※この作品はR-18です。

Fate/Urban Crisis   作:ソクリ

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決戦前夜――結

――秋津市東側・七星流剣術道場――

 そして、三者三様の決戦前夜は終わりを迎える。手に入れた物、失ったもの、新たに気付いたモノ、再確認できたこと、それぞれにそれぞれの物語があったことは言うまでもない。

誰にとっても自分自身こそが物語の主人公であるのだから、聖杯戦争という物語の終わりを勝利という形で飾りたいと思っていることに変わりはない。

 

「―――よっし、これで準備は万全!」

「僅かではありますが、休息も取れました。自分の陣営同士で消耗して、万全ではなかったなどと言い訳もできませんからね」

 

「そこはほら、気合と根性で!」

「ええ、貴女ならば応えてくれると信じていますよ、マスター」

 

 時刻は既に夜の11時を回っている。セイバー陣営との最終決戦を迎えるまで、あと1時間ほど、七星流剣術道場で準備を終えた七星桜子とランサーは出立のために家を出る。

 

 言葉を交わしながらも、ランサーは改めて、ほんの1週間程度だけ滞在していた仮の宿であった場所を見る。

 どんな結末になったとしても、ランサーがここに戻ってくることはない。願いを叶えることが出来ずに座に還るか、あるいはかつての時代に戻るのか。どちらにしても、この時代に居座ることができるのは、あともう少しだけだ。

 

 名残惜しい気持ちが宿るのは、ここでの日々を自分が肯定しているからだろうか。

 

「お待たせしました、ミス・サクラコ、ランサー」

 

 遅れる形で玄関先からノルンが姿を見せる。その足取りは決して万全であるようには見えず、彼女が自分が語った最後の時が近づいていることを否応なく予感させた。

 

「大丈夫なの、ノルンちゃん?」

 

「はい、足手まといには成りません。それに、私が望んだことです。私の目的は達成され、何かできるわけでもありませんが……、聖杯戦争に関わった者として最後の結末は見届けたいと思います」

 

「―――そっか、じゃあ行こう。あたしたちが勝つところをしっかり記録してもらう人も必要だろうしね」

 

 桜子は努めて明るく振る舞う。それがノルンにとって最も相応しい対応方法であると思うから。別れはきっと来る。今、ここにいる三人はどんな形であれ、別れなければならない。それを笑顔で終わらせることができるかどうかは心持ち次第であると思うから。

 

「――――行くんだな」

「お父さん、うん、行ってくる。これが最後だから」

 

 ノルンの付き添いでやってきた真一郎は、苦々しい表情でいる理由は聞くまでもないだろう。15年前には同じように桜が出て行き、帰ってくることはなかった。

 

 あの時の焼き直しであるかのように、今度は桜子が決戦へと赴こうとしている。本当であれば止めないところではある。だが、自分の言葉で娘が止まるようなじゃじゃ馬ではないことも十分に分かっている。

 

「俺から言えることは一つだけだ。どんな結果でもイイ、ちゃんと帰って来い」

「――――勿論!」

 

 それは桜子にとっても決戦に赴く上での最低ラインだ。母を失い、兄がいなくなって、桜子も真一郎同様に残された人間の哀しみというものを深く痛感している。

 

 セレスの死に間に合わなかった時にも、胸がとても痛かったことを覚えている。

 

 同じ思いを父にさせたくない、二度とそんな思いをさせてなるものかと思うからこそ、捨て鉢になって命を捨てると言う選択肢を取ることだけは絶対に防がなければならない。

 

(例え、七星の血があたしの身体を支配しようとしてもそれだけは絶対に押しとどめないと。あたし自身を犠牲にしてでも勝たなくちゃなんて、それこそ本末転倒もいいところだよ)

 

 桜子が聖杯に七星の血の無力化を願うのは、あくまでもこれから先の自分の未来を描けばこそである。その未来の為に闘っているのに、未来を生きることを諦めてしまったら何の意味もなくなってしまう。

 

 だから、生き残ると言う最低ラインだけは必ず守りぬく。

 

「真一郎殿、わずかな時間ではありましたが、この地を仮の宿とさせていただいたこと、感謝いたします。桜子は私の命に代えても必ず守りぬいて見せます」

 

「こっちこそ、桜子のことを今日までも守ってくれてありがとな。俺に大層なことは言えないが、アンタも達者でな」

「……ええ」

 

 ランサーは大きく頭を下げる。一国の将軍であった彼女がそのような行動をするのは同じ時代を生きた者であれば、驚きを覚えるかもしれないが、この場におけるランサーはあくまでも一時の宿を与えられた者。礼節には礼節を。

 

 例え、座に還ってしまえば霧散してしまうかもしれないにしても、最後までこの地で紡いできた思い出を穢さないために……、

 

 そして、玄関先から一歩を踏み出し、決戦場へと足を進めていく。此処から先は見送る相手もいない。本当の意味で決戦の舞台へと足を進めていくだけだと思っていた矢先である。暗がりの夜道、薄明りの電灯の下で、人影が見えた。

 

「蓮司君!」

 

「酷いじゃないか、声を掛けてくれないなんてさ。僕だって一応は聖杯戦争の参加者なんだから。聖杯戦争がどんな結末で終わったのかを見届けるのも、この街を管理する遠坂の魔術師の役割だろ?」

 

 蓮司は待ちくたびれたとばかりの反応で、桜子たちを出迎える。しかし、すぐに照れくさそうな反応を浮かべて、彼の本音が口から零れる。

 

「っていうのは、体のいい建前さ。本当は桜子さんが聖杯を手にする所を見たいと思ったから。それを家で待っていられるほど、僕も我慢強くはないんだ」

 

「もう、まだあたしが、聖杯を掴むことができるかなんて決まったわけじゃないでしょ」

 

「そうかもしれないけれどさ、僕はそう信じたいんだ。きっと、客観的に見れば優勢なのは、セイバー陣営かもしれない。でも、僕は誰よりも七星桜子の強さを知っている。君なら、ロイ・エーデルフェルトに勝てると信じているよ」

 

「蓮司君……ありがと、めっちゃ強い気合入れてもらった気分!」

 

 これから始まる決戦で誰もがロイと桜子、どちらが優勢かと聞かれればロイであると答えるであろうことなど、桜子だって重々承知なのだ。自分だけは心を強く持っておかなければと見えない重圧は常に彼女の背中に与えられている。

 

 そんな最中で、自分の勝利を信じていると真っ直ぐに言ってくれた蓮司の言葉に背中に感じる重みが少しでも薄らいだように思えたのだ。

 

 十分なエールだ、自分を信じるに値するだけの力を貰った。あとはその期待に応えることができる自分であり続けることができるように力を出し尽くそう。

 

「じゃあ、行こうか、蓮司君。あたしたちの聖杯戦争の結末を見るために」

「ああ……」

 

 そんな二人の後姿を見ながら、ノルンは今はもういなくなってしまった相手に心の中で声を上げる。感慨深く、どうか届いて欲しいと願いながら。

 

(ミス・セレスティーナ、貴女が守りぬいた子たちは、強く成長しました。貴女の決断は間違ってなんていなかった。だから、どうか見届けてあげてください。彼女たちの聖杯戦争が善き結末で終わるように)

 

 ノルンは既に目も霞み始めている。歩くのがやっとであり、戦闘に参加することができるほどの体力は残っていない。ただ、どうか、最後まで保ってほしいと思う。

 

 この聖杯戦争の結末を見届けたいと思うことは彼女もまた同じなのだ。ここにはいない仲間達の代わりに自分だけはそれを見届けなければ。それが残された自分の役割であると思うからこそ……

 

――秋津市中央・電波塔周辺――

「たったの二週間程度……といえば、短く感じるかもしれないガ、体感としては随分と長い間、ここを使わせてもらったように思うよ。名残惜しいが、これが最後の出立だろう」

 

「私達はずっとエーデルフェルトの家にいましたからね、こんな長期間、他の国に滞在するなんて初めてでしたし、兄さんがそのように思う事も致し方ないことかもしれませんね」

 

「訪れた戦地の景色、空気に想いを馳せる。戦友たちも同じように感嘆の声を漏らしていたことを記憶しております」

 

 長らく滞在してきたホテルを背に、ロイとリーナ、そしてセイバーは決戦の地へと赴くために街へと足を踏み出した。

 

 街は喧騒を取り戻そうとしている。キャスターとバーサーカーの騒動が終わり、秋津の街は対外的にも平穏が約束されたことが公表された。

 

 聖杯戦争自体に終わりはまだ見えないモノの、残った陣営で露骨に一般人に手を出すのはライダー陣営くらいであるが、ここまでの彼らの動向を見ても、一般人を集団的に何らかの陰謀に巻き込むようなことをしないであろうとロイとリーナは考えている。

 

 この賑わいは、秋津市が聖杯戦争と言う非日常から日常の世界へと戻っていこうとしている証なのだ。ようやく取り戻した平穏を人々が安寧へと変えるまでには相応の時間が必要ではあるだろう。やがては聖杯戦争によって生じた恐怖をも克服していく。

 

 そんな街に異物たる自分たちがいつまでも居座っているわけにはいかない。聖杯戦争が終わりを迎えれば、この街からエーデルフェルトが離れていくことは必然だ。

 

「そうだな、エーデルフェルトの家を出て、この街の景色に触れて、人々の賑わいに自分たちもまたこの世界の一員であることを改めて実感させられた。ああ、思い返してみれば、やはり、この街に来てよかったと思うよ」

 

 まもなく、どのような結果になるにしても離れていくであろう街を改めて見やる。喧騒を取り戻した街は人々が生きている場所として、とても当たり前で、だからこそ、とても美しくロイには思えた。

 

 エーデルフェルトの中から見える世界の景色は常に閉ざされた世界の中で、人々の悪意に振り回される世界だった。自分を守ってくれる者はほとんどいない、ただ自分の才能だけで生かされ続けているだけの灰色の世界。

 

 しかし、ここには彩がある。この場にいる人間たちのほとんどがロイに比べれば、才覚を持ち合わせない人間であることは明らかだ。凡人と言っても差し支えないものたちであり、魔術師たちの観点で言えば、視界に入れることも必要のない存在。

 

 しかし、彼ら一人一人が描いていく世界の彩の美しさをこそ、ロイは見ることが出来て良かったと思っている。彼ら一人一人が描いていく模様こそが世界の多様性、自分もまたこの世界の一員として生きていくことを許されているのだと実感できる。

 

「ああ、実に楽しかった。やりたいようにやることの何と素晴らしいことか!」

「まったく、兄様は最後まで変わりませんね」

 

「なら、リーナは楽しくなかったか?」

「………まさか。兄様とセイバーと共に過ごしたこの街の記憶を私も忘れません。ええ、決して。エーデルフェルトの中にいては味わうことのできないことばかりでしたから」

 

「そうか、なら、よかった。リーナがそう感じてくれたのなら、俺の判断も決して間違いばかりではなかったのだろうさ」

 

 エーデルフェルトの屋敷の中で常に重圧と比べられることにばかり精神を摩耗させていたリーナの心がわずかにでも安らぐことがあったのならば、それはロイにとって何よりも幸福なことだった。その為であればいくらでも道化になれたし、身体を使うことに嫌はない。

 

 エーデルフェルトのお歴々たちからすれば、リーナは当主への余計な露払いをするための従者程度の期待しかしていなかった。当主であるロイにはそのようにリーナに接する権利が許されていた。

 

 言うまでもなく、ロイがそのようなことを許すはずもない。彼が聖杯戦争に参加した目的はリーナ・エーデルフェルトの双肩にかかった古きエーデルフェルトの呪縛を断ち切ることに他ならなかったのだから。

 

 ただ、聖杯戦争を戦いぬくだけではなく、リーナの心に僅かばかりでも変化を与えることが出来たのならば、ロイにとってこれ以上求めるものは何もない。

 

「……ねぇ、兄様。私はあくまでもエーデルフェルトの人間として、当主になるはずだったものとして、当然に聖杯戦争の勝利を求めていました。聖杯の獲得、七星への勝利、そのどちらもエーデルフェルトの悲願です。

 ですが……、私が何一つとして個人的な願いを持ち合わせていなかったわけではないのですよ」

 

「何だ、藪から棒に」

「兄様はそんな私の願いを、細やかな我儘を聞いてくれますか?」

 

「………言ってみろ」

 

 ロイの反応に、リーナはニコリと彼女にしてはとても可愛らしく、無防備な笑みを浮かべ、

 

「では、ロイ兄様、勝ってください。誰にも負けることなく聖杯戦争の勝利者となってください。私の敬愛するたった一人の兄は、誰にも負けない最強の魔術師であったと私に、そして世界に証明して見せてください。貴方は私の自慢の兄なのですから」

「―――――――」

 

 にっこりと、数年来見せたこともなかった屈託のない笑みを浮かべたリーナの表情に、ロイは思わず言葉も忘れて見惚れてしまった。

 

それは幼少の頃には当たり前に見せていながら、当主への険しい道を進むたびにリーナがどこかに置き忘れてしまったものだった。

 

 彼女だって、それを忘れてしまった訳ではない。それ以上に背負わなければならないモノがあまりにも多かったから、顔をのぞかせることが出来なかった。

 

 けれど今、あらゆることを忘れて、リーナはただ兄の勝利を願う。エーデルフェルトの為でもなく、魔術師としての使命でもなく、ただ1人、自分にとって血よりも濃い絆を持つ自慢の兄がこの満天の空に認められますようにと、自分の敬愛する兄はこんなにも素晴らしい存在なのだと、どうか認められますようにと純な願いを言葉にする。

 

 そう、純粋な想いを口にするまでに多くの時間が必要だった。誰よりも近しい相手に対して向ける感情を、素直に表現することができるようになるまでにこれほどの時間を必要としてしまった。

 

 吐きだした言葉はリーナにとっての本心であり、同時に願望だ。エーデルフェルトの中でずっと押し隠してきた想いの吐露は、これより先に元の関係が続くわけではないことを意味している。

 

 そんな妹の決意に満ちた言葉を耳にし、ロイもまた屈託なく笑みを浮かべ、

 

「ああ、任せろ。妹の願いを叶えるのは兄の特権だからな」

 

 この夜にようやく、かつての何もしがらみが無かった頃に戻ることが出来た互いを寿ぐように頷いた。

 今更怖れるものはない。あとはただ、自分の持てる全力を奮って勝利を勝ち取って来るだけのこと。それを果たすことができるほどの実力を兼ね備えていることは自分が一番よく理解している。

 

「では、改めて向かうとしよう。勝利の栄冠を手にするために」

「―――御意」

 

 ロイの言葉にセイバーが応え、決戦の地へと足を進めていく。まもなく総てに決着がつく時が来る。その時に誇れる自分であるために、ただ当たり前の戦いを果たす。

 

 勝算は十分にある。あとはそれを現実へと変えるだけであった。

 

――秋津市北側・聖杯顕現地点――

 空を見上げる。夜闇を照らすように満月が浮かんでいる。その月を見上げているコルテスはふと過去の事が想起されてしまった。アステカ帝国との戦いに奔走していた日々の中で、勝利に手を伸ばそうとしたその時にも、こんな綺麗な満月を見ることがあったなと思い返したのだ。

 

「あの時も同じだったな。アステカの野蛮人共などどうでもよかった。勿論、野蛮人共の持っていた土地は奪うつもりであったし、食料や財宝も全て貰うつもりでいたが……実際の所、そんなものは二の次だった」

 

 コルテスがアステカ帝国を滅ぼすために動き始めた理由は国への忠誠でも功名心でも、支配欲でもなく、その始まりは、一人の女の願いを叶える為だった。

 

 いいや、それさえも本来の目的ではない。コルテスはマリンチェと言う少女の心を奪いたかったのだ。奴隷の身分、国を裏切った売女、にもかかわらず聡明であり、己の願いを叶えるために全力を振う少女の姿に接するたびに心を奪われていく。

 

 自覚の有無は関係ない。後になって振り返れば、それが一番、コルテスにとっては腑に落ちる結論だった。野蛮人たちに神として崇められ、数多の財宝を与えられたところで、心が動くわけでもなかった。野蛮人たちの土地を征服し、彼らの嘆きを見れば溜飲は治まったが、それでも心の渇きを癒すことはできない。

 

 なら、どうして、そんなことをしたのか。結局は俗な理由だ。命を懸けてでも、自分の総てを賭けてでも願いを果たしたかった女に報いてやりたかっただけだ。

 

 エルナン・コルテスは英雄だ、人類史に刻まれた英雄の1人だ。しかし、英雄の器を自分が持ち合わせているとはコルテス自身も思ってはいない。戦略や戦術、人心掌握の類がどれ程上手であったとしても、心の中は俗なモノに支配されて憚らない。

 

 己の欲を制御するつもりはない。気に入らない相手は殺すし、欲しいものは手に入れる。気に入った女がいれば犯すし、好みであれば己のモノにしたい。

 

 いつだって、自分のやりたいようにやってきた。貴方はそれでいいのだと、生涯忘れられない女に告げられたのだから、今更この在り方を翻すつもりは毛頭ない。

 

 誰に焦がれる英雄であるつもりはない。元より己は己の為にしか生きることができない英雄であると、アーチャーにも告げられたではないか。

 

「らしくないな、今更何を考えている……」

 

 一つの決戦があった、聖杯戦争の中で言えば歯牙にもかけられない程度の小規模な、どうだっていい理由で行われた戦いだ。

 

 その結果として一つの悲劇が起こった。隣に立つ彼女は涙を押し殺して、来たるべき決戦まで待っている。コルテスの命令を聞きはするだろうが、少し前の時間の自分たちに戻ることはきっとないだろう。

 

 それでもいい、それでもコルテスは九重円華という女を欲していた。己の隣に立ち、常に自分を沸かせてくれた女を、英雄と呼ばれる男の命を救い勝利を齎すまでの偉業を果たした女を欲しいと思うこの気持ちに嘘はつけない。

 

(俺様は征服者だ、ただ、それを為しただけの事だ。今更、何を取り繕う必要がある)

 

 間桐慎夜などという少年はコルテスからすれば歯牙にかける必要すらない相手だった。どれだけ噛みついて来ようとも、コルテスが退けられる道理はなく、あと1~2日で終わる聖杯戦争の最中で、今更噛みつくまでもない相手だ。

 

 だが、間桐慎夜が円華の言葉を自分の中の自己肯定感の低さから信じることが出来なかったように、コルテスもまたある種の危機感を覚えていた。

 

 円華は間違いなくコルテスに対して心を許し始めている。聖杯の獲得と言う大きな偉業を達成する過程で、コルテスは必ず自分が円華を自分のモノにできると言う自身を持ち合わせていた。根拠などない。ただ、自信はあったし、今日に至るまでの過程が全てを証明している。

 

 コルテスは紛れもなく九重円華と言う一人の女を愛している、見惚れている。必ず自分のモノにしたい、受肉し、この世界でもう一度、世界に覇を唱えるのならば、その隣に円華がいなければ納得できない。聖杯などよりもなお、円華の方がもはやコルテスにとっては重要なのだ。

 

 だが、その理想へと一直線に突き進んでいく最中に異分子が入り込んだ。間桐慎夜という異分子はあろうことか、円華に聖杯戦争の中断を求めてきた。彼の心境を考えれば理解できる話だ。そして、円華がコルテスと慎夜のどちらに重きを置くのかを考えれば、万が一は十二分に起こることだ。

 

 そう考えたことが焦りの始まりだった。円華が煮え切らない態度を取っていても、何をきっかけに慎夜に転がるのかもわからない。間桐慎夜の為に歯を食いしばって、自分のポテンシャルの総てを発揮した円華のことをコルテスは誰よりも知っている。

 

 恋とは……、愛とは……理屈ではないのだ。例え、どれ程客観的に自分が勝っているとしても、人間の感情は時に不合理な決断を選ぶ。男女の愛などその最たる例だろう。

 

 聖杯の願いを叶えることによって生き返った命であれば、いくらでも奪う口実をつけられる。しかし、今の慎夜と自分の絶妙な関係性は、どちらに転ぶのかもわからない。

 

 ――――認められなかった、今日に至るまで紡いできた円華と自分の軌跡を、ただ自分が召喚される前から円華と知り合いだっただけの関係性でしかない男に奪われるなどと、そんなものは断じて認められない。

 

 待っていれば、果実が地上に落ちてくるのを人は理解していても手を伸ばさずにはいられない。

 

 古今東西、男女の愛が争いの火種を生むのは互いの心がすれ違いと焦りによって相手の心を誤認すればこそだ。コルテスは聖杯戦争の決着を待ちきれなかった。慎夜を排除しなければ、円華を自分のモノにできないのではないかと思ってしまった。

 

 慎夜が暴走して、円華を抱いてくれないかと本気で思ったほどだ。身体の相性も男女としての愛の囁きでも己が、慎夜に負けているはずなどない。それを円華が実感してくれれば、良い方向に転がると言うのに、それすらもしないという愚鈍ぶり。

 

 結果として、このような結末へと陥った。事情も理屈も理解していない人間は、コルテスのことを悪魔のように断ずるだろう。ようやく再会を果たし、救われるはずだった男女の仲を引き裂いた悪魔であると。

 

(知ったことか、俺様の円華に向ける愛が、小僧の愛に負けているなどと誰が断じることができる。小僧の総てが正しいと誰が認めることができる。俺様の生は俺様のものだ。何故、誰かに隣を明け渡さなければならない。理不尽を許せないのは小僧も俺様も同じだ)

 

 結局、人は自分が認めた物しか正しいと認められない。何かを決断し、実行すれば誰かの心を踏みにじらなければ進めない。

 

 痛みを覚えようが、他人に憎まれようが自分の求める者を手にするために手を伸ばさずに何のために生きていると言うのか。コルテスは人の欲を肯定する。

 

 例え、この行動が座して待てばよかったという正論に屈するとしても己の決断を誤りだと認める気はない。すべてはこれより始まる最後の決戦が答えを示してくれる。

 

 己は再び世界を制するに相応しき男であるのか。円華と言う女を手にするに相応しき男であるのか。人事を尽した。あとはもはや天命を待つのみ。そして、天より降り注ぐ天賦は必ず己に行き渡るのだと心の底から信じている。

 

「待っているぞ、セイバー、ランサー。貴様らとの決着をつける時を。俺様がこの聖杯戦争の勝利者となる時を」

 

――秋津市西側・繁華街入り口――

「ちょうど一週間前だったか。繁華街の中で顔を合わせて、そしてここでもう一度顔を合わせて。まさか、あの時は自分の相手と既に顔を合わせているなんて思ってもいなかったな」

 

「あたしもそうだよ……、そして、一週間しか経っていないのに、なんだかもっと長い時間を一緒にいた、そんな風にも思えてくる」

 

「ああ、俺も同じだ。戦う前に言っておこう。俺はお前が宿命の相手で良かったと心の底から思っているよ」

 

「そうだね、この聖杯戦争の最後の戦いに、こうして互いに残れて、本当に良かったと思ってる」

 

 そして、時刻は9日目が終わりをつげ、10日目へと至ろうとしている。

 

 場所は繁華街入り口の大通り、聖杯戦争2日目、6陣営の激突が行われた場所にして、彼らが初めて顔を合わせた場所へと再び集結を果たした。

 

 此処から始まり、そして此処で終わりを迎える。

 

 15年前の聖杯戦争から始まり、エーデルフェルトの執念、七星の宿命、そしてこの聖杯戦争の最中で培ってきた様々な出来事と記憶が、この場に彼らを集めた。

 

「今日を以て聖杯戦争は終わりを迎える。約束通り、俺達はその日に決戦へと至ることが出来た。まずは、そうなったことに感謝を」

 

「そうだね、互いに悔いのない戦いにしよう。そして―――勝った方が、聖杯を掴む!」

 

 言うまでもなく、この戦いで全てが決するわけではないことは分かっている。ライダー陣営を倒さなければ真の意味で聖杯戦争の勝利者は決まらない。

 

 けれど、これが事実上の最終決戦に近しいことをこの場の誰もが理解している。

 

 聖杯戦争の最終決戦、そして15年前より続く七星とエーデルフェルトの因縁の清算、それら全てを果たす時がついに来た。

 

 もはやこれ以上の言葉はいらない。あとは力と力をぶつけ合い、そして勝った方が勝利をしていく。

 

 エーデルフェルトの歴史上でも最高峰の魔術師――ロイ・エーデルフェルト

 

 覇者の血を受け継ぎ、今尚成長を続ける七星の血に愛された者――七星桜子

 

 共に此処に至るまでに多くの物語があり、それを経験し、乗り越えることで至った。

 

 互いのサーヴァントも現界を果たし、戦闘態勢へと入る。マスターとサーヴァント、それぞれの決着と勝利を求めるのは四者ともに変わりはない。

 

「さぁ――――」

「さぁ――――」

 

 ロイの魔力回路が起動する。桜子の手に不可視の刀が握られ、七星の血が励起する。

 

 多くを知り、見て、共に戦い、時にぶつかった者たちの決戦が始まる。

 

「「―――この15年に決着をつけよう!!」」

 

第九夜『The night before Last』終了―――聖杯戦争終結まで、あと1日

 

 

 

 

         聖杯戦争最終日――『End Night』

             最終決戦第一幕

 

       セイバー:白起 対 ランサー:カール・マルテル

       ロイ・エーデルフェルト 対 七星桜子

 

             ―――開幕

 




次回より最終決戦! UCも残すところあと6回です!


Twitterやってます。UCの更新情報などを載せています
https://twitter.com/kooldeed
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