※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

25 / 101
2日目ラストです!


そして、夜は更ける

――秋津市西側・繁華街・勢至姆組事務所――

『ええ、戦闘は終わりました。唯一神理教の剣士1人が消滅。他の英霊たちは多少の手傷を負ったようですが、マスターともども、無事のままに撤退を終えました』

「はっ、なんだ、そりゃ。それだけ雁首揃えて出張って来たってのに。仲良く顔を合わせて挨拶でもして来たってか。随分と他の陣営は優しいじゃねぇか。顔合わせりゃ、すぐさま戦争。それが聖杯戦争じゃなかったのかよ」

 

 ソファに両腕を広げたまま座り、足をテーブルに突きだしたまま神丘奉は声を上げる。事務所にて己の部屋として割り当てられた場所で、己の腹心である七星櫻一郎からの報告を聞く奉は上機嫌だった。

 

 自分たち以外の陣営が勝手に潰しあってくれることは実に良いことだ。己が従えているバーサーカーは強さにどうしてもムラがあり、まだ直接的な戦闘に手を出せる状態ではなかった。

 

繁華街の入り口などという奉や勢至姆組にとっては縄張りと言っても差支えがない場所で戦闘が行われておきながら、彼らが一切手を出さなかったのは、結局の所、時期尚早であると言う判断の下だった。

 

「それで、どうだった?」

 

『戦えない、ということはないかと思われます。最も暴れまわっていたセイバーは別格ですが、他のサーヴァントであれば戦い方次第では、こちらも全く勝ち目がないとは言えないでしょう』

 

「そりゃあ、お前を戦力として加えこんだうえでか? それともバーサーカー単体でか?」

『率直に申し上げれば、バーサーカー単体ではまだ五分がいいところでしょう。戦争を仕掛けるにはまだ早いかと。ただ……』

 

「ただ……?」

『……御しやすい陣営もあるかとは思います。最悪の場合、マスターを狙うと言う方法もあるかと』

「弱い奴を狙うのは常とう手段だからな」

 

 一拍程度ではあるが、櫻一郎が何かを考える素振りを見せたように奉は思えたが、さして気に留めることはなかった。櫻一郎の自分に対する忠誠心が本物であることを彼は疑ったことはない。野良犬のように彷徨っていた櫻一郎を拾い上げてから既に十年、互いに一を語れば相手の十を理解することができる。

 櫻一郎が己に何か言えないことがあったとしても、それは自分自身にとっての不利益になることではないと信じるだけの信頼があると奉は考えているのだ。

 

(他の組員共なら、俺の寝首をかきたいと思っている奴もいるだろうが、櫻一郎は地位も金も求めていない。最初からもう掛ける願いがない奴に怖れを抱く必要が何処にある)

 

 奉の人生の中において、友情や愛情と言ったものほど薄っぺらいものはない。そんなものは命やカネの変動によって容易く動く。真実の愛、不変の友情を語った者たちの何と薄っぺらなことか。奉の従者としての己を貫き続けることだけに重きを置いている櫻一郎だからこそ信じられるのだ。

 

 畢竟―――神丘奉という男は、勢至姆組という母体の中でもほとんどの人間を信用などしていない。

 

『それでバーサーカーの方は?』

「当然、今日のノルマはこなしてある。良いように他の陣営が全て繁華街の方に出払ってくれていたからな。今日の担当分でしっかりと稼ぐことが出来た。随分と貫録も出て来たぜ。ははっ、お前も後で顔を合わせて見ろよ」

 

『随分と愛着を持っているようで』

「出会ったときは胡散臭い犬程度にしか思っていなかったが、付き合いも長くなって来ればそれ相応に愛着がわくのは当然だろう。何より、下手に人間のように本音と建前を使い分けることがないのもイイ。あいつにとって、世界は敵か味方か、喰うか喰われるかだけだ」

 

 これまで何年も共に時間を過ごしてきながらも、腹の内では何を考えているかもしれないような組員たちよりもよほど信頼できるとすら言わんとする奉の態度は、その根底に人間という存在を信じることができない己のコンプレックスがあることの何よりの証左だろう。

「見物が終わっ

たのなら、そろそろ戻って来いよ。オヤジは今はいない。お前の見物した他の陣営共の話しを肴に上納金代わりに手に入れたワインでもどうだ?」

『ふっ、お付き合いしましょう。ですが、組長はどうされましたか?』

 

「会合だとよ。オヤジはオヤジでこの組を維持するために必要なことをやっているって訳だ。表も裏もオヤジの顔があればこそ、俺達はやりたいことが出来ている。顔が上がらねぇな……んなことをしなくてもいいようにさせてやらないといけねぇ。バーサーカーはその為の力だ」

『勢至姆組若頭、聖杯戦争のマスターの1人も、我らが組長には頭が上がらぬと言うことですね』

 

「くだらねぇことを言っている暇が合ったら、さっさと戻って来い。主を待ちくたびれさせるつもりか?」

『承知しました』

 

 櫻一郎との連絡を切り、奉は誰もいない部屋の中でタバコに火をつける。かつて感じていた苦味を覚えることはない。むしろ、心地よい感覚を覚えるほどだ。

 

 恐怖を振りまく獣と魔術を使うことのできる剣士、二つの従者を使いこなすことが出来れば、己は他の陣営に決して見劣りすることはないと奉は信じている。

 

(何もできていないことを恥じる必要はない。下手なプライドに左右されて、大局を見失うことの方が愚かだ。オヤジのため、組のため、何よりも偽物でしかなかった俺の人生のためにも……必ずこの戦争に勝つ)

 

「勝って聖杯を掴む頃には、叶えたい願いってのも見つかるだろうさ。はは、そうなりゃ、俺の人生は今度こそ本物だ」

 

 空虚な言葉を口にしている自覚はあるが、存外悪くはない。何もかもをひっくり返して逆転できるだけの時間を得た今となっては、いずれ待っている未来のための布石にすら感じられる。

 

「間もなくだ、間もなくバーサーカーはお前たちの脅威となる。その時に恐れ戦くがいい、お前たちが気づかず放置していた獣こそが、お前たちにとっての死神となることを」

 

――秋津市北側・唯一神理教総本山――

「そう、それで、こっぴどくやられてきたと。いい気味ね、蟲を介しての会話じゃアンタの姿が見れないのが残念なくらい」

『うるせぇ。俺様だって想定外の事だったんだ。まさか、俺様の神性付与を無力化するなんて奴が、そのままこの聖杯戦争に召喚されているだなんて普通は考えないだろうが』

 

「万全の準備をしてだなんだと私に講釈を垂れ流していたのは何処の誰だったかしら。あなた、実は結構口だけだったりする?」

『言ってろ、その生意気な口ぶり、次に会ったときは足腰立たなくなるくらい、イかせてやるから覚悟しとけ』

 

 結局、あれから2時間程度待っても、梓沙さんが戻ってくる気配はなかった。このまま彼女を待ち続けるのがいいか、それとも明日に備えて体を休めるべきかと悩んでいる折に、見覚えのある蟲が、私のいる宿舎の窓に張りついたのを見つけた。

 

 用意周到なコルテスの事だから、私と何らかの連絡手段を用意していることは間違いないと考えていたけれど、思ったよりも連絡が早かったことに不信感を抱き、反応してみれば、始まったのは他陣営に手を出して派手にボロボロにされたと言うことの報告だった。

 

 口に出したように、その姿を見ることが出来なかったのは本当に残念だと思う。見れば、絶対に溜飲も下がったし、欲を言えばその鼻っ柱がへし折れるところが見たいくらいだった。もっとも、傍に居たら十中八九、八つ当たり紛いに襲われていたんだろうけれど……

 

『それより、そっちはどうなんだ? キャスターを潰す尻尾を掴めたのか?』

「それだけど……、私の素性気付かれているかもしれない」

 

『………まぁ、そうなるだろうな』

「だろうなって、何よ、自分で私を差し向けておいて、私が失敗するって思っていたの!?」

 

『落ち着け。お前自身に令呪が宿り、俺様と仮とはいえ、契約関係を結んでいるんだ。少し聡い奴なら気付いてもおかしくない可能性はあると考えていただけだ。第一、不安の種がないのなら、リスクを冒してまで連絡などするかよ』

 

 コルテスは私の状況を聞きながらも、さして驚いている様子はなかった。口にしている通り、予想できていると言うことなのだろう。あの久坂玄瑞という男が何処まで私のことを嗅ぎつけているのかはわからないけれど、あの様子ならば明日も何らかの追求をされるのは間違いない。

 

『ふん、おい、円華。お前……明日、俺様の情報を奴らに横流ししろ』

「はぁ……? あんた、どういうつもりよ!?」

 

『どういうつもりも何もねぇだろ。疑われている以上、お前は完全な黒か灰色の状況としか思われない。なら、逆にお前が俺様を連中に売れば、少なくとも完全な黒か灰色か完全な白かのどれかになる。自分のサーヴァントを他の陣営に売るような奴もなかなかいないだろうからな』

「……自分が無茶苦茶なこと言ってるのわかってる? 結局、私の演技力便りってことじゃない」

 

『当たり前だろ。それを見込んで、お前をそっちに送り込んでいるんだ。仕事は果たせ。こっちのことは俺様が上手くやってやる。ちょうど、先に向かう航海図も浮かび上がってきたところだ』

「ズタボロにされたって聞いたけれど?」

 

『命がありゃ繋げるものもあるってことだ。この聖杯戦争に参加している連中の顔も割れた。前にも言っただろ、情報ってのはそれだけで得難い価値があるんだ。それより、他に何かあるか?』

「………内部で協力者を得ることが出来たわ。あちらから私に接触してきた」

 

『お前、潜入している割に何にも騙せてないじゃねぇか』

「顔見知りだったのよ! それで、私が演技をしているんだってことがすぐに分かったって。あっちもキャスターを倒すために潜入しているって話しよ。真偽は不明、ただ、目的が同じなら協力はできると思う」

 

『そうか。あの狸爺が俺様たちをけしかけた理由も内部に反乱勢力がいると分かっていたからかもしれないな。まぁいい、お前はそいつと協力して内部からマスターかサーヴァントをぶち殺すことができるかどうかを探れ』

「今度は驚かないのね。都合が良すぎるとは言うと思っていたわ」

 

『奴らを潰すなら最適なのは内部に入ることだ。俺様たち以外に同じことを考えている奴がいるのはまったく予想外って訳じゃない。むしろ、問題はそいつが足を引っ張る可能性だ。お前はお前に出来ることをしろ。俺様の奴隷である以上、勝手に死ぬなんてことは許さんからな』

 

「むっ……、それはこっちの台詞でもあるわよ、ライダー。アンタをキャスターに売るのはいい、何の抵抗もなく自然体で出来るわ。殺意だって本物よ。だけど、それで死んでしまいましたなんて許さないわよ」

 

『面白いことを言うじゃねぇか。殺意は本物、でも、死んでほしくないなんて、そんなに我がマスターが大事かい?』

 

「勿論、慎夜君を救うために聖杯戦争に勝つことは重要よ。あんたがいなくちゃ私は聖杯戦争に勝てないんだから。でもね、私はアンタをこの手で殺すと決めてるの。だから、他の誰かに殺されるなんて絶対許さない。最後の最後、聖杯を手にするその時に私がお前を殺すの。忘れないでよね」

 

『それはこっちの台詞だ。お前はオレの奴隷だ。聖杯を手にし、そしてお前を心から俺に傅かせる。他の連中に跪くような弱い女じゃないと見込んでいるから、俺様はお前に手を貸したんだ。忘れるな、お前を堕とすのはこの俺様だ』

 

 ―――総ては聖杯戦争に勝つために。主義も主張も信念も性格も理想も私たちは何もかもを共有しえない。唯一つだけ共有しているのは勝つと言う方向性ただそれだけ。

 

 円華との連絡を切り、ライダーはアーチャーと離れたことによって再び発動を可能とした己の宝具の力を使って、身体の修復を試みる。

修復には時間が掛かり、プライドすらもボロボロに折られた。他の陣営の敵情視察をするという目的を達成したものの、ライダーとしては明らかに敗北感塗れの状況であった。

 

「くく、私がお前を殺す、か。いいねぇ、見込んだ女が俺様に夢中だなんて、これほど気分のいいこともない。あぁ、そうだ! いつまでも、失敗にかまけていても仕方がねぇな、大事なことは勝つことだ。円華の奴が目を覚まさせてくれた!」

 

 先ほどまでの屈辱塗れの鬱屈とした気持ちはそこらの野良犬にでも食わせておけばいい。己のマスターの言うとおりだ。勝つと言うこと1つで繋がっている以上、何があろうと自分たちは勝ちを求めなければならない。あそこまで言った以上、円華はキャスター陣営を自分に嗾けて来るだろう。

 

 当然に黙ってやられるなどということは有り得ない。叩き潰す、叩き潰すが、ただそれだけでは何の芸もない。

 

「おい、狸爺。どうせ見ているんだろ」

『ほほ、いえ、声など掛ければ蟲ごと燃やし尽くされてしまうのではと思いましてな。身入りはありましたかな?』

 

「それ相応だ。セイバーとアーチャーは厄介だが、ランサーとアサシンはどうとでもなるな。キャスターを潰した後はランサーのところに襲撃を掛けてマスターとサーヴァントどちらも俺様に傅く奴隷にしてやるとも」

 

『当初の話し通りに手駒は見つかりましたか?』

「てめぇ、今、俺様の品評を無視しやがったな。ふん、それについてだ、爺。一つ、テメェに頼みがある。キャスターを潰すための手駒、それを確保するために必要なことだ」

 

 転んでもただで起きるつもりはない。不愉快極まりない戦いではあったが、先々の展望を考えるうえで、やる気になるだけのものは幾つか見つけることが出来た。

 

(ランサーとそのマスター、それに、セイバーのマスターの片割れである小娘、どれも征服し甲斐のある女だった。奴らを傅かせるためにもますはキャスターだ)

 

夜の闇の中へと消えていく。再び来るであろう戦いの時は決して遠くない。それまでに必要な準備を済ませるための目算をしながら、ライダーの姿が消えていくのだった。

 

――秋津市中央部・秋津グランドホテル最上階展望フロア――

「では、お二方とも、先ほどまでの話し通りの流れで構いませんかな?」

「ええ、構いません。我々としては願ってもいないことです。この土地の管理者である貴方の力を得ることができるのならば、万の軍を得たに等しいことです」

「あれらは暴れすぎている。今はまだこの街の闇の中にいるだけだが、いずれは隠しきれなくなるだろう。そうなれば、守り抜いてきた平穏というモノが一気に崩れ去ることになる」

 

 電波塔を窓の外に臨む秋津市の中でも最上級の価値を有する駅前のホテル、遠坂家の所有する土地の上に建造された、秋津市の中でも屈指の高級ホテルの最上階には秋津市の夜景を一望することができる個室が用意されている。

 

 このホテルの最上階を利用する者たちは秋津市の政治や経済における重鎮たちである。代々、この最上階の個室は、秋津に住む者たちの進む先を定めるための会談が幾度となく交わされてきた。この街の未来のためを思う会談もあれば、秋津市の闇の中に消えていった後ろめたい話題が交わされたこともあった。

 

 しかし、そういった過去のことはどうでもいい。言わば、この場で会談が行われていると言うこと自体が、ここで交わされる会話の数々が表沙汰になることが不適切である考えられる内容であると言うことだ。

 

 個室の中で夜景を肴に会話を交わしているのは三人の男女である。性別も年齢も風貌もすべてにおいて異なっている三人は、街を歩いていても、どういった関係性で繋がっているのか全く予想することができないであろう。

 

 しかし、彼らには確かに関係性があるのだ。この秋津の街を騒がしている聖杯戦争に関わる陣営の者たちであるという共通の話題が。

 

 そう、この場に集った三人―――遠坂煉、一宮梓沙、勢至姆典嗣にとって、この場における会談はこれより先の秋津の未来を占う意味でも重要な意味を持っている。

 

「既にキャスター陣営はマスターである鷹司唯一の制御すら効かずに、いつ、暴走を始めてもおかしくありません。いまだ本格的な攻撃態勢に入る前に、根源であるキャスター、あるいは鷹司唯一を殺すことが出来れば、唯一神理教の暗躍、加えて秋津市の混乱を最小限で防ぐことができるはずです」

 

「無論、分かっているとも。聖杯戦争に関わりなく、我らが秋津の土地にて邪教を広める者たちはいずれ排除しなければならないと考えていた。秋津の管理者として当たり前のことを為した上で、神祇省の協力までもを得られると言うのならば、私に異論はない。可及的速やかに。そうだな―――2日後には、結果を出して見せよう」

 

「しかし、単純な襲撃では王にまで辿り着くのか? キャスターとて武装集団として相応の戦力を用意しているはずだ」

 

 典嗣の問いに梓沙はまるで能面のように、目を細め、感情1つ見せない様子で、いつもの彼女とは思えない言葉を口にした。

 

「総本山にはライダー陣営のマスターが潜んでいます。彼女を囮に使って、私が唯一を暗殺します。遠坂様には、志士たちの注意をひきつけること及び可能であればキャスターの討伐を」

 

「何が起こるのかわからない以上、マスターとサーヴァント、どちらも排除するのが適切だ。教祖であるあの男が不慮の事故で逝去してくれれば邪教も求心力を失うことだろう」

 

 梓沙の本命が自分であることを理解している煉からすれば、拒否する理由はない。自分で口にしたように、此度の協力は見返りとして、神祇省の協力を得ることができる。過去より続く機密保持のための武闘派集団である彼らの力を借りることができる意味は他の陣営が考えている以上に大きい。

 

「しかし、わかっておりますな、典嗣殿。貴方の飼い犬に後ろから噛まれたとあれば、我々も安心して前を進むことはできない」

「………わかっている。奉の手綱は俺が必ず握っておく。うちの連中は聖杯戦争なんてものは関係ねぇ。むしろ、あいつの行動は諌めなくちゃならねぇもんだ。曲がりなりにもあんたや表の連中と共に築き上げてきた秋津の平穏ってもんをあいつは乱そうとしている。組を預かる者として放置はできねぇさ」

 

 煉は典嗣の言葉に笑みを浮かべる。それは彼が最もこの場で欲していた事実上の陣営としての優劣を決めるに等しい言葉であったからだ。

 

「ありがとうございます。勢至姆組はこれまでも長きにわたり、この秋津を遠坂同様裏から守ってくださいました。不幸な行き違いが組の中で起こったこと、心中を理解するには余りありますが、全てが終わったのちには私からも神祇省や秋津のお歴々には口添えをさせていただくつもりです」

「寛大な処置痛み入る……」

 

 遠坂煉は唯一神理教も勢至姆組も等しく、自分の土地を穢す社会の悪であると考えている。だが、潰すだけが戦争というワケではない。

バーサーカーを連れて参戦した勢至姆組は明らかにやりすぎた。猟奇事件を引き起こし、次から次へと犠牲者を出すことで秋津市を恐怖の街というマイナスイメージを全国に植え付けてしまった。

 

 すべてが終わった後にはしかるべき処置が下されるのは目に見えている。組長である典嗣以下主要な構成員は総てがその責任を取らされることとなり、組そのものが潰される可能性もある。

 

 キャスター陣営を潰し、そのままバーサーカー陣営そのものを瓦解させることが出来れば、戦後の処理にて自ら口添えする。遠坂煉の言葉は、世の中の甘さも苦さも知り尽くしている典嗣からすれば救いであっただろう。加えて典嗣にとっては、もう一つの魅力的な提案もある。

 

「勿論、バーサーカー陣営が此度のキャスター討伐に横やりを入れないで頂けるのであれば、我々としてもありがたい限りです。九重円華の身柄はキャスター討伐後に、勢至姆組にお預けすることを約束しましょう」

「組が救われ、余所からのメンツも保つことができる。そこまで言われて拒否が出来るほど、こちらには手札がない。お二人の話し、ありがたく受けさせていただく。どうか、勢至姆組存続のため、力を貸していただきたい」

 

 典嗣は頭を下げる。この秋津の街の三大勢力とまで謳われた組織のトップが、同じくトップである遠坂煉へと頭を下げた。

 それは事実上の降伏宣言に等しい図式であった。

 

(ごめんなさい、円華さん。私は貴女を使い潰すつもりでいる。でも、私は貴女の友人である以上に神祇省の人間、何があろうともキャスターを潰す。そのためならば、多少の犠牲は厭わない)

 

 初めて本堂の中で顔を合わせた時に、彼女が胸を撫で下ろすような表情を浮かべていたことに本人は気付いていただろうか。

梓沙の心が痛まない筈がない。けれど、既に最低でも一人の人間を殺害しなければ終わらない状況にまで追い込まれている彼女にとって、破滅させる対象が一人であろうが二人であろうがさして変わらない。

 

「しかし、驚く物ですな。この夜景の中で、15年前と同じく聖杯戦争が行われているとは」

「そして、その参加者の一人は、我関せずとばかりに、サーヴァントも連れずに此処に来ている」

 

「真正面から戦うことだけが全てではありません。我々はこの秋津の街で相応の経験と知識を得てきました。社会的な立場もあるでしょう。子供には子供の想いが。大人には大人の想いがある。しかし、子どもを裏切ってでも、時として我々は実利を取らなければならない」

 

「あんたのことは先代の頃から見ちゃあいるが、末恐ろしい相手に成長したもんだ」

「お褒めに預かり光栄です。いずれ、我が息子も私と同じように遠坂の名を背負って立つ男に成長するでしょう」

 

 会話を続けながら、煉の片目は目の前ではない他の場所を見ていた。そこは先ほどまで戦闘が行われていた繁華街の入り口付近、人知れず配置されていた使い魔はここで行われていた戦闘の総てを煉に伝えていた。

言うまでもなく、ランサー陣営、七星桜子と蓮司が彼らの年代らしい甘い関係を築き上げていたことも。

 

 煉がこの場で生み出していたものが冷徹な大人の関係であるとすれば、蓮司が生み出した者は子供らしい甘さに溢れた関係であると言えよう。

 

(七星の娘も聖杯戦争に参戦したか。そして、蓮司、お前は私にそれを黙っていた。いいとも、お前はお前らしく闘っていればいい。それが結果的に私の勝利に繋がるのだから)

 

 道筋は見えてきた。遠坂煉という人物をこの聖杯戦争の頂点に立たせるための流れが生まれ始めてきていることを自覚する。

 

(キャスターを潰せば、ライダーとバーサーカーは問題ない。アサシンとランサーは素人である以上、あとはいかにセイバーを倒すかだ。エーデルフェルト、やはり最後は私とお前たちとなるか……)

 

――秋津市東側・住宅街・七星家――

 その後、蓮司君やセレスさんと別れて、家へと戻ったあたしは、まずはお父さんにどやされて、説教されて、戻ってきたことを喜ばれて、そして早く寝るようにと言われた。

 うん、まぁ、当たり前のことを当たり前に言われただけなんだけど、心はそう簡単に今日のことを受け入れているわけじゃない。寝付けないと言うのが正直なところだった。

 

 どうして、自分が突然魔力を行使することが出来たのか。どうして自分の魔術が当たり前のようにあたしの学んできた剣術にリンクしていたのか。

 あの時は身体の熱に従う形で生み出した刀を振るっていただけだけど、その疑問は自分の中で深まっていくばかり。偶然という言葉で片付けるにはあまりにも都合が良すぎるだろうと思えたのだ。

 

 ただ、その疑問だけで寝付けないわけじゃない。わからないことはわからない。だから、深く考えても仕方がない。そう思えば、とりあえず、今日は保留にしてまた明日! そう思うことは出来た。

 寝付けない理由は別にあって、結局、あたしは部屋を抜け出して、足を一歩一歩進めていくごとに、ふわっとした思いは確かな気持ちへと変わっていく。

 

 そして、足を運んだ七星流剣術の道場の扉を開くと、そこには私が来るのを分かっていたかのように、ランサーがお父さんに習ったのだろうか、正座で座っていた。

 

「来るような気がしていました」

「寝れなくって……それに私もだよ。いるかなと思って」

 

「ただ、桜子、貴女が何をするために此処に来たのかはわかっていません。予想できることはいくつかありますが、できることならば、貴女の口から直接聞かせてほしい。

 貴女は―――此処で何をしたいのですか?」

 

 ランサーと私の視線が重なる。虚飾も見栄も関係なく、此処に来た意味を彼女は問う。そうすること自体が、ある意味で既に答えに行き着いている行為であったとしても、あたしの口からそれを言うことに意味があるのだと彼女は考えているのかもしれない。

 

「―――稽古をつけてもらいたい!」

 

 だから、あたしも自分が思っていることを率直に口にする。今までは出来なかったこと、出来るようになったこと、手に入れたことで見えてきた先があるのだから、その先に至るために手を伸ばす手段を知らないふりは出来ない。

 

「あたしは強くなりたい! ロイが戦っている最中に言った通り、手に入れた力であたしは勝ちたかった。でも、さっき力に目覚めたあたしにはそんなことはできなくて、今からゆっくり学んだところであの二人や蓮司君に追いつくことができないってわかっている」

 

 準備の時点であたしは圧倒的に負けている。今から魔術の基礎を学んでなんとことをしていたら、聖杯戦争は終わってしまう。正道を歩んでいるだけでは追いつけないと分かっているのなら、それ以外の何かを模索しなければならない。

 

「だから、マルテルさん―――あたしに稽古をつけてもらいたい!」

 

「それはマスター、あなたもあのエーデルフェルトの兄妹のように前線で戦うと言うことですか? サーヴァントの後ろで指示をするのではなく、貴女は私と肩を並べて戦うことを望んでいる。そう理解し、その覚悟があると思っていいのですね」

「…………」

 

 ランサーの言葉は静かに丁寧な口調で口にされたけれど、とても強い圧が存在するように思えた。嘘は許さない。そして後に言葉を翻すことは許さない。そんな空気を感じさせる言葉にあたしは……、

 

「うん、あたしはマルテルさんと一緒に戦いたい。あたしに魔術の力があって、聖杯戦争に巻き込まれたのが偶然じゃないのだとしたら、ただ守られるばかりじゃなくて、あたしもあたしの運命に立ち向かっていきたい!」

「――――わかりました」

 

 ガンと響く音に私の全身が震えた。道場の中心に立てられたマルテルさんの槍、通常の戦闘で使う時よりも、心なしか小さなサイズになっているように思えたのも束の間、道場にいたはずの私たちの周囲、その風景が一瞬にして変わり、彼方に時代がかった王宮を見据える石造りの広場のような場所へと変わっていた。

 

「ここは私の心象の中、あの槍を中心として、この場では時間が動くことはありません。事象を展開しておくことができる時間そのものは有限ですが、外で経過する時間の数倍の時間を使う事が出来ます」

「凄い……」

 

「さて、何故、このようなことをしたのか、理由は解りますね。桜子。強くなるには時間がない。だから、貴女は私と立ち会うことを求めた。しかし、それでもあなたの言う言葉が真実なのです。鍛錬とは時間を掛けなければ意味がない。であれば、時間を伸ばしてしまえばいい。さぁ、始めましょうか、桜子」

 

 手を握り、魔力の感覚を確かめる。まだ、あたし自身もよくわかっていない感覚、でも確かにそこにある感覚。

 

「好きに打ちこんできてくれて構いません。私はそれら全て悉く受け止めましょう。その上で、貴女の戦い方を、私達の最適な戦い方を構築します」

「………はい!」

 

 わからないことは無数にある。魔術が使えるようになったことも、どうしてロイたちが私を狙って来たのかも、15年前の聖杯戦争の事も、そして……依然として判然としない動画事件の事も。

 

 でも、今はただ目の前の相手に注目する。この無限に近い有限の時間こそが、私が明日もまた自分の道を進んでいけるのかどうかを決めることになるのだから。

 

 夜が更けていく。そんな感覚も曖昧の中で……聖杯戦争2日目は終わりを迎えたのだった。

 

第二夜『Gathering night』終了―――聖杯戦争終結まで、あと8日

 

―――次回予告―――

「さぁ、ビジネスの時間と行こうじゃないか、アーチャー。ここで俺様を倒すことがお前にとって価値あることか。よぉく考えてみることだ」

 

「ミスター・レンジはミス・サクラコを好いているのですか?」

 

「呵呵、見目麗しき女子どもの中にいるには場違いが過ぎる。ランサー、諦めよ、現世の女子と触れあうそれも、我らの醍醐味であろう」

 

「オヤジ、本物の仁義ってのは何だ? 俺達は俺たちなりにオヤジに仁義を通してきたはずだ。何故、それに水を差そうとする?」

 

「そうか。法則性……今まで考えてもいなかった。あいつらの行動を逆算できるかもしれない」

 

「蓮司、今日は方針を変える。アーチャーとは私が共に出る。今日の相手はお前には荷が重いだろう」

 

「見せてやろう、桜子。未熟なお前にこの兄が、魔術を使った真の七星流剣術というモノを」

 

―――第三夜「Silence night」

 




表と裏、それぞれの勢力図も混沌としてきましたね。
次回は、ここまでのサーヴァントのステータスなど纏めを上げさせてもらいます。

Twitterやってます。UCの更新情報などを載せています
https://twitter.com/kooldeed
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。