※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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運命の夜――舞台裏

――秋津市東・住宅街エリア・間桐邸――

「ほっほ、久しぶりじゃのう、円華さん。こうして顔を合わせるのは何年振りかのう?」

 

「成人式でこちらに帰省した時以来ですね、大旦那様。お元気そうで何よりです」

 

「ワシの方は慎夜と共に、映像の中では何度も見ているのだがな、こうして直に会ってみると、実に綺麗になった。ふぅむ、ワシがあと30年若ければ放っては置かなかったのじゃがな。慎夜にくれてやるには実に惜しいのう」

 

「おい、爺。勘違いするな、円華は俺様の女だ。お前らがどう思っていようが、今までがどうであったかは知らんが、昨日からそう決まった。そこを履き違えるなよ、俺様はここに昔話を聞きに来たわけじゃない」

 

 閑静な住宅街の中に佇む邸宅、華やかな世界で無数の上流階層を目にしてきた私からしても豪邸と思わせられるその邸宅こそが、慎夜君の生家である間桐邸、そして、あの情報屋が言う所の遠坂とこの街を二分する名門魔術師たちの本拠地に他ならなかった。

 

 けれど、名門と呼ばれるには少々の疑問があるのは致し方ないことか。門を潜ってここに至るまで、常に鬱屈とした空気が漂っており、少しでも滞在していた人間は気持ちが沈んでいくように思えた。

インテリアの配置とか風水的な問題というよりは意図的にそのように意匠を施している、あるいは……その空気を生み出す源泉がこの屋敷の中のどこかに潜んでいるのか。

 

 正直、慎夜君の生家でなかったとしたら、踏み込むこと自体を躊躇するほどにこの屋敷の空気は淀んでいた。そして、私が知っているはずの人物、慎夜君から見て祖父にあたる間桐の大旦那様は無法者のように正面から来訪した私達を歓迎し、この応接の間に通した。

 

 その態度は言うまでもなく、昨日に起こったことの総てを把握し、同時に私の隣に立つ、この成金男然としたヤツがサーヴァントであることを承知している様子だった。

 

「ほっほ、分かっておりますともな、ライダー、エルナン・コルテス殿」

「お前……、何故、俺の「名」を知っている」

 

「何をおっしゃるか。自分で円華さんに話しておったではないか。溢れる自信がそうさせるのかもしれませんが、既に此処は敵地。お気をつけなさった方がよろしいぞ。何せここは魔術が蔓延る街、かつてのアステカのように妄執のみの街ではないのですから」

 

プーンと一匹のハエ、いや、トンボの全長を小さくしたような羽虫が大旦那様の杖を支えにするしわがれた手の上に乗りかかる。

 

「う………」

 

口元から小さな舌のようなものをぺろりと出すその虫を見た瞬間に生理的な嫌悪感に襲われ、目を逸らす。みっともない姿を晒さなかったのは、隣に座るコルテスが静かに殺気を漏らしていることが分かっていたからだろう。

 

「これは我らマキリに遥か昔より受け継がれてきた魔術の一環でしてな、刻印蟲と申します。術者の体内で飼わせることによって魔力を供給する、あるいは術者の魔力を媒介にして使い魔のように扱う事が出来るのです」

 

「小僧の身体の中にもそいつがいたのか? 道理でギリギリで踏み止まっていたわけだ。俺と契約をしたから生きながらえたわけではないと思っていたが、ようやくカラクリが分かった」

 

「左様……、慎夜のような未熟者では聖杯戦争に勝てぬと踏むは道理。どれほど孫として愛していようとも、あれに魔術師の才能はない。聖杯戦争を勝ち抜くなど夢のまた夢でしょう。であればどうするか、一縷の望みにかけて強大なサーヴァントに魔力を供給する入れ物として機能だけを果たしてくれればいい。そう思ったのですが……

さすがにこの状況はワシらも想像しておりませんでしたとも」

 

「不服か?」

 

「まさか。慎夜は生き残り、こちらで安全な場所に運んでおります。むしろ、下手な独断専行をせずにコルテス殿に総てを任せる今の方が、我々にとっても都合が良い。勝ちの目が見えて来たのではないかと年甲斐もなくはしゃいでおりますとも」

「くく、見込みがあるな、爺。俺様を評価していることは買ってやろう」

 

 大旦那様とコルテスは私や慎夜君のことなど差し置いて話を進めている。私のことを蚊帳の外に置くのはもういい加減慣れて来たけれど、慎夜君のコトは正直、納得いかない部分があった。

 

 片や家族で、片や召喚をした相手なのに、この人たちは彼のことを全く相手にもしていない。それがたまらなく嫌で、挟むべきではない口を挟んでしまった。

 

「慎夜君のコト、悲しいとかそういうこと思わないんですか……? 大旦那様、慎夜君ととても仲が良かったじゃないですか」

 

「勿論、孫としては愛しておりますとも、自分の子が腹を痛めて生んだのだ、愛さぬ理由がありませんとも。しかしな、円華さん、我々は魔術師の家系なのだ。人間としての愛と魔術師としての後継であること、これははっきりと切り分けるべきだ。切り分けなければ不幸になるのは子の方です。それは慎夜も理解しておると思ったのですが……」

 

 大旦那様はひとしきりに笑ってから、私へと視線を向ける。

 

「円華さんと添い遂げるには聖杯を掴むほかない等と……、奇跡にでも縋らなければ、己は彼女に釣り合わないなどと、見果てぬ夢を追いかけた結果がこれです。己が聖杯戦争などと愚痴をこぼしていた小僧が愛の為に立ったこと、一人の祖父としては見守っていたかったのですがね」

「慎夜君が、私の為に……」

 

 途端に、胸の内が熱くなる思いがあった。決して自分から主張を通すようなタイプじゃなかった慎夜君がどうして聖杯戦争なんかに首を突っ込もうとしたのか、その理由を知れて、改めて彼を好きになってよかったと思う。

 

 慎夜君のやろうとしたことは確かに無謀だったのかもしれないけれど、自分の為に命懸けで幸せを掴もうとしてくれたことを知って、嫌になる女なんているはずないもの。

 

「はっは、わかっているじゃねぇか。自分が惚れた女の価値ってのが。そりゃあなぁ、惚れた女の悲鳴を聞いて立ち上がれないような奴じゃ奇跡に縋るしかないだろうしな!」

「慎夜君のことを悪く言わないで! あ……」

 

 思わず反射的にコルテスに対して反論の声を上げる。反抗なんてしたら、何をされるかわからないのに、今の言葉はどうしても我慢がならなかったから口にしてしまった

 

「怒るなよ、言っただろ、勝たせてやるって、小僧は蟲が生きさせてるんだ。勝てば願いは叶う。その時にお前がそれを願っていればな」

「何度も言わせないで。私は慎夜君の為に闘うの。断じて、あんたのためなんかじゃない!」

 

 無造作に寄り添い、片に置かれた手を振り払って睨みを利かせる。こいつにとっては、小動物が視線を向けているだけとでも考えているのかもしれないけれど、これが私に出来る唯一の抵抗なら、続けることを止めない。

 

 フンとコルテスは鼻を鳴らし、手を引っ込める。無理矢理に手を出して来ることはしない。ちょっと意外だった。勿論、何かされるなんて絶対に嫌だけれど。

 

「ほほ、慎夜も良い相手を見つけたものですなぁ。さて、話が逸れましたが、コルテス殿、アナタが聖杯戦争を継続していただけるのならば、我らは貴方がたお二人に協力することは厭いません。ある程度の蓄えはあります。それを先行投資として貴方がたに差しだしましょう」

「………無料でか? それとも交換条件か?」

 

「話が早いお方だ。当然見返りは求めます。この街の三すくみの情勢は御存じですかな?」

「魔術師と自警団紛いと異端宗教か?」

 

「ええ、そうです。その中の一角、唯一神理教―――キャスターの陣営を、脱落させていただきたい。他の2勢力はこの街に根付いた勢力ですが、あれはマズイ。何をしでかすかわからない一種の爆弾だ。放っておけば、街を壊しかねない」

 

「唯一神理教はやっぱり、サーヴァントを召喚しているんですか?」

「左様。この数日間は我がもの顔でサーヴァントを市中に放っている。あれでは、遠からず聖杯戦争の隠匿など出来なくなるだろう。それは我々としても望むところではないと言うことですよ」

 

「意外だな、街に執着するような奴には見えないんだがな」

「我々は遠坂ほど勇敢ではなく、アインツベルンほど狡猾ではないのですよ。臆病と言ってくれても構わない。もしも、負けたとしても自分たちに被害が及ばない手段を常に講じている。他の陣営はまだしも、キャスターたちは我々に危害を及ぼしかねない。だから、消えてほしい」

 

 大旦那様はコルテスと会話をすることに怖れを見出す様子は一切なかった。まるで世間話をする要領で、聖杯戦争という事態に置いての自分たちのスタンスというモノを口にし続けている。日常と非日常が混在しあっている。私にとって、当たり前に日常の中にいたはずの人が非日常の中にいるのは不自然極まりなかった。

 

 ただ……怖いと思うことはなかった。誰だって二面性を持っている。人前ではとても優しい人間が、親しい者たちの中ではとても横柄な態度を取ることもあれば、上の人間に媚び諂う人が下の人間には高圧的に接する。そんなことは社会の中ではあまりにもよくあることだから、これは私の知らない一面が花開いただけに過ぎないのだと自覚しておく。

 

 キャスターは大旦那様の条件を受け入れるつもりでいる様子だった。その提案を呑むことでどれ程の支援が受け入れることができるかはわからないけれど、この男と出会ってまだ二日、その二日の間に次々と地盤を打ち立て、後ろ盾を得ている。

 

(例え、私自身に采配を委ねられていたとしても、ここまで急速に動けたのかわからない。組織と後ろ盾、どちらかを手に入れた時点で、たぶん、安心してしまって動こうとしないかもしれない)

 

 徹底的、良くも悪くもエルナン・コルテスという人物を表現するのならその言葉が最も適切なのかもしれない。聖杯戦争に勝つためにこの男は最善を尽くそうとしている。人間としては最低の部類に入るとしてもその行動は認めずにはいられない。

 

 ならば、その中で私は何が出来るのだろうか。魔力も何もないコルテス曰くただの小娘がどうすれば、聖杯戦争で勝ち抜くための力を発揮できるのだろう。

 私への思いで聖杯戦争に参加した慎夜君の気持ちに応えてあげることができるのだろうか。考えても考えても答えは出ない。それほど、私は聖杯戦争という戦いの中ではミスマッチが過ぎる。

 

「何にしてもキャスター陣営を壊滅させるのであれば、マスターである教祖を狙う方が早いでしょう。それと……バーサーカー陣営とは一度接触しておく方がよろしいかと思います。その上で、貴方がどうするべきなのかを判断するのがよろしいかと」

 

「勿体ぶった言い方は止せよ」

「いえいえ、こればかりは個人の主観が入ってくる問題です。あの陣営をどうするのか、おそらくどの陣営に聞いても方針は変わってくることでしょう。故に出会うことがあれば一考して見てもよろしいかと。バーサーカー陣営は斃すべきか倒さざるべきか」

 

 勿体ぶった言い方だった。それを最後に大旦那様との会談は終わりを迎える。必要な情報は手に入れたのか、コルテスは満足げな表情を浮かべていた。

 

「まぁいい。俺様がここに来た目的の大部分は金だ。パトロンが手に入るのなら、今はそれで十分だ。利用できる筋が増えた、今はそう思っておいてやる」

 

 コルテスはソファから立ち上がり、もはや間桐邸に用はないとばかりに私の腕を持ち上げるとそのまま、部屋から出るために脚を進めていく。

 

「どこで、誰の使い魔が動いているとも知れませぬ。コルテス殿、これを」

 

 大旦那様が言うと、コルテスと私の周囲に数匹の虫が寄ってくる。近くで見ると遠目で見るよりもより気持ち悪さが滲み出ている。

 

「これから情報交換をする際には、これらを媒介にお使いください。魔力のパスは通っています。コルテス殿が望んだ時に会話ができるようにしておきましょう」

 

「随分と用意がいいな。爺、お前、こうなることも全部わかっていただろ。何が聖杯戦争を捨てるつもりだっただ、お前は……俺様の同類だよ」

「まさか、まさか。偉大なるコンキスタドールと同じなどと……私はただ、夢を捨てていないだけですよ」

 

 含み笑いを続ける大旦那様を尻目に、私達は邸宅より足を踏み出す。知るべきだったのだろうか、もしも、聖杯戦争に私が巻き込まれていなければ、何も知らずに、私は幸福を享受することが出来たのだろうか。

 

 時間を巻き戻すことはできない、何も知らなかったあの頃には戻れない。今はただ、慎夜君が掴もうとしていた「幸福な未来」を私が代わりに手に入れる。それだけを考えておくしかなかった。

 

――秋津市東・住宅街エリア――

「どうして……なんで、七星さんが………」

 

 目の前で起こっている光景に意識を奪われ、明確な指示を出すこともないままに戦いは終わりを迎えてしまった。

 

 夜の静寂を破るように引き起こされた住宅街での喧騒、父さんより夜の行動を指示されていた僕とアーチャーは自分たちが目的としている戦いが生じている現場を発見した。

 

 この数日間、何度か夜の街を駆け抜けたが、結局、見つけ出すことが出来なかった光景が、ようやく自分の目の前に生じた。だから、その機会を逃してはならないと魔術師である遠坂蓮司は、父の代行者としての役目を果たさなければならなかったのに……、実際には目の前の光景に衝撃を覚えてしまって何一つすることが出来なかった。

 

 理由は言うまでもなく、目の前で起こった戦いの当事者であった片割れが、自分にとって見知った人物であったから。

 

 七星桜子―――僕のクラスメイトである少女は、襲撃をかけてきた剣士たちと相対する金と青の鎧を身にまとった巨大な槍を持つサーヴァントの背後で腰が抜けた状態のままでいた。

 

 戦闘の余波に気付くことで、僕とアーチャーはその場に辿り着いたわけだけど……、その魔力を帯びた戦闘の様子からそれがすぐに聖杯戦争におけるサーヴァント同士の戦闘であることは分かった。

 

「剣士たちはこの場から撤退。我々の姿が見られることはなかっただろうが、独断専行したことは謝罪しよう。我がマスターからはキミの指示に従うようにとのことではあったが、キミは判断を下せる状態にはないと考えた」

 

「大丈夫、です。ありがとう……アーチャー、たぶん、今の僕では貴方に指示を出すことは出来なかったと思うから」

 

「そう言ってもらえると助かる。現場での判断が功を奏する場面は多々あるが、そこには理屈が必要だからね」

 

 アーチャーの配下である銃兵たちを顕現し、剣士たちへと発砲したのはアーチャーの独断だ。おそらくは、あえて、七星さんたち側を狙わないように攻撃させたのだろう。

この人は僕の表情から感情の機微を読み取ることができる。本人は明言しないけれど、そうできる程度には僕たちはお互いを理解し合うための時間を費やしてきた。

 

「それにしても不可解なのはあの剣士たちだ。魔力の反応からして、あれはどちらもサーヴァントだろう。しかし、本来聖杯戦争のサーヴァントは1人しか各陣営呼び出すことが出来ず、なおかつクラス名で互いを呼び合う事もなかった。同盟であると考えるにもクラスで呼びあわない理由が不可解だ。マスターには報告しておくべき事態だろう」

 

「もしかしたら、互いに偽名を呼び合っているのかもしれない。クラス名ですらも相手陣営に手の内を明かすことになりかねないから」

 

「一理はあるが……、さて、この秋津市の夜を脅かしているのは、本当はどちらなのか……」

 

 クラスでも話題になっているTooTubeでの猟奇的な動画、確か七星さんはあれの動向を追っていると言っていた。もしも、それのせいで巻き込まれた、あるいは……マスターの1人であるから追っていたのだとすれば……もしかしたら、僕に接触していたのも……

 

「ひとまず、煉殿の所に戻るとしよう」

「もう一体のサーヴァントはいいんですか?」

「あれを見たまえ」

 

 七星さんたちがいる眼下へと視線を向ければ、そこに金髪の女性と辮髪の男性が姿を見せているのが分かった。しかし、誰が姿を現したのかと言ったことはどうでもいい。むしろ、問題なのはその男性が人間ではない存在であると直感的に分かったことだ。

 

「あれ、サーヴァント」

「うむ。間違いなくであろう。このタイミングで現れ、戦闘を仕掛ける様子もないことから、同盟を結んでいる可能性がある。この掴んだ情報を煉殿にまずは報告することが先決であろう。何より……、そうした目の前の事態にも気づけずにいるほど、精神を揺らいでいるようでは、傍に置いておくことは出来んな」

 

「う……、ご、ごめんなさい」

「構わん。命を預けられている以上、こうした判断をしなければならない時もある。君がまだまだ未熟であることは、私もよく知ることだ。それを含めて教化しろと煉殿からは仰せつかっている」

 

 アーチャーにそこまで言われてしまうことが僕としては恥ずかしいコト、この上ないけれど、じゃあ、今の自分が冷静に最善を掴める状況にあるのかと言われれば何も言えない。

 今の自分はとても優雅からは程遠い。そう自罰の想いを浮かべる僕に対し、アーチャーは僕の頭を乱暴にさする。

 

「気を落すな、何も失敗などしていないだろう。今日の自分に何が足りなかったのかを考え、明日に不足を補てんしろ。時間は待ってくれないが、自分自身を変えることができるのはいつだって決意一つだ。時間は関係ない」

 

 歩きはじめたアーチャーに遅れないように身体だけを動かす。心の中は疑問や目の前の現実にばかり気が向いてしまってぐちゃぐちゃだ……どうすればいいのか、答えはまだ出ない。

 

・・・

 

「どうにも、騒がしいな。今日は……」

 

 住宅街で起こった僅かではあれど、隠しきれぬほどの喧騒を桜子の父である真一郎も感じていた。胸騒ぎとでも言えばいいのか、彼の耳に先の住宅街での争いが聞こえてきたわけではない。

桜子の家から大きく離れた場所で行われた戦いは建造物を壊すこともなく、何事もなく終わりを迎えたが故に、それを知るすべは周辺の住民たちしか持ち得ない。

 

 しかし、胸騒ぎは別だ。夜の9時を過ぎても戻ってこない桜子を案じる気持ちが消えることはありえないだろう。

 

「こんな日に、あの馬鹿娘はどこで油を売っているんだ。帰ってきたら説教だ、説教!」

 

 などと自分以外に誰もいない居間で真一郎は怒りを撒き散らす。親の心を子供わからずとはまさしくこの通りだろう。

 

「まったく血は争えんのか、あいつはお前の娘だよ、桜……」

 

 居間の一角にポツンと置かれている仏壇に向けて真一郎は声を上げる。彼の妻である桜が満面の笑顔を向けているその遺影に語りかける。相手が反応してくれるわけではないのは百も承知だが、どうにも寂しさが勝ってしまい、語りかけてしまった。

 

「ああ、いかんな。桜に愚痴をこぼしているようでは、俺もいい加減に―――」

 

 ガラガラと玄関の開く音が聞こえる。当然、その音の主が誰であるのかを確認するまでもない。真一郎は先ほどまでの緩んだ表情を整え、桜子に迎えるために立ち上がる。

 

 無論、迎えた後は説教である。夜遅くまで徘徊をしていたこと、父を心配させたこと、今日という今日はしっかりと理解させてやらなければならないだろうと玄関先に向かい、

 

「おう、桜子。今は何時だと思って――――誰だ、あんたは?」

「あはは、事情を何も聞かずにいてほしいとか言っても、ダメだよね~」

 

 玄関先には確かに桜子がいた。しかし、その隣には金髪の鎧を纏った女性が立っており、真一郎は思わず怒りの心も忘れて、問いただしてしまったのだ。

 

「貴方が桜子の父君ですか。私は故あって桜子のサーヴァントとなったもの、クラスは―――」

「あぁ、えっとね、この人は私の危ない所を助けてくれた人で、流石に助けてもらってそのまま、はい、バイバイ~~っていうのもさすがにどうなの? ってのもあったから連れてきちゃったというか、そのヒーロー的カッコよさに惚れこんだと言うか、あの、その……」

 

「お前、言い訳するにしても、もう少しまともなこと考えてこなかったのか?」

「えっと……はい、すいません。面倒事に巻き込まれました……」

 

 はぁ、と真一郎は大きくため息を零した。まったくもって度し難いことだが……、話しを聞かなければ何も始まらないのも事実だ。

 

「いい、とにかくお前ら上がれ。そして、何があったか聞かせろ。どうするかはその後に考える」

「う、うん……!」

「ご理解、感謝いたします」

 

 聞いたうえで、自分は何がしたいのだろうかと真一郎は思う。運命は既に始まりを迎えてしまった。まさか、と思う出来事は現実に至ってしまった。

 

 あの15年前の時と同様に、残酷な運命は自分たち家族を逃がしてくれる様子はないらしいと分かってしまったからなのかもしれない。

 




15年前の聖杯戦争の話し、そのうちガッツリ語られそう。
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