲーム機の接続を終えていた。手際良いな、流石インドア系女子。
「おお、準備良いね、サヤ」
「置き型ゲーム化ぁ、初めてやるなぁ。なんか楽しみ!」
「ワタクシも初めての経験ですわ。ワクワクしてます」
ユリシア・雨宮さん・薊美さんが各々そう言いながらテレビの周りに集まっていく。遅れて俺とメルシアちゃんもみんなの輪の中に入っていく。
「一応、ソフトもいろいろ持ってきたよ。どれがいいかな?」
「んー、最初はこれが良いんじゃないか?」
紗夜が提示してきたパッケージを見比べつつ、俺は一つのゲームを指差す。某鉄道運営ゲームだ。
格闘ゲームやレースゲームみたいに焦ってプレイする必要もないから、初心者たちにも優しい内容だろうと思って選んだ。それに……
「あっ、これあたしもやったことある! お兄ちゃんたちと一緒に」
メルシアちゃんにもなじみのゲーム……ということも理由の一つである。知らない者より知っている者の方がメルシアちゃんもこの輪の中に入っていきやすいだろう。
「オッケー、ならこれにしよう」
「これはどういったゲームなのですか?」
「すごろく……に近いかな。サイコロを振ってゴールを目指す漢字のゲームだよ。まぁ、あとはやりながら説明するね」
「うん、分かった。すごろくみたいなゲームなら私でもやれそうだね」
ちらりとこちらに視線を向け、小さくありがとうと呟いてくる雨宮さん。ま、まぁ、確かにそういう気づかいで選んだゲームだけど、こうして礼を言われるのは恥ずかしいな。
「これ、結構運要素強いんだよねぇ。ふふん、わたし運めっちゃ良いから負けないよ。一位はもらったね」
「お姉ちゃん、いつもビリじゃん……」
「えっ、そうなのですか? なら、ユリシアさんに勝つのは余裕ですわね」
「なっ、メルシアぁ!! そういうことは言わないお約束でしょうがぁ!!」
早速賑やかになってきたな。良い感じだ。
「あっ、そうそう。これ一応、最大4人までしかプレイできないんだよね。だからさ、提案なんだけど、チーム戦にしてみない? 二人ずつ三チームに分けてのタッグ戦! どう? 面白そうじゃない?」
「良いですわね! ならば、早速チーム分けをしましょう」
「経験者同士は分ける? ……いや、良いか。んじゃ、あみだくじでちゃちゃっと決めよう」
スマホのあみだくじアプリを開き、みんなの名前をランダム入力していく。そしてあみだくじを行い、結果が表示される。
「おっ、決まったぞ。まず、ユリシアと薊美さん、次にメルシアちゃんと紗夜、んで、最後に俺と雨宮さんだな」
良い感じに分かれてくれた。まぁ、ユリシア・薊美さんペアのところが何とも五月蠅そうではあるが……それもまた楽しみである。
「おお、メルちゃんとペアか。よろしくね、メルちゃん」
「はい、よろしくです、サヤさん」
「にしても、ユリちゃんもそうだけど、メルちゃんも日本語上手だよね」
「昔から日本語のお勉強をしていたんです。そのおかげですよ」
メルシアちゃん・紗夜ペアは何とも平和そうだ。あっ、別に平和と平らをかけたわけではないからな? そこんとこ、勘違いしないでくれ。俺はそんな失礼極まりない冗談を言うような奴じゃないつもりなんだ。
「よ、よろしく、霜崎さん」
「うん、よろしくな。俺たちも紗夜たちみたいに平和にいこうな」
「だね。で、でも……」
ちらりと雨宮さんが目配せした先には……
「くっ、羨ましいですわ……、紅葉さん……」
「そうだね……。クレハ、許すまじ……」
「これはもう、ゲームで痛い目をみてもらうしかありませんわね」
「ふふふ、珍しくあんたと意見が一致するなんてね。ルナ、やるわよ、わたしたち。ボッコボコにしてやろうじゃないの」
……俺の想像とは少し違うベクトルで騒がしくなりそうだな、あそこのペアは……。というか、一応雨宮さんは初心者なんだからな? 俺がついているとはいえ、多少手加減してあげろよ?
そうして始まったゲームだったが……
「うおっ、マジかよ……。容赦なさすぎだろ……」
「うわぁ、また借金になっちゃったよぉ……。酷いよぉ、二人ともぉ……」
「くっくっくっ、どんなもんよ」
「してやったり、ですわね」
マジで俺たちへの当たりが強かったわ、ユリシアたち……。俺たちは最下位から抜け出せないままだった。運ゲーでこのドツボにはまるのはきついなぁ……。何か挽回の策を練らないとな。
なんて感じに一方的なバトルが繰り広げられているその裏では……
「やったぁ! またゴールできたよ!」
「お金いっぱいだね! 今度は何買っちゃおうか」
メルシアちゃんと紗夜は相も変わらず平和にプレイしていた。平和であることは即ち順調ということでもある。先ほどから子のペアが一位を独走状態だった。
「っと、良いカード来たぜ。んじゃ、そろそろ挽回してやろうか、雨宮さん」
「え? できるの!?」
「おうよ。見といてな、それっ」
ようやく運が回ってきた。俺は逆転の一手をユリシア・薊美さんペアに放つ。これで少しは苦しみから抜けられるだろう。
「うわっ、なんてことを……!!」
「わぁ、すっごーい! もしかして、一気に逆転!?」
「んー、どうかなぁ。でも、良い感じに競り合えては要ると思うよ」
「やったぁ! 霜崎くん、流石!」
俺たちはハイタッチを交わした。ってか、あれだな。いつの間にか雨宮さんの俺の呼称が"霜崎さん"から"霜崎くん"に変わっている。
とまぁ、それはさておき、ハイタッチを交わす俺たちの様子に、ユリシアと薊美さんから悔し気な声が飛んでくる。
「くそぉ、やられた……」
「ですが、まだやれますわ」
「こりゃ、こっちも意地だよ。負けるもんか」
そうして時間はあっという間に過ぎ、ラストターンになった。そして、このタイミングでゲームが動いた。
「えいっ、お姉ちゃんたちを狙い撃ち!」
「ユリちゃんも月菜ちゃんも覚悟ーっ!!」
「えっ、ちょっ、メルシア!?」
「紗夜さんも、なんてことを!?」
プレイし始めた時から今に至るまでずっと残されていた攻撃手段を最後の最後でユリシアたちのペアに放ったメルシアちゃん・紗夜ペア。
うわぁ、こりゃ残酷だわ……。平和かと思いきや、最後に途轍もない爆弾を落としていったぞ、この二人。
というわけで、ユリシア・薊美さんペアは見事に撃沈。最終結果は、メルシアちゃん・紗夜ペアが一位、そして二位が俺と雨宮さんペアとなったのだった。
「く、悔しいですわ……」
「最後の最後でメルシアとサヤにやられたぁ……。もう少しで勝てそうだったのにぃ……。悔しすぎる……」
「やっぱお姉ちゃんがビリじゃないと面白くないからね」
「な、何よそれぇ……!!」
そんなユリシアの声につられ、どっと笑いが起きる。からかわれていたユリシアですら楽しそうだ。
すっかりメルシアちゃんもこの輪の中に溶け込んだな。やはりこのゲームを最初にやって正解だった。
「あー、面白かったぁ。やっぱみんなでゲームするのが一番楽しいや」
「ですわね。負けてしまいましたが、とても面白かったですわ。紗夜さん、ありがとうございます」
「いえいえ~。っとと、もうこんな時間だね。時間すぎるの早いなぁ」
気づけばもう昼の時間帯になっていた。みんなかなり夢中になっていて、すっかり時間を忘れてしまっていたようだ。
遅れて空腹感が襲ってくる。先ほどゲームで騒いだ分、いつも以上に腹が減ってしまったみたいだ。
「そろそろ昼食にしましょう。すぐに用意させますね」
というわけで、俺たちは薊美さんに勧められるまま何とも豪勢な昼食をごちそうになることとなった。ぜ、贅沢だ……。
感想? もちろん、滅茶苦茶美味い!の一言に尽きる。父親もそうだが、やはりプロの腕前はすごい。
それからも、俺たち6人はいろいろなゲームをして遊んだり、たまに休憩しつつ雑談をしたりと、非常に有意義な時間を過ごした