※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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今回はセイバー、バーサーカー陣営視点です。


亀裂の始まり

――秋津市中央部・電波塔周辺・駅前ホテル――

「セイバーの損耗状況は私と兄様の魔術によって回復しました。継続戦闘に支障はありません。その上で、各陣営の素性を確認することが出来ました。初戦の戦果としては十分であったでしょう」

「ああ、どの陣営も中々に面白い陣営だった。まさか、マスター相手に魔術を破られることになるとは正直思っていなかったよ」

 

 駅前ホテルの朝食会場、昨日と同じように、純白のテーブルクロスが敷かれ、その上に配膳された色とりどりの朝食に手を付けながら、セイバーのマスターであるロイ・エーデルフェルトとリーナ・エーデルフェルトは会食を行っていた。

 

 聖杯戦争に参戦しているマスターがこのように無数の人間たちが集まる場所で優雅に朝食を楽しんでいること自体が異常であると揶揄されるかもしれないが、ロイからすれば、エーデルフェルトという家名を背負って参戦している者として日陰に隠れている方が家の名前を穢していると言う考えである。

 

 堂々としていればいい、魔術の名門として、遠坂、マキリ、アインツベルンに次ぐ聖杯戦争の参加者として、誇りある者であることを信条として、彼らは彼らなりの在り方を何ら変えることなく過ごしている。

 

 最もリーナとしては、ロイの考え総てを認めているわけではないのだが、言って治る小言と治らない小言くらいは、20年以上も離れることなく過ごしている以上、充分に理解している。初日に言って、2日目に治らなかった時点で諦めているというものだ。

 

「それで、兄様。今日の行動ですが―――」

 

「七星桜子、七星のマスターは俺達エーデルフェルトにとっては、倒さなければならない怨敵ではあるが、いやぁ、なかなかに面白かったね。対魔術師特化の一族であると言うのは前情報として聞いていたし、正直期待外れのまま終わってほしくはなかったと思っていたが、まさか、俺の魔術を正面から切り伏せるとは思っていなかった」

 

「…………」

 

「魔術を使いこなせるようになってから、すぐに魔術に適応して身のこなしを整えることが出来たと言うのも驚きだったな。魔術に目覚めたところで自分の中にない感覚と戦うこととなり、何もできないまま終わってしまう事もあるが、彼女の場合はそれに適応して見せた。血の為せる業か、本人か自覚していないだけで、修練を積んでいたのか」

 

「………兄様」

 

「ランサーとの魔術のぶつけ合いも楽しかったな、やはり過去の英霊ともなると我が魔術を正面から使っても防がれてしまうと言うのは、プライドを傷つけられると言うよりももはや笑うしかなかった。あれほどまでの完膚なきまでに叩き伏せられてしまうと、もはや全く別の生き物として考えるしかなくなってしまうな」

 

「ちょっと、兄様……!」

 

「何にしても実に再戦が楽しみだ、今度はこちらも全力で行くとしよう。七星の魔術師特化の刃と我がエーデルフェルトの流体制御、どちらの魔術が相手を上回るのか、そうだな、今度はリーナも桜子と魔術を競い合ってみると――――」

 

「私はあんな小娘に負けたりしません、兄様は私と七星桜子、どっちが大事なんですか!!」

 

 バンッと机を叩き、椅子から立ち上がる音に周囲の視線が一気にリーナへと向けられる。感情のままに行為に及んだリーナはハッと自分の行為を理解し、ペコペコと頭を下げると静かに椅子に座った。

 

「リーナと桜子どっちが大事かなんて、そんなのリーナに決まってるだろ、比較するまでもない」

「無言で流してください! そう言われるのは嬉しいですけど、蒸し返さないでください……」

 

 何事もなかったかのように食事に戻るリーナに、訝しむロイ。どうしてあんなことを言ってしまったのかは感情のコントロールが出来ていなかったからに違いないのだが、それにしたっていつもなら、こんな苛立ちをぶつけたりはしない。

 

(兄様はサーヴァント相手にも立ち回ることが出来ていた。七星桜子はそんな兄様の魔術を破っていた。私は遠坂の魔術師相手であったとはいえ、倒すことにまでは至らなかった)

 

 ロイからしてみれば蓮司を足止めしてくれていただけでもリーナは十分に働いてくれていたのだろうが、リーナにとっては満足いく展開であったとは言えない。

 

 もしも、あそこで自分が蓮司を倒していれば……、桜子との戦いに早々に参戦していれば……、昨日の時点で聖杯戦争の流れを進めることが出来たかもしれない。

 

 聖杯戦争の完全勝利を目指すエーデルフェルトにとって半端な展開は求められていない。故にリーナにとって決して看過できる展開でもなく、その苛立ちは知らず知らずのうちに浮かび上がってきてしまうモノであった。

 

「リーナ、あまり自分を追い込むな。昨日、目立った戦果を上げられなかったとしても、それはリーナが悪かったからじゃない。むしろ、俺が楽しんでいたからだ」

「まぁ、それは否定しませんけど……」

 

「だから、リーナはいつも通りに俺を叱りつけてくれていればいい」

「好きなんですか、罵られるの」

 

「妹が曇った顔をするのに比べれば遥かに好きだね。気遣いとかできるタイプじゃないからな、俺は。結局、自分のやりたいようにやることしかできない。リーナには負担を掛けてばかりで済まないが、そう割り切ってくれた方がいい。

大丈夫だ、最後には必ず帳尻は合わせる」

 

「そういう言い方が一番兄様らしくて、ダメだと思うんですけど……」

 

 互いに20年以上も一緒にいるのだから、どんな言葉を求めているのかもわかる。ロイ自身がいかに人の気持ちがわからなかったとしても、リーナの気持ちを察することができないわけではない。それだけの時間を互いに過ごしているのだから。

 

「まずはこの時間を楽しもうじゃないか。その上で、今日をどうするか、だろ?」

「………はい」

 

 不承不承ながらもリーナはロイの方針に頷く。どれだけ小言を並べても結局は兄に言いくるめられてしまうのだから、自分も大概だなと思いつつ、地味に自分のコトを気遣ってくれる兄に安心しているのだから。

 

――秋津市西側・繁華街。勢至姆会事務所――

「おい、俺の聞き間違いか、なにかか?もう一回言ってくれねぇぁ、オヤジ!」

「何度聞きかえそうが答えは変わらねぇよ、奉。おめぇが俺に無断で若いの使ってやってる小金稼ぎ、いますぐ全部手を引けって言ってんだよ……」

 

 朝から昼にかけての時間、組員の多くが事務所へと集まり始め、組としての1日が今日も始まろうとしていた頃合、勢至姆組内部に走るのは静かではあれども、いつ弾けてもおかしくない導火線のごとき火花だった。

 

 組長である典嗣の席の前に立ちはだかり、怒りと困惑のまなざしを向けているのは若頭である神丘奉。典嗣にとっての腹心の部下ともいえる男は、いまや、組に敵対する相手へと手を出す時と何ら変わらない表情を浮かべて、典嗣が口にした命令へと真っ向から反発の意志を見せた。

 

 二人を対立させる火種となったものは、典嗣が口にしたとおり、ここ数日の奉を首班とした組内部で行われている行動に他ならなかった。

 

 猟奇事件の撮影を行い、それを匿名の形で全国に晒し上げ、その動画に誘い込まれるように外部から半グレの者たちが次々とこの街に押し寄せている。典嗣も昨日までは奉が何の目的でそれを実行しているかについての確信を持つことが出来なかった。

 

 しかし、昨日と今日では状況が全く異なっている。典嗣は遠坂煉、一宮梓沙との会談を通して、奉が聖杯戦争へと参加していることを知っている。そして、奉の行動が聖杯戦争に何らかの形で関係していることも。

 

 典嗣はその理由を問いただすことはしない。奉が正直に口を割るか嘘を吐くかもわからないのだから、目的の正誤はこの際どうでもいいことだった。

 

 必要なことは奉と若手衆の暴走を止めて、早々に勢至姆組が聖杯戦争から手を離れることだけだ。遠坂、神祇省との密約を守りぬけば勢至姆組が取り潰されることはない。

 

 遠坂煉は確かに唯一神理教や勢至姆組に対して思うところはあるだろうが、あれは大人だ。自分にとって最も利益のある選択肢とは何であるのかを判別し、その為に自分の意志を押しこめることができる男であると典嗣は会談の中で理解していた。

 

 だからこそ、組を預かる者として、この街に生きる一人として、典嗣が選択をするべき行動は定まっていた。例えそれが、子どものように可愛がっていた男の夢を潰すことになろうともである。

 

「理由も言わずに、はい、そうですかと納得すると思ってんのか。俺はァ、オヤジに迷惑をかけたつもりはねぇぞ」

 

「理由? 言わなくちゃわかんねぇのか? テメェがやっていることで、この街の治安が日に日に悪くなっている。それで迷惑を掛けていねぇ、だぁ? 奉、テメェはこの組で若頭なんて身分やっている間に仁義ってもんを忘れちまったみてぇだなァ」

「仁義ィ? 仁義と来たかよ、なぁ、オヤジ!!」

 

 ドンと典嗣と奉を隔てる机に拳が叩き付けられる。奉の怒りそのものともいえるそれが、狙う相手を誤った様に机に叩き付けられたのだ。当然、あえて過っていることはいうまでもないが、明らかな反抗であり、組員たちはその様子を固唾をのんで見守るしかない。

 

「オヤジ、本物の仁義ってのは何だ? 俺達は俺たちなりにオヤジに仁義を通してきたはずだ。何故、それに水を差そうとする?

言ったよな、俺はオヤジを裏切るつもりなんざ満更ねぇ。街の連中と釣るんできたオヤジには俺たちには見えていないモノが視えているのかもしれねぇが、俺達には俺達にしか見えないモノもある。それで仁義なんて言葉を口にされちまったら、こっちだって引き際を見失っちまうぞ……」

 

「なら、テメェ、なんで、あんなことをやってる?」

「なんでだと……?」

 

「そうだ、奉、お前が本気で俺達のためにやっているのなら、何を、どんな目的でやっている。ここではっきりと全員に説明して見ろ、できるはずだ。

それができないのなら、それはテメェが後ろ暗いことをしているから言うことができねぇんだよ。俺はお前が後ろ暗いことをやっているんじゃないかと思ってこう言ってんだ。違うってんなら言ってくれ、

 それで俺を安心させてくれよ、奉、お前はオレの自慢の息子なんだからよ」

「…………」

 

 典嗣の反論を許さぬ正論ともいうべき言葉に奉はどう答えるべきか答えに窮してしまう。聖杯戦争のことを話せば、そこには道理がついてくるが、聖杯戦争そのものを理解できる組員がどれだけいるのかもわからない。

 若い連中は総て若頭の命令であるから動いていると言うだけだ。組長と若頭が対立するような事態となれば、理屈無き命令には従わない。

 

 だからと言って嘘をつけば、どこかで必ず見破られる。そもそも猟奇的な動画をわざわざ撮影して流すなどということ自体が組として何の利益を齎すのか意味が分からないのだ。下手な言葉を口にすれば、それで結局のところは一気に理屈が瓦解していくのは目に見えていると言ってもいいだろう。

 

 どちらにしても既にこうして組員を集めさせられた目の前で弾劾されている時点で、奉に勝ち目がないのは明らかなことだった。

 

「……答えられないのか?」

「今はいえねぇ」

 

「そうかよ。残念だな、奉。俺はお前のことを随分と買っていたんだけどな。理由も言えないようなシノギに手を出しているような奴に組を任せておくわけにはいかねぇな。俺にも立場ってものがある」

「だが、オヤジ、信じてくれ。俺は――――」

 

「なぁ、奉。オメェが俺や組のことを想って行動したなんてことはわかっちゃいるんだよ。わかるよ、わかるんだよ、お前の気持ちは。けどな、奉。俺達はガキの意地張りをやっているわけじゃねぇんだ。行動にはそれ相応の理由ってもんが必要になる」

 

 典嗣が口にしていることは決して道理を外れたことではない。ただこの社会の中で当たり前のことを口にしているだけに過ぎない。もしも、それを守ることが出来ないのだとすれば、それは守ることができない存在の心の弱さこそが問題となるのではないか。

 

 秋津市の中で表と裏、双方に顔を売り、上手に世渡りを続けたことによって、勢至姆組はここまで大きくなることが出来た。典嗣自身の顔の力もあって、今ならば組全体が破滅へと向かう道を防ぐことができる。

 

 奉自身の処分は免れないかもしれないが、それでもまだやり直す道を模索することができる道中だ。これ以上進めば、典嗣も、組も、奉自身も後戻りができなくなる。ガキの喧嘩のように、意地を通せばそれですべてが丸く収まるなんて話はない。

 

 大人の面子と沽券というものは、そんな生易しいものではないのだ。一度手を出してしまったら、もはや周囲の総てを焼け野原にしない限りは、必ずどこかで責任というものが降って湧いてくる。

 逃げることができる者などいない。それが嫌なら、最初からやらないしかないのだ。

 

「なぁ、奉。いい加減――――大人になれ。おめぇはこの組織の若頭だろうが」

「―――――ッ!」

 

 吐きだしたい言葉があった。ただ感情のままにぶつけることが出来れば、どれだけ楽であったか。怒りはそのまま暴力へと形を変えて、振りかざすことができる。それを実行することが出来れば、どれほど自分の胸がすくことだろうか。

 しかし、奉の中に残っている理性がその行動に歯止めをかける。

 

(落ち着け、俺がオヤジの為に動いているのは本当の事だろうが、ここでオヤジに怒りをぶつけてどうする。オヤジの言っていることは事実だ、事実じゃねぇか……)

 

 足元を緩めていた自分の失態と言えばそこまでの話しだ。事前に典嗣に総てを語っておき、完全な承認を得ることが出来ていれば、このような日を迎えなかっただろうか。

 

 無理だ、魔術師でもない典嗣に聖杯戦争のことを語ったところでロクに理解しないであろうことは今更検証するまでもない。むしろ、そうであると思っていたからこそ、典嗣に話すことなく始めたはずだ。

 

「ちっ………」

「おい、どこ行くんだ、奉!!」

 

「頭冷やして来るんだよ、どっちにしたってこんなザマじゃまともに話なんてできねぇだろ……」

 

 結局、何かを直接いうことが出来たわけでもなく、奉は典嗣の前から逃げるようにして離れていくことしかできない。それが正しいのか間違っているのかなど関係なく、それ以上に逃げ場が何処にもなかった。

 

 真っ当な理屈で考えれば、聖杯戦争を投げ出すか、総てを擲って己の欲望を通すかどちらかしかなかったからこそ、奉は仕切り直しをするために、自身の風評がどう転ぶのかを分かった上で、有耶無耶にして出ていくことを選んだ。

 

 それそのものが神丘奉という人間の在り方を決定づけるほどに象徴していることに気付かずに。結局、彼は暴力を奮って解決することができない場所で、何かを手にすることなど出来ない存在であると多くの者たちの前で見せてしまったも同じだった。

 

「クソ……格好悪ィ」

 

 組の事務所を出て、繁華街の中を歩きながら自然と口からボヤキが飛び出す。組長との口論の末に飛びだしてきた構図は若い衆たちの間での奉の求心力を大きく落したことは言うまでもない。

 果たして今日の夜から、何人が奉の命令に聞く耳を持つのか、考えるだけでも苛立ちが次々と募ってくる。

 

(いや、そもそもそんなことを考えていられるだけの時間があるかもわからねぇ)

 

 典嗣が奉に対して、どれほどの猶予期間を与えるのかも不明なのだ。もしかしたら、今すぐにでも破門扱いされるかもしれない。組長の言うことを聞かない極道など、歯止めのきかないチンピラ風情や半グレとなんら変わりが無い。

 

(バーサーカーの完成はもうすぐだ、あと少しだけの時間を手に入れることが出来れば、あいつは他のサーヴァントを喰らう事が出来るだけの獣へと変貌する。あと一歩、あと少しだっていうのに……)

 

 そのギリギリのところで横やりが入ろうとしている。バーサーカーによって遠坂もカルト宗教も全て総て潰せてしまうと言うのに、先を見通す事よりも今の自分の立場を守ろうとしている典嗣によって阻まれようとしている。

 

(賭けであるのは間違いない。失敗すれば、俺達は総てを失うことになる。けれど、それが何だ? どうせ変わりやしねぇよ、オヤジ、あんたは自分の周りしか見えていない)

 

 実際の所、勢至姆組の権勢は年を経るごとに弱くなっている。奉とて若頭として現場を仕切っていく中で、勢至姆組に対して独立をほのめかしている連中を何人か観てきている。そういう者たちは次々と裏社会のルールというモノを分からせてきてはいるが、後が絶えないのも事実である。

 

 現代社会というモノが勢至姆組のような裏社会に生きるモノたちを必要としなくなってきたこともあるだろう。唯一神理教のような頭のおかしい連中がはびこり始めてきたこともあるだろう。

 

 理由は幾つもある。自分たちのような連中と釣るんでいること自体が今の社会では悪なのだ。必要悪ではなく絶対悪として扱われ始めたら後は排除されるだけだ。

 この繁華街の中で生きている人間たちの一体、どれくらいが勢至姆組によってこの繁華街の秩序が守られていることを理解しているだろうか。

 

 理解したところで、その恩恵を認めるだろうか。ほとんどの連中はそんな薄汚い恩恵は望んでいないと言うはずだ。馬鹿げている、何も知らない連中が……

 

「このままじゃ組そのものがいずれ潰れる。そうなる前に俺達は権力そのものをもう一度掴まなくちゃいけないってのに」

 

 オヤジは何をヒヨっているのか、戦争をすれば自分たちが負けると思っているのか、逆だ、戦争をしないでいるのはこちらの方だ。それを知らしめてやらなければいけないと言うのに……

 

「わー、お母さん。やっぱり、此処は楽しいねー」

「ほらほら、あんまり遠くに行っちゃダメよ……あっ!」

 

 ドンと前を見ずに走り回っているガキが足元にぶつかってきた。母親がすぐさま謝罪を口にする。ガキも自分がやってしまったことを理解しているのか、小さく謝罪の言葉を口にしていた。

 

「ご、ごめんなさい。私が良く言えばよかったのに……」

「………気にすんな。ガキってのはそういうもんだろ」

 

 それだけ言って、さっさとその場を離れる。ガキは嫌いだ、騒いでばかりでうんざりするし、それを楽しそうに見ている家族ってもんには吐き気がする。

 昔からそうだった、ゴミのように扱われてきたからこそ、幸福そうな家族ってものの気持ちが分からない。分かろうとしたところで、理解できずに手を出しちまうのが関の山だった。

 

 所詮、偽物に本物の気持ちなど分からないように、勢至姆組という偽りの家族ごっこしかやっていない俺に連中の気持ちが分かるはずもないと言うことだろう。

 

(昔はこうじゃなかった。オヤジや櫻一郎、組の連中、日陰者とはいえ、それなりにやっていくことはできたし、そこが自分の居場所であるように思えていた。いつからだ? いつから、こんな気持ちになっているんだ、俺は)

 

 タバコをふかす、いつも通りの銘柄、しかし、かつて感じていた苦味は感じず、むしろ、その煙に咽てしまう。まるで何処にも進むことができない自分を皮肉っている様に煙ですらもどこかに逃げてくれる様子がない。

 

「オヤジ、今はまだなんてあんたは言ってくれたが、もう後戻りなんて俺にはないんだよ。俺は先に進むと決めちまった。聖杯戦争を勝ち抜いて、俺は今度こそ、本物になるって決めてんだよ。だから、オレはやめねぇ……ここでやめちまったら、もう二度と本物になることが出来なくなっちまう……」

 

 例え、今は間違っていると揶揄されたとしても、最終的にどちらが正しいのかと言われれば間違いなく自分が正しいと言われるであろうことを奉は信じている。だからこそ、譲れない。例え、組そのものから追い出されたとしても、奉は奉なりの本物の仁義というものを通す覚悟でいる。

 

「俺はあんたに拾われた恩を忘れちゃいねぇ。安心しろよ、オヤジ。俺が必ずアンタをこの秋津の街の頂点に立たせてやる。そして、組員全員デケェ顔が出来るようにしてやるからよ……」

 

 だから待っていてくれよ、とばかりに奉は繁華街の中へと消えていく。

 

――秋津市西側・駅前――

「えっと、七星さんから言われたのは、ここらへんだったよな」

 

 昼過ぎ頃の時間、朝に父さんと話して、今日は一日自由な時間を与えてもらっただけに暇を持て余してしまいそうだなと思っていた。

 そんな折に七星さんから連絡を受け、相談したいことがあるから昼過ぎに繁華街で会えないかと言われ、僕はここに足を運んでいる。

 

(聖杯戦争の相手同士であるだけに、お互いの家でなんてこともできないし、電波塔近くで会うのはいいんだけど、いいのかな。こんなことをしていて……)

 

 本当ならば敵同士である自分たちが馴れあうような態度を取っているのは間違っているのかもしれない。七星さんに対しての疑念は晴れたけど、遠坂の人間としては依然変わらず彼女は敵なのだから。

 

「もっとも、七星さんだって、何の理由もなく僕を呼び出しているわけでもないだろうし、やっぱり聖杯戦争絡みってことなのかな?」

 

 例えば、他の陣営の情報が欲しいとか、魔術の扱い方とか、七星さんは巻き込まれる形でこの聖杯戦争に参加したみたいだし、そういう意味でも今は情報が欲しいはずだ。

 

 協力できるところは協力しよう。父さんの反応は気になる所ではあるけれど、それでも七星さんと疑念を持つような関係ではいたくない。言えることは言えるし、言えないことは言えないとはっきり言う。それが健全な関係だと思うから。

 

「………どうして、七星さんのことになるとこんなに深く考えているんだろう」

 

 他の陣営の事なら、そこまで難しく考えることもないはずなのに、どうしてか七星さんのことになると、色々と難しく考えすぎてしまっているように思える。

 

 いけない、今はアーチャーの部下たちが霊体化してついてくれているとはいえ、僕一人でなんとかしなくちゃいけない状況なんだから、しっかしておかないと。弱みを見せるわけにはいかない。

 

「あ、蓮司君。こっちこっち!」

「――――七星さん」

 

 声を掛けられた方向へと視線を向ければ、そこは駅前に展開された有名コーヒーチェーン店の店外テラスだった。そこの椅子に腰かけていた七星さんが僕を見つけて手をブンブンと振っている。

 

 そう、それはいい。それはいいんだが、そこに座っているのは七星さんだけでなく、他にも三人女性の姿があって。それが七星さんの友人とかじゃなくて、僕にとっては昨日の夜ぶりに会う、本来だったら、こんな状況で顔を合わせないような人たちばかりであったはずだから。

 

「え、アサシンのマスターとアインツベルンの……なんで?」

 

「なんでってあれ、あたし、セレスさんのコト言わなかったっけ?」

「言ってないよ!」

 

 とてつもなく嫌な予感がする。来るべき場所を間違ったんじゃないかそんな思いが七星さんの声に導かれて消えていった。

 




蓮司君、ハーレム展開来たな……!

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