※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

42 / 101
山門の戦い決着までです。


策謀の夜――破

――秋津市北側・唯一神理教総本山山門前――

 幕末京都、血風吹き荒れる騒乱の都では攘夷を求める者、幕府の倒壊を目論む者、あるいはただ破壊を撒き散らしたい者など無数の者たちがひしめき合い、テロの風が吹き荒れる日本歴史上でも有数の秩序が乱された時代であったと言える。

 

 京の都はある種の聖域である。帝を擁し、古代より国の政を担ってきた為政者の都、古くは応仁の時代に遡るまでその地にて血生臭い戦いが引き起こされることはほとんどなかったと言える時代での凶行は、当時でも人々を震え上がらせた。

 

 黒船の開国要求より15年超、明治維新を掲げて新政府が生まれるまでの期間、京の都に潜んだ者たちは常に相手の裏を掻き、相手を喰らう時を待ち望み続けてきた生粋の戦闘集団である。

 

 だが、その彼らをして、この奇襲にうってつけの場所である山門の周囲を取り囲む森の中で、予想外の苦戦を強いられている。集団対集団の戦い、しかし、統率力という面においては、彼らが向かっていく浅黒い肌の敵集団たちの方が遥かの上手であることを痛感するばかりであった。

 

 敵集団の名は―――トルコ共和国軍、古くは欧州の心臓部にまで喰らいついたオスマン・トルコ帝国より端を発し、オスマン帝国の時代を終わらせ、新たなる時代を築き上げた者たちの軍団である。

 

 如何に彼らが血風吹き荒れる動乱の都の中で、争いと隣り合わせの世界に身を置いていたとしても、対するトルコ軍は第一次世界大戦という人類史上例を見ない人対人の極限戦争に投じられた者たちである。

 

 第一次世界大戦にて、オスマン帝国は敗残者側に放り込まれた。元より瀕死の状況であったオスマン帝国は、この敗北によって長き歴史に幕を閉じる最後のきっかけを与えられるわけだが、ただ単純に連合国側に呑み込まれたわけではない。

 

 連合国とオスマン帝国最大の激戦となったガリボリの戦い―――後に英国首相にまで登りあげるチャーチルによって考案されたこの戦は、投入総数に置いても遥かに連合国が上回ったが、地理的有利とオスマン帝国きっての優秀な指揮官によって、連合国が味わわされた屈辱の敗戦として刻まれている。

 

 その戦の指揮官の名は、ムスタファ・ケマル。後にオスマン帝国に引導を渡し、現代まで続くトルコ共和国を建国した男、数の上の優位であろうが、地理的な優位性であろうとも、集団戦闘へと流れ込んだ時点でこの場における闘いの趨勢はもはや決したにも等しい状況であった。

 

「策士策に溺れるなんて言葉は使いたかったわけじゃないんだけどねぇ。信じられるかよ、この街で集団戦闘をするなら俺達に勝る者はいないと思っていたところに、純粋にそれを上回る奴が来るなんてこと」

 

「後悔する必要はない。個人的な戦闘能力で考えれば、私はキミの足元にも及ばない。ただ、戦の形態が私に利があり、聖杯戦争という区分けの中ではより有利に働いたという、それだけのことなのだから」

 

 キャスターの配下である志士たちは自分たちの消滅など一切怖れることなく向かってくる。それをアーチャーの兵士たちは迎撃していく。

 共にサーヴァントによって召喚されたかつての記憶を残しただけの存在達、サーヴァントへと昇華するまでには至らない者たちであるが故にある程度の消耗は、互いに見越して動いている。

 

 その上でアーチャーとキャスターの手勢に差が出るとすれば、最早単純に経験の差という他ないだろう。

 あくまでも京の都、あるいは開かれた平地での戦闘、集団として用意された銃の兵隊たちに対して刀を引っ提げて戦うことを良しとする軍勢に対して、あらゆる戦場を渡り歩き、戦車や時には艦隊からの砲撃にさえも塗れながら、感覚を研ぎ澄ましてきた兵士たち、共に全盛期の状態で召喚されたとなれば、練度の差が出てくるのは致し方ない。

 

「なるほどね、そりゃ納得だ。とはいえ、だからといってはい、そうですかと投げ捨てられるほど楽な生き方をしているわけでもないんでね!」

 

 斎藤が一歩を踏み込む。あくまでも上の優位を崩すことはないが、これまで他の志士たちによる波状攻撃を主として己が前に出ることはなかったが、その戦闘方法を変え、アーチャーを己が斬り殺すことによる決着を望む。

 

 対してアーチャーは引き続き、自身が握るサーベルでその攻撃を受け止め、身体がぐらつき、斎藤に明らかな隙を晒すが、アーチャーの周囲で戦闘を繰り広げている銃士隊が次々と銃弾を放ち、斎藤の決定的な踏込を許さない。

 

「ちっ、正規のサーヴァントなら、こんなものかすり傷で踏み込んでやるってのに」

 

「そればかりはこちらも幸運だったな。キミたちが我々七騎と同様のステータスで召喚されていたとすれば、キミたちを圧倒できる陣営など何処にもなかっただろう。だからこそ、付け入る隙がある。キミたちがいかに数と戦闘力で勝っていたとしても、それは本来、主であるキャスターとの共同運用でこそ真価を発揮するはずだ。

 しかし、キミたちはそれをしない。いいや、できないのかな?」

 

「痛い所をついてくるもんだ、そうだねぇ、俺達は帝に戦なんてさせるつもりはねぇよ。そのために俺達がいるんだからな」

 

「であれば、やはりキミたちは不運であるとしか言いようがない。元より、その強さの上限は我々に及ばない。その状況で数任せに戦えと言われているに等しいのだから」

 

 銃士隊、そして、志士たちの襲撃を突破した銃剣隊が斎藤へと一気に押し寄せる。数を優位にしてアーチャーへと襲い掛かってきたはずの斎藤が逆に数によって押し出される状況は皮肉もいいところではあるが、飛び込んできた兵士たちをまるで虚空に絵を描くかのように刀を振り回し、次々と兵士たちが身体を切り裂かれ、無力化されていく。

 

「舐めるんじゃねぇよ。お前らは確かに鍛え上げられているのかもしれないガ、それでも直接戦うのなら、俺の方が強い。壬生浪士隊を甘く見てくれるなよ」

 

「新選組とは名乗らぬのだな」

「名乗る必要もないね、俺達はあの時代にまで行きついていない。京に辿り着いた頃の俺達はただ我武者羅に戦いに明け暮れていただけだ。誠の旗を抱かず、使える主も定まらず、それでも己の力だけを信じた時代だ。国の行く末や将来を考える役割は俺達のモノじゃない」

 

「そう語るキミには違った思いがあるように見えるが……」

「よせよ、最初に言ったろ。戦場で世間話なんて華が無いと。つーか、あんた、近代の英霊とはいえ、俺達の時代に詳しくねぇか。ただ、聖杯から情報を与えられたって訳じゃないな?」

 

「そうだな、日本という国には少なからずの縁があるのでね。キミたちの時代のことはよく知っているよ。サーヴァントの立場として、あまりこういうことを言うのは望ましくないのかもしれないが、私は、キミたちの思想も存在も好まない。キミたちはあまりにも時代に逆行しすぎている」

 

 サーベルと刀が激突する。背後からの援護を受けながら、ギリギリ互角の状況が生み出されるが、その援護は諸刃の剣だ。これほど大々的な戦闘を開始してしまった以上、戦闘の余波は既に山門の先にも響いているだろう。銃声など、本来襲撃では絶対に聞かせるべきではないのだ。

 

 だが、それを実行しなければ確実に斬られていた。斎藤一が捨て身の攻撃を仕掛けないのも、この状況を長引かせることが目的であるとすれば、やはり生半可ではいかない。

 

「主導権は意地でもこちらに握らせるつもりはない、か」

「へっ、さすがに理解されちまったか。だが、どうしようもないだろ、俺はアンタに勝てないかもしれないが、粘ることならいくらでもできるぜ」

 

 斎藤の戦術は現状を正しく分析したうえで非常に有効なモノであると痛感した。

アーチャーには勝てないが、この山門の戦いはあくまでも突破することを前提としたもの、ここで時間を掛ける、あるいは襲撃を察知されてしまうことは明確にアーチャーにとってもランサーにとっても最悪の展開だ。

 

 山門を突破したところで、囲まれ、キャスターにまで辿り着くことが出来なければ結局のところ意味は無くなってしまう。

 

(内部からの襲撃はまだ判明していない、あるいは成果が出ていないか。成功を願いたいところではあるが、我々が山門を突破しなければ、あちらも成功を狙うことは難しいだろう)

 

 さて、どうする。その次を求める思考を動かした途端、横の戦場に変化が生じた。

 

・・・

 

『いいですか、桜子。おそらく、此度の戦い、貴女と私が出会った最初の日に出くわしたあの少女の剣士ともう一度戦うことになるかもしれません』

『そうだね、あたしたちがキャスターの本拠地を攻める以上、出会う確率はかなり高いもんね』

 

『ええ、その上で彼女と戦った場合、私と彼女では前回のように勝負がつかない可能性が高い。彼女は純粋に戦闘能力だけで言えば、私よりも上手です。サーヴァントとしての性能ではこちらが優位ですが、決して油断をすることはできません』

『ん、それで私は何をすればいい?』

 

 自然と言葉は出てきた。マルテルさんはあんまり無駄なことを口にすることを嫌う。特に戦いに関してはそれが顕著で、実直に意見を伝えてくれるけれど、明確に褒めてくれるようなことはしないし、実力通りの評価を下すのがほとんどだ。

 

 だから、あたしも何となく察しはついた。マルテルさんがあたしに話を振った以上、それはあたしがあの桜髪の少女剣士との戦いの中で何かを期待されていると言うことなんだと思うから。

 

 あたしの言葉にマルテルさんは目を伏せて、言いづらそうに言葉を続ける。

 

『申し訳ありません。本来であればマスターである桜子に頼むようなことではありません。ですが、そんな懸念すべき問題に対して貴女は気にするなと口にするでしょう。ですから、貴女が受け入れてくれることを前提として、彼女との戦いの折に、貴女にやってほしいことがあります』

 

『具体的にあたしは何をすればいいの?』

『簡単です。無能を演じてください』

 

『む、無能って……』

 

 初日の戦いを焼き直すかのように、既に彼女はあらゆる場所を動き回りながら、マルテルさんを封じるように徹底的に動き続けている。あたしもその動きを見極めようとするけど、速すぎて、どこで何をしているのか全く分からないままだった。

 

 マルテルさんの背中を守るように立ち、いつでも戦えるぞという様子を見せながらも、実際には何もできていないでいる。二人の戦いに飛び込むことなんて本当にできないのは事実なんだけど、ここではそれ以上に、まともに闘う事も出来ずに護身術程度の事しかできないという七星桜子を演じることを求められている。

 

『貴女が魔術を使って戦うことができると言うことを彼女は知りません。その未知という情報こそが、私と彼女の戦いを決する大きなピースになると私は考えています。よって、これは貴女にとってとても不愉快なことでしょうが、彼女の記憶に合致する戦えない少女を演じていただきたい』

 

『それがマルテルさんが勝つために必要なことならやるよ。だけど、それであたしは最後まで戦えない役割を演じておくわけでもないんだよね?』

 

『はい。貴女には最後の最後で技を振っていただきます。その一刀に今宵の全身全霊をかけることを考えてください。彼女に致命傷を与えることも私を守ることも考えなくて結構。ただ、彼女に一瞬でも思考に空白を生じさせていただきたい。あとは、私が斃します』

 

 マルテルさんは自分に任せてほしいと言ってくれたけれど、実際の所、その一瞬の隙をつくことだって出来るのかどうかはかなり怪しい所ではある。

 

「ランサー、ここまで来たことに私は逆に疑問を感じます。この山門では、貴女のその巨大な武器は本領を発揮することができないでしょう。動き続ける私に翻弄されるばかりで、旨みが何一つ見いだせない」

 

 弾き、弾き、弾き、一度でも攻撃を許せば怒涛の連撃が飛び込んでくることは解りきっているからこそ、マルテルさんは相手の攻撃を一つたりとてその身に受けるわけにはいかない。

 周囲へと動き出そうにもあたしが傍にいて、まともに戦えない立場を維持し続けなければいけないからか、自由な動きが許されていないことが余計に拍車を掛けている。

 

 マルテルさんの戦術は僅か一瞬に勝機を見出す事ではあるけれど、逆にそこに行き着くまでにマルテルさんが負けてしまったんじゃ意味がない。

 

 今から作戦を変える? ううん、そうなったらむしろ、あたしが狙われればそれで終わりだ。単体で彼女に対抗することは出来ず、マスターを奪われたマルテルさんが無惨に敗北する未来が見えてしまう。

 

 だから、この図式の中であたしに出来ることは実際のところ何もない。ただ、マルテルさんを信じて、彼女が勝利を掴むための布石が完成するのを待つほかないのだ。

 

「それは貴方も同じでしょう、言葉では何と口にしようとも貴女もまた私に決定的なダメージを与えることが出来ていないのは事実なのです。千日手は既に互いに飽きているところでしょう。好き放題に動き回った結果で何もできないのであればその剣技も宝の持ち腐れでしょうに」

 

 私達とは対照的にアーチャーの戦いは既に集団戦へと移行している。ことさらそれを警戒しなければいけないのかもしれないけれど、たぶん、私もマルテルさんも彼女が兵士を使ってくると言う選択肢を取ることはないだろうと言う妙な確信を覚えていた。

 

 おそらく、彼女はそれをしない。マルテルさんとの決着にこだわっている彼女が他の要素を使って勝利をもぎ取りに来ると言う可能性を、あたしもマルテルさんも考慮はしていなかった。

 

「ええ、その通りです。だから、いい加減に決着としましょう」

 

 ―――来る、言葉を聞き取り、明らかに彼女の動きが変わる。これまでは周囲を動き回り、マルテルさんの動きを測っているように見えたそれが、マルテルさんの足元へと着地をすると、地面から刃が浮き上がってくるように下段から胴を引き裂く奈落の牙のように刃が振り上がる。

 

(マルテルさんのランスが届くか届かないかのギリギリを狙って―――)

 

 思わずあたしは息を呑んでしまう。同じ剣を使う者として、その間合い、踏込からの身体の移動、そして一切淀みを見せることのない振り切り、総てが一級品だ。

 

 昨日に兄さんに見せられた刀の冴えですらも霞むほどの、自分と刀が一体になっているのではないかと思わせるほどの完成された動きがそこにはあった。

 

「――――ッぐぅぅぅ」

 

 けれど、マルテルさんも負けてはいない。ランスが迎撃に間に合わないと悟った瞬間、ランスを握っている腕を一度離し、ランスの通常握っている棒状の部分を使って、彼女の振り上げの刃を受け止める。

 

 けれど、これまで受け止めてきたランスから比べれば、防御面で見れば、非力もいい所、巨大さと頑丈さを以て、これまで受け止めてきた刃は受け止める側の脆弱さによって、破壊されることこそなかったものの、弾かれたランスが宙を舞う。

 

「我が秘剣の煌めき、受けるが良い!」

 

 得物が手を離れたその瞬間、決着の時が訪れたことを皮肉にも両者ともに理解していた。武器を奪われ絶体絶命の状況に晒されていることは事実、しかし、沖田総司はカール・マルテルという英霊を決して軽視はしていない。

 

 初邂逅での戦闘であればまだしも、これは二度目の戦い。優れた戦士であれば、一度向かい合っただけでも相手の戦い方というものに、理解が及ぶこともある。

 

 沖田は最大限の敬意と最大限の殺意を以て、彼女が放つことのできる最大の技でランサーを葬る。

 

「まだですッ!」

 

 そして、ランサーにとってもこの状況は自分自身の首が飛ぶかどうかの瀬戸際であることを分かっている。如何に七騎のサーヴァントと比べて彼女が劣る力であったとしてもその剣の冴えが恐るべき領域に迫っていることは言うに及ばず。

 

 よって、此処で止めなければ終わる。周囲から一斉に霊体化していたトルコ軍兵士たちが沖田に向かって迫る。それはもはや戦術ともいうべきではない特攻紛いの突撃であった。

 

「ええ、その程度が用意されている程度のことは理解できますよ。それを切るのならば、もっと早くに切っておくべきだった」

 

 既にアーチャーによって開示されたトルコ軍兵士がランサー側にも用意されている程度の発想は自分自身の戦いに集中しているとしても、沖田であればすぐに思いつく。

 

 流れるような手つきで飛び込んできた兵士たちを切り捨て、沖田は変わることなくランサーの首を跳ね飛ばすための態勢に改めて入る。時間にして2秒経過したかどうかの早業。

 

 例え、ランサーの背後から銃弾が飛び交って来たとしても、沖田は構う事無くその刀を突き放つだろう。自分の命よりもなお、この騎士然とした女性との戦いに勝利が欲しいと思っているのだから。

 

「一歩音超え―――」

 

 沖田の射程から逃れるために、後ろへと下がったランサーとの距離は逆に沖田にとって都合がよかった。奥義を放つための間合いとしては決して悪くはない間合いである。

 

 トルコ軍兵士たちの動きは邪魔にならない。突っ込んでくるのならば皆須らく、ランサーと共に切り飛ばすのみ。無明の突きが地を駆けだそうとしたその間際―――

 

「七星流剣術―――伍ノ型『桜吹雪』!!」

 

 自身よりも早く、己と同様の刺突を己へと繰り出した存在を前にして、沖田の思考にほんのわずかな空白が生み出される。トルコ軍兵士たちの襲撃は思考の中で考えていた。

 

 よって、目の前のマスター、七星桜子が襲撃を仕掛けてきたこと自体は驚くほどの事ではない。破れかぶれになれば誰であろうとも襲ってくることくらいは戦の道理として理解している。

 

 しかし、その破れかぶれにしては―――彼女の身体捌きと不可視の何かを握っての刺突は沖田ですらも目を見張るほどには、型を為していた。

 

 無論、彼女が生きてきた世界の中で言えば、まだまだひよこもいいところ。道場ですらも全員破れるかどうかも分からないほどには甘い太刀筋をしていることは明白だ。

 

 しかし、剣術など何も知らないと思っていた少女が、突然剣術を放ってきたこと、そしてその刀が不可視であったこと、想定外の驚きも三つ続けば強者にとってのほんの僅かな隙となる。

 

「がぁっ――――!」

「思い切りが足りない。私に通用するのかどうかを考える暇があれば、殺気を練り上げなさい!」

 

 桜子の攻撃そのものを沖田は半ば自身の身体の反射的動作だけで無力化する。それは何も桜子を歯牙にかけていなかったわけではなく、彼女にとっても想定外であったため、思考で身体を動かしている暇が無かったと言うことである。

 

 参道の石畳によって作られた階段に全身を叩きつけられたことで、桜子は呻き声を上げるが、沖田総司に刃を向けられて、それだけで済んだと言うことはむしろ奇跡的な運の良さであると言ってもいいのかもしれない。

 

 向かってくる相手であれば切り殺す、それが彼女のポリシーであり、彼女が後の時代に名を残した人間である理由なのだから。

 

「桜子、感謝します。私が求めたオーダーを貴女は完璧に果たしてくれた。そして、その桜子の動作を果たすために犠牲になったアーチャーの兵士たち、総て無駄にはさせません」

 

 声は沖田の視界より僅か上方、先ほどの一刀で弾かれたランスを空中で握り、沖田が桜子を反射的に弾き飛ばしたその瞬間に彼女は己の武器を再び握る時間を得ていた。

 超重量のランスを握り、その重みのままに沖田の懐へと飛び込んでいくランサー。

 

(例え、一撃貰った所で、その鈍重な槍では叩き付けるか、あるいは突き刺して、もう一度の動作をする必要がある。その間に―――首を斬る)

 

「聖槍――限定解放! 桜子、魔力をいただきます!!」

 

 ドクン、とその瞬間、桜子の身体の中に通っている魔力が抜けていく感覚を桜子は覚える。大多数というワケではないが、身体の中に循環している魔力に変調をきたし、桜子の口から呻く声が上がる。

 

 それでも、桜子は視線だけは戦いから外さない。ランサーの巨大なランス、その切っ先が沖田の胸へと突き刺さる。

 

(槍が突き刺さって動きが止まった……!)

 

 桜子でもわかる、動きを止められた。自爆覚悟、あるいは勝利を掴むつもりでいるのか、沖田がどちらの未来を考えているにしても、僅か一閃でマルテルの首を飛ばすにはその距離は十分すぎる。

 

「いいえ、終わりです。もはやこの場の総てひとつ残らず吹き飛ばす」

「なっ――――がっ、ぎぃぃぃ」

 

 突き刺さった槍、その切っ先が沖田の身体を内部から引き裂きながらランスの内部に収容された「聖槍」の姿を露わにする。その姿は黄金に輝く槍、ランスの内部に収容されたその槍の穂先から黄金色の光が収束され――――その光が周囲を瞬いた瞬間、この山門に至るすべての者たちは自らの目の前が真っ白になったことを理解した。

 

 光放つ聖槍の輝き、それは沖田に始まり、アーチャーと戦闘を繰り広げていた志士たち及び斎藤すらも巻き込んで、光の奔流が止まることなく総てを呑み込んでいく。

 

 アーチャーはランサーが何かをすることを察し、咄嗟に山門の石段を一気に飛び降りたが、あくまでも山門に固執していた斎藤、そして志士たちは逃げること叶わず、沖田諸共その光の中に呑み込まれていく。

 

 当然のことではあるが、山門が無事で済むはずもなく、横薙ぎに振るわれた光は周囲の木々、そして山門の一部を吹き飛ばす形で、半円を描く形で動き回り、ようやく収束を迎えた。

 

 その惨状たるや凄まじく、もはやランサーとアーチャーの存在を隠し通すことは実質的に不可能であった。

 

「くはは、おいおい、まさかこんな強硬手段に打って出るとか流石にこっちも考えていないっての。お前ら、隠密行動で山門を突破するんじゃなかったのかよ」

 

 半身を抉られ、肩から先だけが残り、消滅しかかっている斎藤が、ランサーの行動を揶揄するが、ランサーは何ら後悔をしている素振りを見せない。

 

「アーチャーが兵士たちを出して集団戦に移行した時点で、完全に秘密を守ったままに戦うことは不可能であると判断しました。ならばあとはいかに迅速に突破、そして我々の損耗を少なく抑えるかだけです。よかったですね、貴方がたの目論みは見事に達成できたようですし」

 

 光の切っ先に晒されていた沖田の姿はもはや何処にも存在していない。既に光に耐えきることが出来ずに身体ごと消滅したのだろう。山門の戦いは決着、どちらがこの場の勝者になったのかは言うまでもないことだろう。

 

 間違いなくこれでキャスター陣営に此度の襲撃を気取られたのは間違いないが、手勢の数を少しでも減らすためにライダーも市街地にて行動をしているのだ。遅かれ早かれ見つかることであるのならば、消耗を避けるために一気に勝負を決めると言う行動自体は決して間違っているとは言えない。

 

 最上の選択肢でなかったことは確かだろう。しかし、そうせざるをえないほどに沖田総司と斎藤一、そして此処に集った志士たちは脅威であった。結局はそういう話になるのだろう。

 

「ま、精々頑張りな。今宵にもう俺達の出番はないだろうからさ。縁があったらまた逢おうってところかな。

 ………とはいえ、気を付けた方がいいぜ。我が陣営を支えているのは久坂玄瑞だ」

 

「久坂……?」

 

 蓮司は思わず疑問を口にする。キャスター陣営が幕末動乱期の英霊たちによって構成されていることは既に分かっているが、久坂という名前を蓮司は聞き覚えが無かった。あくまでも教科書程度の知識では、どうにもそのような人物の名前は聞いたことが無い。

 

「知らなくても仕方ないさ。奴は結局、動乱の幕末で何かを為せたわけじゃない。維新志士たちに比べれば、名が知れていないのも当然だ。

 だが、あいつは紛れもなくあの時代における謀略の天才だった。長州の家老でもない輩が、藩の実権を握り、公家とのパイプを作るばかりか、岩倉卿を追い落とし、帝の名の下に将軍すらも動かした。奴が帝に愛想を尽かされなければ、討幕は全く違う形で起こったかもしれない」

 

 自分たちの陣営の味方のことを口にしているにもかかわらず、斎藤の言葉尻はどこか厳しいものがあった。その反応はむしろ、久坂という人物を憎悪している。そのようにすら感じられるが……

 

「俺から言えることはそれだけだ。後はお前らで何とかするんだな。あくまでも、俺はお前たちの敵だからな。敵に塩を送るのは……ここまで、だぜ」

 

 最後にそう言い切って、斎藤一の姿が完全に消失する。果たして、彼は何の目論みがあって、最後の言葉をランサーやアーチャーへと向けたのだろうか。

 

「キャスター陣営も決して一枚岩というワケではないのかもしれんな」

 

 アーチャーは呟きながら、ランサーや桜子の方を見る。ここまで、派手に暴れてしまった以上、時間を掛けていれば内部から増援を送られてくる可能性もある。

 迅速に一刻も早く内通者と合流し、キャスターの下に辿り着かなければならない。

 

「行きましょう、既に退路はないと考えるべきです」

 

 既に半壊し、門の意味を成していない山門を超えて、内部へと入り込む。入り込んだ瞬間に、敵の志士たちに一斉に襲いかかられる可能性すらも考慮して飛び込んだ四人だったが、そこで見た光景は想像とはまったく違うモノだった。

 

「なにこれ……」

「どういうこと!? あっちで火の手が上がっているよ?」

 

 唯一神理教総本山の内部は侵入者を迎撃することが出来る状態ではなかった。可能ではあっただろう。しかし、それに戦力を割くことができるほど万全の状態ではなかったと言うべきだろう。

 

 本殿こそ無事ではあるモノの、総本山の幾つかの場所からは火の手が上がっており、先のランサーの攻撃によって建造物のいくつかが破損したのか、瓦礫に塗れた箇所もある。

 

「さっきのランサーの一撃で火が上がったの?」

「いや、方向からして違うし、ランサーの攻撃は被害を最小限に留めるつもりで放っていたはずだ。となれば、なるほど、ライダーめ。余計な気まで使ってくれたらしい」

 

「どういうこと、アーチャー……?」

「なに、あの男の事だ、2日もあれば、潜り込ませることも容易いと言うことだろう。惨いことだ、此処に入りこんだ時点で命などないとわかりきっているだろうに」

 

「ライダーの工作員が既に動いていたと言うことですか」

「まだ生存しているのかどうかも怪しいがな」

 

 内部に侵入し、本殿へと足を進める四人の下に、いまだ、襲撃の様子が見えてくることはない。現在のキャスター陣営は徹底的に分断をされているに等しい。

 

 街中でライダー陣営と戦闘を行い、内部でも人柱たちの対応に追われているとなれば、本命の侵入者たちにかかずらっている時間は本当にないのかもしれない。

 

 少なくとも、この状況の中で一気にキャスターへと近づくことが出来れば、目的を達成できるかもしれない。

 

「キャスターは本殿の中枢にいるって話しだったよね」

「ええ、急ぎましょう。このチャンスを無駄にするわけにはいきません」

 

 キャスターの戦闘力がどれ程のモノかは知れないが、これほどのチャンスを棒に振るわけにはいかない。

 

「た、大変だ。た、鷹司様が、鷹司様が――――」

 

 本殿の方向から逃げてくる信徒であろうか、その一人が声を上げながら走っていく。必死の形相で逃げる男は信じられないモノを見たような表情で桜子たちの姿など気にすることなく逃げていく。

 

 その様子から、間違いなく何かの変化がキャスター陣営に引き起こされていることを理解し、四人は本殿への道を進んでいく。

 

 今宵の戦いの決着は近い、その予感を胸に抱きながら……

 




次回は山門の戦いと並行して行われた、総本山内部、まどちんとあずにゃんの話しです。

Twitterやってます。UCの更新情報などを載せています
https://twitter.com/kooldeed
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。