※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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いよいよ6日目夜、セイバー陣営対キャスター&バーサーカー陣営始まる。


決闘の夜――序

――秋津市中央部・電波塔周辺――

 ある種の予感めいたものを感じていた。この数日間に幾度となくぶつかり合って来たからだろうか、おそらく、今日こそは決戦となりえるだろうと漠然とではあるが感じていた。

 

 その予感があったからこそ、大きく驚くようなことはなかった。向こうから来ることが無ければ、こちらから向かうだけのこと。

 

 夜の闇が秋津の街を支配しようとしている頃、駅前には俄かに人が散らばり、これより夜の時間を謳歌する若者たちが集っているはずの駅前通り、しかし、そこには人々が集うことはなく、むしろ喧騒によって多くの人々がこの場から離れていた。

 

「おいおい、まったくもって品性の欠片もないな。いくら聖杯戦争が問答無用の戦いだからと言って、ここまでおおっぴらに姿を見せるか? 人払いの魔術の一つでも使ってみたらどうだい?」

 

「必要ねぇな。連中は所詮、喰われる側だ。驚き逃げまどい、せいぜい恐怖に呻いていればいい。それだけでも十分に価値がある。まどろっこしいことをするよりも、こっちの方が楽でいいだろ」

 

「貧相な発想、魔術師として三流もいい所ね。ああ、そんなことだから、貴方は英霊とも言えないような、そんな血生臭い犬を抱えているのかしら?」

 

 電波塔周辺の広場に立つのはロイ・エーデルフェルトとリーナ・エーデルフェルト、傍らには既にセイバーが霊体化を解除し、いつでも戦闘態勢に入ることができる状態でいる。

 

 だが、そんな彼らを取り巻く状況は並のマスターとサーヴァントであれば絶望的な状況だった。周囲一帯、それこそ全方位を取り囲むように、キャスター陣営の志士たちが展開し、彼らの周囲には獰猛に喉を鳴らし、今にも食らいつかんとするバーサーカーの姿。

 

 それだけではなく、キャスター陣営の背後からも獣の遠吠えのようなものが聴こえる。偶然などではないことは明らかだ。明らかにバーサーカー陣営の持ち得る何かがキャスター陣営と共に展開している。

 

 彼らはセイバー陣営を見つけると、周囲の人間たちに見られるなどということを一切考慮することなく展開した。人々はその行動に最初は目を丸くした。何か、コスプレのイベントでもあったのだろうか、あるいは、テレビの撮影か何かなのか……?

 

 そう思ったのも束の間、誰かが叫んだ。本物の刀だ、と……喧騒を起こすために必要な要素はそれだけで十分だった。元々、秋津市という街そのものが恐怖に晒されている状況の中で、本物の刀、そして、その最中で獣の遠吠えなど聞けば、人々が恐怖に晒されるのは当たり前の事だろう。

 

 かくして、駅前にいた人々の多くはこの場から一目散に逃げ出した。志士や奉はそれに対して手を出すことはない。志士にとっては日本人に手を出す理由はなく、奉にとっては恐怖を抱く人間に手を出す理由が無い。

 

 ただ……、どこまでも胸糞の悪い状況が生み出されただけではある。襲撃が行われることが分かっていたとしても、このような状況で戦闘が始まるのは、エーデルフェルト兄妹にとっても、好ましくはない。

 

「先に一つ聞いておくが、キャスターとバーサーカー、お前たちは手を組んだのか?」

「見てわからねぇか?」

 

「ならば、昨日、アサシン陣営と俺達を引き離したのも、お前たちの共謀ということでいいか?」

「言うまでもないだろ」

 

「わかった。俺もリーナもお前たちに一本取られたわけだ。一杯喰わされたものとして、相応の礼をさせてもらわなければな」

 

 言葉が早いかあるいは行動が早いか。

 ロイが報復の言葉を吐きだすと同時に、セイバーの腕に握られた戟が振われ、目の前を包囲していた志士たちの首が一気に数十吹き飛ばされる。

 

「―――――――」

 

 いつでもとびかかることができる態勢にいたはずの志士たちが一瞬たりとも反応することができない間に行われた開戦の号砲に、奉を含め、誰もが戦いが始まったことを理解するが、理解をしたで止まってしまった時点で既に遅い。

 

「兄様、私、これでも結構苛立っていますから」

 

「ああ、俺もだ。聖杯戦争なのだから、この街の中でいつ戦いが起こってもおかしくはない。それはわかっているが、さすがにこれはやりすぎだ。桜子の言う通りだったな、お前たちを放置しておけば、この街に甚大な被害が出る」

 

「ちっ、お前らが心配することかよ!」

 

 セイバーは自分の周囲の志士たちを文字通りになぎ倒しながら、旋回するようにして、正面に立つバーサーカーと奉へと進路を向ける。

戦闘予測とセイバーの直感が、この場で最も危険な相手はバーサーカーであると示している。

 キャスター陣営の数を諸共しなかったとしても、そこに一つの巨大戦力が入って来るだけで話は大きく変わってくる。

 

「生憎と、俺はこの街が好きだよ。妹と多くの思い出を作ることもできた。その景色が、空気が、壊れることに無感動でいられるほど、魔術師らしくはないのさ」

 

 無論、セイバーが動き出した時点でキャスター陣営も同様に動いている。数にモノを言わせて、セイバーを抑えつける者、その最中にマスターを討つために行動をする者、誰が声を上げるまでもなく、彼らは剣士としての直感を以て最適の動きを為す……はずであった。

 

 だが、実際にその最適が為されたのかと言われれば答えは否である。突撃を敢行しようとした志士たちの身体に突如としてまるで鉛がのしかかっているかのような衝撃が与えられ、1人、また1人と地面に膝を落していく。

 硬直した志士たちの足元から、魔力の光が生じると、それが天へと昇る光のように放たれ、地に伏した志士たちを一斉に吹きとばしていく。

 

 言うまでもなく、流体魔術のエキスパートであるエーデルフェルト兄妹の力だが、それが志士たちの行動を押しとどめていると言う時点で魔術の質が見劣りするわけではないことが分かる。

 

 サーヴァントに劣るものの、彼らもまたキャスターに連なる英霊であることに変わりはないが、ロイとリーナの放つ魔術によって鎧袖一触、近づくことすら敵わない。

 

「兄様、数は多くてもこれまでに闘ってきた者たちと戦力としてはそう変わりありません。自衛をしつつ、セイバーを飛びこませるのが一番です」

 

「ああ、俺も同意見だ。セイバーならばこれくらいの局面は楽に乗り越えられる。いかにバーサーカーが強かったとしても……」

 

 言葉を零す先で繰り広げられる戦いはまだ開始より数分が経過しただけであると言うのに、既に奉の眼前で決戦が繰り広げられている。

 

 2メートルを優に超す機械の巨躯から数十人を一撃で屠る戟を振うセイバーを相手に、獰猛に喉を震わせ、獣が真正面から激突を図る。激突音だけで周囲の建造物を破壊しかねないほどの轟音を流しながら、獣がその牙を以て、戟に噛みつく。

 

「ぬぅ――――ッ!」

「GRUOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 小細工を弄するわけではなく力任せに獣を引き離さんと、セイバーは劇を握る腕に力を籠めて振り上げる。

 

 英霊であっても人間に不可能な力任せの戦術は機械によって駆動するその巨躯であれば可能とするのか、戟ごと、バーサーカーを地上から引き剥がし、再度地面を殴打するかのように振り下ろされ、バーサーカーの身体が背中から、脊髄を粉砕するとばかりに地面に叩き付けられ、アスファルトに亀裂が迸る。

 

「戦術予測、バーサーカー、危険度高し。されど、白兵戦闘に置いて制圧可能。このまま磨り潰す」

 

 バーサーカーの総身をひしゃげさせるほどの轟音が周囲に響くが、それだけで終わるはずもなく、四本の足の一本を掴み上げると、バーサーカーの身体そのものを振り回して、飛び込んでくる志士たちへと叩き付ける。

 

 サーヴァントの身体そのものを武器として叩き付けているのだ。言うまでもなく、サーヴァント以下の耐久度である志士たちが耐えられるはずもなく、ほんの数合程度の戦闘であると言うのに、数の不利など全く意に介していないとばかりにセイバーは状況を次々と制圧していく。

 

「おい、嘘だろ」

 

 思わず、奉の口から、目の前の光景に対しての悲嘆に暮れるような声が漏れる。奉にとってもバーサーカーにとってもセイバーと激突するのはこれが初めてだ。キャスター陣営からセイバーの恐ろしさについては耳にタコができるほどに教えられてきたつもりでいたが、それにしたって、目の前の光景は規格外が過ぎる。

 

 これだけの数、そして徹底的に強化されたバーサーカーを以てしても、真正面からの激突では、圧倒されると言うのか。セイバーは身のこなし方がまるで未来が見えているかのようにバーサーカーと志士たちの先回りをするかのように刃も牙も通らない。

 

(だが、それ以上に思い通りに行かないのは……!)

 

 マスターであるエーデルフェルト兄妹のせいであろう。腐っても過去の英霊の成りそこないたちを召喚した軍勢を相手にしていると言うのに、彼らはそれを何でもないことであるかのように対処している。

 

 本物の魔術師、奉が成ることが出来たかもしれない本物の可能性、憎らしい、ぶち壊してやりたい。この戦いに敗北し、奴らが惨たらしく死んでいく様を見たくて見たくて仕方がない。

 

「思ったよりも余裕があるな」

 

「そんなの当たり前です。私達も戦いに参加し、セイバーも相手を撃破するために戦っている。抜かりはありません、どれ程の数がいようとも、私達三人であれば、負けるはずがありません」

 

「――――ッ」

 

 古傷が抉られる。その誇らしげな姿がイラついてしまって耐えられない。奉のようにサーヴァント頼みで後ろでその戦闘を見ていることしかできないわけではない。

 

 彼らは魔術師として当たり前のように、サーヴァントと共に戦えている。その姿にイラつきを覚えない筈もなく、

 

「櫻一郎……!」

 

 叫ぶ声は本来であれば、もう少し先での投入が見込まれていた相手を呼び出す声、まずは数の暴力で相手を疲弊させたうえでのトドメの一撃であったはずの櫻一郎を、相手に全くと言っていいほどダメージを与えることもできないままに呼び出すことになるのは奉にとっても屈辱でしかないが……、

 

「さすがは此度の聖杯戦争最強のマスターと呼ばれるだけのことはあるな、ロイ・エーデルフェルト」

 

 瞬間、上空から聞こえてきた声と共に振るわれた、何もないはずの空間に来たる殺気にロイとリーナは同時に反応した。

 

 すかさず、リーナが四方総てに魔力の障壁を張り、ロイはその視覚では感知できない筈の斬撃に対して、「静」の魔力を解放し、衝撃のエネルギーを大きく減衰させることによって、魔力障壁と激突させる。

 

 それでもなお、魔力障壁は展開する魔力そのものを切断されたことによって砕け散るが、最初の奇襲ともいうべき攻撃は失敗に終わり、空中から着地した七星櫻一郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「何故、気付けた?」

 

「七星櫻一郎でいいかな? お前のことは桜子から事前に聞いていた。ああ、勘違いしないでくれよ、別に俺がお前のことを聞きたかったわけじゃない。桜子から話を振られたのでね。そこで、お前の所属と能力は聞かされていた。バーサーカーがこの戦場に現れた時点で、お前との戦いは容易に想像できたから対策も立てられた。それだけだよ」

 

 ロイ・エーデルフェルトの聖杯戦争における指針はあくまでも自分たちの圧倒的な力による正面突破である。最優のサーヴァントを持ち、絶大な力を持つがために許される戦い方、しかし、だからといって、何も考えずに戦うわけではない。

 

 持ち得る戦力と相手の力の分析の上で、正面から叩き潰すと言う戦術を取っているから、結果的にそうなっているだけ。櫻一郎の能力が事前に知れ渡っているのならば当然に対策は考える。

 

「それに、お前も七星だろう。ならば、倒すだけだ。七星への勝利は我々、エーデルフェルトにとっての悲願でもある。桜子との決戦を前にしての腕試しとしてはお前を倒しておくのも悪くない」

 

「桜子とお前が戦うことはない。こうして顔を合わせた以上、お前はここで俺に斬られるだけだ。魔術師狩りの七星の血の力、舐めてくれれば死を送るぞ、エーデルフェルトの当主」

 

 櫻一郎は腰に下げた日本刀へと手を触れる。先ほどの不可視の斬撃の起点があの日本刀から始まっているであろうことは明白だ。

 

(刀身延長能力だったか。桜子に教えられていて正解だったな。下手に殺気の方向にだけ魔力を向けていれば、頭上から身体を切り裂かれていて終わりだったかもしれない。致命傷を与えることができると考えれば、奴らはキャスター陣営にも容赦はしないだろう)

 

「別にお前を舐めているわけじゃない。ただ、俺がお前に負けることはないと思っているだけだ。俺からすれば、お前は三流以外の何者でもない」

 

「何を……」

 

「実力云々じゃないさ。どんな事情があるとはいえ、妹を泣かせるような奴は三流だ。俺は七星とエーデルフェルトの問題云々などよりもそちらの方でお前を好まない。だから、お前は役者じゃない、俺がお前に負ける理由はない。それだけの話しだ」

 

 櫻一郎は耳を疑った。目の前の男の語っている理屈は全く持って自分勝手な理屈の押しつけだ。まだ自分の魔術の方が上だと言った方が客観的な視点に立っているだけ理解が出来ただろうが、ロイの言葉は全く理解できない。

 

 全身から溢れ出すような自信のほどは、櫻一郎からしても対峙しているだけで、ロイという魔術師が規格外の存在であることを理解させる。

 櫻一郎の全身に流れている七星の魔術回路も叫んでいる。あれを喰らえ、七星として斬れ。七星の本懐を遂げろ、と。

 

 耳障りな音だが、今、この瞬間に置いては悪くない。不快な感情を忘れさせ、戦いだけに集中させてくれるのだから。戦闘は決して避けられず、同時に対峙する相手を自由に動かすことができるかどうかが、そのまま戦いの趨勢を決定するであろうことは互いに分かっている。

 

「リーナ、セイバー、七星櫻一郎の相手は俺がする。バーサーカーとキャスターの配下たちは二人に任せる。それでいいかい?」

 

「兄様がそう望むのであれば」

「―――御意」

 

 リーナもセイバーも反論はしない。この場で戦うことを決めた以上、誰もがこの場の誰かと戦わなければならないことは既に分かっている。

 

 ロイが櫻一郎を、セイバーがバーサーカーと志士を、そしてリーナが志士たちを相手にすることは極めて合理的であると判断した。戦力としての三人がどれも一級品であるセイバー陣営であるからこそ取れる戦い方であると言えよう。

 

「何をしている櫻一郎。さっさとそのいけ好かない魔術師を斬り倒せ。それがお前の役目だろう!!」

「ええ、分かっています。魔術師を斬る。それこそが、俺の―――七星の役割です!」

 

 刹那、開始の合図などというモノがこの二人にあるわけもなく、走りだした剣閃とロイが発動した魔術が一気呵成に激突する。

 その衝撃は当人たちだけで収まるわけがなく、ロイが展開した魔術は櫻一郎だけではなく、彼の周囲にいる志士たちを丸ごと呑み込むかのような勢いで炸裂する。

 

 ロイの空中に展開されたそれぞれが別の色を帯びた七つの光、それらがまるで自分自身の意志を持っている様に周囲へと襲い掛かり、光を炸裂させ、櫻一郎の一刀によって切り裂かれた光以外は志士たちの多くを呑み込んでいく。

 

 その魔力の光ですらもロイにとっては閃光弾程度の認識でしかない。志士たちに直撃し、一気に動きが止まった瞬間を狙うように動いたロイは、自らの身体へ強化魔術を付与すると一気に櫻一郎までの距離を詰めていく。

 

 先手一撃決殺、如何に七星が魔術師狩りであったとしても能力を発動しなければ怖れることはない。

 

「七星流剣術――伍ノ型『桜吹雪』!!」

 

 声が聞こえた瞬間にロイは咄嗟に魔術を発動する。自信の目の前に魔力障壁と静止魔術、加えて、自分自身に重力付与をあえてかけることによって、身体の態勢を低く屈ませる。

 

「この程度の目くらましなど、何の意味もない。既にお前は俺の剣筋が届く距離にいるのだから」

 

 ロイの判断が全面的に正しかったことは、頭上を越えていく不可視の剣閃が自分の後頭部を僅かに切り裂いたことで証明された。

 

 真っ直ぐに放たれた刺突の刀はあろうことか、その刀身よりも遥か先、刀身の優に2倍以上はあるだろう距離からロイの身体を狙い打った。

 事前に斬撃延長能力であると言う事実を知らなければ、この一合でロイの喉笛は機能を失っていたことだろう。

 

(最低限の障壁は常に自分の周囲に張っておくべきだ。僅か数秒だけであったとしても、時間を稼げることは重要だ。加えて重力制御による身体能力の向上、魔力反応による感知、すべてを同時に処理しなければならないか)

 

 突如として魔術に目覚め、ロイに抗うだけの力を一瞬にして巡らせた桜子の成長度合いは恐るべきであったが、櫻一郎もなかなかどうして、おぞましいものがある。

 

(三流であることを撤回する気はないが、単純に強いな。七星の剣術を極めた者がどんな場所であろうとも刃を届けることができる。単純明快、魔術師というよりも武人としての強さは際立っている)

 

 櫻一郎の剣閃に合わせるように志士たちが一斉にロイへと殺到する。

 

 閃光によって塞がれた世界に夜の闇が戻ってくる。しかし、周囲の変化など関係なく、対峙し激突する二人の魔術師は己の能力を最初から全開にし、相手を潰すための方策を実行する。

 

 櫻一郎の刀は魔術を斬る刀、刀身延長能力によって届く距離が大幅に広がっている彼にとって、射程という概念はもはや無きに等しい。どのような魔術を使って来ようとも、刀を振えば届く。故に斬られると分かっていても、ロイは防御、あるいは回避するための身体強化魔術を常に展開し続ける他ない。

 

 であれば、魔術師の戦闘に特化した櫻一郎がこの場で圧倒的に有利であるのかと問われれば、そもそもの前提を忘れてはならない。

 

「どういうことだよ、櫻一郎の野郎が参戦しているのに、まだ斬り殺せないのか?」

 

 奉が櫻一郎を使って、事の処理を行う時、ほとんどの場合は一瞬で片が付く。

中には多少できる奴がいて、櫻一郎の攻撃を避けることはあったとしても、二撃目で櫻一郎はその相手に合わせて倒すための攻撃を放つ。

 

 どう足掻いたところで、七星櫻一郎を前にして生き残れるものなどいない。それほどの価値があるからこそ、奉は櫻一郎をずっとそばに置いているのだ。

 

 奉は目の前の光景を疑う。櫻一郎だけでなく、キャスター側の戦力を保持し、魔術師として明らかに無数の魔術を同時展開しておきながら、ロイは魔力が切れる素振りも見せずに櫻一郎へと攻撃を続けている。時に志士たちを倒しながら、時に志士を立て代わりに使うことすらもある。

 

 こうなってくると、いよいよ恐ろしくなってくる。セイバー陣営がマスターとサーヴァントを含めて脅威であることは先ほど、充分に理解したが、マスターだけでもここまでの実力というのは流石に奉の中でも想定を外してしまっている。

 

「櫻一郎!」

「ええ、分かっています。七星流剣術―――」

 

「そこだッ!」

 

 櫻一郎の斬撃が振われるが、ロイは一切構う事無く櫻一郎の懐へと飛び込む。どのような斬撃が飛んでくるのかもわからない状況で飛び込むなど、まさしく自殺行為もいいところではあるが、一切そのようなことは考慮していない。

 

 既に攻撃動作へと入っている櫻一郎はそれを不審に思いながらも一刀を放つ。鞘から放った刀より放たれる真一文字の斬撃、前方一帯を切り裂くための斬撃であったはずのそれはロイへと真っ直ぐに飛び……こんだはずだった。

 

「詠唱破棄―――鮮赤の華(Tuoretta verta kukka)!」

 

 櫻一郎の斬撃は不発、ロイは留まることなく飛び込み、櫻一郎の懐に飛び込むとともに、身体にロイの手が触れる。

「―――――」

 

 瞬間、櫻一郎は全身が一瞬にして脱力するのを感じ、すぐさま、全身の血液という血液が沸騰するのを感じ、そのまま口から血を吐きだした。

 

 口からだけではない、全身から内出血を起こしたかのように血管が破裂する。櫻一郎もすぐさま、身体の中の魔術回路を起動し、回復の魔術を使用するが、治癒魔術に長けているわけではない以上、完全な回復を望めるわけもなく、一転して、劣勢に立たされたことを理解する。

 

「貴様……血液を操ったか……?」

 

「直接触れなければならないと言う所が少しばかり厄介だけれど、直撃すれば効果覿面だ。近づくための方策もしっかりと機能したしな。魔術を打ち消す戦い方が出来るのが自分だけだと勘違いはしない方がイイ。ロイ・エーデルフェルトは七星に勝利するために選ばれたのだから」

 

 七星と戦う以上、ロイに求められるのは勝って当たり前の現実、エーデルフェルトの長い歴史の中で定められたルールを覆してまで当主になった者として、安易な敗北は許されない。

 

 でなくば、他の二人に顔向けすることができないだろう。

 

「詠唱破棄―――無空絢爛(Ei taivasta upeaa)!」

 

「馬鹿な、何もない場所から突然――――ッ!!」

 

「あら、何もないなんてことはないわ。この街の中に立ち込めている魔力を使っているだけですもの。兄様のように複数同時に展開できれば、もっと効率がいいんでしょうけれど!!」

 

 異国人を殺せ、異国人を殺せとキャスターの志士たちが次々と数を頼りにリーナへと押し寄せてくる。ロイを倒すのには人員と時間がかかりすぎるということが分かった以上、もう一人のターゲットを狙うのは当然のこと。

 

 当然のことであるだけにリーナにとっては自分自身を囮にすることによって、安易に対処することができる状況を生み出すだけで十分だった。

 

 何せ、キャスター陣営の志士たちとは戦い慣れている。不安要素はバーサーカーの存在ではあるが、それについてはセイバーがきっちりと対処をしてくれている。何せ、ロイとリーナが単独戦力として戦っているのだ。セイバーの圧倒的な戦力が余剰戦力になりえるほどに。

 

「………冗談じゃねぇ。悪夢か何かでも見ているのか?」

 

 既にバーサーカーはアサシンとの戦いで見せた複数の獣としての状態で戦闘を始めている。一体の獣だけではセイバーを押しとどめることも喰らう事も出来ないのだ。

 

 複数で一気に攻撃を仕掛けてやっと、ステータスの時点では決して見劣りしない状態であるにもかかわらずである。何という出鱈目なのか思わず吐きだしたくなるほどだ。

 

「戦術予測、戦闘を継続する限り……、我、敗北の余地なし」

 

 どれだけの数を揃えたところで一騎当千の存在に勝るものなし。それを体現するかのようにセイバーの鉄槌はバーサーカーを穿たんとしている。そもそもこの機械の巨躯には怖れを抱くなどという道理も機能も存在しえない。

 

 もしも、そんなものが存在するとすれば、それは―――己が戦に敗北し、主の願いを叶えることができないと言う時だけであろう。

 

――秋津市中央部・電波塔周辺・ビル屋上――

「存外に苦戦をしているな……」

 

 セイバー陣営とバーサーカー及びキャスター陣営の戦い、今なお続く戦闘状況を直下で収めながら、久坂はそこから夜の闇の中、照らされる街並みを眺めていた。

 

 横には梓沙が立っているが、当然、両者ともにそこからセイバー陣営の戦闘詳細を見ることができるわけではない。電波塔周辺の喧騒が耳に届きはするものの、一人一人の顔が見れるほど、立っているビルの高さは低いものではない。

 

 人々が豆粒程度に見える程度、しかし、豆粒と言っても、それが何人にも重なりさえすれば、人だかりができることは明白。キャスター陣営を迎え撃つように中央に立ち、戦っている者の姿がわずかに見える。それがセイバー陣営側の戦力であろうことは、かろうじて久坂と梓沙にも分かる。

 

「あれだけの数を揃えておきながらも戦えるものですか……」

 

「すでに2日間、セイバー陣営とは我らが同志たちが刃を結んでいる。結果としては惨敗、いくら我々側が数を揃えていようとも、マスターもサーヴァントも数の優位を打ち消すように戦う事が出来ている。あれは言わずもがなの我らの天敵だ。我らの数は通用せず、日本国民でないがために、帝の威光は通じず、さりとて護国の刃が届くわけではない」

 

「それは、手詰まりであると口にしているに等しいのではありませんか?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「久坂様が、そのような言葉を口にされるとは考えてもいませんでした」

 

 梓沙は茫洋とした瞳でありながら、流ちょうに言葉を口にする。久坂への徹底的な敬語は、もはや本来の彼女の意識が表層に出てくることはないと証明されているようであり、彼女を知る人物が見れば、思わず目を疑いたくなるだろう。

 

 いや、むしろ……、本来の彼女自身が自分の姿を見れば、このビルの屋上より飛び降りたくなるかもしれない。

 

「私とて常勝というわけではないとも。現実的な話しをしている。我らが優位性を取れない陣営であるからこそ、バーサーカーの力を借りているのだ。しかし、アサシンを倒し、なおも力を増幅させているバーサーカーを以てしてもあれほどの苦戦は免れぬか……」

 

 セイバー打倒の為に久坂は志士たちの半分以上の戦力をバーサーカー陣営に貸し与えた。しかし、それを以てしても圧倒出来ていない。久坂にとっても思った以上に面倒な事態ではあった。

 

(セイバー陣営がどこまで、我らの素性を知りえているのかにも関わって来るが、バーサーカーが失敗するようであれば、奴らに我らの首をくれてやるのも一つか。我らを殺しきることが出来た、そう悟らせることが出来れば、少なくともあと1日を稼ぐことはできる)

 

 明日を迎えれば、バーサーカー陣営は不要になる。彼らは彼らでああして戦闘になった以上、全身全霊を払ってセイバーを止めるために戦うだろう。その結果としてセイバーを倒してくれるのならばよし、逆にバーサーカー陣営が消滅し、志士たちが敗走したとしても、帝を討ち取られるだけであれば、自分たちは敗北しない。

 

「あの場で悠長に闘っているということは、久坂様の事は気付いていないのでしょうか」

 

「であれば、最良だ。そうでなかったとすれば、精々、徹底的に消耗させてもらうところだ」

 

 セイバーも魔術師も決して無限の魔力を持っているわけではない。数で敵わなかったとしても、消耗させるだけであればいい。結局の所、帝と久坂を共に倒さなければ、キャスター陣営が倒壊することはない。

 

 一つの陣営だけでは甚だ不可能なのだ。久坂が総本山に戻らない限り、同時に倒すのならば、この街総てを焦土と化す以外に方法はない。

 

「さて、そろそろ来る頃合だと思っていたよ」

 

「はッ、何でもかんでもお見通しってことか? 神か何かにでもなったつもりかよ、島国のサル如きが」

 

 ビルの屋上に着地する音が二つ聴こえる。誰がここにいるのか、この場にいる者たちの所へ来る理由が分かっている。それはすなわち、久坂達にとってもっとも避けたい事態であったことは言うまでもない。

 

 しかし、久坂としてもその言葉から薙がばこうなるであろうことは予測できていた様子だった。

 

「来たね、ライダー。聡明な君の事だ。私の所に来るであろうことは想像できた。このタイミングであると言うことが憎らしい。何か嗅ぎつけて来たかね?」

 

「テメェ、電波塔を使って何かするつもりか?」

 

 チラリとライダーの視線が電波塔へと向く。久坂も釣られるようにして、視線を向けるが、あからさまな態度で首を捻った。

 

「さて、あのような建物で、我々が何をすると言うのか。皆目見当もつかないな」

 

「そうかよ、ま、ストレートに答えてくれるなんてことはこっちも考えちゃいねぇさ。電波塔で何を企んでいるとかそんなことはどうでもいい。結局はテメェとキャスターを此処で潰しちまえばそれで終わりだ」

 

 梓沙が久坂を守るように一歩前に出る。無論、サーヴァントを相手に梓沙が戦える道理などないのだが、彼女の様子に円華は思わず顔をしかめる。

 

 既に梓沙が久坂の手に落ちたことは明白であったが、ここまで露骨な態度に出られてしまうと、もはや梓沙の事が哀れに見えてくる思いだった。

 

 同時に久坂の周囲に志士たちが何人か姿を見せる。霊体化させて周囲に潜ませていたのであろう。

 

「手ぶらでいるとは考えていねぇさ。だが、セイバーにあれだけの数を使っているんだ。恐ろしいと思えるほどの数はいないだろ。ねらい目って訳だ」

 

「お前は本当に抜け目がないな、ライダー。好ましいと思うよ。だが、だからこそ貴様は目障りだ。私のことを理解し、唯一、此処まで辿り着いたお前にはそろそろ退場してもらうとしよう」

 

 久坂は笑う。彼にとって、これもまた想定内の出来事。ライダーという英霊は聡い、だからこそ、必ず嗅ぎつけてくると分かっている。

 

 蜘蛛の巣に入り込んできた獲物のように、既に準備は整っているのだから。

 




ライダー陣営は雲行きが怪しいけれど、大丈夫かな?

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