中間試験と文化祭が終わって11月になった。
瑞樹さんと美優さんも新居に引っ越してきて、夜は賑やかになったし食事のバリエーションも増えた。
瑞樹さんは引っ越してきて早々に楽しそうに掃除をしていた。趣味が掃除と洗濯というだけの事はある。楓さんだけだと空き部屋まで掃除が行き届かなかったからね。
10月後半に発売された俺のCDの売り上げと夏フェスの円盤の売り上げ、ともに順調のようだと聞いている。円盤の売り上げはみんなの収入に大きく影響するから嬉しい事だ。
今月CDデビューの加蓮と奏のレコーディングは既に終わっている。各地のライブにも行っているから地方での知名度も上がっているし、売れると良いね。
2次オーディションが終わって部外者の減った土曜日の346カフェの店内で、菜々さんを膝の上に乗せながら紅茶を飲んでいる。
「あの~、純君。ずっと周りの視線が痛いんですけどぉ……」
「待ち人が来るまで虫除けにして良いって店長さんも言ってくれたし、諦めて?」
菜々さん成分不足だから、この機会に補充しておかないとね。
店長さんを見るとサムズアップしている。店長さんありがとう!
「ううっ、嬉しいやら恥ずかしいやら、菜々は複雑な気分です……」
これが楓さん加蓮なら、逆に周りに見せびらかすようにアピールするんだろうけどね。菜々さんや美波さん、美優さんあたりだとまだ無理か。そして、愛梨さんやアーニャだと周りの事は気にしなさそうだ。
「純く~ん、連れて来たよ~」
そうしていると店の入り口から愛梨さんの声が聞こえた。
その入り口の方に顔を向けると、愛梨さんが相葉夕美と腕組んで立っていたので手招きして呼び寄せる。
「来たみたいですので、菜々は仕事に戻りますっ!」
「じゃあ、あの二人にも紅茶をお願い」
ちょっと手の力が緩んだ隙に菜々さんが立ち上がってしまったので、二人の飲み物を注文して解放してあげた。
二人が近寄って来たので、椅子から立ち上がって迎える。
「今日は来てくれてありがとう、二人の紅茶も注文してあるから座ってね」
4人掛けのテーブルの向かいの奥側に夕美さんが座ると、愛梨さんは俺を奥に押して通路側に座ってしまった。
つまり正面に夕美さん、横に愛梨さんとなったわけだ。
「えっと、初めましてじゃないから、改めましてかな? 相葉夕美です、愛梨ちゃんとは高等部で同じクラス……なのは知ってるよね。よろしくお願いします。……で良いのかな?」
夕美さんは姿勢を正して所々疑問形になりながら、自己紹介をしてくれた。首を傾げる仕草も可愛い。
そして何をよろしくしてくれるのだろうか。俺としてはナニをよろしくして欲しいですけどね!
「十時愛梨、アイドルやってま~す」
「うん、知ってる」
何故か続けて愛梨さんも挨拶したけど、誰に向かって言っているのさ。
俺も夕美さんもそんな事は知ってるからね?
「知っていると思うけどJunって芸名でアイドルやってる、中等部2年の笹埼純です」
「うん、始業式の次の日は凄かったよ。あのJunが中等部に転入してきたって」
中等部と高等部は部活のつながりもあるし、噂が広まるのも早いよね。
陸上や体操といった個人競技や、一部の文科系は中高一緒に活動していたりするらしいし。
軽めの会話が終わった所で、注文していた二人の飲み物が届いた。
二人が一口飲んだのを確認して、会話を再開する。
「今日夕美さんに――夕美さんって呼んで良いかな? ――ありがとう。来て貰ったのは、簡単に言うとアイドルへの勧誘。とは言っても3次オーディションは受けてもらう事にはなると思うけど」
5月以降に増えたのがクールが四人にキュートとパッションが一人ずつ。そしてフレちゃんと志希にゃんのキュート二人が今回のオーディションに参加している。
もしかしたら他にも原作キャラがオーディションに参加しているかもしれないけど、現状貴重なパッション枠。しかも藍子と同じく、穏やかパッション系だ。しかもキャラが濃くない点も見逃せない。
スポーツ系やアウトドア系はともかく、エスパーとか忍者とかヒーローとか着ぐるみとか、濃いの多すぎだろ。
「う~ん。お眼鏡にかなったって言うのかな? それは嬉しいけど、私は普通の女の子だよ」
「楓さんみたいな特殊な人を除けば、みんな普通の女の子からのスタートだよ。愛梨さんだってアイドルのレッスン始めたのは今年の4月からだし」
「他のみんなは個性があったけど、私には何もなかったから大変だったんですよ~」
愛梨さんも十分個性的だと思うけどね。喋り方とか、マイペースで天然っぽいところとか。その証拠にバラエティー番組の仕事が増えているし。
「要はやる気があれば、後はレッスンでアイドルとして必要な事は身に付けていけるって事だね。歌うのが嫌いだったりするなら別だけど」
「ううん。歌うのは好きだよ。でも踊ったりした事は無いし、体を動かすのも体育くらいだから」
「夕美ちゃんは私より体育の成績良いからきっと大丈夫。そうだ、純君がご褒美上げれば夕美ちゃんもやる気になると思うなぁ」
「Junからのご褒美ですか?」
「御願いすれば、これくらいは何時でもしてくれるんですよ。えへへ」
愛梨さんは身を寄せてくると、俺の手を取って自分の胸に持って行った。
なるほど、女の子からすればこれは御褒美か。逆に考えてみると――
『頑張ったんだから褒美にチンポを触ってくれよ』
『ご、ご褒美だから、仕方なくなんだからねっ。……これで良いんでしょ』
『あぁ、気持ち良いよ。もっと、上下に動かしてくれ』
『こ、こうかしら……』
――って、なんでツンデレ調になってるんだよ!
「純君、気持ちいいよぉ♡」
おっと自然にボタンを外して指先をブラの中にまで入れてしまっていた。
夕美さんはというと、顔を赤くして愛梨さんの胸を見ていた。
「そ、その。そういう事、好きなのかな?」
チラッと俺の事を見ると、目を逸らしながら聞いて来た。目を合わせたままでは聞けなかったのかな。
普通に答えても面白くないよな。
右脚の靴を脱いで、足先で夕美さんの脚を撫で上げていく。
夕美さんはビクッとすると俺の顔を見て来た。
「どうだと思う?」
口ではそんな事を言いながら、夕美さんの膝の間に爪先を割り込ませていく。
それに合わせて夕美さんの膝が開いて、俺の足は太股の間を奥へと進んで行く。
奥の行き止まりに着くと、夕美さんは座る体制をわずかに変えた。
親指が柔らかい部分に食い込んだように感じる。
「この先も期待しちゃって良いのかな?」
「夕美さんが望むなら喜んで」
俺の言葉を聞いて覚悟を決めたように頷いた。
やった! と思った瞬間、頭に衝撃があった。
横を見ると菜々さんがトレイで俺の頭を叩いたのだと分かった。
「純君、ここは一般のお客さんも来るんですから、そういう事はしちゃダメですよ。週刊誌の記事にされたら愛梨ちゃんのアイドル生命が終わっちゃうかもしれないんですから」
確かに346カフェには一般人も来るからな。流石に服の中に手を入れるのはやり過ぎか。
『衝撃! 喫茶店で男性に胸を触らせるアイドルA.T!』なんて記事になったら大変だ。
菜々さんに注意してくれてありがとうとお礼を言って、夕美さんを連れて本社の中に入る。
受付でゲストカードを発行して貰って、アイドル事業部のある別棟に移動しながら施設の説明をすると驚いている。普通はエステやプールに浴場まであるとは思わないよね。
プロジェクトルームに着いたのでソファーに座って貰い、俺は叔母さんを呼びに行く。
叔母さんには前もってお願いしていたから、きっと大丈夫だと思う。
「その相葉夕美さんはアイドルとして売れると、純君は思っているのね?」
「うん、今いるみんなと同じくらいにはね」
ゲームじゃないから全員が何百万ってファンが付く事は無いだろうけど、原作キャラなら誰でもトップアイドルになれる可能性は有ると思うんだ。
「そう……ならこれを渡しておくわ」
叔母さんが俺に差し出したのは名刺?
そこには『346プロダクションアイドル事業部所属Jun』と書かれていた。
「裏面を見て頂戴」
言われてみた裏面には『346プロダクションアイドル事業部スカウト担当 笹埼純』と書かれている。
「えっと、これは?」
「純君が気に入った子を自由にスカウトしてきても良いって事ね。た・だ・し、3か月のレッスンの間で麗さんがダメだと判断した場合は契約打ち切り。デビュー者の割合が低い場合は中止ね」
自由にスカウトできるけど、3か月以内に麗さんに認められないとデビューできず、デビュー割合が低かったらそれ以降はスカウト禁止ね。
そもそもが原作キャラじゃないなら連れて来ないよな。もし知らない原作キャラが居たとしても、才能なんか見抜けないからスルーしてしまうだろう。顔が良い人が居ても遊びの関係で十分だから、アイドルに誘う必要もない。
うん、何の問題も無いね。
「でも良いの?」
「上からの命令。1回オーディションも結局純君が目をつけた子だけになっちゃったし、5月以降の子は全員純君絡みでしょ。それが役員会で話題に出たらしくてね、アイドル発掘もやらせてみれば良いんじゃないかって。勿論純君がやりたいならだけど、こうやって連れてきちゃったしねぇ……」
連れてきちゃいましたねぇ。
「ノルマは無いから、純君が見込みがありそうな子を見つけたら連れて来ればいいわ。報酬も無いけど、デビュー曲は確実に純君に作ってもらう事になるから、その売り上げが報酬替わりって事になるわね」
2回目以降のオーディション組の曲は担当せず、自分が連れて来た人のデビュー曲だけ提供すれば良いってことか。
前世の曲を知っているとはいえ、全員分のを提供していくのは大変だからそれで問題無いな。半年で遊んで暮らせるくらいに貯まってしまっているし。
「それじゃあ、待たせ過ぎても悪いから行きましょうか」
俺が頷くのを見た叔母さんは俺を促して、棚から書類を手に取ってきた。
一緒にプロジェクトルームに移動すると、愛梨さんと話して夕美さんが俺たちに気付いて立ち上がった。
「初めまして。346プロダクションアイドル事業部、部長代理の笹埼です」
「美城学園高等部1年、相葉夕美です」
「そんなに畏まらなくて良いわ。座って頂戴」
叔母さんは挨拶をすると、少し緊張が見える夕美さんに座るように勧めた。
向かい合うソファーに俺と叔母さんが並んで座り、向こう側は愛梨さんと夕美さんが座る。いや、愛梨さんはずっと座ったままだけどね。
「まず初めに確認させて欲しいのだけれど、本気でアイドルをやる気は有るのよね? 純君の事が目当てではなくて」
「はい。男の人に――アイドルのJunにここまで誘われて、やる気にならないなんて女が廃りますから。とは言っても、下心が0%って事もありませんけど」
夕美さんは真剣なまなざしで叔母さんの質問に答えると、最後に俺の事をチラッと見た。そして夕美さんの回答を聞いた叔母さんも俺の事を見て口を開いた。
「そうよね。純君に誘われてきて、下心が全くないなんて言われたら、逆に信じられないもの」
すると二人揃って笑みを零した。
それから叔母さんは書類を見せながら、契約内容の事等を説明していく。
だけど、その説明を一緒に聞いている愛梨さんが「へぇ~」とか「なるほど~」とか言っているのは何でさ。もしかして自分の契約の事覚えていなかったりするの?
「……3か月のレッスンで成果を見せないといけないんですね」
「別に全ての実力をつけろというわけでないの。仕事をさせても良い何かしらの一芸――歌、踊り、演技、所作・表情等。それからレッスンに取り組む姿勢であったり、その期間の成長力なんかも評価されると思うわ」
麗さんが文句なしに褒めるのって楓さんの歌と所作・一部の表情くらいだもんな。
俺の事も褒めてくれるけど、
「相葉さんは未成年だから、親御さんに説明をして許可を貰い、サインして貰ってきてね。出来れば早めに。今月中にレッスンを開始できれば、今やっているオーディション合格組が来る4月前にデビューできるでしょうから」
「あ、デビューできる前提なんだ」
言ってみたけど、俺はデビューできると信じている。
もしダメだった場合は、これからは原作キャラだからといって無条件で誘えなくなってしまうのか。
「純君に誘われて来た子なんですもの、アイドルになれたら色々御褒美期待しちゃうわよね。やる気があって、さらに目の前にニンジンがあるんですもの」
「あのっ、期待しても良いんですか?」
「そこは純君次第だけど、会社としてはきちんと避妊する事が条件ね。叔母として言わせて貰えば、純君が喜ばせる女の子が増えるのは誇らしいわ」
「純君、私頑張るね」
夕美さんは生唾を飲み込むと、俺に向かって宣言をした。