花嫁を選ぶつもりが(性的に)五等分される風太郎の話 作:エロティック大魔神
思えば随分と綱渡りな生活をしてきたものだ、と上杉風太郎はふと思った。
どこで働いているのかもはっきりしないような、いい加減な父親から紹介されて始めた家庭教師のアルバイト。
始める前こそ、聞いたこともないような高い時給に胸が踊ったものの、蓋を開けてみれば五つ子の姉妹の同時指導。しかも全員が落第寸前な上に、一癖も二癖もある性格とくれば、流石の学年一位の成績を誇る風太郎でも何度匙を投げかけたか分からない。
だが、高時給のバイト先を手放したくないという執着心は、いつしか彼女達の助けになってやりたいという純粋な思いに変わっていった。それが、愛着と呼ぶべきなのか、彼女達への愛情と呼ぶべきなのかは風太郎には分からない。それでも彼にとっての「金持ちの家の出来の悪い同級生達」はいつの間にか「力になってやりたい親しい友人達」になっていた。
そして最初は風太郎に対して刺々しい態度を取り、勉強どころではなかった彼女達。風太郎と幾度となく喧嘩をし、その度に和解と理解を重ねながら、徐々に心の距離を縮めていった。かつて抱いていた風太郎への疑念は信頼に変わり、友情は淡い恋心へと変化していった。その気持ちを口にするかどうかはともかくとして、五人ともが風太郎に対して少なからず恋慕を抱いていた。
* * *
風太郎らの通う高校では、文化祭の一日目が終わろうとしていた。文化祭実行委員として一日中仕事に追われていた風太郎は、西日の差し込む廊下を少し緊張した足取りで歩いていた。
文化祭の一日目は忙しかったものの何とか無事に終えることができた。しかし風太郎には一息つくことなくもうひとつ大事な仕事が控えている。
文化祭のために飾り付けられた廊下の装飾の間を抜けていく。教室の多くも各クラスの企画した出し物のために飾り付けられていたが、準備室として使われていない教室があった。
風太郎はそこに五つ子を呼び出していた。彼と同じく文化祭の一日目を終えた二乃・四葉、それに受験勉強のために文化祭どころではなかった五月は既に教室に居るとメールが来ていた。
教室の前まで来ると聞き馴染みのある彼女達の声が中から聞こえてきた。一瞬の躊躇のあとガラガラと引き戸を開け教室に入ると、既に教室で待っていた三人の視線が一気に集まる。
「あっ、上杉さん! 文化祭一日目お疲れ様です! 無事に終わって良かったですねー」
「あぁおつかれ……四葉もよく頑張ってたな」
風太郎と同じく文化祭実行委員としての仕事だけでなく、演劇部の助っ人として劇にも出演していたらしい四葉がいつもと変わらないテンションで風太郎に声をかける。ただ本当に忙しかったようで、二乃と五月がブレザーに着替えている中、四葉だけ未だ文化祭Tシャツを着たままであった。
「遅いじゃないフー君。文化祭中に呼び出して一体何の用なの?」
「私も受験勉強があるのですが……」
二乃と五月もそれぞれ口を開く。四葉だけ労ったと思ったのか二乃は少し膨れ面であった。その不満げな目元と固く結んだ口元は、出会ったばかりで反発ばかりしていた頃の二乃とよく似ていた。思えばよくこれだけ丸くなったものだと風太郎は心の中で思った。
「忙しいのにすまん、でも全員揃ってから話をさせてくれ」
「分かったわ、まだ三玖も来てないしね」
四人でたわいもない雑談をしているうちに、出店の片付けをしていたらしい三玖と、女優業に専念するために高校を休学している一花も教室に顔を出した。ただ、休学中の一花まで来るのは想像していなかったらしく呼び出した本人の風太郎以外は一様に驚いた顔を浮かべていた。
久しぶりに学校で顔を見合わせた彼女達は互いに顔を見合わせた後、何かを決心したような表情を浮かべた。皆口にはしないものの、今日自分たちがなんのために呼び出されたのか察したのだ。互いが風太郎に思いを寄せていることはすでに彼女達は知っている。また、姉妹だけの話し合いによって誰が風太郎に選ばれても文句は言わないと決めてあった。そしてついに今日、その結果が分かるのである。
彼女達は期待と不安の入り交じった顔を浮かべながらも、つとめて平静に雑談を再開した。文化祭で残ったジュースや出店の食べ物を持ち寄り、一日目が無事に終わったことへと乾杯の用意をする。
風太郎も今覚悟を決めようとしていた。ただ、彼女達に伝える内容は彼女達の期待しているものとは違うことを、風太郎は理解していた。
まだ答えを口に出すことはできない、今答えを出せば選んだ一人以外を酷く傷つけてしまう。だから、「一人を選ぶ」のは全員との拗れに拗れた関係に結末をつけてから───────それが風太郎の出した答えであった。自分が人の心の機微や恋愛に疎いのは風太郎自身がよく分かっている。しかしそれでも彼女達を傷つけたくない、今まで育てていた絆を無くしたくないと風太郎は思ってしまった。
それ故に、彼女達の求める答えはまだ出せない。
教室に漂うどこか緊張した雰囲気の中で、風太郎は五人に向けて口を開いた。
「俺は、お前たち五人が好きだ」
唐突な風太郎のセリフに二乃が口に含んでいたジュースを吹き出す。そして全員が一瞬の静寂のあと、一様に顔を赤くして風太郎の方に振り返った。
「俺は、この六人で、ずっとこのままの関係でいられたらと思っている」
「そ、それって……」
「す、好きってそれはクラスメートとしてとかじゃなくて……よね?」
「……あぁ、お前たちのことが好きだ」
何かを言おうと口を開く三玖。だが、少し開いた唇は震え目にはみるみる涙が浮かぶ。二乃の質問に頷きながらも、三玖の様子に罪悪感を覚え、思わず俯いてしまう風太郎。それでも悩んだ末に考えてた言葉を続ける。
「ずっと悩んでいた。お前たちの好意に気づきながらそれに甘えてしまっていた。いつか言わなければならないと──────」
「フー君っ!」
言い終わる前に誰かが風太郎目掛けて飛び込んできた。思わず後ろに仰け反りズルズルと教卓にそって倒れ込む。
「痛ぇ……な、なんだ?」
教卓の角でぶつけた頭を抑えながら顔を上げると、そこには二乃と三玖の姿があった。二人とも風太郎にしがみつくようにして身体を押し付け、風太郎のTシャツを掴んだまま離そうとしない。
「な、何を──────」
「ふ、フータロぉ……私、振られるかと思って、ずっと怖かった……」
言い切る前に三玖が涙を流しながら改めて抱きついてきた。学年1位の頭脳をもってしてでも何が起こったのか状況が整理できないでいると、二乃がいつかの告白の時に見せた上気した顔で風太郎を見上げてくる。
「さっき私達のことが好きだって言ったわよね?」
「あ、あぁ言ったが……」
「クラスメートとか友達とかじゃなくて、恋愛感情としての好きってことよね?」
「……そうだ」
「それってつまり──────私達全員と付き合うってことよね?」
「あ、あぁ………………は? いや、そういう意味じゃ」
質問ごとに段々顔を近づけてくる二乃に、一度頷きそうになりながらも慌てて否定しようとする風太郎。しかし何か言おうとする前に今度は一花が口を開いた。
「風太郎くん? 告白と同時に五股公言なんて、お姉さん感心しないなぁ」
「一花、だからそういう意味じゃ─────」
「じゃあ一花はフー君と付き合わなくていいわよ。この間そう決めたじゃない」
「た、確かにこの間はそんな話も出たけど……まさか本当に風太郎くんがそんなこと言うなんて思わなかったから!」
「それでも現にフータローは言った。もし嫌だったら断ればいい。そうしたらフータローからの愛が五等分から四等分になる」
「そ、それは……」
風太郎に抱きついたまま、顔だけ一花に向けて応戦する二乃と三玖。その勢いに思わず口ごもる一花。その場でしばらく何やらブツブツと呟いた後、すうっと風太郎の傍にしゃがんできた。
「し、仕方ないからお姉さんも付き合ってあげるけど、こんな美少女姉妹と付き合えるなんてほんとは一人でも幸せなんだからね、風太郎くん?」
怒ったような台詞とは裏腹に、風太郎にしがみついたままの二乃と三玖を羨ましく思ったのか、きゅっとTシャツの袖を掴んでくる一花。そのまま風太郎の腕に手を回して抱きついてくる。
「あ、あわわわ……五月、上杉さんが大変なことに!」
「う、上杉くん! 私達全員と付き合うなんて許しませんよ! そ、そんなの……倫理的に駄目に決まっているじゃないですか!」
瞬く間に形成される風太郎ハーレムに口に手を当てて顔を真っ赤にする四葉と、同じく顔を赤くする五月。ただし五月の方は主にふしだらな姉達と風太郎に対する怒りによるものである。
「ならあんたたちはフー君と付き合わなくていいわよ。四葉、この前一回だかフー君とキスしたことあるって言ったけど、それが最初で最後になるわね」
「に、ににに二乃!!?? それは内緒だって言ったよね!!??」
二乃の暴露に目をぐるぐると回しながら抗議する四葉。風太郎は旅行のときにキスされた相手が四葉であったことを思わぬ形で確認することとなった。
「五月ちゃんも、この前みんなで話し合ったときには『風太郎くんが誰を選んでも反対しない』って言ってたのに、これはやっぱり駄目なのかな?」
「あ、あの時はまさかこんなことになるとは思わなかったからです! 駄目なものは駄目です!!!」
すっかりハーレム肯定側となったらしい一花が挑発を含んだ声を五月に掛ける。それによって更にムキになったらしい五月はブンブンと首を大きく振りながら、カバンをひったくるようにして掴むと教室から飛び出して行った。
「い、五月! まだ話が」
姉達三人に抱きつかれて完全に動けなくなった風太郎が叫ぶも、その声は虚しく教室に響くだけである。 自分抜きで話がどんどんと明後日の方向に進んでいくことに恐怖を覚える風太郎。ふと視線を下ろすと三玖がじっと風太郎を見上げてきていた。
「……フータロー」
「な、なんだ三玖。とりあえずそこをど─────っ!!??」
風太郎の名前を呼んだ次の瞬間、三玖は顔を突き出して風太郎の唇を塞いでいた。抑えきれなくなった感情をぶつけるように押し付けられた三玖の柔らかな唇。興奮のためか少し風太郎より高い彼女の体温が唇を通じて感じられ、唇
付けていたほんの二、三秒がとても長く感じられた。
「ちょっ、三玖!! いきなり何してるのっ!?」
「あんたっ、抜け駆けは駄目っていったじゃない!?」
三玖の思いがけない行動に一瞬固まっていた一花と二乃だったが、慌てて三玖を引き離す。三玖は抵抗することなく、風太郎から顔を離すと前髪で隠れた瞳の奥を妖しく輝かせながら呟いた。
「フータローとキスできて嬉しい……次する時はフータローからしてほしい……」
そう言ってはにかむ三玖。その直後にフータローの視界がまたしても塞がれた。目の前には至近距離の二乃の顔。
「わ、私もホントはフー君からしてもらうのが一番なんだけど……今は一花に取られるかもしれないから」
そう言って風太郎の頬に手を当ててフルフルと顔を近づけてくる二乃。そして直前にぎゅっと目をつぶった二乃の唇がまたしても風太郎の唇と重なる。先程とは違う柔らかさとリップから香る甘い匂い。風太郎は先程からの出来事のあまりのインパクトにこれが現実なのかと疑いはじめる。
勝ち気な普段の様子とは比べ物にならないくらい初々しいキスを風太郎に捧げた二乃は、顔を上げると直ぐに手の甲で口元を抑えた。
「な、何よ! 私の初めてのキスだったんだからもっと嬉しそうにしなさい!」
照れ隠しからなのか、風太郎の胸元をひとしきりバシバシと叩いた後、大人しく風太郎の上から退く二乃。まだキスしていない一花に場所を譲るという姉妹間で の暗黙のルールがあるらしい。
案の定、続けて一花が風太郎の腰の辺りにゆったりと跨ってきた。
「もう。二人とも急ぎすぎだよね。どんなに急いだって風太郎くんのファーストキスはもう四葉に取られてるんだから」
落ち着いた声で話す一花。風太郎は一花なら自分の話を冷静に聞いてくれるのではないかと思い、口を開こうとする。
「い、一花! 俺の話を──────」
「だから、どうすれば風太郎くんに忘れられないキスをするか、だよね♡」
イタズラを思いついた子どものようにニヤッと笑った一花。そして二乃と三玖と同じように唇を重ねてくる。
違うのはそこからだった。
「っ!!!???」
口を開こうとしていた風太郎の唇の間から突如、一花の舌がぬるりと口内に進入してきた。長い舌は切なげに風太郎の舌を求めて口内を這い回り、時折漏れる一花の甘い吐息はゾワゾワと風太郎の身を焦がす。思わず目を見開く風太郎の目の前には、瞳を閉じて一心不乱に舌を絡めようとする一花の顔があった。いつの間にか風太郎の両手には一花の細い指が一指ずつ絡められ、いわゆる恋人繋ぎのようになっていた。
三玖や二乃より随分と長い間キスを続けていた一花だったがやがて「ぷはっ」と風太郎から唇を離した。唇と唇の間には二人の唾液の混じった銀の糸がトロリと垂れる。
呆気に取られたように一花と風太郎のキスを見守っていた二乃が顔を赤くしながら口を開いた。
「い、一花……あんたもキス、初めてじゃなかったの?」
「え? はじめてだけど? ドラマとか観て勉強したんだ」
あっけらかんと答える一花。ペロッと出した舌が先程まで自分の口内を這い回っていたと思うと、風太郎は下半身が熱くなるのを感じた。
「ねぇ、フータロー。私も一花みたいなキスしてみたい」
「こ、今度は私から! ねぇフー君、私からよね!?」
一花と風太郎のあまりにも扇情的なキスにあてられたのか、三玖と二乃が風太郎に迫る。学校を代表するような美少女三人と次々にキスをした風太郎にはもう何かを言う気力も理性も残されていなかった。
その後も繰り返された姉達の痴態を少し離れた席に隠れてじっと覗いていた四葉。その光景に心にズキっと痛みを感じながらも「大変なことになりました……」と小さく呟いた。しかしその言葉を聞く者は少なくともこの教室には残っていなかった。