※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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1日遅れてしまいました、すいません!


逆襲の夜――序

――秋津市北側・唯一神理教総本山――

「まさか、再びここに来ることになるなんてね」

 

「ですが、数日前とは空気が変わっている。先日は、禍々しい瘴気のようなものが立ち込めているような様子でしたが……」

 

「来るなら来いと、そのようなつもりなのではないか。連中にとっても、もはやこの総本山は隠すような場所ですらないと言う腹積もりかもしれん」

 

「もう立てこもっている必要すらないって事? まだサーヴァントは5騎残っているって言うのに随分と強気だな……」

 

 今から3日前、あたしたちはこの唯一神理教総本山の山門の入口へと飛び込んだ。そして、山門を突破し、キャスターを倒し、渡された書状を巡って悲劇が起こった。

 

 わずか数日前の出来事だっていうのに、あたしにはそれがとても遠い昔の出来事だった様にすら思える。めまぐるしく変わっていく情勢は変わっていったけれど、思えばその始まりはここであったように思える。

 

 あたしたちがここに来た理由は言うまでもなく、もう一度この山門を突破して、キャスターを倒すため進んでいくことだ。

 

『ミス・サクラコ、電波塔側の周辺には既にキャスターとバーサーカーの軍勢が群れを成して電波塔周辺を守っています。ですが、これは……』

「ノルンちゃん、何かあったの?」

 

 アーチャーが語るキャスター側の目的地、電波塔にはノルンちゃんに向かってもらっている。

 あくまでも戦闘モニターをしてもらうだけではあるけれども、この総本山の攻略と電波塔の攻略がどちらも必要不可欠になる今日においては、そっちの状況をモニタリングできる存在がいるだけでも難易度が大きく変わってくる。

 

『キャスター陣営とバーサーカー陣営が戦闘に発展、これは、仲間割れ、でしょうか……? バーサーカー陣営がキャスター陣営へと襲い掛かっています!』

 

「始まったか……」

 

 ノルンちゃんから聞こえてきた情報にあたしと蓮司君は息を呑む。けれど、思っている以上にアーチャーは冷静にその状況を受け入れていた。

 

「予想、していたんですか?」

「可能性としては十分に考えられるとは思っていたよ。キャスターが今日勝負を掛けるのならば、バーサーカー陣営は目的達成と同時に無力化される。彼らの決裂は当人同士が一番よく分かっていたことだろう。しかし、このタイミングで、か……」

 

「ノルン、そちらに久坂玄瑞は到着しているのですか?」

『いえ、あくまでも周辺警備をしていた志士たちだけのようです』

 

「妙、ですね。確かに同盟が決裂するタイミングとしては些か早すぎる。背後から狙うチャンスをみすみす棒に振ったようにも思えますね」

 

「………、あるいはバーサーカー陣営が単純にミスを犯したか、ではあるがね」

 

(何にしても早計が過ぎる、これが悪い流れにならなければいいが……)

 

 アーチャーの見立てでは、バーサーカー陣営が裏切るにしても、それはキャスター陣営が王手を掛けるその直前ではないかと考えていた。キャスターとバーサーカー、共に手を切るタイミングは出来る限り相手よりも先延ばしにしたかったはずだ。

 

 それをあえて、先に実行したバーサーカー陣営の思惑は計りかねるが、この総本山から電波塔周辺の戦いをコントロールするなどと言うことは不可能に近いことをアーチャーも理解している。紆余曲折があれども、最終的にキャスター陣営の首に刃を衝きつけられればいい。

 

(エルナン・コルテス、上手くやって見せろ)

 

 心の中で自分の同盟者へと意気を上げ、アーチャーは電波塔周辺の情報を自分の中から切り捨てた。見上げるは総本山へと続く山門、此処を突破しなければ、キャスターへと辿り着くことはできない。

 

「前回は山門を突破するだけでも相当な戦いを強いられた。今回も気が抜けないね」

「静かすぎるのが逆に怖いけれどね」

 

「行こうか―――」

 

 アーチャーの声に呼応する形で、あたしたちは以前のように4人で一気に山門を駆けあがっていく。キャスター陣営の数の多さが脅威であることは十分に分かっているつもりで、この山門を突破する前に襲撃を仕掛けてくる可能性も十二分に考えられた。

 

 だから、ここを突破することをまずは第一優先として考えよう、そのように考えていたわけだけど――――意外なことに総本山へと入るために存在する山門、ランサーの宝具によって半ば崩壊しているそこへと辿り着くまでの襲撃は全くなかった。

 

「連中もいよいよ本気になったと言うことだろう」

 

「散発的な用兵を行うわけではなく、最初から拠点での決戦に臨むつもりでいる。追い詰められているとも捉えられますし、逆にそれでも勝てると踏んでいるようにも思えますが、おそらくは数に任せた持久戦というのが正答でしょうか」

 

「だろうな。奴らの本命は電波塔だ。キャスターが通常の戦闘では決して死ぬことが無いのであれば、後は時間稼ぎを続ければいい。蓮司君、七星桜子、気を引き締めろ。あの門を越えれば―――そこは敵地だ」

 

 吹き飛ばされた山門が見える。全速力でその山門を駆け抜け、唯一神理教総本山の中へと飛び込んだ瞬間、煌めく銀の鉄が視界を襲った。

 

「桜子っ!」

「――――ッ」

 

 咄嗟に魔術で刀を顕現すると、降りかかってきたその異物を受け止め、鍔迫り合いが始まったところでランサーのランスが敵手ごと吹き飛ばす。

 

 既にアーチャーの兵士たちも展開を済ませ、銃撃音が鳴り響くと同時に、あたしたちは総本山の敷地内へと踏み込む。そして、視界に入るのは総本山を埋め尽くすようにあたしたちの周りを囲む志士たち、そこにはあたしたちが初めて顔を合わせる相手ではない者たちもいる。

 

「こうして会うのは二度目かな。今回も役割としては同じだが、本気の度合いは違うって事。今回は俺達壬生浪士隊総てがお相手させてもらうぜ」

「斎藤一、か………」

 

「ふむ、この聖杯戦争の勝負がつくやもしれぬ夜に、こうしてまた顔を合わせることになるとは。これもまた運命か。我らの物語は此処に始まり、ここに終わる。

 沖田君もこれを運命的であると思うだろう」

 

「私にはどうでもいいことです。私が求めているのは……、ただ、斬ると決めた相手を斬ることだけですから」

 

 沖田総司と清河八郎、あたしとランサーが出会いを果たしたあの夜にあたしたちへと襲い掛かってきた相手とこうして顔を合わせている。

 

 キャスター陣営との決着をつけることになるかもしれない今日という日に置いて、彼らが相手となるのは確かに運命的なモノを感じさせるのかもしれない。

 

「今宵が終わればすべてが終わりを迎えます。帝の志士として、嫌と思うことはありません。ですが、その前に決着だけはつけておきましょう、ランサー。最も、今宵は私一人だけということではありませんが」

 

 あたしたちを囲むようにして立ちはだかってくる志士たち、数がどれ程いるのかもわからない。この総本山の中を埋め尽くすように展開している者たちを突破しなければ、キャスターの下にはたどり着けない。

 

「ランサー、キミは七星桜子と蓮司君を頼む。マスターであろうとも連中は容赦してこないだろう。守りが必要になる」

「アーチャー、その口ぶりは」

 

「ふむ、誰かが危険を冒してでも、キャスターの下へと辿り着かなければならない。であれば、それはこの作戦を提案した私が負うべきことだ。主攻は私と兵士たちが担う」

 

 その決意の言葉はそのまま不退転の決意を表現した者であることはランサーも言われずとも理解をしている。目の前に広がっている志士たちを相手にすれば、身体が砕け、存在として残っていられるかも怪しいところだ。

 

 最初からここはあくまでも囮。飛び込んできた相手を喰らうために用意された場所。電波塔へと向かった久坂こそが本命であるだけに、此処に残った者たちは一切の先など考えずに飛び込んできた相手を滅することだけを考えていればいいのだから。

 

 総てを察し、理解したうえでアーチャーは自らが捨て駒になることを選んでいる。彼自身が口にしている様に、この場こそがアーチャーにとっての墓場であるかのように。

 

「貴方たちが何を企もうとも、もはや総ては遅きに失したも同然。帝と久坂様は今日を以て聖杯戦争を終了させます」

 

 志士たちの群れの中から割って出てくるようにその声は響き、あたしと蓮司君はその相手の姿を確認すると睨むように視線を向けた。忘れるわけがない。蓮司君にとって忘れたくても忘れられない相手なのだから。

 

「一宮梓沙、煉殿を前に交わした約束は全て我々を騙すための方便であったと考えてよいのかな? 君は元々、煉殿を出し抜くためにこちらに接触したと」

 

「さて……、帝と久坂様と会うまでの私は畏れ多くも唯一神理教を敵視していました。遠坂煉を見出したのも全ては唯一神理教に対抗するため。けれど、今の私は帝の威光を知っている。帝の民であることを思い出した以上、帝を害する相手はすべて私の敵です。そう、私は久坂様より授けられた策を為したにすぎません」

 

「それはつまり……父さんを騙したってことじゃないか」

 

 梓沙がまるで誇らしいこと、自分の為したことを正当化するための言葉を口にすると、それを耳にした蓮司は拳を強く握りしめ、奥歯を強く噛む。

 

「あんたが、キャスターに洗脳されているのか、それとも本気でこいつらに心酔しているのかは知らない。途中で心変わりしたのか、元からだったのかもわからないよ。でも、ようやくはっきりした! あんたは父さんを騙していたんだ。騙して、明確に殺すつもりで僕に書状を渡した」

 

「ええ、ですから、そのように言っているじゃないですか。敵を欺くにはまず味方からと言いますが、久坂様や帝と敵対している様を浮かべている私は遠坂煉からすれば接触しやすい相手だったのでしょう。結果として、総ては万事抜かりなく。今日という日を迎えるまで、この街の中で最も我々の障害となる貴方たち遠坂を無力化できたのですから」

 

 梓沙の物言いが挑発なのは十分に分かっている。遠坂煉という釣り針を用意して、引っかかりやすい蓮司を挑発して隙を生み出そうとしているのは分かっている。

 

 ただ、分かっていたとしても、抑え込めない怒りと言うものがあるのもまた事実だ。聖杯戦争である以上、騙す、騙されたなど、騙された方が悪いに決まっているのだけれども、遠坂蓮司はそうした情を捨てきれない。捨てきれないからこそ、煉とは違う道を進める可能性があるわけだが……、

 

「蓮司さん、気持ちはわかります。大切な人を失うのは、失う可能性があると分かっていても、つらく苦しいものですよね。でも、それを払しょくする方法がありますよ。

 帝の御言葉に耳を傾けるんです」

 

「なっ……」

 

「帝の言葉は我々にとって啓示です。帝の言葉を代弁する久坂様は常に我々を正しい方向へと導いてくれる。現に私たちキャスター陣営は今日まで、総ての陣営を出し抜いて、今日という日を迎えた。神のごとき帝の判断と言葉は絶対です。

 だからね、蓮司さん。貴方の父を失った悲しみも、帝の言葉に耳を傾ければ、途端に安らぐことでしょう。さぁ、どうか、帝の民である日本人として、手を―――」

 

「だま―――」

「黙れ、もうそれ以上蓮司君に話しかけるな」

 

 瞬間、意気揚々と蓮司へと堕落の誘いを口にする梓沙の目の前に到来した目には見えない刃を前に、梓沙はその手に握った薙刀を振り、放った桜子の一刀を受け止める。

 

「あら、私は遠坂蓮司君に話しかけているつもりだったのですが、邪魔をしないでもらえますか?」

 

「もしかしたら、キャスター陣営に弱みを握られているのかもしれないとか。そうしなくちゃいけない理由があるとか。いろいろ考えてた。言葉を交わしあえば分かり合うこともできるんじゃないかなって。

 でも、そういうのもうどうでもいい! あんたは一発殴ってやらなきゃ気が済まない!!」

 

「勇ましいこと。でも、貴女にそこまでの事が出来る? 貴女、この聖杯戦争が始まってから魔術を使うようになったんでしょう? 私、こう見えても貴女よりは強いわよ」

 

「そんなのやってみなくちゃわからないでしょ。それに、あたしよりも強いのなら、あたしがここであんたよりも強くなればいいだけでしょ!」

 

 桜子は臨戦態勢に入り、梓沙も同じく薙刀を構えて臨戦態勢に入る。期せずして、マスター同士の対決となったが、久坂より留守を預けられている梓沙としても嫌はない。

 

 別にマスターを害してはいけないとは言われていないのだ。速やかに無力化するために腕や足を斬り落して戦闘不能にするくらいのことは問題ないだろうと思う。

 

「桜子さん、戦うのは君だけじゃないよ。僕だってこのまま黙っているなんてことは出来ないんだから……!」

「蓮司君……」

 

「ありがとう、僕の代わりに怒ってくれて。正直、桜子さんが何もしなかったら自分が同じことをしていたと思うから。ちょっと冷静になることが出来た。大丈夫、僕も自分を見失わずに戦うから」

 

 蓮司と桜子の様子に梓沙はフンと鼻を鳴らす。蓮司が勝手に暴走してくれれば、征圧も楽だったと言うのに、桜子の妨害があってそこまで行きつくことが出来なかった。

 

「いいですよ、二人掛かりで。それくらいでなければ、相手にならないでしょうから」

 

 それでも、梓沙は自分が負けるとは露にも思っていない。操られた身であっても、梓沙は神祇省のエージェントなのである。先ほどの桜子の一刀を真正面から受けたように、決して楽に御せる相手ではない。

 

「さて、こちらも遊んでいる時間があるわけではない。通らせてもらうぞ」

「通らせると思っているのかよ!」

 

 桜子たちの戦闘が始まったのを皮切りにして、アーチャーは本殿への道のりを踏み出す。言うまでもなく、壬生浪士隊はそれを阻むために動き、アーチャーの背後から無数のトルコ兵士たちが一斉に姿を見せ、銃剣を手に、刀を握る志士たちへとぶつかりあっていく。

 

 アーチャーの宝具によって生み出された兵士たちと言えども、練兵の上では壬生浪士隊をはるかに凌ぐ彼らの戦力は決して、霊基の質だけで語ることはできない。

 

 無論、その主も含めてである。

 

「まったく厄介なモノを引いたモノだ。沖田のように尋常ならざる戦いが出来ると思ったのに、これじゃ大捕り物じゃないかよ」

 

「黙って動け永倉。こいつの首を飛ばせば終わりだ。あっちは沖田がきっちりと仕事を果たす」

 

「へへっ、土方さんと永倉さんがいるとありゃ、数の差もなんのそのってところだ。悪いな、アーチャー。前と同じように行くとは思うなよ」

 

「土方歳三、そして永倉新八か。貴様たちは維新直前或いは以後まで生きている。攘夷思想では列強に勝てぬと言うことは嫌と言うほど知りえていると思ったのだがな」

 

「そうかもしれねぇな、だが、これは命令だ。今の俺達の主は帝なんだよ」

 

「そういう風な在り方を俺達は求められているのでね、正しい正しくないの次元じゃないのさ。侍ってのは元々、使えた主のために命を掛けて張り倒すものさ。それが今回は幕府ではなく帝であったと言うことだけ」

 

「アーチャー、何が正しいのかなんてことはもう議論する次元じゃないんだよ。俺達は帝の兵士だ。帝の為に闘えと命じられている。考えるべきはそれだけなんだ。余計なことを考える必要はない。俺達とアンタはどう足掻いても殺しあうしかないんだからな」

 

「…………確かにそうだな、我々はどうあれ、殺しあうしかない。ならば、これ以上は語る必要もないだろう。キャスターの下まで通させてもらうぞ」

 

「させねぇよ、御所警備を任じられた以上、ここは何があろうとも守り通す!」

 

 唯一神理教総本山、キャスター陣営の本拠地の中で一斉に戦闘が開始された。しかし、どうあれ、この総本山の中の戦いだけでは7日目の趨勢が決することはない。

 

 だからといって、当人たちにとって捨て置くことなど出来るはずもなく、それぞれの戦いは最初から全力でスロットルを切る形で始まったのだった。

 

――秋津市中央・電波塔周辺――

「さて、これはどういうことなのか、説明してもらえるのかな、神丘奉よ」

「説明……? おいおい、ふざけたことを抜かしているんじゃねぇよ、先に手を出そうとしてきたのはそっちだろうが」

 

 電波塔周辺、そこは唯一神理教総本山よりもなお早く――喧噪溢れる戦場へと変化していた場所であった。キャスター陣営とバーサーカー陣営が陣取るような形で周辺を警備し、来たる久坂の大願成就に向けて、その願いを紡ごうとする場所。

 

 他の陣営が邪魔をしようとしても、電波塔による書状が読み上げられるまでは誰も手を出すことができない聖域、そうした場所へと変わるはずだったと言うのに、今や、当初の予想とは全く違う状況へと陥っていた。

 

 バーサーカー陣営が襲い掛かっているのは同盟相手であったはずのキャスター陣営、敵手に対して背を向けて安心しきっていたような姿に牙を突き立てるかのようにして、バーサーカー陣営からの奇襲をキャスター陣営は受ける羽目となった。

 

 ノルンが桜子たちへと告げた言葉には何の間違いもアリはしない。奉は奉自身の考えの下に、強制的に同盟を廃棄したのだから。

 

「テメェが書状で書いていたじゃねぇか。電波塔での放送を完了することが出来れば、日本人は全員自分の洗脳下に置くことができる。厄介なバーサーカー陣営はそれで自殺させて終わりだとよ」

 

「さて、それは清河に当てた書状のはずなのだがな。彼には君たちの陣営を抜けるための時間を教えただけのはずだ。その言い分では、清河は書状を処分していなかったのかもしれないな」

 

「白々しいことを言うんじゃねぇよ。別に構わないぜ、今から清河の野郎を処分しに向かっても」

 

「いいや、大願成就はすぐそこにまで来ている。止める理由が無いな。驚くこともあるまい。何せ、我々は互いに相手をどこで出し抜くか、それだけを考えて今日を迎えたのだから」

 

 奉も久坂も最後に相手を出し抜いて、自分たちだけが勝利を手にするつもりでいたことに嘘はない。後はどちらが先に裏切るのか。先に裏切った方が馬脚を現すことになるが、相手の真意を見抜けぬままに裏切る羽目になるかもしれない。

 

 究極のチキンレースとでも言えばいいか、それを行っていたはずだ、しかし、奉は先に手を出した。これ以上の同盟を望むことはできない以上激突する他ない。

 

「ふん、すっかり騙されたぜ。確かにテメェは俺に言ったよな。まずは電波塔でテスト放送を行う。それが問題なく実行されれば令呪を使って、帝を電波塔へと呼び出す。そうすればゲームセットだと」

 

「ああ、言ったな」

「とんだペテン師だぜ、キャスターが向かわなくてもテメェが行けば同じ効力が得られるだとよ、笑えてくるな、嘘の一つも口にしちゃいねぇ」

 

 久坂がテスト放送を行って、その後に帝を呼び出す。確かにその時点まで進んでいれば洗脳は何の問題もなく終えていることだろう。

 何も知らぬ奉を含めて、日本人全員がキャスター陣営の配下となっている算段だ。悪夢と言う他ない。

 

「故にこの場で裏切り、私が電波塔の中へと入ることを邪魔する。そういう算段であると考えてもいいのかな?」

 

「他に何がある? お前には感謝しているんだぜ、久坂。お前らと手を組んだことで、バーサーカーはより強大な存在へと変貌した。だから、お前らはもう必要ない。役目を終えて死んでくれや」

 

「ふふっ、己に従属した獣に願いを託すことしかできぬ小物でもことここに至れば、それだけの吠え面を見せることができるのか、随分と滑稽だな」

「テメェ……」

 

 久坂に挑発された奉は怒りの表情を向け、キャスター陣営の志士たちを悉く地に伏せさせる結果を生み出したバーサーカーは今にも飛びこまんとする反応を浮かべている。

 対して久坂は……両手を広げるようにして、立ち止まった。

 

「何のつもりだ」

「好きにしたまえよ。キミたちの怒りは正当なモノだ、騙していた私の罪を問われれば、そこについては首肯せざるをえない。だから、好きにやりたまえ」

 

 さぁ、どこからでも飛び込んでくるがいいとばかりに無防備な姿を晒す久坂に対して、奉は何を馬鹿にしているのかと思う。想うが、手を出さない理由はない。ここで殺せるのであれば、それ以上の結果などないのだから。

 

「やれ、バーサーカー。令呪を以て命ず、決して久坂には手を出すな!!

 ――――――あ?」

 

 瞬間、その場の空気が凍るかのような静寂が起こった。その静寂の中で、奉の腕に刻まれた令呪の一画だけが、静かにその色を消失していく。

 

 次いで、巻き起こったのは両手を広げたまま、歓喜の色へと表情を変えた久坂の大笑いであった。

 

「くく、あっはははははははははは、ご苦労だったね、奉君。嬉しい限りだよ、この千載一遇の機会を自ら棒に振ってくれるとは!! これほどまでに痛烈愉快なことははない!」

 

「テメェ、何をしやがった!」

 

「君もほとほと頭が回らないな、私が君たちの陣営に対して危惧していたことは一つだけだ。後ろから噛まれるのはいつになるか。君たちが裏切るのが織り込み済みであれば、あとはいつ裏切られるか、それが自分にとって嫌な状況でないかだけだ。

 であれば、答えは一つだ。キミが裏切るタイミングをこちらで指定してしまえばいい」

 

 久坂の書状に書かれていた内容は二つ、一つは自分たちの真の目的、そしてもう一つは令呪を使ってでも久坂に攻撃をさせてはならないという命令の二つである。

 

 前者は奉が読めば、必ず到着前に手を出す。そして前者が成立している状況であれば後者も成立していることは問う事もなく理解できてしまう。

 

 これはいわば、そういう話でしかない。この戦場に辿り着いた時点で、奉には久坂を討つための手段が喪失していたに等しいのだから。

 

「さて、では、我々は先に進ませてもらうとするよ。君はそこで吼え続けていたまえ。手を出す事すら許されなくなった自分自身の滑稽さを肌で感じながら」

 

「勝手に進もうとしているんじゃねぇ。こんなもんは―――」

 

「それに私の事に構っている暇などないだろう。さぁ、来るぞ、キミにとっての死神が」

 

 瞬間、奉とバーサーカーの背後で何かが壊れる音がした。それはまるで暴風がこの場に突如として発生したかのようであり、何匹かの増殖したバーサーカーがうめき声を上げて、その姿を消失させていく。

 

 無論、魔力が足りなかったなどとそのような次元の話ではない。キャスター陣営の思わぬ反撃と言うわけでもない。

 

 ただ――――現れたのだ。この場にバーサーカー陣営にとって唯一伍するかもしれないと言う相手が。

 

「仲間割れでもしていたか? それなら、少し残念だな、お前たちはどちらも俺たちが倒すつもりで来たんだが……まずは、獣の方から掃討するか、セイバー」

「御意。昨日の汚名、自らの身で注いで見せましょう」

 

「セイバーッッ!!」

 

「ではな、神丘奉。縁があればまた逢おう。その時には君と私は同志となっているはずだ。改めて、共に帝の下に生まれる神国の為に闘おう」

 

 もはや興味もないとばかりに久坂や円華を引き連れた一団は悠々と電波塔の中へと足を進めていく。しかし、奉はそれを追うことはできない。久坂に攻撃することもできないが、そもそも、目の前の相手がそれを許してくれるはずもない。

 

 セイバーを突破しない限り、久坂達を追うことは不可能であると去らせられ、奉は腹を決める。この先がどうであれ、取れる選択肢は一つしかない。

 

「く、くくっ、死にぞこないが、余計な手間を増やしやがって。本気で勝てると思ってんのか、バーサーカーは昨日以上に進化を果たしている。この街は恐怖に包まれている。お前たちに恐怖に抗う術があるか!」

 

「逆に問おう―――獣よ、貴様は真の恐怖と言うものを理解しているか?」

「―――――ッ」

 

 空気が変わる、周囲の光景が歪み始めていく。それはさながら世界が変わるような感覚、この場に存在しているはずの世界に別のテスクチャを張り付けているかのような何かがこの電波塔周辺を覆い始めている。

 

「我が身はかつて、長平の地を怨嗟と嘆きの声で満たした。それは恐怖の象徴となり、やがては我が身すらも滅ぼす絶対的恐怖の尺度として語られることとなった。怨嗟は消えず、我らが秦帝国は、その怨嗟を背負い続けていくこととなった。分かるか、それが恐怖だ。

 貴様のように人為的に生み出されたものではない」

 

 英雄・白起の伝説に、長平の戦いにて、彼は敵対する軍勢約40万人の首をその大地に埋めたと言う。動くことすらままならずに餓死を迎えるしかなかった者たちの嘆きと怨嗟の声で長平の地は染め上げられた。

 それは言うまでもなく恐怖、恐るべき他の何者にもかえることができないものであったことは想像に難しくない。

 

「我が機械の身体に刻まれた原初風景、あの日に刻まれた虐殺の記憶―――貴様が生み出した獣の恐怖と、我が恐怖、どちらが勝るのか、試してみるのも悪くなかろう」

 

 瞬間、世界そのものが変化した。バーサーカーと奉を取りこむようにして、これまで顕現することのなかったセイバーの宝具が雄たけびを上げる。

 

「『卒四十萬人――挾詐而盡院殺之』!!」

 

 宝具の真名が開陳されると同時に、周辺に展開されていた複数存在の恐怖の象徴ともいうべきバーサーカーたちの足が竦む。

脚元よりせり上がってくるように怨嗟と嘆きの声が周囲より木霊する。まるで見えない何かが四本のバーサーカーの足を掴んでいるかのように、動きが鈍っていく。

 

「うっ……何だ、ここは。こんなものがあるのか……」

 

 バーサーカー以上に奉はその空間に入りこんだ瞬間に吐き気を覚えた。おぞましいほどの怒りと憎悪が空間そのものを覆っている。

 

 死んでくれ、死んでくれ、どうか、滅びろ、滅びろ、この世から消えてくれ、おまえはいらない、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、嫌だ、嫌だ、嫌だ、怖い、怖い、怖い、殺さないで、殺さないで、助けて、助けて、助けて、死にたくない、死にたくない、死にたくない、忘れない、忘れない、呪ってやる、呪ってやる、滅べ、消えろ、死ね、朽ちろ。

 

 多種多様に聞こえてくるのは総てが末期に唱えられた叫びだ。それがこの空間そのものを覆い、奉自身の足が自然と竦みあがっていく。まるで本当に足元から土を削って人の腕が伸びてきている様に。

 

 恐ろしい、悍ましいと言う感情が周囲そのものを支配していく。本来、バーサーカーの十八番であったはずのそれを、上書きするかのようにして、セイバーの宝具が侵食していく。

 

「話には聞いていたが、これはまた凄まじい宝具だな。傍にいる俺でさえも影響を受けてしまいそうだ」

 

「主よ、下がってもらって結構。この宝具は敵も味方も纏めて影響下に収めてしまう」

 

「いや、お前と一緒に戦うと決めた以上、俺は下がるつもりはない。それに……恐怖以上の怒りが今の俺にはある。突き動かす原動力があるのならば、問題ないだろう」

 

「――了承。では、殲滅を始めるとしよう」

 

 セイバーとロイが動きだし、それに遅れるようにして、バーサーカーが動き出す。しかし、その動きだしの時点でもはやセイバーの宝具の影響を受けてしまっている。

 

 足が竦んだバーサーカーは戦術予測によって完全に動きを見切られ、セイバーにとって簡単に蹂躙される。昨日の結果など、もはや通用しないと言わんばかりに振るわれる一撃一撃が、バーサーカー陣営にとっての楔ってなっていくかのように。

 

「獣よ、来るがいい。貴様に―――恐怖と言うものを教えてやる」

 

 恐怖を喰らう獣に恐怖を教える、かつて中原総てを恐怖へと陥れた虐殺の化身が放った奥の手は、バーサーカー陣営を完全に釘付けにする結果となった。

 

 もはや、セイバーを倒さぬ限り、バーサーカー陣営がここから抜け出す手段は存在しない。果たして久坂がここまでを読んだうえで、策を仕込んだのかはわからない。

 

 しかし、結果的に久坂は電波塔への侵入を難なく実行して見せた。ここまでに他陣営のほとんどから妨害を受けているにもかかわらず、願いに向かう階へとついに王手を掛けたと言うに等しい所にまで来て見せた。

 

「久坂様、こちらへ。電波塔の中を進むのならば、エレベーターを使う方が早いでしょう」

「ふむ……」

 

 円華がエレベーターの方へと足を進めていく。電波塔の高さはほんの少し登っただけで到達するような距離にはない。階段は用意されているが、現代人の円華の思考で考えれば、エレベーターを使う方が確実性が高い。

 

 しかし、円華はエレベーターのボタンを押したところで動きを止め、暫くしてから、久坂へと振り向いた。

 

「申し訳ありません、久坂様……このエレベーターですが故障しているかもしれません。何故かボタンを押しても反応せず―――」

 

「いや、構わん。少々時間はかかるかもしれないが、昇って行けばいい。そのような得体のしれぬものを使う必要もあるまい」

 

「そう、ですか。それは失礼しました……」

 

 円華は申し訳なさげな表情を浮かべ、謝罪を口にする。久坂は特にそれに応じることもなく、足を先に進めていく。

 

「もはや我々を止めることができる者などいるはずもなく―――、設備のある場所に辿り着けば我々の勝ちなのだから」

 

 そして、同刻、電波塔の放送設備があるフロアには人影が存在していた。久坂達が訪れるよりも早く、既にこの場所に陣取っていたモノはたった一人で、そのフロアの主のように椅子に座りこんでいた。

 

『キャスター陣営は此処まで登ってくるみたいよ。円華ちゃんが細工に気付いたみたい』

「………そうか」

 

『細工をしておいてよかったわね、これでアーチャーが言った通りの時間を稼げるでしょう』

「そうだな、それに野郎の言っていた久坂の弱点も裏付けがついた」

 

『勝てそうなの?』

「さて……、俺様としては勝ちの目は出て来たとは思っているが……」

 

 フロアの主のように佇むエルナン・コルテスは電波塔から見える街の夜景へと視線を伸ばし、くくっと笑みを零す。

 

「最後は――勝(・)利(・)の(・)女(・)神(・)は(・)ど(・)ち(・)ら(・)に(・)微(・)笑(・)む(・)か(・)、そこだろうな」

 

 果たしてエレベーターに仕込んだ細工がどのように転んだのか、賽はすでに投げられている。あとは結果が出るのを待つだけである。

 




いよいよ7日目の決戦開幕ですね、まずは総本山側の戦闘から進めていきます!

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