※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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いよいよ1日目開始です!


第一夜『Begins Night』
始まりの朝


 ――小さい頃からテレビの中で活躍するヒーローに憧れていた。

誰もが怖れる悪の組織を相手に敢然と立ち向かう正義の味方、世の不条理なんて吹き飛ばすように、誰かの涙を拭って問答無用のハッピーエンドを叩きつけてくれる彼らのような人種を純粋にカッコいいと思ったから。

気付けばあたしはそんなテレビの中のヒーローたちに強い憧れを持つようになっていた。

 

 きっかけは、まだ小学校に入ってすぐくらいの頃にあたしの面倒を見てくれていた兄が突然失踪したことがきっかけだった。

あたしにとってはもう昔のこと過ぎてあんまり記憶に残っていないんだけど、その頃のあたしは酷く落ち込んでいて、見かねた父さんが気持ちを紛らわすために見せてくれた。

 

 いやいや、女の子相手に特撮ヒーローはどうなのさってところだけど、まぁ、今の自分がドハマリしているんだから、あの時の父さんの判断は決して間違ってはいなかったんだなと思うわけで……ま、今更そんな昔の話しなんてどうでもいいよね! 結局、あたしがヒーローに憧れているのに変わりは何一つないんだから。

 

 子供の頃はそれでもよかった。子供なんて誰だってカッコいいヒーローに憧れるのが王道、周りの男子も女子も構う事無くあたしは自分の趣味を語っていたけど、年を重ねるごとに離れていく人もいる。

 

 そりゃそうだって思う。誰もがヒーローになれるわけじゃない。テレビの中のヒーローはやっぱりテレビの中のヒーローだからこそ成立するモノで、現実のあたしたちが、そんな簡単に何もかもを覆す事なんてできない。

 

 自分でやってみればやっているほどに、何事もうまく行かないと自覚させられて、それなりで生きていこうと思うことは間違っていない。あたしだって色々と諦めてきたことはあるもん。ただ、諦めるかどうかってのはあくまでも自分が決めること。

 

 あたしはヒーローへの憧れを止めたくはなかった。良くも悪くも自分自身をここまで形成してくれた重要な要素だから、成ることはできないとわかっていても、成りたいと思うことはあたしの勝手。だから、周りに何を言われたって平気だよ。

 あたしはあたしのやりたいことをするだけだから。

 

 そう、だから、今日という日に起こったことも全部、あたしがやりたいようにやっただけ。本当に関わってはいけないモノに関わってしまって、そして自分の運命に向き合わなければいけなくなってしまっただけの話し。

 

 でも、きっと、今日という日を忘れない。月明かりの夜、私の前に現れた黄金と青藍の騎士の姿を。ずっとずっと憧れ続けていたスクリーンの中の存在であるかのような彼女の姿を。

 

「問おう―――汝が我がマスターか?」

 

・・・

 

ピピピとけたたましい音が鳴り響く。部屋中に響いてくるその音はさながら周囲に響くサイレンのようで、部屋の中にいる人間にとって不快感を増長させる以外の効果を持ち合わせないものであった。よって、部屋の主はそれに必死に抗うように意識を闇の底へと沈めようとするわけだが―――

 

「コラァァァ、起きろ桜子!!」

「ぬああ、ダメ、布団取らないで! それを取られちゃったら、私、起きちゃう!!」

 

「起きるんだよ! この野郎、毎日毎日、目覚まし時計の頑張りに応えようっていう気持ちはねぇのか、テメェには!」

「そ、そんな殊勝な気持ちより、いっぷんいちびょーの安眠の提供をぉぉぉ」

 

 と抵抗を試みるモノの、無情にも父さんによって布団をひっぺ替えされたあたしは強制的に起床させられ、今日という一日がまた幕を開ける。

 

 街の喧騒はいざ知らず、七星の家の一日は変わらない。恐ろしいくらいに変わり映えがないからこそ、あたしも父さんもそんないつもの一日に甘えこんでいる。

 

『次のニュースです。動画サイトTOOTUBEは登録者数が世界で~~を超え、今では世界有数のコミュニケーションツールの一つとして利用され……』

 

 テレビを映しながらいつもどおりの朝食の空間、あたしと父さんは向かい合って食事を勧める。父さんの作った朝ご飯は質素だ。ご飯とお味噌汁、それに日替わりで変化する焼き魚や目玉焼きなどの主食が一つ、それを二人で囲んで食べ進める。

 

 15年前にお母さんが亡くなって、それから5年後にお兄ちゃんがいなくなってからずっと変わらないあたしたちの時間、自分は剣の道一筋で料理なんてできないんだと騒いでいた人が今では黙々と料理を行っているんだから、お母さんが見たらなんて思うだろうか。

 

「ねぇ、前々から言おうと思ってたんだけど……」

「おう、何だ?」

 

 料理を口に運びながら、ジトっと対面にいる白髪が目立つようになってきた父に話しかける。視線だけはこちらに向けて同じく食事を続けている様子はあたしの言いたいことをさっぱり理解していない。

 

「年頃のレディの部屋にずけずけと入ってくるのはどうかと思うんだけど」

 

「誰がレディだよ?」

「あたしだよ」

 

「馬鹿野郎、年頃だかなんだか知らねぇが、レディなんていっぱしの口を利くんだったら、自分一人で朝の準備くらいしてみろってんだ。何処の世界に自分じゃ起きられないヒーローがいるってんだ」

 

「ひ、ヒーローだってルーズな人はいるもん」

「そうか。けど、完全無欠な方がいいんじゃないか?むしろ、さっさと家に帰ってきて、寝ろ! ここ最近、学校帰りに遊び歩いているから疲れが溜ってるんだろ、だから起きられないんだ」

 

『次のニュースをお知らせします。■■県秋津市で起こっている謎の通り魔事件は解決の糸口が見えず、警察は全力で捜査に当たっていますが、相手の痕跡を見つけ出す事も出来ていません。またTOOTUBEでこの事件を模倣したかのような動画投稿が多発しており、政府は―――』

 

「だって、しょうがないじゃん! 事件だよ、事件が起きてるんだよ、学校でだって騒ぎになってるんだから、実際に襲われたっていう人もいるし!」

「桜子、いつも言ってるだろ。お前がヒーローに憧れるのはいい。だが、お前自身は年頃の女なんだ。いくら剣術を齧っているからって、いざって時に身を守れるかなんてわからない。あんまり心配を掛けさせないでくれ。櫻一郎に続いてお前までいなくなったらなんて思いたくないんだ」

 

「それは……ズルいよ、さっきは年頃のなんて切って捨ててた癖に」

「親ってのはそういうもんだ。子供が悪い方向に進むかもしれないと思ったら口にするんだよ。嫌われる程度で済むんならいいことじゃねぇか」

 

 父さんの言っていることは正しい。秋津市で起こっている通り魔事件、夜にだけ発生するこの事件は2週間前くらいから始まり、徐々に秋津市の中でも噂程度ではなくなり、遂には全国区のニュースになってしまった。

まだ、話半分で聞いている人が大半だけど、実際に襲われたって人を間近で聞くことも少なくないと友人は言っていた。

 

 少しでも街の平和に貢献できればと思って、行動しているけれど……実際にあたしに何かできるわけじゃない。父さんの言う通り、あたしはヒーローでも何でもなく、ただの女の子、できないことはできない。それは分かっているつもりなんだけど……

 

『なお、こうした秋津市の社会情勢の中で、秋津市に総本山を構える宗教団体『唯一神理教』は民衆の救いを標榜し、住む場所を失ったホームレス等の層に対して総本山での受け入れを行っているとのことです。引き続き、秋津市にお住みの皆さまにとっては心の休まらない日々が続いていくでしょうが、どうかお気をつけて―――』

 

「食べたらすぐに支度しろ。寝坊助の上に遅刻までしたらカッコ悪いぞ」

「……わかってる」

 

 食事を終えた父さんは自分の食器を洗うために台所へと向かっていく。私が家を出れば、七星の道場の師範としての仕事が始まるんだ。いつまでもあたしに構ってなんていられない。あたしだって学校がある。別にこんな歯切れの悪い結果を求めていたわけじゃないんだけどな……

 

 そそくさと朝食を食べ終えて、学校に向かう準備を始める。いつもよりちょっとだけ遅いかも、などと考えながら、父さんに挨拶して、家を出る。

 

今日も変わることのない一日が始まった。

 

――秋津市東・住宅街エリア・秋津学園――

「はぁ……」

 

 眠い、シンドい。4時限目までの授業を終えてお昼休みでお昼ご飯を食べながら、あたしは朝にお父さんに言われた言葉を思い出す。

 

「やっぱ、寝不足なのかなぁ……」

 

「どーした、桜子。浮かない顔してんじゃん。元気しか取り柄がないのに、どうしたのよ?」

「げ、元気しか取り柄がないとか酷くない!?」

 

「いやいや、むしろうちら的には皮肉もいい所っしょ。毎日毎日女子力必死に磨いているうちらよりもナチュラルしているだけの桜子が男子に色目使われてるとか普通にキレるわ。これで桜子が女子してたらそりゃあもう嫉妬ですよ、嫉妬」

「それ、褒められてる?」

「けなしつつ褒めてるって感じ?」

「よくわかんないなー」

 

 お昼ご飯を食べてから自分の机に突っ伏しているとクラスの友人たちが私に話しかけてきた。頭は上手く働いていないけれど、話しかけてくれた相手を無碍にするわけにもいかず、目をこすりながら顔を上げる。

 

「もしかして昨日もまたナイトスクープやってたのー?」

「もう桜子自身がTooTubeデビューしちゃえよー、美少女Tootuberとしてみんな、課金してくれるっしょ! そしたら、桜子のお金でうちらとデートしよーぜー」

「またそんなことを言って。あたしは別に有名になりたくてやっているんじゃないってば」

 

自分のやっていることを揶揄されるのはいつもの事だけれど、決して気分がいいわけじゃない。茶化されるようなことをしているのは分かっているけれど、あたしとしては至極本気だ。少しでも手がかりを見つけることが出来ればと思っているだけに理解してもらえるだけの成果を上げることが出来ていないのが悔しい。

 

「はいはい、この街の平和のためでしょー、桜子がやりたいんだからやればいいけどさー、マジで気をつけなよ、物騒なことに変わりはないんだから。隣の隣のクラスの奴、まじであの黒いのに襲われたって噂になってるよ?」

「ほんとに!?」

 

「うん、今は病院に入院中で意識がないんだってさ。センコー連中も学校を休みにするか検討中だってさー。いやはや、喜ぶべきなのか悲しむべきなのかってところだねー」

「そっか……」

 

 残念なんて考えちゃいけないんだろうな。もしも、その子が学校にいてくれれば直接話しを聞くこともできたのに。

 

 秋津市の中で起こっている連続通り魔事件、動画サイトTooTubeでその様子を撮影している何者かが投稿している動画は、正体不明の獣が次々と秋津市の人を襲っていくという動画で、誰が何の目的で投稿しているのかもわからない。

通報は幾つもされているはずなのに、それらが消されることもなくずっと残り続けていることも不思議でならないけれど、実際に足取りを追っていてもまったく見つけることが出来ずにいる。

 私がどれだけ力になれるかどうかとか関係なく、これじゃ警察も探偵もお手上げってもんだよね~

 

「あ、そうだ、TooTubeって言えば、あの噂知ってる? 九重円華が駆け落ちしたって噂!」

「うっそ、なにそれ知らない!? ていうか、まどちんって彼氏いんの!?」

 

「ほら、まどちんってこの街出身じゃん? あたしらも何度かまどちん見たことあるけどさ、前々からお忍びで付き合っている人がいるって噂はあったんだよね。でも、それを言うと、角が立つから言うなって。でも、いよいよ本気で駆け落ちするんじゃないかって噂が」

「マジかよ~、まどちんこれからじゃん! ぜってー勿体ないよ。まどちんだったらイケメン喰いたい放題っしょ!」

 

「でも、そういうの九重円華のイメージには合わないっちゃ合わなくない? あたしら同姓からしても嫉妬するより眩しく思わせるような女だし、最近じゃすっかり配信しなくなったけどTooTubeやってる頃はファンサービスとかめっちゃやってたしさ」

「桜子はどう思うよ!」

 

「うーん、九重円華って前の戦隊シリーズでゲスト出演していた人だよねー、確かに可愛かったよねー」

「ダメだ、桜子に話をすると全部ヒーローものに持っていかれちゃうわ」

 

 そういうつもりはまったくないんだけど、別に好きな芸能人とかあんまりいないし、いるとすればヒーローものに出てくる俳優とか女優になるだけだもん。

 私がいつでもわかっていないと思われるのはちょっと心外だ、私だってテレビくらいはちゃんと見ている!

 

「でもさでもさ、桜子、最近遠坂君といい雰囲気じゃん?ぶっちゃけどうなん?」

「どうって言われても、みんなも見てるでしょ。ずっと断られてばっかりだよ。特にここ数日は学校が終わるとすぐに帰ってるでしょ? 取りつく島もないって感じかな」

 

「フムフム、彼女候補としてはジェラシー感じていると」

「どうしてそうなる」

 

「変わり者同士似合ってるんじゃないって話しよ。うちらとしても友人として、桜子が変な男に引っかかるとかありえないわーと思っているけど、遠坂君はそういうことするタイプじゃないじゃん」

「わかるわー、桜子って変な男引っ掴まえちゃいそうなところあるよねー」

 

「しないってば。変な男なんてお父さんだけで十分だって」

「そこが危ないんだってば~」

 

 などと、わちゃわちゃと会話を続けていると、チャイムの音が鳴り響く。

授業開始五分前のチャイムに、会話をしていた二人が授業の準備をするために自分の席に戻って、あたしはようやく自分の時間を手に入れることが出来た。

ゆっくりと休みを取ることもできなかった以上、どうやら午後もこの睡魔との戦いは続いていくらしい。

 

――秋津市西部・繁華街エリア――

「はぁ、今日も手掛かりなしかー、やっぱり、あたしがいくら調査をしたところで何にも出てきやしないのかなー」

 

 放課後、いつものように、動画に上げられていた通り魔事件の現場の調査に出向く。今回はこの繁華街の中で起こった出来事であるだけに動画の再生数は早い段階から伸びていた。それだけ注目されているし、みんな怖がっているんだと思う。

 

 あたしだって、自分の住んでいる街で正体も知れない通り魔がいるなんて考えたくない。早い所、事件が解決してくれて、みんなが安心して外に出れる状況になればいいと思ってる。

 

(でも、思ったよりも人通りは少なくなっていないんだな。あんな事件があったからみんな近づかないようにしているのかと思っていたけど……)

 

 私の住んでいる住宅地が点在するエリアは秋津市の中では東側に位置している。繁華街は街の中では反対側で、北側にはちょっとよくわからない宗教の施設が立ち並んでいる。

 

「今こそ、今こそ日本人の手にこの国を取り戻しましょう!! 我らが教祖、唯一様の教えの下に、日ノ本の真の平和を―――」

 

 考えていると、宗教組織の街頭演説が聞こえてきた。聞いている人は少なからずいるけれど、あまり興味はなさそうだった。よくやるなぁ~という気分で見ているけれど、ここ最近、少し増えて来たんじゃないのかなと思う。

 

(まぁ、何を信じるのかなんて人の自由だし、あたしが口を出す話でもないよね……)

 

 なので、素通り。あたし自身は特に興味もないけれど、それで救われている人だっている。だから、そこに首を突っ込みすぎるのは良くない。正義のヒーローに憧れているからこそ、あたし自身が一番分別を考えないと。

 

 自分自身の想いを叩きつけるだけの正義を人はヒーローとば呼ばない。時にはそれが悪役以上の悪になってしまうことだってあるんだから。

 

「もう今日は戻ろうかな。お父さんにも早く帰って来いって言われてるし……心配かけすぎかなぁ」

 

 胸の内でもどうせ、自分が何をしてもという諦めの気持ちが浮かび始めていることは否定できない。連日調べ続けても結局何も見つけられないんだから、もうそろそろ潮時なのかもしれない。

 

「うん……今日は戻ろうかな。たまには親孝行でも―――」

「だから、別に何も怪しいことなんてしていないよ。街の散策をしていただけだってば!」

 

 親孝行でもしようかと言葉を言いきろうとした頃合だった。アーケード街の一角が騒がしいのが聴こえ、なんとなく直感でそれが言い争いなんじゃないかと思った。

 

 視線を向ければ、スーツを着た男性と小柄でけれど、背筋をしっかりと立てた桜色の髪の女性の二人組が、金髪の女性と銀髪の少女と言い争いをしているように見えた。

 

「散策か……はてさて、それは不思議なモノだ。拙者は先ほどから貴殿らをこの場で何度も目撃し、貴殿らはそのたびにこの繁華街の至る所に触れている。散策を主としている者たちがそのような行為に出るかね?」

 

「都市機能の研究をしているんだ。それで構造物に興味があってね。あんまり怖いことをしないでほしいんだけど、そもそも、どうしてボクたちに因縁をつけて来るのさ。貴方たちに不利益になるようなことをした?」

「我々はそちらで説法を行っている唯一神理教の信徒の護衛でこの場に携わっています。我々は狙われやすい。特にここ数日はこの秋津市そのものの治安が悪いコトもあり、神経を尖らせています」

「いつの時代も宗教家とは嫌われるモノさ。何せ、信じるモノがほんの少し違えば刃を抜くのが人の運命。それに我々宗派の教えは先ほどから何度も足を運んでいるのであれば十分に理解しているだろう。その上で――」

 

 ギロリと、二人の女性に向けられる視線は爬虫類が舌を向けるように舐め着いたものであった。

 

「その上で、周辺をうろつくというのであれば、それは警戒をしろというのが筋の話だ。よって、お話しを聞かせてもらいたいと思った所存である。あまり騒ぎ立てをしたくない。そう時間は取らせぬとも、ご同行を願えるかな?」

「セレスさん、いざとなれば私が――――」

 

「おーい、こんな所にいたの!? 散策をするって言って飛び出しちゃうんだもん、びっくりしたよ~~」

 

 その折に、突然掛けられてきた声に、不穏な空気が流れていた周囲が一変する。その空気の中心にいた四人の誰にとってもそこで話しかけてきた人物、桜子の姿は予想外でしかなかった。

 

「ほら、もうそろそろカフェしまっちゃうよ。用事が終わったらすぐに向かうって言ったじゃん!」

「あ……ああ、そうだったね。ごめん、ごめん、ボクも覚えていたんだけどね」

「えぇ、絶対嘘でしょー」

 

 チラリと金髪の女性が少女に目配せをする。それで少女もここでは話を合わせておけという意味であると理解したのだろう。テクテクと足を進ませ、桜子に連れられる二人を男と女は特に手を出すことなく見送る様子を見せた。

 

 ただ去っていく者たちの姿だけは決して忘れぬようにと、深く深く視線を釘付けにしながら。

 

「清河さん、よろしかったのですか? 先ほどのは明らかに……」

「ああ、演技だろうな」

 

「分かっていながら何故……?」

「この街一体は既に我ら志士の領域、焦る必要もない。それより沖田……芹沢に伝えろ。今夜動くと。薩摩や土佐の連中よりも我ら壬生浪士組が手柄をもらう運びとする」

「本命でしょうか?」

 

 本命、すなわち彼らが求める当たりであるかどうか。この街に潜んでいる六つの当たりを引くことが出来たのかと問う彼女に対して清河は答える。

 

「本命であろうが、間違いであろうが構わん。異国人は総て切り払うべし。そしてケガレを持ち込む愚かな売国奴もまた切り払うしかなかろう」

「承知しました。総ては帝の望むままに」

 

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