※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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7日目決着です!


兵どもが夢の跡

――秋津市中央・電波塔放送設備フロア――

 人類史にその名を刻む感染症の一つである『天然痘』、現在においては種痘の治療を受けておくことによって、感染症としての撲滅にほぼ成功している症例であり、人類と感染症との歴史の戦いにて、明確に人類側が勝利を勝ち取った数少ない事例の一つとして見られている。

 

 既に日本における幕末の時代においては、この種痘による治療法というものはオランダの医学を通じて、日本に流れ込んでおり、その恩恵に縋っている者は少なくはなかった。

 

 日本の歴史の中でも、天然痘による被害は大きな爪痕を残している。古くは権力の中枢に入り込み、祟りが起こったかのように次々と人々が死を迎える状況が生まれることすらもあった。蘭学者を中心に医学にも大きな発達が見られた江戸の時代に置いて、天然痘を乗り越えることは一つの進歩であったと言えよう。

 

 ただ、そうした進歩を受け入れることができない者たちもいた。西洋より流れ込んできた知識の総てはケガレであると、当時の公家や帝たちはその知識を活用することを嫌った。

 

 一説に孝明帝の死因は、異国人と接触をした公家より天然痘の感染が起こったのではないかと言う仮説も唱えられている。決して御所より出ることが無く、京の都に鎮座するが故にケガレを抑え込むことができると考えていた帝にとって、人を介して蔓延しようとした感染症は、まさしく異国人の齎したケガレそのものであったとも言えよう。

 

 無論、あくまでも推察の一つに過ぎない。その公家に対して異国人を差し向けた者がいるのではないかと言う説すらもある。孝明帝の死は今もってなお明確な病による死であるのかは明確でないのだから。

 

 明確なことは、この電波塔における闘いの趨勢が半ば決したと言うこと。

 

 宝具の影響で孝明帝と同一存在あるいは極限に近しい存在へと変貌していた久坂の身体を、直接の死因ともいえる天然痘の毒素が巡り、既に久坂は膝をつき、自力で立ち上がることすらできない状態へと至っていること。

 

 その姿は、先ほどまでの策謀を巡らし、この聖杯戦争の勝利者に誰よりも近かった者と同一人物であるようには見えなかった。膝をつき、這いつくばるようにして、ライダーへと近づいて行こうとする久坂の姿はさながら、動きの悪い芋虫のようですらある。

 

 近づこうにもあまりにも緩慢な動きは、ライダーからすれば嘲笑の対象でしかない。ここまでに敵味方あらゆる者を騙しつくし、たった一人で勝利の階に王手をかけていた者を土壇場で救ってくれる者はいない。

 

 結果を覆す事も出来ずに、その身は致命傷ともいえる毒素によって、サーヴァントとしての身体を維持することもできなくなっていた。

 

「馬鹿な……、私の身体が……、み、帝も同じく、朽ちかけて、いるというのか。我ら共に―――打倒されたと!!」

 

「ハッ、デカい口を叩くだけのことはあるな。アーチャーの野郎も、しっかりと仕事はこなしたってことだ」

 

 本当にライダーと久坂の決着がつくまで、ずっとキャスターを殺し続けていたのか、はたまた偶然の出来事として久坂と帝双方が倒されたのかはコルテスには判断のしようがないが、それで目の前の現実が変わるわけではない。

 

 既にエーテルの流出を止める術はなく、久坂の身体は不可逆的に秋津の街より消滅しようとしていた。久坂の様子からしても彼が復活することは万に一つも有り得ないとコルテスは確信を覚えた。

 

「何故だ――――此度の、私と帝は、共に思想を同じく、した。かつてのように、互いに反目していたわけでもない、のに、何故だ、何故―――私が、お前のようなケガレたる異国人に負けなければ、ならぬ」

 

「そりゃあ、結局の所、あれだろうよ。お前らが勝つに相応しい存在じゃなかったって事だろ。お前は自分以外の誰一人として信用していなかったし、分かり合っただなんだといっても結局は良いように使っていただけだろ。勝つに値するほどの器じゃなかった。

 だから、最後の最後で足元を掬われるんだよ」

 

「知った風な、口をぉぉぉぉぉぉ!」

 

 久坂は怒りに全身を染め上げられる。今にも毒によって全身が焼けただれてしまいそうになりながらも、なおも怒りの炎によって全身の痛みを忘れてしまいそうになるほどであった。

 

(消えるのか、再び、道半ばにして、私は……、かつてのように)

 

 帝の下を追放され、迎えた冬、翌年に決起するまでの僅かな静寂の時間、久坂は常に何が間違っていたのかと己に問い続けた。帝は己を理解してくれなかった。もしも、帝が己を理解し、真実、共に手を取り合うことが出来れば、負けるはずがないと夢想し、そして、再起の機会を得た。

 

 負けるはずがなかった、帝と己の不和と言う要素が全く存在せず、総ての事象が己の掌の内で行われていたと言うのに、よりにもよって、異国人と魔術師でもないただの女に騙し合いで敗北するなどと。

 

(あれほどの殺意を向けておきながら、互いに裏切っているかもしれないと知りながら、それでも互いを信じることなど、できるはずがないというのに……)

 

 かつて、己と帝はそうした対立状態に至ったがために大願を果たすことが出来なかったと言うのに。互いを信じて勝利の瞬間を待つ、そんな在りし日に決して実現することが出来なかったことが、自分の夢を阻むのかと、もしも、全身が動くのであれば久坂は憤りに全身の血を沸騰させていたかもしれない。

 

(いいや、認めぬ。このような結末は認めぬ。たとえ、死したとしても、再び、再び、いずれは舞い戻る)

 

「ぐはっ、じ、攘夷完遂。それこそが我らの願い………必ずや、必ずや」

 

「馬鹿は死んでも治らない。お前も同じことだな、久坂。好きにしろ、誰もお前の願いを止めることはできない。他者など何も関係なく己の願いの為に邁進する。そういう考えは嫌いじゃねぇよ。もっとも、お前が次に現れるときには俺様がこの国の支配者になっているだろうけどな」

 

「結構―――であれば、その時は貴様を引きずりおろすために我が策完璧な形で実行して見せよう。次はこうはいかん、必ず、必ずや貴様の首に――――」

 

 刃を突きつけてやろうと最後の言葉を口にするよりも早く、久坂の全身が痙攣し、遂に言葉を吐くだけの力すらも失った。

 

 消滅の寸前、意識すらも曖昧の最中で、孝明帝と同一の存在になりえたがために発生した弱点によって己が消えることを久坂は顧みて、

 

(ああ、しかし、今度こそは帝と共に果てることができる。それだけは……ああ、素晴らしきかな)

 

 かつてのように、心が離れたままに終わりを迎えたわけではない。自分たちは最後まで繋がったままに終わりを迎えることができる。

 

 あの屈辱に塗れ、雌伏の時であると空を眺めた冬の夜に覚えた痛苦、それに比べればこの死のなんと安らかなことか。

 

 己の心の在り方に気付き、久坂は消えゆく己の意識を手放した。いずれ、再び攘夷の風を吹き荒らす時に、今度こそは勝利を勝ち取るため。

 

 歪んだ認識によって生み出された無辜の怪物たちはこれによって姿を消す。

 

 久坂玄瑞―――秋津の聖杯戦争に置いて、あらゆる陣営を巻き込み、掌の上で転がし続けてきた男は、最後まで己の正義を疑う事無く、己の狂気を矯正することもなく、消失を果たしたのであった。

 

・・・

 

 久坂の敗北により、キャスター陣営は連鎖的に消滅を始めていく。電波塔の戦いの終わりはそのまま7日目の戦い全体の終わりを意味していた。

 

 ただ一か所だけ、キャスター陣営の戦いとはまったく関係のない形で戦いを終えようとしている者たちもいる。

 言うまでもないだろう。電波塔周辺で戦いを起こしているセイバー陣営とバーサーカー陣営の戦いである。

 

「くっく、くく、どうした、どうしたよぉ、セイバー。まだだろうが、ここからが面白くなって来るところだろうが。テメェの使った宝具なんだ、最後の最後まで筋通すのが当り前じゃねぇのかよ!」

 

 奉は叫ぶ。それは声の調子こそ狂気に染まっているように見えるが、明らかに勝利を確信したような意味合いの声ではなかった。

 むしろ、そこに浮かんでいるのは焦燥感を掻き消すための声だ。己の中に浮かび上がっている恐怖の感情を掻き消すために、自分自身を鼓舞するために声を上げているに他ならなかった。

 

 セイバーの宝具が展開しているこの空間の中は、怨嗟と憎悪に塗れた残虐極まれる空間、ただ、此処に立っていると言うだけで恐怖に心を汚染され始めて、精神そのものを壊しかねない世界なのだ。

 

 奉が未だに精神を自立させていることが出来ているのは、偏にバーサーカーがその恐怖の空間に抗っているからに過ぎない。

 

 バーサーカーは奉を思いやり、彼をこの場から遠ざけるようなことはしない。獣はそのような理知的な感情など抱かないし、結局は目の前の相手を喰らうことしかできない。

 

 ただ、己の中に生まれた恐怖と言う感情に抗い、今もなお戦い続けようとしている獣がいるからこそ、奉もこうして宝具の中で抗い続けることが出来ている。

 

 その存在だけで己のマスターを鼓舞することが出来ていると言う時点で、バーサーカーと奉も主従関係の一つの到達点へと至ることが出来たのかもしれない。

 

「セイバー、気付いているか」

「理解、彼奴め、我が宝具によって生まれし、憎悪と怨嗟すらも呑み込まんとしている」

 

 対して、ロイとセイバーもまた余裕と言う様子ではなかった。敗北寸前にまで追い詰められたバーサーカーが見せた恐怖への抗いは、自分の中に生じた恐怖と言う感情の克服により、抵抗する時間を長くした、と言うだけの結論で終わるわけではなかった。

 

 むしろ、奉もバーサーカー自身もどこまで気が付いているのか不明ではあるが、徐々に固有結界内部そのものに亀裂が走り始めている。

 

(原因はバーサーカー自身がこの空間の中で恐怖に呑まれる存在から、再び恐怖を喰らう存在へと変貌したことか。存在そのものを再定義することによって、固有結界内部はセイバーとバーサーカーが空間の支配権を奪い合う形となった)

 

 元より、この中原の殺戮風景によって顕現した空間はセイバー:白起に対しての恐怖によって成立していた空間である。

 それが徐々に徐々に獣の恐怖に汚染され始めている。己の中に浮かび上がっていた恐怖を皮切りに、この空間の中に宿っている恐怖そのものを喰らい始めているのだ。

 

 勿論、優勢であったのは言うまでもなくセイバーであるが、戦闘が長く続けば続くほどにバーサーカーの力が盛り返し始めている。

 

(判断をしなければならない。ここでバーサーカーを最後まで押しきることができるか、あるいは即座にセイバーの宝具を解除するか……)

 

 ロイにしてもセイバーにしても、バーサーカーを潰すことは何があろうとも為さなければならない。リーナに傷を負わせた相手であるし、昨日の戦いを通しても、潰しておくべきだろうと考えているからだ。

 

 しかし、バーサーカーと言う存在の特性を考えればこのまま闘い続けることが果たして正しいのかどうかの判断は難しい。もしも、この優勢状態が逆転されるようなことになれば……、

 

(セイバーの宝具の支配権が完全に移るほどの恐怖が蓄えられてしまったとすれば、もはやバーサーカーは手の付けられない存在へと変貌する。俺とセイバーが束になってかかっても、倒しきれないとなれば、もはやこの聖杯戦争の中でバーサーカーを倒すことができる存在は、おそらくいない)

 

 判断が迫られる状況、撤退を果たすのであれば、これ以上恐怖をバーサーカーに与えるわけにはいかない。

 

 さぁ、どうする、とロイが口を開こうとした時に、

 

『やぁ、ロイ・エーデルフェルト、神丘奉。共に聖杯戦争に勤しんでいるようで何よりだ』

 

 聞こえてきた声は、この固有結界など何の関係もないとばかりに聞こえてきた。

 

(何だ、この声、言葉そのものに魔力が蓄えられているような。

まるで……俺達よりも遥かに高い存在が、直接話しかけてきているような)

 

「テメェ、久しぶりじゃねぇか。まさか、二度も耳障りな声を聴くことになるとは思ってもいなかったぞ」

 

『神丘奉、君は相変わらずのようで安心したよ。いや、以前とまったく同じというわけではないか。天秤は大きく傾いている。いや、しかし、君はそれでいい。君はそうあるべくして聖杯戦争に選ばれたのだから、そのままの君で邁進をしてくれればいい』

 

「チッ……、相も変わらずわけのわからないことを」

「お前は何者だ?」

 

 苛立つ奉とは対照的にロイは、無表情に問いを投げる。正直、相手の存在が何であるのか判別もつかないために、どう対処をすればいいのかもわからない。

 

『そうか、ロイ、君と私はこうして会話をするのは初めてだったね。いや、しかし、こうして会話をしてみると私の慧眼に間違いはなかった。悪辣たる環境の中で己の中にある善と悪の葛藤を乗り越えた者、寄り添える者によって善を維持できる者。

 君を呼びこむためにエーデルフェルトに目を掛けたのはやはり――正解だったね』

 

「まさか、貴様が―――――」

 

 ロイはその言葉で一つの真実に至る。何故、エーデルフェルトが突如としてリーナを引きずりおろして自分を聖杯戦争の代表者に選ぼうとしたのか。

 何故、この周期を異にした聖杯戦争のことをエーデルフェルトが半年も昔に、知っていたのか。それら全てがこの天より聴こえてくる声によってもたらされたものであったとすれば。

 

『察しの通りだ、ロイ・エーデルフェルト。私が―――この聖杯戦争を始めたモノだ』

「―――――ッ!」

 

 ロイの表情が無から怒りへと変わる。影も形も見えずに、自分たちを高みから見下ろす存在、それこそがリーナに責苦を与えた存在であると理解した途端に、その声は恐ろしいほどに憎らしく感じられた。

 

 エーデルフェルトの一族に抱く感情よりもなお濃い、真実、姿さえ分かれば全身を引き裂いても足りないほどの怒りがロイの中で渦巻いていく。

 

「主よ、落ち着かれよ。その感情、機械の身であっても理解はする。されど、その感情に身を任せるは相手の思う壺であると知れ」

「…………、そうだな、セイバー。済まなかった、昨日に続いてまた選択を誤る所だった」

 

『君は本当に素晴らしいサーヴァントを引き当てたようだ、いいや、君だけではない、奉、君もだ。私からのプレゼントは気に入ってくれただろう』

「ああ、そうだな。存分に楽しんでいる所だ。ツケは数倍にして返してやるから楽しみにしとけよ」

 

『結構。さて、君たちに声を掛けたのは他でもない、7日目の趨勢が決したのでね、君たちにもそれを伝えに来たのさ。キャスター陣営はアーチャー、ランサー、ライダーの手によって敗北した』

 

「なに――――?」

 

 奉は思わず目を見開く。キャスターの徹底した盤面制圧を誰よりも間近で見ていたのは奉である。あのキャスター陣営が、久坂が敗北を喫した。そうなることを望んでおきながらも、その結末に驚きを隠せないでいた。

 

『私が伝えたかったことは以上だ。この事実を知ったうえで、ここからどうするのかは君たち次第だ。私としては―――ここで君たちのどちらかが脱落するのは些か忍びないと思うがね』

 

「セイバー、宝具展開を解除しろ。一度退こう」

「理由を聞かせてもらおう」

 

「考えるべき事項が一つ増えた。なにより、俺とお前も少なからずの消耗は受けている。あのような存在に監視されている状況で勝負を決するのは些か浅慮が過ぎると考えたまでだ」

「―――御意」

 

 言葉にすると同時にセイバーの宝具展開が一瞬にして解除され、元の電波塔周辺へと戻る。しかし、先ほどまで倒れていた志士たちの姿は一切見えず、その様子が先程の声が告げた言葉を裏付ける何よりの証拠のように感じられた。

 

「バーサーカー、お前たちは必ず我々が倒す」

「その言葉、そっくり返してやる。俺達を見逃したこと、必ず後悔させてやる」

 

 2日間に渡って、戦いは中座した。ロイとセイバーは即座にその場を離れ、奉は思いっきり咳き込むと、膝から地面に崩れ落ちた。

 

「はぁ……はぁ……くそったれ。いまだに膝の震えが止まらねぇ」

 

 昨日に続いて撤退をしたのは間違いなくセイバーだ。しかし、あのまま戦闘が続いていて、果たして生き残ることが出来ていたであろうか。

 

「足りない……ここまでやっても、まだ足りないのか。くそったれ……」

 

 セイバーの放つ恐怖は凄まじかった。奉自身も本気で死を確保するほどの恐るべき圧力を以て空間を制圧していた。バーサーカーがもしも奮起しなかったとすれば、久坂への借りを返すなどよりも、奉自身が命を落としていたことだろう。

 

(だが、バーサーカーは負けていない。まだ負けていない)

 

 顔を上げれば、そこに黒色の靄を被りながらも、主を見据え、次の指示を待つ獣の姿がある。まだこの獣は戦うことを諦めてはいない。自分たちの願いを叶えることを諦めてはいない。

 

「そうだな、まだ終われない。俺もお前も、このくそったれな世界に屈しちゃいない。もう、なりふり構うのはやめだ。総てを出しきらなけりゃ、奴に、セイバーには勝てない……」

 

 満身創痍の最中で、奉は相棒と共に7日目の夜から離脱を図る。決して華々しい勝利を手にしたことなど、この7日の間で1度たりともない。されど、前の日よりも確実に進んではいる。

 

 光の道を歩めないことなど、奉が誰よりも一番よく知っている。だからこそ、奉に出来ることは前に進みだした足を止めないことだけだ。どれほどの苦難があろうとも、どれほどの悲劇を生み出していこうとも……それ以外の生き方など知らない。もはや選べない。

 

「オヤジを殺したあの日から、もう俺は後ろには戻れない。振り向いちまったら、もう前を向くことはできない。進み続けるしかねぇんだ……」

 

 奉は考える。考えなければ勝ち残れない。バーサーカーと言う英霊を勝たせるために何をしなければならないのかを、必死に考え続ける。

 

――秋津市北側・唯一神理教総本山――

「そうか、久坂は敗れたか……ならば、この結末も止むなしか」

 

 総本山の最中で無数のエーテルの光が天に上るように発せられていく。その一つ一つが消滅の光、言うまでもなくキャスターの配下である志士たちを含めて、キャスター:孝明帝は自分たちの陣営の敗北を理解し、抵抗することなく消滅の道を選んだ。

 

 その瞳はこれまでのように血走ったものではなく、目を伏せ、己の結末を受け入れているように見えた。

 

「孝明帝、失礼だが、もしや―――」

 

「異国の戦士よ、己の命を捨ててわが軍勢に立ち向かった戦士よ、それ以上の言葉は不要だ。道は違えど、朕と久坂は共に攘夷を望んだ。されど、その夢は半ばで途絶える。そうある運命であり、今の世がある」

 

 既に消滅の間際でありながら、アーチャーは初めてキャスターと言葉を交わしあう事が出来たように思える。久坂と言う枷が外れたことによって、この僅かな時間の間であっても、キャスターは生前の己を取り戻したのかもしれない。

 

「異国の戦士よ、一つだけ問う。己の末路は理解しておろう。何故、そこまで戦う?それほどに、我らが憎かったか?」

 

「まさか、憎しみだけではここまで戦えはしまい。我らはかつて、貴方の愛した民たちによって救われた。我らはただ、時を超えてその恩を返しに来たに過ぎない」

 

 憎しみでも、怒りでも、侵略でもなく、ただこの国を想う者として間違った道へと進む者たちを止めに来ただけなのだと語るアーチャーの言葉もまた、キャスターが嫌悪する異国人の言葉には間違いなかった。しかし、どうにも、キャスターはそれを吐いて捨てる気にはなれなかった。

 

「我らがケガレと忌避した夷狄の民らが、我が国のために立ち上がる。国を想えばこその攘夷、されど、この結末を、この眼の先にある光を見れば――――」

 

 瞳を開き、キャスターは総本山の先にある光を見る。かつて闇に閉ざされていた暗黒の夜を照らすように世界が広がっている。

 己がケガレと断じた者たちと手を取り合った先にある世界であると知ればこそ、キャスターは再度、降り立った地で何故、自分たちが敗北したのか、十分に納得することが出来た。出来てしまった。

 

「異国の戦士よ、我が民たちに代わって朕が告げよう。――――大儀であった」

 

 最後に、生前も、そしてもう一度召喚されたとしてももはや二度と口にすることはないであろう言葉を残して、キャスター:孝明帝は秋津の街より完全に消失した。

 

 その消滅の時に、アーチャーは被っていた帽子を脱ぎ、深々と頭を下げた。勝利者であり、己が打倒した存在に対して頭を下げる姿は、傍目には異質に見えるかもしれないが、アーチャーは生前の業を超えて言葉を口にした帝に対して、敬意を払う他なかった。

 

(終わった、か……煉殿、約束は果たしたぞ)

 

 キャスター陣営は脱落した。これにて、7日目の戦いは終わりを迎える。己の役割もようやく終わりを迎えたであろうと言う時に、アーチャーは己を召喚したマスターと出会ったころのことを思い出す。

 

『その時、彼らはこう告げたそうだよ。「私たちはエルトゥールル号の借りを返しただけです」と。貴方の民たちは素晴らしいな、100年弱、決して短い時間でもない。それほどの時間を経過しても尚、かつての恩を忘れなかった』

 

『そうか、そのようなことがあったか……』

 

 遠坂煉に召喚され、自分が彼のサーヴァントであることを理解し、契約したうえで、アーチャーはまず初めに、トルコがどうなったのかを煉に問いを投げた。

 

 無論、知識としてトルコ共和国が今も存在していることは当然に理解している。しかし、知識と実際の感覚とは全く別のモノだ。煉と言う人物から見て、トルコがどのように映っているのか、今の時代のトルコが国際的にどのように捉えられているのか。

 

 アーチャーはそれを知りたかった。そして、煉はかつて日本の危機にトルコが立ち上がった話しを語った。20世紀の終わりに、中東情勢の最中で孤立した日本人たちを救った勇敢なるトルコ人たちの話し、そして今なお息づいている親愛なる隣人たちの想いについて。

 

 それを聞かされて、アーチャーは暫し言葉を失った。己の中に湧き上がった感情をどう処理すればいいのか、一国の主となった身でありながら、とても難しかった。

 

『正直に言えば、決して良い話ばかりではないと思っていた。私を憎む民たちとていた。ましてや既に100年以上が経過している。如何な大帝国であろうとも、時間が過ぎれば過ぎていくほどに、内部の腐敗は進んでいく。始まりに目指した国に届かないことなどままあるものだ』

 

 ムスタファ・ケマルは明治維新で生まれた日本をモデルケースの一つとしてトルコ共和国を生み出した。それほどまでに、彼の中で「日本」という国家は大きな意味合いを持ち、そんな彼と思いを共有する民たちが大勢いた。

 

 だが、時代を経れば恩も理想も忘れていくモノだ。オスマン帝国と言う巨大でありながらも瀕死の帝国を見ていたアーチャーにとって、自国が同じように腐敗している可能性も十分に想定できた。

 

『だが、そうか……我が子らは、長き時間の果てに、与えられた恩に報いることが出来たのか……、煉殿感謝する。聖杯に祈る願いに比するほどの喜びを与えられた気分だよ』

 

『感謝するにはまだ早いだろう、アーチャー。私はこれから、マスターとして君を使い潰す。一国の王であったものをだ。対価として満足されるには些か早すぎるというものだ』

 

『そうではない。サーヴァントとして働く対価は聖杯にある。煉殿が私を使うのが聖杯を手にするためであれば、私も同じだ。一度死した身で身分も何もないだろう。主と従者の関係に異論はない。ただ、それだけでは私の心が納得できない。

 善き話を耳にした。私に払える対価があるのならば一つ、応えよう』

 

 それほどまでに煉の口にした話はアーチャーの中で意味のあるものだった。生前の己が果たせなかった恩返しを果たした子たちを誇りに思えばこそ、それは聖杯の祈りにも等しき意味があったのだ。

 

『であれば、これより話す内容は大した意味のないことだ。私と貴方は聖杯を獲得する。故に全く意味のない話だ』

 

『遠回しが過ぎるな。語りたくない旨の内容かね』

 

『想像したくないと言えばその通りだ。何せ、私が死を迎えた時の話しだ。

 アーチャー、万に一つも有り得ないが、もしも、私が貴方よりも先に死を迎えた時に、どうか、蓮司のことをお願いしたい』

 

『それは、蓮司君と共に聖杯戦争を戦い抜けと言う命令、と判断するべきか?』

 

『そうなるのが最良だが、果たして蓮司がそこまでの心向きになるとは限らない。蓮司はまだまだ未熟だ。心が折れてしまうかもしれない。貴方が他のマスターを選び、聖杯戦争を戦い抜くことを止めるつもりはない。だがそこに、蓮司の命を守るという条件を付けてもらいたい』

 

『………承知した。確かに考えるべきではない話だが、そうなったときには最善を尽くすと約束しよう』

 

『心遣い痛み入る』

 

『しかし、我がマスターもやはり人の親だな。その感情をもう少し、彼に向けてみるつもりはないのかね?』

 

『私は魔術師です。生まれた時から死ぬまで魔術師としての生き方しかできない。私にとって蓮司は己の子である前に遠坂の後継者なのです。その意識はきっと死を迎えるまで変わらない。だから、私は蓮司を遠坂の魔術師として扱う。応えてくれる息子であると信じているのです』

 

『困ったものだな、父親代わりなど期待されても困ると言うのに……』

 

 そうして、アーチャーは陣営として戦い続けてきた。その時に口にした約束を煉が二度と口にすることはなかった。

 

 あくまでも遠坂の魔術師として徹頭徹尾合理的に戦い、アーチャーはその指示に従い続けてきた。聖杯を求めるだけであれば、他のマスターに鞍替えすることで聖杯を狙うだけの余地をアーチャーは持ち合わせていたが……、

 

「煉殿にしてやられたな。祖国への凱旋、あの話を聞いた時に私は、それだけで満足してしまった。今更、祖国に戻る必要などないと、聖杯よりも優先するべき約束が生まれてしまったのだからな」

 

 しかし、不思議と後悔はないのだ。願いを叶えるための聖杯を手にすることは出来なかったと言うのに、自分は為すべきことを果たしたのだとそう思う事が出来たのだ。

 そう思う事が出来たのは……

 

「アーチャー!!」

 

 背後から掛けられた声に振り向けば、そこにはボロボロの姿で身体も動かすのもつらいだろうに必死に走ってきたのだろう蓮司の姿があった。

 

 それに気づくと同時に、自身の身体から魔力が漏れ、黄金色の光を伴って放出されていることが分かった。

 

「残念だが、いよいよ時間が無いらしい。キャスター討伐と言う役目を遂行することが出来たのは良かったが、君の頑張りを目にすることが出来なかったのは残念だったな」

「アーチャー、時間がないって、まさか―――」

 

「マスター無しの単独行動、アーチャーのクラススキルがあるとはいえ、魔力などすべてをつぎ込む覚悟でなければ戦えない。今夜の戦いでこの身が消滅することなど最初から織り込み済みだ。君が気にすることではない」

 

 元より、遠坂煉が死を迎えた段階で詰みは決まっていたのだ。蓮司を任された以上、他のマスターと共に聖杯を求める道は閉ざされている。

 

 アーチャーにとって重要だったのは、どこを死に場所とするかだけだった。蓮司が立ち直らなければ、そのまま消滅するまで寄り添っていることしかできなかったかもしれないが、運命は最後の最後で自分に微笑んでくれたのだと理解している。

 

「私にとっても因縁深かったキャスター陣営と刺し違えることが出来たのだ。マスターを失った身としては十分すぎる。その上で身内に犠牲が出ていないのであればなおのことだ。よくやった。その傷を見ればわかる、七星桜子に大過なかったのは、君がいればこそだ」

 

 煉がいた頃の蓮司であれば、ここまで身体を張ることは出来なかっただろう。怖気づき、飛びこむことへの躊躇を覚えていたはずだ。

 決してそんな自分を克服できたわけではないだろうとアーチャーも思う。しかし、変わり始めていることも事実だ。

 

「そういうことじゃない。僕が無事ならとかじゃなくて、貴方の願いを叶えることが出来なかったじゃないか! 僕がマスターとしてもっと早くに決断をしていれば、もっと出来が良い魔術師だったら、マスターとして戦えていれば……」

 

 蓮司の目じりに涙が浮かぶ。もはや別れの運命を変えることはできないと分かっているからなのか、此処まで献身的に尽くしてくれたアーチャーに対して自分が何も出来なかったことを悔やむ。

 

「僕は貴方に受けた恩を何も返すことが出来ていない。助けられてばっかりで、僕は本当に―――」

「顔を上げたまえ、蓮司君」

 

 かぶせるように告げられた言葉に蓮司は顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃの顔だ。とても一戦戦い終わって、やり遂げた人物の顔とは思えない。

 

 だが、そんな遠坂蓮司をアーチャーは好ましく思う。煉との約束があったとはいえ、自分の判断は決して間違いではなかったと断言できる。

 

「あまり時間はない。だから、良く聞きたまえ蓮司君。今から言うことは私からキミへと送る最後のアドバイスだ。まず、私が消えることを君が気にすることはない。先人とはすべからく後を進む者のためにいるのだ。私が願いを叶えるために、君たちを犠牲にするのでは、あまりにも割が合わない。私は英霊として当たり前のことをしただけだ」

 

 アーチャーは蓮司との距離を詰めて、顔を上げる彼の肩に手を置く。

 

「だから、己の未熟さを恥じるのならばこれより先に目を向けなさい。君の、遠坂蓮司の人生はこれからが本番だ。煉殿がいなくなった以上、遠坂と言う家を今度は君が守っていく必要がある。閉じこもった殻をこじ開ければ、新たな世界が開けることは君自身が一番よく理解できたことだろう」

「………はい」

 

 蓮司は声を荒げることなく耳を傾けた。涙をこらえて歯を食いしばって、その言葉を忘れないようにと必死に刻んでいく。

 

「君がこれから辿る道のりは決して楽なモノではないだろう。時には膝を折り、何もかもを投げ出したくなる時もあるだろう。

 だが、君は1人ではない。君のことを本気で思ってくれている友人もいる。周りを見渡せば、必ず道は拓ける。大切なことは諦めないことだ」

「……はい」

 

「最後に、愛する者を大切になさい。彼女はきっと、これからの君自身にとって必要な存在だ。君たちの未来がどんなものであるのかは私にはわからないが、繋ぎとめておきたいと思うのならば、立ち止まっている場合ではない。あの手合いは、放っておくとどこまでも勝手に突っ走るからな」

「………勿論、です。絶対に、追いついて見せます、から……」

 

 その蓮司の言葉に満足し、アーチャーはいよいよ自分にとっての最後の時が近づいていることを理解する。必要なことは口にしたか、伝えるべきことは他になかったか。そう考えて、最後に一つだけ、細やかな自分の願いを口にした。

 

「ところで、だ。蓮司君、君の周りが落ち着き、君自身が羽を伸ばすことができるようになった時でいい、大人になり今日という日を思い出した時でもいい。

そんな時が訪れたら、その時には―――我が祖国を訪れてほしい。きっと、君にとって有意義な旅路であると私が保証しよう」

 

「ええ……必ず、訪れます。その時にはまた―――」

 

 貴方の踏みしめた大地で成長した自分を見てほしいと、蓮司はアーチャーに告げ、アーチャーは笑みを零した。これでいい、未練はない。

 

 此処から先は―――彼らが紡いでいく世界なのだから。

 

「―――進め、若人。君たちの明日に向かって! ああ、素晴らしき第二の生であった!」

 

 快活にそう叫んで、アーチャー:ムスタファ・ケマルは秋津の街より消滅した。最後まで遠坂蓮司の身を案じ、そして未来への指針を口にして、サーヴァントとしての役割を完全に果たした。

 

 アーチャーは聖杯戦争の中で消失を果たした脱落者だ、けれど、その活躍を誰よりも間近で見てきた者にとって、決して彼は敗北者であったわけではない。

 

「ありがとう、貴方は最高の英霊だった。貴方に会えて本当によかった」

 

 人生の先達であり、もう一人の父のような存在であった相手に最高の賛辞を口にして、蓮司は振り返る。そこには共に帰るべき相手がいる。

 

 これより先に数々の困難が待ち受けているだろう。だけど、この日に刻み付けた言葉を蓮司は忘れない。辛く挫けそうなときには、それが背を押してくれると信じているから。

 

 そして、自分が一角の人間になることができると思った時には、彼の墓を訪ねてみようと思う。一人前になることが出来た報告をするために。

 

――秋津市中央・電波塔放送設備フロア――

『終わってみれば、紙一重の戦いでしたな』

「だが、それでも勝ちは勝ちだ。随分と遅れちまったが、ジジイ、テメェとの約束もこれで果たした。今更の話かもしれないガ、これで満足か?」

 

『ええ、我々間桐はこれから先も全面的に貴殿の陣営を支援していくと約束しましょう。これより後にも必要なモノがあれば何であろうと用意して見せましょう』

「はッ、本番はこの先だぜ? 俺様が聖杯戦争に勝った暁には、この国を起点として再び侵略を始めるんだからな」

 

 電波塔の中は静かなモノだった、先ほどまで無数の志士たちがひしめいていたはずの場所は今や、操られてここまで連れてこられた人たちと私とコルテスしかいない。その操られていた人たちも今は倒れて気を失っており、本当に動けるのは私たち二人だけ。

 

 慎夜君のお爺様の蟲が電波塔の外へと出ていく。コルテスと会話をしていた相手がいなくなったことで再び静寂の時間が生まれた。ふと、コルテスが私へと視線を向ける。

 

「そういや、互いに顔を突き合わせて話をするのは随分と久しぶりじゃないのか?」

「昨日までだって話をしていたじゃない」

 

「半分操られていた時のを入れても仕方がないだろ。確かに今になって思い返すとお前の反応もおかしかったんだよな」

「今更何を言うのかと思えば。反抗しないのはいいことにずっと嫌らしい目でこっちを見ていたの、覚えていないわけじゃないんだけど」

 

「はッ、口が減らないな。いや、それでこそ、九重円華だ。俺様がものにしたいと思った女はそうでなくちゃいけない」

 

 言葉を重ねながら、コルテスの下へと足を進ませていく。わずか10メートル程度の距離、だけど、先ほどまではもっと距離が離れているように思えた。

 

 ほんの少しでも選択を誤ってしまったら、私の首は床に転がっていたかもしれない。逆にコルテス自身が死んでいたかもしれない。

 

 それほどまでに、私達は互いに危ない橋を渡りながら、無数の幸運と相手の行動に助けられた。冷静になって思い返してしまったら、同じような行動が取れたかと言われると流石に怪しいと思う。

 

(操られていた自分を演じていたからとはいえ、随分なことをしたモノね。私も女優として、まだまだ成長できるってことなのかしら?)

 

 ピタリとコルテスの前に立ち、膝を折って、彼と同じ目線の位置にまで身体を伏せる。

 

「それにしても、こんな傷を受けてまで、よくも、私の事が信じられたわね。私が貴方を殺したいと思っていたことだって、嘘じゃなかったことはわかっていたでしょ」

 

「だからだよ、久坂がお前を操っているにしても、人格総てを変えることができるわけじゃないだろ。本当にお前が操られているのだとしたら、お前は黙って俺様が殺されるのを見てなんていないだろ」

 

「本当に操られていたとしたら、どうするつもりだったのよ?」

 

「その時は―――仕方がないだろ。俺様に女神は微笑まなかった。所詮、俺様はそこまでの男でしかなかったと。戦争なんてそんなものだ、どれだけ必死に総てを予測してぶつかっても、最後に笑うのは運だ。その運を引き寄せられるように、俺様たちは必死に準備を進めるんだ。勝つために、な」

 

「なにそれ、結局は博打じゃない」

 

「そうとも。俺様はお前の殺意を信じた」

「そして私は、貴方の勝利への執念を信じた」

 

 だから、自分たちは勝てたのだと彼は言い憚らない。否定の言葉を口にすることは簡単だけれど、私もそれでいいと思う。

 

 誰も彼もを操って自分の好きなように使い潰した久坂、彼には彼なりの思惑があったのかもしれないけれど、コルテスが言うように、誰一人として信じることが出来なかったから、最後に誰も彼を助けようとしてくれなかった。

 

 私には少なくともコルテスがいた。自分の窮地に手を差し伸べてくれる相手がいた。どんな事情があるにしても、最後まで博打を演じ続けることが出来たのは、心の支えがあったからに他ならない。

 

 だから、今回ばかりは私も認めよう。今日に至るまでの私達があったからこそ、キャスター陣営に勝利することが出来たのだと。ほんの少しでも違う流れであったとしたら、私達はここまでのことができなかったかもしれない。

 

 本当にコイツはどうしようもない奴だけど、この秋津の街で、一番の味方が誰であろうのかと問われれば、私は疑う事無くコルテスだと答えるだろう。

 

「久坂の野郎がお前を操っていたことは、死で償ってもらったが、それはそれとして、残念ではあったな。あの時のお前は俺様を満足させてくれる女だったんだがな」

 

「反抗的な態度の方がイイとか言っておきながら、従順な方がイイとかどっちなのよ、意味わからないんだけど」

 

「要するにそう簡単に自分の思うようにならんのがいいんだろうが。征服し甲斐がある。簡単に堕ちる相手なんざ、つまらないだろう。いやはや、残念だ。キャスター陣営を潰したら、円華が俺様に唇を捧げると言う約束までしたから、本気を出したところもあるってのにな」

 

 操られていたのでは、それも意味がないではないかとコルテスは相も変わらずバカみたいなことを言っているから。

 

「まったく――――」

「―――――ッ」

 

 そんな馬鹿な願望をいつまでも口走っている口を黙らせるように、動いた私の唇がコルテスの唇に触れて、黙らせる。コルテスは狐に騙されたような顔をしていて、何が起こったのかわからないとばかりの反応だった。

 

「円華、お前……」

「だから、言ったじゃない。途中で気が付いていたって。あの時はもう、正気だったから。あれは正真正銘の約束、ちゃんと報酬はもらって、当たり前でしょ?」

 

 気恥ずかしい気持ちでいっぱいで、目を逸らしつつ、馬鹿みたいな言い訳をたくさん口にしてしまう。そんなの当たり前、私はこいつを憎んでいて、殺意すら抱いているんだから。

 

 でも、本当に助けられたし、心からの安堵を覚えたのも本当の事だから。頑張った相手に与えられるものが与えられないなんて言うのは自分の頑張りにも水を差されてしまいそうで嫌だから。

 

「はッ、いいのかよ。お前から誘ったんだぜ? そんな口づけだけで終わりになるなんて甘いこと考えていないよな?」

 

「聖杯戦争はまだ続いていく。勝つために私はこの身を差しだして、あんたはそれに応える。好きにしなさい、その代わり、最後まで付き合ってもらうから」

 

「………本当にお前は、良い女だよ。お前が微笑む限り、俺様に負けはない」

 

 そうして、互いにもう一度唇を重ねて、より一層の深みへと嵌っていく。実を言えば、スイッチが入ってしまったのはこっちも同じだから、理性よりも先に身体が動いていく。

 

 こうしていることに慣れていくことが何を意味しているのかも思考の片隅に追いやって、今はただ、この長きに渡った戦いがようやく終わりを迎えたことを、そしてその勝利を果たした相手を労うことだけを考えて……。

 

第七夜『Avenge Night』終了―――聖杯戦争終結まで、あと3日

 

残る陣営は―――あと4つ

 

―――次回予告―――

 

「オヤジに代わってお前たちに命令する。この街を壊せ、恐怖を与えろ。先を考える必要はない。この街は恐怖によってバーサーカーが支配する。逆らうなよ、死にたくないなら」

 

「私達がセレスさんの仇を討つ。行こう、ノルンちゃん。これ以上被害が増える前に!」

 

「ロイ・エーデルフェルトは俺よりもお前こそが七星に相応しいと語った。桜子、俺は奉さんの為にお前を斬る。斬って、俺こそが七星であることを証明する」

 

『よぉ、聞こえているか遠坂のガキ。助力が欲しいんだろ、手を貸してやる。だから、俺様の提案に耳を貸しな』

 

「言ったはずだぞ、セイバー!! バーサーカーを見逃したことを後悔させてやると! この街は恐怖に呑まれた。貴様の固有結界など比較にもならん!!」

 

「七星の血が、完全に覚醒を果たした。桜子、お前もまた七星の血に呑まれるのかッ」

 

「セイバー、合わせてください。もはや、我々単独ではあの獣を討つことは―――」

 

「親も……友も……家族も、俺には何も必要ない。ただ俺は俺の人生を取り戻したい!俺の幸福を諦めることはできないんだよ!!」

 

「九重円華―――たった一夜の復活配信、皆さん驚いたでしょうか。けれど、どうか聞いてください。私のたった一度の―――告白を」

 

―――第八夜『Bloody night』

 




次回はサーヴァントステータスのまとめになります! 魔力袋、息してるか?


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