瑞樹さんの柔らかい胸の中で目が覚めた。
向かい合う体勢でおっぱいに顔が埋まっていたという事は、寝ている間に瑞樹さんの抱き枕にされていたみたいだ。
このマンションの側で体を動かせそうな場所は無いから、新居に引っ越すまでは朝のラジオ体操はお預けとなっている。一番近い場所が346本社だし、流石に歩道では出来ないから仕方が無い。
だから今は、この柔らかさを堪能しながら微睡もう……
二度寝を楓さんに起こされて朝食をとる。
ご飯に味噌汁、おかずは目玉焼きと昨晩の残りの肉じゃが。楓さんが一人で作ったらしいので、頑張ったね! と褒めておいた。
ご飯はタイマーで昨晩の内にセットしていたから、朝に作ったのは味噌汁と目玉焼きだけなんだけど、褒めてやる気を出して貰わないといけないからね。
みんなとは8時過ぎに本社で待ち合わせの約束なので、それに合わせてみんなで家を出た。
9月はまだ夏服だからブレザー無しで無地Tのみなので、学校に行くようには見えないよね。
本社前でみんなと合流したら、転校組の制服姿を写真に撮ってSNSへアップした。
せっかくだし、ついでにと寮生組の写真も撮ってアップだ。制服姿は4月にあげて以降は誰も上げていなかったから、丁度良いタイミングだろう。
俺のは衣替えでブレザーを着るようになってからだな。それに今あげると、俺が転校するのが学園の子たちに知れ渡ってしまうからね。
転校生ですと紹介されて驚かれるのが楽しみなんだよね。
ここから校舎に行くまでに見られてしまうかもしれないけど、それは仕方が無いという事で。
本社の敷地内を通って裏側から行くので、他の生徒は見かけない。大学はまだ夏休み中だしね。
大学の敷地内を抜けると高校と中学で別方向になるので、ここで高校組とはお別れだ。
「純君、騒ぎを起こさないようにね」
「遊びの子は増やしても良いですけど、花束に加えたらダメですからねぇ」
「純君は男なんだし、好きにやれば良いと思うよ!」
別れ際に3人から声を掛けられた。
騒ぐのは俺じゃなくて女の子たちの方なんだよねぇ。それに芸能人だらけの花束に一般人は大変そうだから、学校で増やすつもりは無いから安心して欲しい。……つまみ食いくらいはしちゃうかもだけど!
だって、強く来られたら断ら無さそうだからと、楓さんに薬を持たされてるんだよ?
中学校舎に着くと、アーニャと紗枝ちゃんとも別れる。二人は昇降口へ、俺たちは来客者用の玄関から中に入る。
入り口で事務員さんに挨拶すると今日も事務室に通された。どうやらこの後に担任の先生が来て、靴箱の場所と教室へ連れて行ってくれるらしい。
なんでも始業式の日は早めの朝会が行われているので、その間は生徒は入れないからだとか。
ソファーに座って待っていると短い予鈴が鳴り、同時にドアがノックされた。
事務員さんの応答で4人の女性が入ってくる、担任の先生方なのだろう。そして4人という事は、加蓮とは別のクラスと言う事だな。
奏が名前を呼ばれて先生の後について歩き出したけど、心配そうな顔をして俺の事を見なくても良いからね?
その後の卯月さんも加蓮も同じ反応をしていくけど、どんだけ信用無いんだよ!
そして残った20代に見える先生が俺に向かって口を開いた。
「えっと、笹埼純君ですね? 2年F組、あなたの担任となる千葉由美子です」
「笹埼純です。よろしくお願いします」
「はい。では靴箱と教室に案内するので付いて来てくださいね」
先生の後を付いて行き、来客者用の玄関で靴を回収して生徒用昇降口へ移動した。
靴箱はなんとダイヤル式だった、流石私立と言うべきか。
「はい、ここが笹埼君の靴箱になります。進級する時には番号は初期化するようにね」
先生は扉に俺の名字の名札を貼りつけた。
初期化って事はあれか0000だな。男の靴に悪戯なんかしないだろうし、そのままで良いや。されたとしても臭いを嗅がれるとかくらいだろうしな。
「転校して来る時に調べているとは思いますが、当学園は今まで男子の入学は有りませんでした。ですので、男子用トイレや更衣室は有りません」
教室に向かう途中、先生が俺を見て話しかけて来た。
「9月はまだ水泳の授業もありますし、来年には修学旅行もあります。現在だと特別扱いは出来ないのですけど、大丈夫ですか?」
体育の時の着替えはもちろんの事、修学旅行で同じお風呂になるって事だろ?
公衆浴場だって混浴なんだし、修学旅行で混浴しても問題無いよな。心配してくれているようだけど、むしろバッチコイだ!
「レッスンの時も同じ更衣室で着替えていますし、温泉に行けば混浴ですからね。クラスメートが淑女であってくれれば俺は気にしないですよ」
痴女でも大歓迎だけどね!
俺の言葉に先生は複雑な表情をしてお腹を押さえながら「そうですか……」と呟いた。
もしかして俺の心配ではなく、自分の胃を心配していたのだろうか。
「笹埼君は先生が呼ぶまでここで待っていてください」
教室の扉の前に着くと先生はそう言い残して中に入って行った。
隣の教室の扉の前には加蓮が居た、同じように待っているのだろう。加蓮がこちらを見たので手を振ると、向こうも振り返してくれた。
『あなた達、暑いのは判るけど、だらしが無いからブラウスのボタンは留めなさい』
『え~っ、何時もの事じゃん。式に行く時は留めるから見逃してよ~』
教室の中から聞こえる先生とクラスメートの言葉からすると、普段からブラウスが全開のようだ。
『はぁ、仕方がありません。先生は注意しましたからね! 始業式の前に転入生を紹介します』
教室がざわつく中、先生に中に入るように言われて教室のドアを開くと、時を止めたように教室が静まりかえった。
俺からも中が見えたが、一番近くの席に座っている子はブラウスが全開で胸を隠している薄桃色のブラが丸見えだった! そして、他の子たちも同じようにブラが見えまくりだ。もしかしてここが桃源郷……!?
後ろ手にドアを閉めると、その閉まった音で我に返ったのか時が動き出した。
「「「キャーーーーーッ!」」」
バァァァンッッ!!!!
教室に絶叫が響くと、すぐ後に鳴った大きな音がそれを止める事になった。
予想していたのか、すかさず先生が黒板を思いっきり叩いたのだった。
「静かに!!」
先生は黒板を叩いた手を振りながら、生徒たちに注意をした。
「自己紹介をして貰いますけど、邪魔はしないようにね」
先生の言葉に止まっていた足を動かして教卓の横まで移動して口を開く。
「笹埼純です。アイドル業もしているので、仕事の都合で休むこともあるとは思いますが、よろしくお願いします」
話して軽く頭を下げると、大きな拍手が送られて来た。
ライブよりは小さいのだろうけど、距離が近いせいかより大きく聞こえるんだ。
「それじゃあ、笹埼君の席は一番後ろの空いている所ね。休憩時間に質問等をしても良いですけど、節度を持つように。笹埼君がイヤになって学校に来なくなったら、中学部の生徒どころか、少なくても小6から高1までの生徒全員に恨まれてしまいますよ」
自分の席に向かうけど、先生の話は続く。
小6は来年、高1は再来年になるけど同じ校舎になるから、体育祭や文化祭なんかで会える可能性がある。それを潰されたら恨まれて当然だろう。
「3年進級時にクラス替えが無いから卒業までは同じクラスです。そうするとこの先のイベントも一緒にする事になります。勿論修学旅行もね」
先生の言葉に教室がまたもやざわつき、クラスメートたちがチラチラ俺の事を見てくるので、気が付いたら小さく手を振っておく。
そうか3年生もこのクラスのままなのか。加蓮とは離れたままになるし、藍子もきっと別のクラスになるんだろうな。
「で・す・の・で、興味を持ってもらう為のアピールは仕方ありませんが、やり過ぎないように。昼は清楚に夜は淫らに。淑女の基本ですからね」
それは淑女の頭に変態とか付きませんか? いや、楓さんや美波さんがそのタイプになるから、そうとも限らないのか。
そしてその言葉にブラウスのボタンを留め始めるクラスメートたち。別にそのままでも良いんですよ~?
「はい、始業式の時間ですので体育館に移動します。笹埼君は列の最後に並ぶようにね」
クラスメートの後ろについて体育館に着くと、全学年の生徒が揃っているようだった。
うちのクラスが空いていた場所に入って行き、1クラスが1列で計18列。
後ろ側からの入場で最後尾だからあまり見られてはいないが、それでも近くの列の後ろの子には気付かれる。
まあ、隣は加蓮と卯月さんだったけどね。同じ転入生で最後尾だしF組は最後だから横が3年生になり、この3人が並ぶ事になった。奏は少し離れていたけど、こっちに気付いているようだ。
「――ですので、皆さん2学期もしっかりと勉学に励むように」
ぼーっとしていたら校長先生の話も終わりのようだ。と思ったらまだ終わらなかった。
「最後に皆さんにお知らせがあります。本日より当学園初の男子生徒が登校しています。同年代の男子が近くに居るという事で気持ちが浮かれる事もあるでしょうが、美城学園の生徒として恥ずかしい行動はしないように。はい、辺りを見渡さない、列を乱さない! そう言う事ですよ。以上」
乱れかけた列を壇上から注意して校長先生の話が終わった。
校長先生は男子生徒が俺――アイドルのJunという事は言わなかったけど、数日で全校生徒に知れ渡るだろう。
この後のLHRでも先生方が注意してくれるだろうし、前の学校の時みたいに休み時間ごとに押し掛けられるような事は無いと思いたい。