※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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運命の夜――破

――秋津市西部・繁華街エリア――

 異国人セレスティーナ・アルブレヒトを囲む壬生浪士隊は、いよいよ自分たちが帝の意向を果たすことができることに歓喜していた。

 

召喚されてからはや2週間が経過しようとしているこの頃、既に秋津市の地理は理解し、この時代の風俗を感じ、そしてやはり自分たちがこの時代とは相いれないことを痛感した。

 

 繁華街を我がもの顔で練り歩いている異国の民たち、それを不思議にも思わないこの国の民たち、中華や朝鮮の民たちであればわかろう。あれは万世一系たる帝が朝廷出立の折より共に歩まれた民族である以上、ケガレを内包するはずも無し。神たる帝が共にあることをお認めになられたのだ。何故、そこにケガレがあると考えるのか。

 

 しかし、他の蛮族たちは違う、畏れ多くも万世一系にして八百万の神々がおわせられるこの神国を異教の神の教えによって蹂躙しようとしている南蛮ども、邪教の教えを広めんとする者たちを、黒船なるものを使ってこの神国に門戸を開かせようとする者たちをケガレと言わずになんというのか。

 

 故に許せないのだ。帝と共に立ち上がった草莽の志士たちは歴史の流れの中でそのケガレ人たちと内通した愚かなる薩摩と長州の一派閥を中心とした売国奴によって駆逐された。

 

 帝も命を失われた。紛れもなくソレは売国奴どもの暗殺に違いない。ああ、なんと惨たらしいことか。国家の未来を本気で憂いた帝は命を落とし、神たる帝を殺めた愚か者どもの手引きによって異国のケガレ人たちはこの地へと踏み込んだ。

 

「正さねばならぬだろう。我ら草莽の志士、再び奮起し、此度こそは帝の威光をこのあまねく日ノ本に知らしめるのだ!!」

 

 清河と呼ばれた男にこの場を託された芹沢という男が咆哮を上げると同時に一斉にボクたちを囲んでいる剣士たちが押し寄せてくる。

 その行動目的は言うまでもなく、異国人であるボクを殺すと言うことになるんだってのはもう聞かずともわかる。

 

(けれど、こいつら、何処の陣営だ!? こんな襲撃の仕方、普通に考えればアサシンだけど、それはボクたちだ。なら、アサシンの言う通りに軍勢を操ることができる指揮官が召喚される可能性が高いライダー、あるいは直接戦闘が不得手のキャスター……)

 

 あるいは、この明らかに常軌を逸した思想にかぶれている姿はバーサーカーか、彼らは明らかに聖杯戦争という枠組みの中で戦いを仕掛けているわけではなく、ボクが外国人であるから襲い掛かったとしか思えない。

 

(ボクがマスターであるから襲撃を掛けたわけじゃないとすれば、突発的な行動だ。ボクたちの情報が洩れていないと考えるべきだが、クソッ、あの逃がした二人が問題だ)

 

 ここで全員を倒してしまえば自分たちの存在を隠匿することができるかとセレスは考えるが、そもそも桜子の方に向かった二人がいる。ノルンがいかにアインツベルンが生み出した戦闘も可能なホムンクルスであったとしても、あのサーヴァント二体を相手に出来るとは限らない。

 

どうする、何が自分たちにとっての最善なのか……それを思考するセレスの耳元に、

 

「そう難しく考えようとするな、主よ。何、まずはこの場の全員、生かして帰さねば良いだけであろう」

 

 襲撃を掛けてきた剣士たちの中で最も早くボクらへと飛び込んできた男たちの剣が宙を浮き、同時に彼らの脳天が後頭部から地面へと叩き付けられる。優に三人、本気の殺意を向きだしにしてきた男たちを相手にボクの後ろに立つ人物は、その立っていた場所から半歩動いただけにもかかわらず、その成果を実現して見せた。

 

「どうした? まさか彼らの腕試しを見守りに来たわけではあるまい?」

 

 手をクイクイと自分の方へと向けて、アサシンは他の剣士たちが自分の下へと来るように挑発する。

 

「舐めた態度をやれぇぇ!」

「斬り殺してやるわ!!」

 

 アサシンの言葉に最初の三人を一瞬で倒されたことで、動揺が生まれた剣士集団が一斉にこちらへと飛び込んでくる。流石にこの数を1人で相手をするなど出来るのかと思わず背筋に冷たいものが走るのだけれど、ボクの耳に聞こえてくる声は、普段と何ら変わりのない声でしかなく、

 

「主よ、そこから一歩も動くな。その場所だけは死守する」

 

 告げた言葉が早かったか、まずボクの目の前に飛び込んできた剣士の顔面に跳躍したアサシンの蹴りが入り、その蹴りを叩きつけた顔面を足場としてすぐさま横合いの剣士の目の前に着地し、眉間へと拳を一撃、相手が昏倒するのを待っていられるかとばかりに姿を消し、ボクが背後を振り向けば、既に襲い掛かろうとしている剣士の側頭部に蹴りを入れて、瞬く間に再び三人を無力化する。

 

 そこからはさながら流れ作業だ。一歩も動かないボクの立つ場所に飛び込んでくる相手を秒の感覚で判別し、1人を必ず一撃で昏倒させる。

 

「何故だッ、我ら壬生浪士隊、陛下の下賜によりこの地へと顕現した一騎当千、それが何ゆえ、一撃で倒れる。このような不条理があり得るか」

 

「不条理なモノか、人体など適切な場所に適切な打撃を与えれば、昏倒するは道理。気合や根性などの類でそれをねじ伏せようとする者がいるかもしれんが、それは相手の技量が行き届いていないか、外傷による絶命を狙っている場合だけだ。内家の拳とはすべからく、一撃を以て相手を征するものよ」

 

 腰を大きく落し、まるで笑っているかのようなその呼吸法は、中国武術に言う所の供家拳――片腕を掲げ、片腕を下ろしながら、腰の重心を大きく落したその戦闘方法は、ボクたちが想定する中国武術のステレオタイプであると言ってもいいだろう。

 

 そのステレオタイプを世界中に広めた人物こそが、ボクを守りながら、多勢に無勢の状況を諸共せずに、次々と剣士たちを打ち倒していく人物だ。

 世界に置いて最も名が知れた中国武術家、世界で最も好まれた中国武術家。それこそが、黄飛鴻――僕が召喚した、まるで銀幕の中からそのまま姿を見せたかのような英雄の姿に他ならなかった。

 

「さて、残るはお主だけだな。どうする……? 他の二人を連れて来るか?」

「……壬生浪士隊が一人、芹沢鴨。そのような武士の恥を晒すと思うたか! 舐めてくれるな毛唐よ!!」

 

 アサシンよりも巨大な体躯、その体躯からの身のこなしとは思えないほどの動きで、これまでの剣士たちよりも殺気と圧殺するような戦意を以て、この場のまとめ役であろう剣士が飛び込んでくる。

 

「ふむ、してな、お主は無影脚を知っておるか?」

「――――――ッ」

 

 その瞬間に起こったことは、ボクも良くは解らなかった。ただ、アサシンが言葉を口にし、ボクが瞬きをした瞬間にはすべてが終わっていた。脳天を蹴りの一撃で討ち抜かれ、血を流しながら倒れる芹沢という剣士の姿を見ただけだった。

 

「感想を聞くまでもなく命脈を断ってしまったか。サーヴァントとして呼び出された者たちであればこそ、我が奥義にも耐えうるかと思ったが……紛い物であったか?」

 

 ポツリとアサシンは呟く。どうやらこの場での戦いに何らかの不満があるらしい。ボクからすれば、迎撃者を全て倒すことが出来た百点満点の回答のように思うんだけど……、やっぱり戦闘の素人と戦闘を生業にしている人物だと考えることも違うんだろうか……

 

「さて、早々にこの場を離れるぞ、主よ。ノルンの回収もせねばなるまい」

「……うん、そっちの方が問題だ。サクラコも無事ならいいけれど……!」

 

「あの二人、特に後ろに控えていて、ノルンを最初に追撃した女は手練れだ。儂でも手を煩わせられるだろう」

「そんなに……?」

「うむ、急いだ方が良かろう」

 

 アサシンに担がれる形で、夜の街を駆ける。今、願うことはただ二人の無事を祈ることだけだった。

 

――秋津市東側・住宅街エリア――

 壬生浪士組が元締め、清河八郎は目の前で起こった出来事に対して、これより行うべき行動を決めあぐねていた。異国人討伐から流れ込んだ現在の戦闘は本来、芹沢側に任せた異国人討伐が主であったはずだ。日本人である彼女を狙ったのは、あくまでも何かのキナ臭さを感じたからに他ならない。

 

 その結果として得たのが、サーヴァントの召喚、すなわち、七星桜子という少女がマスターであったと言う事実なのだが、さて、問題はそこからである。

 

(我らはそれぞれが帝より独自の行動自由権を与えられている。我らが斬るべきであると判断したのなら、市井の民を斬る自由を含めてだ。さて、その上でだ、目の前のサーヴァントを含めたこの狼藉者たちを斬りおとすべきか……)

 

 清河は決して異国人をただ斬りおとすだけで帝の威光が世に知らしめられると思っているわけではない。己たちは帝より呼びこまれた兵士であれども、一騎当千の七騎のサーヴァントには劣る存在である。剣技よりも弁舌こそが本領である己であれば尚更だろう。

 

 ここで帝の為にと己の命を削り、サーヴァントの首を狙うが吉か、あるいは態勢を立て直して、この掴んだ情報を帝に捧げるか、さて、真の報国とはどちらであるのかと答えを出せずにいたことは決して嘘ではない。

 

 ただ、その思考の時間を待っていられるほど、横の剣士は思慮深く序強を見ているわけではなかった。

 

「清河さん、斬りますよ。あれは此処に残しておいてはならない。攘夷を完遂しなければ」

「待て、沖田。逸るな」

 

「何を悠長な。あれはれっきとした異国人です。攘夷の対象です。ましてや、これほどの圧を我々にかけてくるのです。此処で斬らなければ、必ずや帝にとっての毒となる。それを見逃すわけにはいきません――――ッ」

 

 清河の静止の言葉など一切関係ないとばかりに、桜色の少女は一歩地を蹴りだすと、桜子やノルンが知覚する間もなく、ランサーの目の前へと出現し、その首を斬り飛ばすために刃を振う。

 

「召喚されて間もなくであるため、まだ状況を完璧に理解したとは言い難いですが、少なくとも貴殿らが私と我がマスターの敵であることは理解しました。ならば、この一戦、我が新たなる主にこの身の武威を理解してもらうための一助としよう」

 

「まさか。貴女は次があると思っているのか?」

 

「ええ、何せ、戦で負けたことなど数えるほどもありませんから」

 

 振るわれた神速の刀を受け止めたのは、円錐上の形状をした俗に欧州で使われたランスと呼ばれる武装である。振るわれた刀の軌道を正確になぞるようにして受け止めたランスは刀の進撃を許すことなく、神速の一閃を微動だにすることなく受け止めて見せる。

 

 ただ、そこで目を見張ることが一つあった。それはそのランスの大きさである。円錐上の形状をしていることから、ランスは基本的に切り裂く物ではなく刺突することを目的として作成されている。

 

そのため、穂先の形状は自由自在に動かすための柔軟さを捨てる代わりに大きさを求めるフォルムで生み出されることがしばしばだが、ランサーの握っているそれは、握っているランサーの身の丈の優に二倍はあるのではないかという大きさを誇っている。

 

「驚きましたね。それほどの長物を振っておきながら、こちらの一閃に正確に合わせて来るとは。思っている以上の長物遣いのようだ」

 

 言葉を口にしながらも、少女はすぐさま、目の前を離れ、横合いから、そして背後から、必ず首を斬ると言う意志をあらわにしてランサーへと斬りかかる。

 

しかし、ランサーは両の足を動かし、身体の自由を奪われる事無く、その巨大なランスを振い、沖田をまるで飛び込んでくるカトンボを跳ね飛ばすかのように豪快に弾き飛ばし、一撃弾かれるたびに、桜色の少女の身体が宙を舞うが、受け身を取るまでもなく、空中では回転し、住宅地の壁や屋根を足場代わりに使う要領で、再びランサーへと迫ってくる。

 

 さながら、それは性質の悪いピンボールのようだ。何度何度弾かれたとしても、砕けることなく戻ってくる。

ランサーが総てを受け止めているとすれば、彼女は総てを逸らしている。決して直撃を受けることなく、決して速度を緩めることなく、己の領域である速さの世界の中で、ランサーがしくじる時を待っているのか、単調でありながら、一瞬たりとも気の抜くことができない世界の中で両者は戦い続けていた。

 

「ふと、疑問なのですが、それ使いづらくないですか? そんな身の丈を超えるほどの武器、私であれば即刻役立たずとして捨てますけれどね」

 

「このランスは武器であると同時に私の誇りでもある。使いづらさと言われれば委細承知しています。それでも、これを振いつづけることこそが私という英霊の在り方です。心配は無用ですよ、言ったでしょう。戦で負けたことなどほとんどないのだと」

 

「奇遇ですね、私も同じですよ」

 

 互角だ、力と武装の頑丈さで押しきろうとしているランサーと、速度とその身のこなしでランサーのしくじりを生み出そうとする桜色の少女、そのどちらもが異次元の戦いを展開しており、桜子は思わず言葉を奪われる。

 

「何なの、これ……」

 

 目の前で行われている戦いは、今日此処までに起きてきた無数の出来事をなおも超える桜子にとって衝撃的な出来事だった。

まさしくテレビの中に出てくるヒーロー同士の激突をそのままこの場で表現したかのような光景であり、自分が生きてきたこれまでの世界と地続きであることが信じられなかった。

 

「聖杯戦争、七つのサーヴァントと七人の魔術師の争い。ミス・サクラコ。あなたはその一人に選ばれたのです」

「選ばれたって、あたし、魔術師とかそんなんじゃないよ!?」

「ええ、正規の召喚手順を踏んだとは思えません。しかし、貴女は確かに召喚の口上を口にしました。故に今があるのです。金色の騎士、己をランサーと名乗った彼女は、紛れもなく貴女のサーヴァントです」

 

 そう、あたしはさっき無我夢中でその言葉を口にしていた。自分がどうして、そんな言葉を口にしていたのかもわからないけれど、口に出来ていた。遠い記憶の底で言葉を覚えていた……? わからない、どうしてなんだろう。

 

「ですが、ミス・サクラコ。今は自分の中の考察をしている場合ではありません。貴女もマスターであるのなら―――」

「そう、余所見などしている場合ではありませんよ。私達にとって、そのような人物を相手にする時が最も楽なのですから」

「―――――ッ」

 

 一瞬、自分の目の前で何が起こっているのかを理解できなかった。さっきまでランサーと戦闘をしていたはずの桜髪の少女の軌道が変わり、その姿がさっきよりも視界に克明に映る。いや、そうじゃなくて私の目の前に飛来し、

 

「その命、頂戴します」

 

 目の前に忽然と現れた彼女の刃に反応することもできずに、斬られるのだろうとまるで他人事のように思えてしまった瞬間、ランサーのランスが彼女の背中目掛けて放たれ、その勢いのままに生まれた暴風が私の身体に叩き付けられる。

 

 しかし、桜色の少女だけはバック宙をするように一撃を回避して見せて、逆に身体を動かしたランサーの脳天目掛けて刃を振う。

 

「誘いに乗りましたね」

「くっ……」

 

 さしものランサーでもその攻撃を避けるのは厳しいのか、遂に刀が鎧へと触れ、その鎧の隙間から刀を通したのか、ランサーの腕から血飛沫が舞うのが見えた。

 

「い、やぁ」

「次で決めます」

「させると思うか!」

 

 あたしの小さな悲鳴など気にも留めやしない様子で二人は少し動いた戦況の中で勝負を決めるかどうかに動き出す。少しの血が流れたことなんてあの人たちは全く何とも思っていない。それはもう自分たちの世界の中では当たり前の出来事であると言わんばかりに。

 

 互いの実力を確かめ合うための模擬戦のようなものでは決してない。明らかにどちらかの命を奪い取らなければ終わらないであろうと言う戦い、幻想的な光景、突拍子もない登場人物。

それらがあたしの頭に無意識にフィルターをかけてしまうけれど、起こっている凄惨な戦いは結局の所、セレスさんと一緒に囲まれている時から変わることなく、誰かを害するための戦いだ。

あたしたちの世界に本来、存在してはいけない概念が、入り込むはずのない概念がその圧倒的な質量であたしたちの世界を侵略し始めている。

 

「マスター!」

「え、は、はい!」

「決断を!」

 

「決断……?」

「目の前のサーヴァント、おそらくセイバーであると判断します。彼女を苛烈にして熾烈。撃破することは至難の業ではあるが困難ではない。多少の損害を被ってでも勝利をすることは可能でしょう。ですが……」

 

「後々に響くということでしょうか。何せ、聖杯戦争は自分たちの陣営外の総てを撃破しなければ終わりませんから。ここで彼女を倒して終わりじゃない」

「故に決断を。セイバーを倒すか、撤退するか……!」

 

「考える必要などありませんよ。逃がすつもりなど一切ありませんから」

「………!」

 

 さらに速く、もはやあたしの視界ではとらえきれないほどの速度を以てセイバーの少女がランサーを弾く。これまでその巨大なランスと頑丈な鎧を以て攻撃を受け止め続けてきたはずのランサーを軽やかな身のこなしをしているはずの少女が弾き飛ばす不条理。

 

 ううん、恐ろしいのは最初から一貫してその速さが徐々に上がってきていると言うこと。底無しに上がっていく速度は、あたしたちが無闇に逃げ出したとしても、追いつかれてしまうのではないかという予想をあたしの頭に浮かばせる。

 

 なら、ここでやはり倒してしまった方がいいのか、それとも逃げる……、その決断を口にするべきだと分かっているのに、それを口にすることが堪らなく怖い。

 

 自分の言葉、行動1つで、誰かの命を決定してしまうこと、自分自身がもしかしたらその決断によって命を落としてしまうかもしれないこと。他人が行っている行動だとしても、それを自分が実践する時に起こるギャップはあまりにも違う。

 

 怖い、さっき、セレスさんはあたしをノルンちゃんに託して逃がしてくれた。それだって同じだ、誰かの命を決定してしまうかもしれない行動、それでもセレスさんはそれを選んだ。こんな気持ちのままに……。

 なら、あたしも――――

 

「戦場の空気など何一つ知らずに、巻き込まれるがままであった主を持つことになるとは。同情しますよ、ランサー。主が違えば、私と貴女の戦いも違っていたかもしれないのに」

 

「主の差は関係ありませんね。どんな逆境であろうとも、護るべき者がいるのならば、私は負けない。どれほどの絶望的な状況であったとしても、活路は開けるモノですよ、ほら、このように」

 

 ランサーが口にした瞬間の事である。セイバーとランサーの戦場に割って入るように、住宅街の屋根の周囲から無数の発砲音が鳴る。

 

 その発砲音が鳴り響くと、銃弾が雨あられのように二人の戦場へと割って入り、ランサーとセイバーの少女はともに距離を取り合い、屋根の上に配置された無数の銃兵の姿を感知する。

 

「これほど分かりやすく戦っているのです。第三勢力の介入くらい考えておくべきでしょう。これは聖杯戦争なのですから」

「そうですか、しかし、関係ありませんね。邪魔をするのならば寄って来るモノ総て斬るのみ!」

 

「撤退だ、沖田。既に聖杯戦争は開幕した」

 

 一触即発の空気、屋根に控えた謎の銃兵たちへの対処すらも求められる中で、あたしたちを襲撃したもう一人の人物は桜色の少女に変わることない声色で告げた。

 

「しかしッ!」

「帝にこの地の情勢を伝えることも我らの務めだ。何より……芹沢たちの気配が消えた」

 

「芹沢さんたちが……!?」

「沖田よ、焦るな。聖杯戦争が開幕した以上、敵手たる六つのサーヴァントは必ずや撃滅しなければならない。お前の刃はその時まで取っておくがいい」

 

「清河さんはそれでよろしいのですか?」

「構わん。今宵の哨戒、薩摩や土佐が何を見つけて来たかは知らんが、こうして相手の目星をつけた時点で上々だ。我ら壬生浪士隊、胸を張って陛下に上奏しようではないか。聖杯戦争開幕せりと!!」

 

 空に宣言するかのように声を上げ、桜色の少女がその戦意をゆっくりと抑え込んでいく。彼の言葉を守ると決めたのか、その身軽さは見た目の軽快さそのものであるように見えた。

 

「ランサー、貴女は私が斬ります。ゆめゆめ他の者に斬られること無きよう」

「ええ、次は万全にて、捻じ伏せて見せましょう」

 

 言葉を交わしあう二人の戦士、それを最後に、アタシたちを襲撃してきた二人は一瞬で姿を消してしまった。後には何も残らず、気付けば屋根の上にいた無数の銃兵たちも姿を消している。

 

「終わった、の……?」

 

 改めて緊張した空間から解放されたからか、腰が抜けてしまった。いまだに現実感が湧いてこない。だけど……目の前で起こった出来事はどれもこれもが現実だ。

 あたしは命を狙われ、そしてあたしは命を救われて……

 

「大丈夫ですか、マスター。お怪我はありませんか」

「あ、は、はい……」

 

 あたしの前に立ち、そっと手を伸ばしてくる相手、黄金の髪と金と青の鎧に身を包んだ気高い女騎士。

 

 これがあたしとランサーの出会い、運命の夜に生じた月に見守られたあたしたちの始まり。これより続いていく10日間の戦いの唐突な幕開けに他ならなかった。

 




沖田君、キミ、扱い的には竜牙兵とかと同じ扱いなのに、何でメイン面してんの?
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