花嫁を選ぶつもりが(性的に)五等分される風太郎の話 作:エロティック大魔神
3話
二乃と三玖と改めて交際を申し込んだ翌日。風太郎は夜の公園のベンチに一人腰掛けていた。呼び出した一花を待つためである。
ただ、呼び出したと言っても、風太郎から公園を指定したわけではない。一花に話がある旨を伝えたところ、今日この時間に公園で待っていてほしいとの返信が返ってきた。女優業が本格的に忙しくなってきたらしく、風太郎はここしばらく、一花とはメールでしかやり取りしていなかった。
秋の冷たい風が吹き抜け、風太郎はブルルっと身を縮こませた。日が暮れて子どもたちのいなくなった公園は気温以上に冷たく寂しく感じさせられる。それとも、ここ数日体温の高い二乃や三玖と触れ合っていたせいで寒さに弱くなってしまったのかもしれないと、風太郎はふと思った。
温かい缶コーヒーでも買おうと、ベンチから立ちあがったところで向こうから歩いてくる一花の姿が見えた。一花も風太郎に気がついたのか、「風太郎くーん」と手を振りながら小走りでこちらにかけてくる。
「ごめんね、風太郎くん。前の仕事がちょっと長引いちゃって……待った?」
「いや、大丈夫だ。ただ缶コーヒーでも買おうかと思っていた」
風太郎の少し赤くなった手を見てか、一花が少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そっか、最近寒いもんね。じゃあついでに場所も移動しようか。待たせたお詫びにコーヒーくらいだったらお姉さんが奢ってあげるよ」
「何のためにここに呼んだんだよ……」
「撮影現場がここから近かったんだよ。それにあんまり目立つところで待ち合わせしたら、ちょっと騒ぎになっちゃうかもだし」
「そんなこと────」
あるわけないだろ、と風太郎は続けるのを留まった。夏にCMに出演して以来、最近では前にも増してドラマや映画に出演するようになった一花。確かに街中で男と歩いているのを目撃されれば、ちょっとしたどころではない騒ぎになるかもしれない。
「あはは、大丈夫。ちょっと変装して普通にしてたらバレないよ」
交際報道によって一花の仕事が激減するところまで想像して、顔を青くした風太郎に一花が吹き出した。
「それに付き合ってるって言われても別に嘘じゃないしね。ほら、行こ?」
つば付きの帽子とサングラスをカバンから取り出した一花は、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。ただ自分で言って少し恥ずかしくなったのか、ぽっと赤くなった頬を隠すために風太郎に背を向けて歩き出した。
近くの喫茶店に入ると、奥のテーブル席へと案内された二人。空いている時間帯だったのか店の中にはほとんど客はおらず、BGMのクラシック音楽がかすかに聞こえてきた。
「それで、話って何かな?」
注文した飲み物を運んできたウェイトレスが去っていくのを待ってから一花が本題に入る。風太郎はコーヒーの入ったカップを数度傾けたあと、やがて口を開いた。
「あぁ、実は昨日──────」
風太郎は10分ほど時間をかけて二乃と三玖との間に昨日起こったことを話した。できるだけ、その場にいなかった一花にも話が分かるように、丁寧に。やがて話し終えた風太郎が視線をあげると、一花と目が合った。しばしの静寂が二人を包む。
「えっと……それで?」
「それでって、もう俺の話は終わりだが……」
「うん、二乃と三玖に改めて告白したことは分かったよ。二人とも今朝すごくテンション高かったから、何となく察してたけどね」
そこで言葉をきり、じっと風太郎を見つめてくる一花。どこか期待のこもった瞳と、不満げにつり上がった眉で風太郎は一花の意図に気がついた。
「い、いやもちろん一花にも告は……俺の気持ちは伝えようと思っている。ただこんな場所では……」
「大丈夫、私達のまわりガラガラだよ?」
女優である一花を気遣う風太郎に、一花は周囲をキョロキョロと見まわしながら答えた。彼女の言う通り二人の座る周囲には誰もおらず、よっぽど大きい声を出さなければ店員にも聞こえない距離であった。
一花に倣って周囲に誰もいないことを確認した風太郎はしばらく逡巡した後に、口を開いた。
「……俺は一度にお前たち全員と付き合おうとしている最低な男だ。でもどうしてもお前たち五人と一緒にいたいと思ってしまう」
「……一花、お前のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」
真っ直ぐに一花を見つめる風太郎。
「……」
一花は何も言わずに紅茶の入ったカップを勢いよく傾けた。そして、カバンと伝票を持って立ち上がる。
「お、おい一花」
「……ねぇ風太郎くん。このあとまだ時間ある?」
「今日はもう何も予定はないが……」
「じゃあもう少しお姉さんに付き合ってくれない?」
* * *
喫茶店をあとにした風太郎は、一花の後を大人しくついて行く。一花は何やらスマホを覗き込んでいるために、二人の間に会話はない。そのため風太郎は内心振られたのではないかとビクビクしていた。
広い通りに出た一花は、タクシーを止めた。後部座席に乗り込んだあと、きょとんとした顔で風太郎を見上げてくる。
「どうしたの? 風太郎くんも乗りなよ」
「あ、あぁ……」
一花に言われるがまま、隣に座る風太郎。どこに連れていかれるのかと思っていると、一花がタクシーの運転手に行先を告げた。それは「そういうこと」に疎い風太郎でも聞いたことがあるラブホテルの名前だった。
タクシーの中ではたわいもない雑談を続けていた二人だったが、どちらとも先程の風太郎の告白に言及することはなかった。15分ほどかけて郊外へとやってきたところでタクシーが止まった。タクシーの窓からは薄暗い駐車場の様子と、対照的に煌びやかなフロントが見える。流石に一花も緊張しているのか口数が少なくなり、運転手に料金を渡すと無言で車を降りた。
「風太郎くんが先に入ってよ」
小声で一花に頼まれた風太郎は、冷静を装ってホテルの自動ドアを抜けた。旅館やホテルのようにフロントに人がいるわけでもなく、空いている部屋を示す案内板とシャンプーやリンスなどのアメニティが置いてある空間があるだけだった。
ともかく人と会わずに済んだことをホッとする風太郎。だが、案内板に表示された料金を見てギョッとする。
「お、おい一花……今日はあまり手持ちがないんだが……」
「大丈夫。私が連れてきたんだから、私が払うよ。ただ二人でゆっくり話せる場所が欲しかっただけだから。あ、この部屋可愛い」
空いている部屋の中でも一番高そうな部屋を迷うことなく指さす一花に、風太郎は改めて稼いでいる額の違いを見せつけられる。
部屋のボタンを押すと下からルームキーが出てきた。自販機のような仕組みなんだな、と風太郎はどうでもいいことをふと思った。
狭いエレベーターに乗り、廊下でも誰ともすれ違うことなくランプのついた部屋までたどり着く二人。
ドアを開けると、大きな天蓋付きのベッドとガラス張りの窓の向こうにある露天風呂が一気に目に飛び込んできた。
「うわー、すごいね。なんか」
靴を脱いで先に部屋に入った一花がボフンとベッドに飛び込む。そしてグリグリと頭を枕に擦り付けたあと大きくため息をついた。
「はーっ、緊張した……」
「緊張してたのかお前……」
「当たり前でしょ、こんな所来るのはじめてなんだから」
風太郎のセリフに心外だとでも言いたげに頬を膨らませる一花。
「すまん、慣れてる様子だったから前に来たことあるのかと思った」
「撮影でもないよ!? これでも私、結構仕事選んでるんだからね? キスシーンのあるドラマだって断ってるくらいなんだから」
「そ、そうなのか」
「そうだよ。ここだってさっき急いで友達にLINEして、人に会わなくて済むホテルって聞いただけだし……」
そこまで言ったところで、風太郎がベッドの向かいのソファーに腰を下ろしたのを見て、ジトっとした目を風太郎に向けきてた。
「なんだその目は」
「どうしてそっちに座るのかなって、ベッドの方がふかふかだよ?」
「いや、お前がいるだろ……」
「ベッドもこんなに広いんだからこっちに来てよ。お姉さんちょっと寂しいな……」
か細い声で膝を抱える一花。すんすんと鼻をすする声が聞こえ始め、風太郎は根負けしてベッドの縁の一花から少し離れたところに腰掛ける。
「ふふっ、優しい風太郎くんには泣き真似は有効だね」
「そういうこと言ってるとそのうち有効じゃなくなるぞ」
「そんなに乱発しないから大丈夫だよ」
お互いに軽口を叩いて笑い合うも、次第に交わされる口数は減り、いつしか二人は無言になっていた。
風太郎が焦らしに焦らされた告白の返事を聞こうと口を開こうとしたその時である。
「風太郎くん」
薄暗い部屋の中、唐突に一花が話しかけてきた。
「な、なんだ?」
「私さ、今ドラマの主演のオファーが来てるんだ」
「そ、そうか……いつの間にか売れっ子になったな」
「ありがと……ただちょっと悩んでて……そのドラマね、キスシーンがあるんだ。ううん、キスシーンだけじゃなくて結構、その、エッチなシーンとかもあるかも」
「……」
風太郎は言葉を失った。一花がドラマの主演になる、それ自体は喜ばしいことで風太郎も応援している。だが、他の俳優とキスやそれ以上のことをする一花の姿を思い浮かべると、もやもやと黒い感情が胸の中に浮かんできた。
「ファーストキスはこの前風太郎くんにあげられたし、主演で出られるなら、出てもいいかなって……思ってるんだけど……風太郎くんはどう思う?」
「どうって……」
風太郎は悩んだ。女優としての一花を応援するなら、ドラマの主演という仕事は確実に彼女のキャリアアップに繋がるだろう。いつまでもキスがNGならば今後仕事の幅も減っていくかもしれない。反対する理由はない。なら、自分はなぜこうも何を言うべきか悩んでいるのだろうか。
いや、自分は「何が言いたいのか」。そう思った途端、嘘のように簡単に答えが出た。
「……一花の女優という仕事のためには出た方がいい、と思う」
風太郎が口を開くと、一花は微かに笑った。だが、その笑みは悲しさを無理やり押さえつけた末のような演技じみたものだった。
「……そっか、相談のってくれてありがと─────」
「────だが、俺は出て欲しくない」
「えっ?」
「勿論、一花の将来のためには出た方がいいとは思ってる。だが、一花がテレビの向こうで知らない男とキスすることを考えたら、俺はどうしても賛成できない」
「風太郎くん……」
「だから、俺の結論としてはそのオファーは受けて欲しくない……ことになる」
「……ふふ、あはははは」
突然笑い出した一花に、風太郎は驚いて視線をあげる。そこには心底おかしそうにお腹を抱えて笑う一花の姿があった。
「な、なんで笑うんだ」
「あはは……はぁ、ごめんごめん。あまりにも風太郎くんらしい返事だなって思ってさ」
よく分からないがからかわれたような気がして睨む風太郎。その視線を軽く受け流し、一花が何やら考えるように視線を宙にさ迷わせた。
「んーと、じゃあそうだ。もし今風太郎くんがキスしてくれたら、このオファー断るよ」
「は、はぁ? それが何の交換条件に……」
「してくれないならオファー受ける」
それだけ言ってゴロンとベッドに仰向けに寝転ぶ一花。自分だけ先に結論を出したような一花に、憤りを覚えつつ風太郎の答えは一つであった。
おもむろに風太郎は立ち上がり、今度は一花に覆い被さるような姿勢になる。一花の頭の左右に手をつくと、一花の表情がはっきり見えた。
「……なんだ。お前もビビってるじゃないか」
「だ、だってもし風太郎くんが来てくれなかったらって、ちょっとこわくなっちゃって」
一花の声は少し震えていた。頬を触ってみると緊張からか少し冷たい感触が伝わってきた。
「で、でも『お前も』ってことは風太郎くんもビビってるってことだよ……ね?」
「そりゃ、キスしなかったらオファー受けるなんて言われたら、普通通りじゃいられないだろ……」
「ふふっ、お揃いだ」
そう言って小さく笑う一花。やがて何かを期待するように目をつぶる。風太郎もそれ以上何も言わずに、一花の唇に自分の唇を重ねた。唇同士をただくっつけるだけのキス。ただそれだけでも風太郎からの愛情が十分感じられ、一花の閉じたまぶたの間からは温かい涙が頬を伝っていた。
「って、なんで泣いてるんだ?」
やがてキスを終え、目を開いた風太郎がぎょっとした表情を浮かべる。
「あはは、ごめん、ちょっと嬉しくて……風太郎くんにもちゃんと独占欲があったんだなって」
「そりゃああるだろ……だから告白して付き合うんじゃないか?」
「……風太郎くん、ギュッてして」
唐突にそう言って、風太郎の方に両手を伸ばしてくる一花。まるで子どものようだと思いつつ、風太郎は大人しく一花を抱き締めた。ゴロンと横向きになった二人。お互いの心音が聞こえるような静寂が二人を包む。
やがて、抱き締めあったまま呟くように一花が口を開いた。
「ねぇ、風太郎くん」
「なんだ」
「私も風太郎くんを独占したいって気持ちあるよ……多分普通の女の子よりずっとたくさん」
「……知ってる」
「だから風太郎くんが私達全員と付き合いたいって言ったとき、嫌だなって思ったんだ。……あの場では勢いでキスまでしちゃったけど、あれからずっと考えてた。どうしたら風太郎くんが私だけを好きになってくれるかって」
「……すまん」
「でも、今日会って風太郎くんに告白してもらって、キスしてもらったら……やっぱり嬉しかった。あぁ、私は風太郎くんのことが好きで、風太郎くんもちゃんと好きでいてくれてるって思えた」
いつの間にか、一花の両腕は風太郎の背中に回されていた。風太郎の胸元に顔を埋めたまま、一花が続ける。
「……風太郎くんは私達五人が好きなんじゃなくて、私と二乃と三玖と四葉と五月ちゃんのことが好きなんだよね?」
「そうだが……どう違うんだそれは?」
「上手く言えないけど……多分すごく大事な違いだよ」
「……そうか。なら俺も大事にする」
「ありがとう……風太郎くん」
ぐすっぐすっと鼻をすする音が聞こえてきた一花の頭を風太郎は優しくなでる。
「風太郎くん……私も風太郎くんのこと好き、大好きだよ。だから……大切にしてね」
「分かった。俺も一花が好きだ」
ずっと想っていた風太郎に優しく抱き締められ、耳元で愛を囁かれる幸せ。例え風太郎が何人と付き合っていようと、こうしている時は二人きりなのだと一花は気づいた。そうすると次なる欲求がムクムクと一花の中に湧き上がってくる。
「風太郎くん」
「……なんだ?」
「今日さ……このまま最後までしてみない?」
「なっ!?」
風太郎は思わず目を見開いた。