※この作品はR-18です。

異世界帰りのハイスペック勇者様は、一緒に連れ帰ってきた最愛の狐耳少女(パートナー)と平凡で穏やかなイチャコライフを送りたい! ~微コミュ障でオタクな最強タッグのあまあMAXな共依存物語~   作:室谷 竜司

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第三章おまけ 霜崎涼生誕祭・前編

「あ、そうだ。リョウ、明日デートしよ」

 

 夜、いつものように行為を終えベッドの上で二人並んで寝転がっていたのだが、ユリシアから唐突にそんな提案をされた。

 

 デートか、そういえばあまりしてこなかったな。ってか、あれだよな……。確か入学前に行った佐原くるみの単独ライブ以来じゃないか? デートって。

 

 俺もユリシアもどちらかというとインドア系だから、普段は外に出かけるよりも家の中でイチャイチャすることが多い。

 

 けど、幾らインドア系とは言えども、やはりユリシアももっと外出デートがしたいのだろうか……。そう思うと、今まで連れ出してあげられなかったことが悔やまれるな。

 

「そっか、ごめんな。今まであんまりデートらしいことできてなかったよな、俺。よし、行こうぜ、デート」

 

「あ、うん、ありがと。でもね、別に今まで不満があったわけじゃないからね? ほら、わたしって外出るのとかそこまで好きなわけじゃないしさ。だから、リョウは別に気にしなくて良いんだよ。今回のも……まぁ気まぐれってやつだよ、えへへ」

 

「そうなのか? まぁ、不満に思ってないのなら良いんだけどさ。けど、何かあったら言ってくれよ? 俺、お前のこと蔑ろにしたくないから」

 

「うん、ありがとう、リョウ。えへへぇ、やっぱりわたしって愛されてるなぁ。大好きだよ♪」

 

 言いながらぎゅっと抱きついてくるユリシア。あー、くそっ、やっぱり可愛すぎんよ、うちの彼女。だからこそ、もっともっと大切にしてやりたい。

 

 なんて決意を改めて固める俺だったが……、抱きつかれた拍子にユリシアのその魔性の胸部装甲が俺の腕にダイレクトアタックしてきてしまったおかげで、先ほど萎えたはずの輪が愚息も再び硬くなってきてしまっていた……。これは締まらない……。

 

「あっ、また大きくなってる……、じゅるり……♡」

 

 ユリシアもそんな俺の状態に目ざとく気がついてしまったらしく、飢えた獣の如き舌なめずりをしながらやけにいやらしい手つきで俺の腹を撫でてくる。

 

 コイツ、勃起を見ただけで思いきり発情していやがる……。俺が言えたことじゃないかもだが、本当にユリシアの性欲ってどうなっているんだろうな……。いや、マジでお前が言うなって話なんだろうけど。

 

「リョウのインドアおちんちん、まだ外出たくないんだね……♡ まだわたしのおまんこの中に籠ってたいんだねぇ……♡ ふふっ、良いよ♡ わたしの淫キャまんこは何時でもリョウを迎えちゃうんだから……♡」

 

「なんか……上手いこと言ってるように見えるけど、実際問題ただのド下ネタなんだよなぁ……、これ」

 

 こんなこと言っている俺でしたが、結局しっぽりやりましたよ、ええ。だって俺、ユリシアの淫キャまんこには逆らえませんからね。

 

 こうして、今日も今日とて性欲の権化と化す俺たちなのであった。

 

    *

 

「父さん、ちょっと今から出かけてくるわ」

 

「ん? おう、そうか。ユリちゃんも一緒なんだな。気を付けて行ってこいよ」

 

「うん、行ってきます」

 

 次の秘、俺とユリシアは起床後早々準備を整え、リビングで寛ぐ父親に一言声をかけてからデートへと出発することとなった。

 

「っとと、帰りはどんくらいになりそうだ?」

 

「んー、分からない。けど、夕飯までには帰るつもりだから。外食も良いけど、やっぱり父さんの飯の方が旨いからな。ユリシアもそれで良いか?」

 

「うん、異論ないよ。というわけだからお父さん、お夕飯楽しみにしてるね」

 

「おうよ、任せとけ。とびきり美味い飯作って待ってるぜ」

 

 サムズアップする父親とユリシアの間で何かよく分からない無言のやり取りがあったように感じたのは俺の気の所為なのだろうか……。

 

 いや、まぁ良いか。ユリシアも父親の作る夕食を楽しみにしているということなのだろう。俺の考えすぎだな。

 

 しかし、流石は一流ホテルのチーフコックだな、父親は。既にユリシアの胃袋も父親の手の中ってわけか。羨ましいものだ。いつか俺も彼女の胃袋をぎゅっと掴むような飯を作りたいものだ。

 

 っとと、今はそんなことよりもユリシアとのデートを楽しまなければ。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「行ってきます」

 

 俺はユリシアの手を取って玄関へと向かう。背後から父親が生暖かい眼を向けてきているが、この1ヶ月であんな感じの視線にも慣れたものだ。

 

「行ってらっしゃい」

 

 最後にそんな見送りの言葉を受けながら、俺とユリシアは外へと飛び出した。

 

「さてと……ユリシア、何処行きたい?」

 

「そうだなぁ……、今日は二人でゆっくりショッピングとかしたいかな」

 

「ショッピング……って、アニメグッズとか?」

 

 手を繋いだまま、俺たち二人は住宅街をのんびりと歩く。その間、ユリシアにいろいろと希望を聞いてみることにした。

 

「んー……、リョウは最近気になってるグッズとかある?」

 

「俺は……特にないかな」

 

「なら、アニメグッズは良いかな。わたしも今はそこまで欲しいものとかないし」

 

 あれ、俺たちの間でショッピングと言ったらサブカル方面しかないだろうと思っていたんだけど……、どうやらその当ては外れたみたいだ。ふーむ……、ショッピングを提案してきたにしては、いまいちユリシアの意図が見えない。

 

 というか、本当にショッピングがしたいのか?

 

「って、なんかごめんね。連れ出したのわたしなのに、いろいろ考えさせちゃってるよね」

 

「ん? ああ、良いんだよ。まぁ、ちょっと悩んでるのも事実なんだけどな。うーん、何処行こうか」

 

「ねぇねぇ、たまには普通の男女みたいなデートしてみない? 今までサブカルばっかりだったけど、今日はそういうのじゃなくてさ、服とか……雑貨とか……そういうの見て回ってみない?」

 

「ふむ、普通の男女みたいに……か。それもそうだな。たまにはオタク心を忘れてみるのも面白そうだな。んじゃ、駅前のモールに行こうか」

 

「えへへ、賛成! ありがとね、いろいろ考えてくれて」

 

 一度俺と繋いだ手を解いたユリシアだったが、すかさず俺の腕に身を寄せてきた。ったく、これだからユリシアの彼氏はやめられない。俺だけのためにこんなにも目いっぱいの愛情を表現してくれるのだから、俺もユリシアのために何でもしてやりたいって思えるんだよな。

 

「それにしても、服かぁ……。しばらく何も買ってなかったな。俺もそろそろ何かしら新しい服買ってみるかな」

 

「リョウ、センス良いのに自分の身なりには無頓着なんだもんね。おしゃれしたらもっと格好良くなれると思うんだけどなぁ」

 

「いや、別に格好良くなる目的で服を買いたいわけじゃないんだけどね」

 

 ただ、最近少しばかり手持ちの服が小さく感じるようになってきたのだ。まだまだ成長期ってことなのかね……。

 

 まぁ確かに、父親は今の俺よりも10cmほど背が高い。そんな父親の遺伝子を受け継いでいるのなら、俺ももう少しは背が伸びるかもしれない。

 

 だから、今までのものより一回り程サイズの大きい服を買ってみても良さそうだ。よし、今日の俺の目的は定まったぜ。

 

「えー、勿体ないよ」

 

「そ、そうかな? やっぱり彼女的には無頓着な彼氏が隣にいると恥ずかしかったりするのか?」

 

「ううん、そういうわけじゃないよ。わたし、リョウの隣にいて恥ずかしいだなんて思ったこと一度もないしね」

 

「なら良いさ。ユリシアが不満に思ってないなら、俺は別に自分を磨きたいなんて思わないよ。回りの評価なんてどうでも良いんだ。ユリシアにさえ見てもらえてればそれだけで充分だ」

 

 我ながら臭いセリフを吐いてしまったものだ……。表情には出していないが、正直今のは身悶えしそうになるくらい恥ずかしい。

 

 けど、これが俺の本心でもある。ユリシアが嫌だと思うなら、俺は見た目だって変えてみせる。けど、そうでないなら俺は気にやしない。

 

「そ、そっか、えへへ……♡ まぁ、そういうことなら納得。それに、別におしゃれなんかしなくてもリョウは素で格好いいもんね」

 

「あはは、それはちょっと評価高すぎるかな。俺、格好良くはないんだし」

 

 ユリシアの彼氏贔屓は嬉しいのだけど、やはり俺には似合わないな。ちょっとばかしむず痒い。

 

「ううん、リョウは格好いいよ。少なくともわたしはそう思ってる。わたしにとってリョウは何時までもヒーローだから♡」

 

 うっとりとした瞳でこちらを見上げてくるユリシアの姿に思わずくらりとさせられる。本当、ユリシアは俺の急所を的確に突いてくるぜ……。街中だというのに危うく押し倒してしまいそうになった。

 

 しかし、今は我慢だ。まだ朝早い時間だからか人気は少ないが、それでも決して0というわけではない。ユリシアの痴態を拝んで良いのは俺だけなのだ。他人には一切として見せてやるものか。

 

「あ、ありがとう、ユリシア。なんか……真正面からそう言われると照れるな、ははっ。っとと、話を戻すけど、最近持ってる服がきつく感じるようになってきたんだよ。だから服買おうかなって思ったんだ」

 

「そうなんだ、なるほどね。そっかぁ、リョウはまだまだ背伸びるんだ。いつかお父さんも抜かしちゃったりして。あー、でもなぁ、リョウがさらに大きくなっちゃうとキスとか大変だなぁ」

 

「確かに。ユリシアは……あんまり伸びなさそうだしな」

 

「むぅ、そんなはっきり言わなくても……。まぁ、別に伸びなくても良いんだけどね。今のわたしがリョウの理想体型なわけだし。でも……、せめて陰毛くらいは生えてほしいかなぁ……」

 

 あー、そういえばそんな話もあったなぁ……。今のユリシアの姿は、俺の深層心理が勇者の加護によってユリシアの身体に乗り移った結果……なんだったっけ。金髪碧眼ロリ巨乳狐娘が理想とか……俺もなかなか末期だよなぁ……。

 

 だが、正直なところユリシアならどんな姿でも受け入れられる気がするんだよなぁ。ユリシアがつるぺただろうが高身長グラマラスボディだろうが、相手がユリシアなら見た目とか関係なく愛せる自信がある。

 

 確かに、彼女と出会った当初は"可愛いなぁ"くらいの認識だった。はじめは見た目に引っ張られていたというのは否めない。だからそういう深層心理が働いたんだと思う。

 

 けど、彼女のことをもっと不覚知っていったのはもっと後の話だ。恐らく彼女の内面に惚れた後に加護を与えていたのなら、俺の深層心理はまた別のものになっていたように思う。

 

 つまりだ、今の俺はユリシアを見た目だけでなくちゃんと中身まで愛しているということだ。だからこそ、ユリシアがどんな姿であっても今みたいに全力で愛し抜ける、というわけである。

 

 って、熱く語りすぎたな。まぁ、それくらい俺のユリシアに対する愛情は強いってこった。

 

 さて……、それはともかくとして……

 

「ユ、ユリシア、公共の場であんましそういうこと言うなって……」

 

「あっ、ごめんごめん。えっと……、うん、回りに火とはいなかったみたいだね、良かった良かった」

 

 街中で陰毛発言をかましてくるユリシアさんはやはり流石としか言えないな……。毎度のことながら肝が冷えるぜ……。

 

 ユリシアがパイパンであるという事実を他の男に知られるわけにはいかない。もっとも、女子連中にはこの間薊美さんの家にお邪魔した時に露見してしまったみたいだが。まぁ、それは仕方ないだろう。女子相手にゃ嫉妬しないさ。

 

「ったく、そういう発言は二人きりの時だけにしてくれよな」

 

「うん、気を付けるね。それはそうと提案なんだけどさ、今日買う服をわたしに選ばせてほしいな」

 

「ユリシアが選んでくれるのか?」

 

「うん。この前メルシアの服買いに行った時に一緒に選んでくれたでしょ? ほら、この服だよ。そのお返しに、ね」

 

 ユリシアが指差したピンク色のワンピースはもちろん俺も覚えている。ユリシアに絶対似合うはず……と思って選んだやつだ。

 

 それを今ユリシアは来てくれているわけだが、俺の思った通り滅茶苦茶似合っている。やっぱりユリシアには可愛い系の服が似合うよな。俺の目に狂いはなかったみたいだ。

 

 あっ、ちなみにだけど、ユリシアが支度を終えて部屋から出てきたタイミングで既にべた褒めしているのでご安心くだされ。珍しく照れてもじもじするユリシアが見れて良かったぜ★ もちろん、ちゃんと素直な気持ちで褒めたつもりだ。

 

「お返しかぁ」

 

「それに……ね?」

 

「ね?……とは」

 

「えへへ、やっぱ内緒♪」

 

 最後の含みのある言葉は何だったのか……なんて若干もやっとしつつも、俺とユリシアは二人並んで駅前のショッピングモールを目指した。

 

 服をユリシアに選んでもらえるのは単純に楽しみだ。はてさて、どんな服を選んでくれるのだろうか。

 

    *

 

「おはよう、パパ」

 

「おう、おはよう、メルちゃん。調子はどう?」

 

「うん、元気だよ」

 

 朝目覚めてすぐ、あたしは身支度を整えてリビングに顔を出す。それから、コーヒーカップを片手にテレビを見ているパパに朝の挨拶をした。

 

 それにしても家の中が静かだ。恐らく、お姉ちゃんとお兄ちゃんはもう既に外へ出かけてしまったのだろう。

 

「お姉ちゃんたちはもう?」

 

「ああ、行ったよ」

 

「やっぱりね」

 

 まだ8時半だというのに随分と速いなぁ、あの二人。い、いや、これってただ単にあたしがお寝坊さんなだけなのかな?

 

 まぁ、それはそれとして……お姉ちゃんはちゃんとお兄ちゃんを外に連れ出してくれたみたいだね。そりゃお兄ちゃんはお姉ちゃんの彼氏さんなわけだし、お姉ちゃんの誘いを断ったりはしないって思ってたけどね。あの人、お姉ちゃんにはとことん甘々だし……。

 

 妹としてはあんなに甘やかされてデレンデレンになってるお姉ちゃんの姿を見ると何とも言えない複雑な気持ちになるのだけど……。もちろん、二人の邪魔をするつもりもないから特に何かを言うわけでもないんだけどさ。

 

 さてと、いろいろ横道にそれたけどここからが本題。今日、5月2日はお兄ちゃんこと霜崎涼さんのお誕生日だ。

 

 実は、今日のためにお姉ちゃんとわたし、それからパパの三人でお兄ちゃんの誕生日パーティーを開く計画を立てていた。

 

 って言っても、別に大々的に会を開くわけじゃないんだけどね。ただ、いつもよりちょっと豪勢なお料理を用意してお兄ちゃんを祝おうよって話になった。

 

 今日はその当日だ。お料理の準備とかケーキ作りをあたしとパパの二人で行うことになっている。

 

 んで、サプライズのためにお兄ちゃんにはお姉ちゃんとデートに行ってもらうことにしたというわけだ。家にいたらいろいろ準備してることがバレちゃうもんね。

 

 お姉ちゃん曰く、"リョウはこういうところには鋭いから、もしかしたら気づかれちゃうかもよ?"とのことだったけど……、あたしはそうは思っていない。だって、あの人すごい鈍感だし……。

 

「メルちゃん、10時くらいになったら始めようか」

 

 今日のことについて考えつつ寝起きでからからに乾いた喉を潤すべくキッチンまで移動しようとしたあたしに、パパがそう言いながら近づいてきた。どうやら、空になったカップを片付けに行こうとしていたらしい。

 

 10時から開始か。やっぱりケーキ作りともなると時間がかかるのだろうか。ケーキなんて作ったことがない……というかそもそもお料理の経験すらあんまりないあたしにはそこら辺の知識はない。もはやパパに頼る気満々である。

 

「分かった。でも、ケーキなんて作ったことないからちょっと不安」

 

「ははっ、大丈夫。やってみればそんな難しいもんじゃないから。二人で涼をあっと驚かせるようなケーキ作ろうぜ」

 

「ご、ご教授お願いしますっ」

 

 緊張気味のあたしにパパは苦笑を浮かべると、キッチン辛苦の前に立ってカップを洗い始めた。やはり料理人さんだけあってか、パパがキッチンに立つ姿は何と言うか様になっていて格好良い。

 

 せ、せめて足は引っ張らないように頑張らないと……。普段はお兄ちゃんのお料理のお手伝いをする程度のあたしだけど、パパが一緒ならきっと大丈夫。

 

「そういえば、メルちゃんは誕生日何時なの?」

 

「あたしの……誕生日?」

 

 唐突に投げかけられた質問にあたしは戸惑ってしまう。というのも、あたしやお姉ちゃんが元々暮らしていたヴィオレイウスには誕生日なんて概念はなかった。というか、日付ってものすらなかったはずだ。

 

 だから、パパの質問に答えるなら"知らない"だ。

 

 けど……、こっちでは誕生日があることが普通である。知らない……と応えるのは本来は正しいかもしれないがこの場では正しい回答ではないというわけだ。

 

 正直、どう答えれば良いのか分からない……。お兄ちゃんとお姉ちゃんには異世界の話は他言無用って言われてるしなぁ……。

 

 あたしは内心焦りつつ、以前アメイズ様から授かったこの世界での記憶を大急ぎで掘り起こしていく。

 

 で、でも、なかなか見つけることができない……。

 

「……そうか。いや、ごめんな、変なこと聞いちゃったな。今の質問は忘れてくれ」

 

 一向に応えないあたしの様子を見たパパが何かを察したようにそう謝ってきた。もしかしたら、あたしたちには両親がいないから……なんて風に勘繰ったのかもしれない。んー……、変に疑われなかったのは幸いだけど……、なんか嘘吐いたみたいで申し訳ない……。

 

「ううん、こっちこそごめんなさい……」

 

「メルちゃんが謝ることはないさ。さてと、この話はおしまいだ。俺は今から足りない材料の買い出しに行ってくるけど、メルちゃんも一緒に行く?」

 

 カップを棚に片付け終えたパパが少しばかり気まずくなった雰囲気を払うように明るい声でそうあたしに言ってきた。

 

 せっかく気を遣ってくれたんだ。あたしもこの雰囲気を引きずるのは嫌だし、ここはパパに倣うことにしよう。

 

「うん、じゃああたしもついてく」

 

「よし、決まりだな。それじゃあ外出る準備してきな」

 

「はぁい」

 

 そうしてあたしとパパは出かける支度を整えて近所のスーパーまで買い出しに行くこととなった。

 

 そういえば、お兄ちゃんと一緒にお買い物に行くのは何度かあったけど、パパと来るのは初めてだ。

 

 でも、やっぱりこの二人は親子だ。買う予定のもの以外には全く目もくれないところとか特に。

 

 お姉ちゃんとかあたしは毎回買い物に来るたびにいろんなところに目移りしてしまう。買う予定のないものまで買い物籠に入れようとしてお兄ちゃんに苦笑いされることもよくある。

 

 結局、今回も予定になかったお菓子を一つ買ってもらってしまった……。お、美味しそうだったのだから仕方ない……、うん。

 

「まぁ、これ美味しいもんな」

 

 そう言って苦笑しながらも買ってくれるパパは、やっぱり紛れもないお兄ちゃんの父親なのだろう。

 

 その後、あたしたちは会計を済ませてすぐに帰宅し、今晩のパーティーの準備に取り掛かった。

 

 うん……、ケーキ作りってホントに難しいんだね……。材料の量とか混ぜる手順とか……、結構繊細な作業が求められた。

 

 でも、普通に楽しかった。特にクリーム作りとかね。パパ曰く、掻き混ぜる工程は素人にはちょっときついかも……とのことだったけど、あたしには自慢ン¥……ってほどでもないけどそこそこのステータスがあったから楽々だった。パパに褒められちゃった、えへへ。

 

 そうして出来上がったケーキだが、お店や写真で見るのとほとんど変わらない見た眼だった。

 

「すごい! こんな綺麗にできるんだ!」

 

「うん、良い感じ。すごいじゃないか、メルちゃん。初めてでこんな上手に作れるんだもんな」

 

「えへへ。でも、パパが手伝ってくれたからだよ」

 

 なんて言いながら、あたしとパパは二人でハイタッチした。これを目にして驚くお兄ちゃんの姿を見るのが楽しみだ。

 

 それから、あたしたちは昼食と休憩を挟み、15時ごろから夕食の準備を始めた。メニューが盛りだくさんで、お兄ちゃんたちが帰ってくるまでに完成するか不安だったけど……、

 

「よし、これであとはビーフシチューを煮込むだけだな。時間も……うん、丁度良い。お疲れ様、メルちゃん」

 

 流石はパパと言うべきか……、2時間ちょっとでほとんど全ての工程を終わらせてしまった。

 

 あたしも手伝ったけど、やはりパパの手際の良さには到底敵わない……、そう思った。こ、これが本物の料理人……。

 

 というわけで、全ての準備が終わったあたしたちはお兄ちゃんたちの帰りを待つだけになったのだった。

 

    *

 

「ふぅ、良い買い物だったな」

 

「だねぇ。わたしも満足♪」

 

 ショッピングバッグ片手に帰路を歩きながら、俺とユリシアは二人して満足気な吐息を漏らした。

 

 サブカル関連以外の買い物で何処まで持つのかやや不安ではあったのだが、まさかここまで充実したものになるとは思わなかった。モールの時刻アナウンスがなかったら、恐らくもっと長居してしまっていただろう。

 

「でも、危なかったね。あのまま時間確認してなかったらお父さんたちのこと待たせちゃってたかも」

 

「かもな。せっかく夕飯作って待っててくれてるからな。あんまし遅くなると申し訳ない。本当、アナウンスがあって良かったな」

 

「そうだね。……っと、メッセが来た。誰からだろう……」

 

 徐に鞄からスマホを取り出し操作を始めるユリシア。どうやら誰かから連絡が届いたらしい。友人連中からだろうか?

 

 覗こうと思えばユリシアのスマホ画面を除くことはできる。俺とユリシアの身長差的に。……まぁ、そんなことしないけど。ユリシアを監視したいとか……そんな変な趣味は持ち合わせていないし。

 

 なんて考えながらしばらく黙ったまま歩いていると、連絡相手とのやり取りを追えたのかユリシアが手にしていたスマホを再び鞄の中へとしまった。

 

「ん、終わったのか」

 

「うん。お父さんからだった」

 

「父さんから?」

 

 意外な相手だった。多分、何時頃家に戻るか……とか、そんな感じの連絡だったのだろう。

 

 しかし、どうして俺じゃなくてユリシアに……? だいたいこういう連絡は俺に寄こしてくるのにな。

 

 もしかして、ちょっと前に急な仕事が入ったっていう連絡を俺がガン無視したから……だったりするのか? 俺よりユリシアの方が信用できる……ってか?

 

「あっ……、え、えっと……、あはは……」

 

 そう思ったのだが……、何故かユリシアが唐突に慌て始めた。なんで? 今のやり取りに何処かおかしな点でもあったのだろうか。よく分からん……。

 

 が、ユリシアの顔は明らかに"ヤベっ、失言しちゃった……"と物語っていた。もしかして、父親とのやり取りが俺にバレたらまずかったりするのか?

 

 そういえば、思い返してみれば今朝も父親とユリシアの間で何か奇妙な無言のやり取りが交わされていたような……。

 

「あ、あとどれくらいで帰るか聞かれただけだよぉ、あはははは……」

 

 恐らく嘘ではないだろう。へにょりと耳と尻尾を垂れさせる様子から何となく察することはできる。嘘を吐いているなら、多分ユリシアの場合尻尾が慌ただしく動いていることだろうからな。

 

 ふむ、俺でなくユリシアに帰る時間を尋ねる理由……か。

 

「そっか。というか、そんなに慌てなくて良いってば。別に変なこと疑ってるわけでもないんだし」

 

「そ、そうだよね、ごめんごめん」

 

 うん、何となくだけどこの後の展開が分かってしまった。昨晩、唐突にデートに誘われたこと、今朝の父親とユリシアのやり取り、そして今の失言……、恐らくすべてが繋がっている。

 

 そんでもって、今日5月2日は俺の誕生日だ、……つまりはそういうことだろうな。我ながら察しが良くて困る。

 

 でもまぁ、ここは気づかないフリをしておいた方が良いだろうな。この様子だと、ちょっと前から計画してくれていたっぽいし。

 

「連絡寄こすくらい待ちわびてるのかもな。ユリシア、ちょいと急ぎ目で帰ろうか」

 

「そ、そうだね、うん」

 

 若干顔を蒼くさせているユリシアを連れ、俺たちはやや速足で自宅を目指した。

 

 それから5分ほどで自宅前に到着した。……うん、玄関扉のすぐ向こう側に人の気配があるな。って、いかんいかん、無意識的に気配を探ってしまっていた。気づかないフリ、気づかないフリだ……。俺のすぐ後ろで鞄をがさごそ漁っているユリシアも俺は知らない、良いね?

 

 そう自分に言い聞かせ、俺は勢いよく扉を開いた。

 

「「誕生日おめでとう!!」」

 

「お、おめでとう、リョウ」

 

 パンっ……とクラッカーの弾ける音が前後から鳴り響く。それに続くようにして贈られる祝福の言葉たち……。

 

 予想通り、俺のためのサプライズパーティーを企画してくれていたみたいだ。んー、これどうしましょう……。

 

「おおぅ……、あ、ありがとう」

 

 とりあえず驚いておくことにした。演技で誤魔化すのはあまり褒められた行為じゃないかもしれないが、サプライズを無下にするよりかはマシだろう。

 

「……リョウ、演技でしょ、それ」

 

 が、ユリシアにあっさり見抜かれてしまった……。も、元はと言えばユリシアがポンをさらした所為なのだが……黙っておこう。

 

「えっ、そ、そうなの!?」

 

「そ、その……えっと……」

 

「さっきわたしが失言しちゃったもんね……、はぁ……」

 

 というか、そもそも自分の所為だと気づいていたようだ。

 

「お、お姉ちゃん……、もぅ……」

 

「うぅ、ごめん……」

 

 メルシアちゃんからジト目を向けられ縮こまるユリシア。うーむ、まずいな……、空気悪くしちゃったか……?

 

「あはは、まぁまぁ二人とも、サプライズはこれだけじゃないだろ? これから涼を驚かせてやれば良いんだよ」

 

「それもそうだね。じゃあ二人とも、お夕飯の準備できてるから手洗ってきてね」

 

 流石は我が父親、フォローが上手いな。もっとも、その発言を当人である俺の前ですべきではないだろうが……。まぁでも、雰囲気が一気に明るくなったわけだし、良いか。

 

「お、おう。なんか……ごめんな」

 

「お兄ちゃんは鈍感さんだと思ってたのになぁ」

 

「えっ……」

 

「あはは、冗談だよ」

 

 そう言ってリビングの中へと消えていくメルシアちゃん。……冗談めかしているけど、あれは多分メルシアちゃんの本音だろう。俺ってメルシアちゃんに鈍感だと思われていたのか……。なんと……!!

 

「父さんも……、なんかごめんな」

 

「良いってことよ。お前は昔っからそうだったからな。こっちとしては喜んでくれてるってことが分かればそれで良いんだ」

 

「分かるのか……? 喜んでるって」

 

「そりゃあな。お前の顔見てりゃ分かるよ」

 

 それだけ言い残し、父親はメルシアちゃんを追ってリビングの中へと入っていってしまった。

 

「……俺、そんな分かりやすいか?」

 

「うん。リョウ、今笑ってるよ」

 

 ユリシアに言われて自身の頬に手を触れさせてみると、確かに俺の口角は少し上につり上がっていた。

 

「口滑らせた時は冷や冷やしたけど……、喜んでくれてるなら良かったよ」

 

 安どの溜息を吐くユリシア。空気が読めていなかったことへの罪悪感の方が強い気でいたが、そうか……。俺、ちゃんと喜べていたんだ。

 

 でも確かに、何かこう……胸の奥底がくすぐったいような……そんな感覚はある気がする。

 

「ほらほら、手洗いに行こ。ごちそうが待ってるよ」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

 ユリシアに手を引かれて洗面所へと赴き、手洗いを済ませてから俺たちもリビングへと向かった。うーむ、まだちょっとばかし嬉しいという感情を実感できていない。

 

 そうしてリビングまでやってきた俺たちは、メルシアちゃんの案内でダイニングテーブルの席へと着く。そこには随分と豪勢な食事が並べられていた。

 

 そして、その中央には……

 

「おー、立派なケーキだね」

 

「だろ? 味も保証するぞ」

 

 ユリシアの言う通り、立派なケーキがそこにはあった。その中心に載せられたチョコプレートには"Happy Birthday!"の文字が連ねられていた。

 

 そこでようやく、俺の心の中に嬉しいという感情が溢れ出してくるのを感じた。誕生日……、アメイズ様から授かった記憶の中では毎年行われていたみたいだが、体感的には3年ぶりである。

 

「んじゃ、改めて……」

 

「「「誕生日おめでとう!!!」」」

 

 うぐっ、ヤバい……。ちょっと泣きそう……。けど、父親の前で泣くのは何だか恥ずかしい。

 

「ありがとう、三人とも」

 

 だから、寸でのところでぐっと堪え、俺は三人に向かって微笑みを浮かべた。……もしかしたら、ユリシアは俺が泣きそうになっていることに気づいてしまっているかもしれないな。

 

「実はね、このケーキあたしが作ったの! 初めてだったけど、パパに手伝ってもらいながら頑張ったんだぁ!」

 

「えっ、そうなの!? すごいな、初めてでこんな上手に作れたのか……。俺のためにありがとう、メルシアちゃん」

 

「えへへぇ。どう? びっくりした?」

 

「うん、めっちゃ驚いた」

 

 このケーキ、メルシアちゃんが作ったものだったとは……。先ほどサプライズはまだまだある的なこと言われてたけど、これは流石に予想外だ。

 

 メルシアちゃんが俺のためにケーキを作ってくれた。それだけで滅茶苦茶嬉しいサプライズだ。

 

「やったぁ! サプライズ大成功!」

 

「むぅ、ホントはわたしも作りたかったのになぁ……」

 

「お姉ちゃんが手伝ったら全部真っ黒になっちゃうでしょ」

 

「そ、そんなことないもんっ」

 

 サプライズが上手く行って喜ぶメルシアちゃんと、そんな妹の様子を見ながら拗ねたように頬を膨らませるユリシア。やっぱ、この二人がいると賑やかだな。

 

 良いな、こんな雰囲気の誕生日も。改めて三人には感謝しないと。

 

「ははっ、今度ユリちゃんにも教えてあげるよ」

 

「ホント!? お願いしますっ」

 

「えー、絶対無理だよぉ」

 

「そんなことないですぅ!! わたしだってやればできるんですぅ!!」

 

 自然と笑みがこぼれる。人間、やはり楽しいのが一番だよな。言い合いを続けるユリシアとメルシアちゃんも、俺の向かいで二人の様子を眺めている父親もみんな笑顔だった。

 

「っとと、そうだ。飯食う前に……涼、これを」

 

 言って、父親が机の下から紙袋を引っ張り出し、それを俺に手渡してきた。受け取ると、ずしりとした重みを感じる。

 

「えっと、これは……?」

 

「プレゼントだ、俺から……いや、俺と母さんからのな」

 

「えっ、か、母さん……?」

 

 母親から……とはどういうことだろうか? 生きていないはずの母親からのプレゼントと聞いて戸惑いを隠せない俺。

 

 そんな俺に対し、父親は話を続ける。

 

「そうだ。涼に大切な人ができたら譲ろうって、昔にな。ようやく渡すことができたよ」

 

「大切な人……」

 

 チラリと横へ視線をやると、丁度俺の顔を覗き込んできていたユリシアと視線が重なる。大切な人……、即ちユリシアのことだろう。

 

「その中に入ってるのは小説だ」

 

「小説?」

 

「ああ。それはな、学生の頃母さんが書いていた自作小説なんだ。俺と母さんの出会いのきっかけでもある」

 

 そうだったのか……。これまで母親がどんな人だったのかとかそういう話はあまり聞いてこなかったけど、なるほど……こういう趣味を持っていたのか。しかし……、何故これを俺に? 大切な人ができたら……とはどういうことだろうか。

 

「どうして、俺に大切な人ができたら渡すって決めてたんだ?」

 

「その小説な、途中までは母さん一人で掻いていたんだけど、俺と母さんが付き合いだしたころからは二人の思い出を物語として綴るようになったんだ」

 

「へ、へぇ」

 

 真面目な話なんだろうけど、冷静に考えると今父親はかなり恥ずかしいことを言っているような気がする。

 

「けど、それはまだ完成じゃない。完成させられなかった。だからな、お前たちにこの続きを託したい。俺たちが埋めきれなかった空白をお前たち二人の思い出で埋めてほしい。んで、こいつを完成させてほしいんだ」

 

「父さん……」

 

 俺を生んで力尽きてしまった母親の分まで幸せになって、この小説をあるべきゴールまで導く……。両親が俺に託した願い……か。

 

「プレゼントなのにこっちの願いを一方的に押しつけてしまって申し訳ない。けど、母さんの書く小説は面白いんだ。だから、続きを任せる任せないは別にしてもお前に一度読んでみてほしかった。受け取って……くれるか?」

 

 父親の真剣な瞳を真正面から受け止めながら、俺は躊躇うことなく首を縦に振ってみせた。

 

 父親と亡き母親がこれまで紡いできた思い出は息子からすれば確かに恥ずかしいものかもしれないが、それでもそこに二人の願いがこもっているのなら俺にとっては最高の贈り物である。

 

「ありがとう、父さん。大切にする。それと……、時間はかかるかもしれないけど頑張って続き書いてみるよ」

 

「良いのか?」

 

「もちろん。父さんと母さんの意思を無下にしたくないからな。それに、俺あんまり母さんのこと知らないから、これ読んで少しでも母さんの人柄を知れればいいなって思ってる」

 

「……そうか、ありがとう」

 

 俺の言葉を聞いた父親の表情には深い安堵の色が見えた。亡き母親が残した願いを自分の息子に受け継ぐことができた……その喜びをかみしめているのかもな。

 

「じゃあ、良い物語にできるようにこれからもっといっぱい思い出作らないとね」

 

「ははっ、そうだな。よっし、なんか気合入ってきた」

 

「おう、期待してるぜ」

 

 一瞬しんみりしかけたけど、ユリシアの声で雰囲気が元に戻る。せっかくの誕生日パーティーだ。センチメンタルはほどほどにして楽しまないとな。

 

「あっ、じゃあ次あたしから! はい、お兄ちゃん」

 

「えっ、メルシアちゃんもプレゼントを?」

 

「うん。でも、お兄ちゃんの欲しいものとかあんまり思いつかなかったから、そんな大したもの用意できなかったんだけど……」

 

「いやいや、俺のためにプレゼント用意してくれただけでもすごく嬉しいよ。開けても良い?」

 

 メルシアちゃんがこくんと頷くのを見た俺は、彼女から受け取った小袋の封を開ける。そして、中に入っていたものを確認する。

 

「これは……シャーペン?」

 

「そう。学生さんだし、こういうのはあって困らないかなって」

 

「良いね、格好いい。それに、なんか手によく馴染むな。大事に使わせてもらうよ。ありがとうな、メルシアちゃん」

 

 今使っているシャーペンは確か小学生の頃テキトーに買ったやつだったっけな。そろそろ買い替えたいと思っていたところだったので、このプレゼントはすごく嬉しい。

 

「良かったな、メルちゃん」

 

「うん! 気に入ってもらえて良かったぁ。ユウヒ……友達にも選ぶの手伝ってもらったから、今度お礼言わなきゃ」

 

 ご満悦の表情を浮かべるメルシアちゃんを見ているとこっちの頬も綻ぶ。

 

「良かったね、リョウ。それ、格好いいじゃん」

 

「だよな。これ使って勉強巣rの芽楽しみだよ」

 

「えへへ、ホントに嬉しそうだね。頬が緩みっぱなしだよ。そんなリョウに次はわたしからプレゼント♪」

 

 今度はユリシアから包を手渡される。マジか、こんなにプレゼントもらっちゃって良いのだろうか……。

 

「開けてみて」

 

「お、おう」

 

 言われるまま、俺はユリシアから受け取った包を開封する。そして、包の中に入っていたものを手に取ってみる。

 

「これ、財布……だよな」

 

「リョウが今使ってるやつ、結構よれよれでしょ? だから、新しいのが欲しいんじゃないかなって思ってね」

 

 確かにそうだ。俺が今使っている財布はかなりボロボロである。買い替えようかな……とは前々から思っていた。

 しかし、流石はユリシアだな。俺のいろいろなところをよく見ていらっしゃる。うん、滅茶苦茶嬉しい。

 

「ありがとな、ユリシア。大切にする」

 

「うん、超大事にしてよね」

 

「あはは、任せろ」

 

 マジで大切にしよう。三人からもらったプレゼント立を腕に抱えながら、俺は改めてそう誓った。

 

「よーし、それじゃあ飯にしよう」

 

「「「「いただきます」」」」

 

 そうして、父親の声を皮切りにささやかなパーティーが始まった。各々が思い思いにテーブルの上に用意された食事へと手を伸ばしながら、わいわいと他愛もない話で盛り上がる。

 

 父親とメルシアちゃんが用意してくれた食事はどれも滅茶苦茶美味いし、みんなで囲む食卓はとても賑やかで楽しい。うん、間違いなく今日は俺にとって最高の誕生日だな。

 

「三人とも、改めてありがとうな」

 

「息子の誕生日を祝うのは家族として……親として当たり前だろ? だから、そんな礼なんて要らねぇよ」

 

「……そっか。まぁ、それでも言わせてくれ。ありがとう」

 

 家族として当たり前……、確かにそうなのかもしれない。それでも今は俺の中の精いっぱいの感謝の気持ちを伝えたかった。

 

「ふっ、どういたしまして」

 

「なんか照れるね、あはは……。でも、喜んでくれたなら何よりだよ。ね、お姉ちゃん」

 

「うん、そうだね」

 

 こうして、俺の誕生日パーティーはあっという間に過ぎていったのだった。今日のことは幸せな思い出として一生残るだろう。

 

 もしかしたら、母から受け継いだこの小説の中に、一つのストーリーとしていつか記す日が来るかもしれないな。

 

 あ、そうだ、、メルシアちゃん力作のケーキの感想を忘れちゃいけない。正直、市販のものより何十倍も美味しかった。きっとメルシアちゃんが俺のために一生懸命作ってくれたから。あれだけ美味しかったのだろう。

 

「メルシアちゃん、これ最高だよ!」

 

「良かった、えへへ。頑張って作ったかいがあったよ」

 

「むぅ……、確かに美味しいけど……美味しいけどぉ……」

 

 メルシアちゃんをひたすら褒めちぎる俺の横で唇を尖らすユリシアの姿も印象的だった。

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