※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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お待たせしました!ランサー&アサシン&アーチャー対セイバー回です!


集結の夜――破

――秋津市西側・繁華街入口付近――

「七星さん………」

 

 夜の街を駆け抜け、繁華街の入口へと至る。そこに見え透いたように人払いの魔術が仕掛けられている場所を見つけた。そのまま、見つけてくださいとでも言っているかのような場所は、わざと魔術を知っている自分たちを誘い込んでいるのだと誰に言われなくても分かっていたが、胸騒ぎを覚えた。

 

 自分自身に対する胸騒ぎではなく、むしろ脳裏に浮かぶ自分にとって近しい彼女の姿が浮かんで、気付けば足が動いていた。

 

 繁華街の入り口で繰り広げられている三体のサーヴァントが入り乱れての戦闘、そのうちの二体のサーヴァントのことを僕は知っている。女性はランサー、男性はアサシン、奇しくも昨日と同じく戦っているサーヴァントたちを発見し、どのようにアプローチするのかの決定権を僕は委ねられる流れとなった。

 

 脳裏に幾つかの選択肢が浮かんだ。驚くべきことにたった一人で戦っているサーヴァントがランサーとアサシンを圧倒している。二つの剣を使って戦う姿から、おそらくはセイバーのサーヴァントなのだと理解し、父さんの口にした言葉の意味を理解した。

 なるほど、あれは凄まじい。アーチャーとの実戦訓練を繰り返してきただけに英霊の凄まじさというものは肌で実感しているけれど、あれは別格だ。

 

 定石通りに考えるのならば、あえて静観する、セイバーに味方するといったものが頭に浮かんだ。何せ、マスター同士の戦闘すらも一目でどちらが勝つのか分かってしまうような有り様なのだ。ここで何を選択するのが合理的なのかはアーチャーに聞くまでもない。

 

 遠坂の屋敷を出発する前に、アーチャーは僕が間違った選択をした時には命令を聞く必要はないと言ってある。七星さんと出会った時に僕がどんな判断を下すのか、自分でもわからなかったからだが、そう言っておいたことは間違いではなかったのかもしれない。

 

「さて、どうする、蓮司君。君は何を選択する」

「僕は……、七星さんを、助けたい……」

 

「ほう、それが正しい判断だと思っているのかね?」

「正しい、なんてはっきりと言えない。間違っていると思う方が当たり前だと思っています。だけど……目の前で自分の親しい人が、苦しんでいる姿は見ていられない。僕は遠坂の後継者だけど……、人として、当たり前のことをしたい!」

 

 単純に嫌なんだ。

 たとえ、僕たちの関係が裏では打算の下に動いているかもしれないとしても、七星さんがずっと僕を騙していたとしても、それでも、少なからず、毎日の中で七星さんの笑顔に救われたことだってあることを理解しているから。

 そんな彼女を見殺しに出来るほど、僕は魔術師として、何もかも割り切れない。

 

「なるほど。承知した。では、蓮司君、行こうか」

「………間違っているとは言わないんですか?」

 

 自分自身でも愚かな選択をしていると言う自覚はある。だから、アーチャーに指示を無視されると分かった上での言葉だった。

どんな展開になったとしても逃げないための決意表明、その為の言葉であると自分自身で諦めをつけていたはずなのに、アーチャーは不思議なことにその命令を受け入れたように足を進めていく。

 

「一つ教えてあげよう、蓮司君。私は軍人であり同時に政治家でもある。軍人の手腕とは命令をいかに忠実にこなすか、政治家の手腕とは、愚かしいものをいかに正しいかのように見せるかにかかっているのだと私は思っているよ」

「アーチャー……」

 

「私は魔術師ではない。生憎と魔術師が選ぶ答えなど聞かれても分からぬが、人としてはキミや煉殿よりも遥かに多くの経験と見識を備えていると自負しているよ。君の選択は魔術師としても戦士としても、未熟なのかもしれない。ただ、人として好ましいと思っている、いいではないか、隣人を愛する心無きものに領主など務まらぬ」

 

 そこでようやく理解する。アーチャーは、きっとこの英霊は、僕がどんな選択をしたとしても、それを受け入れるつもりでいたのだと。例え、セイバー陣営に味方することを選んでも合理的な判断だと言って、受け入れたのだろう。

 

 それはさながら、子の成長を見守る父であるように。己から手を差し伸ばすことはなくとも、差し伸べた手を握ることを何ら厭わない。

この英霊はそういった在り方を自然体でやってのける。例え、この人がサーヴァントであったとしても、その在り方は人として尊敬に値するものだと僕は思う。

 

「……ありがとうございます」

「ただし、腹は括れよ。君はこの場において最も困難な道を選択したかもしれない。相手は煉殿が警戒しろと口にしたセイバー、それを相手に介入する以上、半端な結末も、我らが敗退する結末も認められない。煉殿への報告は優勢以上が求められる」

 

「……覚悟は出来ているつもりです」

「では、往こうか。案ずるな、誰が相手であろうと過去は常に置き去りにされるモノなのだから」

 

 激励の言葉を口にされて、それを全身で受け止めながら、僕たちは戦場へと乗り込んでいく。昨日と行動自体は同じだが、そこに含まれる意味は全く違う。

 これまで聖杯戦争の表舞台に立ってこなかった僕たちは今日、いよいよ聖杯戦争の舞台へと乗り込むのだから。

 

「理由が知りたいのなら教えてやる。僕は僕の意志で、七星さんを救うためにここに来た。遠坂蓮司とアーチャーがお前たちを倒す」

「騎士道精神か、実にいい。戦うに足りるだけの素晴らしい理由だ」

 

 そして……、実際に目の前に立ち、敵対の宣言をしたことによって、セイバーのマスターは戦意を纏った笑みを零す。待ち構えていたとでも言わんばかりの表情は、誰にだってわかる、誘い込まれたという意味合いを一瞬にして理解させるモノだ。

 

「遠坂……、アインツベルンと違い、キミたちは聖杯戦争の勝利の為に闘うことを決めたわけだ。そうでなくては、我がエーデルフェルトにとっては七星だけではなく遠坂もまた因縁深き家だ。名乗り出てくれてありがとう、遠阪の若き魔術師よ、俺はロイ・エーデルフェルト、競いがいのある相手の到来は喜ぶべきことだ!」

 

「それは光栄だね、遠坂の魔術師として、恥にならない戦いをさせてもらうさ」

「蓮司君!」

 

 そこでようやく声を掛けられた。さすがに最後まで知らぬ存ぜぬを通す事なんて最初から不可能だと分かっていたから、どんな顔をすればいいのか分からず、七星さんの顔を見ないようにしていた。

 

「ごめん、僕は七星さんを騙していた。君が聖杯戦争のマスターであることは知っていたんだ。でも、それを言わずに君の真意を推しはかるように疑って―――」

「何言ってるの、黙っていたのは私だって同じだよ! それでも、蓮司君はここで私を助けてくれた。謝る必要なんて何もないよ!!」

 

 七星さんから目を逸らして、謝罪するべき言葉を告げようとした僕の手を七星さんが強く握る。思わず七星さんの方を振り返り、視線を合わせた彼女は目じりを涙ぐませて不安と期待がかない混ぜになった表情で僕を見つめていた。

 

(ああ、馬鹿は僕の方だった……)

 

 そこでようやく本当の意味での自分の浅はかさを理解した。

 自分の中の魔術師の常識に照らし合わせて、必死に七星さんを疑って、魔術師としての自分の立ち位置を変えようとしないでいた自分の思考を恥じる。自分自身の経験と知識を照らし合わせれば、彼女が騙すような人間ではないことも、巻き込まれて無理矢理戦っていることも分かっていたはずじゃないか。

 

 怖れていたのは、自分が遠坂の魔術師であることよりも、彼女の友人であることを選んでしまうこと。それで自分の中の決意が揺らいでしまうんじゃないかという臆病な自分自身。その問題を彼女に転嫁していただけだったと言う事実。

 

 今、こうして総てを晒して向き合ってようやく分かる。七星桜子の友人であることと、遠坂の魔術師であることは決して共存できないわけではない。

 

 何より――――わざわざ助けるために飛び出して、彼女にこんな表情をされて、期待に応えることができないなんて、何のために魔術を学び続けてきたんだよ、そんなの恥さらしもいい所だろ!!

 

「やれやれ、すっかり悪役だな、俺達は」

「兄様、情に絆されて手を抜くなんてことは止めてくださいね」

 

「わかっているよ。だが、リーナ、お前の心配性は今に始まったことじゃないが、こればっかりは俺も反論させてもらうぞ。情に絆されたところで、お前以上に俺が優先する相手はいない。お前がエーデルフェルトの勝利を望む限り、俺がブレることはないさ」

「むぅ、兄様はそういうことをいきなり言うのがズルいんです!」

 

「はは、そうとも。俺達にとっては俺達こそが主役だ。敵が一人増えようとも変わらない。そうだろう、セイバー!」

「―――無論」

 

 アーチャーの銃士隊による攻撃によって、ランサーとアサシンだけに集中する戦闘から、新たに出現した軍団への対処を迫られるようになったセイバーは状況を観察し、戦術を予測するために一度、戦闘を中断し、状況の把握に努める。

 

 一目見ればただの銃兵、アーチャーが顕現したサーヴァントに相当する兵士たちであろうか。セイバーからすれば只の雑兵、如何に統制が取れた軍隊であったとしても、戦争という手段を講じる限り、セイバーに敗北はない。

 

 かつて、万の軍勢を屠ってきた常勝の将軍にとって一騎当千が数体いたところで手傷を負ったとしても敗北すると言うことは有り得ない。

 無数に与えられた戦闘経験という蓄積が、人智を超えた戦術予測を可能とし、最適な動きをセイバーに示し続けるのだ。

 

「改めて対峙してみるとその強大さを肌で感じるな、セイバーよ。蓮司君にはあのように言ったが、戦う理が全く存在しないというワケでもない。

 煉殿も警戒していたセイバーをこの序盤で脱落させることが出来れば、我が陣営にとってこれほど大きな利はないのだから」

 

 アーチャーは冷静にセイバーという存在の戦力を考える。真正面から戦った場合、アーチャーが勝てる可能性は皆無だろう。相性としての優位性を確保することはできるだろうが、いかんせん押しきられることは明白。対応策を考えるのならば、目の前で起きているこの状況はアーチャーにとって追い風だ。

 

 展開次第ではセイバーに味方するよりも遥かに大きな戦果を期待できる。賭けは賭け、しかし、リスクを怖れては臨む者を掴めないことも事実である。

 

「ランサー、アサシン、早速だが、セイバーを倒す戦い、私も仲間に入れてくれるかな? 名までは明かさぬが、期待に応えるだけの活躍はすると言っておこう」

「フッ、儂に異論はないな。何せ、どう突き崩すか難儀しておったところだ。砕けぬ岩に同じ手を何度使った所で徒労に終わるのは分かりきっている」

「我がマスターを救われた以上、私が口を出せる話でもない。アーチャー、この場限りの助力であるとはいえ、力を貸してほしい」

 

 ランサーとアサシンもアーチャーの言葉に異論はない。自ら助けを願うことは英霊としての誇りに傷を生む行為であると言う見方もできるかもしれないが、その誇りのために敗北を認めるほど彼らは中途半端な存在ではない。勝つと決めている以上は勝つために最善を尽くす。

 

「承知した。では、特にランサー、キミは流れ弾に注意したまえ」

「――――――!」

「来るか!」

 

 アーチャーが忠告の言葉を発すると同時に、再び戦線は始まりを迎えた。アーチャーが召喚し、自らの武器として使うのは、彼が生前に指揮をしていた軍隊そのもの、セイバーの読み通り、アーチャーは生前、軍を指揮する者であったことから、己自身が強いと言う立場の存在ではない。

 

 よって、セイバーからすれば怖れるべき存在ではなかった。個人の武威がなく数だけで攻める戦術は一定レベルの強さの相手であれば有効な戦術かもしれないが、アーチャーが総合力でセイバーに勝ることはありえないと彼は己の正確無比な戦術予測を以て判断する。 

その判断の下に、気に留める必要もない豆鉄砲程度の攻撃しか放てない銃士隊の攻撃の中へと、三体のサーヴァントとの戦闘へと再び入りこむ。

 

「――――――ッ!」

 

 変わることなく始まった戦闘、そこで先に変化の兆しを覚えたのは、何ら問題がないと踏んでいたセイバーだった。放たれた銃弾はただの銃弾に過ぎない。

無数の弓矢が放たれる戦場を駆け抜け、例え、その矢が突き刺さろうとも鉄で構築された鋼体たるその身は決して止まらない。そう止まらない筈であったが……、何かに堰き止められるようにセイバーの身体が僅かにその進行を鈍らせる。

 

 同時にアーチャーの攻撃と同時にランサーとアサシンは動きだす。背後からの銃撃に晒される状況ではあるが、アーチャーという英霊は約束を違えないであろうと互いに己の直感を信じ、背後への警戒一切を忘れて、目の前の恐るべき武将へとその巨大な槍と矮小ではあれども触れれば巨躯を破壊する神速の蹴りが同時に飛び込んでくる。

 

「―――グゥッ!!」

「ようやく足を止めたな。であれば、先ほどまでの借り、帳消しにさせてもらうとしよう」

「アーチャーが援護をしているこの状況こそが最大の好機と捉える。セイバー、その武勇、これ以上轟かせはしない」

 

 三対一、ある意味でセイバーが不利であるのは当たり前の状況ではあるが、それを覆すほどの膂力とどれ程の数の敵がいようとも最適な戦術予測を行う事が出来るのが、中華の仙道によって生み出されたセイバーの利点である。

 

 それがわずかなりともその予測を上回って、攻撃を受けた。その事実は、セイバーにアーチャーという存在が生半可な相手ではないことを理解させる、如何な強大な宝具をその身に受けるよりもなお明白であった。

 

「覚えておいてもらおうか、セイバー。君は私にとって決して戦いやすい相手ではない。されど、キミが過去である限り、私に戦えない道理はないのだ」

 

 セイバーの主攻を存分に振う事が出来る状況を生み出さない。それをするだけでも状況は劇的に変わってくる。アーチャーの周囲に新たに銃剣を持った兵士たちを召喚される。追撃は徹底的に、過剰の攻撃を加えながらでなければあのセイバーを打倒することは出来まいと考えている。

 

(こちらは、戦果をあげると約束しよう。故にこそ蓮司君、君も奮起しろ。我らが勝利を手にする前に陥落するなど許されんぞ)

 

 アーチャーは決して視線をマスター側の戦闘に向けることはない。そのような心配は無意味だ。祈りだけで奇跡が起きるほど戦場という世界は優しくなどないのだから。

 

「リーナ、俺は変わることなく桜子を狙う。ナイトの相手は任せていいかい?」

「しくじらないでね」

「誰に言っている」

 

 隣に寄り添うようにしてこれまで戦いを続けてきたロイとリーナの陣形が動く。ロイは変わらず不動のままに、リーナが新たに姿を見せた蓮司へと迫り、片腕を前に着きだす。

 

 その瞬間、蓮司と桜子、セレスを引き離すためとばかりに、あらかじめ設置されていたのであろう設置型魔術が起動し、その爆発から桜子を引き離すために蓮司は桜子を手で押し出し、同時に自分は懐から取り出した小型の宝石を使って、魔術の防壁を敷く。

 

「へぇ、咄嗟にしてはいい判断ね君。足手まといの七星の小娘なんか見捨てて、私達と魔術師同士の戦いをした方が気持ちを満たせるんじゃないかしら?」

「生憎と、魔術師としてはまだまだ未熟でね。そこまで割り切ることができないのさ」

 

「そう。その心持ちは嫌いではないけれど、それでは兄様には及ばない。兄様は甘くても強いもの。だから、勝負にならない戦いで敗退するなんて嫌でしょう。私が引導を渡してあげる」

 

(エーデルフェルトの得意とする魔術は流体制御、あらゆる魔術の動と静を支配する魔術。さっきの彼女が使ったのは、おそらく設置してある魔術だけじゃない。この秋津の街に流れている龍脈そのものから噴き出している無色の魔力をそのまま転用している。となれば―――)

 

「その顔、もう気付いちゃった? ええ、そうよ。私が得意とするのは静から動きへと流れる力の制御、この秋津の街に魔力が存在する限り、私の魔術に距離なんてものは関係ないわ」

 

 瞬間、蓮司の周囲を覆うように地面から空へと光の閃光が浮かび上がっていく。その閃光は空へと伸びあがり、浮力を失ったように、総てが蓮司目掛けて落下してくる。

 

「№4,6、―――魔力解放!」

 

 懐から紅と蒼の宝石を取り出し、空中に投げ放つと、その宝石の中から魔力が開放され、リーナの放った光線の雨と激突、両者ともに相殺されると思いきや、それらが溶け込むようにしてその色を紅と蒼へと変えて、リーナ目掛けて飛び込んでくる。

 

「はっ――――!」

 

 魔術師と戦っている以上、当然、自分の思い通りに全てが行くわけではない。防御は当然に考えているリーナは周囲に滞留している魔力そのものを防壁代わりとして使う。

 

 エーデルフェルトの長い歴史の中で、自分自身の魔術というモノを構築することなく、その場に流れている魔力を自由自在に扱い、その場その場における己の発想力だけで戦う魔術師というモノは決して珍しくはなかった。

 

 リーナ・-エーデルフェルトの戦い方はエーデルフェルトの伝統に則った戦い方、ただ、そこに一つ付け加えるとすれば、まだ20と少しの年月を費やした中で彼女は歴代の中でも屈指の流れを見極める能力が長じているという点であろう。

間違いなくエーデルフェルトの魔術師として何処に出しても恥じることのない力を発揮することができる魔術師であると言える。

 

対して、蓮司はリーナほどの魔術師としての成熟は為されていない。一度の攻撃をリーナに返したからと言って、次の攻撃がまたすぐに迫ってくる。ただ、その場にある魔力を活用しているだけのリーナに手持ちがなくなると言う概念はほぼないといえるからだ。

 

「遠坂の魔術師を舐めるなよッ!」

 

 ただ、この秋津の街は遠坂のホームグラウンドである。当然に魔力の流れは遠坂にとって相性が良く、あらゆる面で遠坂の魔力を高める効果が期待できる。

 蓮司の属性は五大元素における『炎』、宝石に込められた魔力をブースター代わりとして、リーナの防壁を破るための魔力を籠めた炎の弾丸を次々と放ち、リーナに次の攻撃の主導権を渡すまいと攻撃を続けていく。

 

(ボクの半端な魔術の能力で何処まで抵抗することができるのかはわからないけれど、彼女を突破しなければ、七星さんたちの下に辿り着けない)

 

 故に炎の弾丸、矢、果ては魔力を数珠つなぎに合わせて炎の鞭のようなものまで組み上げて、リーナに行動を許さない連撃を繰り出していくが、リーナはその攻撃の数々を、周囲に漂っている魔力を強引に吸い上げていくことによって、悉く防御して見せる。

 

 単純な魔術師としての出力の差、あくまでも遠坂煉の魔術を学んでいる最中の蓮司と、己の家の魔術において最も適した魔術は何であるのかを理解し行使しているリーナでは、れっきとした経験と知識の壁が立ちはだかる。

 

「必死ね。筋は悪くないけれど、焦りが自分の良さを殺していると言うのが見て取れる。君は私を突破すれば、あの子を助けることができると思っているの?」

「突破しなくちゃ何もできない!」

 

「無理よ、兄様はこと戦闘においては、私ですら足元にも及ばない。遊びが無ければ、この場の戦いだって、とっくに終わっているわ」

 

 リーナはロイ・エーデルフェルトの強さを知っている。この場に集っている魔術師全員が束になって掛かっても、彼は強引に勝負を終わらせることができるだろう。

それほどの莫大な魔力量と、魔術の才覚を持ち合わせているからこそ、彼は男性でありながらエーデルフェルトの当主に立つことが出来たのだから。

 

(本当に兄様はバカよ、昼間に助けてもらったからって、何をノタノタとしているの? しかも、魔術師の相手を私に任せてまでなんて。そんなにあの小娘の事が気になるわけ!?)

 

 確かに七星のマスターである以上、自分たちが他のマスター以上に気を向けてしまうことは分からないことではない。ただ、あれはただの素人だ。リーナだって一目見て分かる。

 

 話に聞いていた七星の魔術師とはあまりにも合致しない。ロイとリーナが徹底して、当初二人での戦闘に終始しようとしたのは、互いに一人では七星の魔術師の戦闘によって、傷を負うかもしれないと考えていたからだが、桜子相手ではそのような心配は何一つない。

 

 むしろ、自分たちの面倒なジンクスを振り払うためにも早々に決着をつけるべきだと言うのに、何をモタモタしているのか、いや、むしろ……

 

(まさか、あえてそうしているんじゃないですよね、兄様! そんなんだったら、お説教どころじゃないですからね……!)

 

 かくしてマスター同士の戦闘が繰り広げられる最中でも、いまだセイバー陣営は崩れない。サーヴァント同士の戦闘もやはり大きく戦況が変わったわけではない。

 アーチャーによって召喚された無数の兵士たちと共にランサーとアサシンが攻撃を続けるモノの、徐々に徐々にではあるが、セイバーはこの状況に順応し始めている。

 

 本当に360度すべてを見渡すことができる目でも持ち合わせているかのように、セイバーはこの多人数戦闘の中で常に、最適最大の動きを以て、次々と向かってくる相手を両の腕に握っている剣で吹き飛ばしていく。

 マスターたちが戦闘をしている箇所を除けば、既に繁華街入り口の全域がセイバーにとっての戦場となった格好だ。地上に君臨する暴乱の嵐たるその姿は周囲に設置されている景観や構造物までもを吹き飛ばしながら、いまだ、この戦場の絶対的支配者として君臨している。

 

「セイバーよ、そなた、その身体、人のモノではないな?」

「何故―――?」

 

「我が中華の伝説に、かつて春秋の風吹き荒れる戦乱の頃、我らが国には仙道の末裔が潜んでいたと言うモノがある。彼らはその知識を使い、人智を遥かに凌駕した凄まじき戦闘兵器を生み出したのだと。眉唾物の伝説であると儂も思っていたがな、まさかその実物を見せられるとは思わなかったぞ!」

 

 アーチャーの銃士隊の攻撃によって、それを剣を一払いすることによって抉り飛ばしたセイバーの腕目掛けて、アサシンの蹴りが叩きこまれる。神速の動きで放たれたその蹴りによって、セイバーの皮膚の表面が剥がれ落ち、その皮膚の下から魔力によって覆われた銀色の輝きが浮かび上がってくる。

 

「然り、我が肉体、鋼の躯体。中原制覇のために生み出されし、戦闘兵器に他ならず」

「伝承もおいそれとバカにできるものではないな」

 

「なるほどな、戦闘のために生み出された機械であればこそ、どれほどの敵が同時に襲い掛かって来たとしても、最適な動きを出力することによって戦闘継続を可能にする。

薄々と理解してはいたことだが、神秘の時代における英霊たちというのはままならぬ者たちばかりであるな。我らが生きていた時代の遥か先を進んでいる。人が神に追いつくにはまだまだ時間が必要だと言うことか」

 

「されど、我が肉体の真実を知って如何とする? それはただ事実を知っただけに変わらず。我が肉体を知りえたところで、暴威を払うための理屈が見つかるわけでもあるまい」

 

「もっともなことだ。やれやれ、単純に強い。こういう手合いが戦場では一番相手をするのが面倒だ。少し抜きんでて強い程度であれば数を揃えて対処するが、これほどの規格外ではな」

「エーデルフェルトのマスターが信頼する理由も理解できますね」

 

 セイバーと戦えば戦うほどに、彼の英霊の強さを思い知らされるばかりだ。

 

(煉殿が懸念をしていた理由も良く分かる。ある意味で私にとっては相性の上では最悪かも知れないな。優位が取れる相手であったとしても此処までの勢いを出されてしまっては、多少の優位など無にも等しいかもしれぬ)

 

 いまだ三体のサーヴァントを相手にしながらも、尚も互角の戦いを強いることができる相手、その上、相手は未だに宝具を展開していない。

 ランサーもアサシンも一撃必殺の機会を狙ってはいるだろうが……、果たしてこの規格外の英霊を相手に、その機会を手にすることができるのかどうか。

 

 鋼の躯体をその身に纏う英霊はただ冷徹に勝利のための道筋を紡いでいくばかりであるのだから。

 

(期待をするだけ無駄かもしれないが……いや、そうでもないか)

 

 その時であった。アーチャーが最初に気付いた変化に他の者たちも気づいていく。

パチパチと、この戦場には全くそぐわないと言ってもいいような乾いた音が響きはじめる。呑気に、享楽的に響いてくるその音は、この場で真剣に闘っている者たち全てを馬鹿にしているかのような音だった。

 

「いやはや、凄い凄い。古今東西、あらゆる国の英霊たちがたった一つの聖杯を奪い合うために全身全霊で戦っているその姿、実に派手で心に来るねぇ。こんなに必死に闘っている奴らの夢が叶わず、俺様が聖杯を手に入れるって言う未来が実に楽しみで仕方がないな。

 そうなった時にお前らがどんな顔をするのか」

 

 繁華街の入り口に設置されたアーチの上に腰かけ、この場の全員を嘲笑するように告げる黒髪の優男は、その言葉がこの場にいる全員を敵に回すことになるのを承知の上で挑発の言葉を口にする。

 

 心の底からバカにしているわけではなく、目の前の英霊たちは絶大な力を持っていることを認めた上で、自分が召喚された聖杯戦争に召喚されてしまった不幸を笑っているのだ。

 お前らがどれだけ必死になったところで、もうお前たちが聖杯を獲得する未来は決してありえないのだと。

 

「またしても、新手……ですか!」

「さすがに、頭が混乱して来たぞ」

「………そういうキミは、どこのサーヴァントなのかな?」

 

 ロイが冷静に問いを投げる。何処の誰であろうと闘うことに変わりはないが、ここまでサーヴァントが集まってきている以上、自然とその選択肢は少なくなってきている。

 

「消去法で言えば、ライダー、キャスター、バーサーカーのどれかだろうが」

「ハッ、バカにしてんのか。てめぇには俺様が気狂いのバーサーカーに見えるって言うか?俺様はライダーのクラスだよ。神たる俺様が魔術師や気狂いのクラスで召喚などされてたまるかというんだ」

 

 両手を広げ、まるで満天に謳いあげるかのように声を上げるライダーの姿に、全員がまさか、ここに五体目のサーヴァントが姿を現すなどとはと思ったに違いないだろう。

 

 聖杯戦争で、これほどまでにサーヴァントが一斉に集うという機会も中々珍しいのではないだろうか。相手に姿を晒さないことこそが利点になる陣営であれば、なおさらおいそれと姿を見せる理由はない。

 

 最初から戦闘に発展したセイバー、ランサー、アサシン、ランサー陣営を助けるために動いたアーチャーまではいいとしても、ライダーがここに姿を見せた理由は分からない。

 

「それで、こんな乱戦状態の場所にわざわざ姿を見せた理由は何かな? まさか、本気でこの場の全員を相手にするつもりじゃないんだろう?」

「クック、そういうのは俺様よりももっと適任がいるじゃねぇか。ほら、よそ見していると――――首が飛ぶぞ?」

「―――――疾ッ!!」

 

 瞬間、生じた出来事はまさしく一瞬、一秒にも満たない時間の中で起きた出来事である。

 ライダーと会話を交わしていたロイの背筋に寒気が奔る。ここまで圧倒的に状況を支配し続けてきたロイをして寒気を覚えさせるなどということがどれ程異常なことであるのかは言うまでもないだろう。

 

 それはまさしく一迅の風である。ロイの首下を狙って迫る颶風は、ここまで誰に気付かれることもなく、この乱戦状態の戦場の中へと飛び込み、この戦場の中で異国人であり、斬るに足りる対象である男性であることを満たしていた相手に向かって一瞬にして迫ってきた。

 

 その迫る風はまさしく死の風となって、一瞬にしてロイの命を斬りおとすものであったが、その刃がロイへと突き刺さるよりも早く、先ほどまでランサーたちとの戦闘を行っていたはずのセイバーが割って入り、主の命を守護するために己の身を盾とする。

 

「ぬっぐぅぅぅぅぅ……」

 

 戦術予測、そして防御は当然の流れとして行われた。如何に咄嗟に飛び込んだとしてもセイバーの思考が、咄嗟の行動程度で誤作動を引き起こすはずもなく、戦術予測すらも跳ねのけた一瞬のうちに放たれた九つの突きがここまで難攻不落の絶対的強者であったセイバーの鎧に初めて刀傷をつける。

 

「あらら、今のは絶対に決まると思っていたんだけどなぁ。まさか間に合ってしまうなんて。ちょっと傷ついたなァ。僕がこの九頭龍を放って仕留められなかった相手なんていないのに」

 

 颶風と化して戦場へと飛び込んできた存在、その姿に桜子やセレスは一瞬にしてそれが誰の差し金であるか分かった。和服に身を包んだ優男、長い髪の毛を後ろで一本に纏め、酷薄な笑みを浮かべて刀を掲げるその存在は、昨日に自分たちを襲ってきた相手に他ならず、

 

「ああ、斬り殺しにかかった後で何ですが、僕は我らが信奉する帝の使徒たる志士の1人、名を――河上彦斎と申します。覚えてくれなくても良いですよ、ここで全員切り殺すつもりで来ていますから」

 

「6体目……!」

 

「くくく、はっははははははははは、愉快、こりゃ愉快だ。まさか、こんな場所で、示し合せることもなく、この地に召喚された7つのうち、6つの陣営が揃っちまった。

 いいじゃねぇか、こんなもの、聖杯戦争を彩る最高のデモンストレーションじゃねぇか!!」

 

 ライダーは笑う。此処の戦力の観察を行うために出向いたその場所で、折しも、総ての陣営と顔を合わせることになるなどと、これを幸運と言わずになんというのか。

 

「兄様の目論み通り……いいえ、それ以上かもしれない」

 

 その最中で、リーナは不安が過る。戦力を確かめて、倒せる陣営を倒す。その意味でこの状況は実に美味しい状況かもしれない。

 けれど、既に戦況は最初の目論みなど露と消え、制御不能の状況へと陥り始めているのではないかという不安が過るのだ。

 

(ここから先に何が起こるのか予測もつかない。だけど、これだけの乱戦なら、七星さんを連れて脱出することもできるかもしれない……)

 

 反対に、蓮司はこの状況を決して悪いものではないと判断していた。ロイとリーナ、そしてセイバーを相手に圧倒することでの勝利はかなり難しいと戦闘をしながら理解することが出来た。となれば、あとはどのようにしてこの場から離れるかになる。

 その機会を見極めるためにもこの状況は決して悪くない。蓮司にとってこの場での勝利は何よりも桜子を逃すこと。そして、彼女と向き合うことに他ならないのだから。

 

(次々にいろんな奴が姿を見せる。だけど、その中で、あたしは……まるでいないものみたい……)

 

 そして、桜子は純然にこの状況の中で悔しさを覚えていた。それを覚えること自体がおこがましいことは分かっている。だけど……、盛り上がっていく戦いの中で、まるで自分だけがいないもののように扱われているのが、舞台の上に昇ることができないことが悔しくてたまらなかった。

 そんな感情に比例するように、桜子の手の甲に刻まれた令呪が強く強く光を放つ。同時に桜子の片腕に、彼女自身も気づかない何かが脈打ち始めていることを、まだこの場の誰もが気づいてはいなかった。

 




九頭龍閃だ、これ!! 次回は6つの陣営入り乱れの戦い!


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