美少女にTSした僕と狐耳ロリババアのおしかけいちゃラブ生活 作:テモ氏
ベッドに腰掛け、改めてこの異常事態について冷静に考えてみる。
「――朝起きたら女の子になっていた、か……口にしてみるとマジで意味がわからないな……いや、二次元なら全然わかるんだけど……」
フィクションならすんなり飲み込めることでも、己の身に起きてみるとなかなか納得できないものらしい。それでも事実としてそうなってしまっているのだから、まずは現状を直視しなくては。ていうか、なんでこんなことになってるんだろうか。
原因としてまず浮かんだのは「何らかの奇病」というものだが、こんな病気なら症例が少なくてももっと話題になっているはずだ。そうなると、もしかしたら僕が発症第一号ということになるのか?
いや、そうだとしても発症原因がわからない。ウイルス性? 突然変異? もしそうなら、これはどこに連絡するべきだろう。救急車か、それとも保健所とかだろうか。しかし美少女になってしまった以外に体の不調があるわけでもないし、むしろ普段よりも調子が良いような気すらする。となるとやはり、病気ではないのだろうか?
そうなると次に浮かぶのは、超自然的な何かによって身体を変えられてしまったという可能性だ。つまり、霊とか魔法とかそういう系統のやつである。
……いやいや、だとしてもそもそも前兆となるような出来事がなんにもないじゃないか。
ああいうのは何らかの伏線があって起こるものと相場が決まっている。例えば女体化を司る地蔵とかに供え物をしたとか、鶴やら亀やらを助けたとか、女体化玉手箱を開けたとか、なんかそういう感じの。
それに呪いとかの類なら何日もかけて徐々に女の子になっていくような気がするし、こんな唐突に変わってしまうのはきっと何か別の原因だろう。
もしくは、人を女体化させて回っている妖怪がいるとか。
……いや、そんなの聞いたこともない。
「……じゃあ、やっぱりこれは……夢?」
最後にたどり着いた結論は、やはり夢オチである。
そう、夢ならなんでもありだし、何よりこの突拍子なさにも説明がつく。夢っていうのはいつも不条理で、前後のつながりもないものだろう。
ただ、夢にしてはやけに感覚がリアルすぎる。頬をつねってもちゃんと痛いし、意識は明瞭そのものなのだ。
それに何より、夢の場合「ありえない! これは夢なんじゃないか?」とすら思わないはずである。設定や展開の無理やりさに気づくのは大抵起きてからだ。「夢かも……?」とか「夢であってくれ……!」なんて思う場合はだいたい現実という場合が多い。
「はぁ……どうしよう」
考えても納得できる結論は出てこない。
言ってしまえば、朝起きたら外見と性別が変わっていた――というのが現在の僕の状況である。
身分証のたぐいは使えないだろうし、家族にも僕だと信じてもらえる自信はない。考えれば考えるほど八方塞がりだと言える。
現状で唯一の救いは、僕が会社勤めではないということだ。
そう、僕は――ちょっと自嘲的かつ屈折した誇りに従って名乗れば売文の徒。シンプルに言うなら物書きだ。カテゴリーで言えば、自由業者ともいう。
まあ、つまりは人より引きこもっていてもそれなりに仕事ができる業態だということ。
こういう仕事で本当に助かったと感じたのは、大雪と台風以外では初めてのことだった。
だって、この状態で出社しなければならないとなれば、それこそハードモード――いや、エクストリームとかインフェルノとかそういうレベルだろう。声もこんなんだから、休みの電話を入れるのにも居もしない彼女かなんかのフリをしないといけないはずだ。
まあ、少なくとも締め切りまではまだ余裕があるし、編集さんと顔を合わせることも当分ない。大体、昨今はメールでのやりとりがほとんどである。なので、しばらくは考える暇もありそうだ。家賃も公共料金も口座引き落としだし。
僕はとりあえず深くため息を付いて、首を横に振った。
「全く……何が起こったんだ……」
「女体化の術じゃな」
僕の呟きに答えたのは、隣に座る狐耳の少女だった。
……隣?
「うわあああ!?」
「これこれ、あまり大声を出しては隣近所に迷惑じゃぞ」
思わず飛び退いた僕に、ベッドに腰掛けたままの少女は諭すように言った。
少女はさも当たり前のような顔で金色の狐耳を揺らしているが、もちろん僕に心当たりなどはない。
一体いつの間に……? ていうか、狐耳……?
「角部屋だし隣いま空き部屋だからそのへんは大丈夫……ってそうじゃなくて! 誰だ君は!?」
「おお、そうじゃ。まずは名乗らなくてはな」
動転したままの僕をよそに、少女は反動をつけてベッドから立ち上がる。
そこで、僕は初めてその姿を直視し、思わず息を呑んだ。
……かわいい。
年の頃は10代前半、つまり今の僕の外見年齢よりは少し下に見えるが、隙なく纏った黒い着物のせいか、不思議と幼さは感じない。
落ち着いた装いとは対照的な黄金色の長髪もまた、少女の印象を捉え難くしていた。
しかし何より目を引くのは、頭頂部からぴょこんと生える一対の獣耳だ。呼吸に合わせて微かに動くそれは、作り物と断じるには生々しすぎた。腰のあたりで揺らめいている見事な毛並みの尻尾も同様である。
少女は切り揃えた前髪の下から釣り気味の黒瞳を光らせ、もったいぶるように口を開いた。
「わしはコガネミヤノツヅラと申す、あやかしの者じゃ。気軽につづらと呼んでくれ、虎彦どの――いや。岩田てとら、先生?」
出し抜けに本名とペンネームを続けて呼ばれ、僕は重ねて驚かされる。
眼の前の少女――つづらがなぜ僕の名前を知っているのか皆目見当もつかないが、それ以上に問うべきことは山ほどある。
「な、な、なんで僕の名前を……? っていうかど、どこから入ってきたんだ!? 何者だ? 何が狙い……いや、その前に君、僕の身体に起こったことが何なのかわかるのか!? いっ、いったいどうなって……」
「まあそう
堰を切ったように次から次へと疑問をぶつける僕を制すと、つづらは2つの獣耳を指で示した。
「まず、さっきも言ったようにわしはあやかしの者――まあつまり、平たく言えば妖怪じゃ。それゆえ忍び込むことなど容易いのよ」
「よ、妖怪……? マジで……?」
「おお、マジじゃとも。でなければこの状況、説明がつくわけがなかろうが」
呆然と繰り返した僕に、つづらは大きく頷く。
冷静に考えれば何の答えにもなっていない気もするが、自信満々に言っているせいか妙に説得力があるのも確かだ。
もちろん昨日までの僕なら、妖怪の存在などよくて半信半疑だっただろう。だが、なにせ「朝起きたら女体化している」なんて不条理の極地のような状況を味わっているのだ。妖怪の一人や二人いても、今更おかしくはないように思える。
しかし、そうなると僕をこの状態にした第一容疑者はつづらということになる。であれば、目的は一体何なのだろうか――混乱するばかりで何も言えないままの僕をよそに、つづらは続ける。
「そして、なぜわしがここに来たのか……これが一番重要なことじゃが、わしは――」
そこまで言って、つづらは躊躇うように言いよどんだ。
視線を外すその頬は、うっすらと赤くなっているように見える。
「わ……わ、わしは、お主のふぁ、「ふぁん」なのじゃ」