――秋津市北側・唯一神理教総本山――
水の滴る音が聞こえる。何かを我慢するような声が聞こえる。けれど、その我慢する声は痛苦に塗れたものでなく、むしろ、何か秘められたものを解き放つことを怖れるような自発的に抑え込んでいるような声だった。
「――――――!」
いつからだろうか、私の目の前では、悪趣味な集会が開かれている。その集会の主役たちは誰もが羞恥の欠片もないように男女ともに肌を晒して、大人数でまぐわっている。
淫悦に身体も心も浸らせている女性たちが誰なのかはすぐに分かった。
昨日、自分と一緒に唯一神理教に入信した人たち、いや、それだけでは数が合わない。おそらく寄宿舎で顔を合わせた人たちもいるのだろう。職業柄、相手の顔を覚えるのは得意だから、なんとなく全く知らない相手であるようには思えない。
彼女たちは皆、私と顔を合わせていた時に浮かべていた沈痛な表情は鳴りを潜め、一心不乱に本堂の中に鎮座する男性たちに縋りつくように自身の裸体を総て見せつけて奉仕している。
信仰の対象のように胡坐をかいて座る男の股倉に顔を埋めて、舌で男の肉棒を舐めまわす女性は、涙ながらに私が口にした嘘と全く同じ被害を受けて、心に傷を負ったと口にしていた。
本堂の中で反響する声が聞こえる。男に背中から圧し掛かられて、自分自身で自由に身体を動かすことが出来ず、主導権を握った男の腰使いに合わせるように激しく腰を動かす妙齢の女性は、昨今の猟奇事件で夫を亡くし、何も手につかないと口にしていたことを覚えている。
甘えるように女性の胸に蹲り、耳元でささやかれるままに腰を動かしている男性は、社会の中で生きていくのが嫌になったと卑屈な態度で言葉を漏らしていたことが思い浮かぶ。
他にも、他にも……皆、誰もが自分の日常に疲れ果てて、この山へと昇ってきた人々が、
この悪趣味なサバトの中で、自分自身の欲望を解放している。救いを求めてきた人たちにとって、こうして肉欲に塗れることこそが、救いに繋がるのだと言わんばかりに。
「………っ」
彼ら彼女たちが浮かべる表情は誰もが幸福に満ちている。苦しみを覚えているわけではない、男女の当たり前の交わり方を逸脱しているにしても、原始的な動物としての本能で、理性をかなぐり捨てれば、快楽が一時の痛苦を忘れさせてくれることを理解している。
それが未体験の出来事であれば、生理的な嫌悪感が勝っただろう、性交渉は愛し合う男女で行うモノという真っ当な倫理観だけしか知らなければ、目の前の出来事は快楽に負けた弱い者たちの行為であると吐いて捨てていたかもしれない。
「はぁっ………んっ」
けれど、この身体はもう何も知らない頃には戻れない。この場に漂う淫らな空気にあてられているのか、視覚的に捉えた光景が否応なしに、自分に対して行われた淫行によって与えられたあの快楽を、身体が良いものであるから思い出せとばかりに、電気信号が身体に伝わり、生理的な反応として身体の熱を高めていく。この空気に自分を染め上げようとばかりに、息が徐々に荒くなっていく。
「嫌、こんなの、私じゃ―――」
「おや、九条さん。貴女もいたのか……」
「あ……」
本堂の中央、自分の身体総てに触れさせるように、周囲に女性を侍らせ、自分の身体総てに同時に奉仕させている男、この宗教の教祖である鷹司唯一は私を見つけ、まるで蛇に視線を向けられたカエルのように、私の身体は自由を失った。
動けなくなったわけじゃない、むしろ、その逆。進む方向を見出したように、私の身体が自由を奪われ、ゆっくりとその淫らな宴の中へと一歩、また一歩と足を踏み込ませていく。
「安心しましたぞ、貴女も救われたいのでしょう。何、不安になることはない。この場では誰もが幸せになることができるのだから」
「んっ、ちゅぅぅ、はむぅ、んぁ、そうですよぉ、まどかしゃぁん、一緒に、ぜぇんぶ、わすれちゃいましょぉ、れろぉっ」
「――――――っ! 梓沙さん……」
唯一と下半身で繋がり、私から見ると背中を向けていた相手が、唯一が言葉を口にしたことで、唇を離し、私へと視線を向けた。梓沙さんだった。
見たこともないようなとろんと垂れ下がった眉と焦点の定まらない瞳は、私と此処で出会った時のような意志の強さなんてまったく感じさせない。
この場を誰よりも忌避するはずの彼女が、この場で誰よりも適応しているように見えて、身体がより淫らに火照っていく。下半身はじんじんと疼きを抑えることができなくなり、息遣いもさらに荒くなっていく。
右手は望んでもいないのに自然と自分の性器へと触れ、左手で胸をまさぐり、何も触れることが出来ないのが切ないとばかりに、自分で自分の身体を慰め始めている。
「んちゅぅ、ゆいーつしゃまぁ、わたしのよこぉ、よろしいれすかぁ?」
「ああ、構わんとも。共に幸福を分かち合おう」
「うれひぃです、まどかしゃん、さぁ、ここへ、一緒にゆいーつさまに、すくってもらいましょう、ん、れろぉっ、ぶじゅるっ……」
下半身が互いに離れ、今さっきまで自分の中に入っていたその逸物を、愛らしい子供を抱くように両手で触り、次に下で濡れそぼった男の象徴を舐め上げていく。
舌と顔を丁寧に動かしながら、下半身だけを動かして、股ぐらの間にもう一人が膝を下ろすことができるスペースが生み出される。その特等席が誰の為に用意されているのかは、言うまでもなく――――
「さぁ――――共に、神の御前で救いを与えられましょうぞ」
その言葉に導かれるように私の身体が、唯一の足元へと寄り添い、意思とは反対にこれより行われる所業への期待に身体全体が期待から生まれる仄かな香りと汗を漂わせ、そして、表情までもが救いを求めて媚び諂う牝へと変わり果て――――
「嫌っっっ!!! ―――――えっ?」
その場から解放されたいという思いだけで、口から飛び出した叫び声と共に目の前が一気に真っ白へと変わり、次に視界が開けた時には、寄宿舎の天井と、私にあてがわれたベッドがあった。
そこに眠っていたはずの自分が今しがた起きたことを理解して、私は気が動転したまま周囲を見渡す。何も変わりはない。あの淫らな空間はこの場のどこにも存在していない。
「………夢、だったの?」
はぁ、と思わず安堵の息を零す。それから、すぐに自分があんな夢を見てしまったことへの後悔が浮かび上がり、思わず頭を抱える。
「うっ………、下着も履き替えないと………」
気分にあてられたのか、それとも身体自体の反応なのか、下着は薄らと濡れていて、それが何でそうなったのかは敢えて考えないことにした。深く考えたら、絶対に後悔すると思ったからだ。
「まさか、本当にあったわけもないよね……」
あれが夢じゃなくて、全てが終わった後にこうして眠っていたのだとしたら、そんな悪夢めいた考えが頭に浮かび上がるけれども、流石にそれはないだろうと首を横に振った。
「円華さん、どうかしましたか! なんだか、叫び声が聞こえたように思いましたけど…!」
「あ、梓沙さん!? だ、大丈夫、ちょっと悪い夢を見ちゃっていたみたい!」
隣の部屋にいたのか、梓沙さんが顔を出し、心配そうな表情を向けてくれた。その表情が夢の中に出てきた彼女の表情と頭の中で重なりかかってしまい、必要以上に慌ててしまう。
「ちょっと、魘されて汗をかいてしまったみたいだから、整えて来るわ。ごめんなさい」
「そう、ですか。まぁ、こんな毒そのもののような場所にいれば気分が悪くなるのも仕方ないですもんね。わかりました。準備が出来たら、声を掛けてもらっていいですか?」
「ええ、ありがとう」
バタンと再び隣の部屋の扉が閉まる。納得してくれたのかはわからないけれど、怪しまれないようにするためにも、準備を早く済ませよう。
自分の悪夢に付き合わされて、濡れそぼった下着を脱ぎ、改めてシャワーを浴びる。シャワーから飛び出してくる熱い水滴が自分の身体に張り付いていた嫌な思い出ごと、拭い去ってくれるような気分だった。
これで本当に何もかもが流されてくれればいいのにと思ってしまう。此処から出れば、慎夜君は普通にいて、聖杯戦争なんてすべて終わっているとすれば、どんなに幸福なことか。
(でも、その幸福は何処までも私の都合のいい妄想に過ぎない。本当に掴みたい願いがあるのなら、自分で掴みとらなくちゃいけない)
夢の中とはいえ、安易な救いと欲望に自分の身を委ねていた信者たちの姿に反発心を覚えていた以上、それは私のやり方じゃない……!
シャワーを浴び終えて、部屋に戻ると、隣の部屋での仕度を終えたのか、ベッドに腰掛ける梓沙さんと顔を合わせた。
「昨日はごめんなさい、もっと色々と詳しく話をしようと思ったんですけど、組織の方と先に状況を確認し合おうと言う話になりまして」
「ううん、私達がこうして出会ったのも偶然なんだから、大丈夫よ。私は梓沙さんの力を借りないと、ここから先、どうすればいいのかもわからないわけだし」
身の回りの準備をこなしながら、梓沙さんと言葉を交わしていく。今日からは本格的にキャスター陣営を倒すための何かをしなければいけない。
コルテスの口ぶりからしても、あまり時間を掛けてはいけないのは分かっている。だからこそ、準備を続けながらも、自分でも覚悟そのものを決めなければいけないだろうという思いが強まってきていた。
「それなんですが、円華さん。私から1つ提案したいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
「ええ」
「実は、昨日、聖杯戦争の参加者であるアーチャー陣営よりキャスター陣営を倒すために力を貸してほしいと組織を通して言われました」
「アーチャー陣営が……?」
確か、コルテスが口にしていた。遠坂家、この秋津市でも有力な名家だ。彼らは昔からずっと魔術師の家系であったらしく、今回の聖杯戦争でも有力な候補であると言う話だったか。
「私はこの提案に乗ろうと思っています。提案に乗れば、明日、アーチャー陣営がこの総本山を攻めます。そして、そこで内部にいる私が唯一を討つつもりです。円華さん、この提案、貴女も参加しては戴けないでしょうか?」
「そうは言っても、私に魔術についての事は出来ないわよ」
「どんな方法でも構いません。唯一の気を引く役割の人間が必要です。何せ、この総本山はキャスターの配下によって固められています。いかに外部からの攻撃に晒されている中でも、内部の守りを全て無くすわけではないでしょうから、内部からも引っ掻き回すことができる存在が必要です」
「それで、私か。確かに中には言っている以上、もしものことがない限りは、戦えなくてもイイってことね」
「相当に危険な橋を渡っていただくことにはなりますけれど」
「………少し、考えさせてもらってもいい?」
「はい。ただし、決断は今日中にお願いしてもイイですか?」
わかったと首を縦に振る。アーチャー陣営と協力をすると言うのならば、ライダーとも歩調を合わせておいた方がいい。私の失敗は、陣営としての失敗になって、慎夜君を救うための方法が無くなるなんてダメだ。
「今日は一日、信者として当たり障りのない時間を過ごしてください。ただ、出来る限り、帝との接触だけは避けてください。あれは……、知らずのうちに私達の心を変えてしまう呪いそのものですから」
「心を……?」
「ええ。円華さんと一緒に入ってきた信者たちがすっかりこの宗教にハマりこんでいるのわかりませんか。あれは唯一が召喚したキャスター、『孝明天皇』の力で間違いないです。天皇が日本における神に最も近しい存在であるがために、日本人に対して絶対的な力を発揮しますから」
「ちょっと待って、天皇って! 聖杯戦争ってそんな相手も召喚できるの?」
「理論上、過去の歴史に刻まれた英霊であれば誰であろうと召喚すること自体は可能です。鷹司唯一の場合はその過剰な外国人排斥思想が、尊王攘夷運動に傾倒していた孝明帝と激しく結びついたんでしょうね。最悪の組み合わせと言えばそれまでですが……」
天皇、この日本における象徴である王、聖杯戦争という戦いが過去の英霊を強烈に強い英霊として昇華させるとすれば、非常識極まりないことではあるけれど、納得できないわけでもない。この日本で日本由来の神を除けばもっとも、位の高い英霊と言っても過言ではない。
「でも、どうして私は無事なの……? 梓沙さんはこういう問題に対してプロだからわからないわけでもないけど、私は聖杯戦争のマスターとはいえ、魔術については素人も同然。正直、キャスターの呪いに適応するための方法なんて持ち合わせていないと思うんだけど……」
「そこは確かに不思議な点なんです。私も円華さんが正気を保っていたからこそ、声を掛けたわけですけれど……こればっかりは幸運だったと思っておくしかないんでしょうか」
幸運か、案外、本当にそうなのかもしれない。ここまで無駄に不幸ばかりが募って来たから、そのお返しがここに来て、降りかかったと考えると、それはそれでありがたみを感じることもできるわけだし……
「そういえば、前から一度聞いてみたかったことがあったんですけれど、いいですか? 全然聖杯戦争とは関係ないんですけれど」
「ん? 大丈夫よ。私に答えることが出来る事なら……」
「円華さんって、昔、TooTubeで配信をしていたじゃないですか。実は私、結構ファンだったんです」
「本当に、嬉しいな!」
本当に聖杯戦争には関係のないことだけど、そう言ってもらえるのは嬉しかった。テレビとか手紙とかネット越しじゃなく生の好意的な言葉を受けるのは誰だって嬉しい。それは自分がどんな地位に行った所で変わらない。
「だから、配信を止めた時はショックだったんです。どうして、やめたんだろうって。まさか、有名になったからやめちゃった?とか思ったけれど、実際に会ったことのある円華さんはそんなタイプには見えなくて……、だから、ずっと疑問だったんです。どうして配信やめちゃったのかなって……」
「あぁ……うん、ありがとう。そうだよね、同じような意見は当時、何度か言われたな」
私がTooTubeで行っていた配信は別に仕事とは何の関係もない、私がやりたいことをただやっているだけの動画で、別に視聴者数とか気にしていたわけでもない。
単なる暇つぶし、あるいは素の九重円華を表現することができる場所が欲しかったってところだった。当時は女性がそういう配信をするのは珍しかったし、自分で言うのもなんだけど、容姿が良かったおかげもあってか、人気は出た。結構な視聴者数を稼いだこともあるし、今でも時折、復帰をしないのかと囁かれることもある。
「私は自分のやりたいことを自分の責任でやっているつもりだったの。でもね、いつからか、女優の九重円華に変わっていて、自分自身の総てを表現できなくなってしまったんだ。事務所の方針、スポンサーの意向、いろんなものに雁字搦めにされちゃって、私がやりたい配信って何だったんだろうと思ってね、きっぱり辞めちゃった」
私は女優としての九重円華でありつづけなければならない、そう自分に言い聞かせるために逃げ場を断った。周りからすれば下手に炎上しかねないものを本人が辞めてくれたのだから、何も文句を言う道理もなく、楽しみにしていた人たちだけを置き去りにして、私の過去の一つは閉ざされた。
「そういうことだったんですか」
「うん、本当は……そんな毎日が嫌だったのかもしれない。今こうしてこの街にいるのだって、現実逃避の一つに変わりはないのかもしれない。色んな人に迷惑を掛けて、もう引き返せないところにまで来てしまえば、嫌でもそう決断するしかないってそんな風に思ってしまっているのかもね」
世の中では九重円華が失踪したって噂が誠しなやかに流れているらしい。この街にも当然、私を見つけようとしている人はいるだろうけれど、コルテスの部下が目を光らせ、挙句の果てにこんなところに踏み込んでいるとは考えないだろう。
(九重円華が唯一神理教信者なんて報道されたら、大スクープになっちゃうね。賠償金取られちゃうかも……)
どうせ駆け落ちするつもりだったのだから、そのくらいのスクープをされた方が楽かもしれないなんて考えてしまうのはいけないことだろうか。
そう考える余裕を生み出すためにも総ては聖杯戦争に勝たなければいけない。身支度を終えて、私も動きださなければいけないだろう。
「梓沙さん、今日なんだけど、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」
「手伝ってほしいことですか?」
・・・
「ほう、それは興味深い話だな。本当なのかね、九条殿」
「はい。その、本当にちょっと聞いただけなんですけれど、私を襲った男が確かに自分は人間じゃないとか、だから何でも許されるんだって言っていたのを、久坂さまと話した後に思い出して……」
梓沙さんにお願いして協力してもらったこと、それは昨日、コルテスより直々に命令してきた自分自身をキャスター陣営に襲撃させるように仕向けろと言う話であった。
無論、私だけがいきなり言った所で話にならないと思った。何せ、私はただの信者、唯一やキャスターの下に辿り着くことは出来ず、与太話と思われてしまえば状況のコントロールもできない。
だから、梓沙さんに協力してもらった。私を信用させるための行動なら手を貸すこともやぶさかではない梓沙さんの手腕もあってか、唯一と昨日、私に話しかけてきた久坂という男の二人と話をする機会を与えられた私は、昨日の話の続きという体でコルテスのことを話し始める。
疑念は多少出てくるだろうが、実際に襲われたことは事実であるわけだし、あとは演技で信じ込ませるしかない。
「ほんとうは思い出したくもなかったんですけれど、久坂様たちの力に、少しでもなることが出来れば……唯一神理教の力に少しでもなりたいと思って、ごめんなさい。もっとちゃんと覚えていれば……」
「おぉ、そう気を落すでない。九条殿、心に傷を負った記憶をよくぞ思い出してくれた。その行いは必ずや我らが神へと届く。我らが神は信奉する者に対して等しく慈悲を与えてくれる。そなたにも必ずや我らが神の救いが降り立つことだろう。安心されよ……、そなたは正しいことをしているのだ」
「正しい、じゃあ……解決しますか? 私を襲ったあのよくわからない人を退治、してくれますか……?」
不躾に私に寄り添い、その悲嘆な気持ちを共有しているとばかりの唯一へと問いを投げる。彼は聖杯戦争のことを理解しているのかもわからないほどに感極まっていて、敬虔な信徒を演じている私に感動している様子だった。
正直、唯一自身を信用させることができる自信はあった。実体験を伴った演技で、素人を欺くのは容易い。問題は、もう一人の男、明らかに私に対して何らかの疑念を抱いているこの男、久坂を欺くことができるかどうかであるのだが……
「ふむ。疑念はある。例え英霊と言えども、そうした火遊びの類で己の素性を明かすような者がいるのかどうか。我々はいずれ来たる時の為に今は雌伏の時を過ごす身。大事の前の小事のために動き出すことが必ずしも正しいとは言えない」
疑念は最も、だけど、実際にそういう行為に及んだ英霊はいる。はっきりと言ってやりたいけれど、我慢するしかない。
「しかし、我らは唯一神理教として一つになることを決めた。であれば、鷹司殿、私は貴殿にその判断を委ねようと思う」
「私が、しかし、帝の意向こそが最も重んじられるはずでは……」
「確かにその通りではあるが、このような問題に帝の判断を求めているのでは、何事も進みはしないだろう。唯一殿、アナタは我らの同志であり、同時に教祖でもあるのだ。であれば、その決断を我々は支持するのみです」
「…………」
「久坂様」
梓沙さんも何か不審に思ったのだろう。キャスター陣営は明らかに唯一をマスターとして考えていない。自分たちで行動し、自分たちでその方針を決めて暗躍している。しかし、今回、この場でいきなり唯一にその決断を求めたこと、それがどこか不自然さを感じさせるのは、どういうことなのだろうか……。
「無論、我らが信徒に仇為す者を放置しておくことなど出来ぬ。久坂殿」
「承知しました。――――以蔵、半次郎」
「御意」
「任せちょけぇ」
瞬間、どこからともなく聞こえてきた声が一瞬にして姿を消し、何者かが動き出したことだけが分かった。
「少し手荒な結果になるかもしれませんが、あなたの悔恨は必ず果たして見せるとしましょう、九条殿」
「あ、ありがとうございます……」
これで、彼らはコルテスの下へと向かうだろう。そこで出会った相手がサーヴァントとなれば、相手もこちらを信用するに足りる一つのカードとなりえる。もっとも、それだけで全てが終わると考えるのはあまりにも早計かもしれないが……
(後は何よりも問題なのは、これで負けてしまったら、何もかもがおしまいって事。私にこれだけのことをやらせているんだから、生き残りなさいよ……!)
自分にとって憎らしい相手の応援をするようではなはだ尺ではあるけれども、負けてしまったら共倒れもいい所である以上、そう祈るしかない。
3日目の朝、今日という日がどう動いていくのか私のこの行動が、大きく私たちの陣営の方向性を変えることになるのを、この時の私は想像してもいなかった。