美少女にTSした僕と狐耳ロリババアのおしかけいちゃラブ生活 作:テモ氏
「ファ……ファン?」
僕は耳を疑った。
僕のファン……? それも妖怪の……!?
いや落ち着け。僕はそもそもあんまり売れてもいないぎりぎり食えてる弱小作家だぞ。都道府県別に読者を集計したとしても穴があっておかしくないレベルだし、重版からも縁遠い現状が何よりの証拠だ。
そんな僕にまさか妖怪の、それも美少女の読者なんているわけがないだろう。日本の妖怪の総数はわからないが、そんなのある意味普通に売れるよりも難しいことなんじゃないか。
「あ、あの、一応確認しておきたいんだけど、ファンっていうと……その、つまり、僕の作品が好き……ってこと?」
あまりにも自信がないので改めて問うと、つづらは鼻息荒く捲し立て始める。
「そうじゃ! ふぁんもふぁん、大ふぁんと言ってもよいぐらいじゃぞ! でびゅー以来お主――てとら先生の本は十五冊全部読んでおるし、最新刊も店舗特典まで全部集めておるし、もちろん観賞用、保存用、布教用の三部は必ず手にしておる! 一言一句違わず覚えるぐらい読み返しまくっておるし、最近など、お主がでびゅー前にいんたーねっとに上げた作品も頑張って探して貪るように読んだくらいじゃぞ!」
「えっ」
くすぐったくなるような内容の早口の端に、不穏な単語がちらりと覗いた。
デビュー前にネットに上げた作品といえば、「岩田てとら」として投稿した公募落ちぐらいだ。しかしそれは著者名で検索すればすぐに引っかかるものだし「頑張って探す」ようなものではない。
となれば、あるいはそれ以前――別のペンネームで中二病全開の黒歴史を量産していた時代の作品のことを指しているのではないだろうか。
いやいやまさか、ペンネームも投稿サイトも違うのにまさか気づかれることは――
「『宿命の黒騎士シュヴァルツタイガー』」
「え」
やばい。こいつ本物だ。
「これが処女作であっとるかのう? まさかてとら先生がくろすおーばー二次創作のおりじなる主人公改変ものを書いておるとは思わなかったぞ。確か、当時のぺんねーむはずばり主人公と同じ「シュヴァルツタイガー」じゃったな! それも感想への返信までシュヴァルツタイガーとして書く徹底ぶり、処女作の時点で既に「作者が登場人物である」という「めた的」な構成に手を出すとはさすがの一言よ。しかしじゃな先生、一体いつになったらあの続きを――」
「やっ、やめてくれええ!! 人の黒歴史を掘り返すのは!! っていうかなんでそれが朝起きたら女の子になってることと関係してるんだよ!」
思いもよらぬ方向からの攻撃で完全に殴り倒された僕は、半ば悲鳴のような声で訴える。
つづらはぴょこぴょこと耳を動かしつつ、不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ……結論から言うとじゃな、これはわしからの贈り物じゃ」
「贈り物……?」
つづらはうむ、と頷く。
「ついったーで見たぞ。おぬし、大体三日おきぐらいに「美少女になりたい」とか「美少女になってけもみみ美少女と暮らしたい」とか「かわいい女の子になってかわいい女の子たちと爛れた生活がしたい」とか言ってたじゃろう」
「確かに言ってた! 言ってたけども! 最近の妖怪はツイッターもやってんのか!?」
つづらの言う通り、僕は大体それぐらいのスパンでそういう呟きをしている。仕事に疲れると、どうも無意識にやってしまうらしい。しかしそのためにVR機器を買おうとしていたのも事実だし、3Dモデルを作るためのフリーソフトをダウンロードしたばかりでもあった。いわゆるバーチャル美少女受肉ってやつをするためである。
まさか、そうなる前に実際に美少女になってしまうとは……。
ていうか、僕の少なめのフォロワーの中に妖怪がいたというのにも今更ながらに驚きだ。いや、シュヴァルツタイガーを知ってる時点でフォローしててもおかしくないんだけど。ていうか妖怪に黒歴史知られてるってどういうことだよ。
「だからこうして、手土産代わりに妖の力でちょちょいのちょいと望みを叶えてやったというわけじゃ」
「ちょちょいのちょいって……そんな楽にできるものなの?」
僕が聞くと、つづらは腰に手を当てて威張るように平坦な胸を反らした。
「そりゃもう、二千年近く引きこもってこつこつ溜めに溜めた魔力じゃからな!」
「にっ、二千年……!?」
「あっ、いや、今のナシ! ナシじゃ! 引きこもってないし! 全然よ、ようきゃ……? じゃし!」
予想以上の数字に驚いて、僕は思わず鸚鵡返ししてしまった。見かけによらない長命さは、さすが妖怪と言ったところだろうか。
しかしつづらは別のところを気にしているらしく、わけのわからないことを口走って弁解している。陽キャと言いたいのだろうが、もしくは妖怪だから妖キャだろうか……?
「とにかくじゃ! おぬしの願いどおりちゃんと美少女にしてやったぞ! すごかろう! どうじゃ? どうじゃ? 感謝の言葉もないじゃろう? 思わず惚れてしまうじゃろう?」
「い、いや、まだなんとも実感が無いと言うかなんというか、いきなりいろいろ起こりすぎて整理できてないっていうか……」
「ななな、なんじゃと!?」
僕の返答が予想外だったのか、つづらは大げさなほどたじろいだ。
しかし実際、状況が不明すぎる上に唐突すぎる。もちろん、美少女になれたのは嬉しくないと言えば嘘になるが、ていうかめちゃめちゃ嬉しいことではあるのだが、いかんせん心の準備もできていないのだ。突然結果だけを提示されても、実感が伴わないのは当然だろう。
しかも、目の前には狐耳の不法侵入者である。冷静に考えてみれば、これはかなり危険なことじゃないか?
見た目こそかわいいので騙されそうになるが、例えばこれが筋骨隆々の成人男性だったとしたらおそらく速攻で警察を呼んでいる案件だ。
「とりあえず、一回お茶でも飲みながらゆっくり話を――」
「ええい、こうなれば仕方ない……身体でわからせてやろう!」
「うわああ!?」
物騒な言葉とともに、つづらは突然飛びかかってきた。