※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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鷹司唯一、唯一神理教教祖たる彼の思惑とは……


教祖の祈り

――秋津市北側・唯一神理教総本山――

 人は誰だって、完全無欠な存在なんてものはいない。現代に生きる私達だって、何処かに欠点は存在しているし、過去の英霊と呼ばれる者たちだって同じ。偉大な歴史を紡ぎあげた人間が極悪非道な存在であることもあれば、話しに聞いているほど素晴らしい存在ではなく、虚飾塗れのことだってある。

 

 誰もが完璧という存在になることはできない。だからこそ、何かに依りすがって生きていく。親や子、あるいは異性、あるいは目に見えぬ何か。あるいは……神と呼ばれる何かに縋って生きる事もまた、人間としての正しい在り方なのかもしれない。

 

「神様……どうか、どうか、私達を救ってください」

 

「もう、私達は苦しみたくありません。どうか、私達を導いてください」

 

「この国は日本人だけでいいんです。あんな野蛮な人たちはいりません。言葉も分からない、考え方も理解できない。どうして、どうしてあんな奴らが……」

 

 唯一神理教総本山、外国人を排斥し、日本人だけでこの日本を運営していけばいいと言うおよそ今の時代の中では受け入れることができない異端の宗教。時代を百年は下っているであろう馬鹿なもの、それがこの宗教の中に潜入するに当たって、私が考えていた率直な感想だった。

 

 国際的に開けた今の時代に、外国人の総てを排斥するなんて言うことは実質的に不可能だ。国際社会で孤立するし、島国であるこの国では貿易に頼らなければ、今現在の生活を成り立たせることが出来なくなる。

 

 かつて、日本には鎖国という国を閉ざしていた時代が存在していたというのは歴史の授業で習ったことはあったけれど、どうしてそんな愚かなことをしたのかと思ってしまう。閉ざされた国の中では外の情報が何一つ伝わることなく、結果的に日本は武力によって国をもう一度開くことしかできず、無用な血が流されたと言う。

 

 唯一神理教が目指しているのはまさしくそれだ、そんなものを目指したところで何もすることができない。此処にいる人たちはここにいる瞬間だけ、救われるかもしれないけれど、ここという居場所がなくなれば、また自分たちが拒絶している外国人たちと向き合わなければいけなくなってしまう。

 

 本当にそれでいいのだろうか、それで満足できるのだろうか。ほんのわずかな現実逃避を行うためだけにそこにいるだけでしかないような状況を受け入れる揺りかごのような場所でしかないと言うのに。

 

(梓沙さんが言っていたっけ。この人たちも夜になれば、キャスターの配下の剣士たちを使うための魔力の源とされてしまう。この人たちは救いが与えられると思って、ここに来ているけれど、実際には魔力の確保をするために呼び寄せられているに過ぎない)

 

 酷い話だとおもう。救われると思って訪れた場所で、甘い言葉に騙されて、この人たちは結局、利用されているのだから。

 

(いや、そうでもないのかな。キャスターが勝利すればこの人たちの願っている外国人総てがいない日本なんてものが誕生するのかもしれない。それが正しいのかどうかはさておいたとしても、一応は願いが叶うってことになるのかな……)

 

 わからない、騙されているのは本当の事で、事実を知った時にこの人たちがどのように感じるのかは私でもわからない。

 

 ただ、明確に分かることがあるとすれば、自分が同じ立場に立たされたとしても、やっぱり私は嫌だなと思うことだった。誰かに縋って、誰かに願いを叶えてもらうなんてことをしていたら、その願いを叶えてもらう相手に利用されるのがいいところだ。

 

 本当に願いを叶えたいのなら、自分もできる限りのことをしなければいけない。誰かに希って、それで願いが叶うのならばと祈りを捧げる時間があれば、ほんの一瞬だけでも自分で何かが出来るんじゃないかと思ってしまう。

 

 世界は誰に対しても平等に優しいわけじゃないから、結局は頑張っている人、必死に頭を巡らせている人がイイ想いをするようにできている。女優をやっている時に、それで涙を流した人は嫌というほど見て来たし、痛いほどに涙を流した人たちが間違っているわけでもないと見せつけられてきた。

 

 だから、私はこの傷をなめ合うような揺りかごのような場所が嫌いだ。こんな場所にいても自分の願いを叶えることはできないと思ってしまうからきっと理解することはできない。納得は出来ても、この場に居続けることを許容することはきっとできない。

 

 ただ……此処にいる人たちは、誰も彼もが幸せな表情を浮かべていることは紛れもない事実だった。揺りかごと自分で形容したけれど、ここでは彼も彼女も社会の中では受け入れられない自分の中の願望をはっきりと吐きだすことができる。

 

 街中で叫べば異常な人間であると揶揄されるであろう思想をはっきりと口にしても、ここでは誰もが咎めない。誰もが同じ考えを共有しているから、理解を得ることができる。

 

 ぬるま湯の世界と言ってしまえば、そこまでかもしれないけれど、傷を負ってしまった人たちにとっては確かに楽園であることだけは間違いないのだろうと思う。

 

「おや、九条殿ではありませんか。このような所で顔を合わせるとは奇遇ですなぁ」

 

 ビクリと身体が反応する。その反応を周囲に見せないように最小限の反応に留めつつ、私は後ろから声を掛けてきた主に反応する。

 

 ごたごたとした僧衣に身を包んだ人物、この唯一神理教という場所に置いてキャスターの次に絶対的な権力を握っている人物、鷹司唯一がそこにいたのだ。

 

 けれど、狂信的な色合いは見て取れない。むしろ、その表情はにこやかであり、ある種悪意のようなものを全く感じさせないようにも思える。

 

(私が唯一神理教に入信している人間だと思っているから? 信者には優しい態度を貫いているのか、それとも、久坂に何かを吹き込まれて、私を探りに来た? どっちにしても警戒を解いていい理由にはならないわよね。慎重に話を進めないと……)

 

「鷹司様、先ほどはありがとうございました。私の不確かな記憶を信じていただいて」

 

「何を言うか、久坂殿も梓沙殿も貴女のことを褒めていましたぞ。この総本山に足を踏み入れるほどの傷を負っていながらも、それをまだ見ぬ誰かのために役立てたのだと。私こそ、臆してしまったことが悲しい。あなたほどの信徒がいると言うのに、私もまだまだ、神に捧げる祈りの数が少ないのやもしれぬ」

「いえ、そんなことは……」

 

 そんなことはないだろう。少なくとも私は貴方たちの神に祈りを捧げたことがあるワケでもないし。祈りの数で勝負をしているわけでもない。

 

マスター同士での争いをしていると言うのは正しいけれども、唯一は私がライダーのマスターであることに気付いている様子はない。ここはとりあえず話を合わせておくしかないだろう。

 

(むしろ、いい機会なのかもしれない。鷹司唯一、私が斃さなければいけないマスター、この人物がどんな相手なのかを)

 

 ただの狂人なのか、それとも自分の爪を隠している人物なのか……

 

「私こそこうして皆様に迎え入れて戴けただけでも幸運であると言うのに、それ以上を望んでしまって申し訳ありません。でも、怖いんです。私を襲ったあの男が山を下りれば生きている。この本山の中にずっといることが出来れば、それでいいのかもしれないけれど、何が起こるのかわからない。そう思ったら、どうしても安心できなくて」

 

「ほう、九条殿はこの山を下りることを考えているのか?」

「あ……いえ、もしかしたら、そうなるかもしれないって思っただけで……」

 

 心の中でしまったと思わず自分の言動にまずいものを覚えた。この総本山の中にいる信徒たちは誰もがキャスターの力の影響なのか、この総本山の中に居続けることを望んでいる。

 

その行動に違和感を抱いているのだとすれば、私がこの宗教を疑っていることの何よりの証拠になりかねないわけだが、唯一は特に気にしている様子ではなかった。

 

「なるほど、なるほどぉ、であれば、九条殿のこの先を願う意味でもケガレたる異国人を払わねばなりませぬな。この国の民たちを脅かすケガレを払うことこそが唯一神理教の願い、今までは何の力もありませんでしたが、今や我々は帝の力によって守られている。その力を使う事が出来れば、真なる日本国にまた一歩近づくことが出来るでしょう……!」

 

「………少し意外でした

」

「何がですかな?」

「いえ、総本山を降りるなどといってしまったら、叱責されるのではと思ったので」

 

 唯一が取り立てて私の言葉に目くじらを立てていない様子が知れたことから、更に深く情報を得るために深堀してみることとした。危険なことに変わりはないけれど、守りに入っているのでは、此処に入り込んでいる意味がない。

 

「はは、怒るなどと、まさかまさか。唯一神理教はこの街が始まりであれども、信徒たちはこの街だけではなく、全国中にちりばめられているのです。必ずしも、ここにいなければならないなどという教義を作った覚えはありませぬぞ。最も、帝の威光によって守られているこの場所が、今の秋津の街の中ではもっとも安全なのかもしれませんがな」

 

「最近、この街はとても物騒です。なんだかよくわからない事件ばかりが起きていて……、全部が終わるまではここに居ようと思います。いつかは戻りたいと思いますけれど」

 

「ふぅむ、やはり九条殿は勇気のある方のようだ。本来であれば、貴方のような方は、我らが教えに踏み入るべきではないのでしょうな。だからこそ、悲しい。当たり前を生きることが出来たかもしれない貴女が、ケガレたる者たちによって踏みにじられ、結局は我々を頼らざるを得なくなってしまったことが、その事実がやはり異国人たちを許しては置けぬ理由へと至るのです」

 

 唯一の言葉は確信に触れているようで触れていない。焦らされてるような、本当はズレているだけで、全く理解していないのか。その微妙なラインを進んでいるおかげでどう反応すればいいのかわからない。

 

 梓沙さんが口にしていた意味も分かる。下衆な俗物としての在り方をしてくれている方がまだ対処としては楽かもしれない。何を考えているのか全く分からない相手というのが一番対処に困るのはいつだって同じ事だ。

 

「九条殿の眼にはここにいる我らが同志たちがどのように映りますかな?」

「えっと……みんな、とても幸せそうにしています。此処にいる限りは自分の想いを邪魔されることが無い。自分の傷を広げられることが無いから、まるで揺りかごの中に閉ざされているような、そんな感じに思えています」

 

「その通り。彼らは皆、異国人との触れあい、あるいは急激な出会いの中で心を傷つけられ、あるいは昨今の状況の中で不安を覚えたが故にここにまで来たのです。九条殿も同じでしょうが、やはりそこは程度の違いというモノはある。貴女が元の毎日に戻ることを望むように、ここで安寧の時間を過ごしたいと思う者もいる。そうした多様性が存在することは良いことだ。唯一神理教という存在がある意味を満たすことができる」

「意味、ですか……」

 

「九条殿は唯一神理教という存在を初めて知った時にどのように思いましたか? 率直にどんな意見であろうとも構いませぬ」

「………正直、何を考えているんだろうと思っていました。そんなことできるはずがないって。そんな自分がここに来ていること自体がおかしな話なのかもしれませんけれど……」

 

「ふぅむ、やはり、やはりそのように思われるか。確かにそのように考える九条殿が此処に来たのもまた帝の縁があればこそであろうが、異国人を全てを払うと言う我らが思想、衆生にはやはり受け入れがたいモノでありましょうな。教祖として信徒たちには言わぬことではありますが、異端宗教のように受け取られていることは重々承知」

「…………」

 

 意外だった、鷹司唯一という人物は俗な人物ではないが、逆に言えば超然として、周りの意見になど全く耳を貸さないような人物ではないかと思っていた。

帝の前、というよりも信徒の前ではあれだけ派手に総てを信じているとばかりの素振りを見せていただけに口から飛び出してくる言葉に、懐疑的な人々のことを理解していると言う反応があるのは、さすがに考えていなかった。

 

「意外ですかな、さしもの私でも世の中の事情を全く知らぬ存ぜぬというワケでは教祖など務まりますまい。今は帝があれど、これまでは私が教祖として信徒たちを導いていたのです。ただ夢を語るだけでは誰の付いてはきますまい。故に我々が異端宗教と呼ばれていることは承知の上。その上で、唯一神理教という宗教は必要なモノであると私は考えておるのですよ」

 

 心を見透かされている様に言われてしまうのは心臓に悪い。ただ、唯一はそれを弾劾するつもりは全くない様子だった。いや、むしろ、この人はこれまでにも同じようなことを何度も何度も言われ続けてきたんだろう。

何度も言われて、それでも自分の教え導く教義を忘れなかった。それが梓沙さんが言う所の俗な方が良かったということに繋がるのかもしれない。

 

「この国はもはや他国と何らかの関わりをしなければ生きていけない国です。帝たちがおわしめた頃のように自国だけで生きていけるほど世界は甘くない。しかし、それはそれ、これはこれ。生きていかなければならないからと異国の人間に虐げられる者たちを放置しておいてよいのかというのは別の話しでしょう。異国の者たちに利益を吸い上げるために犠牲になった方々はどこにもかしこにもいる。これもまた事実です」

 

 あなたのようにと視線を向けられる。少し考えていることとは別だけど、間違ってはいない。文化の違いとか考え方の違いっていうのは同じ国の人間よりも異なる国の人間の方が生まれやすい。外国に行って悲惨な事件に巻き込まれた人のことはニュースでよく聞くし、猟奇的な事件が引き起こされやすいと言うのもまた事実ではあるだろう。

 

 此処にいる人たちこそが何よりの証明、日本国内で絶対数は少なかったとしても確実に存在する、異文化を受け入れることを許したがゆえの弊害であるとえ言えるだろう。

 

「しかし、時代は無数の国を受け入れることを許す時代へと変わった。かつてのように鎖国など出来るような情勢ではないのです。であれば、どこかに受け皿がなければならない。嘆きを覚えながら、苦しみながらも、何処にも受け入れられない人々を救うための手立てが必要だ」

「ケガレはケガレ、かつてより日本には、日本国民以外の他国から来る者たちをケガレ人と呼び忌み嫌う文化がありました。今でも、ケガレというモノ自体は我々の生活の中に息づいているものでしょう。それは使い方を誤れば差別になりましょうが、使い方次第では苦しむ人々を救うための力になる。唯一神理教とはそういうものであると私は考えているのですよ」

 

「それが唯一神理教を立ち上げた理由なんですか」

「始まりはそうでしたな。最も、今となっては、そうした理由もどこまで生きているのか、自分のコトでありながら、なかなか難しい。

異国人のいない国を目指すという理想は生きているし、弱者救済も当然に我が教えの一つです。ただ、中々に難しい。神を信じ、現実を忘れ、ただ一時の救いではなく、もう一度立ち上がるための救いを与えると言うことには相応の力が必要です。社会的な力もあれば、当然に信徒たちの前で絶対的な存在として見られなければならない。何度も何度も教祖という存在の皮を被っている間に、ふぅむ、どちらが本物の自分なのかわからなくなってきてしまった」

 

 話しを聞いていて、どこまでが本当なのかわからないという思いは当然にあるけれど、私は鷹司唯一という人間のことを誤解していたんだなということだけは分かった。

この人は梓沙さんや世間の人が言うほどの狂人ではない。こうした宗教を立ち上げる程度には常人とは考え方や意識は違うのかもしれないけれど、その根底にあるのは誰かを救いたいと言う純な想いだ。その純な想いが多くのものに浸された結果として、一瞬の狂った世界が生み出された。

 

 もはや唯一神理教という組織そのものが唯一の考えとは剥離を始めているのかもしれない。

 

「教祖としての自分と只人としての自分、どちらが正しいのか、どちらが過去の己だったのか、もはや分からなくなってきていることは事実です。しかし、その杞憂も間もなく晴れる事でしょう。ここには帝が降臨なされた。存在するかどうかも分からぬ神が、真に我らの願いに応えて降臨された。であれば、まもなく私の役目も終わる。

 聖杯が真実、万能の願望機であるのならば、世界構造すらも変えて、異国人が必要ない真に自立した日本という国を生み出してくれることでしょう」

「…………」

 

 そうか、それが鷹司唯一という人物の願い、狂人に足を踏み入れておきながら、己では弱者を救済することしかできないと考えていた人物が繰り出した逆転の一手、聖杯を使えば、唯一神理教という現実では絶対に叶えることができないであろう願いを叶えることができる。

 

「帝は我ら信徒にその血肉を捧げよと言った。それは我らは信者として当たり前のコト。それを捧げることによって、帝に呼ばれた同志の方々が願いを叶えるために動いてくれる。何の力もなかった我々の代わりに、世界を変えようとしてくれている。これはきっと寿ぐべきことでしょう。何も出来なかった私とは違う。彼らは必ず素晴らしき国を生み出してくれるはずです」

「きっと、そうだと、思います……あの方たちなら」

 

 鷹司唯一、その始まりはきっと、私たちが考えているよりもよほどまっとうな願いから始まったのだろう。

困っている誰かを救いたい、その程度の願いを掲げて、そして生み出した組織は膨れあがり、膨れ上がった結果、多くの願いを抱えて、それを叶えることができないことからどんどん自分自身を変えて行って―――そしてもはや自分自身の真実が何であったのかもわからなくなっているのかもしれない。

 

 だからこそ、彼は託したのだろう。キャスターという彼にとっての神たる存在に総てを変えてくれるようにと。万能の願望機である聖杯を使えば……、私達が想像もしていないような、日本人だけで生きて行けるような世界を生み出すことができるのかもしれない。

 

 そのために、キャスターの配下が何をやっているのかも彼は知ったうえで、許容しているのだろうか。わからない、それを問いただすには九条円ではなく、ライダーのマスターである九重円華として彼と対峙しなければ、その最奥に触れることはできないのだろうと思うから。

 

 総てが狂って、総てが理解できないと思えていた相手の思想を聞けば、それはあまりにも単純なことだった。聞かなければよかったと思わないこともない。

 ただの愚かな教祖だと思っていれば、私はこの人をただの倒すべき対象としてしか見ずに済んだかもしれないのに、事情を知ったうえで心傷ついた人々を匿う彼の姿はどこか全く違う存在のように見えてしまう。

 

「私に此処を降りるべきだと言ったのはそういうことですか。此処にいないで済むのならばそれに越したことはないと」

 

「ええ、信徒としてここから降りて日々を生きることができるのならばそれに越したことはないでしょう。此処での教えを胸に生き続けることが出来れば、いずれは拓かれた未来もありましょう。安心なされよ。帝によって間もなく、素晴らしき真なる日本国が生まれまする。さすれば、貴女を脅かせている諸々も全て解決しましょう」

「はい。どうかそんな日が来ることを、私も……」

 

「教祖様、そろそろ……」

「おぉ、そうだ、そうだとも。これより帝の御前における説法の時間があったのだな。素晴らしい、素晴らしき教えを信徒たちへと教えることができる時だ。おぉ、帝よ、神よ、どうか、我らを導きたまえ……!」

 

 信者の1人が唯一に声を掛けて、足早に私の下を離れていく。丁度こちらもそろそろ離れようと思っていた時ではあったけれど、あちらから出払ってくれたのはタイミング的にも悪くはなかった。これ以上話しを聞けば、何を考えたのかもわからなかったからだ。

 

(コルテスの口にしていたことの意味も、少しだけわかったような気がする)

 

 鷹司唯一、考えてみれば、私自身が直接聖杯戦争のマスターと言葉を交わしあったことはこれが初めてかもしれない。あのバーサーカーのマスターとは、ろくに言葉を交わしたわけでもないし。

 

 その上で思ったことは、私の相手となる6人は決して用意された障害物というワケではない。それぞれがそれぞれの正義を以て、理由を以てこの聖杯戦争に臨んでいる。

 万能の願望機に願いを込めているのは、私一人だけじゃない。

 

(鷹司唯一の願いは、荒唐無稽であるし、何が起こるのかもわからないけれど、きっと多くの苦しんでいる人間を救い、多くの人間を苦しませることになるのかもしれない。だけど、そこには聖杯を掴むに足りるだけの理由がある)

 

 ならば、自分は……? 間桐慎夜を救うと言う理由だけの為に闘っている自分の理由はそれに勝るのだろうか。暴虐の化身ともいうべき存在と共にこれから先の聖杯戦争では唯一以上に大義を持った相手と戦うことになるかもしれないと言うのに。

 

 戦争をすると言うのは相手を侵略すると言うこと、それは誰かの願いを挫くと言うことに他ならない。他の6人が救いたいと思っている何かを挫いて手に入れるべき願い、それほどの決意をしてきたつもりだ。けれど、いざ、こうして言葉を交わしあえば、やはり決意はどうしたって揺らぐ。

 

 大切な人を救うために戦っている以上、聖杯に賭けるほどの願いを持っている人の想いはどうしたって理解が出来てしまうのだから。

 

(でも、それでも……止めることは許されない。私自身も許せない)

 

 途中退場するにはあまりにも多くのモノを喪ってきてしまった。今更、何もかもを忘れるなんてことは出来ない。九重円華が味わってきた総てを過去にするには、慎夜君との未来というたった一つの勝利を手にする以外にはないのだから。

 

 まもなく夜が来る。私に出来ることは何もないが、ライダーにとっては死線ともいえる戦いが間もなく訪れるのだ。

 




これまでの気狂いだった唯一君もあれはあれで本性だよ!

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